資料7-5:山岡修委員 提出資料

2011年8月18日

中央教育審議会
特別支援教育の在り方に関する特別委員会
合理的配慮等環境整備検討WG御中

山岡 修
(一般社団法人日本発達障害ネットワーク・副理事長)
(NPO法人全国LD親の会・理事)

学習障害のある子どもに対する合理的配慮に関する意見

【学習障害等の知的障害を伴わない発達障害の特性】

  • 発達障害は高頻度障害である。
     2002年の文部科学省の全国的調査で、通常の学級の中に6.3%程度在籍する可能性があるという推計値が示されている。各クラスに2~3人いる可能性がある。
  • 発達障害のある児童生徒の大半は、今現在も多数通常の学級に在籍している。
  • 発達障害は、分かりにくい障害である。(能力に凸凹がある。怠けている等と誤解されやすい)
    発達障害のある子どもが示す困難には、先天的な要因(脳の機能障害と推定されている)がある
     例: 読み書きは得意(高学年レベル)だが、計算は苦手(小一レベル)[学習障害(算数障害)]
      視力は正常なのに、文章(文字)を読み取る事ができない[読み書き障害=ディスレクシア]
      授業中に先生の声に傾聴できない(聞き分ける能力)[ADHD]
      感覚過敏(接触、におい)、コミュニケーション(言葉を字句通りに受け取る)[自閉症]
  • 発達障害のある児童・生徒が持つ困難は多様であり、個々の特性に応じた支援が求められる。

【ヒアリング項目毎の意見】

1.子どもの成長のために学校教育に期待すること

 通常の学校、通常の学級に在籍していても、下記のような教育・支援を受けられることが重要である。

  • 一人一人のニーズや特性に合わせた、きめ細かな支援
  • 将来の自立や社会参加に向けた教育
  • 社会性やコミュニケーション能力を身に付けられる教育

2.早期からの教育支援についての配慮事項

 どこの幼稚園(保育所)においても、下記のような対応・支援を受けられることが重要である。

  • 幼稚園(保育所)における気づき、早期発見
  • ニーズや困難に応じて、個別・小集団による療育機会(発育、言葉などの支援)の提供
  • 個別の教育支援計画などの策定・活用による計画的かつ関係者の連携による支援の提供
  • 長期的展望に立った就学相談の提供

 また、育児支援、保護者教育、保護者支援等の、保護者に対する支援の拡充が望まれる。

3.教育内容・方法についての配慮事項

  • 個々の子どもの表面的な困難だけでなく、その認知特性や行動特性をしっかり把握して、個々の特性に合わせた支援を行うことが重要である。
     認知特性等の背景要因を考慮せず、表面的な困難に対して一般的な対処法(努力や頑張りを求める等)を取ると、逆効果になってしまうことが多い。
     例えば、一桁と一桁の足し算のような簡単な計算であれば、健常の子どもは繰り返し練習すると出来るようになるが、数の概念、短期記憶に困難を持つ子どもの場合は、単に「一所懸命練習しなさい」努力を強いることは逆効果で、困難を補う工夫した指導・支援が効果的である。
     特定の音や声に傾聴することに困難を持つ場合、教室の中で教員の声に傾聴することが出来ず、他の音や声に気を取られ集中を持続出来ない場合や、聞き洩らしが生ずる場合がある。
     このような場合に、「ちゃんと聞きなさい」というだけでなく、席位置の配慮や視覚でも情報を提供する等の工夫が効果的である。
  • 小中学校や通常の学級において、学習障害(発達障害を含む)のある児童・生徒に対して、教科指導・教科補充を行うことが重要である。
     教育課程の在り方を検討するとともに、教科指導や教科補充について小中学校の学習指導要領に示すことが必要
  • 小中学校や通常の学級において、発達障害のある児童・生徒が持つ生活面・行動面の困難に対して、個々のニーズや特性に合わせて支援していくことが重要である。
     指導方法について小中学校の学習指導要領に示していくことが必要。
     例としては、45分の授業時間中に集中力が続かない小学校低学年の児童の場合、例えば最初は15分を目標にして持続できたら、「ご褒美シール」を与え、タイムアウトを取らせる。定着したら目標時間を徐々に伸ばしていくなど、やる気を持たせ、自信を付けさせながら取り組むという支援方法がある。このような指導方法を学習指導要領に示していくことにより、小中学校における生活面・行動面の支援を本格化させることができる。
     (小中学校や通常の学級における特別支援教育、特に知的障害を伴わない発達障害のある児童生徒に対する教育は、特別支援学校の教育に準じた教育として対応することは困難。「学習指導要領」、「教員免許」の在り方を見直すことが必要)
  • 小中学校や通常の学級において、個々の特性に対する理解と配慮が行われることが望まれる。
     感覚過敏、集団活動が苦痛、急な予定変更に対応できない。
     例としては、感覚過敏があるために、身体に接触されることが苦手な児童がおり、クラスの友達が挨拶代わりに背中をトントン叩いたら、その児童が大パニックを起こし、最初は原因が分からなかったので、喧嘩になってしまったことがあった。このよう児童がいる場合は、クラス全員でその児童に感覚過敏があり、身体接触が苦手なことを理解して、配慮しておくことが望まれる。
  • 個別の教育支援計画、個別の指導計画を活用し、個々のニーズに応じた計画的な指導・支援が行われることが重要である。
  • 個々の児童・生徒が必要に応じてICT(電子機器)の利用を可能とすることが望まれる。
     PCを利用してデジタル教材の活用(デジタル教科書)
     PCによるノートテイク、作文作成、電卓の使用など

