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III.調査対象国ごとの要約
   
3. ドイツ
 
ドイツでは、社会奉仕活動やボランティア活動を表す統一された言葉はないが、他者のために貢献するボランティア活動は、1960年代から若者を中心に盛んになった。現在では、ドイツの医療・福祉サービスの大半を担っている6つの民間の公益福祉団体や、自助グループ等が、ボランティア活動や兵役代替奉仕者による社会奉仕活動の実践の場となっている。
連邦政府は、若者の社会奉仕活動の機会として、社会活動年や環境活動年のプログラムを実施している。
     
  (1) 社会奉仕活動に関する考え方
       ドイツでは社会奉仕活動やボランティア活動を表す統一された用語はなく、様々な用語が使われているのが現状である。その定義も学者によって異なり、用語の整理が行われている途上にある。
   社会奉仕活動をさす最も広義な言葉には、Soziale Dienste(ゾツィアレ・ディーンステ、直訳するとsocial service=社会サービス)がある。
   また、若者の兵役義務の代わりに公共奉仕活動を選べる制度(Zivildienst;ツィヴィルディーンスト、兵役代替奉仕)があるが、これは義務的な労働であり、小遣いが支払われるなどの特典があるため、ボランティアとはみなされていない。しかし、多くのツィヴィルディーンストが社会福祉活動に参加しており、労働力としては無視できないのが実情である。また、これは英訳するとcivil serviceに当たり、社会奉仕という広義の概念には含まれる。
   ドイツにおけるボランティア活動や兵役代替奉仕の活動の場は、1960年代から組織され現在ではドイツの医療・福祉分野のサービス提供の大半を担っている6つの公益福祉団体や、近年活動が盛んになってきた自助グループ等が主なものとなっている。
   
<6つの公益福祉団体>
パリテート福祉団体(Parittischer Wohlfahrtsverband; DPWV)
労働者福祉団体(Arbeiterwohlfahrt; AWO)
ユダヤ中央福祉会(Zentralwohlfahrtsstell der Juden in Deutschland; ZWST)
ドイツ赤十字(Deutsches Rotes Kreuz; DRK)
ディアコニー福祉団体(Diakonisches Werk der EKD; DW:プロテスタント系)
カリタス・フェアバント(Deutscher Caritasverband; DCV:カトリック系)
       なお、ドイツでは、子どものボランティア活動は、学校内においては、あまり盛んではないと言われている。これは、ドイツの小中学校は半日で終り、放課後の過ごし方は子どもの自主性に任されているためである。学校外での、子どものボランティア活動が活発に行われているのは、スポーツ分野である。教会を通じた慈善活動も、近年では大人も子どもも昔ほど教会に行かなくなったこともあり、以前ほどは活発でない。
     
  (2) 社会奉仕活動に関する法律
       社会奉仕活動に関する法律には、社会活動年促進法、環境活動年促進法、兵役代替奉仕法がある。これらの法律には、対象者、活動内容、活動の条件などが細部にわたって規定されている。
   
  図表 5   連邦政府による法律の概要と制定の経緯
 
法律名(原語) 施行年 対象年齢 所轄・担当機関
社会活動年促進法
(FSJ-Frderungsgesetz; FSJG)
1964年 17(16)〜27歳 連邦家族・高齢者・婦人・青少年省(BMFSFJ)
環境活動年促進法
(FJ-Frderungsgesetz; FJG)
1993年 16〜27歳 連邦家族・高齢者・婦人・青少年省(BMFSFJ)
兵役代替奉仕法
(Zivildienstgesetz)
1960年 18〜27歳 連邦家族・高齢者・婦人・青少年省(BMFSFJ)
     
  (3) 制度による施策・事業
       ドイツでは、小中高校生を対象とした制度はない。連邦政府が実施している社会活動年および環境活動年とも、16歳以上が対象となっている。
     
  1) 社会活動年Freiwilliges Soziales Jahr; FSJ
    目的
       福祉現場での活動を通じて、専門知識・技術を学べると同時に、福祉体験や指導を通じた人格形成をめざすこと、また、若者に仕事の方向付けを考えさせたり、準備する機会を与えることを目的としている。
    活動対象者
       原則として満17〜25歳である。ただし、心身ともに活動できる状態にある者は満16歳から活動できる。
    参加方法
       参加希望者は、自分が希望する受入団体に直接申し込むか、あるいは斡旋機関から紹介してもらう。
    活動内容・活動分野、活動場所
       活動内容は看護・教育・家事の援助を行なうヘルパー活動などであり、活動分野としては、医療、福祉分野である。
   
