1.教職課程の質的水準の向上

(1)教職課程の改善・充実 -「教職指導」の充実と大学における組織的指導体制の整備等-

 今後、課程認定大学においては、「教職指導」(学生が身に付けた知識・技能を有機的に統合し、教科指導や生徒指導等を実践できる資質能力を形成することを指導、助言、援助する取組)を一層充実することが必要である。法令上も、「教職指導」の実施を明確にすることにより、課程認定大学における積極的かつ計画的な取組を推進することが必要である。
 課程認定大学が自らの教員養成に対する理念を具現化するため、体系的・計画的にカリキュラムを編成したり、それとの関連に留意しながら「教職指導」を実施するなど、大学としての組織的な取組が重要である。このため、課程認定大学における「教員養成カリキュラム委員会」の設置を推進するとともに、その機能の充実・強化を図る必要がある。

  • 大学の教職課程が、教員として必要な資質能力を確実に身に付けさせるものとなるためには、何よりも大学自身の教職課程の改善・充実に向けた主体的な取組が重要である。教職課程の教育内容・方法等については、平成9年の教養審第一次答申や平成11年の教養審第三次答申において、様々な改善・充実方策を提言しており、必要な制度改正も行われたところである。課程認定大学においては、これらの答申をいま一度真摯に受け止め、学内に周知するとともに、学長・学部長等がリーダーシップを持って、カリキュラム編成や教授法の改善・向上、成績評価の厳格化等に取り組むことが必要である。
  • 今後、課程認定大学においては、学生が教職についての理解を深め、自己の教職への適性等について考察するとともに、個々の科目の履修により身に付けた知識・技能を自己の中で有機的に統合し、教科指導や生徒指導等を実践できる資質能力を形成することを指導、助言、援助するような取組(以下「教職指導」という。)を、一層充実することが必要である。教職指導の重要性については、教養審第一次答申等でも指摘されてきたが、現状においては、「教職の意義等に関する科目」において、教職課程の履修の初期段階で行われているものの、それ以降は、個々の大学や学生の取組に委ねられている部分が多く、課程認定大学全体としての取組は必ずしも十分ではない。
     このため、法令上も、教職課程全体を通じた教職指導の実施を明確にすることにより、各課程認定大学における積極的かつ計画的な取組を推進することが必要である。
  • 具体的な実施に当たっては、教職課程の履修者に対して、早い段階から、例えばインターンシップ等の学校現場や教育関連施設を体験する機会や子どもとの触れ合いの機会、現職教員との交流の機会等を提供するなど、課外における活動も含め、体系的・計画的な教職指導の実施を工夫することが必要である。また、例えば個々の学生について履修履歴等を確認しながら、各学年の修了毎に必要な教職指導を行うなど、きめ細かい指導の工夫や、それに応じた体制整備を図ることも必要である。
  • 教職指導の内容、方法等については、これらの方向を基本としつつ、今後教員養成を行う大学等関係者を中心にして、教職指導のモデル例の検討が行われることが望まれる。
  • また、今後は、各課程認定大学が自らの教員養成に対する理念を具現化するため、体系的・計画的にカリキュラムを編成したり、それとの関連に留意しながら教職指導を実施するなど、大学としての組織的な取組が重要である。この点に関しては、平成9年の教養審第一次答申等で「教員養成カリキュラム委員会」の設置を提言しているが、特に、今後、後述のように新たな必修科目を設けることとした場合、当該科目と他の科目等との関連性を確保したり、前述の教職指導を円滑に実施する上で、この種の委員会は中心的な役割を果たすものと考える。
     このため、今後とも、各課程認定大学における設置を積極的に推進するとともに、その機能の充実・強化を図る必要がある。また、学校現場の実態を踏まえたカリキュラム改善や教職指導等が行われるよう、必要に応じて、学校関係者や教育委員会との意見交換を行ったり、教職経験者や学外者等の意見を求めるなど、運営方法の工夫を図ることも必要である。
  • 教職課程のうち、特に教育実習については、学校現場での教育実践を通じて、自らの教職への適性や進路を考える貴重な機会であり、今後とも大きな役割が期待される。このため、実習協力校の確保・拡充に向けた大学と教育委員会との連携・協力の一層の推進、教職課程全体を通じた計画的な実施の工夫、教育実習の実施に必要な知識・技能等を学生が身に付けているかを十分確認した上で実習を認めることとするなど履修要件の厳格化、大学の教員と受け入れ学校の指導教員による連携の強化、事前・事後指導の徹底、受け入れ学校の理解促進と負担軽減、単位授与の際の適切な評価等の点で、一層の改善・充実を図ることが必要である。
  • 平成11年の教養審第三次答申で提言した教職課程のモデルカリキュラムの開発研究については、その後、複数のモデルカリキュラムが開発されたものの、必ずしも十分活用されるには至っていない。課程認定大学が、構造的・体系的にカリキュラムを編成し、教職課程全体を通じて計画的な教職指導を行う上で、モデルカリキュラムの開発研究は、大きな意義を有するものである。後述のように新たな必修科目を設けることとした場合、その科目の新設も一つの契機としながら、今後とも引き続き、教員養成を行う大学等関係者を中心にして、モデルカリキュラムの開発研究を行うとともに、国においても、教育内容・方法の開発・充実や実践性の高い優れた取組を支援することが必要である。
  • 変化の激しい社会状況や子どもの多様化等を考慮すると、教員には、これまで以上に広く豊かな教養を身に付けていることが求められており、課程認定大学においては、体験活動やボランティア活動、インターンシップ等を充実したり、自然科学や人文科学、社会科学等の高度な教養教育を実施することが必要である。また、これらの教育を通して、子どもが生きる地域社会の実態を把握する力や、教材解釈力を育成することが重要である。
  • 教職課程の科目や教育内容については、平成9年の教養審第一次答申を踏まえ、平成10年に教育職員免許法を改正し、所要の改善・充実を図ったところである。今後、この改正の効果・影響・課題等を検証するとともに、教員に今後特に求められる資質能力や、初等中等教育における教育内容の改善の動向等にも留意しつつ、必要に応じて、その見直しを検討することが必要である。

