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資料5-9:田畑真由美氏提出資料

盲ろう児・者の教育における配慮

盲ろうの子とその家族の会 ふうわ
CHARGEの会
田畑 真由美

1 将来に向けて学校教育に期待すること

 盲教育と聾教育を併せるだけでは盲ろう教育は不十分です。なぜならば、盲教育は聴覚情報に依存し、聾教育は視覚情報に依存していますが、盲ろう教育の場合には、その両方に頼ることができないからです。また、盲ろうを重複障害の括りに入れるのではなく、独立した障害として区別することが極めて重要です。そのことで、盲ろう児の生活や教育で必要な独自の配慮を明確に認識していただくことができるからです。

 障害者権利条約の第24条で述べられている原則およびその実施に向けての対処が実現されることを期待します。 特に、24条の3の(c)に記されている「deafblind:盲ろう」独自の教育的ニーズを認識し、盲ろう者への配慮のある早期教育および学校教育の実現と、権利条約24条の4に記されている手話・点字・及び他のコミュニケーション方法を習得している教員の確保と必要な教員研修が、盲ろう教育を行うために実施されることを期待します。

 盲ろうは、視覚と聴覚の両方に障害があるために、コミュニケーションと情報摂取に大きな制限が生じ、人との関係および周囲の状況の理解をはじめとして、広範で重篤な障害をもたらします。ヘレン・ケラーのように特別な才能に恵まれた盲ろう者であっても、盲ろうという状態を理解した適切な教育なしには、言語の獲得も、学問的及び社会的な発達も望めないというのが盲ろう児です。教育行政や研究機関と連携するなど、盲ろう児の独自の困難を理解でき支援を行える専門性のある教員等を育成し確保することが必要です。

 また、24条の5に記されているように、中等教育終了後においては、他の者と平等に高等教育一般、職業訓練、成人教育及び生涯学習の機会を与えられることが確保され、そのための配慮が障害者に確かに提供されることを期待します。

2 早期からの教育支援についての配慮事項

 盲ろうの早期発見と早期教育的支援は、特に重要です。適切な早期教育の有無は、その後の成長に大きな影響を及ぼします。コミュニケーションや情報入力に大きな障害のある盲ろう児は、その潜在する能力を正しく評価されないことが多く、よって言語獲得の礎を築く早期の専門教育を受ける機会を逸する場合が多くあります。盲ろうに配慮をした評価が実施されることが好ましいのですが、実際には先天性盲ろう児に対して正確な評価を行うことは極めて困難です。通常の判定方法で評価が低かったとしても、まずは盲ろうの専門教育を受ける機会を提供し、その子にとって最も適切な言語及びに意思疎通を図る手段の獲得に向けて最大限の教育が成され、最大の発達を促すことが、全国どこにいても実現することを望みます。

3 教育内容・方法についての配慮

・盲ろう児に適したコミュニケーション方法について

 盲ろう児・者のコミュニケーション方法は多種多様です。
盲ろう児のコミュニケーションに用いる感覚および方法の選択に当たっては、もっとも負担が少なくて確実な、そして速くにコミュニケーションできる方法を選びます。
そのためには、何が見え、何が聴こえるかの評価を丁寧に行い(どのくらいの距離と範囲、その鮮明さ等)、残存する視覚と聴覚を活用しつつも、例えばその子どもにとって、もっとも有効な感覚が触覚であれば、それを土台にしてコミュニケーションを図るようにします。また、盲ろう児の発達段階に応じた方法を適切に選択できるよう、盲ろう児のために開発された多様なコミュニケーション方法についての幅広い知識をもつ教員の存在が必要です。「言語」を獲得するところから、盲ろう児の教育は始まります。

・コミュニケーションできる集団の確保について

 子どもの用いるコミュニケーション方法が、担任のみの習得に限られた場合には、人間関係の広がりが狭まります。豊かな感情の交流の中から基本的な人間関係を学び、周囲の環境や出来事の因果関係などにふれ、その学習が蓄積していく為には、できるだけ多くの人々がその盲ろう児のコミュニケーション方法を習得出来る体制が必要です。

・盲ろう児には偶発的学習が欠如していることを常に認識し、学習内容を組み立てること

 見えて聴こえる子どもたちは、特に意図することも大きな労力をかけることもなく、日々偶発的に出会う事象を通して、事物、人間、活動、場所、時間、因果関係、部分と全体等の概念、さらにはその社会の文化を、直近の周囲からはもちろん、テレビなどのマスメディアを通しても見聞し、膨大な量の学習を蓄積していきます。このように日常的・非意図的に行われる学習は、欧米の盲ろう教育では、incidental learning(偶発的学習)と呼び、「盲ろう児にそれが欠落しているという認識が盲ろう教育を組み立てる時に不可欠である」としています。しかし、通常学級での授業では、これらを意図せずに蓄積された知識が子どもたちにあることを前提として組み立てられているため、盲ろう児が授業に参加するためには、細やかな準備と配慮が不可欠となります。
 盲ろう児は、これらの概念を一つずつ、自ら体験して学んで行かなければならないために、学習には膨大な時間を必要とします。学校では、学ぶべき数多くの内容について適切な優先順位を付け、意図的に、そして構造化して、概念形成を図るための学習をすすめることが必要です。