<活動場所の例>
心身障害児の作業所・学校
老人ホーム、看護センター、介護施設
幼稚園、保育所、乳幼児デイセンター・託児所、孤児院
病院
社会福祉施設(少年保護補導施設を含む)
精神疾患患者の居住施設
保養所等の健康管理補助施設
スポーツ組合などの社会的共同施設
なお、心身障害者の施設は活動者にとって心身の負担が大きいため、活動場所とされていない。
       活動の受入先としては、民間福祉事業協会加盟諸団体(6公益福祉団体)およびその下部組織、教会、地域団体および、その他の公的法人[34]である。追加の受入先については州が許認可権限ある。実施方法は各受入先に委ねられている。
   参加者の調整については、受入団体が直接斡旋を行う。6公益福祉団体が行うこともあれば、その会員団体が代行する場合もある。
    実施期間・活動期間
       最長で連続12ヶ月、最短で6ヶ月行う。なお、この活動期間には合計25日間の研修期間も含まれる。
    費用と費用負担
       研修費用のみが連邦政府の負担となっている。宿泊、食事、作業服、1人当り月平均300DMの小遣い、保険料の負担は受入先がする[35]。州によって、受入先にこれらの経費を補助しているところもある。
    活動のための研修等
       研修については各受入先の研修センターで実施される。
   参加者には各種セミナー(導入時、中間時、終了時;合計で最低25日間)への参加が義務付けられている。セミナー受講期間は労働期間に算入される。
    参加保証・リスク対策
       参加の保証やリスク対策として、次のことが実施されている。
   
活動開始時と終了時に参加証明書が発行される
連邦休暇法の適用(4週間=24労働日)
学業途中で参加した場合は学校基本法によりもとの学校に戻ることができる
医療・介護保険、年金保険、傷害保険、失業保険が適用(保険料は受入機関が負担)
児童年金、遺児年金が給付される
労働者保護法、職場政令、若年労働保護法、母性保護法が適用される
    参加者への報酬や活動評価
       参加者には宿泊場所、食事、仕事服、適正額の小遣い[36]の支給、公的年金保険の増加保険料保険の基本掛け金の補償がされる。なお、本活動に参加したことが大学入学時に有利に評価されることがあるが、とくに明確な評価システムはない。今後、活動終了時に発行されている終了証明書に加えて、成績表も発行することが検討されており、就職時に評価されるものと期待されている。
   
<FSJ活動者のプロフィール>
参加者総数は、毎年1万人超(1998年は10,800人)である。
連邦政府実施のアンケート調査からみたFSJ活動者のプロフィールは、
活動者の90.7%が女性である。男性が少ないのは、該当年齢の男性が兵役または代替奉仕(Zivildienst)についているためである。
平均年齢は19歳で、3/4強が18歳以上。
大多数がギムナジウム卒業後すぐに参加している。
活動者の58.4%が親元から通勤している。
活動終了後の進路は43.4%が学業(大学進学)、45.3%が職業訓練。
活動場所として最も多いのは「老人ホーム」(23.7%)、次いで「病院」(17.1%)、「幼稚園」(13.3%)、「障害者施設」(13.1%)である。
活動の理由として多くあげられているのが、「自己発見と親元からの別離」「社会福祉や博愛の動機」「職業分野の模索と職業訓練」などである。
     
