生涯学習分科会(第93回) 議事録

1.日時

平成30年7月9日(月曜日)10時00分~12時00分

2.場所

スタンダード会議室 虎ノ門ヒルズFRONT店 2階大ホール(東京都港区虎ノ門1-22-14 ミツヤ虎ノ門ビル)

3.議題

  1. 人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策について
  2. 公立社会教育施設の所管の在り方等について
  3. その他

4.議事録

【明石分科会長】
 定刻となりましたので,ただいまから中央教育審議会生涯学習分科会(第93回)を開催いたします。本日は,お忙しいところお集まりいただきまして,誠にありがとうございます。
 本日は,大きく二つの課題がありまして,一つは,3月2日に行われた諮問の議論の一環として,社会教育施設の多様な資金調達に関するヒアリングを行いたいと思います。その後,前回に引き続きまして,公立社会教育施設の所管の在り方等についての審議を行いたいと思います。
 まず,取組等に関する御発表を頂く方を御紹介いたします。
 まず,国立科学博物館人類研究部の海部陽介人類史研究グループ長でございます。
 続きまして,国立科学博物館の佐藤安紀理事兼副館長でございます。
 次に,特定非営利活動法人本と人をつなぐ「そらまめの会」の下吹越かおる理事長でございます。
 続きまして,READYFOR株式会社の徳永健人様でございます。
 続いて,二つ目の社会教育施設の所管の在り方等について御意見を頂く方を御紹介いたします。
 独立行政法人国立高等専門学校機構の加治佐哲也監事でございます。
 続きまして,東京大学大学院教育学部研究科の村上祐介准教授でございます。よろしくお願いいたします。
 本日も,報道関係者より,会議の全体について撮影・録音を行いたい旨の申出があり,許可しておりますので,御承知おきください。
 議事に入る前に,文部科学省で人事異動があったとのことでありますので,御報告をお願いいたします。

【菅野生涯学習推進課課長補佐】
 7月1日付けで生涯学習推進課課長補佐の高見が障害者学習支援推進室長に異動となりまして,後任に私,菅野が着任いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。

【明石分科会長】
 後任に菅野さんが着任いたしました。
 続いて,配付資料の確認等をお願いいたします。

【菅野生涯学習推進課課長補佐】
 それでは,配付資料の確認をさせていただきます。お手元にありますものを御確認いただけますでしょうか。まず議事次第,それから座席表をお配りしております。議事次第にありますとおり,資料につきましては,資料1‐1,1‐2,1‐3,この三つが,多様な財源によっていかに活性化していくかという関係の資料でございます。それから,資料2のシリーズが,資料2‐1,それから村上先生から頂戴しました資料2‐2でございます。そして資料3が,これまでの中教審及び生涯学習分科会における御意見という資料になっております。
 その先は参考資料とさせていただいておりまして,参考資料1,2,3とお配りをさせていただいております。
 また,山本健慈先生から国立大学の国大協広報誌を頂戴しておりましたので,お配りさせていただいております。
 また,机上に配付いたしましたドッジファイルには,これまでの分科会のワーキンググループでの配付資料のほか,参考となります資料を収納させていただいております。御参照いただけますでしょうか。
 また,過不足などございましたら,事務局にお申し付けください。どうぞよろしくお願いいたします。

【明石分科会長】
 よろしいでしょうか。
 それでは,議事に入る前に,山本委員よりお手元に冊子を配付していただいておりますので,山本委員,簡単に御紹介いただけますか。

【山本委員】
 お時間を頂いて恐縮です。当期の生涯学習分科会は,人生100年時代構想ということをバックグラウンドに議論されておりますが,その中では生涯学習政策と高等教育政策といいましょうか,高等教育をどう結び付けるかということも課題になっているかと思います。配付しました「国立大学第49号」という冊子は,国立大学協会が,年4回出しているもので,今期は「リカレント教育」ということで,東京大学の吉見俊哉先生にインタビューに応じていただいておりますので,ごらんいただきたいと思います。なお,この広報誌は,国立大学協会ホームページからバックナンバーを見ることができます。最近よく発言注目されている新井紀子さんも「国立大学第47号」でインタビューに応じていただいておりますので,是非ホームページから検索していただければありがたいと思います。
 以上でございます。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 では,議題1の人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策についてでありまして,本日は,その一つの社会教育施設の多様な資金調達の在り方について御発表いただきたいと思います。全ての御発表が終わった後,まとめて質疑応答と意見交換をしたいと思っております。
 それでは初めに,国立科学博物館の取組について御説明を頂きたいと思います。海部グループ長と佐藤理事,お願いいたします。

【海部氏】
 御紹介いただきました海部です。よろしくお願いいたします。私どもの取組についてお話しさせていただきます。ちょうど2年前の2016年に,国立の博物館としては初めて日本でクラウドファンディングをさせていただきました。そのときの体験を中心にお話しさせていただきます。
 その前に,実は私どもは今2回目のクラウドファンディングをちょうどオープンしたばかりで,きのうの夜9時にスタートしております。こちらの方も注目いただければありがたいと思います。
 クラウドファンディングの動きは,ちょうど今動いていますので,御関心のある方は見ていただくと参考になるのかもしれません。READYFOR社からお世話になっているのですけれども,何しろSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用しなければいけないということで,私のとても苦手な分野なんですけれども,一生懸命頑張っております。参考になるのは,インターネット上の私どものクラウドファンディングのウェブサイト,これはREADYFOR社のプラットフォームを利用させていただいています。それから,公式のフェイスブック,それから私が代表なので,私自身の個人のフェイスブックやツイッターも動かしなさいということで,不慣れなのですけれども,やっております。このあたりは,ネット上で「3万年前の航海」とかで検索いただければヒットすると思いますので,どんなふうに動いているかということを興味ある方は見ていただければと思います。
 私たちのプロジェクトについて,まず概要を御説明したいんですけれども,注目しているのは縄文時代よりはるか前の3万年前という時代になります。このときに日本列島の人類の歴史というのが初めて始まるんです。つまり,日本に初めて人類が現れたという時代です。何に注目しているかといいますと,もっと長い人類の歴史を見たときに,人類はアフリカで生まれたわけですけれども,その後,今のように世界中に人が暮らすという時代を迎えるわけなんですが,その歴史が実は過去5万年ぐらいの間に急激にそうなったわけです。何が起こったかというと,ホモ・サピエンスという新しい人類がアフリカで進化して,このグループが世界に大拡散を起こすわけです。今までいた原人や旧人がいなくなるのですけれども,その過程で,今まで人類が住んでいなかったシベリアとか,それから太平洋の島とか,そういうところにも人が住むようになります。つまり,ホモ・サピエンスという種になって初めて人類は全ての地球上に拡散できるようになった。これは,寒い場所とか海とか,今まで越えられなかった障壁を越えられるようになったという意味に違いないのですけれども,その歴史を僕らはたどっています。その一つの重要な舞台が実は日本列島でありまして,日本列島に来るには海を越えないと来られないわけです。
 これは,ちょうど日本列島に人が渡ってきた頃の地図ですけれども,3万8,000年前頃に初めて人がやってくるのですが,そのときの地形というのは復元がされていまして,海を渡らないと来られない。ではどうやって渡ったのかということを実験的に示すのが私たちの目的になります。今注目しているのは沖縄,琉球列島なんですけれども,この琉球の様々な島に3万年前に突然人が現れます。遺跡が突然出現するんです。これは一体どうやってあの海を渡ったのかということを単に研究するだけではなくて,実際に船を造って,海に出て航海することによって体験的に理解しようと。そういうことによって,祖先たちが何をしたのか,どんな挑戦をして,海という今まで人類未到の領域を彼らはどうやって開拓していったのかということを見ていきたいというのが目的になります。
 ただし,この実験という部分が科研費とかではなかなかできない部分ですので,それからこの部分をなるべく多くの皆様と共有して進めていきたいということを考えたものなので,それでクラウドファンディングという着想に至りました。実際のところ,私はクラウドファンディングをよく知っていたわけではなくて,うちの国立科学博物館の林館長に相談にいったら,クラウドファンディングをやったらどうかという提案を受けまして,それでスタートしました。1度目が2年前で,目標額は2,000万円に設定したのですけれども,最終的には875名の方々から合計2,638万円の大きな金額を頂きまして,それでこの実験プロジェクトをスタートすることができました。本当に直接的に多くの一般の方々に支えられて動いている,そういうプロジェクトになります。ですから,やっている僕らも,物すごく大きな責任を負うと同時に,その応援を受けているという強い気持ちを持ってやれるというところが,このクラウドファンディングのとても面白いところだと思っております。
 クラウドファンディングのアイディアは館長から頂いたもので,選んだのは購入型というタイプです。博物館の場合は,私たちはちょっとアドバンテージがありまして,いろいろなサービスを提供できますので,ナイトミュージアムとか,ふだんやらないようなイベントサービスを用意しまして,特別体験を楽しんでいただくようにしました。プラットフォームは自前でやることももちろんあり得るかもしれませんが,ノウハウを僕らは持っていなかったので,READYFOR社に依頼をしています。
 細かい経緯などはお手元の資料をごらんいただきたいと思いますが,いろいろな反省点とか,どういう経過で当初2年前の2月9日スタートで4月12日に終わるまでの経緯,どんなことをやってきたかということをまとめた資料もございますので,御参照いただければと思います。
 この中で私自身が振り返ってとても大事だったと思うのは,まず組織の結束だと思います。私どもの博物館は,職員が常勤職員だけでも研究者を入れて120名ほどですか,特別大きな組織ではないのですけれども,この館内の職員が,今クラウドファンディングをやっているということをまず知っているということ,その基本的なことがやっぱり一番大事でして,どうしても縦割りで,皆さん自分の仕事を抱えている中で,隣の部署が何をやっているか知らないということは起きますが,これに関しては僕自身,注意をして直接的な声掛けもしましたし,今回はちょっと役員の方にも相談して,職員向けの説明会をやったりして周知を図りまして,私たちの動きを皆さんに理解いただく。それから,いろいろなところで協力いただく。チラシの配布等,そういうことをお願いして,組織としてまとまってできるように工夫しております。それが何しろとても大事だなと思っています。
 体験からのメモというのも用意しましたが,ちょっと全部読み上げることはいたしませんけれども,僕らが特に学んだのは,広報のやり方とか,ふだんの博物館,役所としてやっている広報のやり方以上のことを工夫しないといけませんので,どうやったら多くの方々に知ってもらえるか,博物館ファンの方々には僕らの声が届くわけですけれども,それ以上にもっと広げてやるにはどうしたらいいのかといったことを様々学んできました。まだ十分だとは思っておりませんが,試行錯誤しながらやっております。
 それから,組織で動いているときに,組織の長のリーダーシップというのはやっぱり大事で,私どもの場合は,林館長がリーダーシップを発揮してくださったので,うまくいっていないときも,館長会議というのが緊急に開かれて,上役の人たち全員,部長さんたちを集めて,どうしたらいいのかという会議をやってくださったりしました。そういうところが大きくて,前回のクラウドファンディングは成功に導けたのだと思っております。
 この事業の体制を若干説明させていただきますが,私どものプロジェクトは,研究者がやっている研究と海の上でやる実験の二つが柱になっています。実は,純粋な研究の方は,科研費などの研究資金で基本的には動いています。こちらには民間の資金を入れているわけではないです。ですが,海上で船を造ったり,それからこれはプロのこぎ手を呼んだり,それからプロの撮影チームに入ってもらったりします。これは委託して,きちんと映像記録をとるといったことをやっています。これは,研究者だけがやって終わるのではなくて,このプロジェクト全体をシェアしたいという意図でもって,記録をしっかりする,広報をしっかりするという意味で,そういったところに使う経費。それから,当然安全管理費です。そういったところで大きな経費が掛かる部分を民間のクラウド資金でやっております。実は,クラウドファンディングだけではなくて,その他企業からの寄附なども合わせて運営しております。
 私たちの情報公開のポリシーというのがあります。これは,情報はもちろん一般公開して広くシェアするのですけれども,最初に成果をお知らせするのはメディアではなくて支援者であるというポリシーを持ってやっております。プロジェクトはどんどん進んでいきます。試行錯誤しながら,失敗もしながら進んでおりますが,月2回ぐらい,メールニュースで最新情報を流すのですけれども,これは支援者クルー会員と呼んでいますが,その方限定で流しております。ですから,会員の方々が最初に僕らのプロジェクトの進行状況を知る,その後に一般に公開するというプロセスをとっております。そういうのが一つの柱です。
 それから,このプロジェクトの特徴は,いろいろな特徴があるのですけれども,オープンサイエンスの新しい形であると考えています。私たちは,通常の研究というのは,全て終わって成功してから,結果が出てから発表するものです。通常は私たちもそのようにやっておりますが,この研究だけはちょっと特別で,過程を全部公開しています。私たちの失敗も含めて全て公開しています。そうやって僕らが試行錯誤して悩み,解決し,問題にぶち当たりながらやっているところを公開し,かつ共有して皆さんと一緒に考えていく,そういう形を作りたいと思っています。
 それから,併せて大勢の方々が意見をできる。私たちが考えて全部やるのではなくて,いろいろな方々からの意見を吸い上げて,それを私たちが参考にして,あるいは方向修正の材料に使っていく,そういう形をとりたい。そのときに実はこのクラウドファンディングというのはとても親和的であると後になって思っております。お金を払って関わってくださる方は本当に本気でついてきてくれますので,そういう意味でとてもいい循環ができていると思っています。
 最後に,今後の私たちの計画なんですけれども,プロジェクトとしては,来年の2019年に,台湾から与那国島という航路の実験航海をやりたいと思っています。琉球列島上に人が渡った航路のうちの一つになりますけれども,ここは実は巨大な黒潮という世界最大の海流が通る場所で,これを越えて与那国島は台湾から見えないのですけれども,この見えない島を目指すという非常に難しい航路になります。ですから,こういう難関をクリアしないと,何しろ沖縄に人が入るということはなかったわけです。祖先たちはそれだけのことをやっている。それを僕らは一つ体験しながら理解したいというのが目的になります。そのために,クラウドファンディングを今もう一度やっております。今まで頂いた資金は実は全部使い切ってしまいまして,もう一度仕切り直しをしているところです。
 それから,NHKで来週の日曜日7月15日の夜9時から「人類誕生」第3集として,私どものプロジェクト等々を取り上げて,人類の歴史が語られますので,関心のある方は是非そちらもごらんいただければと思います。
 以上になります。ありがとうございました。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 御意見,御質問につきましては,最後にまとめていただきたいと思っております。
 続きまして,指宿市立図書館の取組について御説明いただきたいと思います。下吹越理事長,お願いします。できましたら10分以内で御説明をお願いしたいと思います。では,お願いします。

