資料2 公立学校教員の給与の在り方について(中間報告素案)

第一章 教員給与をはじめとした処遇改善の在り方についての基本的な考え方

  • 近年、我が国の社会は、グローバル化、情報化、少子化、高齢化など、社会構造の大きな変革期を迎えており、このような時代にあって、一人一人の国民の人格形成と国家・社会の形成者の育成を担う学校教育の重要性はますます高まってきている。「教育は人なり」といわれるように、学校教育の成否は教員の資質、能力や熱意に負うところがきわめて大きく、教員の職務は子どもたちの心身の発達に関わり、その人格形成に大きな影響を与える重要な責任を持っている。
  • 社会の価値観の多様化又は地域や家庭の教育力の低下など、近年の学校を取り巻く環境の変化の中で、学校教育に対する過度な期待や学校教育が抱える課題の一層の複雑化・多様化が進んできている。このような中、学校の管理運営や外部対応に関わる業務が増えてきており、結果として、教員に子どもたちの指導の時間の余裕がなくなってきている。
     このような状況を踏まえ、教員の職務について見直しを行い、それぞれの職に応じた役割分担の明確化を図るとともに、学校事務の軽減化・効率化又は事務体制の強化を図ることなどにより、教員が子どもたちの指導により専念できるような環境を整備していくことが必要である。
     さらに、学校を取り巻く環境の変化により、学校運営に係る業務が増大してきていることを踏まえ、新たな職の設置も含めて学校の組織運営体制の見直しを計ることにより、学校運営の効率化を進めていくことも必要である。
  • このような教員の職務の見直しや新たな職の設置を踏まえつつ、教員が、教員としての使命感や誇り、熱意を持って子どもたちの指導を行っていくことができるよう、教員の職務と責任の特殊性に応じて、適切に給与が定められ、処遇されなければならない。
     このためには、まず、教員という職業が魅力あるものとなり、教員に優秀な人材が確保されるよう、やりがいのある職務内容とし、その職務に合致した勤務形態にするとともに、教員の給与の一定程度の水準が安定的に確保され、安心して教育活動に取り組むことができるようにすることが必要である。
     また、指導力に優れ、熱意や使命感を持って頑張っている教員が適切に評価され、教員の士気が高まり、教育活動が活性化されていくためにも、それぞれの職務に応じてメリハリを付けた教員給与にしていくことが必要である。
     さらに、教員一人一人の能力や業績を評価し、教員に意欲と自信を持たせるよう、適切な教員評価の構築に取り組み、その評価結果を、可能な限り任用や給与上の措置などの処遇に適切に反映していくことが必要である。
     一方、大多数の教員が懸命に職務に従事している反面、一部に指導力不足教員や不適格教員などが存在することも事実であり、昨今、このような教員に対する国民や保護者の視線はますます厳しいものとなっている。このため、教員全体への信頼性を向上させるためにも、このような指導力不足教員等に対しては、研修の実施等人事管理システムを厳格に適用し、相応の処遇とするよう毅然とした対応をすることも必要である。
  • 学校を取り巻く環境の変化に応じて、教員が対応すべき課題が複雑化・多様化をきわめ、これにより教員の職務負荷が増大し、全体的な勤務時間が増えてきており、恒常的な時間外勤務の実態が明らかになっている。
     このような状況を踏まえ、教員の職務の見直しや学校事務の効率化によって教員の勤務時間の縮減を図るとともに、教員の勤務態様の特殊性等を踏まえつつ、教員勤務時間の弾力化を進めていくことが必要である。
  • 今回の報告書のねらいは、「学校教育の一層の質の向上」にあり、そのためには、上述のように、メリハリを付けた教員の給与改善を図るとともに、学校現場の実情を踏まえながら、教員の職務の在り方の見直し、事務作業の軽減・効率化、勤務時間の弾力的運用、適切な教員評価の実施と処遇への反映、指導力不足教員等に対する人事管理システムの厳格な運用、学校事務体制の強化並びに学校の組織運営体制及び指導体制の強化など、総合的に取組を進めていくことが必要である。

