資料4 学校選択制に関する主な意見等の整理

1.学校選択制についての基本的な考え方

●基本的な考え方として、学校選択制は地域によって様々な事情があり、全国一律に推進すべきというものではない。メリットとデメリットを十分に考慮した上で学校設置者が導入を判断すべきものである。本作業部会は、教育的な観点から、学校選択制を導入する際に考慮すべき要素、留意点等を提示することが必要である。
●学校選択制は学校に変化をもたらす一つの方法といえる。ただし、教職員や保護者、地域が学校選択制の下で学校改革に前向きに取り組める条件整備を同時に図ることが前提となる。
●保護者が消費者の感覚で学校を選び、後は学校に任せるという意識があり、学校の教育活動への参加意識が高くはないという問題が指摘されている。
●地域と学校のつながりが希薄になり、自分たちの生活拠点に密着した題材を扱う学習指導を行うことに支障を生じたり、地域住民が通学の安全確保に協力してくれることなどが行いにくくなる。
●学校選択制を導入することに教育的なメリットがあると考えられる場合においても、児童生徒の通学上の安全との関係については十分な検討が行われるべきである。
●就学校の指定変更についても同様の点に留意していくべきである。

<総論>

○学校選択制は、市町村教育委員会が、就学校の指定を行う際に、事前に保護者等の意見を聞き、入学する学校を選べるようにするものである。学校選択制を導入するか否かは、学校設置者である市町村教育委員会の判断である。
○保護者や児童生徒が学校を選択できるようにするということは、地域によっては学校に変化をもたらす一つのツールとして活用することも考えられる。一方で、学校選択制は規制改革という大勢の流れから来たものという見方もある。
○学校選択制については、地域によって、学校や地域の実情、通学条件その他様々な事情があり、全国一律に導入を促進すべきものではない。また、一言で学校選択制と言っても、市町村内全域やあるいは一定のブロック内から自由に学校を選ぶような仕組みと、特定の学校やあるいは通学区域の再編などによる一定の地域内においてのみ学校を選べる仕組みとでは、意味や課題等が大きく異なる。
○本作業部会では、学校選択制の導入に係るメリットとデメリットの両方を整理した上で、学校選択制を導入する場合において特に留意すべきことを示すべきである。

<学校選択制を導入した市町村が感じているメリット・デメリット>

○文部科学省が行ったアンケート調査によると、学校選択制導入の検討の課題や背景は、大きく分けると、1.保護者や地域住民からの学校選択のニーズ、2.市町村合併や学校の再編、3.地域内の住宅事情や交通事情の変化、4.少子化や学校・地域の活性化を背景としているものがある。
○学校選択制の導入の成果としては、1.保護者の学校教育への関心が高まった、2.子どもが自分の個性にあった学校で学ぶことができるようになった、3.選択を通じて特色ある学校づくりが推進できた、4.学校の方針等を積極的に発信するようになった、といった声がある。
 一方、課題としては、実施している市町村では、特に課題はないと回答している地域もあるが、1.通学距離が長くなることに伴う安全確保の問題、2.学校と地域との関係の希薄化、3.入学者が大幅に減少したことで適正な規模が維持できなくなった学校が出てきたことなどが指摘されている。
○学校選択制を導入する場合、一般には地域間格差や学校間格差が生じると言われる。地域によってはそれが大きな問題にはなっていない地域もあれば、導入時に想定された以上に大きな問題が生じたという地域もある。

<特色ある教育活動との関係>

○学校選択制を導入するにあたり、「特色ある学校づくり」をその目的と掲げる市町村が多い。「特色ある学校づくり」については、単に他の学校との違いを出すこと自体を目的とするのではなく、各学校が抱える課題を解決するための手段として、その学校が置かれている地域の特色をどのように生かしていくか、どのような工夫を行っていくかということが重要であり、そのような趣旨に基づく特色ある教育活動を行っていくことが期待される。

<保護者の学校への関心や協力>

○学校運営協議会制度は、保護者が学校運営協議会を通じて、学校や教育委員会に対して直接意見を述べる仕組みである。これに対して、学校選択制は、ある学校を選ぶ、又は選ばないという行為によって学校に対する考え方を伝える仕組みであると言うこともできる。
○学校選択制を機に、学校側も様々な努力をしているが、実態としては、保護者の学校選択の判断基準は、必ずしも各学校の教育活動の特色や教育方針に依拠しておらず、友人関係や学校の立地条件、生徒指導上の問題があるかどうか、などが優先してしまいがちであるという指摘がある。
○学校運営協議会制度においては、保護者が学校運営の責任の一端を担う意識で、学校を一緒につくろうとしていることが多いのに対し、学校選択制においては、保護者が消費者の感覚で学校を選び、後は学校に任せるという意識であり、学校の教育活動への参加意識があまり高まらない傾向があるという指摘がある。
○学校を選択することによって、学校と保護者との連携を深めることができるのかという観点から、学校選択制の導入をするか否かを考えるべきではないか。
○学校を選択する場合には、選択した学校に対して、参加や協力をしていく責任も表裏の関係として期待されているものである。しかし、学校を選ぶものの、保護者が学校にあまり協力しないような状況があるのではないか。
○保護者に対して学校への関心を高め、参加や協力を促していくような働きかけを行うことが不可欠である。