【下吹越氏】
 では,少しお話を始めさせていただきます。皆様,こんにちは。鹿児島県の指宿市から参りました。日本の一番南の小さい図書館の事例をお話しさせていただきたいと思います。
 私どもが図書館を委託されたのが平成19年で,今11年目を迎えているところなんですけれども,その運営の中で,どうしても小さい子供たちに対する支援や遠隔地の子供たちに対する支援が手薄だなというのを感じていました。ただ,それを具体的に自分たちの力で動かすことも,また行政に相談もしたのですけれども,そこもなかなか現状では難しいという判断でした。その中で私たちはNPOで市民で図書館を運営していたのですが,みんなでどうしようかという話をしたところ,クラウドファンディングというものがあるのであれば,地域の人たちが地域の人たちのためにお金を出し合って,地域の子供たちやそういう図書の環境にない人たちを支えていくことができないだろうかということで,この取組を始めた次第です。
 きょうはそのお話をさせていただきたいと思うんですが,簡単にはまいりませんでした。私たちは,それこそクラウドファンディングなどというのは,ネットの上に持ち上げていけば,自然とお金が集まるのではないかというくらいに思っていたのですが,実際のところはとても大変でした。特に,最初に私たちがネットワークの中でこのクラウドファンディングをするに当たり,どのぐらい私たちがネットワークのお友達を持っているかということがとても大事でした。ただ,皆さんフェイスブックやツイッターをしているわけではなかった田舎の人たちを,まずはフェイスブックに登録させ,ツイッターに登録させというところから始まりました。結局,洗い出しをまず始めるんです。もしあなたがフェイスブックをしたら,あなたを支援してくれる人が何人いますかと。私が頼めば,5,000円を出してくれる人が何人,1万円を出してくれる人が何人みたいな積算のところからちょっと洗い出し的なものもして,何かそのときにもう,ああ,やっていけるのかなというような感じもすごくしたのですが……。なかなか難しかったのですが,90日間,計画実行の期間を頂きまして,750万円の目標を掲げていたのですが,最終的には1,177万5,000円という金額で終わりました。
 私どもは,本当にこのような金額が集まればいいなとは思いましたけれども,集まる自信は本当にありませんでした。ただ,結局私たちが歩いて回ったのですけれども,指宿というのはインターネットの家庭普及率が20%とかということで,クラウドファンディングをやっていること自体,みんなが家庭で見ないという状況の中で,歩くクラウドファンディングを私はいたしました。結局,いろいろなところに顔を出しながらいろいろな人に声を掛けながら回っていくと,皆さんが異口同音におっしゃったのは「あなたたちが10年間図書館をやっていたのは見ていたよ。あなたたちが本当に図書館をやるようになってから図書館は見違えたよね」と。「本当に図書館が生き生きして,そこに過ごす人たちがとても幸せそうだった。そういうあなたたちだから支援しよう」というような言葉を頂いたときに,私たちの図書館運営を住民を巻き込みながらやったこともとてもよかったなと。一つ一つのことを私たちだけでやらないで,いつも住民に問い掛けながら図書館運営をやっていました。そのことが住民に評価されて,今回のクラウドファンディングにもつながったのかなと思っているところです。
 その中でも一番は,地元の会計事務所さんが,ネーミングライツという一番金額の高いものを下さいました。でも,それは結局,その会社さんが創立50年になってちょうど周年行事を行おうとしていて,普通に講師を呼んで,それから何かおいしいごちそうを食べて,記念品を作ってということで予算を使おうと思っていたものを,私たちのこの活動を知った会計事務所さんが「僕たちがこうやって地元で会計事務所をやってこられたのは,地域の皆さんの支援のおかげだ。その地域の皆さんに自分たちがどんなお返しができるかといったら,大したことはできない。でも,あなたたちにこのお金を託すことで,僕たちができない子供たちのところに本を持っていくことをあなた方がしてくれるのであれば,これが一番正しいお金の使い道だと思うよ」と言ってくださいました。その言葉を聞いて,非常にまた頑張ろうという気持ちになって,このプロジェクトを達成することができました。
 先ほどちょっと話をしましたように,私たちはこういう二つの図書館を持っています。市町村合併をして,図書館を運営して,今11年目ということです。規模としてはこのぐらいです。資料の方は手元にございますので,ごらんください。指宿図書館が7名,山川図書館が5名,全員で12名,全員女性で運営しております。
 私は今回,指宿の図書館を委託してからいろいろ調べてみたら,何と指宿の図書館は大正13年にできていました。やっぱりすごい図書館で,歴史があるのだなと思いました。その中で,椋鳩十さんという先生が指宿図書館にずっと関わってくださっていました。そのときに母親読書グループを支援してくださった文集が「柳和」という文集で,その文集もまだ残っているのですが,そちらが今の「文芸いぶすき」につながっておりまして,そこの中には,実に指宿市には175の読書グループがあり,1,002名が所属し,本を読んでいたとありました。そのことが評価されて,優良図書館として表彰もされて,東京の日比谷図書館からもお客様を迎えていた時代があったということを聞き,本当にいい図書館だったのが何で指定管理になってしまったのだろうと,そういう思いに葛藤しながら図書館運営を始めました。
 農村においては,まだ旧弊な考えが頑固に根を張っていた時代に,読書をする女性は特別な目で見られ,本好きの嫁は姑や周囲の厳しい視線の中で身の縮む思いをしながら読書を楽しんでいたという時代があった。そういうところをこの図書館は乗り越えてきたものでした。
 これが椋先生で,旧指宿図書館の前で親子読書会のお母様方と撮影をしているところでした。この椋先生が鹿児島県で初めて「すばる」という移動図書館車を造りました。その影響を受けて,鹿児島市内,鹿児島県内をくまなく移動図書館車が走っていました。指宿図書館にも走っておりました。ただ,20年間走って,平成17年に終わりました。原因は,子供たちが少なくなったということと,維持するお金がなくなったということだったと聞いています。
 このような形で,子供たちは自分たちのバッグを持って,本当にうれしそうに本を手に抱えてきていました。松林の中で本当に,図書館まで来られない人にこそ本を届けたい,遠隔地サービスこそ図書館の使命だと思っています。自ら本を買える大人はいいけれども,子供や高齢者はどうしたらいいのだろうというのが,私たち指定管理で運営している図書館のスタッフの悩みでした。
 今はこのように指宿市シビックカフェ事業として,共生・協働課と連携を組みながら,図書館がもっと自由にフランクに人と人が交差する場所になればいいね,サードプレイスとしての図書館になれたらいいねということで,いろいろな事業を展開しています。
 平成29年度には指宿市から社会教育優良団体,平成30年度には鹿児島県から,本年度に関しては文部科学大臣賞の表彰も受けさせていただきました。ほかにもたくさん,クラウドファンディングをしたことで賞を頂きました。
 私たちは,その私たちが持っているスキルをもっと外に出していこうという活動をしたいと思いました。そこで,総務省の地域情報化アドバイザー派遣事業と出会い,講師のアカデミック・リソース・ガイドの岡本さんという方と出会い,クラウドファンディングをやってみたらいいのではないかと。ただ,職員からは,「本当に図書館だけやればいいのに,何でクラウドファンディングなんかしなければいけないのか。そんなのはしないぞ」と最初の年に言われました。それを何とかそういう気持ちにするのに3年掛かりました。人の気持ちは変わっていきます。そして,3年目に満を持して,私たちが指定管理者として10年図書館を運営している,その年にクラウドファンディングを掛けました。最初は,こんな感じかなと漠然としていました。
 同じ市民に等しい環境で自分たちのまちを自分たちで育て合う環境を作ろうと思って,このREADYFORに取り組みました。
 とにかくいろいろな方を巻き込んで,いろいろな方に紙に書いていただいて,そのたびにSNSに上げて,みんなを巻き込んでいきました。そして,最終的には1,170万円ぐらいで終わりました。
 先ほど言った会計事務所さんの周年行事のことなんですが,ほかにもその方たちが私たちを連れて,「下吹越さん,君はあそこに行ったかね。ここに行ったかね」と。図書館を運営していると,漁協さんとか畜産会社とか病院とかに関わることはないんです。でも,会計事務所さんは,ちゃんとお金を握っていて,どこのところがお金を持っているというのをちゃんと知っていて,赤字のところには連れていかないんです。黒字のところに連れていってくださるので,もう私はほとんど声は出さずに,「下吹越さんはすごいんだよ,すごいんだよ」と会計事務所さんが言って,「では,幾ら出すか。5かな。10かな。では10を」と言ってお金がどんどん現金で集まってくる。そのようなことを繰り返しました。
 ここの会計事務所さんがおっしゃったのは,「うれしかったんだ,指宿にもクラウドファンディングなどということをやろうという人たちが出てきたことが。夢があればかなえていける時代が来たんだ,女性でも」と。この方が3年前にたまたま,「茶色のシマウマ,世界を変える」という小林りんさんが軽井沢にインターナショナルスクールISAKというのを創ったときの本をごらんになっていらっしゃったんです。その本にすごい感銘を受けたらしいんです。それでそういうことをやろうとした人が出てきた。彼にとっては,最初はこのクラウドファンディングの本が引き金でした。
 また市民の方がカウンターに来て,何を下さるのかと思ったら,しわくちゃになった千円札を出して,「これでバスを買う足しにして」とかと言ってくださったり,「僕たちはお金がないので」と毎日毎日3,000個の缶バッジを作ってくださって,それを市役所内で500円で売ってくださったりする若い市役所の職員がいました。「私たちはお金がないから,さつま揚げを売ったお金をあなたたちの寄附にしよう」と言って,夏の暑い中一日中さつま揚げを揚げて,「指宿から全国へ!本のある空間を」ということで,やっと達成したといった感じです。
 もうここからはたったっといって,READYFORの賞も頂きました。1,185の中の14に入れさせていただいて,銀座まで行ってきました。
車がこのシルバーのしょぼいと言ったらあれなんですけれども,最初はしょぼい車でした。それが,いろいろな人の手を掛けて,これで第一投ということで私が塗り出して,地域の人たちが40人ぐらい,一日出たり入ったりしながらみんなで色を塗りました。小さい1歳の女の子も,お母さんに連れられてきて,この子が大きくなったとき,移動図書館車を見てどんな気持ちになるのだろうなと思いました。とにかくみんなで一緒に塗りました。私は炊き出しをして,本棚も付きました。だんだん形になっていって,出発式はすごく楽しくやりたいと思っていたので,ライスシャワーをして,紙吹雪をみんなに作ってこさせて,それで沿道をカラカラ,カラカラやりました。ただ,道路交通法的には国道を走ってはいけないので,国道にならない前に回収という形をしながら,みんなに祝ってもらいました。
 それを森の中に連れていったら,何てすてきになったのでしょうという,こんな感じになりました。コーヒーも飲める空間も車の後ろには付けました。
 このポスターもみんなで作って,これも売り物にしています。自分たちを売るのかと言われましたけれども,売りました。
 実際,本当に本がある空間というのはとてもよくて,子供たちも本当に自由にその中で本をとって,木陰で本を読んでという,夢にまで見た空間がやっとできました。
 成功したのはなぜかというと,先生のさっきのお話とも似ているのですけれども,とにかくやり切るのだという信念で,指宿の未来である子供たちを地域で育みたいという思いでした。本当に拒絶は多かったです。私は,ただ,拒絶は当たり前だと思って,拒絶に負けない,拒絶に慣れると思ってきたので,共感してくれる人がもう御の字というような形でした。さっきお話ししたみたいに,支えてきたのは図書館運営の10年の基盤でした。
 あと,これからの課題ですけれども,運用のビジョンをどう固めていくかということ。そして,まず私たちが動くこと。そして,継続支援を頂くということ。よろしかったら,またフェイスブック等がありますので,ごらんになってみてください。
 今度,10月30日から11月1日,第10回図書館総合展でパシフィコ横浜に呼ばれまして,これに行くために日本を横断して,あちこちのまちをブックカフェが訪ねていきながら,旅する図書館として皆様の下に行きたいなと思っているところです。
 「知ることは生きること 子供たちの笑顔のそばにいつも本を」ということで,指宿の事例をお話しさせていただきました。御清聴いただきありがとうございました。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 それでは最後に,クラウドファンディングの全体像について御説明を頂きたいと思います。クラウドファンディングは,国内でも複数の企業が運営されておりますが,今回は,その中で大学や社会教育施設等に係るプロジェクトの実施例を多くお持ちのREADYFOR株式会社の徳永様に概要と課題について御説明いただきたいと思います。徳永様,お願いします。

