教育課程部会 教育課程企画特別部会(第1回) 議事録

1.日時

平成27年1月29日(木曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 東館13階 13F1~3会議室
東京都千代田区霞が関3-2-2

3.議題

  1. 初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について
  2. その他

4.議事録

【大杉教育課程企画室長】  皆様,おはようございます。少し時間は早いようでございますけれども,おそろいになりましたので,ただいまより中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会教育課程企画特別部会の第1回を開催させていただきます。本日は御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。
開会に当たりまして,小松初等中等教育局長より御挨拶を申し上げます。
【小松初等中等教育局長】  皆様,おはようございます。
この特別部会は中央教育審議会の初等中等教育分科会の教育課程部会に新たに設置をされました教育課程企画特別部会でございます。本日が第1回ということでございますので,一言,御挨拶と申しますか,簡単に趣旨説明をさせていただきますが,その前に,委員の皆様方におかれましては,本当に御多用のところ委員をお引き受けいただき,また,御出席いただき,誠にありがとうございます。お礼申し上げます。
昨年11月に中教審の総会において,「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」という大臣からの諮問が行われました。学習指導要領についての今後の在り方等について諮問をしたというわけでございます。その後,先ほど申し上げました中教審の初等中等教育を扱います分科会の教育課程部会に本部会を設けて,方向を審議していただくという形になりまして,皆様にお願いを申し上げた次第でございます。
その背景といたしましては,諮問理由にも少し述べられておりますけれども,今の子供たちが大人になって社会で活躍する頃には,社会構造や雇用環境が非常に大きく変化しているであろうと。ある意味,厳しい挑戦の時代を迎えているということも予想されるという認識に立ちまして,そうした時代の中で,一人一人が将来に夢や希望を持って,そして,主体的・積極的にチャレンジをしていく,その中で,自らの可能性を伸ばしていきながら,国家と社会の形成者として充実した人生を歩む上で必要な力,そういったものを育むことができるようにしていく。いずれも学校教育に期待されているところでございまして,学習指導要領の在り方についても,そういったことを踏まえながら大きな流れとしての改革が必要だと考えているわけでございます。
それを踏まえまして,この部会では後で各学校種,例えば小学校とか,中学校とか,そういう意味ですけれども,それから,あるいは各教科や科目,こういった,それぞれの区分で改訂の方向性を中教審として検討していくのに先立ちまして,今,申し上げましたような新しい時代にふさわしい学習指導要領等の基本的な考え方をここで少し整理をしていただきまして,それから教科・科目の在り方や学習・指導方法,それから評価方法,これらは非常に密接な関連,あるいは一体性を持っておりますので,これらを見ながら今後の在り方についての基本的な方向性を御検討いただく場ということでお願いしたいと思っております。
そして,本部会でお取りまとめいただきましたものは,教育課程部会等に御報告いただきまして,最終的には中教審としては平成28年度の終わりまでに答申をお取りまとめいただくということで,昨年の中教審における諮問の際にもお願いしておりますので,基本的にこのスケジュールで進めていただければと思っております。
皆様方におかれましては,是非,それぞれの御知見,御経験,御識見を踏まえまして,いろいろな角度から御意見を頂ければと願っているところでございます。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
【大杉教育課程企画室長】  それでは,議事に先立ちまして,本特別部会の主査及び主査代理について御報告いたします。資料3の「初等中等教育分科会教育課程部会運営規則」に基づきまして,本特別部会は教育課程部会の決定により設置されております。主査及び主査代理につきましては,無藤教育課程部会長より羽入佐和子委員を主査に,天笠茂委員を主査代理にそれぞれ指名いただいておりますので,御報告申し上げます。
次に,教育課程企画特別部会の委員の皆様を御紹介させていただきます。資料5といたしまして,教育課程企画特別部会の委員名簿を配付させていただいておりますので,名簿の順に御紹介させていただきます。
今村久美委員でございます。
【今村委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  小川聖子委員でございます。
【小川委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  門川大作委員でございます。
【門川委員】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  神長美津子委員でございます。
【神長委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  ロバート キャンベル委員でございます。
【キャンベル委員】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  齋藤ウィリアム浩幸委員でございます。
【齋藤委員】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  品川裕香委員でございます。
【品川委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  清水雅己委員でございます。
【清水委員】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  髙木展郎委員でございます。
【髙木委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  奈須正裕委員でございます。
【奈須委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  羽入佐和子主査でございます。
【羽入主査】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  平川理恵委員でございます。
【平川委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  廣田康人委員でございます。
【廣田委員】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  牧田秀昭委員でございます。
【牧田委員】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  三浦浩喜委員でございます。
【三浦委員】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  三宅なほみ委員でございます。
【三宅委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  山口香委員でございます。
【山口委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  山脇晴子委員でございます。
【山脇委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  油井大三郎委員でございます。
【油井委員】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  渡瀬恵一委員でございます。
【渡瀬委員】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  ありがとうございました。
また,本日は御欠席でございますが,天笠茂主査代理,荒瀬克己委員,池野範男委員,市川伸一委員,上田正仁委員,松川禮子委員,吉田研作委員が本特別部会の委員に就任されております。
あわせて,本日は残念ながら同じく御欠席でございますけれども,教育課程部会の無藤部会長にも本特別部会に参加いただくこととしております。
委員の御紹介は以上でございます。
次に,文部科学省からの出席者を御紹介させていただきます。
初等中等教育局長,小松でございます。
【小松初等中等教育局長】  どうぞよろしくお願い申し上げます。
【大杉教育課程企画室長】  大臣官房審議官(初等中等教育局担当)の中岡でございます。
【中岡大臣官房審議官】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  大臣官房審議官,同じく初等中等教育局担当の伯井でございます。
【伯井大臣官房審議官】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  特別支援教育課長の井上でございます。
【井上特別支援教育課長】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  高校教育改革PTリーダーの水田でございます。
【水田高校教育改革PTリーダー】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  体育参事官の日向でございます。
【日向体育参事官】  よろしくお願いします。
【大杉教育課程企画室長】  国立教育政策研究所長の大槻でございます。
【大槻国立教育政策研究所長】  どうぞよろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  主任視学官の清原でございます。
【清原主任視学官】  どうぞよろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  教育課程企画室専門官の小野でございます。
【小野教育課程企画室専門官】  よろしくお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  それから,私,教育課程企画室長の大杉でございます。本日,少し遅れて参る者もございますけれども,皆様の審議が円滑に進められますよう,事務局としても精いっぱい務めさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます。
それでは,議事に入ります前に,羽入主査から一言,御挨拶を頂ければと思います。よろしくお願いいたします。
【羽入主査】  羽入でございます。部会長から御指名を頂き主査を務めさせていただきます。不慣れでございますので,どうぞ皆様の御協力を頂きますようお願い申し上げます。
先ほど,局長からの御挨拶にもございましたが,下村大臣からの諮問には,」新しい時代にふさわしい学習指導要領等の在り方について諮問を行うと」記されてございます。社会構造,そして世界が著しく変化する中で,次世代を担う人々をどのように育てるかということの指針になるような学習指導要領の作成が,今,求められているのではないかと考えております。
おおよそ10年に一度の改訂ということでございますので,先生方におかれましては,それぞれの専門分野はもちろんのことでございますけれども,広い視点で,そして長期的な視点で御意見を頂ければと考えております。
この場では,可能な限り議論を尽くして,そして将来の方向性を,基本的な考え方を取りまとめることができれば,大変有り難く思います。どうぞ御協力いただきますよう,よろしくお願い申し上げます。
【大杉教育課程企画室長】  ありがとうございます。
それでは,本特別部会の進行は,これより羽入主査にお願いいたします。
【羽入主査】  ありがとうございます。
それでは,議事に入ります。
本日,報道関係者から,会議の撮影・録音の申出がございまして,これを許可しております。この点を御承知おきくださいませ。
なお,撮影に関しましては,大変恐縮ですけれどもここまでとさせていただきます。
まず,初めに,本特別部会の審議等については,教育課程部会運営規則第3条に基づき,原則,公開により議事を進めさせていただきます。
また,第6条に基づきまして議事録を作成して,原則,公開するものとして取り扱わせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。
それでは,事務局から,配付資料の確認をお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  確認をさせていただきます。
