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「社会に学ぶ『14歳の挑戦』」


富山県教育委員会指導課
主任指導主事   杉森   貢

1   はじめに
   家庭や地域社会における日常生活において、自然や社会や人にかかわる体験が著しく減少し、汗することのさわやかさや人間関係等について学習する機会が少なくなっている。コミュニケーション能力や社会性の不足等は、子どもたちが学校や社会に適応していくうえで大きな障害となっていると考えられる。多感な青年期を迎える中学生にあってはそれが特に顕著に現れ、いじめや暴力行為など暗い影を落としている。
   また、平成7年におけるベネッセ教育研究所の調査によれば、日本の子どもたちの自分に対する自己評価は、対象となった国々の中でも極端に低く、自分に自信をもって生きていくための積極的な自己像を描けないでいる現状も看過できないことである。
   本県では、従来より、各中学校において、進路指導の一環として1〜2日の職場体験学習が行われてきた。しかし、それは、あくまで自分の将来の職業選択に資することを目標とした学習であり、社会のルールを学んだり自分の生き方を考えたり等を目的として行われたものではなかった。
   「社会に学ぶ『14歳の挑戦』」では、中学2年生が事業所や福祉施設など、実際の大人社会の中に1週間身を置き、その一員として活動する。1週間にわたる様々な体験を通して、働くことの喜びや苦しさ、認められたり感謝されたりすることの喜び等を味わうとともに、挨拶や言葉遣いの大切さ、社会生活におけるルールの必要性、学ぶことや生きることの意義等を感じとってくれることを期待している。

2   事業のねらい及び内容
   (1)ねらい
      行動領域が広がり活動が活発になる中学2年生が、学校外で体験学習に取り組むことにより、規範意識や社会性を高め、将来の自分の生き方を考えるなど、成長期の課題を乗り越えるたくましい力を身につけることができるようにする。
   (2)内容
      1  中学2年生が、5日間学校を離れ、地域の人々の指導・援助を受けながら、職場体験活動やボランティア活動等に取り組む。この間、生徒は家庭から直接それぞれの事業所あるいは福祉施設等に通う。活動に当たっては、受け入れ事業所等の指導ボランティアの指導のもと、原則として4人程度の班単位で行動する。
      2  本事業を企画・推進するために、学校が中心となって、保護者や行政担当者、事業主、団体関係者等で推進委員会を組織する。委員会は、生徒の希望を受け、受け入れ事業所の確保に当たったり、生徒の事業所等における活動を陰から支えたりすることをはじめ、指導ボランティアとの連絡等に当たる。

3   取組状況
   本事業は、平成11年度から実施している。今年度は、県内85のすべての中学校の 2年生、約11,000名が参加する。すでに、5月7日より地域ごとに取組が始まっている。
   (1)   受け入れ事業所
受け入れ事業所業種別割合      平成12年度において、生徒を快く引き受けてくれた事業所等は、実に2,450箇所に上った。右図は、受け入れ事業所等の業種別割合である。公的機関が約4分の1を占めているが、圧倒的に多いのが、ショッピングセンターや建設会社等、商工業関係の事業所である。景気回復の足取りが遅い中、それらの事業所等には精一杯の努力をしてもらったと考えている。
   (2)   活動の実際
   <生徒の声>
      戸惑いと感動の連続だった5日間。最後の日、園児たちは帰るときに「お姉ちゃん、ありがとう」と大きな声で言ってくれました。本当は、私が園児たちに感謝しなくちゃいけないのに。この体験を通して、園児たちに言葉では言えない何かを教えてもらったように思います。無邪気に笑う園児たちの顔は、今も私の記憶の中で輝いています。 (保育園にて)
   <保護者の声>
      こんなに熱心な子どもの姿を見たのは久しぶりのような気がしました。でも、自分の思い通りに行かなくて『私にこの仕事は向いてない!』と涙した日もありました。そんなときは家族で励まし元気づけました。夕食時は、「チャレンジWork!新庄!」の話一色でした。子も親も一生懸命の1週間でした。
   <事業所の声>
      当社として初めての経験であり、まず、何をしてもらうか難しかったと思います。作業服を真っ黒にして働いた経験は、彼らにとっても学校では学べない何かをつかんでくれたのでは・・・。彼らには精一杯の拍手を送ってやりたいものです。

4   成果と今後の課題
   1  成果
      ・生徒が自分を見つめ、人間的な成長を遂げた。
      ・家庭において親子の語らいの場が生まれるなど、親子関係が深まった。
      ・地域の中学生に対する理解が深まり、地域ぐるみの育成体制ができた。など 
   2 今後の課題
      ・地域の連携や協力をさらに進め、受け入れ事業所を安定的に確保する。
      ・地域の教育力をさらに開発し、開かれた学校づくりを推進する。
      ・事業所や近隣の中学校の連携を深め、地域の教育活動として定着を図る。 など

 

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