資料4-4 論点に関する過去の中央教育審議会等の答申(抜粋)

論点に関する過去の中央教育審議会等の答申(抜粋)

【1】高等学校から大学までを通じて育成すべき力 

○学士課程教育の構築に向けて(答申)(平成20年12月24日中央教育審議会)

第2章 学士課程教育における方針の明確化
第1節 学位授与の方針について~幅広い学び等を保証し,21世紀型市民にふさわしい学習成果の達成を~
(4)具体的な改善方策
【国によって行われるべき支援・取組】
◆ 国として,学士課程で育成する21世紀型市民の内容(日本の大学が授与する学士が保証する能力の内容)に関する参考指針を示すことにより,各大学における学位授与の方針等の策定や分野別の質保証枠組みづくりを促進・支援する。

各専攻分野を通じて培う学士力
~学士課程共通の学習成果に関する参考指針~
1.知識・理解
専攻する特定の学問分野における基本的な知識を体系的に理解するとともに,その知識体系の意味と自己の存在を歴史・社会・自然と関連付けて理解する。
(1)多文化・異文化に関する知識の理解
(2)人類の文化,社会と自然に関する知識の理解
2.汎用的技能
知的活動でも職業生活や社会生活でも必要な技能
(1)コミュニケーション・スキル
日本語と特定の外国語を用いて,読み,書き,聞き,話すことができる。
(2)数量的スキル
自然や社会的事象について,シンボルを活用して分析し,理解し,表現することができる。
(3)情報リテラシー
情報通信技術(ICT)を用いて,多様な情報を収集・分析して適正に判断し,モラルに則って効果的に活用することができる。
(4)論理的思考力
情報や知識を複眼的,論理的に分析し,表現できる。
(5)問題解決力
問題を発見し,解決に必要な情報を収集・分析・整理し,その問題を確実に解決できる。
3.態度・志向性
(1)自己管理力
自らを律して行動できる。
(2)チームワーク,リーダーシップ
他者と協調・協働して行動できる。また,他者に方向性を示し,目標の実現のために動員できる。
(3)倫理観
自己の良心と社会の規範やルールに従って行動できる。
(4)市民としての社会的責任
社会の一員としての意識を持ち,義務と権利を適正に行使しつつ,社会の発展のために積極的に関与できる。
(5)生涯学習力
卒業後も自律・自立して学習できる。
4.統合的な学習経験と創造的思考力
これまでに獲得した知識・技能・態度等を総合的に活用し,自らが立てた新たな課題にそれらを適用し,その課題を解決する能力

○新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(答申)(平成24年8月28日中央教育審議会)

2.検討の基本的な視点
(初等中等教育から高等教育にかけて能力をいかに育むかという視点)
(略)
国民一人一人の主体性と協調性が要請される成熟社会たるべき我が国の社会においては、単なる知識再生型に偏った学力、自立した主体的思考力を伴わない協調性、他者の痛みを感知しない人間性は通用性に乏しい
学士課程答申は「各専攻分野を通じて培う学士力」を「参考指針」として提示した。今、重要なのは、
・知識や技能を活用して複雑な事柄を問題として理解し、答えのない問題に解を見出していくための批判的、合理的な思考力をはじめとする認知的能力
・人間としての自らの責務を果たし、他者に配慮しながらチームワークやリーダーシップを発揮して社会的責任を担いうる、倫理的、社会的能力
・総合的かつ持続的な学修経験に基づく創造力と構想力
・想定外の困難に際して的確な判断をするための基盤となる教養、知識、経験
を育むことである。これらは予測困難な時代において高等教育段階で培うことが求められる「学士力」の重要な要素であり、その育成は先進国や成熟社会の共通の課題となっている。

