資料3‐2 初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)

平成27年4月20日
教育課程部会

 26文科初第852号
中央教育審議会

次に掲げる事項について、別添理由を添えて諮問します。

 初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について

平成26年11月20日
 文部科学大臣 下村 博文

理由

 今の子供たちやこれから誕生する子供たちが、成人して社会で活躍する頃には、我が国は、厳しい挑戦の時代を迎えていると予想されます。生産年齢人口の減少、グローバル化の進展や絶え間ない技術革新等により、社会構造や雇用環境は大きく変化し、子供たちが就くことになる職業の在り方についても、現在とは様変わりすることになるだろうと指摘されています。また、成熟社会を迎えた我が国が、個人と社会の豊かさを追求していくためには、一人一人の多様性を原動力とし、新たな価値を生み出していくことが必要となります。
 我が国の将来を担う子供たちには、こうした変化を乗り越え、伝統や文化に立脚し、高い志や意欲を持つ自立した人間として、他者と協働しながら価値の創造に挑み、未来を切り開いていく力を身に付けることが求められます。
 そのためには、教育の在り方も一層の進化を遂げなければなりません。個々人の潜在的な力を最大限に引き出すことにより、一人一人が互いを認め合い、尊重し合いながら自己実現を図り、幸福な人生を送れるようにするとともに、より良い社会を築いていくことができるよう、初等中等教育における教育課程についても新たな在り方を構築していくことが必要です。

 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の教育課程の基準となる学習指導要領等については、これまでも、時代の変化や子供たちの実態、社会の要請等を踏まえ、数次にわたり改訂されてきました。平成二十年及び平成二十一年に行われた前回の改訂では、教育基本法の改正により明確になった教育の理念を踏まえ、子供たちの「生きる力」の育成をより一層重視する観点から見直しが行われました。特に学力については、学校教育法第三十条第二項に示された「基礎的な知識及び技能」、「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力」及び「主体的に学習に取り組む態度」の、いわゆる学力の三要素から構成される「確かな学力」をバランス良く育てることを目指し、教育目標や内容が見直されるとともに、学級やグループで話し合い発表し合うなどの言語活動や、各教科等における探究的な学習活動等を重視することとされたところです。
 これを踏まえて各学校では真摯な取組が重ねられており、その成果の一端は、近年改善傾向にある国内外の学力調査の結果にも表れていると考えられます。
 その一方で、我が国の子供たちについては、判断の根拠や理由を示しながら自分の考えを述べることについて課題が指摘されることや、自己肯定感や学習意欲、社会参画の意識等が国際的に見て低いことなど、子供の自信を育み能力を引き出すことは必ずしも十分にできておらず、教育基本法の理念が十分に実現しているとは言い難い状況です。また、成熟社会において新たな価値を創造していくためには、一人一人が互いの異なる背景を尊重し、それぞれが多様な経験を重ねながら、様々な得意分野の能力を伸ばしていくことが、これまで以上に強く求められます。
 こうした状況も踏まえながら、今後、一人一人の可能性をより一層伸ばし、新しい時代を生きる上で必要な資質・能力を確実に育んでいくことを目指し、未来に向けて学習指導要領等の改善を図る必要があります。

 新しい時代に必要となる資質・能力の育成に関連して、これまでも、例えば、OECDが提唱するキー・コンピテンシーの育成に関する取組や、論理的思考力や表現力、探究心等を備えた人間育成を目指す国際バカロレアのカリキュラム、ユネスコが提唱する持続可能な開発のための教育(ESD)などの取組が実施されています。さらに、未(み)曾(ぞ)有(う)の大災害となった東日本大震災における困難を克服する中で、様々な現実的課題と関わりながら、被災地の復興と安全で安心な地域づくりを図るとともに、日本の未来を考えていこうとする新しい教育の取組も芽生えています。
 これらの取組に共通しているのは、ある事柄に関する知識の伝達だけに偏らず、学ぶことと社会とのつながりをより意識した教育を行い、子供たちがそうした教育のプロセスを通じて、基礎的な知識・技能を習得するとともに、実社会や実生活の中でそれらを活用しながら、自ら課題を発見し、その解決に向けて主体的・協働的に探究し、学びの成果等を表現し、更に実践に生かしていけるようにすることが重要であるという視点です。
 そのために必要な力を子供たちに育むためには、「何を教えるか」という知識の質や量の改善はもちろんのこと、「どのように学ぶか」という、学びの質や深まりを重視することが必要であり、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)や、そのための指導の方法等を充実させていく必要があります。こうした学習・指導方法は、知識・技能を定着させる上でも、また、子供たちの学習意欲を高める上でも効果的であることが、これまでの実践の成果から指摘されています。
 また、こうした学習・指導方法の改革と併せて、学びの成果として「どのような力が身に付いたか」に関する学習評価の在り方についても、同様の視点から改善を図る必要があると考えられます。

