資料4-3:木舩委員 提出資料

第13回特別委員会の議題である特別支援教室構想及び教員の専門性について

広島大学大学院教育学研究科  木舩 憲幸

1.はじめに :論点を整理する観点について

 論点を整理するにあたって,2つの観点から整理してみてはどうかと考えました。
 第1の観点は,現行の制度の下で推進が可能な内容です。この観点では,これまでの特別支援教育の成果をふまえて,現在の特別支援教育の制度の中で施策をより一層推進することによって,今後の特別支援教育の推進或いはインクルーシブ教育システムの構築に資することのできる内容として考えてみました。おそらくは短期的課題として位置づけることができるものだと考えています。
 第2の観点は,制度の改正(法令の改正を含む)が必要であり,そのためには多方面からの慎重な論議が必要な内容として考えてみました。おそらくは中・長期的課題として位置づけることが適当であるものと考えています。
 今回は,この2つの観点の中から第1の観点,つまり【現行制度化で可能と思われる提案】について,第13回に議論された論点を取りあげて意見をまとめてみました。なお,一部の論点については,【現行制度を基本として一定の見直しで可能と思われる提案】も付け加えています。また,特別支援学校教員養成に関する最後の2つの論点(4と5)に関しては現状に関する情報提供にとどめています。

2.特別支援教室構想,特別支援学級及び通級による指導に関して

(関連資料:第13回,資料2 交流及び共同学習,副次的な学籍,特別支援教室構想等について)

【現状】

 特別支援学級及び通級指導教室については未設置校がある。この未設置校の比率については地域差が大きいと考えられる。

○全国的な状況

表1 特別支援学級の設置率と通級による指導を受けている児童生徒数指導教室
   学校基本調査(平成22年度)及び特別支援教育資料(平成22年度)より

小学校・中学校数(学校基本調査,平成22年度)

 小学校

22,000校

 中学校

10,815校

特別支援学級設置校

22,881校(69.2%)

44,010学級

145,431人

 特別支援学級設置小学校

15,501校(70.5%)

30,367学級

101,019人

 特別支援学級設置中学校

7,380校(68.2%)

13,643学級

44,412人

通級による指導

60,637人 (特別支援教育資料,平成22年度)

 小学校

56,254人

 中学校

4,383人

※特別支援学級は,小・中学校を合わせて約7割の学校で設置されており,この割合は,特別支援学級数と同様,毎年増加している。

 

○いくつかの地域の状況についての例示

 ここで例示した地域は,筆者が勤務している広島大学がある広島県及び筆者が就学指導委員として関わっている北九州市を取りあげた。なお,特別支援学級については,特別委員会第12回の資料から上越市の例も示した。

 

表2 公立校における特別支援学級設置率(設置学校数/学校数)平成23年度

 

小学校

中学校

上越市*

96.3%(54校中52校117学級)

100%(22校中22校44学級)

広島県**

80.3%

82.7%

北九州市***

55.7%

54.8%

* 特別委員会第12回,資料4-1より算出した

** 県内の地域別の設置率を見ると,小学校で26.5%から100%と地域間の差が大きい。また,都会地区或いは人口の多い地区の設置率が高い傾向がうかがわれる。

*** 市内の行政区別の設置率を見ると,小学校で36.4%から87.5%である。

 

表3 公立校における通級指導教室設置率(設置学校数/学校数)平成23年度

 

小学校

中学校

広島県*

7.6%

1.6%

北九州市**

9.2%

6.5%

* 県内の地域別の設置率を見ると,小学校で0%の市町が半数を占めており,最小で0%から最大で16.7%である。

** 市内の行政区別の設置率を見ると,最小で0%から最大で25%である。

 

【現行制度化で可能と思われる提案】

○特別支援学級

 特別支援学級については現行制度の下で設置を推進することで,未設置校を減少させて,通常の学校における特別支援教育の環境整備を行うことができる。これまで,一人の児童生徒での特別支援学級の新設が行われてきている実績がある。裏付けとなる財政の状況を含む様々な要因によって,この様な新設が困難になっている地域があるとも聞いている。従って,財政的な支援と同時に多面的な支援が必要ととなる。
 多くの学校に特別支援学級が設置されることにより,

○1 居住地校に特別支援学級がない場合には居住地校以外の特別支援学級のある学校に入学することに伴う課題の解決に寄与できる。なお,議論するにあたっては,居住地校以外の特別支援学級のある学校に入学している児童生徒の比率が参考データとしてあるとよい。

