【参考資料】糸賀委員提出資料

国立国会図書館 カレントアウェアネスNo.309 2011年9月20日

 

「エンベディッド・ライブラリアン」:図書館サービスモデルの米国における動向(第1章)

 アリゾナ大学:鎌田 均

 

 あるものをなにかに埋め込む、という意味を持つ“embed”という語を用いた、エンベディッド・ライブラリアン(embedded librarians)と呼ばれる図書館司書、またはエンベディッド・ライブラリーサービスというサービス提供の形態が、近年米国の図書館界で一つの潮流となっている。このテーマについては論文に加え、米国カトリック大学(Catholic University of America)図書館情報学准教授のシュメイカー(David Shumaker)氏といった人物がブログでも積極的に発信している。この呼称は、2003年のイラク戦争で広く知られるようになった、エンベディッド・ジャーナリスト(embedded journalists)に由来している。これらのジャーナリストは、戦闘部隊と行動をともにし、進行中の事件の内部から取材活動を行い、自らをこのように呼ぶようになったとされている。彼らは自らを部隊に「埋め込んだ」ことによって、事件のストーリーに直接アクセスできることができた。このことから、エンベディッド・ライブラリアンとは、日常の業務において、図書館を離れ、利用者が活動している場から、利用者と活動をともにしつつ情報サービスを提供している図書館司書を指す。

 この、「埋め込まれて」いる程度には様々なものがある。図書館司書がどの程度「エンベッド」されているかを計る目安としては、普段ほかの図書館司書と同じ場所で業務をするのか利用者とおなじ場所にいるのか、給料・諸経費は図書館と利用者のどちらに充てられた予算から出るのか、誰が司書の監督・業務評価をするのか、主に利用者たちの会議に参加するのか、または図書館での会議に参加するのか、といったものがある。こういった組織、人員配置、業務形態からみた目安でいえば、図書館司書が、図書館から離れて利用者たちと一体となり、利用者側から予算を充てられてサービスを提供しているケースがあれば、それはより高度なかたちでのエンベディッド・ライブラリアンともいえる。

 エンベディッド・ライブラリアンというモデルの重要な点は、図書館司書が、利用者の環境に自分を「埋め込み」、利用者と作業等で協働し、混じり合うことによって、利用者の行動、またそれによる利用者の情報、情報サービスに対するニーズをより直接的に知り、より迅速なサービスをその場で提供できることにある。利用者の置かれた環境や状況によって、必要とされる情報の内容、情報と向き合うコンテキスト、プロセスは異なってくる。そこに、このエンベディッド・モデルを導入することで、特定の利用者集団のニーズに沿うようにカスタマイズされた、より付加価値の高いサービスを提供できる効果がある。

 そして、今日電子ジャーナルや電子書籍、その他図書館の様々なサービスが、図書館を訪れる必要がなくオンラインで利用できるようになっていることで、図書館司書も、図書館を離れて利用者のいる環境の下でサービスを提供するのは必然となっていくともいえる。仮に利用者が必要とするほとんどの資料がオンラインで入手でき、もしくはオンラインで入手できるものしか利用しなくなり、図書館という場所を必要としなくなった場合でも、図書館司書は利用者のいる場所にエンベッドされ、どのようにリサーチを始めたら良いか、どのように情報を探したら良いか、情報をどのように評価したら良いか、といった局面で利用者を支援することができる。このように、より多くの情報がオンラインで入手できることになったことで、図書館司書の居場所が図書館である必要性が減少したことが、より利用者に近づいた環境でサービスを提供することが効果的であるという、エンベディッド・ライブラリアンというモデルを後押ししているといえる。

 

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