日本障害フォーラム(JDF)

インクルーシブ教育システム構築のための今後の特別支援教育の推進方策に関するヒアリング意見提出様式

団体名 日本障害フォーラム(JDF)

 

1.「合理的配慮」の定義等について

(1)差別との関係、権利関係

○1 定義において差別との関係が不明確(1、(1)、一つ目の○等)

「合理的配慮」はそもそも差別との関係(実質的な機会の平等との関係)から生じた概念です。WGにおける『「合理的配慮」の否定は、障害を理由とする差別に含まれているとされていることに留意する必要がある」』とされていますが、「留意」の意味が不明です。これでは、合理的配慮が行われない場合に差別とする権利条約の定義にそぐわない事は明らかで、これは、教育以外の他の分野の合理的配慮の定義、概念との整合性ともかかわる大きな問題です。差別禁止法制度の中で合理的配慮義務を適用している多くの諸外国の立法事例からも「合理的配慮を行わないことが差別である」ということを定義上明記しないのは適切ではありません。

【参考】権利条約第2条 定義

「障害を理由とする差別」とは、障害を理由とするあらゆる区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のあらゆる分野において、他の者と平等にすべての人権及び基本的自由を認識し、享有し、又は行使することを害し、又は妨げる目的又は効果を有するものをいう。障害を理由とする差別には、あらゆる形態の差別(合理的配慮の否定を含む。)を含む。(2007年、政府仮訳)

○2 権利義務関係が未整理

 上記差別の関係における問題とも関連し、個別具体的事例において、個人(障害のある子どもや保護者など)が一定の配慮を請求する権利であり、それに対して配慮義務が発生するのが「合理的配慮」です。合理的配慮は個人が請求し、基本的には提供義務が発生します。義務の履行を前提に内容等を調整し、過度な負担が生じる場合には義務を行わなくてもよい(正当化事由)、という関係にあります。今回の報告から全般的にその視点が読み取れません。
 例えば、以下の書きぶりでは、権利がどの場合に発生し、どのようにそれを行使し、それに対して、義務をどのように果たすか、という権利義務関係が整理されておらず、社会的な機運が醸成されなければ、合理的配慮に対する義務が履行されなくてもやむを得ないかのようにすら読みとれます。

 a 「「合理的配慮」の決定・提供にあたっては、各学校の設置者及び学校が体制面、財政面をも勘案し、「均衡を失した」又は「過度の」負担について、個別に判断することになる。各学校の設置者及び学校は、・・・「合理的配慮」の提供に努める必要がある」(1、(1)二つ目の○)

 b 「地域における理解啓発を図るための活動を進めることが求められる」(はじめに)

 c 「現在の財政状況に鑑みると、そのためには、共生社会の形成に向けた国民の共通理解を一層進め、社会的な機運を醸成していくことが必要であり、それにより、財政的な措置を図る観点を含めインクルーシブ教育システム構築のための施策の優先順位をあげていく必要がある」(3、一つ目の○)

○3 「均衡を失した」または「過度の」負担について(p3)(p7、3○3など)

 報告書では「個別に判断することになる」、となっています。P7の基礎的環境整備の部分でも、基礎的環境整備と合理的配慮がリンクされる形で記述されています。特に、義務教育における機会の平等の確保についてはこれだけでは全く不十分であり、検討が必要です。憲法が保障する教育を受ける権利という基本的権利の保障の問題です。いくつかの国では、教育の義務教育の分野においては、合理的配慮義務の「過度な負担」の抗弁(正当化事由)を承認するに当たっては労働などの他の分野に比べて厳格に判断するという法制度の運営を行っています。