【徳永氏】
 説明をさせていただきます。本日私が御紹介させていただくのが,弊社はクラウドファンディングの事業会社として,国立科学博物館さんとか「そらまめの会」の資金調達をサポートさせていただいたのですけれども,弊社の概要を紹介させていただいた後に,また質疑応答等もあると思うので,そこで弊社が担当させていただいている国立大学さんの案件とか,そういったものについても御紹介できればと思っております。
 まずクラウドファンディングの概要に関してなんですけれども,こちらは今説明があったとおりになりますので,割愛させていただきます。
 不特定多数の方々から資金調達を行うという仕組みが,クラウドファンディングという造語でございます。例えばですけれども,今御紹介させていただいた事例については,1,000万円を超える大きな案件ではあるのですけれども,個人で例えば30万円がイベント開催のために必要で資金調達をされたり,カフェを開業するため200万円を集めたりというものなどもサポートさせていただいております。
 このクラウドファンディングの市場自体は,もちろん皆さん御存じかと思うんですけれども,2011年に弊社が初めて国内でクラウドファンディングサービスをスタートさせていただきまして,それからかなりの速度で市場が拡大しております。本日御紹介させていただくのが購入型のクラウドファンディングになるので,ここに記載している一番市場規模の大きい投資型のクラウドファンディング等の説明は本日はしないのですけれども,こういった形で市場の規模がどんどん拡大してきております。
 弊社のホームページがこのようなものです。トップページがございまして,そこに多数のプロジェクトが掲載されております。毎月200件ほどプロジェクトが立ち上がっておりまして,そのうち,後ほど参考資料を付けているのですけれども,75%のプロジェクトが成立しているという状況でございます。
 プロジェクトの内容については,ホームページとはいえ,決済システム,資金調達をする際のクレジットカード決済とか銀行振り込みの決済機能が付いたホームページになっております。こちらがトップページの写真になるのですけれども,こういった見出し等があって,プロジェクトの内容が書いてある。そこに支援したらどういった対価がもらえるのか,どういった返礼品がもらえるのかという内容と,皆様から集めた支援金をどういう使用用途で使っていくのか,そういったことを説明しております。
 弊社のビジネスモデルについても御紹介できればと思うんですけれども,御説明させていただいた不特定多数の支援者様から御支援金を募って,弊社が仲介をして挑戦者にお渡しするという仕組みになっております。弊社がその際に手数料として支援金を頂戴する。実行者様が支援者様に対して,リターンやギフトをお送りするという売買契約のような仕組みで運営させていただいております。
 こちらの一番下にちょっと小さい文字で書いているのですけれども,弊社がとっているサービスは,All or Nothing型(達成時実行型)という仕組みを採用しております。目標金額以上の支援金を集めた場合にのみ支援金が受け取れるというちょっとシビアなルールをしかせていただいておりまして,例えば3,000万円の資金がないとプロジェクトが実施できないというものについては,3,000万円以上を集めないと,全て支援者様に返金するという仕組みになっています。これが極論を言えば,どれだけ大きな事業でも,例えば数百万円しか集まらなかったら,それでその事業が完遂できないので,プロジェクトの規模に必要な支援金以上は確実に集めないと,弊社もお渡ししませんよという仕組みを提供させていただいております。
 続いて,仕組みといいますか,分類等を説明させていただければと思うんですけれども,二つの事業者さんに御説明いただいた内容については,真ん中の購入型クラウドファンディングというのを御提供させていただいております。弊社で取り扱っているのが寄附型のクラウドファンディングとか,昨今ではふるさと納税型と呼ばれる自治体さんとタッグを組んでやるクラウドファンディングというのも出てきております。寄附型のクラウドファンディングの場合には,返礼品としてお返しするノベルティーがいわゆる対価性がないものに限るような形となっておりまして,認定NPO法人さんとか,公益的な活動をしている団体さん,税制上の優遇措置を受けられる団体さんが挑戦する場合には寄附型を使われていまして,それ以外の方々で,返礼品をうまく広報活動の一環として活用していくような場合には,購入型のクラウドファンディング等々で挑戦されているケースが多いです。
 続いて支援金の受け取り方。こちらは先ほど説明をさせていただいたAll or Nothing型(達成時実行型)という仕組みと,あともう一つがAll in(実行確約型)と呼ばれる仕組みがございます。国内でもクラウドファンディングのプラットフォームは今では100以上あると言われております。弊社の場合には,原則,All or Nothing型(達成時実行型)と呼ばれるもののみ採用しております。一部All in(実行確約型)です。今ちょっと西日本の方で豪雨災害が起きておりますけれども,いわゆる義援金とか,お金が集まって,プロジェクトベースで何かを完成するためのものではなくて,集まったものをお渡しするというものなどの場合には,限定的にAll in(実行確約型)で御案内させていただいているものもございます。
 ここから先がちょっと課題とも近くなってくるのかなというところです。弊社がサービスを開始してからもう7年たつのですけれども,最初は民間の資金調達としてかなり注目を集めてきて,ここまでサービスを運営させていただいてきたのですけれども,今はそれ以外の文脈で使われるケースも多くなっています。例えば,スタートアップ,創業期の団体さんで長期的な仲間づくりというのを捉えて考えていらっしゃる方とか,例えば「そらまめの会」の皆様のように指宿でかなりネットワークを広げてこられたわけではなくて,本当に限界集落にあるような施設であったりすると,そこの人たちのハブになるようなところを再認識しようという観点での仲間づくりを目的としつつ資金調達も行うという形でのクラウドファンディングとか,市場の反応を見ながらこの事業をやるべきか否かを問うテストマーケティングや自分たちの事業計画を練り直すためのブラッシュアップとして使われる方,同じくテストマーケティングでいう商品・サービスのPRもあります。六つ目が覚悟決めと記載しているのですけれども,All or Nothing(達成時実行型)という仕組みもあり,冒頭で各先生がおっしゃっていただいたように,いろいろな方々から支援金を頂戴すると,その分責任というものが大きく団体様の方にもまいりますので,この活動はちゃんと実行するという覚悟決めとしてやられるような団体様もいらっしゃったりします。自分たちの持つネットワークの販路開拓とか,メディアリリース,注目を集めていくという意味合いでの掲載としてクラウドファンディングを実行される方々もいらっしゃいます。
 あとは参考資料を付けているのですけれども,口頭で,大学とか,博物館,図書館とか,そういった部分の課題について私の方から申し上げられればと思うのですけれども,クラウドファンディングというのも物すごく新しい仕組みで,おっしゃっていただいたように,科研費ではできない部分とか,指定管理の活動の範囲内ではできない,NPOだからこそ資金調達もできて活動ができるといった部分でかなり最近は援用されるようになってまいりました。弊社の場合だと,補助金や助成金,若しくはその団体が持っている自己資金といったものと組み合わせてはいけないということはないので,そこは柔軟に対応していきながら,必要な事業に対して民間の方々と一緒にスクラムを組んで前に進んでいくような,そういった資金調達の仕組みにはなっています。例えば,お金が果たしてこの活動に対して付けるべきか否かみたいな判断基準になるようなもの,若しくはならないものについても,一度自分たちでやってみて,市場の反応を問いながら,資金を付けていく,付けていかないという判断の参考にしていくということも耳にしているので,どうクラウドファンディングを使っていくかという部分が今後の課題になっていくと考えております。
 早口になったのですが,最後に参考資料等も付けておりますので,御参照いただければと思います。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 それでは,これまでの皆様の御発表につきまして,御質問や御意見がありましたら,よろしくお願いいたします。例によって机上に名札を立てていただければと思います。大体時間として今日は17分ぐらいの持ち時間がありますので,お願いします。では,清原副分科会長。