本日は,議事次第に記載しておりますとおり,資料1から資料6,その他,机上に参考資料を配付させていただいておりますので,適宜,御参照いただければと存じます。
もし不足等がございましたら,事務局までお申し付けいただきますよう,よろしくお願いいたします。
【羽入主査】  それでは,まず,「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」諮問の概要,また,本特別部会設置の趣旨などについて,事務局から御説明をお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  それでは,少しお時間を頂きまして,設置趣旨,諮問の概要,補足資料などにつきまして御説明させていただきます。
まずは設置趣旨でございますけれども,お手元資料4にございますように,企画特別部会の設置につきましては,各学校種又は各教科・科目の改訂の方向性に関する検討に先立ちまして,新しい時代にふさわしい学習指導要領の基本的な考え方等々を御審議いただくということで設置いただいております。
1枚めくっていただきますと,構造図を付けさせていただいておりますけれども,総会の下にございます初等中等教育分科会,さらに,その下にございます教育課程部会の下に,基本的方向性を審議する場として,今回,設置させていただいたところでございます。
夏ぐらいまでに基本的な方向性を集中的に御審議いただき,おまとめいただければと考えておりますけれども,その後は,同じくこの教育課程部会の下に各教科等別の専門部会を設置いたしまして,この特別部会でおまとめいただいた論点整理,大きな方向性を基に,各教科別の議論を深めさせていただくというような流れを予定してございます。
先ほど,小松局長からも御説明申し上げましたように,下村大臣から平成28年度中に全体の答申ということでして,夏までにおまとめいただいた論点整理は,最終的には平成28年度中の答申に反映させていただく予定でございます。その後につきましては,答申が平成28年度中ということになりますと,早ければ周知期間,教科書採択等々を経まして,順調に進めば小学校は平成32年度から新しい学習指導要領の全面実施という流れが想定されるところでございます。
続きまして,資料1,諮問及びその関連資料について御説明させていただきたいと思います。まずは諮問の背景となりました参考資料を御覧いただければと存じます。資料1‐3になります。
既に委員の皆様のお手元にはお届けしておりましたので,概要を少しおさらいさせていただくような形で御説明をさせていただきたいと思います。1枚おめくりいただきますと,「現行学習指導要領について」ということで御説明をさせていただいております。社会の変化や子供たちの現状を踏まえて,おおむね10年に一度の改訂をさせていただいております。
6ページにもございますように,現行の学習指導要領におきましては,「学力の3要素」が学校教育法の改正により明確化されたことなどを踏まえまして,「生きる力」の育成を目指しているところでございます。
具体的には,知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成のバランスを重視いたしまして,授業時数を少し増加,また,言語活動や理数教育の充実など,指導内容の充実,小学校外国語活動の導入などを図らせていただいているということでございます。
続きまして,今回の諮問の背景となりました「社会の変化と子供たちの現状について」ということで,8ページ以降に少しデータを掲げさせていただいております。8ページ,9ページには,今後の人口構造の変化がございますけれども,これからの子供たちにはこうした社会の変化を乗り越え,未来を切り開く力を身に付けることが期待されているということかと思います。
学力の現状につきましては,10ページから12ページに少しデータを付けさせていただいておりますけれども,現行学習指導要領を踏まえました各学校における真摯な取組の成果が,国内外の学力調査の結果として回復傾向として表れていると考えられます。
ただし,一方で,13ページから16ページに課題として少しデータを付けさせていただいておりますけれども,判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べること,学習意欲,自己肯定感,社会参画への意識の低さなどの課題が指摘されているところでございます。
また,指導と学力の関係でございますけれども,言語活動,あるいは探究的な学習活動などを積極的に実施する学校ほど,教科の平均正答率が高い傾向が見られるところでございます。
また,そういった指導につきましては,「先生方は主体的な子供たちの学びが重要と考えている」一方で,「主体的な学びを引き出すことに対しての自信は低い」ということが表れているデータを18ページから20ページに掲げさせていただいております。
少し先に参りますけれども,26ページ以降に諮問に関連いたします最近の動向ということで資料を付けさせていただいております。
例えば,新しい時代にどういった力が必要になるかということでありますけれども,ユネスコが提唱しております持続可能な開発のための教育に関する取組でありますとか,OECDのキー・コンピテンシーの育成に関する取組,また,国際バカロレアのカリキュラムなどの取組が実施されているところであります。
また,中教審では,昨年末に高大接続改革の議論が答申として取りまとまりまして,高校教育改革,大学入学者選抜,大学教育を一体的に改革する必要性も提言されているところでございます。
また,39ページ,40ページを御覧いただきますと,英語教育について,「今後の英語教育の改善・充実方策について」という提言が有識者会議から出されております。これはまた今後,英語の議論の際に詳細を御紹介させていただきたいと考えております。
また,キャリア教育・職業教育につきましても,発達段階に応じたキャリア教育の必要性が41ページにありますように提言されております。
こういった背景を踏まえつつ御議論いただければと考えておりますけれども,資料1‐2にお戻りいただければと思います。
本特別部会で御審議いただきたい審議事項の柱でございますが,こうした社会の変化,子供たちの現状を踏まえまして,3本の柱を諮問としてお願いしているところでございます。
一つ目は,教育目標・内容と学習・指導方法,学習評価の在り方を一体として捉え,新しい時代にふさわしい学習指導要領等の在り方を議論していただきたいということでございます。これからの時代を自立した人間として多様な他者と協働しながら創造的に生きていくために必要な力とは何であるか,そうした力を育成するための教育目標・内容の在り方はどうあるべきか,また,そういった力を育むためには課題の発見・解決に向けて主体的・協働的に取り組むという,いわゆる「アクティブ・ラーニング」ということで学びを深めていくことが重要であると考えられますが,そうした学習方法を内容と関連付けてどのように示していくべきか,また,そうした力をしっかりと育む観点からの学習評価の在り方を御議論いただければと考えております。
二つ目は,より具体的な教科・科目の在り方についてでございますけれども,同じ資料の3ページ目を御覧いただければと思います。
特にグローバル化する社会の中で,様々な背景を持つ方々と交流していきながら,また,我が国の伝統文化等に関する深い理解等を持ちながら活躍していくために,どのような力が求められるのか,また併せて英語の能力については,先ほど少し御紹介させていただきました有識者会議の提言においても下のような点が整理されておりますけれども,小学校から高等学校までを通じて英語を使って何ができるようになるかという観点から,どのような形で示していくべきか,また,特に小学校におきましては,中学年から外国語活動,それから高学年から系統性を持った教科の学習が考えられるのではないか,こういった点も踏まえながら御議論いただきたいと思っております。
また,高等学校教育につきましては,18歳成人年齢の引下げといった議論があることなども踏まえまして,国家・社会の責任ある形成者となるために必要な力を実践的に身に付けるための科目の在り方でありますとか,地理歴史科の見直しの在り方,また,より高度な思考力等を育むための教科・科目の在り方等々について,総合的に御議論いただければと考えております。
もう一枚めくっていただきますと,幼児教育につきましては,小学校との連携,小学校への接続ということも踏まえてどのような見直しが考えられるか,また,体育・健康という観点からは,2020年のオリンピック・パラリンピック開催は子供たちの関心・意欲の向上という面で大きな契機となると思いますので,それを踏まえながら,どのような見直しが考えられるか,また,特別支援教育におきましても,発達障害を含めた障害のある子供たちに対する対応は,幼・小・中・高,全ての学校において求められるということになってきておりますので,そういった観点からの充実はどのようなことが考えられるか,また,その他社会の様々な要請を踏まえて,教育目標・内容の在り方はどのように考えるかということを総合的に御議論いただければと思っております。
また1枚目に戻っていただきまして,審議事項の3本目の柱でございますけれども,こうした事項は全てを学習指導要領に書き込んで解決するということではなくて,学習指導要領に掲げる理念がいかに現場で実践されやすくなっていくかということが重要であると考えられますので,そうした各学校におけるカリキュラムのマネジメント,学習・指導方法,評価方法の工夫・改善をいかに支援していけるか,こういった観点からも,是非,御議論いただきたいと思っております。
あと5分ほど時間を頂きまして,補足資料を少し御説明させていただきたいと思います。資料2になります。
補足資料につきましては,少し専門的な事項も含まれておりますけれども,今回,それらの内容全てを踏まえてコメントしていただきたいという趣旨ではございません。また,いずれか特定の論に沿って御議論を展開していただきたいという趣旨でもございません。こうした考え方があるということを今回の議論の背景としてお役立ていただきたいという趣旨の補足資料でございます。今後,幅広く様々なほかの考え方などについても御紹介させていただくこともあると思いますので,余り構えずに御覧いただきたいと思っております。
資料2,1枚おめくりいただきますと,まずは法体系でございますけれども,法令上,教育の目的・目標がどのように定められているかという構造を示したものでございます。教育基本法,それから学校教育法の構造を示したものでございますけれども,教育の究極的な目的といたしましては,教育基本法1条にありますとおり,人格の完成を目指し,平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な国民の育成を期して行われるということでございます。
また,その目的を実現するための目標が2条として,その下に掲げられております。
また,それに基づきまして,幼児教育,義務教育,高等学校など後期中等教育,また,大学などの高等教育,それぞれの目的,それから,それに沿った目標が整理されており,また,特に「学力の3要素」ということで,下から2段目の赤い枠でございますけれども,学校教育法において「学力の3要素」ということで規定をさせていただいているところでございます。また,特別支援学校の目的もそこに掲げさせていただいているとおりでございます。
こうした法令上の構造に基づきまして,現在,平成25年から29年の計画になっておりますけれども,教育振興基本計画を定めまして,教育の振興を図っているところでございます。
「四つの基本的方向性」ということでございますけれども,3ページ目になりますけれども,例えば「社会を生き抜く力」ということで,多様で変化の激しい社会の中で個人の自立と協働を図るための主体的・能動的な力,それから「未来への飛躍を実現する人材」ということで,創造性,チャレンジ精神,リーダーシップ,日本人としてのアイデンティティーや語学力・コミュニケーション能力などの育成の重要性などがうたわれているところでございます。
また,右下,「今後の社会の方向性」でございますけれども,これは諮問の内容とも関わりますけれども,自立・協働・創造,三つの理念の実現に向けた生涯学習社会を構築していくということでございます。
もう一つ,ゼット折りの大きい資料を広げていただきますと,4ページ目でございますけれども,今,御紹介させていただいた教育振興基本計画の審議の際に使われた資料でございます。これまで提言された様々な資質・能力をコンパクトにまとめさせていただいているものでございます。
真ん中ほどでございますけれども,幼児教育,義務教育,高校教育におきまして「生きる力」の育成を目指す。それから,大学・大学院におきましては,課題探求能力でありますとか学士力というものを目指すという答申がこれまで成されてきているところでございます。
また,その下の長い四角でございますけれども,「社会的・職業的自立,社会・職業への円滑な移行のための」ということでありますと,例えば人間関係形成能力でありますとか,自己管理能力でありますとか,課題対応能力,キャリアプランニング能力といった基礎的・汎用的能力も,提言を中教審においてしていただいているところでございます。
