資料6-1:特別支援教育の在り方に関する特別委員会論点整理(平成22年12月24日)抜粋

1.インクルーシブ教育システム構築に向けての特別支援教育の方向性について

(3)インクルーシブ教育システムと地域性

○1 インクルーシブな社会の実現のためには、障害のある当事者がどれだけ社会に参加できるかということが問われる。インクルーシブ教育システムの推進に当たっては、普段から地域に障害のある人がいるということが認知され、障害のある人と地域住民や保護者とが相互に理解していることも重要である。学校のみならず地域の様々な場面において、どう生活支援していくかという観点も必要である。学校運営協議会制度(コミュニティ・スクール)や学校支援地域本部など地域と連携した学校づくりを進めるに際しても、各学校は、障害のある子どもへの対応も念頭に地域の理解と協力を得た連携の取組を考えていく必要がある。また、特別支援学校に在籍する子どもについて、一部の自治体で実施している居住地校に副次的な学籍を置く取組については、居住地域との結び付きを強めるために意義がある。今後、地域の学校に学籍を置くことについても検討していく必要がある。

○2 地域の実情(交通アクセス、医療、福祉サービスが充実している都市部とその対極的な地域など)は様々であるが、どの地域の学校においても等しく達成されるべきもの(ナショナルミニマム)は何であるかという点に国は留意して制度設計すべきである。一方、地域の状況に応じた柔軟な選択肢があっても良い。

○3 地域内の教育資源(幼・小・中・高等学校及び特別支援学校等、特別支援学級、通級指導教室)それぞれの単体だけでは、そこに住んでいる子ども一人一人の教育的ニーズに応えることは難しい。こうした域内の教育資源の組合せ(スクールクラスター)により域内のすべての子ども一人一人の教育的ニーズに応え、各地域におけるインクルーシブ教育システムを構築することが考えられる。その際、交流及び共同学習の推進や特別支援学校のセンター的機能の活用が効果的である。さらに、特別支援学校は都道府県教育委員会に設置義務があり、小・中学校は市町村教育委員会に設置義務があることから、両者の連携の円滑化を図るための仕組みを検討していく必要がある。なお、通学の利便性の向上のため、特別支援学校の分教室を設置するなど、特別支援教育の地域化を推進している都道府県もある。また、通級による指導についても、児童生徒の負担軽減のため、巡回による指導により、児童生徒の在籍校において実施している例もある。今後こうした例を地域の状況等を考慮しながら広め、多様な仕組みの構築の方向を目指すことが重要である。

○4 インクルーシブ教育システムを構築する上では、福祉、医療、労働などの関係機関等との適切な連携が重要である。このためには、関係行政機関等の相互連携の下で広域的な地域支援のための有機的なネットワークが形成されることが有効であり、既に各都道府県レベルで「障害保健福祉圏域」や教育事務所単位での支援地域の設定などが行われている。それら支援地域内の有機的なネットワークを十分機能させるためには、保護者支援を行うこと、連絡協議会を設置することや個別の教育支援計画を相互に連携して作成・活用することが重要である。今後、関係機関に警察や司法も加えていくことについて検討していく必要がある。

○5 インクルーシブ教育システムの構築に当たり、障害のある子どもの地域における生活を支援する観点から、地域における社会福祉施策や障害者雇用施策と特別支援教育との一層の連携強化といった広い視野を持って取り組む必要がある。また、卒業後の就労・自立・社会参加も含めた共生社会の構築を考える必要がある。

○6 例えば、障害が重度の児童生徒等に適切な教育を提供するためには、施設・整備等の基礎的条件の整備、充分な知識と技量を持った教育スタッフチームの配置・育成、看護師と教員が連携した医療的ケアの実施体制の整備が必要であるが、これらの条件整備を地域で計画的に進める必要がある。また、キャリア教育の観点からは、ソーシャルワーク(人々の生活を社会的な視点から捉え、その解決を支援すること)が非常に重要であるが、それを学校、教員だけで行うことには無理がある。地域の中で、ソーシャルワークの機能をきちんと確保することが重要である。

○7 病院に入院した際は、病院にある学校や学級に籍を移動しなければ教育を受けることができない。退院すると地域の学校に戻るということや、近年は入院が短期化してきていることを踏まえ、現在の特別支援学校、病院内に設置された学級と地域の学校における転学手続の運用等を一層柔軟にしていくべきである。

2.就学相談・就学先決定の在り方について

(1)早期からの教育相談・支援

○1 子どもの教育的ニーズに応じた支援を保障するためには、乳幼児期を含め早期から教育相談や就学相談を行うことにより、本人・保護者に十分情報を提供し、本人・保護者と学校、市町村教育委員会が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を図りながら決定していくことが重要である。そのため、就学前から保護者も加わって専門家の意見を聴きながら、市町村教育委員会が個別の教育支援計画(*1)を作成していくことが重要である。その際、子どもの教育的ニーズや困難に対応した支援という観点から作成することが必要である。

