資料4-2:新井埼玉県立本庄特別支援学校長 提出資料

「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」におけるヒアリング資料
「埼玉県立本庄特別支援学校における取組」

 

1 学校概要

 本校は、埼玉県の北部に位置する開校32年目の小学部、中学部、高等部からなる知的障害の特別支援学校である。校内に自立活動を専門に指導する教員(以下「自立活動部教員」)で構成する自立活動部を設置し、組織的な自立活動の時間における指導の展開を学校経営の柱の一つとし、障害の特性や教育的ニーズに応じた教育を推進することで、社会的自立を目指している。また、従来からの地域の小中学校等の支援に加え、就学前の幼児とその保護者を対象にした親子教室を設置し、地域に信頼される特別支援教育のセンター校としての取り組みを推進している。現在、176名(小学部49名、中学部31名、高等部96名)の児童生徒が在籍し、埼玉県の副次的な学籍である支援籍は、22名(通常学級支援籍19名、特別支援学校支援籍3名)の児童生徒が取得している。

2 支援籍について

(1)支援籍の趣旨と種類

 「支援籍」制度は、埼玉県がノーマライゼーションの理念に基づく教育を推進するための制度として、平成16年度試行的に実施し、平成18年度から本格的にスタートしたものである。支援籍は、障害のある児童生徒が必要な学習活動を行うために、在籍する学校または学級以外に置く埼玉県独自の学籍である。

 支援籍により行われる学習(以下「支援籍学習」)のねらいは、○1障害のある児童生徒とない児童生徒が一緒に学ぶ機会の拡大、○2特別な教育的支援を必要とする児童生徒を含め、障害のある児童生徒一人一人にきめ細かな教育の実現を図る、○3障害のない児童生徒の障害者に対する差別や偏見といった心の障壁を取り除く、○4障害のある児童生徒が個々のニーズに応じた支援を受け、地域とのつながりを広げることである。これにより、障害のない児童生徒にとっては、「心のバリアフリー」が育まれ、また、障害のある児童生徒にとっては、異なる環境に対する対応力や、大きな集団での社会性が培われることで、「社会で自立できる自信と力」を育むとともに地域とのつながりを広げる効果がある。

 支援籍には、その目的や内容によって、

  • 通常学級支援籍
  • 特別支援学級支援籍
  • 特別支援学校支援籍

の3つの種類がある。

 本校では、在籍する児童生徒が地元の小学校または中学校に支援籍を置いて学習を行う通常学級支援籍と、学区内の小中学校の通常学級や特別支援学級に在籍している特別な教育的ニーズのある児童生徒が、より専門的な教育を受けるために本校に支援籍を置いて学習を行う特別支援学校支援籍を実施している。

(2)通常学級支援籍の実際

○1 通常学級支援籍の取組について

 通常学級支援籍を実施する手順は、ア 本校の支援籍についての保護者説明会、イ 保護者への支援籍取得の希望調査(新転入生については、入学説明会時に調査)、ウ 個別の教育支援計画及び個別の指導計画の作成、エ 市町教育委員会に支援籍学習希望者の報告、オ 支援籍校との打ち合わせ(児童生徒の実態、日程、受け入れ態勢、内容等)、カ 支援籍学習の実施、キ 年度末評価と反省である。

 平成17年度より実施し、これまでに延べ116名(小学部89名、中学部27名)が取得している。

○2 学習内容について

 支援籍学習は、個別の教育支援計画及び個別の指導計画に基づく教育課程に位置づけた学習である。主な学習内容は、ア 学校行事への参加(運動会、音楽会、文化祭、遠足等)、イ 教科等への参加(音楽、体育、生活、家庭、図工、総合的な学習の時間等)、ウ 日常生活での交流(清掃、給食等)、エ 間接的な交流(ビデオレターの交換、学級通信の交換等)である。