【清原副分科会長】
 ありがとうございます。東京都三鷹市長の清原です。皆様の御発表を聞きまして,生涯学習・生涯教育におけるクラウドファンディングの可能性を再確認いたしました。三鷹市でも平成29年度に,三鷹市山本有三記念館の改修工事に当たりまして,ふるさと納税型のクラウドファンディングをさせていただきまして,目標額300万円のところ,クラウドファンディングと窓口でのふるさと納税で500万円を突破しました。こうした事業はほぼ初体験でしたけれども,何よりも皆様が御指摘されましたような,取組に参加される皆様がその事業について注目するだけではなくて,参加意識を持って持続可能に関わっていただく可能性があるということです。今年度は,太宰治ほか三鷹市ゆかりの文学者顕彰事業というソフト事業についてもクラウドファンディングを実行しているところです。私としては,研究の部分のプロセスに参加できること,そして図書館の事業についてまさに具体的に参画できること,「共感」,「住民参加」ということで,一般の皆様が地域とは違う大きなプロジェクトに海部リーダーのコーディネートの下参加できるということの意義を再確認して,私も意を強くしたところです。
 そこで,「そらまめの会」の理事長さんに伺いたいのですが,図書館事業を指定管理者として受けていらっしゃるということですが,指定管理者というのは,議会でも承認を頂く公明正大なプロセスを経てその事業を委ねられている存在です。そうした皆さんが,このクラウドファンディングでブックカフェを始められるというのは,その指定管理業務の中に位置付けられていることでしょうか。それとも,NPO法人さんとして独自にすることであるならば,そのことに対して指定管理の責任を果たすよう依頼されている市のスタンスはどんなものでしょうかと。実は,昨年三鷹市でもブックモビルを新調いたしまして,今お話を聞いていて,何で三鷹市ではクラウドファンディングしなかったのかなと思いました。ただ,デザインは武蔵野美術大学の学生さんに参加していただきました。すごく狭い16.42平方キロの中に,本館も分館も4館ある三鷹市なんですけれども,ブックモビルは大活躍なんです。やっぱり出会いがあり,そして読書の深まりがあり,多世代交流があり。
しかし,どうも制度的には気になるところがあって,指定管理者としての,このクラウドファンディングに取り組まれた制度的な整合性とか,工夫された点とか,教えていただければありがたいです。
 以上です。よろしくお願いします。

【明石分科会長】
 では,お願いします。

【下吹越氏】
 全くNPOとしての活動になります。市の方にはちゃんと相談をしました。「こんなことをしたいんですけれども,いいですか」ということで,「それはもうNPOですることであれば,問題はないですよ」ということで,市長も応援をしてくださったりしています。ただ,今後,市とどのようにすり合わせながらやっていくかというのは,一部議員などからも声が上がって,そちらと行政としての移動図書館車を融合させることはできないだろうかというような言われ方はまだしていますが,本格的ではございません。

【清原副分科会長】
 ありがとうございました。

【明石分科会長】
 では,高見委員,お願いします。

【高見委員】
 御発表,ありがとうございました。株式会社イトクロの高見でございます。どちらかというと事務局の方への今後というお願いになるかと思うんですけれども,そもそものテーマが,人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策についてということかと思いますので,多分この事例をざっと皆さんにまいただけでは実行できないというか,まとめ直しが必要なのではないかと思っております。ですので,三つぐらいのテーマに分けたらどうかと思っております。一つは,国立科学博物館という日本全体を巻き込むようなマーケットに対応されている方とか,指宿の事例のように地域の方々を巻き込む方法というのがちょっとずつ違うかと思いますので,誰をどう巻き込むのかということ,もう一つはクラウドファンディングの事例もあるように資金調達の方法と,そして三つ目,それを継続していく方法という,三つぐらいのテーマに分けて,題目を切ってまとめ直しをした方がほかの方々が使いやすいのかなと思いました。
 よくある成功事例だけだと人々は使いにくいので,そのほかの団体の方々が使えるように,成功の要因というものを分析し直して,プラス使われた資料とかも提供したらどうかと思います。例えば,指宿の事例でいくと,誰が何人のSNSのフォロワーがいるかということをピックアップしたとおっしゃっていたのですけれども,そのピックアップしたという事例よりは,ピックアップしたエクセルの資料があって,まずは人の名前を並べてフォロワー数を書くのだということがわかった方が実行には移しやすいですし,業務フロー・手順書みたいなものに落とした方が多分つなぎやすいと思いますので,そちらも含めて,いかにナレッジしていくかということがまずひとつ。資金調達の方法については,クラウドファンディングだけではなくて,いろいろな方法があるので,そこも含めて例示をして,一つの方法としてクラウドファンディングもあるよと。明石分科会長がおっしゃっていたように,クラウドファンディングの会社さんはすごくたくさんあるので,一社だけを広めるのではなくて,主なところをざっと並べて,特徴もあるかと思いますので,手数料がどれくらいなのかとかというところも含めて,昨今騒がれているような癒着みたいなことがないということも含めて示せるように,ある一定のスタンダードみたいなものがあるといいのかなと思いました。
 プラス成功に向かってのスタンス,例えばいかに自分が苦手かもしれないけれども,SNSで発信するのだとか,地域密着型であれば断られても何度もやり続けた方が成功に導くのだよみたいなスタンスの成功要因とか失敗要因というのをまとめることと,最後に,忘れがちな会計監査のフォーマットとか,クレームへの対応とか,税法その他,いろいろな法律も留意すべき事項もあるかと思いますので,そのあたりも含めた一連のことを伝えて周知をしていくと広がりやすいのかなと思いましたので。すみません,意見として申し上げます。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 では,牧野委員,お願いします。

【牧野委員】
 発表,どうもありがとうございました。大学の関係者です。大学もやってみようかなと思ったんですけれども,大きなテーマとして人口減少時代の新しい地域づくりに向けた社会教育の振興方策についてということがある中でのクラウドファンディングについてちょっとお聞きしたいことがありまして。いわゆる自治体とか国の機関がこういうものを始めるということにおいて,ある意味では新しい公共という概念の在り方が変わってくるのではないかなというか,また新しい公共というものが出てくるのではないかなという感じもするのです。ちょっと大きな話になってしまいますが,例えば自治体であれば,自治体の枠を超えた形でお金が集まってくる中で,その自治体である事業を展開していく。例えば国の機関であれば,全国に展開していきながら,その機関がある事業を展開するということになると思うんですけれども,その場合に,従来はある意味では枠があった。例えば自治体の枠とか国の枠というものがあったはずなんですが,それを超えて資金の調達先が広がっていくといったことが,いわゆる従来の公共という概念との関わりでどう影響を与えていくのかというか,又はどういう形で新しい時代に対応した形での事業展開の在り方みたいなものを示すことになるのかということにちょっと関心があるのですけれども,何かお考え,感想等がありましたら,教えていただきたいなと思ったのですが,いかがでしょうか。

【佐藤氏】
 国立科学博物館の佐藤でございます。資金調達だけの議論にならないためにも,今委員からお話のありました公共という概念が非常に大切かと思いますが,少し思い出していただきますと,地域通貨といったものが2000年頃に大変各地ではやりました。これは地域や見知らぬ人々をつなぐための地域通貨というもので,感謝券,子供が親に発行する肩たたき券みたいなもので,そうしたものを媒介として,自分ができることと誰かに手伝ってもらいたいことをつなぐという仕組みがちょうど2000年頃に大変流行して,渋谷川のアースデイマネー,通貨単位は「r」,それから全国各地で方言を単位にした,そうしたものが広がりました。この地域通貨の仕組みというのが,行政サービスが届かない,例えば高齢者の配食サービスとか,交通が不便なところの移動サービス,そうしたものにだんだんと発展していっています。SNSとかネットサービスが盛んになった現在は,資金調達の手法としてクラウドファンディングが発展していったり,また先ほどの人と人をつなぐという仕組みは,例えばAirbnb(エアービーアンドビー)が提供する,宿を提供する人と宿を提供してほしい人をつなぐサービスが世界中で普及したり,それからUber(ウーバー)が,車で人を乗せてくれる人と乗りたい人をつなぐモビリティーのサービスとして発展しているので,これらはいずれも公共の広がった概念と考えていってみてはいかがかと思います。

【明石分科会長】
 では,徳永さん。

【徳永氏】
 私の方からも申し上げられればと思うんですけれども,新しい公共ということで御質問いただいたのですけれども,私たちが考えるところとしては,事業会社というところもあるのですけれども,私が担当していて感じるのは,よく最近,横文字ですけれども,Collective Impactみたいな,産官学をみんなで超えて社会課題を解決しようという取組がどんどん具体化して進んできたのかなという印象を受けております。そのための一つの方法として,資金調達,クラウドファンディングの部分があるのですけれども,先ほどおっしゃっていただいたような共感とか,この課題を解決するためだからこそ,そこに予算を投じるお金が必要,人手が必要,知財が必要,そういったところでの集まりがどんどん加速してきている結果,弊社のようなサービスというのも皆様に認知されて使われてきているのかなというようなところでございます。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 あとは,時間の関係で,残った生重委員と佐野委員で質問を終わりたいと思います。では,生重委員,お願いします。