<学校と地域との関係>

○学校選択制を導入することの問題点として、特に市町村内のどの地域からでも通える完全に自由な学校選択制を導入する場合には、従来の地域と学校の関係が希薄化するということが指摘されている。
○小学校の生活科や総合的な学習の時間では、自分たちの生活に密着したところのものを題材にして扱う学習指導などを行いにくくなるという懸念がある。
 また、地域の行事について、もともと多くの子どもたちが地域の行事に参加していたのが、学校選択制の導入により、通学区域外の学校へ通学する子どもが参加しにくくなったという地域もある。
 さらに、地域住民が、子どもの登下校の安全確保のために集団登下校に協力的な地域などでは、学校選択制の導入により、そうした安全確保が行いにくくなることになる。
○学校選択制を行うにあたっては、従来の通学区域を越えたところでの学校と地域の連携を、どのような形で進めていくのかが一つの課題である。

<教職員との関係>

(選択制に前向きに取り組める条件整備)

○学校選択制は、選択されるような学校づくりを目指すということを通じて、目に見える形で学校に変化をもたらすことができる一つの仕組みであるといえる。しかし、実際には、学校の立地条件など、教職員の努力とは無関係な要素により学校が選択されている面もあるのではないか。そのためには、学校選択制の下で、教職員や保護者、地域が学校改革に前向きに取り組むことができるような条件整備を同時に進めることも必要である。
○また、学校選択制の中では新入生の数が入学直前まで予測できないことから、教員の配置等に支障が生じることがあるという指摘もあり、このような点についても教育委員会からの配慮が求められる。

(教員人事と学校選択制)

○我が国の教員の人事異動システムは、定期的な人事異動により、様々な才能を持った教員を各学校に平等に配置できる機会を確保し、全体的な水準の維持向上を図ることに主眼を置いてきた。教員が定期的に異動することと学校選択制をどのように関連させていくのかを考える必要がある。
○例えば、学校の「特色」の中には、部活の指導者のように、特定の教員の力量に依っている場合もあるが、いつまでもその教員を当該校に留め置けるわけではない。このような場合には、そもそも教育委員会として部活動をどのように考えるのかという観点を持つことも必要である。

<通学の問題>

○学校が選ばれる理由として、学校側の努力だけでは改善できないような、通学の利便性や学校の立地条件などで選ばれている面もある。
○また、市町村によっては、学校選択制のメリットを認めつつも、通学上の安全との関係で、選択の幅に一定の制約を設けたところもある。児童生徒にとって、毎日安全に学校に通うことができるということは、極めて重要な前提である。学校の適正配置に関する議論と通じるが、学校選択制の導入の検討にあたっては、各地域の交通事情などを慎重に考慮することが必要である。

<その他>

○就学校の指定変更についても、運用によっては事実上、学校選択制と同様の仕組みになる場合もある。学校の特色、保護者の教育活動への参加などについては、学校選択制と同様の観点について留意をする必要があると考えられる。

<コラム>学校選択制の状況について

 各都道府県が抽出した市区町村教育委員会とすべての政令指定都市教育委員会を対象としたアンケート(平成20年度)では、学校選択制の導入の検討を始めるに当たっての課題、背景について、「保護者や地域住民からの学校選択のニーズ」「市町村合併や学校の再編」「地域内の住宅事情や交通事情の変化」「少子化や学校・地域の活性化」などを柱とするものが挙げられている。
 学校選択制の導入による成果(回答自治体数:128。複数回答)については、「保護者の学校教育への関心が高まった」が43自治体、「子どもが自分の個性にあった学校で学ぶことができるようになった」が42自治体、「選択を通じて特色ある学校づくりが推進できた」が41自治体、「その他」が50自治体となっており、その他の中には「各学校が学校説明会を実施するなど、学校の方針等を積極的に発信するようになった」などといった回答があった。
 なお、「学校同士が競い合うことにより教育の質が向上した」は5自治体にとどまっている。
 学校選択制の導入による課題(回答自治体数:128。複数回答)については、「課題は特にない」が50自治体、「通学距離が長くなり、安全の確保が難しくなった」が15自治体、「学校と地域との連携が希薄になった」「入学者が大幅に減少した学校ができ、適正な学校規模が維持できない学校が生じた」が8自治体、「学校選択制を導入したが、学校の活性化が十分に図られていない」が6自治体、「学校間の序列化や学校間格差が生じた」が3自治体、「その他」が49自治体となっており、その他の中には「学級数等の確定がぎりぎりまでかかる等、教員の配置等に課題がある」などといった回答があった。
 (※「学校選択制の状況について」(平成20年度。文部科学省アンケート)より)