○3 通学について

 本校の支援籍学習の通学は、保護者による送迎を基本とし、保護者の依頼による生活サポート等の福祉制度の活用による送迎により実施している。

○4 児童生徒の指導・介助について

 支援籍学習の指導・介助は、本校の担任等があたっている。また、指導・介助のために担任等が抜けた本校の授業へは、ボランティアの活用による後補充を行うことを基本としている。

○5 支援籍校での入学式への参加について

 平成21年度より、支援籍校への入学式参加の取組を実施している。これまでに、小学部1年生に入学した児童の中で7名が支援籍校での入学式に参加している。入学式で支援籍学習を行うことのねらいは、ア 学校だけでなく小学校の保護者及び地域の方々に理解を進めること、イ 支援籍校に在籍する児童生徒に「心のバリアフリー」を育むこと、ウ 本校へ入学する保護者が地域の中でともに育つ子であることを実感し、入学の喜びが持てることである。

 実施にあたっては、市町教育委員会より対象児童生徒に入学式での支援籍学習についての説明及び参加希望の意向聴取を行い、希望に基づいて本校が支援籍校と実施について打ち合わせを行っている。支援籍校での入学式参加を進めるために、本校の入学式は支援籍校の入学式とずらして実施している。支援籍校での入学式では、学級名簿の中に加えて掲示を行い、校長の式辞の中で支援籍学習により入学式に参加していることについてふれてもらうように依頼している。

(3)特別支援学校支援籍の実際

○1 特別支援学校支援籍取得について

 特別支援学校支援籍の取得は、保護者の意向を基本に、当該児童生徒の在籍校の支援の方針等を踏まえて、市町教育委員会から依頼を受けている。市町教育委員会の依頼に基づき、自立活動部教員の担当者を決め、在籍校の担任と支援期間、支援内容、実施日等について検討を行い、その後支援籍による指導を開始している。

○2 実施方法について

 支援籍の実施に当たっては、個別の教育支援計画に基づき個別の指導計画を作成し、計画的に実施をしている。教育課程上は自立活動として位置づけ、障害の特性に応じて児童生徒が抱える日常生活や学習上の困難さに対して専門的な学習支援を自立活動部教員が行っている。

 また、教育的ニーズに応じて当該学年の学級の授業に参加することもある。

 通学は、保護者の責任において行い、在籍校の担任等の教員による指導・介助を依頼して実施している。

○3 実施状況について

 平成18年度から実施し、6年間で延べ13名(小学部10名、中学部3名)が特別支援学校支援籍を取得している。

 自立活動の時間は、個別の指導計画に基づいて個々の児童生徒の実態により課題を設定し実施している。内容は、視覚記憶課題、聴覚記憶課題、目と手の協応動作に関する課題、コミュニケーションカードの使用に関する課題等である。

 また、学級活動への参加は、在籍する特別支援学級では集団的な学習活動が十分に行えない等の場合に行っている。

(4)支援籍を支えるボランティアの育成

 支援籍学習を普及させるためには、これを支えるボランティアの育成と活用が急務である。そのため、本校では、支援籍学習を支えるボランティアの育成・活用に向けて3つの事業に取り組んでいる。学区内の社会福祉協議会と連携した事業、近隣の大学と連携した事業、PTA組織と連携した事業である。

 社会福祉協議会と連携した事業では、平成16年度より、「すべての子どもが共に地域で学ぶための支援プログラム事業」(「共学支援プログラム事業」)として、社会福祉協議会主催の講座を設定している。主な内容は、障害の理解や特別支援学校の概要、保護者からの講話、体験実習等である。この講座修了後にボランティアバンク登録を行い、活動を開始する。平成22年度までに、登録者は30名に及んでいる。講座を参加した方からは、「障害のことをよく理解し、支援があれば、私たちも障害のある人もみな、共に生きる喜びを得ることができるのだと思った」、「障害のある子もない子も共に学び、お互いを認め合い、助け合える環境になるために、地域の理解や支えが大切だと思った」などの感想が寄せられている。