○2 同一校内での交流及び共同学習(第13回資料2,1.交流及び共同学習,p1-4)の推進に寄与できる。

○3 地域内の教育資源の組み合わせによる各地域におけるインクルーシブ教育システムの構築(第13回資料2,5.域内の教育的資源を組織的に活用した特別支援教育について,p11-12)の推進に寄与できる。

○4 特別支援教室構想の基礎・準備となる教育的資源の量的・質的整備として位置づけることができる。

○通級指導教室

 通級指導教室についても現行制度の下で設置を推進することで,未設置校を減少させて,通常の学校における特別支援教育の環境整備を行うことができる。特に通常の学級に在籍する発達障害児の比率が6%程度と高いことを考えると,通級指導教室の整備についての希望は多いと考えられる。
 多くの学校に通級指導教室が設置されることにより,上記の○3○4の効果に加えて,

○5 他校通級による児童生徒の移動や教員の巡回指導に伴う課題等の解決に寄与できる。

 

【現行制度を基本として一定の見直しで可能と思われる提案】

○特別支援学級については,一学級の児童生徒数の基準を見直してより少人数の児童生徒数での教員配置を行うことで,環境整備を推進することができる。通級指導教室については,指導時間の基準を見直してより少時間の指導数での教員配置を行うことで,環境整備を推進することができる。
 これらのことによる効果としては,上記の○1○2○3○4○5に加えて,

○6 現行の特別支援学級及び通級による指導のより柔軟な運用による,より丁寧な指導・支援の充実をはかることができる。

<見直しと論議の必要な内容>

○7 特別支援学級の一学級あたりの児童生徒数の見直し
(関連する検討課題として,特別支援学校の単一障害学級及び重複障害学級の児童生徒数についても,併せて議論することがよいと考えている。)

○8 通級指導教室の教員配置の算定基準となる指導時間数の見直し

 

3.特別支援教育担当教員以外の教員の専門性

 (関連資料:第13回,資料5 教職員の確保及び専門性の向上についての論点,資料6  特別支援教育の在り方に関する特別委員会(第12回:9月15日)教職員の確保及び専門性の向上に関する主な意見,資料7 特別支援教育に係る教職員免許状について)

【現状】

○教育職員免許法施行規則より

表4 教育職員免許法施行規則(小学校一種免許を取得する課程の単位数)

小学校免許科目(59)

 教職に関する科目(41)

 教科に関する科目(8)

 教科又は教職に関する科目(10)

 現行の「教育職員免許法施行規則」の「教職に関する科目」の中の第三欄「教育の基礎理論に関する科目(6単位)」の中の下位区分の一つとして「幼児児童生徒の心身の発達及び学習の過程(障害のある幼児児童生徒の心身の発達及び学習の過程を含む)(2単位)」が明記されている。(障害のある幼児児童生徒の心身の発達及び学習の過程を含む)とあるように,「含む」である。どの程度の時間数を含むのか,どの様な内容かは各大学に任されている。

○各大学の取り組みの様子(教職科目について)

 「幼児児童生徒の心身の発達及び学習の過程(障害のある幼児児童生徒の心身の発達及び学習の過程を含む)」科目を開設し,さらに(障害のある幼児児童生徒の心身の発達及び学習の過程)に特化した科目を別開講している大学が複数ある。ある大学の受講状況では,当然のことながら,小学校免許状を取得する学生の受講が多数を占めていた。これは,通常の学級のすべての教員に求められる専門性の向上に寄与するものである。多くの大学での開講が望まれる。

○その他の課程認定において工夫できることについて

 課程認定においては,「特別支援教育の専門科目」を「教科又は教職に関する科目」としても認定を受けることができる。

○各大学の取り組みの様子(教科又は教職に関する科目について)

 ある大学ではこの様な課程認定以後に,小学校免許状を取得する学生が当該科目を受講する人数が増えた実績がある。これは,通常の学級のすべての教員に求められる専門性の向上に寄与するものである。多くの大学での開講が望まれる。

 

【現行制度化で可能と思われる提案】

○(障害のある幼児児童生徒の心身の発達及び学習の過程)に特化した科目の開設を推奨する。

○「特別支援教育の専門科目」の基礎的な内容の科目を「教科又は教職に関する科目」としても課程認定することを推奨する。

 