【生重委員】
 私のはすごく短いのですが,本当に分からないので教えていただきたいのですが,達成目標に達しない場合。このAll or Nothingのところを見ると,目標金額に達した場合のみ支援金を受け取ることができると。目標金額にいっていない,惜しいというときの集まったお金はどこにいくのですか。

【徳永氏】
 回答いたします。All or Nothingで未成立だった場合は,弊社が支援者様に支援金を直接お返ししております。クレジットカードであれば決済をしない,銀行振り込みであれば弊社が手数料負担で全部お返しするという仕組みを取っております。

【生重委員】
 なるほど。ありがとうございました。

【明石分科会長】
 では,佐野委員,お願いします。

【佐野委員】
 ありがとうございます。実は,クラウドファンディングとはまた違ういろいろな動きが出ているということの御紹介をしたいと思うんですけれども,地方銀行が最近一生懸命やっているのにCSR社債というものがあります。地方銀行は今,地方の人口減少等で企業も疲弊していますから,貸出先がないんです。それで,どちらかというと優良企業に社債発行を勧めて,その社債を全部地方銀行で引き受けます,その利率,利払い金の半額を社会貢献に使いましょうというCSR社債というのを非常に積極的に地方銀行が今やり始めているんです。ただ,結局,ではCSR社債で半分をどこに支援するかということの情報がなかなか出てこないので,そういう意味ではクラウドファンディングなどでやられていることが,ここに支援していこうという情報の一つとしてつながっていく可能性があるのかなと。実は,社債を発行した企業も,社債の利金だけで終わってしまうと,また地域から「何だ,あの会社は」と逆に言われるので,継続的な支援に当然なっていくわけです。そういう意味で,CSR社債というものが今,地方で地方銀行が中心で動いている。そういうものもうまく活用していくということが必要かなと思います。
 それからもう一つは,牧野先生からさっき御指摘があって今若干お答えがあった公共の意識の広がりという点なんですけれども,クラウドファンディングでやっていると,こういうことを自分たちの地域でもやろうではないかといった形で,またいわゆる水平展開をしていくきっかけになると思っております。
 秋田でも,これはREADYFORさんだったかどうかは忘れましたけれども,古民家を再生しようというプロジェクトがあって,秋田の五城目町というところで成功したら,今度は松山の方で同じような古民家プロジェクトをやって,今アドバイスをしながら連携してやっている。それが徐々に今度は広がりつつある。こういう広がりもクラウドファンディングには可能性としてあるかなと思うところであります。

【明石分科会長】
 貴重な情報をありがとうございました。
 以上をもちまして議題1を終わりたいと思います。本日お忙しいところを御出席いただきました国立科学博物館,指宿市立図書館,READYFOR株式会社の皆様に改めてお礼を申し上げたいと思います。
 この件につきましては,これからも継続して議論していきたいと思いますので,頂いた御意見は事務局の方で整理していただきたいと思います。お願いいたします。
 では,議題2に移りたいと思います。前回の分科会に引き続きまして,公立社会教育施設の所管の在り方等について審議したいと思います。本日御議論いただいた結果は,生涯学習分科会の審議会のまとめとして,来月の8月10日に予定されている中央教育審議会総会に報告したいと思いますので,積極的な御審議をお願いいたします。
 初めに,事務局から資料の御説明をお願いいたします。

【伊藤社会教育官】
 それでは説明をさせていただきます。資料2‐1を御覧いただければと思います。前回の分科会で御議論いただきました際の先生方の御意見を基に修正をさせていただきました。主な修正点を中心に説明をさせていただきたいと思います。
 まず1ページ目の1.社会教育を教育委員会で所管していることについての部分でございますけれども,そのすぐ下の○でございますが,こちらは,教育委員会が所管することの意義をもう少し明確にしてほしいという御意見,また教育や成長という観点を大事にすべきではないかとの御意見を踏まえて追記した部分でございます。下線部でございますが,「特に,学習活動を通じて,地域住民をつなげるとともに,地域の課題解決等に主体的に関わり,地域の持続的発展を支える人材を育ててきたことは,教育委員会が社会教育を所管することの強みが発揮された点であると言える」と追記させていただいております。
 2ページに行っていただきまして,上から4つ目の○でございますが,こちらは,総合教育会議の活用についてもう少し強調してほしいという御意見を頂きましたので,記述を追加しております。下線部になりますけれども,総合教育会議の協議事項は,現状では,福祉部局と連携した総合的な放課後対策などを設定しているように見受けられるのですが,その他の社会教育に関する事項を設定している例はなかなか少ないという現状にございまして,この会議のより積極的な活用が期待されると追記させていただいております。
 その下,2.の今後の社会教育施設に求められる役割の部分ですが,3ページの上から3つ目の○でございます。こちらは,社会教育施設のバリアフリー化について,「ユニバーサルデザイン化」という文言の方が適切であるという御意見を踏まえまして修正しております。
 4ページに行っていただきまして,(2)の図書館の部分でございます。上から2つ目の○と3つ目の○でございますけれども,今後の図書館の役割といたしまして,人生100年時代を踏まえた個人のスキルアップ,また就業等の支援機能について追記してほしいという御意見がありましたので,追記しております。
 その下の○につきましては,公文書館との連携という点で資料の充実が重要になってくるという御意見がございましたので,追記しております。
 その後は,7ページの方に飛んでいただければと思います。7ページの3.公立社会教育施設の所管に関する特例を設けることについての(1)特例を設けることについての部分でございますが,こちらは,首長で所管する場合の意義や可能性について書いてある部分でございますけれども,もう少し追加した方がよいという意見がありまして,4点ほど追加させていただいております。
 1つ目が,3つ目の○になりますけれども,こちらは,前回の会議で社会教育以外のまちづくり,地域の課題解決に熱意を持って取り組んでいる人材を生かし切れていないのではないかとの御意見を受けまして,その点を記載させていただきました。また,このような社会教育とこれまで関わっていらっしゃらなかった幅広い世代の多様な専門性を持つ人材の参画が強く期待されること,更にそのような人材を長が所管することによって育成・発掘することにもつながる可能性があるという点を追記させていただきました。
 次のページに行っていただきまして,8ページでございます。上から2つ目の○でございますけれども,こちらにつきましては,新しい働き方という観点で,地域の身近な社会教育施設である公民館や図書館などがテレワークなどの新しい働き方の場,また起業支援や仕事に関する学び直し講座の場としての機能を強化するということになると,これまで以上にいろいろな方,多様な人々が集まり,新たなコミュニティ形成や地域課題解決につながる可能性もあるのではないかという点について御指摘がありましたので,追記しております。
 その2つ下に飛んでいただきまして,3つ下の○になりますけれども,こちらは,ハード面での可能性について記載しております。施設整備の観点からの可能性ということなんですけれども,施設整備に関しましては,社会資本整備計画や地方版総合戦略などが地方において作られておりまして,こちらは首長部局が中心となって行っております。ですので,こういった国の支援方策に関する情報等も一般的には首長部局に集約されるということで,こうした計画に社会教育施設の整備も位置付けることによりまして,施設のより戦略的な整備が推進される可能性があると追記させていただいております。
 その更に2つ下の○でございます。こちらは,これまでのWGの議論とか,またこの分科会でも,図書館の複合施設について幾つかヒアリングでお聞きしております。その内容を踏まえまして,図書館につきましては,多様な世代の住民を引きつけるという図書館の強み,また地域の抱える課題に関する行政の機能を複合施設で適切に融合させることができること,これによって新しい学習のきっかけづくりとか仲間づくりなどの側面,更に地域の課題解決の側面の双方において成果を上げている事例の発表がございましたので,その例点を追加させていただきました。
 その下の9ページ(2)の社会教育の適切な実施の確保の在り方についての部分でございます。こちらについては,政治的中立性の確保の在り方などを記載しておりますけれども,それに加えて,1点追加させていただいております。一番下の○なんですけれども,教育委員会が所管する意義のところでも御説明させていただきましたけれども,学びや人々の成長という観点が重要であるという御指摘を受けておりますので,今回の特例を活用して長が所管することとなる社会教育施設におきましても,そのような活動を通じて,学びを通じたよりよい課題解決,またその過程における人々の成長という意義が実現されることが重要であると記載しております。そのためには,教育委員会が教育に関する専門性を生かして一定の関与を行っていただくことが適切と考えられまして,その際には社会教育主事が一層重要な役割を担う必要があるということを記載しております。
 その次のページの11ページに行っていただければと思います。(4)で地方公共団体において特例措置を活用する場合に留意が求められる点でございます。こちらにつきましては,12ページの上から3つ目の○でございますけれども,こちらは,社会教育主事に加えて,専門的な職員としては,司書や学芸員の役割について,またその方々の研修について記載すべきとの御意見を頂きましたので,そちらに追記しておりまして,首長部局においても,司書や学芸員が社会教育の中核を担う存在であること,またそのような専門職員に対して研修を充実することが求められるということを追記しておりまして,更に専門的職員の研修につきましては,国や都道府県教育委員会も積極的な役割を果たすべきであるということを追記いたしました。
 13ページに行っていただきまして,13ページの一番上の2行でございますが,こちらは,新しく創設される社会教育士というのをここの○で書かせていただいているのですけれども,その方々に加えまして,地域の課題解決に熱意を持って取り組んでいるいろいろな分野の方々を巻き込んで,こうした人材と協働しながら,地域を担う人づくりを進めていくことが望まれることについて追記しております。
 その下の4.の社会教育の一層の振興についてでございます。すぐ下の○でございます。こちらは,今回の特例の導入によりまして首長部局が所管するということになった場合に,専門的な職員の配置はどうなるのかという御質問がございましたので,こちらについては,所管が変わっても当然のことながら法令上の社会教育施設であることは変わらないということに加えまして,専門的職員の配置も当然求められるということについて改めて追記しております。
 最後のページに行っていただきまして,14ページの上から1つ目の○でございます。こちらにつきましては,全体を通して御指摘を頂いた点,また御指摘を踏まえて今後更に検討を要する点について,まとめて追記させていただいております。
 具体的には,下線部のところですけれども,今回の検討で,先ほども御説明いたしましたけれども,学びを通じて地域を担い,課題解決に主体的・持続的に取り組む住民を育成するという社会教育の意義が改めて確認されたこと,また地域課題が一層多様化・高度化する中で,社会教育の役割を果たすためには,教育委員会と様々な専門分野を擁する首長部局との協働が不可欠であること,また地域の様々な分野で熱意を持って活動している人々を巻き込んでいくことというのはまだ十分ではないことなどが指摘されましたので,追記しております。また,更に今後の課題としましては,住民参加による地域づくりに向けまして,社会教育がどのような役割を担うべきか,そのために専門的職員にはどのような資質能力が新たに求められるかといった点を含め,新たな時代の社会教育の在り方について,今後更に議論を深める必要があるという点を追記させていただいております。
 以上でございます。