○4 「合理的配慮」に対する国などの条件整備義務について

 報告書は、「合理的配慮」と「基礎的環境整備」を切り分けた上で、国、都道府県、市町村の責任範囲を「基礎的環境整備」に止め、「合理的配慮」については、「学校設置者および学校」の責務としています。都道府県および市町村は、同時に学校設置者でもあることを考えれば、この切り分けによって「合理的配慮」に対する責任を免れるのはもっぱら「国」ということになります。「合理的配慮」が、「個々の子どもの状況に応じた個別的な対応」であるところから、その「直接の」責任主体は、当該の子どもと相対する「学校設置者および学校」となるとしても、「直接の」責任主体たる「学校設置者および学校」が、「合理的配慮」に対する責任をよく果たすことができるように、そのための条件整備を行う国等のありよう(いわば、「合理的配慮」の実施に関する「間接的な」責任)が具体的に検討されるべきです。つまり、報告書の言う「基礎的条件整備」は、個々の子どもの状況にはさしあたり配慮せず、在籍者の人数等の一般的な条件に基づいて行われるものだと考えられますが、そのようなものとしての「基礎的環境整備」に加え、幼児児童生徒の「個別の状況」に即して「合理的配慮」の提供が可能とするような条件整備に対する国等の義務のありようを検討すべきです。こうした視点からの検討がなければ、障害者権利条約の提起する「合理的配慮」に対するわが国教育行政の対応を検討したことにはなりません。
 具体的には、たとえば「施設・設備の整備」に関して、学校のバリアフリー化の一般的な推進(そのための予算措置やそれを根拠づける法令等の整備)に加えて、ある学校にバリアフリー環境を必要とする幼児児童生徒が就学する場合に、当該学校を優先的にバリアフリー化するための施設・設備整備費を国庫補助する仕組みを作ること、また、教職員の人的配置についても、学級数等に基づく基盤的な教員配置、教育課程上の必要等に対応する「加配」配置などに加えて、(学校設置者がその必要性を認めた「合理的配慮」を実現するための)「合理的配慮加配」(仮称)の規定を義務標準法などに新設することなどが検討されるべきです。

2.「合理的配慮」の決定手続き等について

(1)決定にあたっての基本的考え方(p4.2(1)○1、○2)

○1 目的に権利条約第24条第1項の柱書の内容を反映させるべき

 「合理的配慮」の前提として学校教育を求めるものについて整理し、その目的について権利条約第24条第1項(a)(b)(c)を挙げています。そして、これらの目的に合致するかどうかの観点が、合理的配慮の決定においては重要、と述べており、合理的配慮の検討にあたって非常に大切な部分であると認識します。
 権利条約の書きぶりは、(a)(b)(c)は第1項の柱書の権利の確保のためのもの、とされています。報告の「目的」の部分に、柱書の主要な要素である教育の権利、機会の均等の確保のためにあらゆる段階におけるインクルーシブ教育制度や生涯学習の確保を明確に位置づけるべきです。

【参考】権利条約第24条第1項 柱書

「締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、障害者を包容するあらゆる段階の教育制度及び生涯学習を確保する。当該教育制度及び生涯学習は、次のことを目的とする。」(2009年公定訳案)

「締約国は、教育についての障害者の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしに、かつ、機会の均等を基礎として実現するため、次のことを目的とするあらゆる段階における障害者を包容する教育制度及び生涯学習を確保する。」(2007年政府仮訳)

「締約国は、教育についての障害のある人の権利を認める。締約国は、この権利を差別なしにかつ機会の平等を基礎として実現するため、あらゆる段階におけるインクルーシブな教育制度及び生涯学習であって、次のことを目的とするものを確保する。」(長瀬・川島仮訳)

○2 合理的配慮の決定における留意点

 合理的配慮の内容等の決定において、権利条約の目的(第1条)と原則(第3条(a))に規定する個人としての固有の「尊厳」という観点を入れるべきです。求められた配慮が、ある程度均衡を逸した、過度な負担になりうる客観的な状況にあり、それを代替する配慮を行う際の基準の一つと明記すべきです。これは権利条約の解釈上導き出されるもので、大変重要です。

○3 決定と見直しについて(p4、5。2-(2)(3))

 決定・見直しに本人、保護者が決定にも参画することができるように明記すべきです。合理的配慮の提供は原則本人・保護者の同意が必要です。例外的に合意ができない場合に第三者機関での調整という形があるべき形です。見直しの部分で(p5)、「個別支援計画に基づく関係者の会議」と触れられているだけで、本人・保護者参画が不明確です。明確に規定すべきです。

3.基礎的環境整備について

(1)全般的に基礎的環境整備と合理的配慮の概念区別が不明、条約違反の疑い

 財源確保が必要なことは言を待ちませんが、報告の中では、基礎的環境整備を行ったうえで合理的配慮を行う、合理的配慮同様に基礎的環境整備も均衡を失した過度の負担を考慮する、合理的配慮は基礎的環境整備を基に個別に決定されるもの、とあります。

○1 どこまでが合理的配慮でどこまでがそうでないのか全く不明です。「合理的配慮」とは、まずは現状の中で個別具体的な場面で、個人などが請求し、関係者と交渉しながら配慮の内容を決める、というものです。基礎的環境整備の内容が不明であり、合理的配慮とどのように違うのか全く不明です。概念の混同が見られます。

