資料2

生涯学習・社会教育関係制度に関する提言事項の今後の検討の方向性について(案)

平成19年11月22日

1.生涯学習関係

(1)生涯学習の理念・学校教育、社会教育等の関係

  •  教育基本法(以下「基本法」)において「生涯学習の理念」(第3条)が新設されたことを受け、生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律(以下「生涯学習振興法」)をはじめとする生涯学習・社会教育法制における理念や定義等について見直すべき点はないか検討が行われた。
  •  これに対し、小委員会では、生涯学習振興法・社会教育法・学校教育法の各法律間の関係や、行政を推進するにあたっての生涯学習・社会教育・学校教育の関係等について、今一度整理し明確化することを求める指摘があげられた。その中では、例えば生涯学習は社会教育、学校教育等を大きく包含する概念であるとの視点が提示される一方、生涯学習と社会教育・学校教育・家庭教育は単純な包含関係では捉えられないとの指摘があった。また、生涯学習振興法は社会教育関係法令、学校教育関係法令を下支えしていると言う関係を明確にすべき、社会教育行政を生涯学習振興の中核と位置づけてはどうか等の指摘がなされた。また、これらを踏まえて、いずれにしても現場の実務者にわかるような整理が必要という指摘もあった。
  •  生涯学習の概念の整理・明確化については、平成2年の中央教育審議会答申(「生涯学習の基盤整備について」)において指摘されているように、本来生涯学習は、各人が自発的意思に基づいて行うことを基本とし、手段についても、必要に応じて、可能な限り自己に適した手段及び方法を自ら選びながら行うものであるとの考え方があることに留意する必要がある。多種多様な形で実現されるべき生涯学習の具体的な内容を、法律上に定義することはその性質上、適当ではないとして、これまでも法律上の定義を置かなかった経緯がある。また、実態上も、「生涯学習」という言葉が、社会に一定程度定着してきたこと等も考慮する必要がある。その上で、上述の小委員会での指摘を踏まえつつ、生涯学習の概念については、法制度上、新たな定義等を置く等の方法によるのではなく、今後まとめられる答申等において、生涯学習行政の推進を図る上での目的や意義等をより明確に整理すること等が考えられる。
  •  生涯学習・社会教育・学校教育に関連する各法の関係についても、まずは、現行の各法律の関係についてその考え方を整理し、現場の実務者等にも分りやすい形で、今後まとめられる答申等において明らかにすることが望ましい。

(2)国・地方公共団体等の役割

  •  生涯学習の理念の実現のために国及び地方公共団体が実施すべき施策にはどのようなものがあるか、国・都道府県・市区町村の役割分担はどのようにあるべきか等の点について検討がなされた。生涯学習振興法は、同法の施行通知にも明らかにされているように、都道府県の事業に関しその推進体制整備について必要な事項を定めることによって地域の生涯学習の振興を図ることを意図して制定されており、都道府県については、教育委員会が生涯学習の振興に資するために必要な体制の整備を図りつつ、事業を一体的かつ効果的に実施するよう努めること(第3条)、地域生涯学習振興基本構想を作成することができること(第5条)、生涯学習審議会を置くことができること(第10条)が規定されている。他方、市区町村については、「関係機関及び関係団体等との連携協力体制の整備に努めるものとする」(第11条)とのみ規定されている。
  •  小委員会においては、特に生涯学習振興行政の重要な担い手が市区町村である実態や、市区町村の生涯学習振興のための活動を後押しすることが重要であること等を踏まえ、生涯学習振興行政における市区町村の位置づけを明確化すべきとの指摘がなされた。
  •  この点については、法制定当時と比べ、生涯学習行政の推進体制の整備はかなり進展してきており、市区町村の取組も盛んになっていること、他方、都道府県と市区町村の役割分担の在り方は、自治体各々で異なる実態があること等を踏まえ、市区町村における生涯学習振興行政の位置づけについて、今後さらに検討を深め、法律上、何らかの位置付けを行うことや、または、市区町村の役割のあり方について今後まとめられる答申等において例示的な在り方を示すことにより、分りやすく整理すること等が考えられる。

