【資料1】審議の整理(案)

中央教育審議会生涯学習分科会 

社会教育推進体制の在り方に関するワーキンググループにおける審議の整理(案)

 

はじめに

 

○ 第6期中央教育審議会生涯学習分科会は、「生涯学習社会の構築」の中心的な役割を担う社会教育行政の今後の推進の在り方について審議を行い、平成25年1月、審議内容を「第6期中央教育審議会生涯学習分科会における議論の整理」(以下「議論の整理」という。)としてとりまとめた。

「議論の整理」では、社会教育行政の今後の方向性をネットワーク型行政の推進を通じた「社会教育行政の再構築」としてとりまとめたが、その再構築の具体的な方策や社会教育主事等の専門的職員や地域人材の在り方については、第7期中央教育審議会生涯学習分科会等において更に検討を行うこととされた。

 

○ これを受け、平成25年3月に発足した第7期中央教育審議会生涯学習分科会は、「社会教育推進体制の在り方に関するワーキンググループ」(以下「WG」という。)を設置し、本WGにおいて、今後の社会教育行政や社会教育主事の在り方に関する具体的方策について審議を進めてきた。

 

○ この間、閣議決定に基づき内閣総理大臣が開催する教育再生実行会議においては、教育委員会制度の抜本的改革等についての議論がなされ、4月15日に、「教育委員会制度の在り方について(第二次提言)」が示された。これを踏まえ、同月25日に、中央教育審議会は、文部科学大臣から、「今後の地方教育行政の在り方について」の諮問を受け、(1)教育委員会制度の在り方、(2)教育行政における国、都道府県、市町村の役割分担と各々の関係の在り方、(3)学校と教育行政、保護者・地域住民との関係の在り方の3つの事項について、教育制度分科会を中心に審議が行われている。

 

○教育委員会制度の在り方に関する検討では、新しい教育委員会の職務権限をどのように考えるかということも大きな論点の一つとなっており、地方教育行政の組織及び運営に関する法律(昭和31年法律第162号)第23条に規定されている教育委員会の事務(学校教育、社会教育、文化、スポーツ等)の所管の在り方についても検討することとされている。

 

 ○ 本WGでは、社会教育の所管の考え方及び社会教育主事の在り方に関し、有識者ヒアリングなどを含め6回にわたって集中的に審議を行い、「審議の整理」としてとりまとめた。今後、地方教育行政制度の在り方に関し、中央教育審議会教育制度分科会等において、「審議の整理」を踏まえた積極的な議論が行われることを期待する。

第1章 社会教育行政の推進体制の在り方について 

1.社会教育行政と教育委員会制度

 

(1)社会教育行政の任務

 

○ 学校教育は、学校という特別の施設において、特別の法令等に基づき、特定の者を対象として行われるのに対し、社会教育は、実施する主体や対象について特に制限が設けられていないことをその特色としている。教育基本法第12条第1項では、このような社会教育を振興していくため、広く社会教育が、国及び地方公共団体によって奨励されるべきことを、また、同条第2項では、「図書館、博物館、公民館その他の社会教育施設の設置、学校施設の利用、学習の機会及び情報の提供その他の適当な方法」を具体的な社会教育の振興方法として規定している。

 

○ さらに、社会教育法では、教育基本法の精神に則り、地域住民の間で自主的に行われる社会教育活動が円滑かつ効果的に実施されるよう環境を醸成し、必要に応じた支援を行い、その奨励に努めていくことを社会教育行政の任務としている。

 

(2)社会教育における教育の特性への配慮

 

○ 現行制度において社会教育に関する事務は、学校教育に関する事務と同じく教育委員会が所管することとされている。教育委員会制度の趣旨は、教育行政の執行に当たり、(1)政治的中立性の確保、(2)継続性・安定性の確保、(3)地域住民の意向の反映を図ることとされている。社会教育に関する事務の所管を考えるに当たっては、教育委員会において執行されなければ上記3つの趣旨が確保できないのかということについて考える必要がある。

 

○ なお、教育委員会制度に対しては、平成24年7月、全国市長会などから、その設置自体を自治体が選択できるようにすべきといったことや、教育委員会が所管する図書館、博物館の設置及び管理等社会教育に関する業務について、地域の実情に応じて首長の下で一元的に実施することを可能とすべきといった提案がなされている。

 

