資料9 教職員給与の在り方について

平成18年9月7日
 18全高P連64号

中央教育審議会初等中等教育分科会
教職員給与の在り方に関するWG 御中

社団法人全国高等学校PTA連合会
 会長 藤井 久丈

 教育基本法前文にも謳われているように、民主的で文化的な国家を建設して、世界の平和と人類の福祉に貢献するという理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものであることは言うまでもない。事実、明治維新後の文明開化や第2次世界大戦後の復興に教育の果たした役割は計り知れないものがあった。「国家百年の計は教育にあり」は不変の真理である。
 昨年度、残念ながら義務教育費国庫負担制度が3分の1となり、全国津々浦々、隈無く質的に格差の無い教育を受けられた担保の一部に亀裂が生じたことに、今後の日本の教育の方向性に不安を感じざるを得ない。
 昭和49年に優秀な教員を確保することを目的に制定された人材確保法当時とは異なり、現在の子どもたちを取り巻く教育環境は激変し、教員に求められる役割は多種多様化し、その資質の向上や専門性についても、日々の研鑽努力に期待されるところが益々大きくなっている。今般、教員の採用や給与決定は、教職員の職責の大きさに照らし合わせ、他の職業との差異を考慮して、今日的に改めて『教職員給与の在り方』を検討するということが閣議決定されたことは時宜を得て意義深い。
 本連合会は、現在の教職員の給与の在り方について様々な角度から検討することに異論はない。しかしながら、財政危機の観点からの人材確保法等の見直しと言う切り口での短絡的な考え方での廃止論には反対である。ワーキンググループにおかれては、教育の重要性を十二分に認識の上、教育実践の中心的担い手である教員の職業に見合った決め細やかでメリハリのある体系的な待遇が更に継続できるよう、慎重な審議をお願いしたい。

1.早急に対応を迫られる子どもたちの現状(規範意識の変化と価値観の多様化)と大人社会の責任

 本連合会が、昨年度、全国の高校2年生6,000人を対象として行った『高校生の生活意識・実態調査(17年度全高P連、子育て支援事業)』(資料添付)によると、リスク行動といわれる万引きの経験者は男子が16.5パーセント、女子が12.2パーセント、自傷行為は男子が5.3パーセント、女子が10.0パーセント、性経験者は男子が19.0パーセント、女子が23.5パーセントとなっている。また、高校生の性行為の容認に関する質問では、「かまわない・どちらかといえばかまわない」と考える父親が14パーセント、母親が5パーセントに対して、男子高校生の81パーセント、女子高校生の75パーセントが肯定の意見であった。現代の子どもたちの規範意識や行動には大きな変化や問題がみられ、大人との価値観の違いも出ている。出会い系サイトしかり、援助交際しかり、薬物使用しかりである。
 しかしながら、このような子どもたちを生み出したのは、現代社会のドラスティックな構造変化とそれに伴う大人の価値観や道徳観の変化、人間的な心の繋がりの希薄化であり、教育のゆらぎであると推測される。かつて、子供たちは家庭で育ち、地域社会で育ってきたが、現代の少子化や核家族化あるいは都市化や情報化の進行の中で、家庭や地域社会の教育力は低下してきている。このような状況下で、学校教育の重要性は高まる一方であり、その中心である教員の役割は重大である。

2.学校・教師の役割と責任

 現在、日本の教師は、様々な形で世間やマスコミから、バッシングを受けている。確かに、非難されてしかるべき教師がいることは事実であるが、日本の教師は、諸外国に較べてそんなに劣る存在であろうか。自らを棚上げし、何もかも限りなく学校教育の責任、教師の責任としているきらいはないか。家庭教育や地域社会での教育をはじめ、大人が真に子どもと向き合うことを忘れていないかと、我々PTAは自戒の念を込めて考えている。
 日本の初等中等教育の良さは、勉強ばかりでなく、躾を含めて、全人教育を行っている点である。教員は、学習指導、生徒指導、進路指導、部活動指導等、さまざまな分野で子どもの教育に携わることを期待され、教員自体もそれを当然とみなしている。
 先の本連合会の調査では、生徒の話を聴いてくれる先生は47パーセント、わかろうとしてくれる先生は30パーセント、尊敬する人として先生を選んだ生徒は19パーセントであった。思春期の高校生の心理は複雑で、この数字が一概に多いか少ないかの判断は難しいが、子供たちの教師との関わり意識は高いと判断する。また親も、子供たちとのより高い関わりを教師に期待している。
 教師への期待が高ければ高いほど、せめてそれに見合うだけの給与は支給してあげたいと、親が考えるのは当然の結果である。