(3)地域生涯学習振興基本構想・都道府県生涯学習審議会

  •  生涯学習振興法において規定されている地域生涯学習振興基本構想や都道府県生涯学習審議会に関し、これまでの評価と今後の在り方についてどのように考えるか検討がなされた。
  •  地域生涯学習振興基本構想(以下「基本構想」)は、生涯学習振興法第5条から第8条までにおいて、都道府県内の特定の地区において、生涯学習の振興に資するため、生涯学習に資する諸活動の多様な機会の統合的な提供を民間事業者の能力を活用しつつ行うことに関する基本的な構想として、都道府県が任意に作成することができると規定されている。また、都道府県生涯学習審議会は、生涯学習振興法第10条において、各都道府県が任意で設置できることとなっており、都道府県の教育委員会又は知事の諮問に応じ、生涯学習に資するための施策の総合的な推進に関する重要事項を調査審議し、建議することができるとされている。
  •  基本構想の規定については、小委員会において、実際にはほとんど活用されていない実態があり、見直しが必要であるとの指摘がなされた。
  •  実際、基本構想の制度は生涯学習振興法が施行された平成2年以来、現在までのところ、国に協議がされたものは1件のみであり、また、現在は、基本構想に係る税制上の優遇措置が削除されていることもあり、今後さらに活用される見込みが乏しくなっていることから、本制度の意義について、法律上の位置付けも含めて検討する必要がある。
  •  都道府県生涯学習審議会の役割については、小委員会において、社会教育法に規定する社会教育委員の会議との役割分担が不明確であり、一部に混乱が見られているとの指摘がなされる一方、地方の教育行政の中ではそれぞれ非常に重要な意味を持っているため、廃止・統合すべきではないとの指摘もなされた。また、生涯学習審議会の活動には地域差があり、各地域の実態を踏まえた制度設計が必要との指摘もあった。
  •  都道府県生涯学習審議会と社会教育委員の会議の在り方については、生涯学習振興法施行通知において、両者の設置の趣旨及び目的等が異なるものであることが示されており、また、小委員会においても両者を廃止すべきではないが一部にその役割の混乱が見られるとの指摘があること等を踏まえ、今後まとめられる答申等において、両者の在り方について、その考え方を示すことが考えられる。
  •  なお、生涯学習審議会については、市区町村においても生涯学習に関する審議会その他の合議制の機関を置いている自治体が少なくない実態に鑑み、市区町村における生涯学習に関する審議会の在り方についても今後検討を行うことも考えられる。

(4)学習成果の評価・活用

  •  基本法第3条に規定された「生涯学習の理念」のうち、これまで必ずしも十分な取組みがなされていなかった「学習の成果を適切に生かすことができる社会の実現」を図ることが、生涯学習を振興していく上で現在求められている。
  •  学習成果の評価については、過去の答申・報告等においてもその必要性について述べられているが、小委員会においては、平成19年1月の中間報告における提言も踏まえ、特に、民間事業者等が実施する各種検定を通じた学習成果の評価・活用方策について審議を行った。
  •  小委員会では、生涯学習が自主的に行われる学習活動であることから、その学習成果の評価の在り方は自己評価を基本とするものであるとの指摘がある一方、第三者評価機関が検定の質等について認定等をするという仕組については、その具体的な手続きや要件について検討が必要だが、有用になりうるのではないかという指摘があった。また、内閣府が行っている「生涯学習に関する調査」(平成17年)では、職業に関する知識・技術については特に若い人に評価のニーズがあるという指摘がある。
  •  したがって、このような認定等を行うことにより、質を保証する仕組を新たに設けることについては、生涯学習を振興していく上で積極的に検討を行うことが望ましいが、その際には民間事業者等の主体的な取組と行政の関与の在り方等に留意する必要がある。

(5)その他

  •  このほか、小委員会においては、学習を支援する人材の育成について、特に学校教育や家庭教育について、地域に根ざした学習支援、教育支援を担う人材が必要との指摘等があったが、これらについては、社会教育法に関する検討と合わせて検討することが適当である(2を参照)。
  •  また、生涯学習行政との関連で、NPO等の団体が活躍している実態に鑑み、これらの団体を法制上何らかの位置付けを行うことを検討すべきであるとの指摘もあった。これについては、NPO等の活動が多様であることや自主的な活動であるその性質も踏まえた上で、行政との連携を推進するための効果的な方策について、引き続き検討を行うことが望ましい。

