資料3-1 公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針(素案)

資料3-1



公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針


(素案)



 









一 背景及び趣旨



およそすべての教員は,教育を受ける子供達の人格の完成を目指し,その資質の向上を促すという非常に重要な職責を担っている高度専門職であり,学校教育の成否は,教員の資質によるところが極めて大きい。教育基本法(平成18年法律第120号)第9条において,教員は,「絶えず研究と修養に励むこと」,教員の「養成と研修の充実が図られなければならないこと」が規定されているように,これまでも常にその資質の向上が図られるよう,法令上,特別な配慮がなされているところである。子供達の成長を担う教員は如何に時代が変化しようとも,その時代の背景や要請を踏まえつつも,子供達の将来の道しるべとなるべく,常に成長し続けることが求められるものである。



一方,学校現場においては,教員の大量退職・大量採用等の影響によって,年齢構成や経験年数の不均衡が生じ,従来の学校組織において自然に行われてきた先輩教員から若手教員への知識・技術等の伝達が困難となるなど,教員を巡る環境が大きく変化している。



他方,グローバル化,情報化の進展等,世の中が急速に変化する中にあって,こうした状況変化を踏まえた新しい時代の教育に対応できるよう,学習指導要領,幼稚園教育要領及び幼保連携型認定こども園教育・保育要領を実現するための教員の資質向上に向けた環境を整えることが不可欠である。



こうした状況を踏まえ,教員の養成・採用・研修を通じた新たな体制整備の構築等のため,教育公務員特例法等の一部を改正する法律案を第192回国会に提出し,平成28年11月18日に同法律(平成28年法律第87号)が成立したところである。



このうち,教育公務員特例法の一部改正において,公立の小学校等の校長及び教員(以下「教員等」という。)の任命権者(以下「任命権者」という。)は,文部科学大臣が策定する指針を参酌しつつ,地域の実情に応じ,教員等の任命権者が当該教員等としての資質の向上に関する指標(以下「指標」という。)を策定することとし,その際,大学等からなる協議会における協議を経ることとする等の新たな制度が盛り込まれたところである。



本指針は,教育公務員特例法第22条の2第1項の規定に基づき,教員等の計画的かつ効果的な資質の向上を図るために策定する。



 



二 公立の小学校等の教員等としての資質の向上に関する基本的な事項



1 基本理念



教員等の資質の向上を図るに際しては,大学における教員養成の状況を踏まえるとともに,中長期的視点から教員等を育成する観点を重視しつつ,教育基本法,学校教育法(昭和22年法律第26号),児童福祉法(昭和22年法律第164号),地方公務員法(昭和25年法律第261号)その他の関係法令,教育振興基本計画並びに学習指導要領,幼稚園教育要領又は幼保連携型認定こども園教育・保育要領(以下「学習指導要領等」という。)の理念及び趣旨を十分に踏まえなければならない。とりわけ,以下に示す,学習指導要領等の趣旨を実現するために教員に必要とされる資質の向上を図ることが求められる。



 



(※ 学習指導要領の改訂の方向性を踏まえて追記)



○目指す資質・能力の3つの柱(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」)を踏まえた新たな時代に求められる資質・能力の育成



○教科横断的な視点に立った「カリキュラム・マネジメント」の実施



○「主体的・対話的で深い学び」の実現(「アクティブ・ラーニング」の視点からの授業改善)



○学習評価の充実



 



また,教員等は,地方公務員として各種法令及び服務規律を遵守し,確固たる倫理観を持つことは当然として,「これからの学校教育を担う教員の資質能力の向上について」(平成27年12月21日中央教育審議会答申)でも掲げられている通り,使命感,責任感,教育的愛情,教科や教職に関する専門的知識,実践的指導力,総合的な人間性,コミュニケーション能力といった教員等として不易の資質を備え,自律的に学ぶ姿勢を持ち,時代の変化や自らのキャリアステージに応じて求められる資質能力を生涯にわたって高めていくことのできる力,探究心,学び続ける意識を持つとともに,情報を適切に収集・選択・活用し,知識を有機的に結びつけ構造化する力を身につけることが求められていることを踏まえる必要がある。



 



2公立の小学校等の教員等としての資質の向上を図るにあたり踏まえるべき基本的な視点



 