※さらに、こういったものに類似した機器や教材を、保護者が見つけて家庭学習で使用し、効果があったので、学校でも使わせて欲しいと申し出ても、学校で拒否される場合がある。そういった対応をされると、本人も保護者もやる気を失ってしまう。親の会のアンケートで、黒板をデジタルカメラで撮影し、家でノートに整理したいと申し出たが、学校に拒否されたという回答があった。

4.学校における支援体制についての配慮事項

  • 通常の学級において、適切な支援ができる体制づくりが重要である。
     校内委員会を中心としてチーム支援体制や教員間の連携の強化
     特別支援教育コーディネーターの拡充(専任化、複数化)
  • 担任教員に対する支援体制 の拡充が望まれる。
     TT、チーム支援、巡回支援、電話相談
     教材・教具、相談事例等のデータベースの整備と提供
  • 学習支援員・特別支援教育支援員・介助員の質・量の拡充が望まれる。
     質・量の拡充、資格要件整備、研修の拡充
     教科指導ができる「学習支援員」の拡充
  • クラスメイト、保護者等周囲の理解の醸成が重要である。
  • 必要に応じて、少人数・個別等の特別な場での支援が受けられることが望まれる。

5.施設・設備についての配慮事項

  • 通級による指導拡充が重要である。
     自校通級を原則にしていくことが望まれる。(子どもの通学負担、保護者の付き添い負担)
     特別支援教室構想の実現が望まれる。
  • 教室等の構造化、表示の工夫が望まれる。
     発達障害のある子どもが、落ち着いて過ごせる環境
     校内表示、日課表示等の配慮
     感覚過敏に配慮した、校内設備、教室の配置
  • パニック時にクールダウンができるような場所の確保が望まれる。

6.学校外における支援体制についての配慮事項

  • 学校と関係機関(専門機関、親の会など)との連携と情報の共有化が有効である。
     支援方針の共有、役割分担
     発達障害者支援センターとの連携
  • 学童保育の拡充、療育の実施が望まれる。

7.幼、小、中、高等学校の各段階における配慮事項

◆幼稚園

  • 早期発見・気付き(背景に発達障害がある)が重要である。

◆小学校

  • 二次的障害の予防が重要である。

◆中学校

  • 英語教育における指導方法の拡充が望まれる。

◆高等学校

  • 入試における配慮が重要である。
  • 教科指導、学校生活の指導、進路指導が望まれる。
    (高校段階は、配慮がない特別支援教育の空白期になっている)
  • 社会性、コミュニケーション等に関する指導が重要である。

8.その他の配慮事項

  • 教職員の資質向上が重要である。
     特別支援学校免許状から特別支援教育免許状への転換
     管理職を中心とした教職員研修の拡充

以上

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)