2.社会教育関係

1.社会教育法関係

(1)社会教育の目的、国・地方公共団体の役割等

  •  小委員会においては、基本法において、「生涯学習の理念」(第3条)、「個人の要望や社会の要請にこたえる社会教育の振興」(第12条)、「家庭教育」(第10条)、「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力」(第13条)等が規定されたことや社会情勢の変化を踏まえ、社会教育法の目的等をどのように見直すべきかについて審議がなされた。
  •  基本法に新たに規定された「生涯学習の理念」(第3条)との関係では、小委員会において、生涯学習の機会の提供において、その中核部分を支援しているのが社会教育行政であるという視点が必要である等の指摘がなされた。これらの指摘及び基本法の「生涯学習の理念」(第3条)に「生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ」という規定の趣旨を踏まえ、国民一人一人が学校教育修了後のみならずその生涯にわたって行う学習を幅広く支援することを、社会教育行政の任務として位置付けること等が考えられる。
  •  また、同条において「成果を適切に生かすことができる社会の実現」が規定されたことを踏まえれば、社会教育行政の任務は単に個人の学習機会を充実することのみならず、その成果を生かしうる環境を醸成することまで含むものであると言える。この点についても、上述の点と同様、社会教育行政の任務として位置付けること等が考えられる。
  •  小委員会では、個人の自己実現だけでなく、公共性の涵養、社会の形成に参画する人格の育成の観点を社会教育法に盛り込むべきとの指摘や、地域住民の主体的な社会参画を促すための環境を整備することは社会教育の役割であるとの指摘がなされた。これらの指摘を踏まえ、社会教育行政の任務として国民に対する社会的活動への参加の機会の提供を行うことを位置付けること等が考えられる。
  •  さらに、小委員会においては、基本法第12条に社会教育の振興の手段として「情報の提供」が規定されたことを踏まえ、情報通信技術を活用した学習の機会及び情報の提供を推進すべき等の指摘がなされた。これについては、情報化社会の進展に伴い、いわゆる「情報リテラシー」といわれる情報の獲得・活用・発信の方法、デジタルディバイドへの対応、有害情報対策に関する学習等が新たに重要になってきていることに鑑み、情報の利活用等に関する講座の開設等を社会教育行政の任務として位置付けること等について、引き続き検討する必要がある。
  •  加えて、青少年教育振興のための奉仕活動・体験活動の環境整備の重要性、青少年教育施設を社会教育法の中に位置付けるべきこと等について指摘がなされた。これらの指摘については、青少年教育振興の重要性が社会教育法に既に法律上規定されていることを踏まえ、その重要性について今一度、今後とりまとめられる答申等で明らかにすること等が考えられる。

     (基本法に新たに規定された「家庭教育」(第10条)、「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力」(第13条)に関連した事項は、(6)(7)を参照。)

(2)国・地方公共団体の関係や責務等

  •  小委員会においては、基本法を受け、上述の社会教育行政の目的とそれに即した国や地方公共団体の任務や事務について審議を行ったほか、社会教育行政における国及び地方公共団体の関係やそれに即してそれぞれの責務を明記することについても審議がなされた。
  •  これについては、地方分権時代の社会教育の推進という観点を持つことが重要であるとの指摘がなされた。社会教育施設の所管に関しては、社会教育施設の所管を地方公共団体の長へ改めてもよいとする指摘がある一方、社会教育施設は市民の多様で自主的な教育活動を助長することを目的とするものであり、施設の目標設定に関する政治的中立性の確保等の観点から教育委員会の所管が望ましい、社会教育の所管については学校教育との連携という観点も重要であるとの指摘がなされた。
  •  これらの指摘を踏まえ、小委員会としては、社会教育については、政治的中立性の確保や学校との連携の必要性に鑑みると、原則として教育委員会が所管することが適当である。また、地方公共団体の長と教育委員会の関係については、教育委員会又は委員の自主性と職務権限の独立性を侵害しない限度において地方公共団体の事務の能率的処理等を促進する補助執行等の制度が既に存在しており、弾力的な事務の執行に関して特段の問題はない。但し、学校施設の管理及び整備に関する事務について地方教育行政の組織及び運営に関する法律の特例が構造改革特別区域で認められたこと等を考慮して、引き続き検討する必要がある。
  •  また、小委員会では、国は社会教育のナショナル・ミニマムを明確にできないかとの指摘もなされた。基本法第17条に基づき定められる国の教育振興基本計画において社会教育も含んだ教育に関する施策の基本的な方針が示されることとなっており、同法に基づき、地方公共団体もその教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めることとなっている。また、社会教育法においては、社会教育委員が社会教育に関する諸計画を立案し教育委員会に助言できる(第17条第1項第1号)こととされている。社会教育のナショナル・ミニマムの明確化については、社会教育の振興は、これらの計画に基づき、国及び各地方公共団体において行われることとなることを踏まえて検討する必要がある。