また,様々,「イノベーション創出に向けて必要な資質」でありますとか,「グローバル人材に必要な資質」,またその下には「人間力」「社会人基礎力」というものもございますけれども,本日,全てを御紹介する時間はございませんが,その後,5ページ以降,それぞれの力について簡単に概要を御説明させていただいている資料を付けさせていただいております。
それから,10ページ目になりますけれども,これは高大接続の観点からの議論でございますけれども,先ほどの4ページの資料では「生きる力」,幼児教育,義務教育,高校教育までということで整理をさせていただいておりましたが,これは昨年末に新しく出された「高大接続に関する答申」におきましては,初等中等教育のみならず,大学などの高等教育までを一貫して「生きる力」「確かな学力」をしっかりと育んでいく,義務教育までの成果をしっかりとその上の高等学校,大学につなげていく,そういった形で入試の在り方も含め,一人一人に育まれた力を更に発展・向上させる観点から,生かしていくという提言もされているところでございます。
また,1枚おめくりいただきまして,11ページでございますけれども,これもまた昨年,平成26年3月にまとめられました高等学校教育部会の審議まとめでございますけれども,高等学校段階で全ての生徒が共通に身に付けるべき資質・能力についても提言を頂いております。
「学力の3要素」とともに,社会・職業への円滑な移行に必要な力でありますとか,社会の一員として参画し貢献する意識・態度などの市民性,こういったものが「コア」と称しておりますけれども,こういった形で共通に身に付けるべき力として必要なのではないかという提言も頂いているところでございます。
それから,12ページ,13ページ,14ページにつきましては,先ほどの参考資料にもございましたけれども,国際的にもこうした人材の育成,人間形成ということが重要視されているということで,例えば13ページを御覧いただきますと,「国際バカロレアの学習者像」がございますけれども,「探究する人」でありますとか,「知識のある人」「考える人」ということで,こういった目標に向かってカリキュラムが組まれているということでございます。
また,15ページには,少し諸外国の教育改革において資質・能力がどのように扱われているか,国立教育政策研究所の資料を掲げさせていただいておりますけれども,一番左がOECDの提唱するキー・コンピテンシーでありますけれども,EUやイギリス,オーストラリア,ニュージーランド等々におきまして,それぞれ,そういったキー・コンピテンシーでありますとか,キー・スキル,汎用的能力の育成を目指すということでカリキュラム構成も考えられているということでございます。
16ページ以下は,そうした御紹介いたしましたような資質・能力を少し構造化していこうという議論を御紹介させていただきます。
17ページは,諮問にも付けさせていただいている図でございますけれども,新しい時代に必要な力を育んでいく,「何ができるようになるか」という観点から教育を考えていくということでありますと,「何を学ぶか」の内容面に加えて,「それをどのように学んで,どのような力として身に付けていくか」についても,しっかりと学習評価として見ていくという観点が必要になるということかと思います。
こうした資質・能力につきましては18ページにございますけれども,これは前回の改訂の際の参考資料でございますけれども,平成17年の議論の際に,こうした資質・能力と「生きる力」の関係性を,構造化を試みたものでございます。「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」という,それぞれ「生きる力」の構成要素と,各教科等で育成する知識・技能,思考力・判断力・表現力などの関係性を重視しようと試みたものでございます。
ここにおきましては,「確かな学力」の中の構造でございますけれども,知識・技能と思考力・判断力がそれぞれ別の柱で整理されておりまして,それらが互いに影響し合うというような図式になっていますけれども,その後,知識・技能と思考力を階層的に捉えようという枠組みも議論されているところでございます。
19ページ以降になりますけれども,丸の部分のみをまずは御覧いただければと思いますけれども,「知識の獲得」はブルーの一番中の部分になりますけれども,そういった事実的知識の獲得と,緑の部分にございますそうした知識を有意味な文脈で使っていけるという部分,これを階層的に捉える試みであります。
申し上げたいのは,事実的な知識の獲得のみならず,こうした重要な概念の獲得でありますとかプロセスの獲得を目指していくという,ある意味,能力ベースの議論は必ずしも知識を否定して議論されるということではなく,これらが一体的に育まれるという階層的な捉え方が議論されていることを御紹介させていただいております。
21ページもそれをお示ししたものでありますけれども,「知の構造」ということでありますけれども,事実的知識,こういったものは評価の場面で言えば,いろいろな筆記テストですとかチェックリストのようなものでチェックされるものですけれども,よりいろいろな文脈で使っていける重要な概念でありますとか,一般的な原理でありますとか,方法論の獲得,こういったものをしっかり学習成果として見ていくためには,プロジェクト的な課題を与えて,そのパフォーマンスを見ていくというようなことでパフォーマンス課題が必要になっていく,そういった獲得する知識なりの構造と評価の在り方が一体として議論される必要があるというイメージを見ていただければと思っております。
そういった階層的な捉え方につきましては,22ページの国立教育政策研究所の「『21世紀型能力』のイメージ」でも,基礎力,思考力,実践力という三層構造でとらえられているということで見ていただけると思います。
実は,こうした議論を踏まえまして,23ページ,24ページでございますけれども,資質・能力の在り方につきましては,以前,「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」で論点整理を,させていただいたところでございます。下の方を御覧いただければと思いますけれども,今後必要となる力につきまして,主体性・自律性,対人関係能力,課題解決力,学びに向かう力等々を掲げさせていただいた上で,こうしたものにつきましては,例えばカテゴライズいたしますと,教科を横断する汎用的なスキルでありますとか,より教科等の本質に関わる見方・考え方など,それから,個別の知識やスキルに関するもの,こういった分類ができるのではないかという議論を頂いたところでございます。
すみません,お時間を取っておりますけれども,あとは学習・指導方法,それから評価について簡単に御説明させていただきます。
学習・指導方法については,学びの質を深めていくというところから「アクティブ・ラーニングの充実」ということで諮問でも掲げさせていただいております。大事なことは,知識の習得のみならず,思考力や判断力・表現力等々,こういったものを養うための学びの深まりをどう作り出していくのか,そのためには子供たちが主体的に見通しを立てて課題の発見・解決に取り組んでいく活動が重要ではないかということであります。
こうした活動が27ページ以下,27ページ,28ページにありますとおり,現行の学習指導要領におきましても盛り込まれているところでありますけれども,なぜこういった活動が必要かという理解がまだ広まっていない部分もあるかと思われます。
こうした学び方は各教科にも,例えば国語の言語活動,社会の問題解決的な学習,算数の算数的活動等々ございますけれども,資質・能力育成との関係性,学びの深まりの必要性を具体的に少し示していくことも必要ではないかということでございます。
29ページには,例えば総合的な学習の時間においてそういったプロセスを分かりやすく示したもの,また,30ページにはアクティブ・ラーニングの具体例を示させていただいております。
最後に32ページ,学習評価になります。学習評価はポイントだけ御説明させていただきますけれども,32ページにありますとおり,評価につきましては,目標に準拠した評価ということで,目標の在り方とセットして議論していくことが必要になります。
また,右側にございますとおり,「指導と評価の一体化」ということで,学びの深まりを追求していきますと,評価方法にも工夫が求められるということでございます。それが33ページになりますけれども,アクティブ・ラーニングということで様々な多様な学習方法が広まっていきますと,その学びの深まりを把握するために,ただのペーパーテストではなくて,多様な評価方法を開発しようということで,例えばパフォーマンス評価,様々な課題を与えて,そのスピーチやプレゼンテーション,問題解決といったところの評価を行っていく。その手法として「ルーブリック」という尺度があるということ,それから,「ポートフォリオ評価」ということで,様々な生徒の学習過程をファイルに集積していくということ等々がございます。
こうした評価はなかなか手間暇が掛かるということはありますけれども,逆に,何を指導し,何を評価するかという狙いが明確になるという指摘もあるところでございます。
駆け足になりましたけれども,本日はこういった参考資料も踏まえながら,まずは論点を問わずに一般的な教育の在り方や,今後目指すべき教育の方向性について御意見を頂ければと思っております。
長くなりましたが,以上です。
【羽入主査】  ありがとうございました。
これから1時間程度,皆様から御意見を伺いたいと思います。頂きました御意見を,今後,事務局で整理して論点を明らかにしながら,次の議論に進めていきたいと思っております。
なお,御意見があります場合には,名札を立てていただきますと,こちらから見やすいので,お願いいたします。発言が終わりましたら,戻しておいてくださいませ。
今後,その論点に基づいた議論をしていくということと,それから,本日,20名ぐらい御出席いただいておりまして,1時間少しの時間ですと,一人2分程度で,できるだけ全員の方に御発言いただきたいと思っております。それぞれの先生方が御専門の分野,あるいは,より広い観点から御意見をそれぞれにお持ちだと思いますので,どうぞ御自由に御発言ください。 どなたか,口火を切っていただけますと,大変有り難く思います。
それでは,門川委員,齋藤委員の順でお願いいたします。
【門川委員】  発言の機会を頂いて,ありがとうございます。
京都市長の門川です。市長になる前は京都市の教育長をしておりました。教育委員会に三十数年おりましたので,40年近く何らかの形で教育に関わってきた者として,最近実感していることをお話しさせていただきます。おかげさまで京都市の教育は,教職員の熱意あふれる教育実践とPTA,地域の方々の学校教育への参画が融合し,大きく前進していると評価いただいております。しかし,今,公共心ということが盛んに言われています。
また,東日本大震災後「絆(きずな)」ということが言われています。更に言いますと,阪神・淡路大震災,これは「ボランティア元年」と言われております。人々の生き方に対する関心や評価が高まり,ボランティア精神が日本人のすばらしい特性であると評価されているところであります。私は京都の最大の宝は地域力であり,それを支える人間力であると実感しています。しかし,最近は町内会に入らない人が約3割おられます。
若い人が入らないと思うところですが,必ずしもそうではなく,高齢の人でも「独り暮らしになった」「役を持つのが大変だ」ということで入らない人もおられる,こういう時代になってきています。だから,一生懸命やっている人に大きな負担が掛かる。
また,商店会に入らない,それぞれの業界団体の組合に入らない。あるいは労働組合にも入らない。こういう傾向が日本社会のあらゆる分野に広がっています。
「これまで権利を教えて余り義務を教えてこなかった」こういう言い方をすればイデオロギー的に批判される時代がありました。
しかし,今はこうした批判しあう状況は乗り越えてきたのではないでしょうか。これから新しい時代を創っていこうというときに一人一人がきれい事ばかり言う自己中心的な人間になっていないかということが大きく問われてきます。そこのところを,教科から,領域から,学校経営の在り方から,評価の仕方から,今一度考える機会にしたいと思うわけです。
もう一点は,日本社会の最大の課題として大きく現れてきた人口減少社会にどう対応するのかということです。この問題に対応できなかったら,日本社会の持続可能性がなくなると思います。この点は,これまで真正面から学校教育で取り上げたことはなかったのではないかと思うのです。
若い人が結婚しない。結婚して子育てすることや親の介護をリスクだと感じる。
