参考資料2

中央教育審議会 生涯学習分科会(第44回)議事概要

平成19年9月12日

  1. 開会の挨拶が行われた。
  2. 平成20年度概算要求(生涯学習政策局)について、事務局より説明が行われた。
  3. 制度問題小委員会の検討状況について、事務局より説明の後、委員による審議が行われた。以下、審議の概要。

    •  生涯学習の中で、職業能力の向上は大変大事な領域。社員の能力開発を企業任せですんだのは過去のことで、生涯を通じてエンプロイアビリティをどう維持するかは、個人にとっても大きな人生上の課題。文部科学省の生涯学習の領域と、厚生労働省の職業能力開発行政等との連携をぜひ進めるべきで、その根拠を今回の検討の中に入れてほしい。それぞれの施設や人材、ノウハウや情報を相互に利用するだけでも従来とは違うものができるのではないか。
    •  職業能力の向上の観点は小委員会での議論にはあまり出てきていないが、1月の中間報告はじめこれまでの答申等でも触れられる度に、教育委員会にその分野の蓄積がないことが問題になる。職業教育の具体的内容は厚生労働省、経済産業省、民間でも講座等様々なメニューを実施しているが、入口と出口の部分が手薄である。文部科学省や教育委員会では、入口としてどのような学習をしたらよいか、出口として学習成果をうまく生かすための評価、認証について支え、内容は文部科学省を含め他省庁でも自由に取り組むという形の連携があり得ると思う。
    •  NPOやボランティアグループの活用により、担当者同士が各地域でオーバーラップしていくのではないか。また、例えば現場の担当者の配置について厚生労働省の能力開発分野の地方支部等との連絡を密にすることで、近い関係ができてくると思う。職業に密着する部分を厚生労働省、それに対する動機づけの部分を社会教育関係が担っていくといった枠組みを国で整理して提供することが、現場での効率的なアクションにつながる。また、職業能力の分野では、大学も要になりうる。
    •  職業能力向上の入口を担う学習コーディネーターの養成と、厚生労働省で実施しているキャリア・コンサルタントの養成とで連携を図るという考えは非常に評価できる。担当者同士が理解し合える構造をつくるため、入口を担う人材養成に、他省庁の取り組みを組み入れていくことを続けてほしい。また、市町村の役割の重要性について議論があるが、一方で、生涯学習機関としての高等教育の役割や、小中学校区を超えた大きな枠組という観点で、国や都道府県の役割も非常に重要。市町村で担える部分と、高校教育、高等教育とがどうつながっていくか。それぞれの地方自治体、国の役割の重要性を改めて認識する必要がある。

    【事務局】

     職業能力開発については大変重要な課題として事務局でも認識している。現行の生涯学習振興法は経済産業省と共管の法律だが、この課題については厚生労働省も重要なパートナーとなる。関係省庁との連携を制度の中でも進めていきたい。事業についても特に厚生労働省、総務省との関わりが大きく、連携を進めており、常に話し合いの場を設け、努力していきたい。

    •  政府の税制調査会でも、格差是正のために教育は重要な視点だという論点が出ている。日本の持続的な成長のため、どのように格差をなくす人材をつくっていくかが今後の生涯学習政策のマクロな構図になっていくので、戦略的な方向図を描いてもらいたい。
    •  登録博物館は、博物館全体の2割にとどまっている。幼少時の教育には、美術館、博物館を活用することがとても大切だが、入場料が高額であったり、所在が分かりにくいといった点は考え直すべき。また、登録博物館に対する、国からの支援や登録の要件等についてご教示いただきたい。

    【事務局】

     登録制度は現行博物館法に規定があり、都道府県、市町村、民法第34条法人、宗教法人等が設置する博物館が登録申請をすることができ、学芸員の配置や年間開館日数等の外形的基準を満たした場合に、都道府県教育委員会が登録するという制度である。しかし、現行の登録制度はメリットがわかりにくいという議論があり、その点については、小委員会でもご指摘をいただいた。現行でも私立の登録博物館に対しては、固定資産税等について税制上優遇措置があり、こちらは維持すべきという議論がある一方で、公立博物館への国からの補助金制度はなくなっている。現状を踏まえたうえで、登録制度のメリットをよく検討する必要がある。