・盲ろう児の置かれている見通しのつかない状況およびそれを改善する為の予告の重要性

 盲ろう児にとって、人、物、活動、場所移動等は、すべてが唐突に表れては消えるものであり、情報がきわめて限られているなかで、その状況は混乱と不安を高めることになります。したがって、盲ろう児とかかわるもっとも基本的な原則は、子どもにわかるコミュニケーション方法で、毎回、毎回、予告を丁寧に行うことです。

・盲児や聾児にくらべて、授業に数倍も多くの時間を必要とすること
 教える内容の精選と、教育年数の延長の必要性

 情報の入らなさと、理解をしている世界の少なさ、そして、関心を示すための刺激の限度が、盲学校や聾学校および他の特別支援学校での授業の理解や関心への困難さとなりがちです。盲ろう児が関心を示す事項を学習の中心に据えた独自の取り組みをすることが必要であり、精選された学習内容による授業が求められます。
 また、盲ろう児・生徒はコミュニケーションと情報摂取、そして教科学習等に長い時間を要するために、多くは教育年限の延長措置が望まれます。盲ろうという障害への配慮として、教育年限の延長が特別に認められた先天性盲ろう児が、大学進学を果たしたという事例があります。これは、教育年限の延長が盲ろう生徒に必要な配慮に当たることを示していると言えます。

4 学校における支援体制についての配慮事項

・「通訳介助者」の必要性

 教室にいる生徒たちは、授業中の状況や交わされている言葉(音声言語、手話、板書等)に自力でアクセスし学習を進めます。しかし、盲ろう児は同じ教室にいても、それらの状況や言葉に、自力ではアクセスできません。それら情報およびコミュニケーションに平等にアクセスできるようにするためには、通訳介助者の配置が配慮として不可欠です。集団授業において通訳介助者がいなければ、盲ろう児だけが取り残された時間を過ごすことになるでしょう。
 さらに、授業以外の時間(休憩時間、部活動等)における同年代の仲間の様子を理解し、会話に参加するためにも、通訳介助者は不可欠であり、これなしには、盲ろう児の社会性の育成は極めて困難になります。

・盲学校と聾学校の連携の必要性
 他障害種の特別支援学校や特別支援学級等に在籍している場合の盲学校と聾学校の連携

 日本には「盲ろう特別支援学校」は存在しません。盲学校と聾学校で培ってきた教育方法、適切な補助具の取り入れ方など、双方からの支援が盲ろう児には必要であり、盲学校と聾学校が連携しながらの教育実践が求められます。
 さらに、先天性盲ろう児の多くは、盲ろうの他に肢体不自由や知的障害などの障害を併せ有する場合が多く、その教育的ニーズは多様です。それぞれの子どもに適合した専門性の高い教育を受けるためには、在籍校が他障害種の特別支援学校と連携しながら、個別の指導計画や個別の教育支援計画が作成されることを期待します。

5 施設・設備についての配慮事項

・盲学校以外の場合の視覚障害に対する支援の必要性

 例えば、聾学校に在籍する盲ろう児に対して必要となる可能性がある支援は以下の通りです。
 拡大読書機・拡大鏡・単眼鏡・書見台などの補助具の提供とその使用方法への適切な指導。教科書、教材・図書などの拡大版及び点字版の確保。点字指導や歩行訓練が受けられる体制。点字ブロック、階段や廊下に明確なラインを引くなど、安全設備の敷設。

・聾学校以外の場合の聴覚障害に対する支援の必要性

 聾学校以外の学校に在籍する盲ろう児に対して必要となる可能性がある支援は以下の通りです。
 FM補聴器などの補聴環境の整備、教材用ビデオ等へ見やすい字幕の挿入、ノートテーカー等。

・電子機器の必要性

 パソコン、拡大ソフト、電子書籍、ピンディスプレイ、ipadなど電子機器を教育現場で活用できる支援が必要になる場合があります。それらの活用は、将来の自立への取り組みとして重要です。

6 学校外における支援体制についての配慮事項

・通訳介助の課題

 情報入力障害である盲ろう児・者は、地域の情報を取得するにも困難があります。よって、社会生活を送る際にも盲ろうの通訳介助者派遣制度を利用できることが必要です。例えば、盲ろう児の場合、同世代の健常児がどのような学校生活を送り余暇活動をしているのかなど、意図的に情報提供しなければ知り得ることが出来ません。地域社会・学校との交流の際に通訳介助者を伴うなどの配慮が確保されて、意図的・体験的に地域の状況を知る機会が必要です。それは同時に、周囲の人々に盲ろう児の存在とその困難を周知する貴重な機会となるでしょう。将来、盲ろう児が地域社会の一員として、盲ろう障害に対する理解を得ながら社会参加出来ることを願います。