【明石分科会長】
 伊藤社会教育官,ありがとうございました。
 本日は,教育行政について詳しい方お二人に御出席いただいております。まず初めに,御出席のお二人から御意見を頂きたいと思います。まず,加治佐様,お願いいたします。

【加治佐氏】
 どうぞよろしくお願いいたします。私は,資料は用意しておりませんので,口頭で申し上げたいと思います。
 ただいま御説明がありました,公立の社会教育施設の所管を,自治体の判断によって教育委員会から首長部局に移行する特例措置を制度化することを提言しているこの審議のまとめを読ませていただいて,次のようなことを感じました。
 社会教育は,教育委員会がこれまで70年間行ってきた歴史とか,あるいは新たに先ほど書き加えられたと説明がありましたけれども,地域の人づくり等に非常に実績があるといったことから,今後とも教育委員会の所管とすることが基本であると言っておられます。また,特例措置がとられた自治体においても,教育委員会は社会教育の振興の牽引役として積極的な役割を果たしていくべきであるとされているわけです。
 しかしながら,私がこれを読んで率直に思いましたのは,果たして今後も教育委員会が社会教育を所管する必要性・必然性があるのかということです。むしろ,地方行政の総合化・効率化の流れの中で,社会教育は首長部局が専管,つまり専ら管轄する,この必然性が強いのではないかと思いました。ということで,今回の特例措置は過渡的なものではないかという感じを持ったということです。
 実は,先ほども説明がありましたけれども,この審議のまとめでは,7ページあたりから,この特例をなぜ設けるのかと,その理由がたくさん述べられているんです。例えば,他の行政分野事業と社会教育事業の一体的推進によって住民サービスが向上するとか,他行政分野の人的・物的資源,専門知識,ノウハウ,ネットワークなどの活用により社会教育全体が活性化するとか,非行少年の自立支援などでの教育行政の枠組みを超えた効果的な取組ができるようになるとか,あるいは首長の下で社会教育施設の整備が戦略的に進むとか,非常にいいことがたくさん書いてあるんです。実に説得力があるんです。
 要するに時代が変わってきて,結局まちづくりや高齢化の問題,地域を支える人づくりの問題等々いろいろあると思いますけれども,そういったことで自治体は行政を総合化していかなければいけない,かつ財政難の中で効率化もしなければいけない。そういうことが迫られていて,こういう提言になってきていると思うんです。地方行政の総合化・効率化はどこの自治体でも求められていることでありますので,恐らく特例措置を採用する自治体はかなり増えていくと思います。ひょっとすると,この特例というのが事実上一般化する可能性もあるのではないかとも思ったりするところです。
 そのように私は思ったのですけれども,それでも,この審議のまとめの中では,教育委員会の関わりというのは極めて重要であると述べておられるわけです。その理由は,要するに二つだと思います。一つは政治的中立性の確保,もう一つは専門性の確保ということです。これについて述べてみたいと思います。
 政治的中立の確保ですけれども,既に文化とスポーツについては首長部局に移管できることになっていますけれども,これについては教育委員会の意見を聞くということが地教行法に書かれています。これと同じようなことを公立社会教育についても行うことが言われているわけです。つまり,首長部局から独立した執行機関である教育委員会によって政治的中立性の確保を担保すると言っているわけです。
ただ,社会教育と学校教育は違うということも言っているわけです。社会教育法でも政治的中立性はもちろん求められるのですが,学校教育とは違う側面があるのではないかという言い方をしているわけです。学校教育とは違って,社会教育は政治的中立性の確保を必ずしも教育委員会に依存しなくてもよいと解することもできるのではないかと思います。とすれば,行政運営の効率化の観点からも,首長所管の下で議会承認などを要件として,所属政党の関わりを排除したような委員構成の委員会による監視や評価を義務化するという仕組みを作ればいいのではないかと思うんです。この審議のまとめの中でも,社会教育委員の会議を活用するとか,あるいは自治体に社会教育関係者から成る会議を設けるということも言っておられるわけです。こういった委員会や会議を,私が言いましたような政治的中立性を図るような委員構成にすればいいのではないかとも思ったりする次第です。
 続きまして,専門性の確保ということですけれども,学校教育はもちろんですけれども,社会教育においても,専門性の確保は当然,極めて重要です。その担保措置が講じられなければならないと思います。この審議のまとめでも,社会教育主事の一層の活用や,そのファシリテーション能力などの専門性の向上,新設されます社会教育士を多方面で活用すべきであるとか,あるいは教育委員会が社会教育施設などへ指導・助言をすべきであるとか,あるいは司書や学芸員等の専門職員の研修を充実させることを教育委員会が行うべきではないかといったことが提言されているわけです。当面は教育委員会はこうした指導や研修を支援することが必要だと思います。
 しかし,教育委員会による社会教育に関する指導・研修と首長部局による社会教育施設運営を区別・分担するということが,果たしてどこまで,あるいはいつまで合理性を持つのか疑問に思うわけです。
 重要なことは,社会教育における専門性の確保であって,それをどこが行うかではないと思います。行政運営における総合化・効率化も図られなければいけませんので,首長部局で指導や研修を直接に行ってもいいのではないかと思ったりもします。御存じのように,社会教育主事はそんなに増えていないわけです。ひょっとすると,首長部局で専門性の高い社会教育を実現するとなると,社会教育主事のような専門職が増える可能性があるのではないかという期待も持っております。
 学校教育と社会教育の連携はますます重要であり,このためにも,教育委員会が社会教育に関わらなければいけないと言われております。しかし,学校教育と社会教育の専門職である,教員や指導主事,社会教育主事,社会教育士等,そういう人々が,教育委員会に属するか否かには関係なく,そのような連携の重要性の意識とか能力を培うことで足りるのではないかと思ったりするわけです。
 私は,以上述べましたようなこうした要求が,今回の特例措置をきっかけに非常に強くなってくるのではないかと思います。実際上も,この特例措置を採用した自治体では,これに近いような運用をするところも出てくるのではないかと思います。それは時代の要請に応えるためですので,むしろ必然的なことだろうと思います。地方の教育行政や社会教育にとって必ずしも悪い方向ではないと思います。
 最後になりますけれども,学校教育と社会教育は,特に市町村教育委員会にとって,二つの大きな柱だったわけです。公立の社会教育施設が首長部局に移管されますと,社会教育課の「山」がなくなってちょっと光景が変わるような感じを持ったりするんです。教育委員会は専ら学校教育を担当となってくると思うんです。そうしますと,教育委員会にとっては,教育長に求められる資質能力や専門性とか,事務局運営も必然的に変わらざるを得ないかと思うんです。それへの対応が教育委員会に求められますが,それはプラス思考でやらなければならないのだろうと思います。
 以上になります。ありがとうございました。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 引き続きまして,村上様,お願いします。

【村上氏】
 東京大学教育学研究科の村上と申します。よろしくお願いいたします。資料2‐2の方に,字が小さくて恐縮ですけれども,1枚レジュメを用意いたしましたので,これに沿って意見を述べさせていただきます。
 大きく3点ありまして,一つは教育委員会が社会教育施設を所管することを基本とすることが望ましいと審議のまとめの案に書かれてありますが,基本的に私はこのことについて賛成であります。先ほどの加治佐先生と意見は異なるようには思うのですけれども,社会教育施設においても,政治的中立性や安定性や継続性の確保ということは必要ではないかと考えております。私は平成25年の教育委員会制度改革の中教審答申が出たときに教育制度分科会で臨時委員を務めておりましたが,このときには,社会教育においても政治的中立性は必要で,教育委員会が引き続き所管すべきであるという答申内容だったと思いますが,そのときに特段の異論というものはなかったように記憶しております。今回はそこから転換しているのかなと思いますが,各団体からのヒアリングを議事録等で拝見したところ,一部の関係団体からは,政治的中立性・安定性・継続性の確保について一定の懸念が表明されています。特に施設の使用等に関して政治的中立性で若干危惧があるようにも思います。教育委員会が一定の政治的中立性・安定性・継続性を確保している機関ですので,そちらで所管することが基本ではないかと考えております。
 首長部局に一旦移管されると,何らかの支障が生じた場合に,教育委員会の所管に戻すことがなかなか困難であるということも考えられます。それから審議のまとめの案では,教育委員会の所管の下に引き続き置いた場合,デメリットをどのように解消し得るかという視点が少し弱いのかなという気もしましたが,そこのところも今回併せて考えるべきではないかと思いました。
 2点目ですが,では仮に今回の審議のまとめ案にあるように公立社会教育施設の所管をいわゆる選択制とする場合ですけれども,私自身が感じておりますのは,教育委員会の事前の関与が弱いのではないかということです。つまり今回の案では,文化・スポーツと同様,条例によって移管をする。その際に,地教行法23条では教育委員会の意見聴取というものを定めていて,これを社会教育の移管の場合にも適用するということだと思うんですけれども,これはあくまでも意見聴取にすぎないのであって,権限を現在持っている側の教育委員会がストップを掛ける仕組みとしては弱いのではないかと感じております。現時点での所管であるはずの教育委員会の意向が十分に反映できていないのではないかということで,本来は教育委員会の事前承認といった強い権限が必要ではないかと考えております。首長と教育委員会というのは法的には対等な執行機関ですので,移管するときには両方の合意が本来必要であるはずです。ところが,現在の制度では,意見は教育委員会に聞くけれども,決定は首長と議会だけで行うことができる。これは法的に対等な執行機関としていかがなものかと個人的には考えております。
 ただ,それは実際に近い機能としては,総合教育会議による協議・調整ということが考えられると思います。総合教育会議では,重点的に講ずべき施策ということに関して協議・調整を行うことになっておりまして,公立社会教育施設の移管というものは,これは明らかに「教育,学術及び文化の振興を図るため重点的に講ずべき施策」に該当すると考えられます。
 個人的な意見としては,総合教育会議による調整を義務付けるべきであると考えておりますが,それが難しい場合でも,できる限り,総合教育会議で事前に首長と教育委員会が協議・調整まで行うべきであると考えております。
 教育委員会は,「その権限に属する事務に関して協議する必要があると思料するときは,地方公共団体の長に対し,協議すべき具体的事項を示して,総合教育会議の招集を求めることができる」という規定がありますので,これを最大限活用して,事前に教育委員会がきちんと協議・調整に努めるということが求められると思いますし,この総合教育会議での事前の協議・調整に関しては,法的に義務付けが難しい場合には,通知等でも実施を求めていくということがあっていいのではないかと考えております。
 3番目は,事後の関与についてです。これは様々な選択肢が現在示されておりますが,第三者機関の設置ということももちろんあり得るとは思うのですけれども,教育委員会が積極的に関わることが望ましいと考えております。その理由としては,政治的中立性・安定性・継続性の確保という点に関して言うと,教育委員会が決定権を持つ執行機関として設置されておりますので,例えば規則制定時に教育委員会に意見聴取を行うということが案として示されておりますが,そういったことを通じて,教育委員会が積極的に関わることが望ましいと考えられます。
 もちろん,自治体によって,別途第三者機関を置くとか,政治的中立性のより担保できる機関を置くということはあっていいと思いますが,自治体の規模によって難しいこともあるとは思いますので,社会教育委員の活用とか,第三者機関の設置ということも含めて,教育委員会の判断で実効性のある担保措置を講じるということができるようにしてはどうかと思います。
 先ほど申し上げたように,総合教育会議での協議・調整ということは,事前だけでなく,事後でも積極的に活用すべきだと思いますし,首長と教育委員会がかなり重複している政策領域にもかかわらず,総合教育会議で扱われている例が非常に少ないという印象がありますので,移管前に関しても移管後に関しても総合教育会議での協議・調整というものをより積極的に進めていく必要があるのではないかと考えております。
 私からは以上3点を意見として述べさせていただきます。以上です。