 これらの事業をきっかけとして、支援籍学習時には、担任が支援籍校へ指導・介助に出た際の後補充という形で、給食準備の介助、着替えの介助、授業の補助等の学習支援を行っている。後補充のボランティア以外にも、学校行事や学習支援に毎年多くの参加がある。昨年度は、支援籍学習の後補充を24回実施し、延べ293名のボランティア活動が行われた。

(5)成果

○1 通常学級支援籍について

 通常学級支援籍を実施し、保護者からは、「子供が学校外でも挨拶など関わることが出来た」、「子供が地域の小学生に対して親しみが持てるようになった」等の子供の変容に関することや、「地域の子供たちに名前を覚えられて安心」、「想像していたより、地域の子供たちに認知してもらえた」、「周囲に助けられて感謝の気持ちを持った」、「ノーマライゼーション社会への一歩であり応援している」等の感想が寄せられた。

 また、小中学校に在籍する児童生徒からは、「自分よりもできることがある」、「はじめはどのように話しかけたらいいか分からなかったけれど、話したら他の子と変わらない」、「一緒にダンスをすることができてうれしかった」等の感想が聞かれた。「地域で会うと声をかける」、「遊びに行った児童がいる」、「学級の仲間として見ることができるようになってきた」、「どうしたら一緒に楽しめるかを考えるようになった」等の変容が見られた。

 支援籍校では学級懇談の場面、学校便り、学級通信等で保護者への理解を進めてきている。支援籍校に在籍する児童生徒の保護者からは、「幼稚園が一緒で仲が良かったので、こういった(支援籍)機会でまた一緒になれてよかった」等の感想が寄せられている。

 支援籍校の入学式に参加した保護者からは、「同じ保育園の子がたくさんいたので安心して参加が出来た」、「幼稚園で一緒だった友達と会えなくなるのは寂しいと思っていましたが、地元の学校にも行けるのは大変うれしい」といった感想が寄せられている。支援籍校での入学式の参加は、支援籍校の保護者や地域の方々が支援籍学習について知る機会となった。また保護者にとっては、特別支援学校に入学することで地域との関わりが薄くなると感じていたが、支援籍によって地域とのつながりに継続性を感じることができる。

○2 特別支援学校支援籍について

 本校で特別支援学校支援籍を取得するのは、特別支援学級に在籍している児童生徒が中心である。特別支援学級の児童生徒が取得することで、在籍する人数が少ない特別支援学級の児童生徒に集団での活動機会を意図的に作れることや、保護者の障害の理解、障害の受容、就学先を考える機会にもなっている。また、在籍校の担任が、指導・介助で指導場面に入ることで、特別支援学級等に戻って指導の参考とすると共に、指導に関する相談の機会としても機能している。

3 小学部における交流学習について

 近隣の小学校と年間4回の交流学習を実施している。小学部1~3年生と交流先の小学校3年生による交流学習を、本校で1回、小学校で1回、同様に小学部4~6年生と交流先の小学校5年生による交流学習を、本校で1回、小学校で1回実施している。

 実施している交流学習の目的は、○1交流活動を通し、一緒に活動を楽しめるようにする、○2一緒に活動する中でお互いの理解と認識を深め、好ましい人間関係と思いやりの心を育てる、○3助け合いながら交流活動を行うことで経験領域を拡大し仲間意識を高める、ことである。活動内容は、歌、ダンス、集団ゲーム等である。交流会では、一緒に取り組める活動を用意することにより、互いに楽しく活動することができ、歩くペースを合わせるなど自然と相手を思いやる気持ちが育まれる様子が伺えた。