第二章 教員の校務と学校の組織運営体制の見直し

1.教員の校務と学校事務の見直し

  • 教員勤務実態調査暫定集計の結果によれば、昭和41年の勤務状況調査の結果と比べ、勤務時間が長くなり残業時間が増加しており、まずはこの事実を認識する必要がある。その上で職務内容を分析すると、子どもの指導に直接かかわる業務以外の、学校の運営に関わる業務や外部対応などの業務に多くの時間が割かれている。教育の質の向上を図っていくには、何よりもまず、教員が子どもたちに向き合い、きちんと指導を行えるための時間を確保することが重要である。
  • このため、教員の校務について見直しを行い、校長、教頭、教諭、助教諭、講師や事務職員などのそれぞれの職に応じた役割分担の明確化を図り、教諭、助教諭、講師(以下「教諭等」という)が子どもたちの指導のための時間をしっかりと確保できるようにすることが必要である。
     また、校長及び教頭は、学校組織のマネジメントをしっかりと行い、特定の教員の勤務負担が過重にならないよう、教員の勤務時間や勤務負担の適正化等を図る必要がある。
  • 教員の校務を整理をした上で、なお教員が行う必要のある学校事務については、以下のような方策を通じて効率化を図り、業務時間を縮減していくことが必要である。
    1. Eメールや電子掲示板の活用などを通じて会議・打合せの回数・時間を縮減する。このため、教員に1人1台パソコンを整備することやICT活用指導力に優れた職員の確保など学校のICT環境の整備・充実を図る。
    2. 国・都道府県・市町村等が行う調査の縮減・統合を図る。
    3. 業務日誌、学校運営関連書類等の様式の簡素化・統一化を図る。
  • あわせて、教員が抱える事務負担を軽減するため、学校事務職員が学校運営に一層積極的に関わるとともに、そのサポートにより、教員の事務負担を軽減することができるよう、事務の共同実施の促進、事務職員の質の向上のための研修の充実などを行うとともに、大規模な学校や事務の共同実施組織に事務長を置くことなどを検討し、事務体制の充実を図っていくことが必要である。
    また、アウトソーシングが可能な業務については、民間人や教員OB・OG等も活用して、専門的な能力を持った人材によってアウトソーシングしていくことも必要である。
  • 学校をより地域に開かれたものとし、地域全体で支えていくため、地域対応に関連する活動や放課後・週休日の活動について、放課後子どもプランの推進などを通じて、地域住民や教員OB・OG等が積極的に参画するようにし、教員の負担を軽減するサポート体制の構築を図っていくことが必要である。
  • 学校を取り巻く社会環境は日々変化し、それに伴い、子どもたちが抱える背景も多様化・複雑化しているため、現在の教員には、いじめ、問題行動、不登校、被虐待児童への対応、外国人児童生徒への対応、軽度発達障害への対応も含めた特別支援教育といった様々な教育課題に取り組むことが求められている。
    これらの教育上の諸課題に対応するため、教員の職務の見直しや学校事務の効率化を図るとともに、教職員や外部人材の配置の充実、又は様々な教育課題に対応できるような研修の充実を図ることが必要である。
    なお、これらの諸課題は、必ずしも教育だけで解決するものではないことがあるため、外部専門家の活用や福祉や医療等関係機関との連携を促進することも必要である。