人の生き方として,世のため人のためにお役に立つことが自らの喜びでもある,そのような生き方をしている人が,三,四十年前までは一定の影響力を持っていました。しかし,そのような状況は変わってしまった。自分の生き方を人との関わり,世界との関わりでどう考えるのだということを理屈では言うけれども,道徳教育も充実させてきたけれども,本当にそうなっているのかということを考えたときに,次の世代を育てる,それを社会全体がみんなで応援していくということを真剣に教える学校教育が必要ではないかと思います。何をどのように学校で教えるかは難しい問題ですが,そういうことに真剣に真正面から向き合う学校教育でなければ,日本の人口はどんどん減っていくと思います。非常に取り上げにくい問題ですけれども,そこまで踏み込まなければならないのではないかと感じながら出席させていただきました。よろしくお願いします。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,続けて齋藤委員,お願いいたします。
【齋藤委員】  あと数分で失礼しなければならないので,先に発言させていただきます。
この会議で発言する機会を頂き大変光栄に存じます。私は,日本に来てちょうど10年になるのですが,若い人を教える立場や採用する立場のどちらにも携わりながら,今は会社の方でも,いろいろな立場で教育の結果であるところの日本の競争力に触れる機会があります。先週,大臣とダボス会議に参加し,教育にかんするセッションに出てきました。毎年いろいろな議論を聞く機会がありますが,今年,印象的だったのは,スピード感です。そのスピードで世の中がどのように進化しているかということが,ムーアの法則もしかり,日本だけではなく,皆さんがとても気にかけていて,このスピード感に乗っていけるか,行けないかで格差がいろいろ生まれているのは事実です。 日本も少子高齢化の中でいろいろとやっていかなければいけないことがあると思います。教育再生実行会議の部会に参加しているのですが,私は,是非この部会でもお話しできればいいと思うことは,資料にも「ICT」という言葉が出てきますが,そのICTの活用について,単にタブレット端末にして教材を紙からデータに移行するとか,そういう議論ではなく,デジタル化の本当のエッセンスを引き出していく必要があるということです。この審議会で議論されたことがこれから何年後かの教科書の基準になるという話ですけれども,教科書の存在自体を根本的に考え直して,インプット情報が記載された教材というところから脱し,ICTの強みであるインタラクティビティをいかに教育現場に導入していくか検討する必要があると思います。そして,先ほど学習指導要領は10年に1回の改訂との説明でしたが,10年単位ではなく,もっと短い期間でフィードバックを反映していく。新しいものにどんどん変えていくというようなことも是非ここで議論できないかなと思って楽しみにしています。よろしくお願いします。
【羽入主査】  ありがとうございます。
それでは,山脇委員,お願いいたします。
【山脇委員】  今の学校に是非とも必要な3点を考えてみました。
このグローバル化の時代に何が必要かということを考えますと,まず,国語の力が重要であろうということでございます。外国語を学ぶこともそれはそれでよいのですが,まずは子供たち,特に小学校の間はきちっと国語力を付けるべきだと思っております。
それは,コミュニケーション能力や思考力とも関わりますが,日本語という母体となる言葉が全ての基礎となりますので,それはもう少し深く考えた方がいいのではないかと思っております。
次は,歴史についてでございます。よく日本史をやったか,世界史をやったかというような議論がありますが,ことほど左様に我が国での歴史の教育は,日本史か世界史かの選択なのです。問題は日本史と世界史の両方がつながっていないということです。日本の歴史がそのときの世界の中でどういう位置を占めていたのかというような歴史の授業もされておりません。また,古代から学んでくると,現代史を学ばないまま終わってしまうというようなこともございます。世界観の中での日本の歴史,そして現代史をきちんと学ぶべきだと思っております。
それからもう一つは,日本文化を学ぶべきであるということです。海外に出てみて思いますが,経済力が幾ら強くても,海外では何も尊敬はされません。自国の文化というものについて語るべきものを持っているか,持っていないかということは非常に大切です。例えば音楽の時間にベートーヴェンやモーツアルトは勉強しますが,邦楽は学ばない。例えば長唄と清元と常磐津(ときわづ)と,その違いが分かる人は本当に少ない。それはどうしてかというと,教育をされていないからなのです。
せっかくの日本文化という固有の財産を持ちながら,それを学ぶことなしに大人になり,大人になって海外に行ったり,外国人とコミュニケーションを取ったりし始めてからはっと気が付くわけです。私は,そういった授業もやはり子供たちにこれからグローバル化を進めていくために必要なことだと思っております。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,次にキャンベル委員,お願いいたします。
【キャンベル委員】  まず,発言をさせていただく大変貴重な機会を与えていただいて,大変有り難いと思います。ありがとうございます。
私は東京大学で日本文学を教えている一方,国籍がアメリカでして,母語が英語で,大学に入ってから日本語を学習し習得した者の背景や経験,あるいは,その立場に立って気付かざるを得ない,あるいは気付いて自分から調べたり考えたりしていることを,この会議で少し反映させていただければうれしいと思っています。
最初に申し上げたいことが三つあります。一つは,今,齋藤委員がおっしゃったことに関わりますが,世界が加速的に動いていく中で,日本の若者がそれとその速度の中で何が重要であるかということを識別していく力,そして自分で主体的に判断していく,社会を形成していく,あるいは世論に加わっていくという自覚と能力を上げていくことが大変重要だと思います。
例えば英語教育に関連して言いますと,これは今,展開中の事件で,ここで申し上げていいかどうかは分かりませんが,数日前に例えばシリアで拘束されている後藤健二さんという方の映像が流れますと,例えば英語が母語として話されないヨーロッパやロシアであれば,最初に元の音声を流しながら字幕を付けていくということがいろいろなメディアを見ているとあります。しかし日本の大手メディアは等しく,まずは抄訳をしながら,どういうことを言っているかということをつまみながら,日本語に変えていき,映像の原語を見せたり聞かせたりしませんでした。24時間,あるいは2日間ぐらいたたないと我々一人一人が後藤さんと思われる方の実際の生の言葉を聞くことができません。 義務教育の中から英語をこれだけ学び,対応していく,日本語の中でも英語の中でも思考していくということを重視しながら,また,多大な投資をしながら,このようにいざというときに,いわゆる生の英語を遮断する,あるいは取捨選択してもっとも飲み込みやすい形に変えてからでないと共有しないという選択をします。このような事件が起きるということは非常に痛ましいのですけが,しかし,いろいろなことが更に加速してこれから起きていくときに,瞬時に国民が一人一人自らそれを受け止め,そして,自分の判断を下していくことが,市民として,それこそ市民性あるいは市民力の一番基礎になっていくのではないかと思います。
そう考えたときに,日本の英語教育はこれから議論されていくと思うのですが,例えば地方と大都会,都市部間の格差,人材の確保でありますとか,あるいは実際にアクティブに外国語の中で自らの思考を形成していくという訓練,それができる場と動機付けを学習指導要領の中にしっかりと位置付けていくべきではないかと思います。
次に,山脇委員の今の御発言に関わることですが,私もその意味においても,国語を重視することが,それこそ思考能力,表現力の育成につながると思います。それから私の経験からもこれは確実に申し上げていいことですが,自らの言語,母語をやはり自覚的に学び続け,習得して,確かなものにしていくことを通してしか外国語を実際に使えるものとして習得する,あるいは運営することはできないと思っております。
私は日本文学を担当する教員なので,国語教育と英語教育は実はいろいろなところでつながっているものとして捉えています。今,具体的な提案はできませんが,英語と国語を切り離して別々のものとして考えるというよりも,どこかでそれが実は深いところでつながっている,思考を形成する,育成する一番重要なところでつながっているものとして相互的に捉えていく視点も重要ではないかと思います。
手短に三つ目を申し上げます。日本の,今,これも山脇さんがおっしゃったことにつながりますけれども,日本語であっても英語であっても,日本文化について考え,表現していくためには,日本列島が一つの文化としてたどってきた歴史的な過程というものを過程として認識し,語れる足場がきちんとあって,そしてそれを一方的に話すのではなく,ダイアローグとして語り合っていくという姿勢や能力を訓練すべきだと思います。
特に,近年,北東アジア,あるいはアジア地域全体の中で,日本の近代,19世紀の後半から今日に至るまでの歴史的な過程を知るか,知らないかによって,日本が現在,国家として,あるいは一人一人の市民として何を目指しているのかとか,自分のポジションはどのようなものであるかを,そこで初めて相手に伝える,あるいは相手と結んでいく,あるいは議論をしていくことができると思います。
大学の教養課程として,1年・2年生たちの教育に携わる者としては,特に20世紀の歴史,近現代の歴史に対する高等・中等教育の中での手当,自主的に考える力は,欧米諸国,私の育ったアメリカに比べても全く不十分だと思います。歴史教育の充足とカリキュラムの再編成といいましょうか,再配分といった課題への手当も,是非,強く主張していきたいと思っています。
長くなりました。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,続けて平川委員,それから廣田委員,それから油井委員の順でお願いいたします。
【平川委員】  横浜市立市ヶ尾中学校の平川と申します。よろしくお願いいたします。本日,このような場で発言させていただくこと,本当に感謝しております。
私は,民間人校長として,女性初の全国の公立中学校における民間人校長として5年前に就任いたしました。その前は,自ら起業いたしまして,留学あっ旋会社を10年間経営しまして,一応,毎年黒字でその会社を売却いたしました。その前はリクルートにおりました。
こういった経験で,今,教育現場に入りまして,市ヶ尾中学校では「自立貢献」という教育理念の下でやっております。
私がこの教育現場に入りました理由は,何とか子供たちの教育現場で,子供たちが主体的に学習できるような環境をどういうふうにしたらできるのだろうと,具体的な案を,毎日毎日,走りながら考えているといったところでございます。まだ自分の思ったとおりには全くなっていません。達成率10%というところでございましょうか。
今回,2020年を目掛けて学習指導要領を改訂するかもしれないということで,はてさて困ったなと思っております。また先生たちが忙しくなるのかと思うからです。実は,外から私も入ってきたときに,先生は何もしていないのではないのかとか,夏休みは楽でいいななどと思っていた節もあったのですけれども,いやいや,これが違いまして,部活動は朝練7時から,それから土日もなく,ずっと授業の準備とか会議とかがあります。きのうも私は学校を8時半に出ましたけれども,まだ生徒指導の学年会をやっておりました。こういったのが現状でございます。
そういった中で,またこの「アクティブ・ラーニング」という考え方が入って,それがどういうふうになるのだろう,教える内容がどういうふうに変化するのかというところが先生方も心配されているところです。「アクティブ・ラーニング」は私もやらなければならないものだと思います。留学あっ旋会社を経営しているときに500校,欧米の学校を見てきて,やはり,これをやることが日本の子供たちのためになると思っておりまして,この5年間も試行錯誤をしてまいりました。
「アクティブ・ラーニング」への変革のため,魔法のつえはありません。ないと思っている中で,やはりキーワードになってきますのが「開かれた学校」ということと,「キャリア教育」ではないかと思っております。
キャリア教育は何も職業教育というものではありません。今,中学校2年生の子供がミレニアムベビーで,2000年生まれです。このミレニアムベビーが100歳までその半数は生きるだろうというようなことが未来予測の中で立てられておりまして,集会などでも,「あなたたち,2100年まで生きるのよ」と言うと,みんな,「え?」という顔をしているのですけれども,結構,ポジティブに子供たちは捉えてくれていて,「そうか,100年生きられるのだったら,何ができるのだろうな」というふうに思ってくれています。その理由は,やはり毎月,大体3団体と申しますか,3人と申しますか,各教科の単元に合わせて出前授業を取り入れているからで,親や教師以外の,社会で輝いている大人と交流があるからだと思います。それは地域からのお手伝いであったり,企業からのCSRの出前授業であったり,あるいはマイケル・サンデルの白熱授業に連れていったり,それから,サッカー選手の川島選手に来てもらうとか,そのような外からの力をとにかくお借りしています。それから,校内でも図書館を活用して調べ学習を司書と担任とで一緒にさせるなどの取組もあります。