(3)社会教育主事

  •  社会教育主事については、その専門性を高め、より一層活躍の場を拡大するため、社会教育主事制度の在り方について審議がなされ、社会教育主事の職務の在り方、資格・養成の在り方、活用の在り方等について小委員会において広く指摘がなされた。
  •  社会教育主事の職務については、学校、家庭、地域社会のコーディネートや社会教育に関する企画・立案を位置付けてはどうかとの指摘がなされた。
  •  社会教育主事の職務として学校、家庭、地域社会のコーディネートに関する事務を位置付けることについては、社会教育主事が社会教育に関わる地域の人材を把握した上で、学校が地域住民の協力を得て教育を行う際に助言できること等を社会教育主事の職務として位置付けること等が考えられる。このような業務を通じ、教員から社会教育主事になった者が学校に戻った後は、社会教育主事としての経験を家庭や地域との連携のために活かすことも可能である。
  •  また、社会教育主事の職務として企画・立案に関する事務を位置付けることについては、これら行政的な事務を教育公務員である社会教育主事の職務の中心に位置付けることが専門職としてのあり方から考えても適当でなく、また、これら行政的な事務は社会教育に従事する教育委員会職員として当然行いうるものでもあるとの考え方も可能であり、今後とりまとめられる答申等で明らかにすることが適当と考えられる。
  •  社会教育主事の職務や資格に関して、社会教育主事を、学校、首長部局、図書館、博物館等へも配置できるようにしてはどうか、「社会教育士」や「地域教育士」のような汎用資格を設けるべきではないかとの指摘がなされた。しかし、現状でも、例えば、教育委員会で勤務する教育公務員としての社会教育主事と学校等で勤務する職員の身分を併任で発令すること等により、社会教育主事がその知識や経験を生かし、学習コーディネーターとしての役割を果たせるようにすることは可能である。新しい資格についても、全国一律に新設しなくても、地方自治体がそれぞれの実情に応じて社会教育主事の有資格者等の活用を図ることは可能であると考えられる。
  •  また、社会教育主事、司書、学芸員について共通に求められる知識や資質を共通科目を通じて身につけられるようにするべきではないかとの指摘がなされた。このような指摘に対しては他方で、社会教育主事、司書、学芸員についてはそれぞれ勤務する場所も専門性も異なるとの指摘もなされた。したがって、この点については、現在でも養成における共通科目として「生涯学習概論」が設けられていることを十分に踏まえ、それぞれの制度毎の必要に応じ、現代的課題に対応し、より実践力を備えた質の高い人材の育成に向けた検討を進めること等が考えられる。
  •  このほか、社会教育主事の民間からの任用を促進すべきではないかとの指摘がなされた。これについては、平成13年の社会教育法改正により既に対応がなされているものの、この制度についての活用実績は乏しい実態がある。今後、地方自治体で社会教育主事を任用するに際し、教育委員会が実施する社会教育に関する事業においてボランティアとして事業の企画立案及び指導を行う業務の経験、NPO等が実施する社会教育に関する事業における業務の経験等について積極的に評価する等、多様な経験を持った社会教育主事の任用を進めることが望ましい。

(4)社会教育委員

  •  社会教育委員については、その役割をどう考えるか、その中で社会教育法第13条の審議会等への諮問の規制緩和についてどう考えるかについて審議がなされた。
  •  小委員会においては、社会教育委員は今日でも社会教育行政の政策形成過程に住民の意思を反映させていくための制度として重要な機能を担っていること、また、仮に社会教育法第13条を見直す場合は、規定の制定の経緯、趣旨を十分に検討することが必要であるとの指摘がなされた。
  •  社会教育法第13条の見直しについては、同条は、昭和34年の社会教育法改正の際、補助金の配分と使途に慎重を期する目的を持って設けられた規定であることに鑑み、その趣旨を十分反映する必要がある。このため、社会教育委員の会議への意見聴取を原則としつつ、各地方公共団体の多様な実態を踏まえた弾力的な対応が可能となるよう、引き続き検討する必要がある。

