資料(1)特別支援教育におけるろう学校の現状と課題

添付資料(1)

特別支援教育におけるろう学校の現状と課題

財団法人全日本ろうあ連盟

 

1、特別支援教育によるろう学校の危機

 学校教育法が2007年に改正され特別支援教育制度が施行されたことに伴い、ろう学校の校名変更や休校・統廃合が全国ですすめられています。それに対して、ろう児の学力や人間性の発達の場、そして同じ障害を持ち共通のコミュニケーションでともに学びあう集団の場である私たちの母校、ろう学校を守る様々の取り組みも全国で行われています。
 静岡県では、2008年度に当連盟の加盟団体を中心とする強い校名変更反対運動がマスコミなどで紹介されて全国の注目を集めました。ろう学校の名称が「聴覚特別支援学校」に変更になったものの、静岡県議会では、議決の際、○1ろうであることの誇りを尊重する。○2他の障害種と統合しない。○3手話教育、手話文化をおろそかにしない。ことを付帯条件にしました。
 大分県では、唯一の県立聾学校に知的障害の職業科の高等部を新設するために校名変更する方針が教育委員会から発表されました。加盟団体をはじめ在校生や保護者、卒業生などで「考える会」を結成し5000人以上の署名を集めています。
 富山県でも、2010年度から富山ろう学校と高岡ろう学校高等部に知的障害を受け入れて「聴覚総合支援校」の名称に変更されました。加盟団体は教育現場で手話を自由に使える環境を築くことや児童と教職員が手話を習得することを指導計画や概要に記載することなどを求めています。
 山口県では、2008年4月に聾学校下関分校が山口南総合支援学校下関分校に改称されましたが、早くも2009年度を最後に休校されることになりました。6人の子どもたちは特別支援学級などへ転校を余儀なくされています。
 高知県では、県教育委員会が高知市内に急増する知的障害児対策として、一方的に高知市内にある高知ろう学校に日高養護学校分校を設置することを決めました。事前に説明も行わずすすめることに対して高知県聴覚障害者協会、高知県難聴児を持つ親の会が抗議し、知的障害者の親の会等とともに議会請願運動に取り組みました。2ヶ月間で16,000人の署名を集め、県協会会長が議会で陳述するなどの取り組みを行いましたが、議会で採択されるに至りませんでした。しかし、この運動は地元紙などで報道されるなど、ろう教育を守る世論形成のために大きな影響を与えました。
 大阪府では、大阪市立ろう学校の校舎老朽化・建て替えを名目に盲学校(視覚特別支援学校)への移転・併設案が教育委員会から一方的に発表されたことにより、今後、ろう協会や父母・関係者の取り組みが行われようとしています。
 このようにろう学校の価値や実績を顧みず、教育行政の都合で改名、統合、休校を極めて一方的に進められています。しかし、国(文科省)は、「聾学校」の名称を用いることは可能であるとの通知文を全国の教育委員会に送ってあります。また、各特別支援学校の扱う障害種別を明らかにする必要があるとの通知も出しています。このように「聾学校」の名称を用いることが可能であり、障害種別を明らかにする必要があるのであれば、「聾学校」という校名を使用すべきであるというのが全日本ろうあ連盟の見解です。各都道府県教育委員会は関係者の意見をよく聞き納得する進め方を行うよう要望します。

 

2、乳幼児への人工内耳装着

 マスコミでも大きく報道され論議を呼んだ北海道のろう学校教諭の人工内耳メーカーK社主催のオーストラリア研修問題を通して、新生児スクリーニングによる聴覚障害早期発見と相まって、乳幼児からの人工内耳装着が急激に増えています。教育機関も対応やあるべき姿を考えていかなければなりません。特に新生児聴覚スクリーニングによりリファー(再検査)になった父母の不安を取り除くために公的な相談支援機関の設置が求められています。その中心になるのは専門的知識や実践の豊富なろう学校であり、また、聴覚障害児の人生の先輩である成人モデルの聴覚障害者すなわち全日本ろうあ連盟の加盟団体、そして、手話についての専門機関である社会福祉法人全国手話研修センター、あるいは聴覚障害者情報提供施設が共同して相談支援センターを設け、父母へのフォローやアドバイスに尽くすことができるシステムが求められています。
 同時に、全日本ろうあ連盟は自らの意思を述べることのできない乳幼児への人工内耳装着が果たして必要欠くべからざることなのか、人権上、許されることなのかどうかを医療関係者などに疑問を投げかけています。全日本ろうあ連盟は耳鼻科医師やろう学校教師などと、あるべきろう教育の今後を考えていく場を、国(文科省、厚労省)の支援を得て設けていきたいと考えています。

 

3、ろう教育の実績をさらに発展させるために手話言語教育の研究機関の設置を

 障害者権利条約では手話を音声言語と対等な位置付けにするとともに、ろうの子どもの集団での教育、手話を言語として位置付けた教育の確立や、それにふさわしい教員の確保など、私たちの求める教育の姿が示されています。
 本年7月にカナダのバンクーバーで開かれた第21回国際ろう教育会議(ICED)では、ろう教育から手話の使用を排除したミラノ会議(1880年)の過ちを明確にする決議が行われています。(資料別紙添付)
 世界でも日本でも多数の国民と共同して手話言語を広め、自由な社会参加ができるようにすること、そのためには子どもの時から手話言語に触れ学び、アイデンティティを形成させるコミュニティとしてのろう学校の重要性を確認したいと思います。
 本年6月29日に閣議決定された「障害者制度改革の推進のための基本的な方向について」では「手話・点字等に通じた教員等の確保・専門性の向上にかかる方策」を平成24年内を目途に進めることが決められました。文科省及び厚労省はこの決定に基づき、我々当事者の代表は当然として、(社福)全国手話研修センターなども含めた検討委員会等の設置が必要であると考えています。

 

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初等中等教育局特別支援教育課

(初等中等教育局特別支援教育課)