3.人材確保法の精神の堅持を

 かつては、子どもはもちろん、親や社会からの教師への尊敬度は、大変高いものであった。しかしながら、親の高学歴化が進む中で、相対的に教師のステイタスは低下し、子どもと一緒になって教師の悪口を言う親もみられるようになった。
 子どもの考え方も、親の教育方針も、ますます多様化する中で、人間性、専門性、指導力等の一層優れた教師が要求される。その意味では、昭和49年に制定された人材確保法は、日本という天然資源の乏しい国において、的を射た法律であった。しかしながら、現在、教員の給与は、どんぶり勘定的で、しかも一律に名目25パーセントの引き上げがあるとされるが、その優遇措置が相対的には低下し、他職種と較べ実質的には2.76パーセントのアップに過ぎない。また、現在の教員の給与体系には、きめ細やかな論理的な積み上げがないと言われる。
 生徒指導がますます困難さを増す中で、教員に優秀な人材を確保するため、財政危機の中でも、制定当初の精神は、今後も堅持することを要請したい。
 ちなみに、前年度、本連合会が行った全国高校2年生及びその保護者各2,600人への『高校生と保護者の進路に関する意識調査(2005年、全高P連・リクルート合同調査)』(資料添付)によると、高校生も保護者も、就きたい職業として、あるいは就いて欲しい職業として教師を第2位にあげている。反面、高校生が就きたくない職業としても、教師を第3位にあげている。
 いまや、聖職者意識だけで、教員に優秀な人材を確保することは難しい。万一、人材確保法が縮減又は廃棄になる場合は、それに代わる優秀な教員を確保するためのより具体的な綿密で体系的な方策をご提示願いたい。

4.メリハリある給与体系には評価の公正さを

 メリハリのある給与体系や給与査定の導入には賛成である。時間になればさっさと帰宅してしまう教員も、土日も厭わず生徒指導や部活指導に取り組む教員も、公平さの名目の下に同一賃金では、やる気が萎えてくるであろう。
 問題は、その職位や職責に応じた評価や、実績に応じた査定で、客観性と公正さのある対応である。教員の指導は、学校を挙げて組織的、協力的な指導態勢が重要な役割を演じている。一方それと同時に、校長、教頭、主任、担任、部活動顧問等々それぞれの立場に相応しい職務遂行が求められる。したがって、教育の成果は数字のみで表現できるわけではないといっても、いわゆる「なべぶた型」と揶揄される悪平等となってもいけない。それ故、評価者、被評価者双方が納得できるような客観的で公正な評価法の早急な開発を要請したい。

5.教職調整額について

 現在、教員の職務と勤務態様の特殊性から、一律4パーセントの教職調整額が支給されているが、教員の超過勤務の内容を客観的に判定することは可能なのだろうか。仮に可能として、現在の一律4パーセント支給額より、大幅に上回ることが起きないだろうか。
 問題となる点は、仕事内容が本務であるかどうかの区別がつきにくいことである。
 例えば、部活動は現に学校教育の重要な教育活動となっており、その効用も大いに認められているが、今尚、部活動指導が教員の本務であるかどうかはあいまいであるとも言える。あるいは、PTA活動も同様である。子供たちの健全育成にとって学校、家庭、地域間の連携はますます重要になってきており、我々保護者は、現実に、PTA活動に関して先生方にいろいろな協力支援を依頼せざるを得ないが、一般的にはPTA活動はボランティアと見なされてしまっていることを遺憾に思う。家庭訪問、地域活動参加、補習指導、教育実習指導等は、まだしも判断しやすい。しかし部活動指導さらにPTA活動が教員の本務なのか、あるいは我々PTAの意に反して、ボランティアとして取り扱われるのかを明確にすることが、教職調整額問題を検討するにあたって重要な要素になると考えられる。

お問合せ先

初等中等教育局財務課