○2 乳児期から幼児期にかけて子どもが専門的な教育が受けられる体制を医療・福祉・教育の連携の下に早急に確立することが必要である。そのことにより、高い教育的効果が期待できる。特に、視覚障害者、聴覚障害者を対象とした特別支援学校については、同じ障害のある一定規模の学習集団があることが重要であり、幼稚部以前の早期からの相談体制、教育体制を更に充実させることが必要である。また、それ以外の障害種についても早期支援が重要である。

○3 市町村教育委員会は、医療や福祉等の関係部局との連携や地域との連携を十分に図り、例えば乳幼児検診の結果を必要に応じて共有し、必要な支援を行うことが必要である。また、近隣の特別支援学校、都道府県の特別支援教育センター(都道府県の教育センター特別支援教育担当部門や市町村の教育センターを含む。)等の地域の資源の活用を十分図り、相談・支援体制の充実に努めることが必要である。

 (*1)医療、保健、福祉、労働等の関係機関との連携を図りつつ、乳幼児期から学校卒業後までの長期的な視点に立って一貫した的確な教育的支援を行うために、障害のある幼児児童生徒一人一人について支援の内容を示した計画

(3)一貫した支援の仕組み

○1 できる限り早期から成人に至るまで一貫した指導・支援ができるように、すべての子どもの成長記録や生活の様子、指導内容に関するあらゆる情報を記録し、必要に応じて関係機関が共有できる相談支援ファイルを作成している例もある。これは、関係機関が共有することにより、就学先決定、転学、就労判定する時の資料にもなることから、個人情報の活用について、保護者の理解と協力を得るとともに、情報の取扱いに留意して活用を図っていくことが必要である。例えば、幼稚園や保育所と小学校との間や小学校と中学校との間でそれぞれ連携・情報交換を進めることも考えられる。

○2 個別の教育支援計画、個別の指導計画については、現在、特別支援学校の学習指導要領には作成が明記されているが、幼・小・中・高等学校等で学ぶ障害のある幼児児童生徒については、必要に応じて作成されることとなっており、必ず作成することとなっていない。これを障害のある児童生徒等全てに拡大していくことが望ましい。

○3 一部の自治体では、市内在住の就学を迎えるすべての子どもを対象として、就学支援シートを作成し、それぞれの学校で保護者と担任等が子どもの学校生活、学習内容を検討するに当たり、活用しており、このような取組を拡大することも重要である。

○4 特別支援学校では、個別の教育支援計画を活用し、幼稚部・小学部・中学部・高等部で一貫性のあるキャリア教育を推進し、卒業後の継続した支援を行っている。また、進路指導において、子どもが自分の進路計画を自ら作っていくというような取組も始まっている。これらの取組を一層発展させるとともに、特別支援学校以外の障害のある子どもにも広げていくことが望ましい。

○5 社会の中で自立していくための教育という意味でキャリア教育と特別支援教育の考え方には共通するものがある。社会環境の変化が大きくなっていく中、特別支援学校・特別支援学級で行われてきている自立支援、職業教育や職場体験というものを更に発展させ、進化させていくべきである。

4.教職員の確保及び専門性向上のための方策について

(現状と課題)

○教職員の専門性の確保については、特別支援学校教諭免許状の取得率が特別支援学校の教員で約7割、特別支援学級担当教員で約3割と、現在の特別支援教育の大きな課題となっている。また、現職の教員の資質向上のためには、特別支援教育についての研修は喫緊の課題であり、効率的で有効な研修を行うことが重要である。また、教職員への障害のある者の採用・人事配置は課題となっている。

(1)教職員の専門性の確保

○1 すべての子どもに実質的に効果のある教育を実践するためには、まずは受け入れる側の教員の専門性を確実にあげ、指導技術を担保することが必須要件である。その際、知識だけでなく様々なスキルをどう高めていくか、そのためには何が必要かということが大きなテーマである。

○2 特別支援教育の専門性について、例えば、米国や英国で行われているように、高発生頻度障害(発達障害等発生頻度が非常に高い障害)については基本の情報として、すべての教員が有することとし、低発生頻度障害(視覚障害、聴覚障害、重度・重複等)については担当教員が専門性を高めるという形で、高発生頻度と低発生頻度を分けて専門性を向上させる取組を日本でも参考にする必要がある。

○3 小・中学校等の特別支援教育担当教員は、特別支援教育の重要な担い手であり、その教育の質を支えるとともに、その専門性が校内に与える影響は大きいことから、特別支援学校における勤務等により特別支援教育の中核となる教員を養成し、そういった人材を障害のある子どもの教育的ニーズや学校の状況に応じ、各学校に配置するなど人事上の配慮を行うことが考えられる。また、特別支援学校としての障害種ごとの専門性を確保していくことを考慮した上で、同一校における教員の在職年数の延長など弾力的な人事上の配慮を行うことも考えられる。

