【資料4-1】菊川委員提出資料

社会教育主事等の人材と社会教育行政(検討メモ)

平成25年7月5日

九州大学  菊川律子

以下、昭和50年代から地方の県において間断的に社会教育行政を担当してきた者としての感想的な意見です。

 

1 社会教育主事等の人材について

 

(1)社会教育主事講習修了者の資格の汎用化

○社会教育主事講習修了者は任用資格を得ている状態であるが、この学修は、社会教育行政のみならず、学校教育活動、福祉・まちづくり等の一般行政、NPO・ボランティア等の活動、場合によっては企業の活動等、幅広く役立つ可能性を持っている。

 

○社会教育主事の能力は、「教育活動・学習支援の専門的力量をベースに人や事業をつないでいく能力」といえ、力量の形成ができれば上記活動に幅広く応用できる可能性がある。教員出身の受講者は学校の教育経験をベースに成人等の学習支援や地域の行政等の中の学校の役割を再確認できる。行政出身の受講者は、地方行政の実務経験に教育や学習支援のノウハウを身につけることができる。民間からの受講者はこれまでの経験をベースに教育や行政における知識・技能への理解を深めることができる。

 

○先ごろ閣議決定された教育振興基本計画では、「学校支援地域本部」や「放課後子ども教室」の充実やコミュニティスクールを公立小・中学校1割に拡大する等があげられている。これらの取組には、学校の理解とともに、地域における社会教育機能の存在が不可欠であり、学校、地域双方に社会教育主事経験者や講習修了者がいれば円滑に進むことが期待できる。彼らの顕在化・組織化は、これらの施策に有効と思われる。

 

○公立の生涯学習施設等(所管は必ずしも社会教育行政ではない。)では、運営を法人等に委託し、趣味講座等を中心に活発に活動がおこなわれている例があるが、その企画担当職員の能力を証明する、あるいはステップアップする資格等はなく、経験等に頼っている状況である。民間のカルチャーセンター等も同様である。指定管理者等の運営の質として、社会教育主事講習修了者の有無は一定の質の担保になり得るのではないか。

 

○社会教育主事以外の教育支援人材の資格を新たに作る、または認証するという方法もあるが、新たな資格が定着するかどうかや社会教育主事が減少している現在、社会教育主事制度の形がい化につながる方向性も否定できない。判断が分かれるが、社会教育主事講習修了者を認定し、社会教育主事の有資格者のすそ野を広げることが有効のようにも思われる。名称は「社会教育主事資格」「社会教育主事講習修了者」「社会教育主事補」等が考えられる。

 

(2)社会教育主事の養成カリキュラム

○社会教育主事の専門性の核は、青少年及び成人に係る教育活動・学習支援の教育内容・方法についての知識・技能と思われる。これは実践的な専門性でもあることから、養成カリキュラムの内容については、理論と実践、知識と技能のバランスが大切で、教育支援人材という観点から現行カリキュラム構成の確認が必要と思われる。講習の実施主体としては大学とともに、理論や知識の伝達という観点から、放送大学や国立社会教育研修所等の遠隔講義の充実は有効と思われる。また、技能(コーディネイト・ファシリテイト能力、体験活動の技法等)の観点から、独立行政法人国立青少年機構のプログラムや既存の民間の資格等を認証して活用する等が考えられる。

 

○社会教育主事講習については、40日で専門性が確保できるのかという意見と市町村の職員にとって40日間の講習は長いのではないかとの両論がある。その際、基礎と応用、基礎と上級等2段階に資格のレベルを分け、二階建ての資格にする方法もあると思われる。また、これらを発令と絡める方法もある。

 

○別添の九州大学の主事講習の事例では、福岡県と連携し、一部を県立社会教育施設で宿泊実施するとともに、現地研修も宿泊とし夜間まで講義等を入れることで開催日数を短縮している。実施中はハードではあるが、期間の短縮は受講者に歓迎されているとともに、受講者の人間関係が深まっており、25年以上の歴史がある。また、都市部の大学であれば、年間を通しての断続的な講座開設等も考えられる。