2.学校の組織運営体制の見直し

  • 現在の学校はいわゆる鍋蓋型組織となっており、管理職である校長・教頭以外は職位に差がない教諭等が大多数を占めている。その結果、学校をめぐる環境の複雑化に伴い、教頭の学校運営にかかる各種調整のための業務が増大してきており、教員勤務実態調査暫定集計の結果においても教頭のこれらに係る業務時間がかなり大きくなっている。より円滑な学校運営を実施していくためには教頭の業務のサポートが必要となってきている。
  • このような状況を踏まえ、学校の組織運営上の必要性に応じて、教頭の複数配置の促進、副校長(仮称)の配置(なお、教頭と副校長(仮称)の在り方については今後検討)、管理職を補佐して担当する校務をつかさどるなど一定の権限を持つ「主幹(仮称)」の配置など、学校の規模などを踏まえつつ、教育委員会の判断により学校に配置できるように制度の整備を行うことが必要である。
  • 学校によっては、その実情に応じて、校務分掌が複雑であったり、責任の所在が不明確であったりすることにより、学校運営が効率的に運用されていない実態がある。このため、各学校において、校務分掌上の部科や主任の在り方等既存の学校組織の在り方の見直しを行うとともに、必要に応じて都道府県教育委員会等から教頭の複数配置、副校長(仮称)の配置又は主幹(仮称)の配置などを受けることにより、一層効率的な学校運営組織の構築を図るとともに、校務分掌や役割分担の在り方を整理していくことが必要である。
  • 3.指導力に優れた教員の処遇

  • 教育の質の向上を図るためには、校外における研修の充実だけでなく、校内におけるOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング:職場内研修)を通じて、日々の実践の中で個々の教員の資質向上を図ることが重要であり、そのためには、指導力に優れた教諭が、他の教諭等に対して日常的に教育上の指導助言や研修を行い、学校全体として教員の指導力を高めていくことが必要である。
  • このため、各学校の必要性に応じて、指導力に優れ、他の教諭等への教育上の指導助言や研修に当たる職務を担う「指導教諭(仮称)」を設け、教育委員会の判断により、学校に配置できるように制度の整備を行うことが必要である。

第三章 メリハリある教員給与の在り方

1.優秀な人材の確保

  • 「教育は人なり」というように、全国的な義務教育水準の維持・向上のためには、教員に優秀な人材を確保することが必要不可欠である。
  • 我が国が高度経済成長を遂げる中、資質の優秀な人材が他の職種に流れ、教育界では必要な人材を確保しがたいという状況を背景に、昭和49年、教員給与を一般の公務員より優遇することを定める「学校教育の水準の維持向上のための義務教育諸学校の教育職員の人材確保に関する特別措置法」(以下「人材確保法」という。)が制定された。
  • 人材確保法は、各都道府県において、公立学校教員の給与を定める際に、一般公務員の給与を下回らないようにするための役割を果たしている。仮に人材確保法を廃止した場合には、厳しい財政状況の下、教員の給与水準が一般の公務員より低くなってしまうおそれがある。
  • イギリスや韓国などの諸外国においては、教員に対して教育の質の向上の意欲を持たせるためには教員給与の増額が必要との問題認識の下、現在、給与改善に取り組んでいるところであり、人材確保法を廃止することは、こうした諸外国の政策に逆行することとなる。
  • 近年、教員の大量退職時代を迎え、今後しばらくこの傾向が続くこととなるが、その場合、いかに優秀な人材を教員として確保していくかを国家戦略として位置づけていくことが必要であり、そのためにも、人材確保法の意義はますます重要となる。
  • 今後も、次代を担う子どもたちの人間形成に関わる教員の職務の重要性に鑑み、安定的に教員に優秀な人材を確保していくためにも、教員給与の優遇措置を定めた人材確保法の精神は今後とも大切にすべきであり、人材確保法を堅持することが必要である。
  • ただし、「骨太の方針2006」(平成18年7月7日閣議決定)において「人材確保法に基づく優遇措置を縮減する」こととされていることを踏まえ、教員に優秀な人材を確保するという人材確保法の精神は維持しつつ、能力・実績に見合ったメリハリを付けた教員給与体系を構築するという観点から、教員給与の優遇措置の在り方を見直すことが必要である。
  • また、教員に優秀な人材を確保するためには、給与以外の優遇措置をも図っていくことが重要である。このため、
    1. 優れた教員を表彰し、それを処遇に反映させたり、教員の表彰を通じて社会全体に対する信頼感と尊敬の念が醸成されるような環境を培うこと、
    2. 子どもへの教育にやりがいを見出す教員が多い実態を踏まえ、教員の事務的作業の軽減を図ることなどにより、なるべく子どもと向き合う時間が確保できるような環境整備を行うこと、
    3. 校内研修や任命権者等による体系的な研修と教員の主体性を重視した自己研修の双方の充実を図り、熱意ある教員が自らの専門知識や指導能力を高めていく機会を確保できるようにすること、
    4. 幅広い視野と高い専門的知識を兼ね備えた教員を育成していくため、大学院修学制度を活用して、より多くの教員が大学院修学の機会を得られるようにすること
    5. 教員の職務の特殊性や勤務実態に合った勤務時間の適正な運用を図ることにより、授業期間中に労働した分、長期休業期間中に休むことができるようにすること
    などを通じて、教員の職を魅力あるものにしていくことが必要である。