今やっている授業を世の中とどのように結び付けるかというようなことをしていくと,先生たちも,「世の中がこんな変わっているんだ」「ICTも確かに企業の人は使っているな。僕も少し使ってみようかな」など,とにかく教室の中に世の中の風を入れていくことをやっていくと,変わっていっています。
それから小中連携ですが,小・中学校の9年間の中で身に付けさせたいスキルを,1中2小3校の教職員120人で夏休みの研修のときに考えました。そこで,身に付けさせたいスキルをコミュニケーションスキルと置き,小学校1年生はこう,2年生はこう,3年生はこう,というふうに,学年ごとに9年間の付けさせたいスキルを話し合っていけたということが,よかったように思います。授業と評価の一体化もまだまだですが,外の風を取り入れたり,身に付けさせたいスキルや力をきちんと話し合ったりすることが大切だと思います。このたび,中教審の場でお話しできるこということですが,先ほど大杉室長から「理念だけでなくていかに現場で実践できるか」というお話もありましたので,現場の声として,また,実践者としてお話しできればと思っております。
長くなりました。以上でございます。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,続けて廣田委員,お願いします。
【廣田委員】  三菱商事の廣田でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
世界を相手に取引ビジネスをやっている会社の人間として発言し,少しでも貢献できればと思って参加させていただきました。よろしくお願いいたします。
私が一番思うのは,日本人が世界に出て行ったときの「個の強さ」というものの違いであります。やはり日本はとてもいい,比較的均質的な社会にあって,他者との距離も,ある程度,予定調和の形で進めていける社会でありますけれども,これが国際的な場に出たときには,そういったものだけでは通用しない。いわばずうずうしさというのでしょうか,相手に意見を言っていく力は,どうしても私どもの社員などを見ていても弱い。まずはそこのところを乗り越えさせることをしなければいけないと強く思っています。
先ほど,ダボスの話もありましたけれども,国際的な議論の場において,特定の国の名前を言うと怒られてしまうかもしれませんけれども,ある南西アジアの国の人をいかに黙らせるかということと,日本人をいかにしゃべらせるかということが議長の力量を問われているというようなことが言われますけれども,どうしても日本人は意見を言うとか,ずうずうしく自分の主張を通していくことが弱い。
これをどういった形で教育的に実現できるかは,私は分かりませんけれども,しかし,このところの「個の強さ」,日本においてはすばらしい人でも,こういったモラルとかそういったものなのですけれども,海外に行ったときにはそれを切り替えていかないといけない。これはもう現実としてそういうことの力は必要だと思っていますので,そのあたりのことをまた勉強させていただきたいと思っています。
それから,今の平川先生からお話のあった社会人の教育現場への参加についても,やはり私ども,定年が65歳まで延びたと言っても,OBになる人たちはかつてよりはるかに元気であります。そしてまた,その社会に参画していきたい,特に教育現場に参画していきたいという意欲を持った社員,OBの人間がたくさんおりますので,こういったところをもう少し組織的に参画できるような仕組みができれば,非常に我々としてもやりがいがあることではないかと思っています。
以上です。
【羽入主査】  ありがとうございました。
では,油井委員,お願いいたします。
【油井委員】  発言の機会を与えていただきまして,ありがとうございます。
先ほどから歴史教育の重要性がいろいろなところで強調されておりました。私は一応,歴史分野を専門としておりますので,少し発言させていただきたいと思いました。
9年前に世界史未履修問題が高等学校で起こったことを覚えていらっしゃる方も多いと思うのですけれども,現在の高等学校では,世界史が必修になっていて,あとは選択なわけです。
ところが,世界史は非常に覚える知識が多いので,生徒たちは敬遠する傾向があって,名目上は世界史を教えている形にして,実際は日本史や地理を教えていたというのが露見して,それがマスコミで随分問題になったわけでございます。
私は,そのとき,ちょうど日本学術会議の会員をしていて,歴史と地理の先生方と相談して改革案をまとめたという経緯があります。また,その後,文部科学省の認可の下で幾つかの高等学校で新しい科目の研究開発が進んでおります。
この世界史未履修問題を解決するポイントは,やはり日本史と世界史を分けないで総合的に教えることだと思います。かつては日本史も,世界史も,地理も,3科目必ず習うのが当たり前だったのですけれども,今やもうどれかを選ぶという時代になっておりますから,日本史だけ勉強すると,ほとんど世界史の記述がない。逆に世界史だけ学ぶと,日本史がほとんど入っていないので,非常に偏った歴史認識が持たれるという傾向になっております。
しかも,少し調査してみたのですが,1950年代ぐらいに使われていた教科書の歴史用語は,現在使われている教科書の歴史用語と比べると,3分の1ぐらいの用語しかなかったのです。今や3倍ぐらいに膨れ上がっています。これは,もちろん新しい研究成果が反映しているという面もあるのですけれども,それよりも,大学受験で非常に細かい用語の暗記力が問われるような出題が続いていて,大学入試で出ると,それは次の改訂のときに教科書に盛り込まれるという形での悪循環が発生しております。
ですから,大学入試と高等学校の歴史教育はセットにして改革しないとらちがあかないというのが現状でございますので,今回,大学入試や高等学校での新テスト導入ということで大きく入試制度が変わろうとしていますので,大変いいチャンスだと私は思っているのです。大学入試改革とセットにして高等学校の歴史教育改革が進むと有り難いと思っています。
それからもう一点は「アクティブ・ラーニング」ですけれども,歴史教育の場合でも,学習指導要領で,「歴史的思考力の育成」がずっと重視されてきているのです。ところが実際,なかなかうまくいかない。どうしても歴史は暗記物で,記憶力が高いといい点が取れるというイメージを生徒たちはずっと持っていて,先生方もなかなかそこを突破できない。
ですから,これも大学入試と関係していますので,大学入試が統合科目のような合同的な出題がされていけば暗記だけでは済まないので,変わっていくとは思います。もう一つ気になるのは,「アクティブ・ラーニング」は歴史に限らずあらゆる教科で生かされるべきだと思いますが,問題は,生徒自身が学ぶことの意味といいますか,これを学ぶことで自分がどういうふうに成長できるのかとか,といった動機付けという部分がやはり弱いのではないか。何かの調査で日本の子供たちは将来に夢を持つ点で,外国と比べて夢を持つ比率が非常に低いということが言われているわけです。つまり,学びへの動機付けが極めて低い状態で幾ら「アクティブ・ラーニング」と言っても,テクニックばかりに走って,子供たち自身が本当に意欲的に学ぶことにつながっていかないという問題があると思います。
そういう意味で,先ほど平川委員がおっしゃったように,外の風を教室に入れることがとても大切で,サッカー選手でもいいですし,ノーベル賞受賞者でもいいので,どんどん教室に行っていただいて,自分の体験を話して,自分もあのようになりたいという気持ちを生徒に持ってもらうことがとても大切だと思います。教室だけの改革でなく,外部社会とどのように教室が連携できるかということのアイデアを磨く必要があるのではないかと思いました。
少し長くなりました。失礼しました。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,続けて奈須委員。
【奈須委員】  よろしくお願いします。
今回の大臣諮問を見て,私はとてもショックを受けました。教育課程は,教育内容に関する計画ですので,「何を教え,何を学ぶか」ということを中心に議論するべきだろうと思いますし,今ほどの議論の中にもそれが中心的な課題であったと思うのですけれども,今回はそれにとどまらないのだと。「何ができるようになるか」,「資質・能力」という言葉で提起されていますけれども,ただ「何を知っているか」ではなくて,それを使って,意味のある達成とか問題解決,今の実社会との関わりということもそうですけれども,それができるようになることを明確に踏まえて教育課程を考えようと。これはとても大きな変化であり,斬新なことであり,委員の皆様の意見にも合致する方向性ではないかと思います。
また,そのためには「何を学ぶか」に加えて「どのように学ぶか」,「アクティブ・ラーニング」という教育の方法にまで踏み込んだ議論が必要ではないかという,これにも私はかなりショックを受けました。
現行の学習指導要領は,昭和33年の改訂のときに基本的な形ができているかと思います。33年改訂以降,基本的に各教科の示し方は,教科の目標,そして学年の目標,そして内容という形になっているかと思います。それは,やはり何を教え,何を学ぶか。つまり,何かを教え,何かを学んでいれば,ほぼ自動的にその知識を使って人間はよりよく生きていくのだという人間観,あるいは学習観,知識観に立ったものだろうと思います。
しかし,心理学や学習科学がその後進歩して,そういうことは余りないのだと。ある知識を持っていても,それが巧みに使われて的確な問題解決に行くまでにはかなり大きなギャップがある。だから,山ほどの知識を個々ばらばらに教えておいても,それでは十分ではない。これは,70年代以降,明らかになってきたことですので,その昭和33年の学習指導要領にそれが入っていなくても,それは不思議のないこと,無理のないことだろうと思いますけれども,ただ,そのままで基本的には現在まで来てしまった。「言語活動」とか「算数的活動」といった示し方がもちろん入ってきていて,随分,部分的には改革は進んでいますけれども,大枠は33年の構造のままで来ている。
これを今回どうするのか,示し方そのものを構造的に変える議論をするのか,そこまではせずに,もう少し下のレベルで議論をしていくのか,これは一つ,この部会で議論すべきことなのかと思います。
また,もう一つ,方法を示すということも33年改訂以降なかったことかと思います。33年改訂のときに,国は内容を細かく示す代わりに,方法については各現場に委ねるという形でやってきたと思うのですけれども,今回,方法に少し踏み込もうとしている。それはそうだろうと思います。個性を重視するのだということを画一的にたたき込むとか,主体的に学びなさいと上から教え込むことをしても何にもならないので,何らかの形で方法に踏み込むことが必要だろうと思います。それが「アクティブ・ラーニング」という言葉で一つ例示され,その意味合い内容をこれから詰めていくということだろうと思いますけれども,今,油井先生からお話のあったように,それが単なる手練手管,テクニックに陥っては本来の意味を果たさないのではないか,これはとても大事だと思います。方法を事細かに,また,余りに具体的に明確に示し,これでしなさいと言ったら,よく分からないけれども文部科学省が言うからそのとおりにしましたということになし,方法に踏み込むという趣旨がかえって実質化していかない,形骸化しかねないという御指摘だと思います。
いろいろな論点があると思いますが,一つには,どうするのかという具体的な方法論の以前に,なぜその方法が妥当化されるのか。つまり,それは,「そのように人は学ぶ」「そのように知識というものは成っている」ということの基盤が大事かと思います。
欧米のカリキュラム研究や開発の現状などを伺いますと,一つの共通基盤として,学習や知識についての科学的な理論をカリキュラム開発の共通基盤にして進めているということをよく聞きます。
つまり,例えば先ほどの,知識を持っていても,それはなかなか使われない。これは学習の「転移」という問題ですが,転移はなかなか起こらない。そして,どうすれば転移が起こるのかといった学習のメカニズムに関する心理学や学習科学を基盤にした共通的な理解の下に,何を教えるのかという議論をしていくことは,欧米では常識的になっていると伺いますけれども,日本も遅ればせながらそういうことが必要な時期に突入しているのかと。
また,そうすることによって,方法が単なる手練手管,型ではなくて,一つの原理としてこの国の全体に周知することができるだろうし,それとの関係でどのような知識を構造的にカリキュラムに組み込むのか。これが要るとか,これが要らないとかという議論だけではなくて,なぜそれらを入れることが資質・能力の育成,その教科の本質,油井先生が先ほどおっしゃったような,「なぜこれを学ぶと自分にとっていいことがあるのか」の意味の形成に貢献するような示し方,ある種の知識の構造のようなことを,学習や知識のメカニズムとの関係で議論する。かなり難しいことだと思いますけれども,欧米ではもうそういうふうに進めていると伺いますし,我々も頑張って勉強して,そういう方向に少しかじを切ることが必要なのかなと。いや,そうしないと,今回の大臣諮問の課題は十分には達成できない。かなり難しい話が出ていると思って,ショックを受けると同時に,頑張っていきたいと思っております。