 以上のような問題意識の下、今般、新しい時代にふさわしい学習指導要領等の在り方について諮問を行うものであります。
 具体的には、以下の点を中心に御審議をお願いいたします。

 第一に、教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在り方を一体として捉えた、新しい時代にふさわしい学習指導要領等の基本的な考え方についてであります。
 これからの学習指導要領等については、必要な教育内容を系統的に示すのみならず、育成すべき資質・能力を子供たちに確実に育む観点から、そのために必要な学習・指導方法や、学習の成果を検証し指導改善を図るための学習評価を充実させていく観点が必要であると考えられます。このように、教育内容、学習・指導方法と学習評価の充実を一体的に進めていくために求められる学習指導要領等の在り方について、御検討をお願いします。
 その際、特に以下のような視点から、御検討をお願いします。

  • これからの時代を、自立した人間として多様な他者と協働しながら創造的に生きていくために必要な資質・能力をどのように捉えるか。その際、我が国の子供たちにとって今後特に重要と考えられる、何事にも主体的に取り組もうとする意欲や多様性を尊重する態度、他者と協働するためのリーダーシップやチームワーク、コミュニケーションの能力、さらには、豊かな感性や優しさ、思いやりなどの豊かな人間性の育成との関係をどのように考えるか。また、それらの育成すべき資質・能力と、各教科等の役割や相互の関係はどのように構造化されるべきか。
  • 育成すべき資質・能力を確実に育むための学習・指導方法はどうあるべきか。その際、特に、現行学習指導要領で示されている言語活動や探究的な学習活動、社会とのつながりをより意識した体験的な活動等の成果や、ICTを活用した指導の現状等を踏まえつつ、今後の「アクティブ・ラーニング」の具体的な在り方についてどのように考えるか。また、そうした学びを充実させていくため、学習指導要領等において学習・指導方法をどのように教育内容と関連付けて示していくべきか。
  • 育成すべき資質・能力を子供たちに確実に育む観点から、学習評価の在り方についてどのような改善が必要か。その際、特に、「アクティブ・ラーニング」等のプロセスを通じて表れる子供たちの学習成果をどのような方法で把握し、評価していくことができるか。

 第二に、育成すべき資質・能力を踏まえた、新たな教科・科目等の在り方や、既存の教科・科目等の目標・内容の見直しについてであります。中でも特に以下の事項について、御検討をお願いします。