(5)社会教育施設

  •  社会教育施設については、社会教育施設の機能や役割を整理・明確化することにつき、審議がなされた。
  •  小委員会においては、公民館の営利事業の禁止規定を見直してはどうかとの指摘がなされた。これについては、公民館の運営方針について規定する社会教育法第23条第1項第1号の事実上の規制の範囲が広くなり過ぎているとの指摘もある。しかし、同条は、一般的には、特定の営利事業者に対し特に便宜を図るようなことを禁止しているのであって、営利事業者による公民館の利用をすべからく禁止しているわけではないことはこれまでも明らかにされており、このような解釈に則り公民館が今後積極的に活用されることが重要であると考えられる。
  •  また、小委員会では、社会教育施設に関する評価等に関する規定を設けてはどうかとの指摘がなされた。公民館に関しては、既に「公民館の設置及び運営に関する基準」において自己評価が規定されており、平成17年度に行われた調査では、調査対象公民館のうち44パーセントが既に評価を実施している。また、公民館以外の社会教育施設においても、行政の透明化やPDCAサイクルによる自己点検・改善の考え方が浸透し、自己評価が次第に実施されてきている。加えて、平成19年通常国会で改正された学校教育法においても学校の自己評価が義務付けられた。小委員会での指摘やこれらの状況を踏まえ、公民館だけでなく、図書館や博物館も含め、社会教育施設における自己点検・評価の制度の在り方について引き続き検討する必要がある。

(6)家庭教育支援

  •  家庭教育支援については、基本法第10条に「家庭教育」が新設されたことや家庭の教育力の低下に関する指摘等を受け、社会教育行政としてどのように対応するのかについて審議がなされた。
  •  小委員会においては、親等に対する学習機会や情報の提供等の家庭教育支援を社会教育行政の任務として位置付けてはどうかとの指摘がなされた。このことについては、平成13年の社会教育法改正において、家庭教育の向上のための規定が追加されている。しかし、子育てに悩みや不安を抱えている保護者が依然多いことや共働き世代が増え子育ての情報収集のために講座や集会に参加する時間が取れない家族が増えていること、また、情報化社会の進展に伴い、情報通信技術等を活用する等多様な手段による学習の機会の提供や、有用な知識等の情報の提供の重要性が高まっていること等に鑑み、また、小委員会における指摘を踏まえ、家庭教育の支援を社会教育行政の任務としてより明確にすること等が考えられる。
  •  また、公民館が子育て中の親にとって使いやすくなることも重要であるとの指摘がなされた。現状でも、公民館が「実際生活に即する教育」に関する事業を行う施設であることは社会教育法において規定されており(第20条)、また、「公民館の設置及び運営に関する基準」においても公民館が地域の家庭教育支援拠点としての機能の発揮をすることの必要性が規定されている。しかしながら、小委員会で指摘されたように、このような基準の趣旨及び公民館への家庭教育支援に対する要請を踏まえ、公民館が家庭教育に関する学習機会及び学習情報の提供並びに親同士の交流機会の提供に関する役割を一層発揮するための方策について検討を行うことが望ましい。

(7)学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力

  •  学校、家庭、地域住民等の連携協力については、基本法第13条に「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力」が新設されたことや地域の教育力の低下に関する指摘等を受け、社会教育行政としてどのように対応するのかについて審議がなされた。
  •  小委員会においては、学校が抱える問題の解決に社会教育が貢献できれば、学校教育と社会教育の連携も一層進むのではないかとの指摘がなされた。この指摘については、(1)の「社会教育の目的、国・地方公共団体の役割等」において述べたとおり、地域の人材が持つ知識や経験、学習の成果等を活用し、学校支援に参加する機会を充実することは、社会教育の活性化の観点からも重要であることから、学校、家庭、地域住民の連携の促進に努めることを、社会教育行政の任務として位置づけること等が考えられる。
  •  また、これにより、小委員会において指摘があった「放課後子どもプラン」についても、地域における社会教育に係る活動の一つと位置付けることが可能であると考えられる。
  •  その他、地域における教育を支える民間人材が重要であること、情報通信技術等も活用して教育資源の有効活用を図ることが重要であるとの指摘もなされている。これらについては、基本法第12条に社会教育の振興の手段として「情報の提供」が規定されたことや、地域における学習・ボランティア活動等の機会、及び知識や経験等を有する人材に関する情報等、社会教育の振興に関する情報の収集、整理、提供を行い、社会教育の活性化を図ることの重要性を踏まえ、そのような情報の収集等を社会教育行政の任務として位置付けること等が考えられる。