次代を担う若者にこのような能力を身に付けさせるためには、学校制度全体を、従来からの組織や形式の観点からではなく、プログラム*1中心・具体的な成果中心の観点から見直すことが必要である。また、人間としての自らの責任を果たし、他者に配慮しつつ協調性を発揮できるための倫理的、社会的能力を身に付けられるようにするとともに、答えのない問題に対して自ら解を見出していく主体的学修の方法や、想定外の困難に際して的確な判断力を発揮できるための教養、知識、経験を総合的に獲得することのできる教育方法を開発し、実践していくことが必要である。すなわち、成熟社会において職業生活や社会的自立に必要な能力を見定め、その能力を育成する上で初等教育、中等教育、高等教育それぞれの発達段階や教育段階において有効な知的活動や体験活動は何かという発想に基づき、それぞれの学校段階のプログラムを構築するとともに、教育方法を質的に転換することが求められている
*1 身に付けるべき能力を育成する課程。大学においては、修了者の能力証明として発展してきた学位を与える課程(「我が国の高等教育の将来像」平成17年1月28日中央教育審議会答申(※審議会情報へリンク)。
 

【2】高等学校と大学の接続の在り方 

○初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)(平成11年12月16日中央教育審議会)

第4章 初等中等教育と高等教育との接続の改善のための連携の在り方
 第2節 基本的な考え方
 初等中等教育と高等教育の接続を考えるに当たっては、とかく入学者選抜に焦点が当たりがちである。しかし、高等学校卒業者の約7割が何らかの形の高等教育を受けている状況の下で、これまでのようにいかに選抜するかという視点よりもむしろ、学生がいかに自らの能力・意欲・関心に合った高等教育機関を選択するか、あるいは、大学が求める学生を見いだすか、特に、今後はいかに高校教育から高等教育に円滑に移行させていくかという観点から、接続の問題を考えるべきであって、入学者選抜の問題だけではなく、カリキュラムや教育方法などを含め、全体の接続を考えていくことが必要であり、初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて、一貫した考え方で改革を進めていくという視点が重要である。
第5章 初等中等教育と高等教育との接続を重視した入学者選抜の改善
 第2節 入学者選抜の現状と改善の方向
 (2)入学者選抜の改善方策を検討するに当たって
 入学者選抜の改善で目指すべきは、誰もが志望する大学に入れるようにすることではなく、大学と学生とのより良い相互選択を図り、学生の大学教育への円滑な移行を実現することにある。これは、大学側から見た場合、選抜方法の改善により、当該大学(学部・学科)の教育理念、目標に適した資質を持つ学生を見いだすかということである。また、受験生から見た場合は、他者との相対的な優劣を競い、少しでも「よい大学」へ進学することが目的ではなく、明確な目的意識の下に、大学入学後の教育につながるような学習を行い、自己の能力、適性、意欲、関心に最も適した教育を受けられる条件を備えた大学(学部・学科)を選択することである。
(中略)各大学の入学者選抜においては、これまで重視されてきた選抜機能のみならず、入学者選抜により幅広い能力や適性を評価するあるいは入学者選抜の結果を大学での入学後の教育に生かすという視点が重要であり、受験生に求める能力、適性をどのように評価するのか、それが大学における学習とどのような関連にあるのかを明らかにするとともに、各大学の選抜が求める学生を適切に見いだすものになり得ているのかどうかという検証も重要である。 

○我が国の高等教育の将来像(答申)(平成17年1月28日中央教育審議会)

