【資料1】今野委員提出資料

 

 

(資料1-1)

 

社会教育行政の所管について(検討メモ)

平成25年6月11日 政策研究大学院 今野

◎ 検討の前提

○ 合議制の執行機関たる教育委員会(改革後の教育委員会または教育長)で所管することが不可欠か、望ましいかということが中心的課題。担当事務組織の在り方はそれに関わっての問題。

 

1.教育委員会制度の趣旨からの検討

○ 首長から独立して権限を行使する行政委員会たる教育委員会の設立の趣旨は、一般に、所管する教育事務が、(1)政治的中立性、(2)継続性、(3)安定性の確保が強く求められるところからと説明されている。

しかしこれらは、業務の中核となる公立学校の運営という事務に即して導かれたことであって、社会教育についても、同様に適応されなければならないものとは言えない。

「政治的中立性の確保」についても、社会教育は、基本的には、大人の自律的な学習・文化の活動であり、それが決定的に重要となる学校教育とは自ずと異なる。教育委員会が所管しなければ、政治的中立性が確保できないと言うことはない。

 

○ むしろ、実際の社会教育活動の広がり、行政との関連性の広範さからすれば、学校教育を主な所管事務とする教育委員会ではなく、首長が所管するのが適当との考えもある。

 

2.教育委員会で所管することのメリット・デメリット

1.メリットとして考えられること

(1)学校教育行政との円滑で着実な連携がより可能

◇「学校、子どもの教育」(=住民にとって最も関心の深い問題)

学校支援・運営参画を通して、社会教育活動効果的な推進が可能

(学校教育の充実にとっても有益)

◇しかし、現実の教育委員会では、学校教育行政が中心にならざるをえず、また、学校担当職員の意識面でも、社会教育への認識が十分でなく、どこでも十分な連携が実現できているわけではない。

 

(2)教育委員会事務局に、人材ネットワークなどを含め、これまでの行政実践の蓄積がある

 

(3)特に、都道府県の場合、社会教育主事などの指導系の専門的職員の確保・配置がやりやすくなる(教員の人事交流)

 

2.デメリットとして考えられること

(1)教育委員会は学校教育行政を中心せざるを得ず、社会教育に十分な力が割けない

(社会教育への優先度の低さ、弱い組織・体制、少ない予算)

(2)教育委員会の事務担当者に、社会教育に関し、いわゆる「学習・教育」活動との意識が強く、学習成果の活用、地域での多様な領域での市民的活動支援への意識が少ない。学習成果の活用、社会還元への支援が円滑にできにくい。

*本来、住民の社会教育活動は、いわゆる「学習」「教育」の側面だけでなく、それに伴って引き続き行われる諸活動を一体的にとらえられるべきもの。

*従来、社会教育の活動が、趣味・教養・娯楽など個人的な消費的ないわゆる学習・教育の範囲から発展してこなかった。

 

(3)一般行政との連携がやりにくい

◇首長からは独立した行政委員会と位置付けられるところから、特に、教育委員会事務局の中心的役割を果たす教員系職員に、連携への経験・人脈などがなく、連携事務がうまくいきにくい。

 

2.首長部局で所管する場合のメリット・デメリット

1.メリットと考えられること

(1) まちづくりの総合的・一元的な推進の中で、社会教育の人づくり、地域づくりの機能が効果的に実現しやすくなる。

○ まちづくり推進行政が、住民の主体的な参加を前提に、住民生活にかかわる多様な領域での施策展開を行うことを目指すことからすると、住民が地域の課題を学び・その解決を自ら求める活動を維持・促進・発展させようとする社会教育行政は、きわめて有効で可能性のある行政領域と認められる。

 

○ 「新しい公共」「市民協働」「パートナーシップ」などの理念の浸透の中で、社会教育行政のこれまで培ってきた行政手法(住民の自律的な学習を促進し、学習能力のある人々のネットワークを形成し、学習成果を活かして地域の活動への取り組みに発展させようとする)とその蓄積であるそうした人材ネットワークの活用は、行政一般に共通した価値であり、首長部局で所管することも意味は大きい。

 

(2) 社会教育活動の支援・促進が多面的にやりやすくなる。

○ 学習と実践活動との一体性、相互連関性、循環性(学びによって活動が生まれ、活動によって、次の学びが促進される)に鑑みて、いわゆる静的な学習活動支援にとどめず、総合的に支援しやすくなる。

 

 (3) 社会教育行政の良さが、一般行政に対して好ましい影響をもたらす可能性がある

○ 社会教育行政では、社会教育の本質が、住民の自立的な自己教育・相互教育を土台にしたコミュニティ形成につながる地域的な活動実践にあるとして、自立した学習・実践者養成、地域コミュニティ形成のための支援に徹底してきた。こうした独自の行政スタイルが、一般行政担当部局に好ましい影響をもたらすことが期待できる。

 

 (考慮すべき点)

* 既に、少なくない自治体での実践の成果がある

○ 首長による総合的・一元的行政の推進の観点から、社会教育行政を首長部局で実質上、所管する自治体も少なからず出てきている。(千代田区、新宿区、見附市、三条市、宗像市、出雲市、高浜市など。最近、佐賀県も)