 交流学習を行う事前の交流活動として、お互いの写真や自己紹介カードの交換等を行い、事後の交流活動では感想文の交換や児童が制作した作品を贈る等をしている。

4 センター的機能について

 本校では、特別支援教育コーディネーターを専任で3名配置し、センター的機能の充実に努め、全職員で地域支援に取り組むことを重点目標に掲げている。

(1)相談・支援について

 小中学校等の教員への支援として、通常学級におけるADHDなど特別な教育的支援の必要な児童・生徒へのスモールステップでの指導方法や教材の工夫、発達検査の実施や活用、また特別支援学級の教育課程の編成や個別の教育支援計画、個別の指導計画の作成への支援を行っている。平成22年度は151件(幼稚園・保育園26件、小学校105件、中学校15件、高等学校等5件)の相談・支援を行った。また、保護者への支援として、巡回や来校による教育相談や就学にかかわる相談を行っている。平成22年度は341件(幼稚園・保育園22件、小学校256件、中学校62件、高等学校1件)の相談・支援を行った。

(2)早期支援について

 本校では、平成21年度から早期支援として、発達に心配のある4歳から6歳の就学前の幼児とその保護者を対象とした「ハート教室(親子教室)」を行っている。第3火曜日を基本として、年間10回ほど実施している。今年度までに46組の親子が参加している。幼児へは、リトミックや読み聞かせなど集団での遊びや活動を行い、保護者へは、本校の教員や外部専門家(医師、臨床心理士等)による学習会や教育相談を行っている。また、本校の保護者や卒業生の保護者を中心とした子育て応援団「はーと&きずな」を活用し、保護者相談会や子育て体験談等の支援を行っている。

(3)研究・研修支援について

 小中学校等への研究・研修支援として、研修会への講師の派遣や公開講座などを実施している。平成22年度は研究・研修支援を21件行った。更に今年度より、専門性の高い支援可能な分野の情報を地域の小中学校等へ提供し、積極的な支援を進めている。また、小中学校の特別支援教育コーディネーターを対象とした各種検査等のコーディネーター研修会や、学校公開講座、自立活動や生活単元学習等の公開による校内研修会などを30回ほど行っている。

(4)関係諸機関との連携について

 早期支援の充実のために、今年度、就学前関係機関連絡協議会(保育園、幼稚園、保健所、障害者支援センター、福祉課等)を2回実施し、ネットワーク作りや情報連携を進める。また、就労及び移行支援充実のため、本校の保護者や教職員を対象とした進路対策連絡協議会(特例子会社、就労支援センター、企業支援アドバイザー、福祉作業所等)を福祉就労と一般就労に分けて実施し、ネットワーク作りや情報連携を進める。

5 今後について

 本校での交流及び共同学習の推進にあたって、小学部の児童生徒と小学校との交流学習などの充実にも努めるとともに、埼玉県独自の学籍である支援籍を着実に実践し定着をさせている。支援籍制度は、児童生徒に「心のバリアフリー」を育み、障害のある児童生徒に「社会で自立できる自信と力」を育むとともに、障害のある児童生徒とない児童生徒が、共に育ち、共に生きる機会の拡大を図り、共生社会の実現を目指すものである。

 今後、支援籍学習の充実・深化を図るため、○1支援籍学習の内容の充実や質的・量的な向上を図る、○2特別支援学校に在籍する全ての児童生徒が原則として支援籍を取得し、居住地の小中学校で支援籍学習を実施できるようにする、○3制度の整備を図り、支援籍を支える仕組みを更に整える、○4本人・保護者・支援籍を進める関係者、地域の人々に対する支援籍制度の理解啓発をより一層推進する、ことが重要である。

 また、本校は特別支援学校としての専門性を高めながら、幼児等の早期支援を中心に小中学校等への地域支援(相談・研究・研修・教材教具等)の充実を図り、地域の特別支援教育のセンターとしての機能の充実に取り組んでいる。

 今後、ますます重要な役割が求められることからも、地域でより信頼される特別支援教育のセンターとして、その使命を十分に果たすため、全教員が専門的な力量を身に付け、自信と根拠をもって地域支援に取り組める人材の確保と育成を図る学校経営を実践することが責務である。

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)