(社会教育における教育の政治的中立性)

○ 教育は、人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた心身ともに健康な地域住民の育成を期して行われるものである。このため、その内容は、特定の党派的勢力や宗教的勢力から影響を受けることなく、中立公正であることが求められており、このような教育の政治的中立性の確保の必要性については、教育基本法第16条においても定められているところである。

 

○ また、政治的中立性の確保は、昭和31年に「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」が制定され、教育委員の公選制から任命制への制度改正が行われた際に重視されたものであり、このような教育の政治的中立性を確保するため、教育に関する事務は、首長から一定の独立性を持った機関が責任を負うものとされてきた。

 

○ しかしながら、学校教育が児童生徒の発達段階に応じた体系的な教育を行うことにより、社会を生きる上での基礎的な素養を身につけさせるものであるのに対し、社会教育は、主に成人及び青少年を対象に、本人の自主性や主体性の尊重を前提として、多種多様な内容で行われるものである。さらに、とりわけ現代においては、新聞、テレビに加え、インターネット等の新しいメディアも発達し、個人がいつでも多様な情報を得られるようになったことを踏まえると、かつてのようにメディアが未発達だった時代に比して、社会教育については、政治的中立性に留意する必要性は薄れているのではないかとの意見もある。

 

○ また、社会教育が広く一般行政が推進する普及啓発活動や理解増進活動と緊密な連携・協力を行うことで、それぞれの行政分野の取組に相乗効果をもたらすとの考えもある。

 

(継続性・安定性)

○ 学校教育においては、児童生徒の健全な成長発達のため、学習期間を通じて一貫した方針の下、発達段階に応じた体系的な学習内容を継続的・安定的に提供していくことが必要である。また、教育は、結果が出るまで時間がかかり、またその結果も把握しにくい特性があることから、学校運営の方針変更などの改革・改善は漸進的なものであることが望まれている。

 

○ 一方、社会教育行政は、憲法第26条で保障されている教育の機会均等の原則を実現するため、地域住民や民間団体による自主的な社会教育活動が円滑に行われるよう奨励援助し、環境を醸成していくことを通じて、個人の要望や社会の要請に応じた多種多様な学習機会が継続的・安定的に提供することが求められている。ただし、現代においては、社会教育行政だけでなく、首長部局の多様な行政分野における普及啓発活動や理解増進活動の充実、NPO等の民間活動の発展によって、これらを継続的・安定的に提供する体制の整備が進められている点に留意する必要がある。

 

(地域住民の意向の反映)

○ 教育は、地域住民にとって身近で関心の高い行政分野であり、特定の見方や教育理論の過度の重視など偏りが生じないようにする必要があることから、専門家のみが担うのではなく、広く地域住民の意向を踏まえて行われることが必要である。社会教育の推進に当たっても、このような考え方は尊重される必要があり、社会教育委員や公民館運営審議会の制度が設けられているところである。

 

2.教育委員会が所管する社会教育の現状と課題

 

(1)学校教育との連携

 

○ 学校教育と社会教育は、本来、車の両輪のように互いに連携し、一体となって、教育や学習の環境を整備すべきものである。しかし、法体系の違いや施設の違いから、それぞれの領域で独自に事業や活動を進める傾向が長く続いてきた。しかし、昨今、教育や学習の効果を挙げる上での不都合や、非効率性を指摘する声が高まるようになり、学校教育と社会教育の連携・協働の重要性が高まってきている。

 

○ 平成18年の教育基本法の改正により、第13条に「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力」が規定され、さらに20年の社会教育法改正でも、第3条で社会教育が学校教育と連携することが規定されたことを受け、「放課後子ども教室」「学校支援地域本部」「コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)」など地域住民が学校の様々な活動を支援する取組が活発化している。

 

○ 近年、社会がますます複雑化・多様化し、子供たちを取り巻く環境が大きく変化する中、学校と地域が連携・協力することは、子供たちの教育環境の向上のみならず、教員が教育活動に専念できることで、より多くの時間を子供と向き合うことや授業準備等に充てられるようになるなど、学校教育の充実や学校運営の円滑化に資することも期待されている。さらに、地域住民にとっても、学校と地域の連携が進むことで、学習した成果を発揮する場が広がることは有益である。

 

