教育課程企画特別部会(第1回,平成27年1月29日)における主な意見

1.社会の変化への対応とそのために必要な資質・能力
(社会の質的変化に対応する教育改革の必要性)
○ 阪神・淡路,東日本の2つの震災を経て,公共心や絆(きずな),人の生き方に対する評価が高まってきた一方,日本社会全体として,町内会や商店街,業界団体や組合などに入らないなどの傾向が見られる。道徳教育を充実したり,他者との関わりが重要であると言いながら,実際には自己中心的な人間が育っていないかなど,教育を全般的に見直す機会としたい。

○ 「個の強さ」という点で世界と違いがある。均質的で予定調和的な社会という点は日本のよさではあるが,世界に対して自分の意見を主張していく力が必要。ずうずうしく自分の意見を言っていかなければ通用しない。

○ 人口減少社会への対応を真正面から取り上げる必要がある。若い世代は子育てや介護を「リスク」と考えているが,自己の生き方を人や世界との関わりの中で考える必要があり,学校教育も,結婚し次世代を育てることを社会全体で応援するという課題と真剣に向き合うものでなければならない。

○ 社会の変化の「スピード感」に乗っていけるかどうかで格差が生じている。加速的に世界が動いていく中で,何が重要かを識別し,主体的に判断する力,社会を形成し世論に関わっていく自覚や能力を高めていくことが必要。

(求められる資質・能力)
<言語に関する力>
○ 国語の重視が思考力,表現力の育成につながる。自覚的に母語を学び確かなものにしていくことでしか,外国語を実際に使えるものとして修得できない。国語教育と英語教育は「思考形成」というところでつながっており,相互的に捉えていく視点が必要。

○ 様々な出来事や情報を自ら瞬時に受け止め,自分で判断していくことが市民性の基礎になっていくのではないか。英語教育でも,実際にアクティブに外国語の中で自らの思考を形成していく訓練や,それを可能とする環境,動機付けの重要性を強調していくべき。

○ 日本語はもちろん重要だが,早くから外国語に慣れ親しむことで有利となることもある。外国語を幼児期に理屈抜きで身に付けることによって,英語的な物の考え方の修得と結びつくのではないか。


<歴史と伝統文化>
○ グローバル化のためには日本文化を学ぶ必要がある。経済力が強くても海外では尊敬されない。自国の文化を語れる力を持っていることが非常に大切。

○ 日本文化を表現していくために,日本の歴史的な過程を語り合える能力や姿勢を訓練すべき。歴史教育の充足とカリキュラムの再編成が必要。

○ 日本史と世界史を選択することで,世界における日本の歴史などのつながりが理解できなくなっている。

○ 古代から順に学ぶことで近現代史まで学び切れていない問題がある。近現代の歴史的な過程を知ることによって,国家や一市民として何を目指すのか,自分がどのような立場にあるのかについて議論ができる。

○ 現行学習指導要領では「歴史的思考力の育成」が重視されているが,いまだ暗記中心の教科であるというイメージを突破できていない。生徒自身が歴史を学ぶことの動機付けも弱い。

○ 大学入試への対応のため,1950年代に比べ教科書の歴史用語が3倍に増えている。高校の歴史教育改革と大学入試改革はセットで進めなければならない。

<特別支援教育,スポーツ等>
○ 特別支援教育の対象となる子供たちが倍増する中で,障害の有無で特別支援学校か通常の学校かと分ける二極的な考え方には限界がある。障害種別の指導はもちろん大事だが,通常学級内にいる教育的ニーズのある児童生徒のことを踏まえれば,教師の教育観のパラダイムシフト,そこに基づく組織経営や指導法,評価の多様性の導入は必至。さらに,行動面や社会性,言語技術など将来の自立と社会参加を踏まえれば,障害診断の有無に関係なく個々の教育的ニーズに応じたトレーニングを受けられる学びの場の設置が必要。

○ スポーツは「すること」だけでなく「見ること」の要素もあり,世界を見ることで自分自身のこと,他者との関わりを学ぶことにつながるものである。

○ オリンピック・パラリンピック開催の2020年がゴールではなく出発点となり,新たなスポーツ文化が生まれるような改訂としたい。

○ 親が子にどれだけ関心を持つかによって,勉強ができる子は運動もできる,勉強ができない子は運動もできないという二極化が起きている。

○ 中学女子の3割は1日10分も運動していないという調査結果が出ており,これで健康寿命が維持できるか心配。基礎的な健康コントロールを教えることが学校体育の役目であり,教養としての体育という側面が重要。