7 幼、小、中、高等学校の各段階における配慮事項

・幼・小学校期における配慮

幼・小学校期においては、コミュニケーションと情報についての配慮が特に重要です。

24条の3の(c)は次のように記しています。

「視覚障害若しくは聴覚障害又は盲ろう障害のある者(特に児童)の教育が、(英原文:the education of persons, and in particular children, who are blind, deaf or dearblind)その個人にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段で、かつ、学問的及び社会的な発達を最大にする環境において行われることを確保すること。」

 コミュニケーションについては、視覚と聴覚からの情報がない、あるいはきわめて制限されていることが、乳幼児期の親子関係を含む人とのコミュニケーションに深刻な影響を及ぼします。残された感覚を使って、一人一人の盲ろう児に適したコミュニケーション方法で、人間関係を一歩ずつつくっていくことが必要です。このことに精通した教員ができるだけ早く介入していくことが重要です。

 情報入力については、健常児であれば目と耳を通して、視覚障害児であれば耳を通して、聴覚障害児であれば目を通して、周囲で起きている変化から膨大な量の「偶発的学習」を日々行い、自然と多くの概念を蓄積していきます。しかし、目と耳の両方に障害をもつ盲ろう児にはこの偶発的学習が欠落します。早期から意図的に必要な情報を、優先順位を明確にしながら、目と耳に依存しない方法で伝えていく必要を保護者に教示できる教員が必要です。

・中・高等学校期の配慮

 中学部からは教科担任制による指導となります。各教科の内容はより高度になり、学習量も増えて行きます。それらの学習内容の修得を可能にするための配慮として、より専門性の高い通訳介助者の存在は不可欠です。
 また、教師間の協力も必要です。たとえば、盲ろう児が習得している概念と語彙について、ある聾学校では、国語科の教師が他の教科で新たに学んだ概念と語彙を集約し、国語の授業でさらにそれを深め、効率よく盲ろう児の概念と語彙の獲得を図っています。
 また、中学部3年間までに履修する教育課程を、盲ろう児がその年限内に修得することは極めて困難です。盲ろうという障害ゆえに緩やかになる学びへの合理的配慮として、高等部への入試にあたっては特別枠の設置を要望します。
 高等部では、修得に膨大な時間を要するという困難に対して、教育年数の延長などの配慮が必要です。

・就学の問題と進学に際し引き継ぎの問題

 盲ろう児の場合、就学にあたっては、盲学校、聾学校、地域の学校の通常学級あるいは特別支援学級など、いずれの入学にも難色を示されることが多いようです。それは、学校に盲ろうの児童・生徒を教育した実績が無く、専門の教員がいない、設備が不十分である、など支援体制が整っていないことが、大きな理由のひとつだと思います。
 

権利条約24条2-(a)

    障害のある人が障害を理由として一般教育制度から排除されないこと、及び障害のある子どもが障害を理由として無償の義務的な初等教育又は中等教育から排除されないこと。

権利条約24条2-(c)

    各個人の必要(ニーズ)に応じて合理的配慮が行われること。

 合理的配慮が成された上で、一般教育制度から排除されることなく、その教育的ニーズに合った教育を受ける権利が、盲ろう児にもあると思います。
 また、盲ろう児の環境が変化するときには、本人が理解し納得に至るまで、寄り添うことが大切です。同じ学校内で進学する場合にも、丁寧な引き継ぎが行われ、教育の確かな積み重ねが継続されるよう配慮を要します。

8 その他の配慮事項

・生涯学習においても必要な配慮

 大人の盲ろう者には、家の中に引きこもり、社会から閉ざされた生活を送っている人も多くいます。それは、社会の中で「盲ろう」障害への理解が十分ではなく、社会的支援が行き届いていないことが大きな理由だと考えられます。盲ろう者を孤立させない支援体制が必要であることはもとより、盲ろう者自身が社会に適合していく力を身につける、そのために教育はとても重要です。
 言語の獲得、情報の取得等に健常者の何倍もの時間を要する盲ろう者に対しては、特に合理的配慮のある生涯学習、就労してからも教育的支援のある環境が必要です。

 当事者が声を上げ求めて行くことが、現状を打開するには最も重要なことなのでしょう。しかし、盲ろう当事者たちが社会の流儀に則って主張することは極めて困難です。社会の中で息づく声なき声にも、耳を傾けて下さるようにと願って止みません。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)

-- 登録:平成23年07月 --