(1)社会変化の視点



指標の策定に当たっては,情報通信技術の発展,社会・経済のグローバル化,少子・高齢化の進展,人工知能に関する研究の進化,雇用環境の変容等,世の中が急激に変化している最中にあることや,子供達が職業に就く等,将来社会で活躍する時期には,現在と大きく異なる状況変化が起こり得ているといったことを踏まえることが必要である。また,近年,特に都市部を中心に,地域社会等のつながりや支え合いによるセーフティネット機能の低下が指摘されているとともに,子供の貧困や格差の再生産・固定化が課題として指摘されていることを踏まえる必要がある。



 



(2)近年の学校を取り巻く状況に係る視点



いじめ・不登校などの生徒指導上の課題や貧困・児童虐待などの課題を抱えた家庭の児童生徒への対応,キャリア教育(進路指導を含む)への対応,保護者や地域との協力関係の構築,主体的・対話的で深い学びの実現,道徳教育の充実,小学校における外国語教育の早期化・教科化,ICTの活用,インクルーシブ教育システムの構築の理念を踏まえた発達障害を含む特別な支援を必要とする児童生徒等への対応,外国人児童生徒等への対応,学校安全の対応,幼小接続、小中一貫教育や中高一貫教育等の学校段階間連携等への対応など,学校を取り巻く課題等は極めて多種多様であり,こうした状況に対応できる教員等を育成するとともに,限られた時間や資源の中で,教員等の多忙化にも配慮しつつ,効果的・効率的な資質の向上が図られるよう配慮することが必要である。



 



(3)家庭・地域との連携・協働の視点



信頼される学校づくりのためには,保護者はもとより,地域住民からの信頼を得ることが不可欠である。このため、学校運営協議会等を通じて、保護者や地域住民の意見や要望を的確に反映させるとともに,家庭や地域社会による支援・協力を得ながら、学校運営を改善していくことが求められていることを踏まえる必要がある。(1)の社会変化の視点を踏まえつつ,各地域における地域の実情を重視する必要がある。



 



(4)個々の教員等の成長の視点



初任者であってもベテラン教員であっても,ひとたび教壇に立てば児童生徒等との関係においては,教員等であることに変わりがない。一方で,常に社会状況が変化する中で,現状に満足することなく,自ら学び続ける教員像の理念の下,教員の養成段階から採用後の日々の活動を通じて,常に教員等が成長し続けることが重要である。教員等の資質向上は必ずしも研修のみで図られるものではなく,学校における日々の活動の中で資質向上が図られる側面も大きいことから,教職生涯を通じた継続的な職能開発の視点を持ち,研修以外のあらゆる成長の手段も考慮しつつ,教員等一人一人の資質向上が図られることが重要である。また、画一的な教員像を求めるのではなく,男女共同参画の理念を踏まえつつ,各教員の長所や個性の伸長を図る視点を考慮することが重要である。



 



(5)チーム学校の視点



教員等一人一人が学校現場で生じる様々な課題に対応できる力量を高めていくことは重要であるが,それらすべての課題を一人で解決することは困難であり,チーム学校の理念の下,多様な専門性を持つ人材と効果的に連携・分担し,他の教員等と共にチームとして組織的に諸課題に対応するとともに,保護者や地域の力を学校運営に生かしていけるような力が求められていることに配慮することが必要である。



 



 



三 公立の小学校等の教員等としての資質の向上に関する指標の内容に関する事項



 



1 公立の小学校等の教員等としての資質の向上に関する指標の策定の趣旨



教員等の任命権者が指標を策定することとする趣旨は,教員等の資質向上を担う任命権者と教員の養成を担う大学等の共通認識の下,教員等が高度専門職業人として,キャリアステージに応じて身につけるべき資質を明確化するためである。



当該指標は,教員等が担う役割が高度に専門的であることを改めて示すとともに,研修等を通じて教員等の資質の向上を図る際の目安として,教員等一人一人が教職キャリア全体を俯瞰しつつ,それぞれの段階に応じて更に高度な段階を目指し,効果的・継続的な学びに結びつけることが可能となる体系的なものとする必要がある。



 



2 学校種・教員の職種等の範囲



教育公務員特例法第22条の3に規定されている公立の小学校等の校長及び教員の範囲は,以下の通りであり,指標の策定の対象となる職員も同様である。



 



○ 公立の小学校等の範囲は,公立の小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校,幼稚園及び幼保連携型認定こども園である。



