資料7-4:市川宏伸氏 提出資料

特別支援教育のあり方に関する特別委員会・合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ
「自閉症のある児童生徒への合理的配慮」に対する意見表明

2011年8月18日

日本自閉症協会副会長
東京都立小児総合医療センター顧問
国立発達障害情報センター顧問
日本発達障害ネットワーク理事長
(社福)正夢の会理事長
日本児童青年精神医学会常務理事

市川宏伸

自閉症のある子どもの保護者の立場から

長女33歳(東京都療育手帳2度)

 1歳半検診にて発達の遅れの指摘を受け、3歳時に自閉症(低機能)の診断を受ける。

 知的障害児を入園させる保育園に通い、知的障害児通園施設にて療育を受け、区立小学校の心身障害学級(現特別支援学級)に入学。

 小学校5年から都立知的障害養護学校(現特別支援学校)に転校し、同高等部を卒業。

 卒後は、知的障害者通所施設に通い、6年後に知的障害者入所施設へ入り、週末は自宅で過ごしている。

1.子どもの成長のために学校教育に期待すること

  • 子どもの特性に合わせた環境を用意し、適切な対応に心掛けた教育。
    自閉症児は一人ひとり異なる特性を持っており、児童生徒の障害を一律として扱う、“平等教育”ではうまくいかない。特に自閉症のある人は社会生活への適応の困難性が、例えば、知的障害のみの人よりも大きい。他の障害を合わせ有する場合はよりその傾向が高まる。
  • 進級、進学における生徒特性の引き継ぎ。
    学年や学校が変わる度に異なる対応をされては、混乱を来すばかりであり、障害特性の引き継ぎが必要である。
  • 児童生徒及び保護者が納得のいく教育の実施。
    保護者から見れば、特別支援学級等の担任は一人であり、自分の子どもへの教育を中心に考えることから、担任の専門性は必須。
  • 通常教育と特別支援教育の連携の促進。自閉症を中心とする発達障害は通常教育の約10%、特別支援教育の約80%と推測されており、連続体として考える必要がある。
  • 自閉症についての一層の指導・支援の研究開発
    各地で自閉症の教育についての研究が行われてきたが、更なる自閉症へ特化した教育の改善・充実が期待される。

2.早期からの教育支援についての配慮事項

  • 早期に特性を見極め、適切な環境を用意し、対応を行う必要。
    自閉症者の保護者は「早く分かっていれば・・・」と訴える。
  • 1.5才あるいは3才時健診、幼稚園、保育園での保護者の特性への気づきの促進。
    自閉症への早期の気づきと早期の療育が重要となっているが、一方で子どもの年齢が小さいほど、保護者は特別扱いされることを望まない。
  • 幼稚園・保育園等における発達特性への気づきと療育。
    就学時における保護者の障害理解のために幼稚園・保育園における専門性ある人材の配置、研修等の充実および福祉、保健などとのネットワークの構築が必要である。
  • 大都市を中心に普及している就学前の自閉症への療育を就学後にも反映。
    大都市では就学前の療育が広まりつつあるが、就学後の療育継続を希望する保護者は多い。

3.教育内容・方法についての配慮事項

  • 自閉症児の障害特性に合わせた教育・指導の必要性。
    障害があっても、各々の障害特性で教育・指導内容は異なる(時に自閉症は併せ有する障害等により状態がさらに多様となる→社会適応性が低下することが多くなる)。自閉症に関する配慮すべき内容を記述した指導書や研修、スーパーバイズする体制が必要である。
  • 個別指導を重視した教育の促進。
    集団指導やグループ指導のほかに、多数に合わせようとするのではなく、少数の特性を生かす個別指導の時間や場面を設けることが必要である。
  • 特別支援教育に従事する学校教員の専門性の向上。
    専門免許状を持った教員を中心に、将来の生活を見通した段階的な指導・支援が必要である。
  • 通常級における授業を前提としたカリキュラム等の改善。
    特別支援学級・学校においては、教科指導だけでなく、社会生活における適応を重視した指導の工夫が望まれる。
  • 自閉症児を中心とする発達障害児教育の新たな支援教材の導入。
    近年障害児用に開発された教材とユニバーサルデザインの導入が望まれる。

