1.全国聴覚障害教職員協議会意見書

平成22年10月22日

全国聴覚障害教職員協議会
会長 堀谷 留美

 

文部科学省中央教育審議会「特別支援教育の
在り方に関する特別委員会」への意見書

 

 平素は、聴覚に障害のある児童生徒の教育に関しまして、ご高配を賜り厚くお礼申しあげます。
 当会、全国聴覚障害教職員協議会は、全国の教育機関に勤務する聴覚障害者の団体です。聴覚障害教育に関するさまざまな理論と実践の交流研究を目的として平成8年に結成し、全国規模の団体として諸研修事業を推進しています。
 わが国の教育機関に従事する聴覚障害のある教職員は、当会の調査によれば332名おり、そのうち、聴覚障害教育を行う特別支援学校に勤務する聴覚障害者は、273名です。(平成22年7月現在)。
 当会の研修事業、調査事業により得られた知見をふまえて、今後の特別支援教育のあり方につきまして、次のように認識しています。ご検討のうえ、今後の文教政策に反映いただけますよう、よろしくお願い申しあげます。

 

1、教育現場への聴覚障害者の積極的な採用の更なる促進ならびに適切な職場環境の保障をお願いします。

障害のある教職員の役割については、次のことが挙げられます。

    ○同じ障害のある児童生徒が、自己の将来像を描く上での指針となる

    ○障害に応じた指導方法の工夫を同じ立場、また自身の経験をもとに実践、提案できる

    ○手話のみならず、個々の児童生徒にみあった多様なコミュニケーションモデルを提供できる

    ○保護者支援にあたり、当事者としての体験に基づいた適切な支援ができる

    ○障害のない教職員とよき関係を築くことにより、児童生徒、保護者に対して望ましい社会参加の関係モデルを提供できる

    ○視覚的補助機器の設置、手話通訳の配置等、障害に即した職場環境を学校園内で整備することに、当事者として関与することで社会にバリアフリーのモデルを示すことができる。

 

 聴覚障害のある教員は、当事者としての経験と知見を教育現場に反映させていく意味で聴覚特別支援学校(以下、聾学校)における中枢的役割をになう位置にあり、また今後の聴覚障害教育のありように影響を及ぼすものでもあり、その積極的な雇用を推進していただくようお願いします。また、異なる障害種の支援校、および通常学校に勤務する聴覚障害のある教職員については、次のような重要な意義をもっています。

    ○その教職員がもつ障害と配慮すべき諸事項について、校内外に啓発することで、社会的理解を広げることができる。

    ただし、次の条件が整えられてはじめて、聴覚障害教職員の能力が発揮されるものであり、その条件整備が不十分である現在、異なる障害種の支援校への配置は、きわめて慎重になされるべきものと考えます。

      ○1 教職員本人の希望・適性を尊重した適切な人事配置が行われていること

      ○2 通訳体制をはじめコミュニケーション保障等、職場におけるバリアフリー体制が整備されていること

 

 

2.障がい者制度改革推進会議の「障害者制度改革のための基本的な方向」における特別支援教育に関する記述は、インクルージョンのあり方、教育の専門性の向上等をめざすものとして基本的には賛同できるものですが、聴覚障害教育を担う聾学校の存続と活性化を図ることをお願いするものであります。

 

 聾学校が、その専門的役割によせる最重要ニーズとして期待される基盤は、次の通りであると考えます。

    ○手話、聴覚活用、口話法、言語指導、心理的支援、就労の支援等、様々な分野をカバーする専門性の向上と継承。これらの専門性は、様々な障害の特性に応じた指導技術の豊かさにつながるものと考える。

    ○手話を中核とした共通のコミュニケーション手段を持った集団の保障

      特に、聴覚障害のある児童生徒は、言語の教育において日本語学習と手話学習というバイリンガル教育を本質的ニーズとする固有の特徴がありますので、かれらのコミュニティが公教育において保障されなければなりません。聾学校と寄宿舎での生活を通して、障害の自己理解や公共性、協調性が育まれていくのであって、聾学校が単独校として存続されねばならない根拠をなすものであります。

    ○社会とのつながり、成人聴覚障害者とのつながり

      聴覚障害のある児童生徒は、年長者の聴覚障害者の多様なモデルが提供されてこそ、自己の近未来によせる肯定的な見通しをもつことができます。
      一部の聾学校は、学校開放事業の中で成人聴覚障害者を定期的に招聘し、さまざまなロールモデルを提供するという先進的な取り組みを実施しています。また、手話通訳派遣、就労支援や心理相談等において成人聴覚障害者団体との連携を深めていく中で聾学校の専門性を広げ、社会的信頼を積み上げている聾学校も数校存在しています。
      このような取り組みは、障害のある子どもの社会的自立と社会参加につながるものであり、聾学校における幅広い支援事業の促進をお願いするものです。

 

 

3.教員研修プログラムの充実を図るとともに、手話通訳、要約筆記通訳の派遣などの情報保障の促進をお願いします。

国および都道府県では、特別支援学校教員の専門性の確保のために、以下の取り組みが推進されています。

    ○各都道府県の教員を対象にした専門性向上事業

    ○特別支援学校教諭免許状に関する認定講習

    ○教育委員会主催の教員研修や校内研修等

 

 聴覚障害のある教職員は、上記を含めるさまざまな研修会に参加し、専門性の向上に努める責務があります。そのために、全国各地で図られるべき配慮事項は次の通りです。

    ○研修会における手話通訳等の情報保障と、研修に積極的に参加できるための環境整備

    ○手話通訳等の派遣にかかる公費保障の統一化

      都道府県によってばらつきがある。地域の格差をなくすために公費保障や派遣態様についての統一を図る必要がある。

    ○教員採用試験における聴覚障害者に対する配慮

      英語科のヒアリング試験の代替措置、音楽の楽器や歌唱等の実技試験等における配慮
      個人面接および集団面接試験におけるコミュニケーション保障
      (手話通訳、要約筆記通訳派遣等)
      この問題は、聴覚障害者の積極的採用の促進の課題ともかかわるものであり、十分な検討と各都道府県への周知徹底をお願いします。

 

以上

 

お問合せ先

初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)