○ 経済が成長すればするほど,学校で教える基礎・基本と社会で役立つ内容や人材との隔たりが大きくなる。専門高校でも教育そのものが大きく変わらなければならない時期。

○ 今後の社会変動や社会変容を踏まえれば,規範教育をより充実していくことが必要だ。規範教育とは単にルールを守ることを教えるだけでなく,言語,生活,感情,行動,倫理や道徳,ルールなどを含めて様々な要素をセルフコントロールすることが含まれる。

○ 生得的要因や環境的要因などが重なって不適応を起こす子供たちには「自己肯定感がないこと」,「学ぶべきときに学べていないという未学習・不足学習・誤学習が逸脱行動につながる」など,共通点が幾つもある。動的リスク要因を少しでも軽減させ,保護要因を充実させて最終的にレジリエンシー(社会を生き抜く力)をつけさせることが逸脱から回復させ,将来の社会不適応を予防する。こういったエビデンスのある犯罪学理論を教育課程の検討時に参考にしていくことが,いじめや不登校,ひきこもりや,あるいは反社会的行動の予防だけでなく社会貢献できる子供たちを育てることにつながるのではないか。

2.教育現場と社会・世界とのつながり
○ 子供たちが主体的に学ぶ環境を作るためには,「開かれた学校」と「キャリア教育」が鍵となると考えている。キャリア教育は職業教育ではなく,子供たちに100年の人生を前向きに捉えさせるために,各教科の中で様々な外部の方の話を伺うなどの取組を進めている。

○ 外部人材を活用した出前授業や,校内の図書館を活用した調べ学習,地域の小中学校の教員で「9年間で身に付けたい力」についての研修を夏休みに行ったことなどが,指導と評価の一体化につながっている。外の「風」を教室に入れ,授業と世の中とを結びつけることで,現場は変わっていける。

○ 社会との連携により外の風を教室に入れることで意欲を高めることが大事。

○ 震災後の大槌町や女川町におけるプロジェクト型学習に取り組んでいる。高校の先生の多くは,生徒を外の世界に出すことをリスクと感じている。先生方が安心して外部と手をつなぎ,子供を社会でのチャレンジに送り出せるような機会を創出することで,課題を解決していく力を育めるようにすべきではないか。

○ 高校生に地域と向き合う機会を持たせることが,街に対する当事者意識と感謝の養成につながっている。卒業後地域を離れる生徒の多い普通科進学校にこそそういった機会が必要である。身の回りの困難さを学校教育がチャンスに変えていくことに使えるとよい。

○ 学校と地域社会,学校間,教科間,学校種間などのつながりや絆(きずな)を持った教育課程としたい。

○ OECDと連携して子供たちを復興の担い手として育てる国際プロジェクトを進める中で,子供たちは他地域の生徒との交流,自地域の未来に対する議論と活動,他学年・異世代との交流,地域社会との交流を通じて成長したと感じており,「アクティブ・ラーニング」や新しい学校を考える上で参考になる。

○ 社会人の教育現場への参加についても,元気で意欲のあるOB社員が増えており,こうした人材を組織的に参画できる仕組みができると企業側としてもやりがいがある。

○ 入試改革の議論は高校の学習内容を社会と接続した学びに変えていくきっかけになるのではないかとの希望を持っている。

3.発達段階や成長過程という縦軸のつながり
○ 幼児教育の質を高めることと,幼と小のカリキュラムのつながり方が重要。幼と小の教育課程の考え方やその編成にはそれぞれ尊重すべき違いがあり,発達段階に応じつつ,一貫していくことが重要。内容の「前倒し」ではなく「積み上げ」になるような形で議論していきたい。

○ 幼児教育は主体的な活動である遊びを通じて総合的に指導する。課題は幼児がそこで何を身に付けたかを見極める教師の目。小学校の学びにつながるものとして,幼児期に身に付けるべき力を伝えられるような教育課程の在り方を考えたい。

