財団法人全日本ろうあ連盟 西滝憲彦
障害者権利条約において、締約国は教育についての障害者の権利を実現するにあたり、「個人の必要とされる合理的配慮が提供されること」(第24条2項(c))と定めています。
また、第5条「平等及び無差別」3項においても、「平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。」とあります。
即ち、どのような実情や制限があろうと、それぞれの障害者個人に対する合理的配慮が施行されないのであれば、それは障害者権利条約に違反し、障害者の権利を妨げる差別となります。
合理的配慮を提供するための措置、または、その合理的配慮が提供されなかった場合の「差別」に対する救済措置を講じる必要があります。本会議にて合理的配慮とはどこからどこまでの範囲かという審議がありましたが、特別支援教育の在り方を検討する発端となった障害者権利条約にて定められていることを原点とし、そのうえで審議することが適当であると考えます。
【インクルーシブ教育における必要な支援】
注1:
DAISY(Digital Accessible Information System、日本では『アクセシブルな情報システム』と訳されている)図書は、視覚障害、学習障害、知的障害、精神障害の児童生徒に有効であり、聴覚障害児にとっても、日本語の読み書きにハンディを持つ場合は効果がある。デイジー図書・教材を整備するため著作権法を改正し、デイジー図書・教材とそのための機器を整備していく事業が必要である。
注2:
補聴器の活用、磁気ループや赤外線、FM補聴器等の集団補聴システムの活用、あるいは人工内耳装着等、様々な聴覚活用について、重要なことは、いかなる方法でも健聴者と同等の聞こえは補償できないことである。ろう難聴の立場での聴覚活用であり、健聴者の考える聴覚活用とはスタンスが違うものである。健聴者はろう難聴(児)者の聞こえは体験できない。疑似体験により少しでも理解してもらわなければならないが、障害当事者による聞こえの専門家が必要である。ろう難聴の立場での聴覚活用を、自らの経験と豊富な聴覚活用の知識・技術により、ろう難聴児をサポートするとともに、聞こえる教職員・保護者への啓発を担う専門家を確保する必要がある。
注3:
現在は、聴覚活用と発音発語指導に偏っているため、保護者とろう難聴児が手話言語でコミュニケーションを確実にとることができるよう、手話言語の習得システムの整備が必要である。聴覚スクリーニングにより聴覚に障害があると判明した時点で、すぐに聴覚障害者情報提供施設とろう学校が連携して、保護者支援と保護者とろう難聴児のための手話言語習得プログラムを実施する事業を創設すること等、ろう難聴児や保護者に対し、就学前からの言語・コミュニケーション支援を行うことが必要である。
障害を持つ児童生徒のロールモデルであり、かつ学校卒業後の社会生活への道先案内人となるべく同じ障害を持つ教員、支援員、職員を特別支援学校、特別支援学級、寄宿舎あるいは障害を持つ児童生徒が在籍する一般学級のある学校に一定数配置することが必要である。
例えば、聴覚障害をもつ教職員に対する合理的配慮として、同僚の教職員が文字(筆談)、手話、聴覚活用により直接的なコミュニケーションを取れるように研修を受けること、職員会議、部会議、授業研究等の場では、文字(要約筆記、パソコン筆記)、手話、聴覚活用、手話通訳者・要約筆記者の派遣により情報・コミュニケーションを保障すること。保護者との話し合い・連絡・懇談会や校外学習、交流学習等で本人が必要とするコミュニケーション支援を保障すること。
また、障害のない教職員が、聴覚障害のある児童生徒・教職員との関わりに役立つよう、大学における養成カリキュラム、また現任研修において、聴覚障害者協会、聴覚障害者情報提供施設に出向いての実習を行うこと。手話言語・要約筆記の習得のため教職員を対象とする研修プログラムを夏休みの期間に集中的に実施すること。
初等中等教育局特別支援教育課