資料4-1 教職課程コアカリキュラム作成の背景と考え方(案)

教職課程コアカリキュラム作成の背景と考え方(案)



(1) 作成の背景
 国民は、公教育の担い手である教員に対して、その職への適性と高い資質能力を期待している。それに応えるためには、教員の養成・採用・研修の各段階を通じた不断の改善努力が求められるが、その中でも教員資格の付与に当たる教職課程の在り方は、最も重要視されなければならない。
 我が国の教員養成においては、将来、知識基盤社会を生きることになる幼児・児童・生徒の教育に、幅広い視野と高度の専門的知識・技能を兼ね備えた高度専門職である教員が当たることを目的として、教員養成の基幹部分をなしている教職課程は原則として大学における教育研究の一環として学芸の成果を基盤に営まれることになっている。同時に、教員は教職に就いたその日から、学校という公的組織の一員として実践的任務に当たることとなるため、教職課程には実践性が求められている。このため教職課程は、学芸と実践性の両面を兼ね備えていることが必要とされ、教員養成は常にこの二つの側面を融合することで高い水準の教員を養成することが求められてきた。
 しかし、この課題を克服することは簡単ではなく、戦後発足した「大学における教員養成」を巡る様々な議論や批判は、基本的にはこの課題に起因するものであった。従来、大学では学芸的側面が強調される傾向があり、そのことは、課題が複雑・多様化する教育現場から批判を受けたところである。近時においては、教職課程のあり方、内容、方法について、大学側において反省的検討が進められる動向があり、さまざまな提言や実践的成果の報告が行われるようになってきている。
 こうした状況において、教職課程の質的水準の確保・向上の必要性については、平成13年の「国立の教員養成系大学・学部の在り方に関する懇談会」の報告以降、幾度となく同様の趣旨の提言や試案が審議会や関係団体等においてなされてきた。直近では、平成27年の中央教育審議会答申「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」において「大学が教職課程を編成するに当たり参考とする指針(教職課程コアカリキュラム)を関係者が共同で作成することで、教員の養成、研修を通じた教員育成における全国的な水準の確保を行っていくことが必要である。」との提言を受けている。平成27年のこの答申を契機に、「教職課程コアカリキュラムの在り方に関する検討会」が開催され検討を行うこととなった。


(2) 教職課程コアカリキュラム作成の目的
 教職課程コアカリキュラムは、教育職員免許法及び同施行規則に基づき全国すべての大学の教職課程で共通的に修得すべき資質能力を示すものである。各大学においては、教職課程コアカリキュラムの定める内容を学生に修得させたうえで、さらに、その自主性や独自性を発揮した教育内容や、地域や学校現場のニーズに対応した教育内容を取り扱うことが求められる。このため、教職課程コアカリキュラムは大学の自主性や独自性、地域や学校現場のニーズが教職課程に反映されることを阻害するものではなく、むしろ、それらを尊重するという前提に立ったうえで教職課程の質の保証を目指すものである。