【明石分科会長】
 村上様,ありがとうございました。
 それでは,公立社会教育施設の所管の在り方等に関する生涯学習分科会の審議のまとめ(案)について審議をしたいと思います。では,山本委員からお願いします。

【山本委員】
 ありがとうございます。このWGの議題が始まった際にも申し上げましたので,繰り返しになりますが,改めて申し上げたいと思います。
 この件は,私が思いますには3・11大震災後の第6期のときから始まったと思うんですけれども,このときには<地域復興と社会教育の役割>を考える,その際に社会教育が出前主義の脱却する必要がある,広く他の行政領域や社会の諸力と連携する必要があるのではないかという議論がありました。その際にも,住民,学習者の意思というものと首長のイシューというものが異なる,相対立する場合がある,あるいは住民同士の議論も異なる場合があるなどいろいろ議論され,まとめが作られたと思います。第7期以降は,更に突っ込んで,行政の在り方についての検討が行われまして,この際にも同じような議論があり,今回第9期の議論になっていると思います。
 私自身はその間に,昨年度ですが,このたび生涯局に移られた菅野さんとともに,文化財行政の行政移管についての審議する文化審議会文化財分科会企画調査会の座長をやりまして,きょう村上先生がおっしゃったような議論も踏まえまして,まとめをやった経験がございます。その上でなんですけれども,このレポートで言いますと9ページでしょうか,学校教育と社会教育の区別などが書いてありますけれども,(2)の3つ目の○が学校教育で,4つ目の○が社会教育行政についてはということになっております。そこでは,社会教育は,自由に参加できるものであり,自由に参加を判断できるものであるので,異なっているということが書いてあります。しかし社会教育は,行政がやる事業だけではなくて,例えば公民館などでは学習サークルなど,住民の自主的なサークルもあって,かつ,そこでは非常に自由度の高い学習が行われているということは言うまでもないことであります。
 この件については,様々な公民館の学習あるいは学習の成果の表現について,裁判も含めて係争事件になっていることが,実際には第9期の今日の段階では事象として出ているわけでありますし,この間においては美術館等で表現者と施設の管理で対立するということも実際には生まれております。その意味では,学校教育とは異なる側面が多いというよりも,子供が主体となるもの以上に大人の場合は様々な価値対立が学習者同士にもありますし,行政と住民の問題もありまして,学習の自由とか表現の自由というものを阻害する事態も生まれてきますので,「学習の自由」そういうものを守っていく,教育委員会あるいは社会教育委員などの責務というものを強く強調する必要があるのではないかと思います。
 以上が中心点です。くわえて,最後に,14ページの最初の○ですけれども,「今回の検討の過程では,学びを通じて地域を担い,課題解決に主体的・持続的に取り組む住民を育成するという社会教育の意義」と書いてあるのですけれども,取り組む住民が学ぶことを支援する社会教育の意義というのではないかと思います。つまり,住民を育成するのではなくて,住民が学ぶことを支援するのが社会教育の意義と,主客逆転ではないですけれども,社会教育と社会教育行政の役割の意味をしっかり確認すべきだと思いますので,是非最終段階においては考慮していただきたいと思います。
 では,隣の牧野委員,お願いします。

【牧野委員】
 すみません,度々失礼します。ちょっと大きな話をさせていただきたいなと思っています。
 一つは,こちらのテーマは社会教育施設の所管の在り方ということになっていますので,どうしても技術論的な話になっていくのかなというのは思うわけですけれども,もう少し大きな社会変化の問題も含めて議論ができないかと考えています。例えば,先ほどの教育委員会,それからいわゆる首長部局,一般行政と分けて考えるといったことも含めてなんですけれども,例えば今のこの国の制度,特に一般行政と教育行政を分けて考えるといったことの議論の発端として,例えば国民国家という議論があるとすれば,随分大きな話になってしまいますけれども,30年戦争以降の今から450年ぐらい前の近代国家が創られていく過程での国家の議論と,その後のフランス革命におけるコンドルセなどの議論があるわけです。公教育の原理という議論があって,その中で例えば自由と平等をちゃんと保障するのは教育しかないのだという議論があって,そして教育を保障するのは社会の責務なのだという議論があったところから出てくるものだと思うんです。
 そして,その後,例えば近代のいわゆる工業社会,産業社会が形成されてくる過程において,それが拡大再生産の社会の中において,労働力であり消費者である人々を形成すると同時に,国民である主権者を育成するという形で,教育が国家の機能に入ってくるということがある。ただ,それがある意味では将来にわたる投資みたいな議論との関わりの中で,将来の自由と平等をちゃんと実現していくために,いわゆる現下の問題に対応するような一般行政ではなくて,いわゆる教育行政を切り離していく。価値を切り離していきながら,ちゃんと知識を注入していきながら,伝達していきながら,国民を形成していくという議論になっていたはずなんです。ただ,それが,例えば今回の大きなテーマである人口減少社会,特に日本は,例えばグローバル化という問題もあるでしょうし,人口減少の問題もあるかもしれませんし,少子高齢という問題もあるかもしれません。その意味では従来の近代国家と言われているようなものの枠組みが揺らいできている中で,では教育行政をどうするのかという議論に今なっていると思うんです。
 その意味では,その中で,では社会教育をどう位置付けていくのかというときに,今の議論の中で,例えば教育委員会がベースになっていくこと,これは私も大賛成なんですけれども,そのときに従来のいわゆる一般行政と教育委員会という対抗の図式でいいのかというと,そうではないのではないかと思うんです。それは,今までの議論でいくと,一般行政が教育を管轄していくことになると,例えば政治的な中立性が脅かされるのではないかという議論がありますけれども,これは一般行政も変わらなければいけないことになっているはずです。従来のような一般行政と教育委員会という構図の中で,新しい時代が来た。例えば近代国家の枠組みも緩んできている。また,従来のような産業社会ではなくなってきている。そして,従来であれば国が主導して社会のことを考えてきた時代から,もう少し社会がベースになって国家のことを考えなければいけない時代に移ってきたというときにおいて,だけれども,首長部局,一般行政は従来の一般行政であり,教育委員会は従来の教育行政なのだという議論の中でそれをやっていると,ずれていってしまうような感じを受けるんです。
 その意味では,もう少し,例えば先ほどの公共という議論も関わってきますし,それから,今の山本委員の方からの,住民を育成するのではなくて,住民の学習を支えるのだという議論もそうなんですけれども,住民自身が主体的に自分たちの社会を創って経営していくという議論の中で,当然これは一般行政も変わっていかなければいけないということになっているはずだと思うんです。その意味では,そのあたりでもう少し教育的な機能を拡張していくといいますか,もうちょっと言えば,従来のようにいわゆる指導・管理とか助言とかということではなくて,むしろ住民自身が自ら社会を担っていくという形で一般行政そのものを組み替えていくという議論をしておかないと,この社会教育の所管の問題もいわゆる技術論で終わってしまうのではないかと少し心配するということなんです。その意味では,少しそういう大きなデザインの中で,例えば新しい制度をどう設計するか,更にその中で,では社会教育施設の所管の問題をどう考えるかという議論をしておかないと,今この大きな時代の転換期に入ってくる中で,なぜこれが課題化されてくるのかということが分からなくなってしまうのではないか。
 例えば,なぜ社会教育施設の所管が問題になるのかというと,従来の社会ではなくなったからではないか,また従来の制度ではもう機能しなくなってくると思えているからではないかと思うんです。その意味ではもう少し,なぜこれが課題化されているかといったことにさかのぼって議論していきながら,むしろ技術論的な議論ではないところで少し前提を共有していくといったことをすべきではないかなとも受け止めています。
 その上で個人的な意見を申し上げれば,むしろ教育委員会をベースにしながら,一般部局の方向性そのものを学習的に組み替えていくという議論をしないと,今の委員の方々,またその専門家の方々がおっしゃったような形での心配が出てきてしまうと思うんです。その意味ではもう少し,住民自らが社会を形成しながら経営をしていく。それは従来の行政の在り方も変えていくのだという議論をしていく必要があるのではないかとも考えています。
 その上で,更にこの施設の在り方としましては,ここでも実は印象を受けましたのは,機能論的な施設論になっているのではないかなと思うんです。その意味では施設論的な施設といいますか,これは施設の建屋をどうするかという議論だけではなくて,むしろどんな原理に基づいてこの施設があって,それを経営するためにはどんな人材が必要であるか,どんな財政措置が必要であるかとか,そういうことも全部含めた上での施設論という観点からの見直しが必要ではないかなとも受け止めています。
 更にその上で,専門職の在り方も,従来の指導・助言という在り方から,新しい社会教育士という称号が新設されるということの中で,もう少し一般行政の中にも食い込んでいきながら,住民に寄り添い伴走するような専門職として育成されていく。さらに,住民自身がある種の専門性を持ちながら自らの生活を創っていくことが理想でしょうから,そのような在り方といったものがここを支えていく必要があるのではないかなとも考えています。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 今日は審議のまとめの方向で意見をお願いしたいんです。そういう意味で,時間もございませんもので,1人当たり2分をめどにお願いしたいと思います。
 では,菊川委員,お願いします。

【菊川副分科会長】
 ありがとうございます。地方団体の長が公立社会教育施設を所管するということは,学校教育で考えると,学校を所管しないで学校教育行政を担当することになるのではないかという懸念も持つわけでございます。ですから実務的には困難を伴うということだと思いまして,今お二人の先生が多少真逆の御意見を言われましたけれども,そういう真逆の御意見が出てくる理由は分かるような気がします。私の意見は,村上先生と似ているわけでございますが,非常に困難を伴うと思っておりまして,村上先生がおっしゃった制度的な保障というのは大事だと思ったところです。
 それで,今までの議論の中で足りない点を少し申し上げますと,こうやって動いているが故に,実践の積み重ねを全国的に拾っていくことが大事だと思っております。具体的には地域学校協働活動がありますし,あるいは防災の取組があるのですが,今まで余り取り上げられていない点として,高齢者の自立への支援というのを入れるべきではないかと思っております。と申しますのは,人生100年時代ということで,中高年ぐらいまでは学びの場等が提供されているのですけれども,今後深刻になるのは,高齢者,特に後期高齢者が元気で自立して生きていくということだと思います。地域づくりの地域課題解決のための社会教育とともに,高齢者が,特に後期高齢者が最後まで自立して元気で知・徳・体を維持向上させながら全うするということが,本人にとっても,あるいは地域社会にとっても非常に良いことであり,手伝う前に,御本人の維持向上というところが深刻なのではなかろうかと思っております。
 そういった意味で,専門性ということでございますが,子供の教育と大人の教育は同じ人間ですからつながっておりますので,子供が知・徳・体で育成されて一人前に大人になって働いて,リタイアして,そうしたらその知・徳・体を維持しながら生涯を全うするという,そこのノウハウというのはやはり教育行政が持っているのではないかと思います。そういった意味で,政治的中立ということもありますけれども,専門性という観点から,教育委員会の方で実践を積み重ねながらこういう100年時代に備える学習支援というのを作っていかないといけないのではないか。そういう意味で村上先生の意見に賛成でございます。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 あと,時間の関係で,清原委員,宮本委員,高見委員,金藤委員,大久保委員で終わりたいと思います。