第2章 新時代における高等教育の全体像
3 高等教育の多様な機能と個性・特色の明確化
(ア)高等教育と初等中等教育との接続
(略)
高等教育は、初等中等教育を基礎として成り立つものであると同時に、初等中等教育の在り方に大きな影響を及ぼすものである。また、両者の接点である大学入学者選抜を取り巻く環境も、急速な少子化の進行等を背景として大きく変化し、私立の4年制大学のうち約3割、短期大学では約4割が定員割れを起こしている。
(略)
○高等教育と初等中等教育との接続に留意することは、今後ますます重要である。その際、入学者選抜の問題だけでなく、教育内容・方法等を含め、全体の接続を考えていくことが必要であり、初等中等教育から高等教育までそれぞれが果たすべき役割を踏まえて一貫した考え方で改革を進めていくという視点が重要である。
今後の高等教育においては、初等中等教育を基礎として、「主体的に変化に対応し、自ら将来の課題を探求し、その課題に対して幅広い視野から柔軟かつ総合的な判断を下すことのできる力」(=課題探求能力)の育成が重視されよう。例えば、後述のように、学士課程教育では教養教育及び専門分野の基礎・基本を重視し専門的素養のある人材として活躍できる基礎的能力等を培うこと、修士・博士・専門職学位課程では専門性の一層の向上を目指した教育を行うことを基本として考えることが重要となろう。
○どのような学生を受け入れて、どのような教育を行い、どのような人材として社会に送り出すかは、その高等教育機関の個性・特色の根幹をなすものである。各機関は、入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)を明確にし、入学志願者や社会に対して明示するとともに、選抜方法の多様化や評価尺度の多元化の観点を踏まえ、実際の選抜方法や出題内容等に適切に反映していく必要がある。また、大学は国内外の環境の変化や激しい競争にさらされることから、このような努力を通じて、次の世代を担う者に対し、各人が学んでおくべき内容を示すという機能を果たすことも期待される。
 入学者受入方針に加えて、教育の実施や卒業認定・学位授与に関する基本的な方針(カリキュラム・ポリシーやディプロマ・ポリシー)についても、各高等教育機関が(必要に応じて分野ごとに)明確にすることで、教育課程の改善やいわゆる「出口管理」の強化を図っていくことが求められる。 

○学士課程教育の構築に向けて(答申)(平成20年12月24日中央教育審議会)

第3節入学者受入れの方針について~高等学校段階の学習成果の適切な把握・評価を~
1 入学者選抜
(1)現状と課題
○4高等学校と大学の接続の在り方の見直し
(ア)このように,高等学校と大学の接続については,様々な課題が存在し,必ずしも十分に行われているとは言えない。この問題は,高等学校の努力だけに帰することも,大学の努力だけに帰することもできない。また,客観的できめ細やかな学力の把握にも,各高等学校・大学それぞれの取組だけでは限界がある。
 大学入試の選抜機能の低下が高等学校における大学進学希望者の学習意欲の喚起や指導に影響し,大学の約6割が高等学校の履修状況に配慮した取組が必要となる現在,高等学校・大学は選抜だけでつながる関係から,客観的できめ細やかな学力の把握とそれに基づく適切な指導によって学力向上が図られるよう,共に力を合わせて取り組む関係へと転換することが求められている
(略)
(イ)受験生,大学の双方が多様化する中で,学士課程教育の質の維持・向上の前提として,高等学校と大学間の円滑な接続を実現し,両者の希望のマッチングを図るため,高等学校の出口管理や大学入試のシステムを改善することが求められている。そして,それぞれの学校段階において,一人一人の生徒や学生に対し,学力を客観的に把握する指標を活用し,そこで得られた情報を高等学校と大学間で共有することにより,教育の質を保証する新たな仕組みを構築していくことが望まれる。
(2)改革の方向
(略)
(イ)また,教育の質を保証する観点から,単に個別の学校の努力のみに委(ゆだ)ねるのではなく,システムとして,高等学校と大学との接続の在り方を見直していくことが求められる。
 従来,主に過度の受験競争の緩和の観点から,入学者選抜の改善等が推進されてきたが,今後は,各学校段階で最低限必要な知識・技能等を身に付け,若者が人生の階梯(かいてい)を着実に歩んでいく仕組みを再構築していくことが重要である。
2 初年次における教育上の配慮,高大連携
(1)現状と課題
○1初年次における教育上の配慮
(略)
大学においては,高等学校での履修状況に配慮した取組を多くの大学で行うようになってきている。とりわけ,近年では,補習・補完教育が広がりを見せつつあり,文部科学省の調査(平成18年度)では,約3割の大学で補習・補完授業が実施されている。
(略)
新たな学校段階への移行を支援する取組として,初年次教育への注目も高まってきている。
(略)
初年次教育として,「レポート・論文などの文章技法」,「コンピュータを用いた情報処理や通信の基礎技術」,「プレゼンテーションやディスカッションなどの口頭発表の技法」,「学問や大学教育全般に対する動機付け」,「論理的思考や問題発見・解決能力の向上」,「図書館の利用・文献検索の方法」などが重視されている。
○2高大連携
(ア)(略)高大連携の取組により,特定の分野について高い能力と強い意欲を持ち大学レベルの教育研究に触れる機会を希望する生徒に,高等学校段階から科目等履修生として大学の授業科目を履修させることや,その学習成果として生徒が大学の単位を取得し大学進学後に既修得単位として認定を受けることなどは,生徒の能力の伸長を図る上で有効と考えられる。
(略)
(2) 改革の方向
(ア)(略)大学として,自らの判断で受け入れた学生に対し,その教育に責任を持って取り組むことは当然であり,必要に応じて補習・補完教育や初年次教育等の配慮を適切に行っていかなければならない。
(イ) 高大連携の一層の推進に当たっては,個々の大学が,学生募集の観点から実施するだけでは,その普及・深化が十分に図ることはできない。大学間の協同による教育の提供など,その実質化に留意する必要がある。
 また,優秀な高校生を念頭に置いて,学問へ誘(いざな)う活動のみならず,学力が必ずしも高くない高校生に対して,大学進学の目的意識を持たせたり,入学後の補習・補完教育の負荷も軽減したりする観点からの取組も重要になってくる。同時に,高等学校における進路指導が,偏差値に偏ったものとならないよう,大学改革の状況や個々の大学の個性・特色について,一層の理解を求めていくことも大切である。
 さらに,専門的な知識や技能の効果的な向上を図る観点から,専門高校等と大学が連携して,学習の連続性に配慮した高大連携を推進することも望まれる。