(2)「教職実践演習(仮称)」の新設・必修化 -教員としての資質能力の最終的な形成と確認-

 今後は、教員として最小限必要な資質能力の全体について、教職課程の履修を通じて、確実に身に付けさせるとともに、その資質能力の全体を明示的に確認することが必要である。具体的方策としては、教職課程の中に、新たな必修科目(「教職実践演習(仮称)」)を設定し、その履修により確認することが適当である。
 教職実践演習(仮称)には、教員として求められる4つの事項(1.使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項2.社会性や対人関係能力に関する事項3.幼児児童生徒理解に関する事項4.教科等の指導力に関する事項)を含めることとすることが適当である。
 実施に当たっては、演習(指導案の作成や模擬授業・場面指導の実施等)や事例研究、グループ討議等を適切に組み合わせて実施することや、複数の教員の協力方式により実施すること、最終年次の配当科目とすることなどの工夫をすることが適当である。
 教職実践演習(仮称)が成果をあげるためには、課程認定大学が、教員の相互の連携・協力体制の強化を図るとともに、科目内容・方法や実施体制等について、大学をあげて検討することが重要である。

  • 大学の教職課程で養成すべきとされてきた資質能力のうち、専門的な知識・技能以外については、これまで基礎資格(学士の学位等)の取得及び教職課程の単位修得等により確認されている部分があるものの、教員の役割等を踏まえた実践的指導力の基礎などの最終的な形成は、教職指導等を通じて個々人において形成されているとして、明示的には確認されてこなかった部分である。このため、今後は、課程認定大学において、教員として最小限必要な資質能力の全体について、教職課程の履修を通じて、確実に身に付けさせるとともに、その資質能力の全体を明示的に確認する方策を講ずることが必要である。これにより、免許状の授与の前提として、教員として最小限必要な資質能力の全体を確認(保証)することになり、免許状に対する信頼が高まる。
  • 具体的方策としては、「大学における教員養成」の原則や、我が国の教員免許制度等との関係を考慮すると、教職課程の中に、新たな必修科目(「教職実践演習(仮称)」)を設定し、その履修により確認することが適当である。当該科目は、教職課程の履修全体を通じて身に付けるべき資質能力を最終的に形成し、その確認を行うための総合実践を行う科目として位置付けられるものである。
  • 教員養成の水準や免許状の質を確保するとともに、教職実践演習(仮称)の履修を通じて、教員としての資質能力の確実な確認が行われるようにするためには、教職課程の他の科目と同様、科目に含めることが必要な事項を、法令上、明確にすることが必要である。当該科目の目的等を考慮すると、具体的には、教員として求められる4つの事項(1.使命感や責任感、教育的愛情等に関する事項2.社会性や対人関係能力に関する事項3.幼児児童生徒理解に関する事項4.教科等の指導力に関する事項)を含めることとすることが適当である。
     これらの項目を科目の中でどのように構成し、実施するかは、基本的に各課程認定大学の判断に委ねられるものであり、また、学校種によっても異なるものと考えられるが、実施に当たっての着眼点を例示するとすれば、別添1のような点が考えられる。
  • また、教職実践演習(仮称)の内容・方法等の検討に当たっては、最新の教育に関する動向等を踏まえつつ、例えば教職の意義や教員の役割等を再確認させたり、教員の具体的職務内容や学校現場の実態等についての理解を深めさせたり、教科指導や生徒指導等に関する実践的指導力の基礎を定着させる等、教員としての資質能力を確認するための総合的な実践を行うことに留意する必要がある。
  • 教職実践演習(仮称)の実施に当たっては、講義形式は極力避け、演習(指導案の作成や模擬授業・場面指導の実施等)や事例研究、グループ討議等を適切に組み合わせて実施することや、基本的に複数の教員の協力方式により実施すること、最終年次の配当科目とすることなど、履修方法等を適宜工夫することが適当である。
  • 成績評価については、例えば複数の教員が多面的な角度から評価を行い、その一致により単位認定を行うことや、教職経験者が評価に加わること等、学校現場の視点も加味した、適切な評価が行われるよう工夫をすることが必要である。
  • 教職実践演習(仮称)の最低修得単位数は1単位程度とすることが適当であると考えるが、2単位程度は必要ではないかとの意見もあり、さらに検討することが必要である。科目区分については、この科目の性格が、教科に関する科目と教職に関する科目の双方の目的・内容等を基盤とするものであるから、現行の科目区分とは異なる新たな科目区分(「総合実践に関する科目(仮称)」)を設けることが適当である。この場合、教職に関する科目に属する既存の科目(例えば、教職の意義等に関する科目や教育実習等)についても、あわせて科目区分の在り方を見直すことが適当かどうか、検討することが必要である。
  • 教職実践演習(仮称)を新設することとした場合の教職課程の修了に必要な総単位数の在り方については、現行の総単位数を維持することが適当であると考えるが、総単位数の増加も含めて検討すべきではないかとの意見もある。この点については、大学等関係者の理解を得ることも必要であり、単位数を増加することとした場合の教育上の意義や効果、教育体制の整備等大学側の負担や学生の履修上の負担等を総合的に考慮しつつ、さらに検討することが必要である。なお、総単位数を維持することとした場合、関連する教職に関する科目(例えば、「教職の意義等に関する科目」)の単位数を減ずるなどの措置を講ずることが適当である。
  • 教職実践演習(仮称)は、教職課程の他の科目の履修や教職指導の成果が、学生の中で統合され、最終的に教員として必要な資質能力が形成されたことを確認するという、他の科目にはない特色を有している。このような性格の科目が期待される成果をあげるためには、各課程認定大学が、この科目の創設の趣旨を踏まえ、教科に関する科目の担当教員と教職に関する科目の担当教員の相互の連携・協力体制の強化を図るとともに、具体的な科目内容・方法や実施体制等について、大学をあげて検討することが重要である。また、この科目と他の科目や教職指導との関連を明確にするなど、教職課程全体の体系的な編成を進めることが必要であり、各課程認定大学において、教員養成カリキュラム委員会等の組織を活用して、この点の検討を行うことが求められる。
  • 新たに設定する必修科目の内容等については、上記の基本方向を踏まえつつ、今後、大学等関係者の意見を聴くなどしながら、専門的見地から、さらに検討することが必要である。