4.学校における支援体制についての配慮事項

  • 担任だけではなく、学校全体とした支援体制の確立。
    自閉症を中心とした発達障害については、個々の教員だけではなく、コーディネーターを中心とした校内委員会などによる対応が必要である。
  • 校長を頂点とした職制のバックアップ。
    校内員会が充実した活動をするには、職制の全面的支援がなければ十分な成果はできない。
  • 本人・保護者を巻き込んだ支援体制の確立。
    学校だけでなく、保護者も一体化した支援体制の存在が必要である。
  • 養護教諭、学校医、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカーなどの一層の活用。
    学校内のさまざまな資源を動員した対応が必要である。

5.施設・整備についての配慮事項

  • 特別な感覚に配慮した施設整備。
    音や温度に対する、自閉症特有の感覚に配慮した施設整備が必要である。
  • コミュニケーション支援につながる施設整備。室内等の刺激を減らし、集中力を高め、分かりやすい校内表示、日課の表示など、自閉症の特性にあった施設整備をするべきである。
  • 静かで冷静になれる空間の確保。
    “パニック”などが生じた際のクールダウンを促進する空間の確保が必要である。

6.学校外における支援体制についての配慮事項

  • 児童生徒だけでなく、保護者全体を対象とした支援。
    必要に応じて、スクールソーシャルワーカーなどを活用して、保護者全体を支援対象にする必要がある。
  • 教育相談室(教育センター)、子ども家庭センター、発達障害者支援センターなどとの連携拡充など外部機関との協議の充実をはかり、学校外での支援の充実をはかる。
  • 学校外の生活の場の確保。
    放課後児童クラブ、児童デイケア等との連携による、放課後、夏季休業中等における過ごし方への配慮をはかる。

7.幼・小・中・高等学校の各段階における配慮事項

  • それぞれの発達段階に即した教育。
    幼稚園、小学校、中学校、高等学校における日常生活・子どもの社会生活への適応を促進するため、将来の生活を見据えた授業、実習が必要である。
  • 進級・進学に際した段階ごとの肌理の細かい申し送り。
    子どもの障害特性についての情報の引き継ぎが十分でないと教育がうまくいかない。
  • 義務教育を修了した特別支援学級等の生徒の受け皿の確立。
    高等学校には特別支援学級がないため、特に高機能自閉症等のための受け皿が明確ではない。高等特別支援学校には、通常学級卒業生も入学している場合もあるが、知的障害の存在が前提となっており、高機能自閉症等は入れない。サポート校では経済的な余裕が必要となる。

8.その他の配慮事項

  • 自閉症の困難さを見抜く専門性の獲得
    自閉症を中心とする発達障害は、盲・聾、身体障害と比べて、外見からはその困難さが分かりにくいことがある。この困難さを見ぬくのが専門性である。
  • 自閉症の特性はのこして、社会不適応の部分を改善
    自閉症児の社会不適応の部分だけを改善すれば、自閉症児の特性は生かせる。彼らの持つ特性は異能であり、社会にとって必要な場合がある。
  • 私立学校在籍児童・生徒への配慮。
    公立学校以外の私立の幼・小・中・高等学校在籍自閉症者への支援の拡充が必要である。
  • 短大・大学への引き継ぎの充実
    高校卒業者の減少により、短大・大学進学者の増加がみられており、センター試験でも配慮が行われるようになった。短大・大学への障害特性の引き継ぎが必要である。
  • 教育における発達障害の明文化。
    医療では、発達障害の中に知的障害は分類されている。障害者自立支援法にも、障害者基本法にも自閉症を中心とした発達障害が明記されつつある。特別支援教育の対象者の多くは自閉症を中心とする発達障害児であり、教育においても発達障害をその対象と明記する必要がある。
  • 特別支援教育調査官の増員・拡充。
    自閉症を中心とする発達障害児の数は極めて多く、これを担当する特別支援教育調査官の増員・拡充が必要である。

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