○4 特別支援教育コーディネーターについては、専門性を持った教員が専任で配置されることで、学校全体の教員の資質・能力の向上に指導的な役割を果たすことが期待できることから、専門性を高めるための方策について今後検討していく必要がある。例えば、専門的な知識・技能に加えて、地域のネットワークの中で、効果的な支援ができるよう調整する能力を向上するための研修を実施することも考えられる。また、各学校において、特別支援教育の体制充実のための組織強化を図る学校経営を行うとともに、その評価を検討していく必要がある。

(2)教職員の養成・研修制度の在り方

○1 すべての教員が特別支援教育についての専門性を持っていることが望ましい。現在、教員養成段階で、特別支援教育に関する内容を取り扱うことになっているが、通常の学級の担任、特別支援学級担当教員について何らかの専門性向上のための方策を検討していく必要がある。例えば、通常の学級の教員については、大学で特別支援教育関係の単位を修得することが望ましい。また、小・中学校等において特別支援教育を担当する教員(特別支援学級や通級による指導の担当教員、特別支援教育コーディネーター)のための免許状を創設することなども考えられる。さらに、特別支援学校教諭の免許状を保有せずに特別支援学校の教員となることが可能とされている現行制度の見直しを検討する必要がある。今後、教員免許制度全般についての検討の中で、特別支援教育関係の単位修得や免許制度の在り方等について検討される必要がある。

○2 都道府県や市町村での特別支援教育に関する研修をすべての教職員に必要なものとして実施するか検討が必要である。まずは、校長等管理職を対象として、特別支援教育、特に発達障害に関する研修を集中的に行うことが必要である。特別支援教育についての多様な研修とともに、学級経営、学校経営といった研修においても特別支援教育を意識して取り組む必要がある。この場合、多忙な教員に配慮した効果的・効率的な研修の実施が求められる。また、教育委員会が主催する研修の実施に当たっては、国・私立学校関係者や保育所関係者も受講できるようにすることが望ましい。

○3 特別支援教育に関する教職員の資質、能力としては、すべての教職員が最低限身に付けていなければならない特別支援教育の理念及び障害に対する基本的な知識・技能等や、実際に特別支援教育に携わる場合に身に付けるべき専門的な知識・技能等を、経験年次別研修や職務別研修を通して、身に付けられるようにしていくべきである。例えば、特別支援学級の新任担当者研修の形で実施することも考えられる。また、免許状更新講習の中により明確に位置付けて実施することも考えられる。

○4 校内研修等での教職経験豊かな教員を中心とした教員間の学び合い、支え合いにより、学校内で専門的知識・技能等を受け継いでいくことが重要である。国の事業として実施している「特別支援教育総合推進事業」により、校内研修を支援しており、各学校で抱える様々な課題について、特別支援学校や特別支援教育センターが助言、協議する研修を組んでいる。ただし、校内における研修は重要であるものの、OJT(On the job training、職場内研修)だけでは、体系的な知識が身に付かないことから、研修と実践を効果的に組み合わせることが適当である。

○5 発達障害に対応できる大学関係者、精神科医、小児神経科医などが地域で不足しているといった現状もあり、その対応策としても、各地域にある特別支援学校が巡回相談や研修会の実施といったセンター的機能を果たしていくことも重要である。

○6 特別支援教育の支援員の活用を図るということも、各都道府県教育委員会で行われているが、支援員の質の向上が課題であり、研修を計画的に実施していく必要がある。

○7 全国的に特別支援教育の質の向上を図るため、特別支援教育のナショナルセンターである独立行政法人国立特別支援教育総合研究所が実施する研究事業、研修事業、情報普及事業等を一層推進していく必要がある。また、各大学における取組を国立特別支援教育総合研究所が促進していくとともに、関係者に情報提供していく必要がある。さらに、通信制大学においても、特別支援学校の教諭免許状取得に活用できる科目が開設されており、更なる充実・活用が求められる。

○8 特別支援学校については、専門性の向上のため、地域の関係機関との連携による研修、大学等との研修を実施していくことが重要である。

(3)教職員への障害のある者の採用・人事配置

○1 児童生徒等にとって、障害のある教職員が身近にいることは、障害のある人に対する知識が深まるとともに、障害のある児童生徒等にとってのロールモデル(具体的な行動技術や行動事例を模倣・学習する対象となる人材)となるなどの効果が期待されるので、特別支援学校をはじめ様々な学校において、障害のある当事者の教職員が確保されるよう、採用や人事配置について配慮する必要がある。

 

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