○2 報告の内容がそのまま制度化された場合、基礎的環境整備ができていないと合理的配慮を請求することすらできない可能性が出てきます。(p.7○3「なお、「合理的配慮」は、「基礎的環境整備」のもとに個別に決定されるものであり、それぞれの学校における「基礎的環境整備」の状況により、提供される「合理的配慮」は異なる」)。これは、権利条約に抵触する可能性があります。

【参考】権利条約 第五条 平等及び差別されないこと

1 締約国は、すべての者が、法律の前に又は法律に基づいて平等であり、並びにいかなる差別もなしに法律による平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認める。

2 締約国は、障害を理由とするあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等のかつ効果的な法的保護を障害者に保障する。

3 締約国は、平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するためのすべての適当な措置をとる。

4 障害者の事実上の平等を促進し、又は達成するために必要な特別の措置は、この条約に規定する差別と解してはならない。

(2007年、政府仮約)

(2)基礎的環境整備の数値目標

 この報告ではインクルーシブ教育制度整備と基礎的環境整備が密接にリンクしているように思われます。そうであるならば、原則インクルーシブ教育制度を規定している権利条約の批准の一番の「肝」の部分となり、単に施策の目標というわけにいかない問題です。障害者団体、関係団体などの参画のもと、短期、中期、長期の数値目標を定め、実行し、チェックし、修正等の行動を起こすPDCAサイクルのようなものを法制度で明確にして実施すべき旨を明記すべきです。

(3)合理的配慮の段階適用

 基礎的環境整備ができないと合理的配慮ができない、というのは先述の通り、条約に抵触する可能性があります。例えば、合理的配慮実施義務は教育機関別に段階的に適用するという立法技術もあります。ちなみに、基本的環境整備は、合理的配慮義務の適用に合わせて作られるべきものです。

【参考】韓国障害者差別禁止法施行令

■別表2:教育機関の段階的適用範囲(第9条関連)

1.次の各目の施設:2009年4月11日から適用

 カ.国・公・私立特殊学校

 ナ.「幼児教育法」による国・公立幼稚園の中で特殊クラスが設置された幼稚園

 タ.「初・中等教育法」による各級学校の中で、特殊学級が設置された国・公立各級学校、

 ラ.「嬰幼児教育法」に基づく障害児を専門的に担当する保育施設

2.次の各目の施設:2011年4月11日から適用

 カ.第1号ナ目以外の「幼児教育法」に伴う国・公立幼稚園

 ナ.「初・中等教育法」に伴う国・公・私立各級学校(第1号タ目も学校は除外する)

 タ.「高等教育法」に伴う国・公・私立各級学校

 ラ.保育する嬰幼児の数が100人以上の国・公立及び法人の保育施設(第1号ラ目の施設は除外する)

 マ.「英才教育振興法」第2条に伴う英才学校と英才教育院

3.次の各目の施設:2013年4月11日から適用

 カ.「幼児教育法」に伴う私立幼稚園

 ナ.「生涯教育法」第20条による学校形態の単位認定生涯教育施設及び同法第30条による学校付設の生涯教育施設、

 タ.ナ目以外の生涯教育施設。「単位認定等に関する法律」において定めた評価認定を受けた教育訓練機関及び「職業教育訓練促進法」に伴う職業教育訓練機関の中で、1000平方メートル以上の規模の教育機関。但し、遠隔大学形態の生涯教育施設は延面積2500平方メートル以上の規模の生涯教育施設に限る。

 ラ.国公立及び法人が設置した保育施設、

 マ.「教員等の研修に関する規定」第2条第1項による研修機関

 バ.「公務員教育訓練法」第3条第1項による中央教育研修院及び第4条第1項に伴う専門教育訓練機関

(4)個別の教育支援計画、指導計画の拡大(p.8。3-(3))

 この報告では、普通学級等の合理的配慮は個別教育支援計画や指導計画とリンクしています。そうであるならば、これも基礎的環境整備と同様、原則インクルーシブ教育制度を規定している権利条約の批准の一番の「肝」の部分となり、単に施策の目標として対象者を広げていくというわけにいかない問題です。

4.その他

 障害者権利条約をはじめとする国際人権条約や差別禁止法制について専門的に議論している障害者制度改革推進会議差別禁止部会と連携してください。

 

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)