(3)教職課程に係る事後評価制度の導入や認定審査の充実

 課程認定大学における教育が、力量ある教員を養成する上で効果的なものであるためには、適切な評価システムを確立し、その結果を教員養成の改善に継続的につなげていくことが必要である。
 教職課程が適切に運営されているかどうかを、事後的・継続的にチェックし、必要な改善等を促す仕組みを整備することが重要であり、外部評価や第三者評価を導入する方向で、検討することが必要である。
 教職課程の質の維持・向上のため、教職課程の認定に係る審査の充実を図ることが重要である。認定後の教職課程が法令等に違反すると認められる場合には、是正勧告や認定の取り消し等の方策を講ずることが必要である。

  • 各課程認定大学における教育が、力量ある教員を養成する上で効果的なものであるためには、適切な評価システムを確立し、その結果を教員養成の改善に継続的につなげていくことが必要である。各大学においては、自己点検・評価やその結果に対する学外者による検証が進められているが、特に、デマンド・サイドの視点に立つことが求められる課程認定大学としては、卒業者を採用している教育委員会や学校の意見を積極的に聞くことができる体制を構築すること等により、評価の客観性・実効性を高めることが重要である。
  • 課程認定大学における教職課程の改善・充実に向けた取組とともに、今後は、各大学の教職課程が適切に運営されているかどうかを、事後的・継続的にチェックし、必要な改善等を促す仕組みを整備することが重要であり、教職課程に関する外部評価や第三者評価を導入する方向で、検討することが必要である。なお、この際には、既存の認証評価制度や他の評価制度との関係、各課程認定大学における自己点検・評価の取組状況等を考慮し、大学に過重な負担がかからないよう、効率的かつ柔軟な評価が行われるよう工夫する必要がある。
  • また、教職課程の質を維持し、その向上を促すため、教職課程の認定に係る審査の充実を図ることが重要である。具体的には、大学全体の教職課程の運営方針等を審査対象とすることや、教員養成に対する理念・構想など、当該大学の教員養成に対する姿勢や、教職課程を必要とする理由を十分に確認すること等の改善・充実を図る必要がある。
  • 認定後の教職課程については、課程認定委員会による実地視察の対象を拡充することや、教職課程の運営状況に関する定期的な報告を課すこと、教職課程が法令や審査基準に違反すると認められる場合には、是正勧告や教職課程の認定の取り消し等の措置を行うことを可能とすること等、教職課程の質が確実に維持されるような方策を講ずることが必要である。

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初等中等教育局教職員課

-- 登録:平成21年以前 --