2.教員の給料の見直し

  • 教員の給料は、各都道府県において、基本的に校長、教頭、教諭、助教諭等の職に応じて4級制の給料表が定められている。教員の大多数を占める教諭の給料表が一つの級しかないため、教頭や校長にならない限り、教員の給料は号俸の昇給による変化しかなく、メリハリの乏しい構造となっている。
  • 指導力に優れ、熱意や使命感を持って頑張っている教員が適切に評価され、教員の士気が高まり、教育活動が活性化されていくためにも、それぞれの職務に応じてメリハリを付けた教員給与にしていくことが必要である。
  • 具体的には、前述したように、これまでの教頭又は教諭の職務とは異なる、副校長(仮称)、主幹(仮称)又は指導教諭(仮称)が新たな職として位置づけられ、配置された場合には、その職に見合った適切な処遇を図るため、都道府県において、必要に応じて、副校長(仮称)、主幹(仮称)又は指導教諭(仮称)の職務に対応した新たな級を創設することが望ましい。
  • このため、副校長(仮称)、主幹(仮称)又は指導教諭(仮称)を置く都道府県におけるこれらの職の配置に対応して、副校長(仮称)、主幹(仮称)又は指導教諭(仮称)について、通常の教諭とは別に、義務教育費国庫負担金の算定根拠を定めることが必要である。

