資料3 安彦部会長代理提出資料

(意見概要)

「今後の高校教育の在り方について」 

2012年9月7日
安彦 忠彦

ローマ数字1 今後の高校教育の在り方

・学校教育法第50条の高校教育の目的に「進路に応じて」が付加されたが、「進学」「就職」のみでよい。それ以上細かく考えるのは個々の生徒の問題で、学校の問題ではない。第51条の目標規定には次のような内容の3項目があり、これを受けざるを得ない。
51(1):義務教育後の最広義の目的規定=人間的・創造的・健康的な国家・社会の形成者として必要な資質養成
51(2):社会的使命のための個性・進路の調整と一般教養+専門的知識・技能の習得
51(3):社会発展のための個性の確立と批判力による態度形成
・今後の高校教育の姿を考えるときも、不易と流行=「原点回帰」と「時代対応」で考える。
・義務教育における「学習意欲」を補正・強化するような性格のものでなければならない!

 1 学校制度の問題
・子どもの発達の加速化を考慮し、かつ高校教育に、思考・判断・表現や経験・体験などの活動のための時間的・心理的余裕をもたせるため、6-3-3制から4-4-4制への改革=中3を高1にして4年制高校とする。
 ただし、ここでは現状の単線型学校制度上の3年制高校の維持を前提とした上で、以下のように提言する。

 2 高校教育の目的・目標実現のための教育課程
(1)教育目的・目標と教育課程:「自立」と「個性」が「中等教育」全体のキーワード
→ 目的:「心身の発達及び進路に応じて」「高度な普通教育及び専門教育」を施す。
・中学校:「義務教育としての普通教育」=(前期)「自立への基礎」と「個性の探求」
→「国民としての共通基礎」教育の修了+「個性の探求」のための選択的経験
・高校:「高度な普通教育及び専門教育」=(後期)「自立への準備」と「個性の伸長」
→「高度な普通教育=専門教育・職業教育への基礎」(汎用的能力・○○観の自己形成)+「専門教育=進路に応じた選択的な専門的・職業的な知識・技術の修得」(選択的経験と個性的能力の伸長)
→「心身の発達及び進路」:青年期のidentityの獲得(自己確立)+個性の探求・伸長=「専門への基礎」共通教育+「個性と学問・職業」への専門的選択教科目
→「コア」:言語・数学系の道具的・基礎的知識・技能(国・数・外)+特別活動における自治能力・自治活動の体験=「未来の主権者としての(最低限の)基礎教養」
(例)新高校学習指導要領:共通必履修科目については、教科書を厚くして、中学校までの復習ができる内容から大学進学に必要な内容までを広く含め、学校によって教える内容・分量(単位数など)を教師が選べるものにした。
・大学進学ないし就職は、自分の望む人生のための「手段」であり、「目的」ではない。
(2)全体として普通科・職業科などの高校種別を廃し、すべてキャリア教育を軸とする多様なコースないし選択教科目を含む「総合制」高校とする。進学・就職は、その中のコース制で対応。国際バカロレア・コースなどもOK。
 ただし、進学コースは「大学入学の難易」によるコース分けではなく、学問分野別ないし職業別とする。就職コースは職業分野別とする。選択教科目はenrichmentの発想で多様に用意する必要あり=「基礎的・基本的な知識・技能」を「複数の豊富で多様な文脈」に位置づけて、「それらを活用する学習活動の場」として用意。 (3)評価は、出口(修了)を厳格にして「社会的信用」を得る:単位制(修得主義)を原則とし、学年制(履修主義)は特例的に使用し、飛び級や留年問題は原則として無いものとする。単位が満ちれば3年以下での修了を認め、単位の修得如何は、個々の科目ごとに取り扱い、結果として何年在籍したかは問題にしない。生徒の自主性重視の生涯学習的な考えによる。各科目の最終の修了試験のモデルは生徒にも公開される。社会的に評価される場を設ける。ただし、最終的には高校側が評価の責任をもつ。
(例)東大阪市の企業社長の求めるもの:1 挨拶、2 会話・文書の受け答え、3 小学校算数程度の計算、4 業務内容を理解できる程度の国語力、5 出身校の信用
・単位制の実質化=学年制の廃止または軽減+出口(修了時到達度)の厳格化・明確化
→ 高校修了レベルと大学進学レベル(高大接続テスト)の次元分けが必要。
  または、一律の大学進学レベルの設定廃止(生徒志望と各大学との相互選択)。

3 教員:学力形成と人格形成の両面に責任をもち、生徒の最大限の個性的成長を促す能力と積極的意志をもつ教師=教科専門だが、全人的人格形成の一部を注意深く指導・担当する(人生相談にも乗れる)という意味で、教科専門の上でも人間的教養の面でも生徒のモデルとなる教師。