○ 年齢差を気にせずに議論ができるのが普通の社会であるが,小学校の6~12歳は発達段階が目まぐるしく,どこに視点を置くかが難しい。「小学校」という大きなくくりだけではなく,幼小や小中などの校種間の接続・連携も含め,細やかに見て議論したい。

4.学習指導要領の構造における学習活動の示し方
○ 学習指導要領改訂に向けて,部活動や会議等で多忙な学校現場が更に忙しくなる懸念や,「アクティブ・ラーニング」の充実に伴う指導の変化への不安もあるが,日本の子供たちのためになるものであり,取り組む必要性は高い。

○ 諮問の趣旨にある「主体的・協働的な学び」は総合的な学習の時間で大切にしてきた学びであり,これを各教科の学びに広げていくことで,骨太な学力向上につながるのではないか。

○ 夢を持つ子供の割合が諸外国に比べて低いという調査結果もあり,「アクティブ・ラーニング」は「テクニック」ではなく「学ぶ意欲」につながるようにすべき。

○ 学習指導要領の構造として,「何を知っているか」という「内容の計画」にとどまらず,「それを使って何ができるようになるか」まで示すこととするならば,昭和33年の学習指導要領告示以降,これまでにない斬新で大きな変化と言える。もし「指導方法」を学習指導要領で示すことに踏み込むならば,単なる手練手管やテクニックにならないよう,どう示すのかはしっかりと議論したい。その前提として,「なぜこれを学ぶべきなのか」「なぜその方法が妥当なのか」を考えることが必要。

○ 教科の目標―学年目標―内容という構造は,「内容を学んでいけば知識を使いより良く生きていける」という人間観や学習観に立つものだが,心理学や学習科学においては,学習のメカニズムとして,「知識の習得」と「それを活用して問題を解決すること」には隔たりがあることが分かってきた。欧米でも,こうした学習のメカニズムに関する心理学や学習科学の知見を共通の基盤としてカリキュラムの研究開発が行われている。「指導方法」を学習理論に基づく「原理」として検討し,資質・能力の育成や学ぶ意味の形成に貢献するようなカリキュラムへの知識の組み込み方を議論したい。

○ 「考える力」を生得的なものと捉えるか,教えるべきものと捉えるかによって扱い方が変わってくる。

○ 「アクティブ・ラーニング」がどう実践され,どう評価され,どうしていきたいのかを議論すべき。学習者として自立していくために必要な教育課程の議論ができるとよい。

○ 思考するためのスキルをある程度学習指導要領に入れて教えていくべき。方法に振り回されないよう,示し方に注意が必要であるが,「分類する」「比較する」などのスキルを学ぶことにより,質の高い学びが実現する。国際バカロレアのカリキュラムも参考になるのではないか。

○ 埼玉県として協調学習に5年間取り組んできたが,協力校が大幅に増えており,手応えを感じている教員が多いのではないか。今回の諮問が追い風となり,学校もやる気になっている。

○ 子供だけでなく授業者自身もどれだけ「アクティブ・ラーニング」に意義を見いだせるかが重要。「何を子供に動機付けさせ,どこを目指すのか」という意識を持つだけで変わる。方法論に走らず教員の自律性を発揮できるようなものとしたい。

○ 紙の教科書をそのままタブレット化するのではなく,考え方自体を根本から捉え直して双方向(インタラクティブ)なものとし,10年ごとと言わずに新しいものにどんどん変えていくべき。

5.評価の問題
○ 内容だけでなくどのような力を身に付けるか,資質・能力にまで踏み込んだ諮問内容については大賛成であるが,学んだことを社会でどう生かすかや,資質・能力の評価ということはこれまでの学習指導要領でも触れられてきたが,そこまで学校現場は追い付いていない。学校現場でのこれまでの財産を壊さず,発展的統合の形で示せるとよい。

○ 自己肯定感を高めるためには評価の在り方が重要。10歳くらいまでに大きな壁があり,それまでに自己肯定感を持てるかどうかが重要である。評価を「教師から与えられるもの」ではなく,評価規準(基準)を作るところから子供自身が関わる自己評価など「自ら獲得していけるもの」にする必要がある。

○ 学制公布から終戦まで約70年,そこから更に70年という節目において,学力だけでなく「子供たちをどう育成していくか」という観点から評価観を転換していく中で学習指導要領改訂ができればよい。 

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