第1章 基本的な考え方

1 食に関する指導の充実の必要性

 食は人間が生きていく上での基本的な営みのひとつであり、健康な生活を送るためには健全な食生活は欠かせないものである。しかしながら、近年、食生活を取り巻く社会環境の変化などに伴い、偏った栄養摂取などの食生活の乱れや、肥満傾向の増大、過度の痩身などが見られるところであり、また、増大しつつある生活習慣病と食生活の関係も指摘されている。このように、望ましい食習慣の形成は、今や国民的課題となっているともいえる。
 特に、成長期にある児童生徒にとって、健全な食生活は健康な心身を育むために欠かせないものであると同時に、将来の食習慣の形成に大きな影響を及ぼすものであり、極めて重要である。しかし近年、子どもの食生活の乱れも顕著になってきており、例えば、平成9年の国民栄養調査によれば、20歳代の朝食欠食者のうち66.6%が高校卒業の頃までに朝食欠食が習慣化していることが明らかになっている。なお、平成13年の同調査では、20歳代男子の朝食欠食の割合は20.4%となっている。また、子どもだけで食事を取る孤食については、昭和57年には22.7%であったものが平成5年には31.4%に増加している。肥満傾向児(性別・年齢別に身長別平均体重を求め、その平均体重の120%以上の体重の者)も増加しており、学校保健統計調査によれば、小学6年生男子では、昭和52年に6.7%が肥満傾向であったものが、平成14年には11.7%とほぼ倍増している。栄養と脳の発達や心の健康との関係も指摘されている。
 また、平成14年9月30日の中央教育審議会答申「子どもの体力向上のための総合的な方策について」(以下「平成14年答申」という。)において指摘したように、子どもの体力は低下傾向が続いており、体力の向上のためには、適切な運動と十分な休養・睡眠に、調和のとれた食事という、健康3原則の徹底による生活習慣の改善が不可欠である。
 加えて、外食や調理済み食品の利用の増大により、栄養や食事の取り方などについて、正しい基礎知識に基づいて自ら判断し、食をコントロールしていく、いわば食の自己管理能力が必要となっている。特に、食品の安全性に対する信頼が揺らいでいる中、食品の品質や安全性についても、正しい知識・情報に基づいて自ら判断できる能力が必要となってきている。
 このように、子どもの体力の向上を図るとともに、食に関する自己管理能力の育成を通じて将来の生活習慣病の危険性を低下させるなど、子どもたちが将来にわたって健康に生活していけるようにするためには、子どもたちに対する食に関する指導を充実し、望ましい食習慣の形成を促すことが極めて重要である。
 また、健康と体力は今後の教育が目指すべき「生きる力」の基礎となるものであり、食に関する指導の充実は、子どもたちの「生きる力」を育んでいく上でも非常に重要な課題であるといえる。
 さらに、食はそれぞれの国や地域の風土や伝統に根ざした、すぐれて文化的な営みであり、また、団欒などを通じた社会との接点としての側面も有している点を忘れてはならない。食に関する指導においては、「食文化」の継承や多様性の尊重、社会性の涵養といった効果も期待できる。
 食に関する問題は、いうまでもなく家庭が中心となって担うものである。しかし、核家族化の進展、共働きの増加などの社会環境の変化や、外食や調理済み食品の利用の増加などの食品流通の変化等を背景として、食生活の在り方も大きく変化しつつあり、保護者が子どもの食生活を十分に把握し、管理していくことが困難になってきている。このような状況を踏まえれば、食に関する全ての責任を家庭に担わせるのはもはや現実的とはいえない。このため、今後は学校が子どもの食について家庭に助言や働きかけを行うことも含め、家庭・地域・学校が連携して、次代を担う子どもたちの食環境の改善に努めることが必要である。

2 学校における食に関する指導の現状

 現在、学校における食に関する指導は、学級担任を中心として、給食の時間において学校給食そのものを生きた教材として活用した指導が行われているほか、家庭科や保健体育科を中心に教科指導の中でも行われている。その中でも、給食の時間における食に関する指導は、学校給食そのものを教材として活用し、見る・食べるといった行為を通じて楽しみながら児童生徒の興味・関心を引き出すことができ、非常に高い教育的効果を持っている。また、学校給食に地域の産物を使用したり、地域の伝統的な料理を提供することを通じ、地域の文化や伝統に対する理解と関心を深めるなどの取組も行われている。
 学校における食の専門家である学校栄養職員を活用した取組も進められており、ティーム・ティーチングや特別非常勤講師制度を活用した学校内での指導活動は年々増加している。また、親子料理教室や給食だよりなどを通じて、学校が家庭や地域に働きかけを行うなど、家庭・地域との連携を推進する取組も進められている。
 しかしながら、食に関する指導については、これまで明確な体制整備がなされてこなかったため、地域や学校ごとに取組は区々であったというのが現状である。

3 食に関する指導体制整備の方向性

 以上のように、これまでも学校栄養職員の活用を含め、学校における食に関する指導を進めるための取組は様々な形でなされているが、近年の子どもたちの食を取り巻く環境の変化は、これまでにないほど急速かつ激しいものである。子どもたちが望ましい食習慣と自己管理能力を身に付け、この変化に十分に対応して自らの健康を保持増進していける能力を培っていくためには、より効果的な食に関する指導体制の整備が急務である。そのためにも、学校における食に関する専門家である学校栄養職員の専門性を、確実に指導面でも活用していけるような制度的担保が必要である。
 食に関する指導体制の整備については、これまでも、平成9年9月22日の保健体育審議会答申「生涯にわたる心身の健康の保持増進のための今後の健康に関する教育及びスポーツの振興の在り方について」において、新たな免許制度の導入を含めた学校栄養職員の資質向上策の検討の必要性が指摘されているだけでなく、平成14年答申においては、「学校栄養職員については、食に関する専門家としての知識はもとより、児童生徒の成長発達やこの時期の心理の特性などについての正しい理解の上で、教育的配慮を持った食に関する指導を行うことが求められている」と指摘し、「いわゆる『栄養教諭(仮称)』制度など学校栄養職員に係る新たな制度の創設を検討し、学校栄養職員が栄養及び教育の専門家として児童生徒の食に関する教育指導を担うことができるよう食に関する指導体制の整備を行うことが必要である」とより具体的な提言を行っているところである。
 現在の学校栄養職員は、栄養士又は管理栄養士の資格を有して学校給食に係る栄養管理や衛生管理を行っており、食に関する専門家ではあるが、教育的資質が担保されているとはいえない。食に関する専門性を指導面で十分に生かし、自ら責任を持って指導に当たっていけるようにするためには、現在の学校栄養職員の資質に加え、教育に関して必要な資質を身に付けた者が食に関する指導を担えるよう、栄養教諭制度を創設し、効果的な食に関する指導体制の整備を図る必要がある。その際には、他の教員と同様の積極的な学校活動への参画により、その専門性を遺憾なく発揮できる環境の整備に留意することが重要である。

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