○ 校長及び教員の範囲は,校長(園長を含む。),副校長(副園長を含む。),教頭,主幹教諭(幼保連携型認定こども園の主幹養護教諭及び主幹栄養教諭を含む。),指導教諭,教諭,助教諭,養護教諭,栄養教諭,主幹保育教諭,指導保育教諭,保育教諭,助保育教諭及び講師(常時勤務の者及び地方公務員法(昭和25年法律第261号)第28条の5第1項に規定する短時間勤務の職を占める者に限る。)である。





指標の策定に際しては,必ずしもすべての学校種毎に個別の指標を策定することを要するものではなく,例えば,小学校,中学校及び義務教育学校の教員における共通の指標を策定し,特に小学校の教員に必要な事項について留意事項を付す等といったことが可能である。ただし,それぞれの学校種において求められる教員の資質が完全に一致するものではないことに留意する必要がある。



また,必ずしもすべての職毎に個別の指標を策定することを要するものではなく,例えば,複数の職に共通の指標として策定し,そのうちの特定の職に必要な事項について留意事項を付す等といったことが可能である。ただし,それぞれの職において必要とされる資質が完全に一致するものではないことに留意する必要がある。とりわけ,校務や園務をつかさどる校長及び園長は,学校組織のリーダーとして,教育者としての資質のほか,的確な判断力,決断力,交渉力,危機管理を含む組織のマネジメント力が求められていることを踏まえ,他の職とは明確に区別できるよう留意する必要がある。



一方、同じ教諭の職であっても、特別支援学級や通級による指導の担当教員については、特別支援教育に関する専門性が特に求められることに鑑み、個別の指標を策定したり、特に必要な事項について留意事項を付す等といった取扱いも考えられる。



さらに,教員等のキャリアパスは単一のものではなく,例えば,教諭から主幹教諭を経て管理職に至り学校運営を担う者,教諭から指導教諭に至り学校内において他の教員の指導を担う者,生涯教諭としての職務を全うし,特定の分野においての知識・技能等を極める者等,様々な者が存在することを踏まえ,同一の職においても複数の指標を策定することも可能である。





3 職責,経験及び適性に応じた成長段階の設定基準



教員等の成長段階に応じた資質向上の目安とするため,指標毎に複数の段階を設けることとする。その際,必ず,着任時に任命権者が求める資質を記載するための段階を設けることとする。その他の段階は,各地域における教員等の年齢構成や経験年数の状況等といった地域の実情に応じ,例えば,経験1年~5年,6年~10年といったように経験年数に着目した設定の他,向上・発展期,充実・円熟期,第1ステージ(第1期),第2ステージ(第2期),初任,中堅,ベテラン等,必ずしも経験年数のみに着目しない設定が考えられる。



 



4 教員等としての資質の向上に関する指標に盛り込むべき内容に係る観点



指標には,以下に掲げる観点を含めることとする。(必ずしも同様の文言を使用しなければならないものではない。)



○倫理観,使命感,責任感,教育的愛情,総合的人間力,コミュニケーション力,自ら学び続ける意欲といった教職を担うに当たり必要となる素養



○教育、保育の方法及び技術,教育又は保育の方法及び技術に関する事項(情報機器及び教材の活用,アクティブ・ラーニングの視点を踏まえた授業改善を含む。)



○教育課程の編成に関する事項(カリキュラム・マネジメントによる教育活動の充実,主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善,情報手段や教材・教具の活用を含む。)



○幼児理解,児童理解及び生徒理解に関する事項



○特別の支援を必要とする幼児,児童及び生徒に対する理解に関する事項



○児童生徒指導及び教育相談に関する事項(いじめ等児童生徒の問題行動への対策及び不登校児童生徒への支援を含む。)



○保護者及び関係機関との関係構築に関する事項



○学級経営や学校運営に関する事項(学校と地域との連携・協働及び学校安全への対応を含む。)



○他の教職員との連携及び協働に係る事項(若手教員の育成を含む。)





ただし,上記の項目を中心としつつも,職毎の特性を踏まえ,例えば,養護教諭にあっては保健管理、健康相談や保健室経営に関する事項,栄養教諭にあっては食に関する指導と学校給食の管理に関する事項等を適宜含めることが必要である。また,例えば,校長にあっては,教育、保育の方法及び技術に関する事項等を省略するといったことが考えられる。また,情報機器の活用については,幼稚園及び幼保連携型認定こども園における指標には必ずしも記載することを要するものではない。