○ また、都道府県において、社会教育主事などの専門的職員の多くは教員からの人事交流によって配置されていることから、教育委員会において学校教育と社会教育が一体となって行われることは、教員自身の資質向上につながるとともに、適当な人材の確保・配置が円滑に実施できるという利点もある。

 

○ このような学社連携の取組はこれまでも行われてきているが、教育委員会においてでさえ、十分な連携・協力がなされているとは言えない状況にある。その理由として、学校教育に重点が置かれ、予算や人員も学校教育部局に集中していることや、学校教育部局、社会教育部局、関係諸団体の間で、学社連携についての相互理解が十分でないといった問題もある。このため、仮に、社会教育に関する事務を学校教育部局と離して首長部局で実施した場合、学社連携が現状より停滞する可能性もあることに留意する必要がある。

 

(2)「人づくり」の観点からの総合的な学習機会の提供

 

○ 近年、少子高齢化、核家族化、都市化の進行、科学技術の発達に伴い、人間関係が希薄になり子育ての知識が世代間で継承されにくくなる、あるいは子供同士のふれあいや、自然体験の機会が減少する等、社会を取り巻く環境は変化している。また、近年は、個人や地域が抱える課題が多様化・複雑化する中で、人間が人間として生涯を生き抜く上で大切な健康・体力、社会性、規範意識や忍耐力、勤労意欲の低下や更には学力に対する懸念が強く叫ばれており、このような社会の変化に適切に対応し、子供たちが自立して生きていくために、総合的な観点から学校のみならず社会のあらゆる場で学習機会を提供していくことが求められている。

 

○ 教育委員会が社会教育を所管することによって、地域の課題に対して教育という視点から総合的に施策を組み込むことを通じて、多種多様な学習機会が提供され、時代の変化に主体的かつ柔軟に対応し、未来の日本を担う志と意欲をもつ人材の育成が可能となっているとの意見もある。

 

○ 他方で、教育委員会が提供する学習機会の多くは、趣味・教養といった学習であり、公民意識(市民意識)のかん養や現代的な地域課題に関する学習機会の提供 [1]のみならず、学習成果の活用の支援、特に地域での多様な領域での市民的活動の支援が十分に行われているとはいえない。

 

○ 教育委員会が首長部局と連携・協働することによって、学習機会の提供内容も深化する可能性が高いが、教育委員会は首長から独立した行政委員会と位置付けられているため、首長部局が所管する多様な行政分野との連携に関する経験・人脈などが少なく、連携事務がうまくいきにくいという面もある。社会教育担当部局と他の一般行政部局との連携・協働を今後一層進めていくためには、社会教育の所管を首長部局に移管するという考えもあるが、この場合には、社会教育が幅広い分野にまたがるものであることに鑑みて、複数分野を横断的に見ることのできる部署に社会教育担当部局を置くことが望ましいと考える。

 

3.今後の方向

 

○ 教育の政治的中立性の確保や継続性・安定性の確保といった教育の特性については、社会教育においても引き続き配慮していく必要があるが、学校教育と比べるとその度合いは低いと考えられる。

 

○ しかしながら、今後、学校、家庭、地域社会が連携して子供を育成していくことがますます重要となることや、生涯学習社会の実現の観点から学校教育がその基礎を培うものとして位置付けられていることから、社会教育に関する事務は、基本的に今後も学校教育と一体的に教育委員会において執行されることが望ましいと考えられる。

 

○ 一方で、実際の社会教育活動の広がり、行政との関連性の広範さからすれば、学校教育を主な所管事務とする教育委員会ではなく、首長が所管する方がそれぞれの行政分野の取組に相乗効果を上げることが期待できるとの考えもある。

 

○ また、社会教育については、近年、地域づくりの観点や福祉の観点、男女共同参画の観点、青少年の健全育成の観点など首長部局との関係も深く、首長部局で担当する場合は、他の行政分野における諸施策との連携・協力を通じて、社会教育活動が促進され、新規事業の企画や予算確保の観点からの利点も認められる。

 

○ このような考え方から、現在でも、社会教育に関する事務については、一部の自治体では、地方自治法第180条の7の規定に基づき、教育委員会の事務を首長に委任したり、首長部局の職員に補助的に行わせる方法により、首長部局がこれらの事務を執行している事例も見られる。

 