    •  幼少時に博物館に行く機会を社会全体でつくることは非常によい方向。幼少時に親に博物館に連れて行ってもらった人は、自分が親になった時に今度は自分の子どもを博物館に連れて行くようになる、という外国の調査結果もある。登録制度のメリットには、博物館同士が国際的に協力する際の尺度になりうる点が挙げられる。世界全体でみると、学芸員、キュレーターの質には非常にばらつきがあり、資料を外国へ貸出す際に、貸し出す相手に資料に関する十分な知識や、資料の管理能力等があるかを判断する基準は、登録制度以外にない。登録制度の見直しについて、国が音頭をとることは賛成だが、登録、認証制度には博物館界で自主的に基準を満たす努力が必要である。学芸員の上級資格制度の創設についても非常に長期的な見方が必要なように、登録制度についても国際協力の中で、徐々にではあっても必ず効果が出てくる。
    •  博物館が生涯学習社会の中でどう役割を果たしていくかについては小委員会でも議論があった。様々な役割が考えられ、社会への積極的な貢献が望まれているので、法に規定する際にはあまり窮屈にならない方がよい。博物館と社会との交流が促進されるよう制度の在り方を検討していただきたい。
    •  図書館は、利用の少ない人には、漠然とした閉鎖的なイメージがある。インターネットが普及し、書店でも本が入手しやすい現代において、図書館ならではのよさをアピールする必要があり、そのための広報の費用をある程度確保することが必要。手づくりの広報や、人々をまず集めて図書館について知らせ、口コミで他に伝達してもらうことで、地域の力を盛り上げることにも関連してくる。図書館は生きているという感覚を住民により伝わるようにすべき。そのためにも、図書に関する情報のネットワークづくりなども含め、国と市町村の連携をぜひすすめるべき。博物館についても、来館を促すために夜間開館などがあればよい。また、NPOやNGOの存在が地域や家庭との連携の上で大きな力になる。優良団体の力を積極的に借りていくべき。地域、家庭、学校の連携は、成果が出るのにある程度時間がかかるもので、継続して取り組むことが重要。
    •  子ども達の問題行動の原因として、人と人のつながりの希薄さがある。マンパワーが足りない小さな自治体などではどこまで徹底されるか不安はあるが、子どもたちのための社会教育という意味では、家庭の教育力の向上、地域の再生力、放課後子どもプランの推進等に積極的な概算要求を行っていることは非常によいと思う。制度問題小委員会の議論の中で気になった点として、大人たちに生涯学習という意識が非常に薄れてきており、それが子どもたちにも影響しているので、大人自身が生涯学習に力を入れる必要がある。学校が大人の生涯学習の機関の1つとして役割・機能を充分に果たしていかなければならない。大学の役割、高等教育の役割についてもこの観点から意見を入れていくべき。大学における生涯教育、社会教育という役割をより明確するシステムを打ち出していくことが大切。
    •  1月の中間報告の中でも、職業的知識・技能の習得という観点が大きく取り上げられており、現行の社会教育法の中にも関連規定があるが、現場の担当者は職業教育に関わるという意識があまりない。法改正等の中で、市町村レベルも含め、社会教育関係者に職業的知識・技能の習得も社会教育の視野に入れ、大学や厚生労働省関係の方々と連携していく視点を入れていくべき。また、最も地域に適したシステムをつくる市町村や学校など現場の後押しをするため、法律で義務的に規定すべきことと、現場に任せて努力義務にするところとのバランスをとることが大切。社会教育主事、司書、学芸員等、人材の問題については義務的に規定すべき。市町村レベルで生涯学習に取り組むことには賛成だが、生涯学習審議会の市町村での設置は、生涯学習と社会教育の混乱が見られることや行革の流れから、安易に社会教育委員の任務が取り込まれるのではないかと懸念する。社会教育委員には長い歴史があり、地域で民間活力を取り入れるための核となる制度であるので、生涯学習とのバランスや、法制度上の位置づけをきちんと検討すべき。
    •  地域や家庭が弱体化する中で、格差や虐待、フリーターやニートといった新しい問題に長期的にどう対応するかが大きな課題であり、社会教育や生涯学習は非常に重要。そのことを分科会として明確にするビジョンペーパーを1つ出すことを目標にしたい。小委員会では法制について集中的に議論をし、その中で法律に規定できないものもある。また、法律に規定せず地方に任せるべきこともある。それらの方向性についても議論が出ているので、例えば事例紹介のような形でもよいが、法律改正とは別のものとしてまとめられたらよいのではないか。
    •  法律に盛り込めない事柄については、議事録に残したり答申に盛り込んだりして、それを生かすように運んでいきたい。また、一種の教育連関表のような投資に対する効果について測れるものをつくってはどうかと考えている。国や審議会で様々な提言をし、法律で規定しても、市町村ではお金も人もなく実現できないということになりかねないので、効果が目に見える指標について検討も必要ではないか。
    •  企業の役割について。例えば大型店舗で商品に関連した教室のようなものを実施すると、店舗にとっては売り上げにつながり、参加する側には、楽しみながら学べるよい機会になる。また、会社のインターンシップの制度を活用するとよいのではないか。ある程度長期的に実施することで、会社には採用の参考になり、参加者の側は自分のやりたい仕事を知るチャンスになる。また、高校、大学の段階で社会教育が不十分なために、卒業後就職して、世の中がどういうものか全くわからないということがある。その不足を補うためにも、実際会社に入るインターンシップは有効であり、企業の力を借りることについて検討すべき。