 

(3)社会教育主事の発令

○社会教育主事の発令は、その職階や位置づけ等自治体によってさまざまであるが、裾野の広い有資格者の中から、教員や職員、場合によっては非常勤の職員、民間等からも発掘し、位置づける方法があると思われる。また、昨今公務員でも民間活動の経験者等を途中採用する例が増えている。継続雇用に限らず年俸制や有期雇用の活用等もある。配置の義務化の方向を強化することは難しいかもしれないが、社会教育主事の「みえる化」が進めば社会教育主事の発令増が期待できる。

 

○社会教育主事はOJTが大切であり、未経験者は社会教育主事補として発令し、上級資格的な現職研修を経て社会教育主事発令をする等、発令と現職研修を関係づける等の方法もある。

 

○教育作用を含む一般行政の場合、力のある社会教育主事有資格者を配置することは、行政の効率を上げるうえで有効である。実際に発令行為を行うかどうかは、2の社会教育行政の在り方に関連すると思われる。また、教育委員会との兼務発令や派遣等の方法も考えられる。

 

 

2 社会教育行政について

 

(1)社会教育行政の所管

○首長が社会教育や教育に造詣が深い場合、文化、スポーツ等に加え社会教育も一般行政と一体的に自ら主導して対応する事例がみられる。その場合、成人教育等に中立性・継続性等が確保できるかの課題はあるが、事務委任等の手続きは一定のチェックの役割を果たすものと思われる。

 

○現在、教育委員会制度の改革が別途検討されているが、仮に教育再生実行会議の原案の方向性を目指す場合、教育長は首長と一体的に行政を行う方向がより加速されると思われる。また、教育委員は外部から中立性をチェックする機能が強化される可能性があり、社会教育行政を首長部局に移管する必要性は現況よりも少なくなるようにも思われる。

 

○社会教育主事や有資格者は、社会教育行政の実務経験を踏まえてこそ有効な働きができると思われる。社会教育行政が機能している状況があって初めて一般行政にも社会教育主事の働きが広がることが期待できる。社会教育主事等教育支援人材の確保と養成は、社会教育行政においてのみ、安定的・継続的に行いうるのではないだろうか。

 

○「生涯学習のまちづくり」等、現在まで、生涯学習や社会教育がまちづくりに資して来た実績は大きいが、それは学習や教育活動をベースに結果としての効果であり、まちづくりの支援を主たる対象とするのは教育行政ではないのではないか。

 

(2)行政の継続性

○社会教育行政が1世紀以上にわたって、特に第二次大戦後の公民館の創造や各種補助金制度により社会教育行政のフレームが確立したこと、また、平成に入り生涯学習の盛り上がりやNPOの活動の広がりの中で、教育支援・学習支援を通して人々の能力の伸長や課題解決への貢献を果たしてきたことを考えると、大切なことは、この財産を次代へ確実に繋ぐことと思われる。

 

○改めて教育基本法第十条、十二条、十三条や社会教育法第二条等を踏まえる必要がある。

子どもの育成には、学校教育とともに、家庭教育の支援や自発的な体験活動等(青少年教育)が不可欠である。(平成25年1月 中教審答申「今後の青少年の体験活動の推進について」参照) また、超高齢化社会の中で、持続可能な社会づくりのためには、自助・互助・公助のバランスが求められている。子どもとともに、大人にも公民的な資質の維持・育成等の「生涯教育」が求められているのではないか。

これらを、行政としてはどこで、どのように担うのかを考えると、社会教育主事の働きを「みえる化」し、社会教育行政が持続的に継承されていくための制度設計が求められていると思う。

 

お問合せ先

生涯学習政策局社会教育課

電話番号:03-5253-4111(内線2977)