○ 以上を鑑みると、社会教育に関する事務については、学校教育との連携の観点から、基本的には教育委員会の担当とすることの利点が大きいものと考えられるが、社会教育行政の自主性を高め、自治体の組織編制における自由度を拡大する観点から、地方自治体の実情や行政分野の性格に応じ、自治体の判断により、首長が担当することを選択できるようにするなど弾力化を図っていくことも一考に値する。その際、都道府県教育委員会と市町村教育委員会の持つ権限の相違や、地方公共団体の規模等を踏まえつつ、社会教育委員や公民館運営審議会等のさらなる充実を図るなど地域住民の意向を社会教育行政に反映することによって、教育の特性にも配慮していくことが必要である。

第2章 社会教育主事の在り方について 

 

1.社会教育主事の現状と課題

 

 

 

 (社会教育主事の現状と課題)

○ 社会教育主事は、社会教育法に基づき都道府県及び市町村の教育委員会事務局に必置とされる社会教育に関する専門的職員であり、都道府県及び市町村の社会教育行政の中核として、専門的・技術的な助言と指導を通じて、地域人材を育成するとともに、それらの地域人材と地域住民をつなげることによって、人々の自発的な学習活動を援助する上で重要な役割を果たしてきた。

 

○ しかしながら、社会教育主事については、法律上必置とされているにもかかわらず、社会教育主事としての発令がなされていないケースや、そもそも社会教育主事資格有資格者が社会教育担当課にいない地方自治体も見られるなど、設置率は60.8%と年々減少傾向にあり、社会教育主事の数も、6,796人(平成8年)から2,518人(平成23年)と半数以下に激減している。

 

○ この要因としては、近年の地方自治体の行財政改革による人件費の削減や市町村合併による市町村数の減少があるが、問題は、社会教育主事について首長を含めて必ずしも地域で評価されていないことにある。

 

(社会教育主事の必置の必要性)

○ 平成24年7月、全国市長会から「社会教育主事の必置規制を撤廃することにより、市の自主的な活動が促進されるとともに、民間活力の活用が一層促進される」との理由により、「義務付け・枠付けの見直し提案」として、社会教育主事の必置義務の廃止の要望が出された。

 

○ 社会教育主事制度は、昭和26年の社会教育法改正によって、同法に第二章(社会教育主事及び社会教育主事補)が新設されたことに始まる。このような制度を創設した理由は、社会教育を振興するに当たっての行政の責任を果たす上で、社会教育を行う者の求めに応じて専門的技術的な助言指導を与えることができる専門的な職員が必要であったためである。

 

○ 近年、多様な地域人材によって広範な学習活動が行われるようになり、それにあわせて社会教育主事の役割も変化しつつあるが、社会教育行政が、今後とも、地域住民の自主的な社会教育が円滑に実施されるよう環境醸成を図っていくためには、社会教育行政の専門的職員である社会教育主事がその中核的役割を果たすことが期待され、引き続き必置を原則とすることが望ましいと考える。 

 

○ 他方、社会教育主事は、教育公務員特例法により、指導主事とともに教育委員会事務局に置かれる専門的教育職員と位置付けられているため、教育委員会制度等の在り方等の地方教育行政に関する議論の動きを踏まえた今後の在り方については更に検討していくことが必要である。

 

2.社会教育主事の今後の在り方

(1)社会教育主事の職務の明確化

 

○ 社会教育主事の職務は、社会教育法第9条の3で「社会教育を行う者に専門的技術的な助言と指導を与える」とされているが、そのほかにも、地域の学習課題やニーズの把握・分析、地域の社会教育計画の立案やそれに基づいた学習プログラムの立案、地域人材の育成、地域人材の把握、学校教育と社会教育との連携の推進、相談など非常に広範多岐にわたっている。

 

○ しかしながら、地方教育費の中で社会教育費が占める割合はわずか10%に過ぎず、一教育委員会あたりの社会教育主事の数は、1.4人(平成23年度)と非常に少ない現状にある中で、社会教育主事の役割や職務に関する首長や地域住民の認知度は低い状況にある。

 

○ 今後、社会教育主事が、首長を含め地域で評価されるためには、社会教育主事の職務を明確化し、社会教育主事自らが自分たちの職務の成果を正しく評価した上で、意識的に、社会に発信していくことが必要である。その上で、社会教育主事の配置に当たっては、当該地域が抱える課題を把握し、そのような課題を解決していくためにどのような人材が必要かといったことを発令する側もしっかりと認識していくことが必要である。