4 希望者全員入学の原則の履行:適格者主義は採用せず。
・高校入試の廃止 → 中卒では済まず、高校卒を社会が求めていることを前提。
 高校間・コース間で「転学可能性」を相互に高めておく必要あり。
・高校は無償制でよいが義務制にはしない。生徒の自主性重視の生涯学習的考えによる。

ローマ数字2 共通必修(コア)の教育内容の決め方:一般には大学から求められるものではない。

・コア(核)=共通必修内容を何によって決めるか:これまでの決め方の例
1 その学校の特徴を生かすために卒業要件とするもの(例:私学の建学の精神をあらわす宗教の時間、独特の行事など)
2 国民の最低教養と考えられるもの(例:義務教育の必修教科など)
3 統合的人格の形成をめざして統合の核となると考えられるもの(例:修学旅行などの行事や卒業論文など)
4 その後の各文化分野や専門分野の学習活動に入るための基礎となるもの(例:読み・書き・計算などの言語・数に関わる教科目)
5 「人間としての基礎」(「動物としての基礎」を含む)となるもの(小学校3,4年までの技能(知的及び身体的)と感覚(五感+人間(道徳)感覚・自然感覚・社会感覚)
・一般には「教科・科目」の形にするが、各教科・科目の中の「教育内容の一部」をコアとする考え方もあり、また「コア・コース」をつくってその履修を義務づける考え方もある。
→ 高校の場合には、4の考え方を主にし、各専門分野に入る上で共通に必要な基礎教養を育てる内容とし、3の考え方を副にする方針がよいと考える。理由は、②は本来、高校進学率が100%でない限り、義務教育期間のうちに身につけさせるべきものであり、高校ではその充実強化として、種々の専門分野に入っていく生徒の基礎的素養を育むものと考えたい。市民的教養(シチズンシップ)は副次的な付加で可。
→ 大学進学率の上昇により、進学希望者には大学から見たコアをも求める段階に入ったと言える。 

ローマ数字3 新高校学習指導要領の作成の趣旨

(1)   新たに「共通必履修科目」を設けたのは、「多様性と共通性とのバランス」をとるために、ローマ数字2の4の考え方に立ち、小中の言語活動重視の原則を高校にも適用し、国語・数学・外国語で、どの分野に進むにも必要不可欠な基礎教養として身に付けさせ、一定レベルの基礎学力を確保することが必要と考えたこと。
(2)   また、それに加えて、その基礎教養を高校のすべてのタイプに共通にすることによって、「高校生としてのアイデンティティ(自己同一性)の確立」(学校間に差異はあるが、どの高校の生徒も基本部分は同等で差別はない、という趣旨を表すもの)をめざしたこと。本来は、これによって、現行の「選択必履修」のみでは、各種学校との差異化を図ることができなくなるため、「高校であること」を明示する指標としたかった。
(3)   それでも、できればこの共通必履修科目を「理科」と「地理・歴史」の中の科目にも求めたかったがそれを諦め、また単位修得を求めず「必履修科目」で可としたのも、高校側の声に妥協したもの。
(4)   単位数・授業時数は従前と変えなかったが、これは「標準」と言う用語が平成15年の一部改正以後、「最低基準」を意味しているので、それ以上の増を認める姿勢を示したもの。
(5)   活用型の学習を重視するため、理数教科で「数学活用」や「理科課題研究」などの科目を新設するとともに、「総合的な学習の時間」を格上げして単位化し、学習指導要領に独立の章を立てて他の教科と同等の位置付けを行い、これを重視する姿勢を示した。

おわりに

・「よい大学に入れること」が目的ではなく「誰もが一人前かつ優れた社会人・職業人になること」が最終目的であり、そのために「個性的自立」に向けて高校教育を組み立て、それを実現する強い意思が、すべての大人(保護者・教員・産業界・政界)に必要。
→ 大学入試制度の改変が先決:競争による質の担保でなく、相互選択による質の担保を!
 =大人が願いを持つことはよいが、生徒を自分の都合に合わせて育てようとする意志を棄て、生徒に、一方で責任ある主権者としての自覚を持たせるとともに、他方で自らはその志望・希望に沿って指導し支援する脇役たらんとする意思を固めねばならない。
・もし、現状の多様化をさらに進めるつもりなら、制度レベルで、各種学校を廃してすべて多様性のある高校にするか、逆に高校を廃してすべて各種学校にすべきであろう。

(参考文献)
 ・安彦忠彦『「教育」の常識・非常識-公教育と私教育をめぐって-』学文社、2010年
 ・安彦忠彦『公立学校はどう変わるのか』教育出版、2011年 

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