参考資料2-1 全国高等学校協会

平成24年3月26日



 中央教育審議会
 教育振興基本計画部会
 部会長 三村 明夫 様 

全国高等学校長協会常務理事 及川良一
(東京都立三田高等学校)


「第2期教育振興基本計画の策定に向けた基本的な考え方」について(意見)
 

 「第2期教育振興基本計画の策定に向けた基本的な考え方」は、4つの今後の教育行政の基本的方向性を示し、「社会を生き抜く力の養成」では「高等学校段階にあっては、進学率が98%に達し、国民的な教育機関となっており、個々の生徒の能力・適性・進路等に応じた高校教育の改善・充実や、質の保証のための取組を推進することが必要である」とされ、高校教育改革が主要課題の一つとなっていると理解します。高校教育改革について「高校教育の位置づけの明確化」「高校教育の多様化と改革の方向性」「高校教育の質の保証の在り方」の3点について意見を述べさせていただきます。 

1 高校教育の位置づけの明確化の必要性

  • 平成18年、教育基本法に「義務教育」の目的が明記されるとともに、第7条で「大学」についての位置づけ(役割)が明記されたが「高校教育」に関しては特には明記されなかった。また、現行教育振興基本計画(平成20年)では「高校教育」は「義務教育後」と、「高等教育」に対して小中高を含めた「初等中等教育」という異なった二つのカテゴリーで論じられている。「義務教育後」では大学への接続という観点から、「初等中等教育」では中等教育の完成教育として中学校からの接続という観点から、それぞれ論じられる。第2期教育振興基本計画で高校教育改革が課題となるならば、まず高校教育の位置づけを教育振興基本計画の中で明確にする必要がある。その位置づけによって改革の方向性は変わってくると思われる。明確化しないまでも、少なくともひとつのカテゴリーで扱った方がよいと考える。

2 高校教育の多様化と改革の方向性について

  • 現行教育振興基本計画には、「義務教育後」の「高校教育」について「多様化する生徒の実情を踏まえ」とある。「多様化」はまず、高校入学段階での進路希望や学力の多様化を意味する。25年度完全実施の学習指導要領総則第5款「教育課程の編成・実施に当たって配慮すべき事項」の「5 教育課程の実施等に当たって配慮すべき事項」の(7)として、「学習の遅れがちな生徒などについては、各教科・科目等の選択、その内容の取扱いなどについて必要な配慮を行い、生徒の実態に応じ、例えば義務教育段階の学習内容の確実な定着を図るための指導を適宜取り入れるなど、指導内容や指導方法を工夫すること」とあるように「義務教育の学びなおし」を必要とする生徒もいる。
  • 大学や社会への接続面でも学習歴の多様化が進んでいる。普通科高校は、進路によって分けた場合には進学上位校、中堅校、進路多様校と大きく分けられる。生徒の多様化に対応した必修単位数縮減と履修歴の多様化、入試教科科目数削減、少子化による全入時代の中の推薦・AO等非学力選抜等により、高等教育に必要な学力が身に付いていないまま進学する生徒が見られる。その結果が、一部の大学を除いて見られる初年次教育や入学前教育の常態化である。また、普通科高校の就職内定率の低さが問題となり、社会で一人前に生きているための能力やスキルの育成等のレベルのキャリア教育の充実が求められる。
  • 高校教育は、一律に扱うことはできないほど「多様化」している。したがって、改革の方向性は、「多様化」を前提にしたものならざるを得ない。教育振興基本計画で高校教育の位置づけを明確にして高校教育のミニマムを明示した上で、多様化した高校の機能分化を図る必要があるのではないか。機能分化を図ることによって学習指導要領の大綱化や弾力化が有効に働くと考える。問題は、どのように機能分化するかである。進学上位校・中堅校・進路多様校といった区分は、大学進学という従来からある一つのものさしによるもので、「多様化」を前提とした「質の保証」には耐えられないと考える。進学率98%の準義務教育機関であることから、高等学校を「最後の市民教育の場」としてとらえ、共通する(ミニマム)「基本的な市民性教育」の上に各学校がミッションを明確にするといった方向も考えられる。この場合には社会への接続の視点が明確になると思われる。 

3 高校教育の質の保証の在り方について

  • 現在、高校教育の「質の保証」の仕組みとして高大接続テスト(仮称)が構想されている。高大接続テスト(仮称)は、基礎的・基本的学力を客観的に把握しようとする到達度テストである。その性格から言えば、推薦入試・AO入試の学力の外形基準として活用することは有効であると考える。
  • 「初等中等教育と高等教育との接続の改善について(答申)」(1999年)は、高等教育段階にあっては、初等中等教育段階で身に付けられた「自ら学び、自ら考える力」を基礎として「課題探求能力」の育成を図ることが大切であるとして、その基礎となる「論理的思考力や表現力、応用力等の大学での学習を支える能力・技能」の習得を高等学校教育に求めている。平成25年度実施の高等学校学習指導要領では、思考力・判断力・表現力等の学力が重視されている。高大接続テスト(仮称)は、こうした高大接続に必要な広い知的能力や資質を把握できるテストであることが望ましい。実行可能性の面で限界があると言われるが、全国学力・学習状況調査や国際的な学力調査「OECD生徒の学力到達度調査(PISA)」などの事例がある。
  • 普通教科6教科17科目で実施されている現行の「高校卒業程度認定試験」は、特定の学力の判定とはいえ高校教育の質を証明する仕組みである。したがって高大接続テスト(仮称)は、「高校卒業程度認定試験」との整合性を図るとともに、専門学科の大学進学希望者に対して、工業科の生徒対象のジュニアマイスター制度、商業科の生徒対象の全商一級、二級試験といった検定試験の活用方法も検討する必要がある。
  • 現行の高校教育は履修主義の原則の上に立っている。高校教育の一定の質を確保しようとするなら修得主義の原則に立つことが考えられる。しかし、現状のまま修得主義へ転換すれば中退者は増える可能性がある。高校教育のミニマムの上に各学校がそれぞれのミッションを明確にした上で出口の部分で質の保証を行うことが必要だろう。多様化を前提とした修得主義である。また、高校無償化や義務教育の「学び直し」が総則に明記され事実上適格者主義の原則が崩れていることからも、それが望ましいと考える。
  • 大学の「認証評価」は第三者機関によるものである。高等教育は、学習者(学生)が、それぞれの能力・適性に応じて主体的に選択することが基本であり、大学設置基準の大綱化や国立大学法人化から、第三者機関による認証評価は頷ける。しかし、学校設置基準そのものの弾力化や更なる学習指導要領の大綱化等による学校経営の「自律性」が確保されない状態では、高校教育の第三者機関による認証評価は現実的でないと考える。国の基準として高校教育の「質」が示され、生徒自身のモチベーションが高まるよう質保証の仕組みに対する社会の認知度が高めることが必要である。 

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