 

(2)今後の社会教育主事に必要な資質・能力

 

○ 社会教育行政は、生活課題や地域課題の解決を図って、住民一人一人の学習活動や住民相互の教育・学習活動の支援をしているが、社会教育行政の中核である社会教育主事の任務は、専門的技術的な助言及び指導を通じて、可能な限り、住民が地域で主体的に教育・学習活動に取り組むことができるよう条件整備を行い、奨励、援助を行うところに重点がある。

 

○ しかしながら、社会の変化に応じて増大かつ多様化する地域住民の学習ニーズに応えるために社会教育が果たすべき役割が増大する中、一人の社会教育主事があらゆる分野で専門性を発揮することは実際上困難となりつつある。

 

○ 他方で、地域においては、公民館等の社会教育施設における学級講座やPTA、NPOなどの活動を通じて様々な地域人材が育っている。したがって、今後、ネットワーク型の行政を展開していく中で社会教育主事がその中核的な役割を果たしていくためには、社会教育主事の役割は、地域の課題や状況を把握し、地域活動の組織化支援を行うとともに、地域の教育資源同士を結びつけ、社会教育行政の全体計画を立てていくことにあると考えられる。

 

○ このように社会教育主事の役割を考えた場合、今後の社会教育主事には、地域の多様な専門性を有する人材や資源をうまく結びつけ、地域の力を引き出すとともに、地域活動の組織化支援を行うことで、地域住民のあらゆる学習ニーズに応えていくため、コーディネート能力、ファシリテーション能力、プレゼンテーション能力などが求められる。

 

○ ただし、このような社会教育主事的な素養は、ある意味どのような部署の職員でも求められるものであり、例えば、学校教員や指導主事が社会教育主事的な素養を身につけることができれば、学校教育と社会教育との連携が一層推進されると考えられる。

 

3.社会教育主事の資質・能力を養成する仕組みの構築

 

(1)属性・知識・経験等に応じた多様なカリキュラムの提供

 

○ 社会教育主事となる者は、教員出身者、社会教育行政出身者、社会教育施設出身者、首長部局出身者、民間出身者、当初から社会教育主事に採用される者など多種多様である。その属性によって有する知識や経験も異なっており、また、都道府県の社会教育主事と市町村の社会教育主事では求められる役割も異なることから、社会教育主事の役割や位置付けの捉え方は地域ごとにバラツキが見られる。

 

○ しかしながら、社会教育行政に従事する職員を養成する現在の社会教育主事講習の内容は、学習およびその成果を実際の地域課題の解決につなげていくという視点に乏しく、かつ、講習受講者の多様性に対応できているとは言い難い。実際に、社会教育主事の養成科目の内容が社会教育主事の職務にどの程度役だったかという質問の回答としては、全体として「社会教育の計画、学習プログラム等に関する講義」や「社会教育演習」などは「大いに役立った」という割合が多いものの、それぞれの項目について重要だと思う割合はその属性によって異なるという結果も出ている。

 

○ この場合、その地域が抱える課題にしっかりと対応できる知識や経験を有する社会教育主事が配置されれば、その社会教育主事は高く評価される一方で、そのような知識や経験を有さない社会教育主事が配置された場合は、社会教育主事の必要性に対する認識を低下させることにつながり、社会教育主事の設置率の低下を招くことになる。

 

○ 社会教育主事資格が、社会教育主事となるために必要とされる知識・能力を担保するものであることに鑑みれば、大学(短大含む)及び社会教育主事講習における養成内容については、社会教育主事の職務を的確に遂行し得る基礎的な資質を養成するものであることが必要である。さらに、受講者の属性や受講者が有する知識・経験等に応じた多様なカリキュラムを選択制によって提供することなども含めて、カリキュラムの抜本的な見直しを検討していくことが必要である。

 

(2)カリキュラムの内容・方法の工夫

 

○ 社会教育主事講習については、現在のような40日間の講習のみで多様化・高度化する人々の学習ニーズや、社会の変化や新たな課題等に的確に対応していくことができる専門性を養うことは困難であるとの指摘もある。このため、社会教育主事講習は基礎的で共通的な内容にとどめ、社会教育主事として任用された後、その属性に応じ、より実践的かつ専門的な知識・技術等の一層の充実を図るための現職研修を充実させるという考え方もある。カリキュラムの内容については、理論と実践、知識と技能のバランスが重要であり、今後、国立教育政策研究所社会教育実践研究センターが中心となって見直していくことが求められる。