○ 社会教育の主要な領域である、スポーツ・文化が所管の選択制になっていることからも、それらとの一貫した行政展開の観点から、社会教育本体の選択制についても認められる余地がある。

○ 自治法の規定に基づいて行われている事務委任・補助執行では、社会教育法に規定される社会教育主事の設置が、首長部局にはできず、社会教育主事任用資格のある者に事務を担当させるにとどまっている。(併任発令の措置で工夫するところも)

 

2.デメリットとして考えられること

(1) 一般行政の中で埋没してしまう恐れ

○ 各部局の行政目的の実現が第一に考えられすぎると、比較的、手間暇のかかる地道な、行政手法を本質にもつ社会教育行政が、うまく既存の行政スタイルになじまなく、十分な役割を発揮できなくなる可能性がある。  

(2) 学校との連携がやりにくくなる恐れ

○ 教育委員会の中にあっても連携が必ずしも十分できていたとは言えない状況だったが、一般部局に入ってはなおさら難しくなる可能性がある。

 

3.今後の方向

(方向)

◎ 今後の社会教育行政の所管に関しては、法律で一律に限定することなく、それぞれの地方公共団体が行政目標・方針の立て方に応じて、選択的に所管できるようにすべきではないか。

(理由)

○ 地方分権の一層の促進の観点から、各自治体の政策姿勢の一層の尊重。

○ 多様・広範な広がりを持つ社会教育を、多面的に支援する観点から。

(実際の対応)

○ 地方公共団体によって、学校との連携を密接に保ちながら、子どもの健全な育成に努めることを、社会教育行政の第一の課題として設定するなら、教育委員会で所掌することが選択される可能性。

○ 社会教育行政を、重点的に、地域づくりの基盤となる人材の育成、そのネットワークの形成、学習成果の地域活動への活用促進等に位置付けるところでは、一般行政でのまちづくり部局、市民協働部局などで所管することを選択する可能性。

○ いずれの場合であって、所管部局以外との連携強化は必要になる。

 

 

 

(資料1-2)

 

社会教育主事の任用要件を資格化することについて(検討メモ)

平成25年6月11日 政策研究大学院 今野

1.社会教育主事の役割の見直し

○ 「議論の整理」に、社会教育主事が首長・地域の人々から評価されていないとの指摘

○ 首長・地域の人々から社会教育行政に最も期待のかかる分野(社会の絆づくりや地域づくり・活性化、地域の人的ネットワークの形成など)で、社会教育主事の活躍が目につかない。

○ 「見える化」の必要。

◇ 成果のきちんとした評価とその社会的発信の必要。

◇ 行政的な守備範囲の拡張とレベルアップが必要。

= 社会教育主事:教育公務員特例法での教育専門職との位置付け。社会教育法でも「社会教育を行う者に専門的技術的な助言と指導を与える」と規定。

= 教育における高度の指導専門家としてのイメージ。教育施設などでのいわゆる教育や学習の分野が主たる活動領域との意識。

= 社会教育:「自己教育」「相互教育」。人々自らの多様な活動の中にこそ教育性がある。

= 社会の絆づくりや地域づくり・活性化、地域の人的ネットワークの形成などにかかる住民の広範な地域活動の支援・コーディネートなどを主たる業務に加えること

 

2.社会教育主事の任用要件から資格へ

○ 社会教育主事は行政上の職名、任用する上での基礎要件が法令で規定されるだけ。

担当者にいくら専門能力・経験知が備わっていても、職を離れれば、そうした専門能力・資質を一般的に示すことはできない(元社会教育主事、社会教育主事資格保有者などと)。

社会教育主事に足るような高い資質能力を持つ人を有効に活用するためには、その専門性を保証・表示する独立した資格制度が創設される必要。

○ 資格化により、市民の中から、社会教育活動を推進するのに力のある人を、発見し育成し、多様な活動をしてもらいやすくなる。人々の市民性を涵養し、引き出す、重要なツールにも。

まちづくり、市民参画などの一般行政部門においても、あるいは、民間団体や企業などでも、そうした資格制度は有用。

 

3.社会教育推進人材の体系的な資格・認証制度の構築

○ 社会教育主事が、地域コミュニティ活性化させていく広範な社会教育活動を推進するためには、社会教育主事個人の力量の向上とともに、自立的で積極的な市民、特に、市民の学習・活動の「リーダー」「コーディネーター」「ファシリテーター」となる人材との連携・協働が欠かせない。これらの人のための資格・認証制度の設置は、こうした人材の学習・成長の目安となり、社会的に有用な人材の育成・活用にとって役に立つ。

○ 例えば、こうした中核的な活動的市民の資格・認証の仕組みとして、「社会教育コーディネーター」「生涯学習コーディネーター」(仮称)を制度化し、その上で、社会教育主事の任用要件を、「社会教育コーディネーター」資格を前提に、さらにレベルを上げるとともに、行政運営的能力など行政職に必要な諸能力を付加した、要件を規定するようにしてはどうか。「社会教育シニア・コーディネーター」と位置づけても良い。

 

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生涯学習政策局社会教育課

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