  • グローバル化する社会の中で、言語や文化が異なる人々と主体的に協働していくことができるよう、外国語で躊(ちゆう)躇(ちよ)せず意見を述べ他者と交流していくために必要な力や、我が国の伝統文化に関する深い理解、他文化への理解等をどのように育んでいくべきか。
     特に、国際共通語である英語の能力について、文部科学省が設置した「英語教育の在り方に関する有識者会議」の報告書においてまとめられた提言も踏まえつつ、例えば以下のような点についてどのように考えるべきか。
    • 小学校から高等学校までを通じて達成を目指すべき教育目標を、「英語を使って何ができるようになるか」という観点から、四技能に係る一貫した具体的な指標の形式で示すこと
    • 小学校では、中学年から外国語活動を開始し音声に慣れ親しませるとともに、高学年では、学習の系統性を持たせる観点から教科として行い、身近で簡単なことについて互いの考えや気持ちを伝え合う能力を養うこと
    • 中学校では、授業は英語で行うことを基本とし、身近な話題について互いの考えや気持ちを伝え合う能力を高めること
    • 高等学校では、幅広い話題について発表・討論・交渉などを行う能力を高めること
  • 高等学校教育について、中央教育審議会における高大接続改革に関する議論や、これまでの関連する答申等も踏まえつつ、例えば以下のような課題についてどのように改善を図るべきか。
    • 今後、国民投票の投票権年齢が満18歳以上となることや、選挙権年齢についても同様の引下げが検討されるなど、満18歳をもって「大人」として扱おうとする議論がなされていることも踏まえ、国家及び社会の責任ある形成者となるための教養と行動規範や、主体的に社会に参画し自立して社会生活を営むために必要な力を、実践的に身に付けるための新たな科目等の在り方
    • 日本史の必修化の扱いなど地理歴史科の見直しの在り方
    • より高度な思考力・判断力・表現力等を育成するための新たな教科・科目の在り方
    • より探究的な学習活動を重視する視点からの「総合的な学習の時間」の改善の在り方
    • 社会的要請を踏まえた専門学科のカリキュラムの在り方など、職業教育の充実の在り方
    • 義務教育段階での学習内容の確実な定着を図るための教科・科目等の在り方
  • 子供の発達の早期化をめぐる現象や指摘及び幼児教育の特性等を踏まえ、幼児教育と小学校教育をより円滑に接続させていくためには、どのような見直しが必要か。
  • 子供の体力等の現状を踏まえつつ、2020年の東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会開催を契機に、子供たちの運動・スポーツに対する関心や意欲の向上を図るとともに、体育・健康に関する指導を充実させ、運動する習慣を身に付け、健康を増進し、豊かな生活を送るための基礎を培うためには、どのような見直しが必要か。
  • 障害者の権利に関する条約に掲げられたインクルーシブ教育システムの理念を踏まえ、全ての学校において、発達障害を含めた障害のある子供たちに対する特別支援教育を着実に進めていくためには、どのような見直しが必要か。
     その際、特別支援学校については、小・中・高等学校等に準じた改善を図るとともに、自立と社会参加を一層推進する観点から、自立活動の充実や知的障害のある児童生徒のための各教科の改善などについて、どのように考えるべきか。
  • 社会の要請等を踏まえ、教科等を横断した幅広い視点からの取組が求められる様々な分野の教育の充実のための方策について、関係する会議等におけるこれまでの議論の状況等を踏まえつつ、どのように考えるべきか。
  • 各教科等の教育目標や内容を、初等中等教育を通じて一貫した観点からより効果的に示すためにどのような方策が考えられるか。また、学年間や学校種間の教育課程の接続の改善を図ることについて、現在中央教育審議会で御議論いただいている小中一貫教育に関する検討状況も踏まえつつ、どのように考えるべきか。

 第三に、学習指導要領等の理念を実現するための、各学校におけるカリキュラム・マネジメントや、学習・指導方法及び評価方法の改善を支援する方策についてであります。特に以下のような視点から、御検討をお願いします。

  • 学習指導要領等に基づき、各学校において育成すべき資質・能力を踏まえた教育課程を編成していく上で、どのような取組が求められるか。また、各学校における教育課程の編成、実施、評価、改善の一連のカリキュラム・マネジメントを普及させていくためには、どのような支援が必要か。
  • 「アクティブ・ラーニング」などの新たな学習・指導方法や、このような新しい学びに対応した教材や評価手法の今後の在り方についてどのように考えるか。また、そうした教材や評価手法の更なる開発や普及を図るために、どのような支援が必要か。

 以上が中心的に御審議をお願いしたい事項でありますが、審議に当たっては、学校と家庭や地域の連携強化の在り方など学習指導要領等の改善に関連する事項にも御留意の上、新しい時代にふさわしい学習指導要領等の在り方に関し、必要な事項について御検討をお願いします。

お問合せ先

初等中等教育局教育課程課教育課程企画室

電話番号:03-5253-4111(代表)(内線2369)

-- 登録:平成27年06月 --