【羽入主査】  ありがとうございます。
お待たせしていますが,山口委員,神長委員,渡瀬委員,今村委員,小川委員,それから品川委員,そして三宅委員,清水委員という順でよろしいでしょうか。
まず,山口委員からお願いいたします。
【山口委員】  短めに。筑波大学の山口と申します。
私は,恐らくこのメンバーの中では体育・スポーツが専門でございますので,そこのところを主に担うというか,発言を求められているのかと思っております。
2020年,東京オリンピック・パラリンピックが決まりまして,スポーツに対しての国民的な関心は高まっておりますけれども,そういった中で,学校教育の中で体育あるいはスポーツをどのように捉えていくかについてもっと議論されてもいいのかと思っております。
一つ言えることは,スポーツの関心は高まっているのですが,子供たちの運動する子・しない子の二極化は非常に進んでおります。今,「格差社会」と言われておりまして,勉強できる子は運動もできます。勉強が少し難しいと思う子は運動もできない。つまり,親がいかに子供に関心を持って運動も勉強も学校以外の場でも機会を与えるということです。こういった意味からいうと,学校体育の担う役割は非常に大きくて,少し見ていただきたいのですけれども,資料1‐3の25ページです。
下の図に「中学校女子」のグラフがあるのですけれども,報道はされているのですけれども,実は余り御存じない方も多くて,中学校女子の1週間の総運動量が60分未満の子が約30%近くいるのです。皆さん,1週間で60分未満ということは,1日10分しか動かないということなのです。これはもうゆゆしき事態です。
今,女性の健康寿命は世界の中でもトップですけれども,この子たちが将来大人になったときに現行寿命が保たれるか。高齢化に備えて中高年の人たちに運動しましょうとか歩きましょうということを一生懸命していますが,そこに行ってからではなく,やはり体力あるいは健康といった場面を,自分の体をコントロールするという基礎的な観念を教えるのはやはり学校体育,小さければ小さいほど効果があります。ですから,そういったところをやはり考えていかなければならないのではないかと考えています。
ですから,単にスポーツということではなくて,体育というのは,「教養としての体育」と私は考えているので,自分の体を考える。そして,他者との関わり。これはグローバルというところで言うと,他国との関わりということにも今は発展していると思うのです。オリンピックを見る,パラリンピックを見る,そしてワールドカップを見ることによって,世界を見ることができる。それで日本を感じる。やはり他者との関わりで自分を見るので,そういったことにもスポーツは大きく貢献できますし,そういったことをきちんと学校体育の中でやはり確保していくということがこれから更に必要になってくると思います。
また,2020年が決まりまして,スポーツ界もそこに責任の一端というか多くを担っているので,余り言えないのですが,あたかもそこがゴールのように「2020年を目指して頑張れ」と言っているのですが,私は,そこが出発点であり,そこから日本の新たな体育や,スポーツの文化を創っていく出発点だと考えておりますので,今回の学習指導要領の改訂においても,そういった考えを是非,体育といったところでは反映していただきたいと思っております。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,続けて神長委員。
【神長委員】  ありがとうございます。私も短めにと思っております。
私は国学院大学において幼稚園や保育園の先生になる学生に幼児教育を教えています。ですから,幼児教育の立場から,今回,発言させていただこうと思っております。
幼児教育というと,今一番話題になっているのは,やはり認定こども園等の幼保の一体化問題ではないかと思います。同時に,そういう議論の中に「幼児期の教育の在り方」が議論に上がってきて,幼児期の教育の重要性が再認識されているという現状があります。かと思っているのですけれども,私はそのときにいつも「質の高い幼児期の教育」という言葉を使っています。幼児教育と言うと,一般にいろいろな受け止め方がされているように思いますので,やはりここの議論の中では,いかにして質の高い幼児期の教育を広く提供していくかということを考えていくことが大事ではないかと思っております。
そのときに,今回の諮問事項にもありますように,幼児期の教育と,小学校とのいわゆるカリキュラムのつながりといいますか,教育内容のつながりは非常に重要なことかと思っております。これは,平成20年の改訂のときにも,「幼稚園教育は義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとして」という形で小学校とのつながりを意図した視点から改訂がなされてきています。
その後,実際に随分幼稚園教育も,小学校との連携,幼保・小との連携という形で拡大してきておりますので,いろいろなところで幼児と児童が交流する場面とか先生方が交流する場面などが増えてきました。やはり発達や学びを連続して捉えていくことの大事さ,もちろん,幼稚園教育と小学校教育とにおいては教育課程の考え方や編成の仕方にそれぞれ尊重すべき違いがありますけれども,そこを一貫して見ていくことの大事さが,ここ何年か,平成20年の改訂以降のいろいろな各地域の幼保・小の取組の中で議論されてきているのではないかと思っています。
ここでは幼稚園だけではなく,保育所であったり認定こども園であったり,そういう広い視点から幼児期の教育の充実を考えていくべきではないかと思いますので,是非,この部会において小学校との連携,特に教育内容等のつながりにつきまして議論していただければと思っております。
そのときに,やはりそれぞれの発達段階に応じた教育ですから,幼児期の教育におきましては,環境を通して行う教育を基本とするということで,小学校以上の教育のような教科等の学習とは少し異なっているわけですから,やはりそれぞれの発達段階に応じた教育でありながら,かつ,そこを一貫していく教育の在り方を,つまり前倒し的に考えるのではなく,積み上げていくような形でこの接続の在り方が議論できるとよいのかと思っております。
そのときに,今回の諮問事項にもう一つあります,皆さんの御意見の中にもあります「アクティブ・ラーニング」という言葉ですが,幼児期の教育の場合はいわゆる主体的な活動としての遊びを通じて総合的に指導するという形で展開しておりますので,そういう意味では大変主体的な活動を教師が誘う,確保することを行っているわけですけれども,課題は,そこの中で子供たちがどのようなことを身に付けながら,どのようなところが今正に発達しながら次の段階に行こうとしているのかということを見極めていく目という,評価につながることですけれども,そういったことをきちっと見届けながら,次の小学校教育に送っていくことが大事ですので,幼児期に身に付けておくべきことをしっかりと伝えていける,教育課程の在り方を考えていくことが大事かと思っております。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,大変長くお待たせしています,渡瀬委員。
【渡瀬委員】  渡瀬でございます。よろしくお願いいたします。
私は,もともと小学校の教員でした。25年間ほどやっておりましたけれども,その後,今は幼稚園から高等学校までの全体を統括する部署におります。それで最近,幼稚園の子供たちから高校生までを見るようになりまして,何となくその様子が見えてきたところです。そこで3点,発言させていただきます。
一つ目は,先ほど,「アクティブ・ラーニング」をするにしても,そもそも前向きに学ぶ気持ちがなければ駄目だという指摘が油井委員からございましたけれども,正にそうだと思います。
それで,やはり前向きに学ばせるためには,先ほど大杉室長からの御説明の中にもありましたように,自己肯定感を身に付けさせていかなくてはいけない。そうすると学校での評価の在り方がとても問題になってくると思います。
私は幼稚園児から高校3年生までを見ていて,やはり10歳ぐらいまでのところに一つ大きな壁があって,その辺りまでに子供たちが達成感ですとか自己肯定感を持てるかどうかがその後につながると思います。自己肯定感を育むために,評価は,今は先生から与えられるものという感覚が強いですけれども,評価をする段階で,何がどこまでできたらこういう評価なのだという評価の規準(基準)を設定するところから子供たちが関わることができるような自己評価ですとか,子供たちが評価を自分で獲得していくというような,そういう評価の在り方が,今後,検討されるとよいのではないかと思います。
2点目は,「アクティブ・ラーニング」ですけれども,世界に通用する人材が日本で必要で,そのために大学で「アクティブ・ラーニング」が提唱され,そのためには中等教育や初等教育でも,という話だと思います。ただ,小学生に「考えなさい」と言っても,なかなか考えられないのです。それは,考えるすべがない。何をどう考えていいか分からないということなので,やはり思考するためのスキルを今度の学習指導要領の中ではある程度教えていく必要があるかと思います。
奈須先生から,その方法や学び方をこの学習指導要領の中で示していくことについてお話がございましたけれども,もちろん,方法を示すと,それだけに振り回されて,それをやればいいとなる危険性がありますので,そこは気を付けなくてはいけないと思います。ただ,それでもベースになる思考スキルの在り方,どういうふうに物を考えさせていくか,分類するとか,比較するとか,そのような指導は必要だと思います。例えば先ほど神長委員から質の高い保育についてお話がございましたけれども,先日,私どもの幼稚園で,5歳児が教材のボタンを1人100個ぐらいずつ机の前に与えられて,それをどうでもいいから仲間分けしてごらんという課題をやっていました。
そうすると,子供たちは,いろいろな分け方をするのです。色で分ける子,形で分ける,大きさで分ける,穴の数で分ける,そしてそれをそれぞれが説明していくのです。子供たちは遊んでいるのですけれども,それは明らかに質の高い学びではないかと思いました。そういうところで分類をする仕方ですとか,比較の仕方などを子供たちに学ばせていく必要性を感じます。その意味では,IBのカリキュラムなども参考になってくるかと思います。
3点目,英語に関してです。先ほどキャンベル先生から「英語と日本語を切り離さずに」というお話がありましたけれども,私もそれに賛成です。
もちろん,日本語をないがしろにはできません。ただ,私たちは幼稚園の子供たちにも英語のプログラムを提供していますけれども,子供たちが理屈抜きで早い時期に身に付けていく部分がございます。それは,もちろん後になってからでもできるとは思いますけれども,早いうちから身に付けていると,先々で有利なことが多いと思います。
それともう一つ。物の考え方と言語の結び付きは非常に強いものがあると思います。英語的に物を考える,例えば結論が先にあって,その理由を述べていくのか,ずっと順番に言っていて最後に結論が来るのかというようなことも,日本語と英語の中に少し違いがあったりします。そういうものに何となく理屈抜きに小さいうちから慣れ親しんでいくようなことができたら,それはそれでとても有利ではないかと考えます。
ありがとうございました。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,今村委員。
【今村委員】  私は,14年前の2001年,大学卒業と同時に,中高生のキャリア教育の分野に対して,社会資源としての若者たちを斜めの関係で参画させていくことにより,中高生の学ぶ意欲と自己肯定感を取り戻していけるような語りの場を,学校教育の中に取り入れていく取組に継続して取り組むNPO法人を経営してきました。
2011年の東日本大震災以降は,宮城県の女川町と岩手県の大槌町に住居を移しまして,そちら2拠点を行き来しながら,地域の教育行政の方々と一緒に社会資源としての遠方の支援者,地域の方々をどのように活用し,学校の教育力を上げていくのかという命題に取り組んでおります。教育課程を検討する専門家ではないので,もしかすると少し議論のポイントが違うところもあるかもしれませんが,私の立場からの気付きを,申し上げさせていただきます。
まず,今回の大学入試改革に際しまして,私はとても大きな希望を感じております。様々な批判があることは前提ですけれども,これまで社会の要請に応える改革を進めてこられなかったのは高等学校の学習だと感じており,その理由が,センター入試の存在に原因があると思っておりました。入試が変われば高等学校の学習内容を変えていける,今回の入試改革が,高等学校の学びを社会と接続した在り方に,アグレッシブに変えていけるのではないかということを素人ながら非常に感じています。