  2) 環境活動年Freiwilliges kologisches Jahr; FJ
    活動の目的
       若者が自然環境に触れ、環境への意識を発展させること、実用的な行動によって知識を深めることを目的としている。
    活動対象者
       16〜27歳が対象であるが、18歳未満は労働基準法に準拠して採用することとなっている。
    参加方法
       参加を希望する若者は、州の地方青年局(Landes Jugend Amt)か、受入先に直接申し込む。なお、受入先が実際の活動場所を決定する。環境活動年は、州が権限をもっているため、どういう若者を採用するか、どういった先に斡旋するかは各州に委ねられている。
    活動内容・活動分野、活動場所
       活動内容は、保護活動、動植物や庭園の世話、環境保護の広報活動、環境教育などのアシスタント的な活動である。
   活動分野としては、リサイクル、環境保護、動物保護、緑化活動などの地域と自然保護・環境保護に関わるものである。
   活動場所は、農家・農園、環境保護団体、動物園・植物園などであり、州の認可を受けた国内に本部がある連盟、協会、機関、団体となっている。
    実施期間・活動期間
       連続して6ヶ月〜1年間。なお、この活動期間には合計25日間の研修期間も含まれる。
    費用と費用負担
       研修費用のみを連邦政府が負担する。宿泊、食事、作業服、1人当り月平均300DMの小遣い、社会保険の保険料は州政府と受入先とが折半して支払う[37]。
    活動のための研修等
       12ヶ月の活動期間に対して最低25日間が義務付けられている。なお、セミナー費用は連邦政府が負担する。セミナー期間は活動期間に算入される。セミナーは各受入先で実施される。
    参加保証・リスク対策
       参加保証・リスク対策として、以下のことが実施されている。
   
活動開始時と終了時に参加証明書が発行される
連邦休暇法の適用(4週間=24労働日)
学業途中で参加した場合は学校基本法によりもとの学校に戻ることができる
医療・介護保険、年金保険、傷害保険、失業保険が適用(保険料は受入機関と州政府で折半)
児童年金、遺児年金の給付がある
労働者保護法、職場政令、若年労働保護法、母性保護法が適用される
    参加者への報酬や活動評価
       参加者にはFSJ同様、食事、仕事服、適正額の小遣い[38]の支給、公的年金保険の増加保険料保険の基本掛け金の補償がされる。
   なお、FSJと異なり、活動したことが大学入学時にとくに有利に評価されることはない。一般的には、参加者が人間的な成長を遂げることが評価されている。
   
<FJ活動者のプロフィール>
参加者総数は、1998年現在で1,500人である。
なお、連邦政府実施のアンケート調査からみたFJ活動者のプロフィールは、
活動者の82.4%が女性である。男性が少ないのは、該当年齢の男性が兵役または代替奉仕(Zivildienst)についているためである。ただし男性の割合は旧東ドイツで多く22%となっている(旧西ドイツでは11.2%)。
平均年齢は20歳で、2/3弱が19〜20歳。平均年齢は近年上昇した。
活動者の1/3が活動場所で暮らし、3割が親元、18%がその近くに住む。
半数以上が以前も類似の組織、学校のプロジェクト、教会で活動をした経験がある。
活動終了後の進路は43.4%が学業(大学進学)、45.3%が職業訓練。
活動分野としては、風土・自然の保護(14.6%)、事務所・支援活動(15.9%)、植物・庭園保護(13.6%)である。
活動場所として最も多いのは「自然・環境保護団体」(26%)、次いで「連邦・州機関」(22%)、「若者・成人教育」(14%)などである
活動の理由・動機として多くあげられたのは「環境に関する知識の習得と実践」「自己発見」「環境に関する職業領域の模索と職業上の能力獲得」「親元からの別離と自活」などである。
       社会活動年および環境活動年とも、ボランティア活動の機会でありつつも、若者に将来の職業の適性について考えさせたり、労働に必要な知識や技術を習得する機会を提供するといった職業訓練的な色彩が強いことが、ドイツの制度による社会奉仕活動のプログラムの特徴である。
     
  (4) 民間主導による社会奉仕活動
       ドイツにおいても、民間の公益法人が多様な年齢層に対してボランティア活動の機会を提供している。
   
<若者支援分野におけるボランティア・アカデミー(Akademie fr Ehrenamtlichkeit in der Jugendhilfe)の事例>
【ストリートワーク・プロジェクト】
対象者は、ベルリン市Hellersdorf地区居住の12〜21歳の青少年
子ども達のたまり場としての青年クラブ4ヶ所をそれぞれ集合団地の地下につくり、そこで、ボランティアのコーディネーター(ソーシャルワーカー)のもとで、通りで集まっている子ども達が何をやっているかを見て、皆で話し合いながら、問題を解決させていく。運営は若者ボランティアにまかせる。一般の青少年教育・指導機関と異なり、対象者=実施者であり同等な関係が保てる。
参加者の募集は、同地区の学校への呼びかけ、子ども同士の口コミによる。活動地域にある学校には参加を呼びかけている。
ベルリンの区役所や州政府からの補助を受けている。

 

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