3.教職調整額の見直し

※ 「教職調整額の見直し」の具体的な内容については、次回以降のワーキンググループにおいて整理。

4.諸手当等の見直し

  • 教員に特有の手当の中には、能力や実績にかかわらず一律に支給される性格の手当等があり、その中には手当等の創設時からの状況の変化等により、その意義が薄れてきているものも見られる。他方、熱意や使命感を持って頑張っている教員を評価するという観点からすると、勤務成績や職務負担等に応じて支給される性格の手当の中には十分な支給額となっていないものが見られる。このため、教員給与にメリハリを付ける観点から、一律に支給される諸手当等のうち意義が薄れてきているものについては廃止・縮減の方向で、勤務成績や職務負担等に応じて支給される性格の手当のうち重要なものについては充実を図る方向で検討する必要がある。
  • 義務教育等教員特別手当
     メリハリを付けた諸手当の充実を図る観点から、人材確保法に基づく第二次給与改善に際して教員給与の優遇措置として導入され、小・中・高等学校等の教員に一律に支給されている義務教育等教員特別手当を廃止し、その財源をメリハリある給料や諸手当の充実のために活用する必要がある。
  • 給料の調整額
     平成19年度より、これまでの特殊教育が特別支援教育として整理され、LD・ADHD等の児童生徒への指導を含め、通常の学校においても、教員全体で特別支援教育を担うことが求められるようになった。このような状況の中、現在、特殊教育諸学校や小中学校の特殊学級の教員のみに支給されている給料の調整額について、他の教員との均衡上適切かどうか、その廃止を含めて検討する必要がある。
     また、給料の調整額は本給扱いとなるため、本給を算定の基礎とする手当等(期末・勤勉手当、退職手当等)に反映されており、退職の直前に特殊教育諸学校へ赴任した場合は退職手当が割増支給されるなど、不公平感が指摘されている。
  • 部活動手当
     勤務実態調査暫定集計の結果に見られるように、部活動の顧問を担当する教員の勤務時間は担当しない教員に比べて多くなっており、部活動を通じた教育指導を熱心に行う教員を処遇するため、部活動手当(現在は週休日等に4時間以上部活動に従事した場合に支給)の充実を検討することが必要である。
  • 非常災害時等緊急業務手当、修学旅行等指導業務手当及び対外運動競技等引率指導業務手当
     非常災害時等緊急業務手当、修学旅行等指導業務手当、対外運動競技等引率指導業務手当についても、それぞれの業務の特殊性や困難性が高まっていることを踏まえ、その充実を検討する必要がある。
  • 多学年学級担当手当
     近年、学級担任に求められる役割が複雑、困難化している中、複式学級を担当する教員の勤務内容が、他の学級を担当する教員の勤務内容と比較して特殊であるとはいえるかどうかを検討する必要がある。
  • 教育業務連絡指導手当(主任手当)
     学校の管理運営体制を見直し、教頭の業務をサポートする新たな職として「主幹(仮称)」を設置する場合、「主幹(仮称)」が主任を兼ねることも想定されることから、主任の業務の困難性や特殊性を一律に主任手当で評価することについて見直しを検討する必要がある。
  • 管理職手当
     教育の質の向上には学校経営のかかわりが大きく、今後、管理職には学校マネジメント能力が求められるように、校長・教頭の職務と責任はますます大きくなっており、これを適正に評価するとともに、管理職に優秀な人材を確保するためにも管理職手当の充実を検討する必要がある。
  • へき地手当
     へき地教育に優秀な人材を確保するという法の趣旨は十分に踏まえつつも、道路や交通機関、通信情報網などの発展によりへき地を取り巻く環境は変化しており、これらの実態を踏まえ、へき地学校の級を算定する基準の見直しを検討する必要がある。また、へき地学校の地域に居住せず、生活が便利な都市部に居住しながら自家用車で通勤している教職員に対し通勤手当とへき地手当が支給されていることについて、適正であるかどうか検討する必要がある。

5.教員評価と処遇への反映

  • 教育の質の向上のためには、個々の教員の質の向上が不可欠であり、そのためには、学校内外の研修だけでなく、日常的に、教員が自らその教育活動を見直し、自発的に改善していくことができるよう、今後とも、各任命権者が進めている教員評価の取組を一層促進し、教員一人一人の能力や業績を適正に評価し、教員に意欲と自信を持たせ、育てていく必要がある。
     また、その評価結果を、任用や給与上の措置などの処遇に適切に反映させるように促し、教員の努力や頑張りが処遇上も報われるようにしていくことが必要である。その場合においては、教員の評価は、民間企業で行われるような成果主義的な評価はなじみにくいという教員の職務の特殊性にも留意しつつ、客観性のある評価制度を検討していくことが重要である。
     さらに、学校現場においては、個々の教員の頑張りだけでなくチームワークによって子どもたちへの教育を行っている意識が強いため、そのような学校現場の特殊性を考慮した評価の在り方について、今後、検討していくことが重要である。
  • 一方、大部分の教員が日々献身的にこどもたちへの教育活動に従事している反面、一部に指導力不足教員や不適格教員などが存在するのも事実であり、そのような教員に対する国民や保護者の視線は、昨今ますます厳しいものとなっている。
     このような教員に対しては、各任命権者が設けている人事管理システムの厳格な運用を通じて、相応の処遇とするよう毅然とした対応をすることが、教員全体への信頼性を向上させるために必要である。