○新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて(答申)(平成24年8月28日中央教育審議会

7.質的転換に向けた更なる課題
(高等教育と初等中等教育の接続についての課題)
 第三の点は、初等中等教育、特に高等学校教育と高等教育の接続や連携が必ずしも円滑とは言えない現状である。すなわち、18歳人口減少期における大学・学部等の設置に関する抑制方針の原則撤廃による進学率の上昇、高等学校教育の制度・実態両面にわたる多様化、大学入試の実施方法の多様化や評価尺度の多元化は、各大学・学部がそれぞれ入学試験を実施し入学者を決定するという我が国固有の仕組みのもとで、高等学校と大学との接続の在り方を質的に変容させ、複雑かつ多様な実態をもたらしている。
(略)
 大学における主体的な学修は、義務教育及び高等学校教育を通じて基本的な知識・技能の着実な習得やそれらを活用して課題を解決するために必要な思考力等、並びにそれらを支える学修意欲、倫理的、社会的能力が基盤として形成されてこそ成立する。前述のアンケートによれば、学長・学部長は、大学での学修にとっての課題として「学生の自ら学び考える習慣が不足している」ことを強く意識しており、高等学校教育と大学教育が連携・協力しながら、両者の学びの質を高めることを求める声は教員や学生からも数多く寄せられた。
8.今後の具体的な改革方策
○2本審議会において速やかに審議を開始する事項
(ア)前述のとおり、現在、高等学校教育と高等教育の接続や連携は必ずしも円滑とは言えない。高等学校教育、大学入学者選抜、大学教育は相互に関連し合っており、どれか一つにのみ課題があると捉えたり、特定の部分についてのみ改善を加えようとしたりすることでは、問題は解決しない。これからの社会を担う生徒・学生に必要な能力を育成するという観点から、高等学校教育、大学入学者選抜、大学教育という三局面の連携と役割分担を見直し、高等学校教育の質保証、大学入学者選抜の改善、大学教育の質的転換を、高等学校と大学のそれぞれが責任を持ちつつ、連携しながら同時に進めることが必要である。
 高等学校において知識・技能の確実な習得とともに、言語活動、探究活動や社会体験活動等を通して批判的・合理的な思考力や学習意欲、倫理的・社会的能力、チームで行動できる力を育成し、大学において専門分野の学修を通じこれらの汎用的能力を更に伸ばすためには、
○1高等学校から大学への移行において、単に知識を再生する力だけではなく、広く汎用的な能力を問うとともに、
○2大学における学修成果を各大学や分野の特性に応じて可視化すること
が重要であると考える。