これまで,岩手県の大槌町と宮城県の女川町という,東日本大震災で町が流出し,なくなってしまった場所において,現地の中学生・高校生とともに,町の課題を捉えて何らかのチャレンジを行うプロジェクト型学習を行ってきました。地域が抱える困難さは,確かに尋常ではありません。女川町は人口減少率日本一になってしましました。しかしその困難さときちんと向き合うことこそ,教育の力にしていけるのではないか,生徒たちが当たり前に享受していた様々なものが一瞬にしてなくなってしまったという現実を,教育的チャンスに変えていきたいと考えました。生徒たちがどのように課題をとらえ,チャレンジ目標を設定するか。どのように地域の方々と合意しながら,どのような社会資源を調達し,取り込んでいくか。自分の主体性から始まるプロジェクト「マイプロジェクト」を町で担うことによって,実際に進む復興を横目で見ながら,まちづくりの過程に参画する機会も得ました。しかし,これらの取組を行う上で,常に難しかったのは,高等学校の先生方との関係性でした。
これは,被災地のみならず,普遍的にどこででも起きていることなのかもしれませんが,高等学校の先生方から見ると,生徒たちが学校の外で大人たちと取り組みを行うということはアンコントローラブルなことであり,リスクであるという印象を持たれるようです。それは,教育の主体は常に学校であらなければいけないという,使命感ゆえのリスク感なのかもしれません。しかし,生徒を課題解決型人材に育てていく過程において,現実の社会と接続することは,創造性や社会性を育む機会になります。今こそ,学校に教育を丸投げしない,みんなで教育を支える方針に変えていくべきではないでしょうか。
今回のこの議論を機会に,もっと先生方が安心して外の人たちと手をつなげるような仕組みを検討したいと考えます。そのようなことを踏まえることによって,今,この社会の中で起きている様々な「未解決の困難さ」を,教育に活用することで,生徒たちの学ぶ意欲を引き出せることができるのではないかと思っております。
これらの観点は,特に普通科進学校にこそ導入した方がいいと思っております。グローバル観点を持ったリーダーになりなり得る可能性がある人たちは,やはり進学校からたくさん輩出されています。しかし,地方地域を見てみると,高校までは地域で過ごし,大学進学とともに地域の外に出た若者たちは帰ってこない。優秀な子ほど結果的に帰ってこない現実を見据えると,子供たちに,生まれ育った地域と向き合わせる機会が高等学校までの間に乏しいので,地域の魅力に気付くこともなく,外に出て東京の方がいい,スタバがある町の方がいいということになってしまうわけなのです。全員が地域に帰るべきとは思いません。人の人生に対する選択権は個人にあります。私が申し上げたいのは,フェアに選択肢を提示したいということです。高等学校段階までで,地域の課題を知り,それと深く関わる機会を持つことで,学ぶ意義と選択肢を地域と結び付いたところに見いだす生徒もでてくるのではないかと思うのです。
私が生活した大槌町や女川町で,地域の課題と向き合う機会を持った子供たちは,最終的にどうなるかは分かりませんが,町に対する当事者意識と自分の生きてきた町に対する感謝をしながら卒業していきます。世界に学びに行って,成長してまた故郷に帰るということを,いつかの目標にしている生徒たちの言葉も多く聞きます。
以上を踏まえまして,身の回りの困難さをきちんと学校教育がチャンスに変えていくように使っていける仕組みづくりを検討したいと思っております。
私からは以上になります。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,小川委員,お願いいたします。
【小川委員】  よろしくお願いします。小川です。
私は,小学校の立場で生活・総合を長らく研究してきた視点で一つ,それから,現場の素朴な声として一つ,お話ししたいと思います。
まず,今回の頂いた資料の中にも,審議事項の柱の中に「課題の発見・解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」,その中に括弧して「アクティブ・ラーニング」となっていますけれども,この学びは,これまで総合的な学習の時間で大切にしてきた学びの姿だと思います。
今日配っていただきました補足資料の中にも,探究的な学習における児童・生徒の学びの姿として29ページに載せていただいているのはとてもうれしく思いましたけれども,これが総合の成果だけではなく,これから教科の学びに広がっていくのだと,とてもそれを期待しておりますし,喜ばしいことだと思いますし,それが今後の骨太の学力向上にきっとつながっていくのではないかということで,皆さんと議論させていただくことを楽しみにしています。それが1点です。
それともう一つは,小学校という6年間,この場で恐らく皆さんと一番御年輩の方と一番若い方の年齢差はもしかして20とかあるかもしれませんが,そういう中であっても,年齢差を気にせずに議論ができる,これが普通の社会ですが,小学校の6歳から12歳,この子たちを前にして例えば全校朝会をするときに,どこに視点を当てて話をすれば誰もが飽きずに聞けるか,何を言いたいかというと,発達段階が非常に目まぐるしい。身長でも三,四十センチ違ってくるわけです。
例えば先日も,校長室に1年生の男の子が私に用事があって来たのですが,来客中でしたので,「悪いわね,次の休み時間に来てください」と言ったのです。すると,その男の子は困った顔をして「校長先生,僕には1時間目の休み時間と,2時間目の休み時間と,3時間目の休み時間と,お昼休みしかないのです」と。「次の休み時間」というのは彼にはないと。要するに,それは言葉を理解できない。「あ,そうか」と,もう日々,そういうふうに感じている中です。
何が言いたいかというと,そういう「小学校」という大きなくくりではなく,随分細やかに,生活科が始まったことで細やかに見ていただけるようになってきましたが,是非,今後,先ほど神長委員もおっしゃっていましたけれども,幼小の接続,それから低学年教育の改善,また,それから中学校とも小学校はつながっておりますので,そういった校種間の連携,接続,一貫,そういったところなどをこういう広いお立場でいらっしゃる皆さんと議論させていただければ有り難いと思っております。
以上です。
【羽入主査】  大変お待たせしておりますけれども,品川委員,三宅委員,清水委員,牧田委員の順で,恐縮ですが,2分ぐらいで。
【品川委員】  了解いたしました。
発言の機会を頂きまして,ありがとうございます。教育ジャーナリストの品川と申します。
私は読み書き,計算推論記憶が苦手だったり勉強ができなかったり,いじめや不登校,引きこもりからさらにはリストカットや摂食障害など自傷する子供・若者たち,あるいは虐待や家庭内暴力,薬物依存,非行など反社会的行動をとる子供・若者たちなど,生得的要因や環境要因的など幾つものリスク要因が重なって不適応を起こす子供・若者たちを20年以上取材しております。子供・若者たちだけでなく,保護者や先生方,また家庭や教育現場を,さらには社会に出てから不適応を起こす人たち,下は10代20代から上は40代50代の方々まで全国各地で取材しております。
全国各地と申しますのは,例えば一昨日は北海道の道央に住んでいる高校生たちに講演を行ったり,ワークショップをやったりしておりました。昨日は静岡在住の30歳を過ぎてから自分は読み書き障害ではないかと気付いたという青年から連絡をもらい取材をしておりました。この方は,読み書きができないことは自分の頭が悪く努力も足りないからだとずっと思っておられて,学校でもさんざん怠けていると叱られ,そのうち「自分なんか学校へ行ったってしようがない」と考えるようになってどんどん暴れていき,少年院にも入ったことがありました。今では反社会的行動は取りませんが,読み書き記憶が苦手だと本当に仕事がなく,言葉では言い表せない苦労をなさっておられます。
このように取材を続けておりますと,勉強ができるとかできないとか,不適応を起こすとか起こさないとかは,家庭が貧困だからとか,裕福だからとか,あるいは親が教育熱心だからだとか子供に興味がないからというような要因だけでは決まらず,もう少し総合的に,システム的に分析し考えていく必要があると実感いたします。
ただし共通して言えることもございます。それは社会に出る前に学ぶべきことを学んでいない。あるいは,学ぶべき時期に学ぶべきことを学んでおらず,積み残したまま社会に出てしまっているケースが少なくないということです。例えば幼稚園であれば,幼稚園のときに個々の発達課題や教育的ニーズを踏まえて,何を学ばなければいけないか。「体がしっかり使える」とか,「しりとりができて音韻の理解がある」とか,そういった学習の土台となるようなスキルが身に付かないまま小学校に行ったとき,じっとできないとか読み書きの習得がしんどくなるという状態像になったとしても不思議ではありません。
つまり,不適応の背景には何らかの未学習や不足学習,そしてもう一つ大事なのは誤学習,誤解した間違った理解のまま学習が定着している場合がありうるのです。そういったことから,不適切な行動を積み重ねて,結果的に逸脱してしまう子供・若者たちをずっと見てまいりました。ですが,最初から勉強ができなくてもいい,社会のルールなど守らなくてもいいと思っている子供・若者はいないということも取材を通して痛感しております。
そういったことが背景にございますので,この会議では,三つの観点から発言していきたいと今のところは考えております。
一つは,そういった逸脱,つまり反社会的行動と,非社会的行動の両方が含まれますが,それを予防する学問,すなわち犯罪学なのですけれども,犯罪学には逸脱を防ぐエビデンスがございます。犯罪学理論はリスク要因と保護要因という観点から逸脱を予防するというのが世界的潮流であり,そういった視点を教育課程の検討時に参考にしていくことが今後の変容し変動する社会を生きる子供たちのためには必要だろうと考えます。
少しだけ説明しますと,リスク要因とは少年が逸脱する可能性を増すもので,保護要因とはリスク要因による被害の効果を減少させるものをいいます。先ほど自己肯定感と油井先生がおっしゃっておられましたが,例えば保護要因の中には社会性がある,問題解決能力がある,自己効力感がある,あるいは我慢する性質があるとか,将来を楽観するなど,先生方がおっしゃっておられる要素は全部入っております。
また,リスク要因の中には学力が低いとか,読み書きがしんどいとか,攻撃性があるとか,衝動性があるとかセルフコントロール力が弱い,ルールに価値を見いださない,学校で孤立する,教師との関係の失敗など,我が国の教育がこれまでも視野に入れて指導してきたようなことも全部入っております。
そういったリスク要因,保護要因が個人,家族,学校,地域,そしてその子が所属する集団の仲間たちと5領域に細かく分かれてございますが,犯罪学は変えられる動的なリスク要因は少しでも軽減させ,保護要因を充実させて最終的にレジリエンシー,つまり社会を生き抜く力を付けさせることが逸脱から回復させ,将来の社会不適応を予防すると証明しています。そういったエビデンスのある犯罪学理論を教育課程の検討時に参考にしていくかということがいじめや不登校,学力低下,ひいては引きこもりやあるいは反社会的行動の予防だけでなく,自立して社会に参加し,そして社会貢献できる子供たちを育てていくことにつながると考えます。
二つ目は,冒頭でもお話ししました発達障害の問題です。御存じのように,義務教育課程の子供たちは年々減っているにも関わらず,この間の調査でも発達障害を含めて特別支援教育のターゲットになる子供たちは倍々になっております。今,全国での特別支援学校で子供があふれているという状況もあります。
そういった現状や発達障害という特性を踏まえ,さらにはインクルーシブな教育制度の実現を考えましたときに,障害の有無で特別支援学校か通常の学校かと分ける二極的な考えには限界があると考えます。障害種別の指導は言うまでもなく大事ですし,何らかの生得的な課題があればあるほどより高度で専門性の高い指導が必要なことは言うまでもありません。ですが,通常学級内にいる教育的ニーズのある児童生徒のことを踏まえれば,教師の教育観のパラダイムシフト,そこに基づく組織経営や指導法,評価の多様性の導入は必至です。さらには学習レディネスを踏まえた教育課程を作っていくとか,あるいは通級にしても,障害種別はもちろん大事ですが,行動面や社会性,言語技術,それからもう一つ大事なのはワーキングメモリーですけれども,ワーキングメモリーなど,将来の自立と社会参加を踏まえ,障害診断の有無に関わらず個々の教育的ニーズに応じたトレーニングを受けられる学びの場の設置が必要だと考えます。
三つ目は現状不十分と言いますか徹底されていないという点に規範教育,規範意識のかん養があると考えます。犯罪学のいう規範意識は,社会のルール,倫理,道徳を守るという狭い意味だけではありません。生活,言語,感情,行動と発達課題の全てが入ってきます。