【清原副分科会長】
 ありがとうございます。私は,今回のまとめ案の11ページ,(3)本分科会としての考え方の一つ目の○,すなわち,「これまでの検討を踏まえて,本分科会としては,社会教育に関する事務については今後とも教育委員会が所管することを基本とすべきであるが,公立社会教育施設の所管については,当該地方の実情等を踏まえ,当該地方にとってより効果的と判断される場合には,地方公共団体の判断により地方公共団体の長が公立社会教育施設を所管することができることとする特例を設けることについて,社会教育の適切な実施の確保に関する担保措置が講じられることを条件に,可とすべきと考える」というまとめに賛成いたします。
 と申しますのも,今回皆様と御議論いただいているプロセスの中で,慎重ですが,これまでの現状について,適切な審議がなされたと思っているからです。特に2ページ目の○の二つ目なんですが,私が痛感しておりますのが,学習指導要領もそうですが,「地域学校協働活動が新たに規定されて,学校と地域の一層の連携が求められていること」です。三鷹市としては,「コミュニティ・スクールを基盤とした小中一貫教育」を進める中で,まさに学校教育と地域との強力な連携があり,市長部局との密接な連携が実践されています。また,社会人の学び直しについても,今,菊川さんがおっしゃった高齢者の長寿化の中での社会における自己実現や健康管理も,市長部局が大いに関与しているものですから,非常に有意義な連携ができると思っています。
 さらに,四つ目の○の「総合教育会議」でございます。三鷹市でも,法に基づいて総合教育会議を開催し,平成28年3月に『三鷹市における教育に関する大綱』を策定しました。これはまさに,市長と教育委員の皆様が公開の場で会議を行い,毎回傍聴者がいらっしゃいます。特に議員さんの関心が深くて,まさに市長が政治的に中立かどうかということを監視していただいているわけなんですけれども,三鷹市の基本理念を紹介しますと,「1,全ての子どもの人権の尊重,2,地域の多様な主体と参加と協働による教育・子ども子育て支援,3,「人間力」と「社会力」を兼ね備えた子どもの育成,4,市民誰もが,生涯にわたって学び,活動することを通して,心豊かな人生をおくるための,生涯学習・文化のまちの実現」です。ですから,総合教育会議では,もちろん,いじめ等課題も議論されますけれども,生涯学習・社会教育についても必ず意見交換がなされる運営が進められている自治体です。
 三鷹市は,総合教育会議での取りまとめを踏まえて,昨年,平成29年4月1日から社会教育会館改め生涯学習センターが新設されるに当たりまして,議会の御同意を頂いて,生涯学習センターについては,社会教育の部分は補助執行として市長部局の職員が管理をさせていただいています。それと同時に,議会でも,政治的中立性は大丈夫かという御議論がありました。そこで,「生涯学習審議会」,そして「社会教育委員会議」をしっかりと設置させていただいて,その皆様に,市長の管理は大丈夫か,公平・平等であるか,そこをきちんと見ていただいています。私たち基礎自治体は,議会の文教委員さんを始め,皆様が実は政治的活動を御本人はされているのです。けれども,市長が偏ってはいけないと。一度選ばれたら,市長は全ての市民の代表なのだから,公正中立でなければならないと監視されます。そういう中におりますので,私としては,それぞれの地域の実情によってチェックの機関というのは違うと思いますけれども,今回はこうした取りまとめの方向性で一歩前に進んでいただければと。委員としてはたった一人ここに市長がおりますので,弁解する気持ちは全然ありませんが,監視は市民からされます,本当に。教育委員会なら,はなから信頼されるかもしれませんが,市長が偏ったことをしたら,市民が糾弾します。その市民力が社会教育の力だと私は思っておりますので,今回の取りまとめの方向性からスタートしていただければという意見です。よろしくお願いします。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 では,宮本委員,お願いします。

【宮本委員】
 私からは,一言だけ発言させていただきます。6ページの(4)ですけれども,青少年教育施設についてのところです。ちょっと今の御議論からはぐっと具体的な話になるのですが,青少年教育施設についてここに書かれていることを見ると,例えば二つ目の○のところには,2行目に「青少年が地域の担い手となることを支援する拠点」となるという一文は入っているのですが,例えば数年前にイギリスのユースワーカーが来日して,青少年施設の全国でも優れたと言われるところを回って帰国するときにどういう発言をされたかというと,「青少年施設は,大人たちが一生懸命子供や若者のためにやっていたけれども,子供や若者が参画して,そこの担い手になっている姿が全く見えなかった」と,こう言い置いて帰っているわけです。18歳に成年年齢がおりるあと4年間で準備をするというわけなんですけれども,ここに書いてあるようなトーンを見ると,青少年を社会教育の中で担い手として育成する,つまり,特に世界的な言い方で言うと,「意思決定への参画」とか,「参画」という文言がほとんど入っていない。これは,青少年だけでなく,他の分野も,例えば女性施策もここに書いてありますし,地域住民のところも書いてありますけれども,従来どおりの社会教育の文言ではなくて,社会を実際に担う担い手としての育成が社会教育であるということからすれば,もう少し書きぶりを変えた方が効果があるのではないかと。とりわけ社会教育の分野に参加が少ない青少年や若者に関しては,もっと明確に,参画推進の施策として打ち出す必要があるのではないかという感じがいたします。
 以上です。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 では,金藤委員。

【金藤委員】
 ありがとうございます。私からは1点です。先ほどの専門の委員お二人のお話を伺いまして,基本的に今回のまとめは賛成しているところでございます。特例として首長部局への移管を認めるというスタンスはいいと思うんですけれども,村上先生が御説明くださいましたように,政治的中立性・安定性ということについて,教育委員会の事前承認を示すといった法的規定を明確化するということも書けるかどうかは御検討いただきたいと思います。
 それといいますのは,社会教育が首長部局に移管された場合,今日,学校教育と社会教育の連携ということをより進めることが求められておりますので,教育委員会がいわばそのハブといった形でつなげる役割がますます重要になると思います。是非その点を御検討いただければと思っております。
 以上です。

【明石分科会長】
 では,高見委員,お願いします。

【高見委員】
 イトクロの高見でございます。前回の会議のときに私が申し上げた言い方が少し遠回しだったので,趣旨が伝わっていないなと思いましたので,申し上げます。資料3の14ページに,熱意を持った方が運営に関わることができるように云々言いましたが,これはすみません,責任の問題です。ですので,先ほど村上先生がおっしゃっていらっしゃったような地方行政法27条2項に追記するといった形かと思うのですが,今,教育委員会が権限を持っているものを条例によって地方公共団体の長に移管するというときに,地方公共団体の長が必ずしも熱意を持っていらっしゃる方かどうかというような担保ができるかどうかも分からない中で,所管が適切かを何回かに一回見直すような仕組みがないと,不安だなと思いました。そのため,政治的中立性とか専門性の確保はもちろん,地方公共団体の長プラスその市長部局が所管するのに適切かどうかということを確認するような仕組みと,その適切ではないというようなことを誰かが声を上げてもう一度教育委員会に所管を戻せるといったセーフティーネットがあった方が安全だなと思いましたので,前回そのような意見を申し上げました。今回,法律の改定ということで,一回作ってしまうとなかなか変わりにくいということですので,その点においては,村上先生のおっしゃっているような文言を入れることに私は賛成です。

【明石分科会長】
 では,最後,大久保委員,お願いします。

【大久保委員】
 ありがとうございます。審議のまとめ案の方向性については,私も賛成でございます。
 ただ,1ページ目の「はじめに」という,各論の技術論に入る前のところに,もう一言あった方が伝わるのではないかなと思うんです。というのは,きょうの参考資料1でも配られているとおり,もともとの諮問された段階における問題意識というのがありました。そこに書いてあることというのは,私も何度か読ませていただいたのですけれども,要するに高齢化が進んでくることとか,経済が縮小して地方の財政も厳しくなることとか,あるいは担い手そのものが減少するという環境の変化が社会教育に与える影響は大きくて,その結果,期待される役割が変わる中で持続させていくために,どのようにこの所管の在り方について議論するべきかということだと思うんです。恐らくこの問題意識の中にも,例えば高齢者の問題であれば,社会教育施設と福祉施設の複合化を進めていかなければいけないとか,あるいは住民とか,それから民間の参加を求めないと成り立たないとか,あるいは今までと違う,教える側,参加する側も,担い手を多様化させていかないとそれが成立しないといった問題があって,そういう問題を踏まえてこのような議論になっているのだということですよね。何となく我々は前提として当たり前に思っているのですけれども,そこのところが一言あった上で具体的な技術論に入った方がいいのかなという印象,感想を持ちました。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 小林委員,大変失礼ですけれども,時間がありませんもので,ペーパーで出していただければと思っております。すみません。

【小林委員】
 結構です。

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 この生涯学習分科会における審議のまとめにつきましては,本日頂きました御意見を踏まえた上で,私と事務方で修正いたしたいと思います。そして,8月10日の中央教育審議会総会で報告したいと思います。そういう意味では,修正につきましては,分科会長である私に御一任いただければと思いますが,よろしいでしょうか。
(「異議なし」の声あり)

【明石分科会長】
 ありがとうございました。
 それでは,事務局より連絡事項があればお願いいたします。

【菅野生涯学習推進課課長補佐】
 次回の分科会につきまして御連絡いたします。次回ですが,7月23日月曜日16時から18時に開催することを予定させていただいております。場所ですが,内幸町駅の近くの「会議するなら―新橋会議室」8E会議室になります。詳細につきましては別途事務局の方から御連絡をさせていただきますので,よろしくお願いいたします。
 また,本日の資料につきましては,机の上に置いておいていただけましたら,郵送させていただきますので,よろしくお願いいたします。
 連絡事項は以上になります。

【明石分科会長】
 それでは,本日の生涯学習分科会はこれにて閉会とさせていただきます。ありがとうございました。

―了―

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総合教育政策局生涯学習推進課

電話番号:03-5253-4111(内線3273)
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