【3】高大接続における、生徒の多様な資質・能力の評価の在り方 

<入学者選抜における透明性、公平性の考え方>
○大学入試の改善について(答申)(平成12年11月22日大学審議会)

第1章 大学入学者選抜の改善のための基本的な視点
 2大学入学者選抜の改善のための基本的な視点
(4)公平性についての考え方の見直し
 大学入試の改善が求められる一方、入試については絶対的な公平性を求める社会の意識が強く、そのことがかえって様々な改善策の実現を困難としている。また、社会の公平性に関する考え方を意識して、いささかのミスも許されないとの認識の下、入試業務は非常に緊張した状態で行われており、そのことも大学教員等の負担を大きなものとする一因となっている。
 学力検査による成績順位に基づき、上から順に選抜していく方法は、主観的要素が含まれず、だれが判定を行っても結果が同一であるという点、そして、なぜある者が合格し、ある者が不合格であるかを明確に説明し得るという点のみから見れば、現時点でこれ以上の方法は存在しないと言ってよい。
 これに対し、受験生の能力・適性等を総合的、多面的に評価し、更に受験時点での学力だけでなく大学入学後の能力の伸長の可能性ということまでも見据えて判定を行っていこうとすれば、例えば評価者を複数にし、その間の意見調整を行うなどにより、できる限り特定の評価者の主観によって判断が片寄ることのないよう工夫を行うことは必要であるが、それでもなお、ある程度主観的要素が入ることは避けられない。
 (中略)今後の大学入学者選抜の改善を検討するに当たっては、絶対的な公平性を追求しようとすることは、かえって様々な改善策の実現を困難にし、入試業務の負担を重いものにしていくことを踏まえることも必要である。
 このため、受験生の能力・適性等の多面的な判定や、大学入試においてやり直しのきくシステムの構築を進める上でも、絶対的な公平性ではなく、もう少し柔軟にこれをとらえ、合理的に許容される範囲の中での公平性という考え方に転換していくことが必要であり、社会全体がこのような考え方を受け入れていくことが重要である
 このように、絶対的な公平性という考え方から脱却することにより、教科・科目の基礎的な知識量だけでなく、論理的思考力や表現力等、学習を支える基本的な能力・技能をどのくらい有しているかという視点で判定することや、入学時点での学力だけでなく、大学教育に対する意欲や関心の強さも含めて入学後に伸びる可能性も考慮に入れて判定することなど、受験生の能力・適性等の総合的、多面的な評価が促進されると考えられる。 

<大学入試センター試験の資格試験的取扱い>
○大学入試の改善について(答申)(平成12年11月22日大学審議会)

第2章 大学入試センター試験の改善
 2大学入試センター試験の具体的な改善方策
  (1) 大学入試センター試験の成績の資格試験的な取扱いの推進
 大学入試センター試験が高等学校における基礎的な学習の達成の程度の判定を目的としていること、大学入試センター試験の活用を基礎とした各大学の創意工夫が求められることなどを踏まえれば、各大学における大学入試センター試験の成績の利用方法としては、素点による選抜だけでなく、一定の学力水準に達しているかどうかの判定に主として用いる、いわゆる資格試験的な取扱いがもっと考えられてよい。現在でも、各大学の創意工夫に基づいて大学入試センター試験の成績を資格試験的に取り扱うことは可能である。
 このような資格試験的な取扱いとしては、例えば、
○1大学入試センター試験で必要とする成績水準を明示した上で、大学入試センター試験の成績がその水準に達している者は個別試験に進ませ、大学入試センター試験の成績は合算せずに個別試験の成績のみで合否を判定する。
 その際、成績水準については、総合点を提示するほか、大学入学後の教育に特に重要と考えられる教科については更に一定の水準を求めることも考えられる。
○2受験生の大学入試センター試験の成績を概括的にまとめて扱った上で、個別試験においては、それぞれのグループごとに異なる選抜方法を採用する。例えば、あるグループは面接のみ、あるグループは論文試験を加え、あるグループは更に学力検査を課す。
 などが考えられる。
(中略)このような資格試験的な取扱いが促進されることによって、大学入試センター試験において学力水準に関する大まかな到達度を把握することとなり、各大学の個別試験においては入学者受入方針(アドミッション・ポリシー)に基づいて選抜方法の多様化、評価尺度の多元化が進むものと考えられる。つまり、各大学は、単に知識量だけではなく、受験生の多様な能力・適性、入学後に伸びる可能性等を丁寧に評価し得ることとなり、それぞれが求める学生を適切に見いだすことにつながるものと考えられる。 