2.学校選択制を導入する上で特に留意すべきこと

●保護者が子どもの教育のためによりよい学校選択を行うことができ、かつ入学後に学校の教育活動への参加を促すような情報提供が必要である。
●学校を選択する場合には、選択した学校の約束事を守ったりすることや、積極的にその学校の教育活動に参加することが期待されているものであるということも、保護者に伝えることが望まれる。
●選択されなかった学校(児童生徒数が減った学校)について、支援をどのようにして行い、そこで豊かな教育を行わせるのかが重要である。
●学校選択制と関連して、「児童生徒の人数に応じて学校に予算を配分する」という考え方もあるが、義務教育である以上、何らかの教育的な課題があることによりある学校が選択されないという状況があれば、その課題を克服できるよう行政(教育委員会)が支援するという観点も必要である。

<保護者の学校への参画を促す情報提供の在り方>

○保護者が学校を選択するにあたり、子どもの教育のためによりよい学校選択を行うことができ、かつ入学後の学校の教育活動への参加や協力が得られやすくなるような、情報提供の在り方や環境整備が必要である。
○高等学校進学率や学力テストの結果などのわかりやすい数値や風評だけが一人歩きしてしまう危険性がある。保護者が学校の提供する情報よりも風評に基づいて学校を選んでしまうのは、学校の提供する情報が、保護者が学校を選択する上で必ずしも役に立つものになっていないとも考えられる。保護者が風評を含めた評判に敏感に反応することを前提として、学校の情報提供の在り方について考えていくことが重要である。
 例えば、紙媒体やホームページ等により学校に関する情報を発信することはもとより、子どもたちが学校や地域の中で、どのような生活、活動をしているのかという子どもの様子そのものを保護者に見てもらうことも大切であると考えられる。
○その上で、市町村教育委員会においては、学校を選択する場合には、選択した学校に対して、積極的にその学校の教育活動に参加したり協力したりすることが期待されているものであるということも、保護者に伝えることが望まれる。

<教育委員会から学校への支援>

(小規模になる学校へのサポート)

○学校選択制を行っている中で少子化が進むと、少子化により地域の子ども数自体が減少している学校ほど学校選択制により選ばれなくなり、児童生徒数の減少に拍車をかける場合もある。学校選択制の課題としてあげられているいくつかの事柄は、学校選択制の問題というよりも、小規模校の問題と言い換えることもできる。小規模校の良さも認めつつ、デメリットをどのように克服していくのかという議論も必要である。
○急激な児童生徒数の増減を避けるため、本来の通学区域外の学校に入学できる人数に制限を設けたり、隣接する学校や徒歩で通える学校に選択の幅を限るなどの方法も考えられる。

(「選択されない」学校の問題解決支援)

○学校選択制を進めていくためには、選択されなかった学校に対する支援をどのようにして行い、そこで豊かな教育を行わせるのかが重要である。
○特色ある取組で成果を挙げている学校に対し、教育委員会がその取組の普及のために支援を行うということは学校の活性化のための一つの方策として考えられる。学校選択制と関連して、より多くの児童生徒が入学する学校ほど、望ましい取組を行っている学校であると見なし、児童生徒の人数に応じて学校に予算を配分するという考え方もある。
○一方で、必ずしも保護者は各学校の特色ある取組の成果を見て学校を選択しているとは限らず、多くの児童生徒が入学しているからといって直ちにその学校の取組が優れたものであると見なすことはできない。また、義務教育である以上、ある学校が、何らかの教育的な課題があることにより、選択されない状況があれば、その課題を克服できるように、行政(教育委員会)が学校を支援することが必要である。
○学校選択制を通じて各学校が抱えている課題が浮き彫りになるため、その課題への対応について学校に手厚く支援を行えば、学校選択制を通じて学校間の格差を埋めることができるという見方もある。
○米国の学校選択制においても、課題を抱えている学校については、保護者に選択権を与えるだけでなく、問題克服のために指導主事に相当する専門的職員が学校を支援したり、研修や人事異動等により学校の教育改善のための取組が行われる。
○課題を抱える学校に対する市町村教育委員会からの支援としては、1.課題への対応のために必要な予算を措置すること、2.優先的に希望する人材を配置するなど人事面で支援すること、3.指導主事や退職校長等が校長の学校経営の相談に乗ることなどの支援を行うことが期待される。

(学校選択制と学校統合)

○小規模校には小規模校の良さもあるため、あえて小規模の学校を希望する保護者や児童生徒もいる。このため、学校選択制の結果により一時的な傾向として児童生徒数が減少したことをもって学校統合を行うことは、小規模の学校を選ぶ保護者や児童生徒の意向に沿わないものであるから、学校選択制導入の趣旨にもそぐわないと考えられる。なお、学校統合については、地域の子どもの減少見込みなども踏まえつつ、今後の学校の在り方をどのように考えるかという観点から検討すべきものである。

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