    •  職業能力の開発など、様々な問題への対応には、具体的な施策や予算措置で対応できるものと、法や制度の改正になじむものとが混在している。小委員会ではその両方を議論してきた。また、小委員会で教育基本法の改正を受けた検討を進めてきたように、生涯学習全体のグランドデザインを描き、今後はその中で法改正になじむものとその他のものとの切り分けをしていく必要がある。図書館の在り方については、資料費も不足し、広報まで手が回っていない現状もあるが、ホームページの活用等、積極的にPRに努めている。また、ボランティア活動等、地域の中でのサポーターを増やし、口コミ等を通じ人々により身近に感じる施設になっていくのではないか。民間のノウハウを生かすことが広報戦略上、大変有効な場合もある。今後は図書館の運営に関しても、民の力をうまく活用していくことも広報を充実させる1つのあり方。また、蔵書検索等のデータベースを備えることなどで、図書館が地域の情報の道しるべの役割を果たすという観点からの図書館法の条文の見直しが必要ではないか。
    •  本分科会における生涯学習のグランドデザインに関する審議は、平成16年3月の審議経過の報告や、今年1月の中間報告にもまとめられている。今行っている法改正の審議の後にそれらを見直すと、すっきりと整理されるのではないか。
    •  今ある図書館をどのように機能アップしていくか。図書館のない地域をどうするのか検討が必要。本来の図書館でなくとも図書館の機能を持つものとして、高等学校の図書館は比較的有効である。図書館のない地域での取り組みを後押しするような施策等が必要である。
    •  情報通信について必要な要素が3つある。1つ目はまちづくりなどで見られるように、IT、情報通信が手段のみならず1つの場になってきていること。2つ目は年代格差、3つ目が地域格差の問題。この3つを踏まえ情報通信の分野に取り組むべき。社会教育施設の利用者の年代層には偏りがあり、働き盛り世代ほど利用が少ない。できるだけ施設と同様に利用できる学習の場を、インターネットなどを活用して作っていくことが必要。インターネットはどこにでも学びの場をつくることができ、生活や仕事、実社会に密着した学び方が可能。どこからでも参加でき、どこにでも学びの場をつくることができることで地域格差の解消にもつながる。インターネットには影の部分もあり、安全面の検討と並行、連携して、地域の学びの場の運営に産学官が参加していくことが重要。
    •  地域、学校との連携の視点から、企業の活用を推進すべき。社会貢献の流れから企業側は協力に積極的だが、学校や地域のほうで受入れが進んでいない状況もあり、その点を経済産業省とも連携しながら、人材、拠点など企業の様々な資源を有効に活用してほしい。また、連携にはコーディネーターが不可欠で、その資質による部分が大きい。コーディネーター養成のカリキュラムづくりに重要なポイントがある。その中に企業等も含め検討すべき。
    •  生涯学習振興法の制定から年数が経過しているが、制定時主要な課題であったと思われる民間事業者の能力の活用が円滑に進んでいない。社会教育施設も含む公共施設は指定管理者制度やPFIの手法で民間事業者の参入が可能となっており、この問題についても言及する必要があるのではないか。登録生涯学習検定制度(仮称)について詳細は承知していないが、一般的に生涯学習は中高年層が興味関心に基づいて実践していることが非常に多く、検定、資格等についてそれほど意識していないのではないか。ただ、今後、若年層の掘り起こしのために、就職のための学習領域や、地域の活性化に資する人材育成の観点も学習コーディネーターの養成の視野に入れてはどうか。例えば実習を加えた教育プログラムを提供し、最終的に試験を課すことが考えられる。団塊世代の大量退職が控えているが、彼らの力にも注目し、検定、資格試験について検討すべき。公的な機関やNPOのほか、大学や大学コンソーシアムもその受け皿となる。
    •  生涯学習の理念のグランドデザインが今後、報告の中により明確に盛り込まれることを前提として考えていきたい。生涯学習とは地域や学校、企業、省庁間のネットワーク構築に尽きるという感想を持った。その中では情報開示が重要で、博物館登録制度のような制度は、博物館に関わらずどのような機関、組織でも、そのための1つの手段としてあり得る。また、施設等では、それぞれの事業をより推進していくことが各々のPRにつながると考えるが、そのために外部と連携することもネットワークの構築につながってくる。
    •  市町村の社会教育行政で一番困難なのが、多様な人々の参画を得ながら社会教育をつくり上げていくということ。そのための社会的な基盤整備ができておらず、現場の関係者がかなり苦労していることは押えておくべき。また、全国の大学でボランティアセンター等をつくり、学生が社会に参加しながら学ぶという仕組みづくりが盛んに行われている。しかし、そういう大学、学生たちが社会教育の活動に参画していく、キャッチボールの相手方を教育委員会の中につくっていく必要がある。環境づくりの必要性について強調しておきたい。
  4. 今後の日程等について事務局より説明の後、閉会。

─了─