 



5 その他



上記4については,教科横断的な資質に注目したものとなっているが,各地域の実情を踏まえ,必要に応じて教科毎の指標を策定することも考えられる。



 



四 その他公立の小学校等の教員等の資質の向上を図るに際し配慮すべき事項



1 教員等としての資質の向上に関する指標の策定に当たって必要とされる手続



指標の策定に当たっては,教育公務員特例法第22条の3第2項の規定に基づき,同法第22条の5の規定により設置される協議会における協議をあらかじめ経る必要がある。また,協議会においては,指標の策定に関する協議のほか,指標に基づく教員等の資質の向上に関して必要な事項についての協議を行うこととなっており,教員等の資質の向上を図るに当たっては,協議会を有効に活用することが極めて重要である。また,協議会における協議を通じて,地域における課題や学校現場の状況を反映させることが重要である。



とりわけ着任時に任命権者が求める資質については,大学が行う教員養成の目標であるとともに,教員等の任命権者が行う資質向上の前提となるものであり,当該資質について,協議会で確固とした共通理解を確立することが極めて重要である。そのため,着任時に任命権者が求める資質について協議する際には,協議会の構成員である大学が行う教員養成の改善の視点を持ちつつ,今後,国の策定する教職課程コアカリキュラムの内容や教員養成の実態を踏まえ,協議会で十分議論を尽くすことが重要である。



また,協議会における協議を経た上で策定される指標及び当該指標を踏まえて策定される教員研修計画については,同法第22条の3及び22条の4の規定により,策定後遅滞なく公表するよう努めることとされているが,指標や教員研修計画だけではなく,指標策定のプロセス等,協議会における協議に関する情報を積極的に公開することが望ましい。



さらに,県費負担教職員(市町村立学校職員給与負担法第1条及び第2条に規定する職員をいう。)の任命権者である都道府県教育委員会が当該教員に関する指標を策定するに当たっては,協議会の運営に際して,関係する市町村教育委員会の意見を反映することが重要である。とりわけ,中核市については,当該中核市の教育委員会が教員研修計画の策定を担うことを踏まえ,可能な限り,協議会の構成員に含める等,特段の配慮が必要である。



なお,指定都市以外の市町村の設置する高等学校,中等教育学校,幼稚園及び幼保連携型認定こども園等の教員等の指標の作成に当たっては,同法附則第4条の規定により協議会における協議を要さないこととされている。



この場合,教員等の資質の向上に向け指標の内容を充実させるよう,その内容について必要に応じ大学等の意見を聴取するとともに,初任者研修及び中堅教諭等資質向上研修の実施権者である都道府県教育委員会又は都道府県知事とも連携を図りながら作成することが望ましい。



 



2 教員等としての資質の向上に関する指標の推進体制及び点検等



(1)推進体制



指標の策定後,実際に指標に基づく教員等の資質向上を図るに際しては,協議会のみならず,協議会の構成員となっていない教育関係者や民間企業等も含めた協力体制を整備することが重要である。その際,例えば,中堅教諭等資質向上研修と大学等が行う免許状更新講習の相互認定の促進や学校インターンシップ等の受入れ,各種研修における協議会の構成員の協力等,教員等の資質向上に関する様々な協議を行うことが望ましい。



 



(2)指標の点検



世の中の状況や学校を取り巻く状況は常に変化するものであり,指標についても,様々な状況変化に応じて不断の見直しを図ることが重要である。また,指標で掲げた内容を踏まえ,教員研修計画を策定し,実際に研修を実施する中で,実態に合った,より実効性の高い指標に改善していくことが必要である。そのため,各地域の実情に応じ,定期的に指標を見直すなど,指標を中心とした教員等の資質向上策に係るPDCAサイクルを機能させることが重要である。





(3)他の計画等との関係



指標の策定や指標に基づく教員等の資質向上を図るに際しては,各自治体における総合計画や地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)第1条の3に規定する大綱,教育基本法第17条第2項に規定する教育委員会で策定する基本的な計画等の各種計画との整合性を図ることが必要である。また,必要に応じて総合教育会議における協議を活用することも考えられる。













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初等中等教育局教職員課

-- 登録:平成29年01月 --