第四章 教員の勤務時間の弾力化等

1.勤務時間の弾力化

  • 教員勤務実態調査暫定集計によれば、7月の通常期における1日あたりの平均残業時間は、小学校の教諭で1時間47分、中学校の教諭で2時間26分となっており、恒常的な超過勤務の実態が明らかになっている。また、同集計によれば、7月の通常期における1日あたりの休憩・休息時間は、小学校の教諭で9分、中学校の教員で10分となっており、事前に割り振られているはずの休憩・休息時間が、子どもたちへの指導等があるため、結果として十分にとれていない現状がある。
     このように、通常期においては、授業の始業時間から終業時間まではもとより、放課後においても子どもたちが学校にいる間は、子どもたちの教育指導や安全管理の責任などを負うことになるため、事務の軽減措置や勤務時間の適正な管理の取り組みだけでは対応しきれず、8時間の勤務時間を超えてしまうことがどうしても多くなってしまっている。
  • また、このような教員の多忙な状況との関係性は必ずしも明らかになっているわけではないが、文部科学省の平成17年度の調査結果によれば、精神疾患で病気休職した公立学校の教員数が4,178人となり、集計開始以来過去最多を更新している。
  • このような教員の超過勤務の現状を改善していくため、前述したように、教員の職務の見直し、学校事務の効率化、教員のサポート体制の充実等により、教員の勤務負担を軽減し、積極的に超過勤務時間の縮減に取り組んでいく必要がある。
  • 一方、同結果によれば、8月の夏季休業期における1日あたりの平均残業時間は、小学校の教諭で14分、中学校の教諭で26分の残業となっている。このように、教員は、一般の公務員と異なり、子どもたちが登校し、授業や学校行事を行う通常期と夏季休業期とで、業務の繁閑にはっきりとした差が生じている。
  • このため、通常期における超過勤務の状況を改善するため、通常期と長期休業期とで業務に繁閑の差が生じる教員の勤務態様の特殊性を勘案して、特に忙しい教員については、通常期の勤務時間を多く割り振り、その分、長期休業期の勤務時間を短縮することで、1年間を通じて平均すれば1日あたり8時間労働となることが可能となるよう、1年間の変形労働時間制を導入することを検討する必要がある。
  • また、部活動や学校行事等により週休日や祝日に勤務を行う場合に、代休日の指定を弾力的に行うことにより、繁閑の差が大きい教員の勤務態様の特殊性を踏まえて、長期休業期などの勤務時間に余裕のある期間の活用を促進する必要がある。なお、その際は、児童生徒や教員の心身の過度な負担とならないよう十分配慮する必要があるとともに、学校週5日制の趣旨に鑑み、週休日等への勤務については、引き続き、各学校の実情を踏まえて、必要な範囲内で実施することが必要である。

2.部活動に係る勤務体系等の在り方

  • 現在、部活動は、教育課程外に実施される学校において計画する教育活動の一つとされている。部活動指導は、主任等の命課と同様に年度はじめに校長から出された「部活動の監督・顧問」という職務命令によって命じられた付加的な職務であり、平日に行われるものについては給与が、週休日等に4時間以上従事した場合には教員特殊業務手当(部活動手当)が支給されている。
  • 教員勤務実態調査暫定集計の結果に見られるように、中学校の教諭にとって部活動指導に従事する時間がかなり多くなっており、今後、中央教育審議会初等中等教育分科会の教育課程部会等における検討も踏まえつつ、部活動の位置付けを整理していくことが必要である。
  • 部活動は、勤務時間外においても実施されている実態があるが、本当は、教員の他の職務と同様に、正規の勤務時間内で実施すべきものである。このような各学校の実情等を勘案し、教員及び子どもたちにとって過度な負担とならないように十分配慮した上で、平日の部活動について、より弾力的に実施できるよう、1年間の変形労働時間制の導入を検討する。
  • 週休日や祝日の部活動指導については、その振替えが可能な期間を長くするなど、より弾力的にすることにより、長期休業期に振替えることなどの工夫も必要である。
  • このような取組を行いつつ、部活動による時間外勤務が可能な限り生じることがないように、校長が適切に管理・監督するよう指導を行うとともに、必要に応じて、外部指導者の活用を推進する。

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初等中等教育局財務課