4.特別支援学校教員の養成に関してー基礎免許に関する情報提供ー

 学校教育法第72条に述べられている「準ずる教育」については基礎免許の有無が関連する。
 特別支援教育資料(平成22年度)では,特別支援学校教諭免許状の課程認定を受けた大学の一覧がある。しかし,各大学の受けている基礎免許状に関する資料は見あたらなかった。そこで,大学ホームページで検索してみた。なお,筆者が勤務している広島大学がある中国四国地区と教員養成大学を取りあげてみた。

 

表5 特別支援学校教諭免許状の課程認定を受けた大学における基礎免許状

大学名(特別支援学校免許) 

 小学校免許 又は 中学校免許

【中国四国地区】

 

 

島根大学(知,肢,病)

○一種

 

岡山大学(知,肢,病)

○一種

○一種

山口大学(知,肢,病)

○一種

○一種

広島大学(視,聴,知,肢,病)

○一種

 

香川大学(知,肢,病)

○一種

○一種

愛媛大学(聴,知,肢,病)

○一種

 

鳥取大学(知,肢,病)

確認できなかった

高知大学(知,肢,病)

確認できなかった

【教員養成大学】

 

 

北海道教育大学(知,肢,病)

○二種

 

宮城教育大学(視,聴,知,肢,病)

○一種

○一種

東京学芸大学(聴,知,肢,病)

○一種

○一種

愛知教育大学(聴,知,肢,病)

○一種

○二種(副免として)

京都教育大学(知,肢,病)

○一種

 

大阪教育大学(視,聴,知,肢,病)

○一種

 

奈良教育大学(知,肢,病)

○一種

○一種

福岡教育大学(視,聴,知,肢,病)

○一種

○一種

上越教育大学(学部コースなし)

 

兵庫教育大学(学部コースなし)

 

鳴門教育大学(知,肢,病)    

確認できなかった

 注.( )は認定を受けている特別支援学校免許状の教育領域

 

 表5の通り,中学校免許が取得できる大学は多くない。また,中学校免許については学生が希望する一つの教科について取得できる状況である。従って,中学校の全教科についての需要に応じられる状況とは言えないと思われる。

 

5.特別支援学校教員の養成に係る大学での修得単位数と卒業要件単位数の現状

  に関する情報提供

  教育職員免許法において,特別支援学校の教員は,幼稚園,小学校,中学校又は高等学校の教諭免許状のほか,特別支援学校教諭免許状を有していなければならない旨が定められている(法第3条第3項)。このため,大学において特別支援学校免許を取得するためには,例えば小学校免許と特別支援学校免許の2つの免許取得に必要な単位を取得しなければならない。また,大学の卒業要件単位は大学設置基準で最低124単位と定められている。

 

 表6 大学の卒業単位と免許科目の一覧表の例(広島大学の場合)

 

特別支援学校一種免許を取得する課程の単位数 

小学校一種免許を取得する課程の単位数

教養教育科目

31

31

専門科目

97
(1)基礎免許(小一種)科目53
 教職に関する科目45
 教科に関する科目8
  (注2)

(2)特別支援学校一種免許科目38
 (5教育領域で38) (注3)

(3)卒業研究6

99
(1)小学校一種免許科目93(59)
 教職に関する科目50(41)
 教科に関する科目12(8)
 教科又は教職に関する科目31(10)
  (注1)



(2)卒業研究6

合計

128単位 (注4)

130単位

注1. ( )内の数値は免許法施行規則で定める最低単位数

注2.教科又は教職に関する科目単位(10単位)は,特別支援教育科目6単位と教職科目4単位を充当(10)

注3.3領域(知肢病)の場合は26単位

注4.大学設置基準で定める卒業のための最低履修単位は,124単位

 

 表6から分かるとおり,

  ○1  小学校免許の課程に比べて,特別支援学校免許課程では小学校免許に関する科目の単位数が少なくなっている。つまり,小学校教員としての専門性は比較して低くなる。準ずる教育が特別支援学校の目的の1つであることからすると,これは1つの課題である。卒業要件単位を増やすか,教養教育の単位数を縮減しないと,この問題の解決は困難。

  ○2  教養教育を重視してその単位数を増やすと,専門科目の単位数が圧迫される。その場合には,現行の専門科目の単位数を維持するには卒業要件単位数をさらに増加させるという選択肢もある。

  ○3  小学校一種免許を取得する課程において,特別支援教育の専門性を高めるために特別支援教育科目を充実させるためには,小学校教員として専門性を高めるために開設している現行の科目を縮減するか,卒業要件単位数を増加させるか,という2つの方策から選択することになる。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)