 

○ また、研修方法についても、地方公共団体の定員の削減などにより、とりわけ、小規模市町村にとって、40日間の講習に職員を参加させることは困難であるという意見も踏まえ、放送大学や国立教育政策研究所社会教育実践研究センター等の遠隔講義の充実は有効であり、ICTを活用した効果的な遠隔研修の教材プログラムを開発するなど、研修の実施方法についても検討していくことが必要である。

 

4.社会教育主事資格の活用

(1)社会教育主事資格の汎用化

 

○ 社会教育主事は、教育委員会事務局において社会教育を担当する教育的専門職員という職であり、大学等で社会教育主事講習の受講を修了しただけでは、単に社会教育主事となる資格(いわゆる「任用資格」)を得たに過ぎず、社会教育主事として発令されない限りは、せっかく講習で学んだ知識や能力が活用されない。

 

○ 一方、社会教育主事講習で学んだ内容や社会教育主事として得た知識や経験は、学校教育活動、まちづくり、高齢者福祉、環境、防災など社会教育行政以外の社会教育に関連する様々な場面、NPOやボランティア団体等の活動でも幅広く活用することができるものであるが、社会教育主事であった者が社会教育主事でなくなった場合、社会教育主事の任用資格はその他の行政分野では活用されていないため、その知識や経験、能力が十分に活かせていないといった問題も指摘されている。

 

○ このため、社会教育主事については、「社会教育士」や「地域教育士」として国家資格を創設する、あるいは民間レベルでそのような資格を創設し、何らかの形で公的に認証することにより、その専門性を保証・表示するなどの方策について検討すべきとの意見もある。これによって、市民の中で社会教育活動を推進していく力のある人を、社会教育主事として採用しやすくなり、それらの資格を持つ者に社会教育行政以外の様々な場面で活躍してもらうことも容易になる。また、このような資格制度を前提として、社会教育主事職の任用要件を法的に規定する方法も考えられる。

 

○ しかしながら、社会教育主事が減少している現在、国によってこのような新たな資格の枠組みを作ることは、社会教育主事制度の一層の形骸化につながる危惧もある。このため、社会教育主事資格がその資質・能力を保障するものとなるようカリキュラムの見直しを行い、社会教育行政以外の分野において社会教育主事資格の有用性を認知してもらうことを通じて、社会教育主事資格の汎用化を図っていく方策について検討していくことが望ましい。

 

(2)配置先の緩和

 

○ 社会教育法第9条の2において「都道府県及び市町村の教育委員会の事務局に、社会教育主事」を置くものとされている。いわゆる必置規定と言われるものであるが、社会教育に関する事務を現在は教育委員会が所管している以上、社会教育を行う者に専門的技術的助言及び指導を行う専門的教育職員たる社会教育主事が教育委員会事務局に置かれるのは当然である。

 

○ 他方、(1)で述べたとおり、現在、首長部局においても社会教育と関連の深い業務が展開されていることに鑑みると、社会教育の知識・能力を有する者が、社会教育行政以外の幅広い分野で活躍することは意義がある。例えば、社会教育主事が首長部局に配置されることによって、まちづくり、高齢者、福祉、労働、医療、農業など社会教育以外の行政分野との連携協働が円滑に行われるようになり、社会教育行政のネットワークが広がることが期待されるとともに、社会教育主事のキャリアパスの構築にもつながっていくものと考えられる。

 

○ 実際、地方自治体の中には、教育委員会事務局との兼職発令などによって公民館や青少年教育施設などの社会教育施設や首長部局に社会教育主事を配置しているところも少なくない。このように社会教育主事としての知識・能力を有する者が活躍する場を一層広げていくためには、社会教育主事の配置先を限定している現在の規定を見直し、仮に地方自治体の判断によって、社会教育に関する事務を教育委員会が引き続き所管することとしたとしても、首長部局も含めより広い分野に配置できるようにすることが望ましい。

[1] 平成22年度間の「市民意識・社会連帯意識」に関する講座・学級は、首長部局主催では全体の19.4%、教育委員会主催では9.0%、公民館主催では7.3%となっている。

 

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