先ほど,山口委員がおっしゃっておられた体育も犯罪学では生活や行動のコントロールにつながる大事な要素です。キャンベル委員がおっしゃっておられた言語は規範意識の土台を作っていくものです。かように,規範意識を育てるということは変容し変動していくこれからの社会を生きる子供たちには大変重要と考えております。
最後に,英語教育につきましては,私自身が小学校2年生から6年生までアルファベットが何一つ分からないまま渡米し,そのまま現地校に入って言葉で大変苦労して育った経験がございまして,その経験からも第二言語は大事ですが何よりまずは母語でしっかり吟味し思考し表出し表現できる力を育てることが重要必須だと考えます。そういった観点からも規範教育の重要性を痛感しているところです。
以上です。どうもありがとうございます。
【羽入主査】  ありがとうございます。
三宅委員。
【三宅委員】  いろいろな課題が出てきたと思うのですが,今回,議論したいことの柱が,学習方法や評価の在り方に関する議論ということですので,これ自体を考える立場のようなものを議論できたらいいのかと思っています。お聞き苦しくて申し訳ありません。
例えば,自分が知りたいことを考えてみて,自分なりの答えを出すというやり方,「考える力」ですけれども,これは教えてあげないとできないことなのか。
あるいは,子供たちが,日常生活でハイハイをし始めた頃から,もっと早いかもしれませんけれども,本来生まれ持っている力なのか,どっちだと考えるかで,相当,今回の扱い方が違ってきます。
教えなければいけないのなら,それをどうやって,いつ頃教えるかみたいな話になるのですけれども,本来できる力だとすると,今までどのようなやり方でその力が自然に開発されるように,そしてそれを何度も経験していくように授業がつくられてきたかというような別の考え方ができます。この辺を整理して,「アクティブ・ラーニング」と呼ばれているものがどう実践され,どう評価されてきているのか,私たちはどうしたいのかということを議論できたらいいのではないかと思っています。
ここ5年間ぐらい,実践ベースで約20の教育委員会とこういう形で普通の授業を小学校1年生から高校3年生まで,今の教科書を使ってどうやってやるかということを先生方と考えてきた中で,簡単に見えてきたことは,「あなたはどう考える?」と聞かれて答えがないとか何も言いたくない子は,ほとんどいないのです。自分が教えている子が「あなたはどう考える?」と言ったときに,聞いたことがないから分からないけれども,少しその子が何を言うのかを聞いてみたくないと思っている先生もいないのです。
では,こういう観点をどうやってこれからの学習指導要領の中で生かして,個が一人一人の学習者として自立していくのかというようなことが議論できるための立場というか考え方のベースが議論できたらいいのではないかと考えております。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,清水委員。
【清水委員】  埼玉県教育局の清水と申します。よろしくお願いいたします。
私は,もともと工業高校の教員ということで,専門学科であるとか職業教育,そういった観点から意見が求められているのかとも感じておりますが,今現在の高度経済成長の頃たくさんできた専門高校,この役割から,時代はどんどん進展していって,専門高校の教育そのものが大きく変わらなければならない時期を迎えているのではないかと考えております。
例えば,経済が成長すればするほど,学校で教えている基礎・基本との隔たりが大きくなっています。高等学校で習った内容がそのまま社会で役立つかどうか,求められていた即戦力であるとか中核的な役割を持った生徒をきちんと輩出できているかというような大きな課題を抱えている。
そういったところについていろいろ考えなければいけないとは思ってはいるのですけれども,今回,機会を与えていただきまして,私としてお願いしたいことは,もっと社会とのつながりであるとか,地域とのつながりであるとか,教科間のつながり,中高,高大のつながり,こういった様々なつながり,絆(きずな)をしっかり持った教育課程が出来上がると,非常によいものが出来上がっていくのではないか。これが輪切りにされて義務教育は義務教育,高校教育は高校教育,大学の教育は大学の教育というような切り口ではなくて,これが一連とした,今回いろいろ図でも示していただいていますけれども,これが現実のものとなったときには非常にすばらしい教育課程が出来上がっていくのではないかと感じております。
もう一点申し上げたいのが,埼玉県では,三宅先生の御支援のもと知識構成型ジグソー法という協調学習の手法を使った「アクティブ・ラーニング」にここ5年取り組んでおります。埼玉県は139校もの非常に多い高等学校を抱えていますが,当初,10校程度の研究指定校であったものが,現在ではその半数以上の88校がこれに取り組み始めています。
これは,希望する学校を研究指定校にするというやり方で進めておりますが,年々増えていって,今現在では先ほど申し上げた88校・276名の教員にこの研究に取り組んでいただいている。
私も教員ですが,教員は変化を嫌います。大きな変化があると,また仕事が増えるのではないかと非常に嫌うのですけれども,これはすばらしいと思ったら,のめり込むように取り組みます。
そういった意味で,今,活動している教員も,最初はどうかと思っていたところが,活動を進めていく中で手応えを感じて,今後も頑張っていこうと思う教員が増えている。今回の諮問に対して,ある意味,追い風を受けてもっとやる気になっているのではないかと考えております。
今回のこの諮問がしっかりと教育課程に組み込まれて,すばらしい教育課程が組み上がるといいと考えております。どうぞよろしくお願いします。
【羽入主査】  ありがとうございます。
残り時間が少なくなったところで申し訳ございません,三浦委員,牧田委員──牧田委員の方を先に私は申し上げたかもしれません。
【牧田委員】  福井県の教育研究所から参りました牧田と申します。よろしくお願いいたします。こういう一緒に考える機会を頂きまして,大変ありがとうございます。
大きく2点お願いします。諮問内容を見まして,すごく中身まで踏み込んだ内容で,大賛成です。すばらしいと思います。よくこういう内容を出していただいたと。学習内容だけでなくて,「どういう力が身に付いたか」という資質・能力のことにまで踏み込んだのは,我々,現場として見ても,「我が意を得たり」というところです。
ですが,一方で,それは私などは当たり前のように思ってやってきました。内容だけでなくて,入試が終わってもこういう力が残っていて,それを社会にどう使うということを念頭にやっていたのです。しかも,今の学習指導要領にもそういうことは結構述べられているのです。これを活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力だとか,主体的に学習に取り組む態度だとか,問題解決的な学習だとかと,いろいろ盛り込まれているにも関わらず,なかなか学校現場がそこに追い付いていっていないという印象を私は受けるのです。学習に対してネガティブなイメージが他国に比べて強いというようなことからもそれがうかがえるわけです。
では,学校現場はどうなっているのかといいますと,先ほどからもお話がありましたが,「基礎力」と「活用力」のどちらに振り子が振れているのだとか,観点別評価はどういうふうに評価していくのかということが次から次へと出て,本当に今,求めていきたい資質・能力を培ったような形の評価であったり,方向性であったりというところにうまく追い付いていないという状況だと思うのです。
今の観点別の評価ですと,これからここで恐らく議論になるであろう求めたい資質・能力がうまく測れるのか疑問で,学校現場は新しい一つ一つのことに対応していこうとしていきますので,それに追い付かない。
したがって,今までやっている学校現場のいろいろなことの財産を取り壊さずに,いいところを伸ばして,屋上屋のようにならずに,抜本的に発展的解消であったり,発展的統合のような形で大きく示したりしていただけると,すごく学校現場は動きやすいと。シンプルにしていくべきなのだろうと私は思っています。
2点目は「アクティブ・ラーニング」のことについてですが,子供の学習動機のことはもちろん,ほかの委員の方がおっしゃるように私も同感なのですが,授業者自身も,「アクティブ・ラーニング」についてどれだけその意義を見い出しているかということも重要かなと思います。これは何のためにやっているのかと。
今もいろいろな意味で「アクティブ・ラーニング」のようなものが授業で行われています。けれども,それはどういう目的でやっているのか。授業者は何を子供に動機付けさせて,どこを目指してやっているのかという意識だけで随分変わってきますので,なるべく方法論にならないように,学校現場の先生方の自律性を発揮できるような形で議論が進められたらと思っています。
以上です。
【羽入主査】  ありがとうございます。
では,三浦委員,お願いいたします。
【三浦委員】  重い課題を抱える福島から参加しております。
震災以降,OECDと連携して地域の子供たちを復興の担い手として育てる国際プロジェクトを進めてまいりました。その中で,生徒たちは様々な経験をして成長したわけなのですけれども,その成長の尺度は,OECDのキー・コンピテンシーに基づく尺度を設けて評価してきたのですけれども,詳細はここでは申し上げませんが,一つだけここで申し上げたいのは,その子供たちが一体自分たちの能力の成長にどういったことが役立ったのかを問うたときに,一番大きく生徒たちから出たのは,他地域の生徒との交流を挙げました。二つ目が,自分の地域の未来に対する議論と活動を挙げました。三つ目に多かったのは,他学年あるいは異世代の人たちとの交流,そして四つ目が地域社会の方々との交流を挙げていました。
このことは,いわゆる「アクティブ・ラーニング」を考えたりとか,あるいは新しい学校を考えたりするときに,とても重要な参考になるのではないかと思いまして発言させていただきました。
以上です。
【羽入主査】  ありがとうございます。
髙木委員がまだ御発言がありませんが。
【髙木委員】  今回の最大の課題は,学制ができて70年たって日本が敗戦し,敗戦から70年たって変わってくるという,ちょうど70年の節のときに,学力と,それから今までは評価というのは値踏みをしていた評価を,子供たちをどういうふうに育成していこうかという観点からの評価観の転換になっていく,そういう形の中で,今回の教育課程の改訂ができればいいと思っています。
以上です。
【羽入主査】  ありがとうございます。
大変不手際で少し時間が押してしまいました。委員の皆様から貴重な御意見を頂きましたのは,この問題の重要さと,それから,私どもがそれにどのように熱心に取り組むべきかということの御示唆ではなかったかと思います。
私が非常に独断的に先生方の御発言を今,五つにまとめさせていただきます。
一つは,教育現場が社会と,そして世界とつながっていることを認識する必要があるだろうということ,それから二つ目には,発達段階や成長過程を考えた縦軸の「つながり」という言葉でもおっしゃってくださいましたけれども,それがやはり縦軸をつなげることが重要ではないかと思われたことです。
三つ目は,社会の急激な変化,ICTを基にした質的な変化に対してどのように対応するか,それは最初の頃の御議論にございましたけれども,加速的な変化であることを意識して,それにどう向かうかということです。
それから四つ目は,評価の問題が同時に関わってくるであろうということ。さらに,この学習指導要領を新たに考える場合に,構造としての学習活動の示し方についても議論するのかどうかというようなことがあるかと思います。
今,大まかなことを申し上げましたけれども,先生方の御発言は恐らく時間の制限の中で一部分の御発言になったのではないかと思います。お考えが多々おありと思いますので,事務局に後ほどお送りいただきましたら,大変有り難く存じます。
また,次回はヒアリングを用意しておりますけれども,この部会でヒアリングをするのがよろしいのではないかというお考えがありましたら,その候補の方なども御推薦いただければと思います。

予定していた時間を過ぎてしまいまして,大変恐縮でございます。
では,議論はここで閉じさせていただき,事務局から御連絡をお願いいたします。
【大杉教育課程企画室長】  ありがとうございます。事務局説明が押しまして,大変申し訳ございませんでした。
次回,第2回会議は2月12日,木曜日の10時から文部科学省3階3F1特別会議室において開催を予定しております。
なお,主査からお話がございましたように,ペーパー,メールによる御意見,またヒアリング候補者の御提案等も頂戴したいと考えておりますので,よろしくお願いいたします。
【羽入主査】  どうもありがとうございました。
それでは,本日の教育課程企画特別部会をこれで終了させていただきます。御協力,誠にありがとうございました。

── 了 ──

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