(3) 教職課程コアカリキュラムの作成方針・留意点
 教職課程は、医学教育、獣医学教育、法科大学院教育等の既にコアカリキュラムが作成されている専門職業人養成課程と異なり、取得を目指す教員免許の学校種(幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校等)、教科(国語、社会、数学、理科等)、職種(教諭、養護教諭、栄養教諭等)、免許状の種類(二種免許状、一種免許状、専修免許状)が多岐にわたる。
 このため、各々に対応したコアカリキュラムを作成するのではなく、まず、学校種や職種の共通性の高い、現行の「教職に関する科目」について作成することとした。なお、教職実践演習については平成18年の中央教育審議会答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」において授業内容例や到達目標等が規定されており、多くの大学で答申の内容に基づいた授業が行われていることから、新たにコアカリキュラムを作成する必要はないと判断した。学校種や職種に応じた留意が必要な点についてはその旨を補足することとする。
 また、このコアカリキュラムでは対象としなかった現行の「教科に関する科目」については、小学校・中学校・高等学校の英語科に関する内容を定めた「英語教育コア・カリキュラム[1]」や、幼稚園の主に領域に関する専門的事項についてのモデルカリキュラム[2]の調査研究が行われているが、その他の学校種・教科におけるコアカリキュラムについても今後の課題として順次整備されることを期待する。
 なお、先行する分野のコアカリキュラムに倣い、教職課程の各事項について、当該事項を履修することによって学生が修得する資質能力を「全体目標」、全体目標を内容のまとまり毎に分化させた「一般目標」、学生が一般目標に到達するために達成すべき個々の規準を「到達目標」として表すこととした。なお、これらの目標は教職課程における教育内容について規定したものであって、目標の数が大学における授業科目の単位数や授業回数等を縛るものではない。
 さらに、教職課程で修得すべき資質能力については、学校を巡る状況の変化やそれに伴う制度改正(教育職員免許法施行規則、学習指導要領等)によって、今後も変化しうるものであるため、今回作成する教職課程コアカリキュラムについては、今後も必要に応じて改訂を行っていくことが望まれる。
 教職課程コアカリキュラムは、教育職員免許法施行規則に規定する各事項について修得すべき資質能力を示すものであるが、教員には、これまでも累次の答申等で示されているとおり、使命感や責任感、教育的愛情、総合的人間力、コミュニケーション能力等、教育職員免許法施行規則に規定する各事項に納まらない総合的な資質能力が求められている。大学・学生・採用者(教育委員会等)等の関係者は養成・採用・研修の各段階を通じて、このような総合的な資質能力を常に向上させるよう努めることが望まれる。


(4) 教職課程コアカリキュラムの活用について
 教職課程の質保証や教員の資質能力の向上のためには、各関係者が認識を共有して取組を進める必要がある。教職課程コアカリキュラムを活用した教職課程の質保証を実現するために、各関係者においては以下の点に留意し、教職課程コアカリキュラムを活用することが求められる。


(大学関係者)
・ 各大学において教職課程を編成する際には、教職課程コアカリキュラムの内容や「校長及び教員としての資質能力の向上に関する指標」を踏まえるとともに、大学や担当教員による創意工夫を加え、それらが体系性をもったものになるよう留意すること。
  その際、例えば、幼稚園教育においては、各教科等の授業を通した学習ではなく遊びを通しての総合的な指導を中心とすること等、学校種や職種の特性を踏まえて創意工夫を凝らすことが必要であること。
・ 教職課程の担当教員において担当科目のシラバスを作成する際や授業を実施する際に、学生が当該事項に関する教職課程コアカリキュラムの「全体目標」「一般目標」「到達目標」の内容を修得できるよう授業を設計・実施し、大学が責任をもって単位認定を行うこと。
・ 教職課程を履修する学生に対して、教職課程コアカリキュラムや教育委員会が定める「校長及び教員としての資質能力の向上に関する指標」等の内容も踏まえ、卒業時までに修得すべき資質能力について見通しをもって学べるよう指導を行うこと。


(採用者(教育委員会関係者、学校法人関係者等))
・ 全国の大学の教職課程で教職課程コアカリキュラムの内容を踏まえた教育が行われるようになることを前提として、教員採用選考の実施や「校長及び教員としての資質能力の向上に関する指標」の検討を行うこと。


(国(文部科学省))
・ 大学や教育委員会等の関係者に対して、教職課程コアカリキュラムの内容や活用方法が理解されるよう広く周知を行うこと。
・ 教職課程コアカリキュラムが各大学の教職課程の質保証につながるよう、教職課程の審査・認定において、教職課程コアカリキュラムを活用すること。

 今後、教職課程コアカリキュラムが各関係者において、広く、効果的に活用され、教職課程の質保証や教員の資質能力、ひいては我が国の学校教育の質の向上に寄与することを期待する。



[1]平成27~28年度「英語教員の英語力・指導力強化のための調査研究事業」により国立大学法人東京学芸大学に委託され実施された研究による。
[2]平成28年度「幼児期の教育内容等深化・充実調査研究」により一般社団法人保育教諭養成課程研究会に委託され実施された研究による。

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初等中等教育局教職員課

-- 登録:平成29年08月 --