<大学入試センター試験の複数回実施>
○大学入試の改善について(答申)(平成12年11月22日大学審議会

第2章 大学入試センター試験の改善
 2大学入試センター試験の具体的な改善方策
 (5)大学入試センター試験の年度内複数回実施
 大学入試センター試験は、受験生の進路選択に大きな影響を及ぼしており、そこでの失敗は、進路変更に直結するため、取り返しのつかないものと意識され、受験生にとって大きな心理的圧迫になっている
 先に述べた大学入試センター試験の成績の資格試験的な取扱いを推進するとともに、大学入試センター試験の受験機会を複数化し、再挑戦の機会を与え、より良い成績を選抜資料として用いることができるようにすることは、受験生が本来の実力を発揮できるようにするとともに、その結果に納得できるようにする上で重要である
 大学にとっても、広く国民に対して大学教育を受ける機会を提供する観点から、1回の大学入試センター試験の結果では埋もれてしまっている学生を、複数の機会を与えることにより、求める学生として適切に見いだすことができるものと考えられる
 しかしながら、大学入試センター試験の複数回実施については、実施時期によっては高等学校教育に影響を及ぼすことが懸念される。また、実施体制についても、現在、大学入試センター試験の実施には、全国で約600の試験会場を準備し、約8万人の大学教員が携わり、試験当日には約4万人の大学教員が動員されている。更に、一つの試験会場のミスが大学入試センター試験全体に影響を及ぼすことから、試験実施は非常に緊張した状態で行われているため、これ以上の入試業務の負担の増加には堪えられないという意見があるなど、難しい問題がある。
(中略)
○3これらに比べ、1月に実施している試験に加えて、12月にも大学入試センター試験を実施する場合には、
・受験準備の早期化、受験の緊張の長期化は、1か月程度にとどまること。
・1月の試験の前までに受験生に対して試験成績の開示を行える可能性が高まり、受験生は当該通知を受けて、2回目の大学入試センター試験を受験するか、出願する大学をどこにするか、判断することができること。
・各大学が資格試験的な取扱いを併せて行えば、2回目の大学入試センター試験を受験する必要性は少なくなること。
・現在の追・再試験を廃止し、その試験問題を活用することによって、作題負担の増加を極力抑えることが可能になること。
といったように、大学入試センター試験の成績の資格試験的な取扱いの促進と併せることにより、問題点をかなり克服できると考えられる
 こうしたことから、考えられる複数回実施の案の中では、12月にも大学入試センター試験を実施する案が、比較的問題が少ないと考えられる。
 しかしながら、入試日程については、1回目の試験が2学期になることにより、高等学校の特に3年次における教育課程の実施や学校行事等に影響を与えるなどの問題が依然として懸念されるため、高等学校の教育活動にできるだけ影響を与えないような配慮が必要である。実施体制については、例えば、大学教員がすべての入試業務に携わっている状況を改め、試験監督等において事務職員や大学院生等を活用するなど、2回実施を可能とするための実施に必要な条件整備が必要である。試験の実施について、高等学校側の協力を得ることも検討に値すると考えられる。また、大学入試センター試験の資格試験的な利用が前提とならなければ、かえって受験生の負担にもなりかねないため、資格試験的な利用の推進が重要であるとともに、2回の試験の難易度に大きな格差が生じないような研究の推進や試験問題の作成・点検機能の充実強化も重要である
 このように、 大学入試センター試験の複数回実施には、実施時期も含め解決すべき課題があるが、受験生の視点に立ち、大学入試においてやり直しのきくシステムを構築する上で重要であり、また、大学が求める学生を見いだす上でもその意義は大きいものと考えられる。 

お問合せ先

初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室

高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

(初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室)