資料11:渡辺立教大学教授提出資料

キャリア教育の理念と今後の課題について

 

立教大学大学院教授
渡辺 三枝子

1 キャリア教育の理解を推進するために

    「言葉の氾濫が放置されていること」の確認

    関連する用語の例 :

      進路指導、キャリアガイダンス、キャリアデザイン
      進路相談、キャリアカウンセリング、教育相談

    目的は同じであってもその目的に達する手段はいろいろ。

 

2 「キャリア教育」が叫ばれるようになった背景

    ○1 子どもたちの成育環境の変化(例:人口統計的変化、教育環境、社会・経済的環境、産業構造の変化)と学校教育の持つ現代的意義の再考

    ○2 高等学校における進路指導への批判

    ○3 若者の職業観に対する社会の関心と懸念  等

 

3 キャリア教育への誤解:理解を妨げている原因

    • 進路指導の新しい呼び方
    • エリート教育
    • 職業教育の新しい呼び方で、同じこと
    • 将来を設計させること・夢を持たせること
    • 児童生徒の適性を早く見つけて、それを実現させるようにすること
    • 職場体験をすること
    • 4領域8能力がキャリア教育の枠組み

 

4 キャリア教育とは:教育改革の理念と方向性

    前提:

      当初は初等中等教育を対象として始まった。
      将来、児童生徒が、自立した社会人として生きていけるようになるための土台を発達させることは学校教育の使命

    ○1 キャリア教育は、一人一人のキャリア発達や個としての自立を促す視点から、従来の教育の在り方を幅広く見直し、改革していくための理念と方向性を示すもの。

    ○2 キャリアが子供の発達段階やその発達課題の達成と深くかかわりながら段階を追って発達していくことを踏まえ、子供たちの全人的成長・発達を促す視点に立った取組を積極的に進めること。

    ○3 子供たちのキャリア発達を支援する観点に立って、各教育の関連する諸活動を体系化し計画的、組織的に実施することができるよう、各学校が教育課程編成の在り方を見直していくこと。(平成16年キャリア教育の推進に関する報告書)

 

5 キャリア教育を理解するための提案

    ○1 「キャリア」の意味についての理解
    「さまざまな経験の積み重ねとその意味づけ、価値づけ」
    「個々人が生涯にわたって遂行するさまざまな立場や役割の連座及びその過程における自己と働くこととの関係つけや価値づけの累積」(報告書)

    ○2 「キャリア」をもって表現することは時代背景の影響を受けて変化してきたが、「キャリア」という言葉の根底に変わらない意味が含まれている
    時間的経過:「いま」の持つ重要性の再確認
    空間的広がり:学校は「もっとも身近な社会」であることの認識
    個別性:すべての児童生徒が対象であり、一人一人の児童生徒が自立に必要な基礎力を育てることに傾注

    ○3 職業観・勤労観(価値観)は自立的に社会の中で共生するための基礎

    ○4 学校は児童生徒にとって「生きる場」、「働く(学ぶ)場」であることの再認識

    ○5 キャリア教育は発達心理学(キャリア発達)を理論的枠組みとしている。
       したがって、児童生徒の「発達」の意味を理解することが大切

      例 小学生時代

        • 自分は大切な存在であること、学校でも家でも、地域でも受け入れられていることを体験できること
        • 学ぶことを通して自己のイメージを作りあげるので、学びに対して積極的になれるように働きかけること
        • 学びに成功体験ができること 等々

    ○6 小学校から中学校、中学校から高校あるいは社会への移行は危機的経験であり、同時に発達的意味をもつことの再確認、この移行を乗り越えて行けるように支援すること

      入学時の「新しい環境への適応」支援
       特別支援学校の場合はこの移行の危機を経験しないで済む可能性が高い。したがって、全学校段階を通しての発達的支援を考えることが可能となる。

    ○7 学校は「社会」であること:社会は学校外にあるのではない
       産業界は延長線上にある社会

 

6 キャリア教育を活かすための前提

    ○1 キャリア教育をどのように理解しているか。

    ○2 全教職員の理解は進んでいるのか。

    ○3 保護者の理解は進んでいるか。

    ○4 日頃から、我々は生徒をどのような眼で見、どのような態度で接してきたか。

    ○5 教員自身が社会の変化をどのように捉えているか。

 

7 就業・就労の意味

    ○1 経済危機に直面しているからこそ、教育の重要性を考える我々の役目

    ○2 3E(education、 economy、employment)の関係は複雑

    ○3 生涯学習時代であることを視野に入れて、教育、特に発達を促進させる教育の責任を感じる

    ○4 「働くこと(就職だけではない)」は社会の一員としての自尊心と成長の機会となる。

 

8 キャリア教育で教育者に求められること

    ○1 教育の意味、教師の役割の再確認

      教えながら育てる、児童生徒は学びながら育つ
      医療、福祉と違いを認識して初めて協働ができるはず

    ○2 個性重視の意味を正確に捉えること

      *生徒の興味、能力をいかすことではない。興味を見つけていることが大切
      *生徒(人間はみな)一人一人異なる存在であることの認識と行動化
       障害ばかりに目を奪われず全人的に生徒を見、かかわる姿が求められる
      *「個別の教育支援計画」「個別の指導計画」
      *「言葉で話しかけ、言葉で説明する」という基礎を教職員が実践すること

    ○3 生徒一人一人の発達を信じ、発達を観察し、発達を促す具体的な教育方針を作り、実践(PDCA)

    ○4 教職員間のコミュニケーションの広がりと深化が不可欠。

       人的ネットワークの基礎

      *組織間の連携

       小学校、中学校、企業、福祉作業所等、生徒が経験してきた、そしてこれから生きる社会との接触

    ○5 生徒への働きかけ

      *学校にいる間に多様な経験をさせる
      *好きなことから始まって、未経験のことへの挑戦を
      *学ぶ経験の面白さを増やす

    ○6 保護者への働きかけ

      自立を支える生活習慣の担当
      社会人として成長するように支える

    ○7 企業・事業所への働きかけ

      発達することを理解させる
      メンター的な人(job  coach等)を用意する
      企業などの社会的資源との関連を深める

    ○8 学校の役割

      卒業後、学校を心のよりどころと感じられるようにする
      (困った時の相談の場となる、励ましの場)

 

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初等中等教育局特別支援教育課

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