2.図書館法関係

  •  図書館法は、昭和25年に制定以来大きな改正を行っておらず、時代の変化や図書館活動の実態等に応じて、図書館法の目的や図書館奉仕等について見直すことが関係者の間で長年の課題となっている。このような中、平成16年9月に文部科学省に設けられた「これからの図書館の在り方検討協力者会議」においては、新たな課題等に対応したこれからの図書館運営に必要な新たな視点や方策等について検討を行い、平成18年3月に「これからの図書館像」と題する報告書を取りまとめた。本委員会においては、同報告書における提言も踏まえつつ、社会教育施設全般についてその法制度の在り方等を含め多角的な検討を行った。

(1)図書館法の目的及び図書館奉仕

  •  基本法や、文字・活字文化振興法、子どもの読書活動の推進に関する法律の制定等を受け、図書館法の目的等について審議がなされた。
  •  近年の家庭の教育力の低下に関する指摘等を踏まえ、図書館を家庭教育を支援する場として位置付ける文言を追加してはどうかとの指摘がなされた。また、図書館奉仕に関して、地域の課題解決の支援に関することを規定するとともに、資料のデジタル化等情報通信技術の発展等現代的課題に対応した見直しが必要ではないかとの指摘がなされた。これらの指摘については、生涯学習時代の実現に向けて重要なことであることを踏まえつつ引き続き検討する必要がある。

(2)大学における司書の養成に関する科目

  •  小委員会では、司書となる資格に関し、大学における「図書館に関する科目」について省令で定めることについて審議がなされた。従来、大学における司書の養成に関する科目については、大学が文部科学大臣の委嘱を受けて行う講習に関する規定(第6条第2項)の中で解釈してきたが、司書の有資格者の約7割が大学で単位を取得しており、司書講習の受講者は3割に満たないという現状(平成18年度調査)にある。
  •  小委員会としては、大学における司書養成の在り方について検討が必要であるとの指摘もあり、司書等の多くが大学で資格を取得していることに鑑みれば、むしろ法令上明記することを否定する理由はないものと考える。したがって、図書館法第5条第1項第2号を改正することについて引き続き検討する必要がある。
  •  また、司書講習及び大学における司書養成課程において履修すべき科目、単位については省令事項だが、現代的課題に対応し、より実践力を備えた質の高い人材の育成に向けた見直しが必要であり、引き続き検討する必要がある。

(3)司書補の学歴要件

  •  司書補となる資格の学齢要件について整理することについて審議がなされた。従来、司書補の学歴要件については、「高等学校若しくは中等教育学校を卒業した者又は高等専門学校第三学年を修了した者」(第5条第2項第2号)としているが、同等程度とされている高等学校卒業程度認定試験の合格者等については含まれていない。
  •  小委員会としては、幅広く多様な人材を育成する観点からは、資格要件を緩和することが適当であり、同様の資格試験において受験資格として高等学校卒業程度認定試験の合格者を対象としていない例は存在しないことからも、必要と考える。したがって、博物館法の学芸員補の資格要件と同様、司書補についても高等学校卒業程度認定試験の合格者も学歴要件を満たせるよう制度改正を行うことについて引き続き検討する必要がある。

(4)司書研修

  •  司書及び司書補の研修については、その充実方策等について審議がなされた。研修に関しては、社会教育主事については社会教育法第9条の6、公民館の職員については同条を準用する第28条の2で規定されているが、図書館に関しては「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成13年7月18日文部科学省告示第132号)に「職員の資質・能力の向上等」として研修の機会の拡充等に関する努力義務が規定されているのみである。
  •  小委員会では、職員の意識改革や司書資格取得後のキャリアパス形成のため司書研修の充実が必要であり、研修を法律に規定することを検討すべきとの指摘がなされた。この指摘については、多様化、高度化する人々の学習ニーズや現代的課題に対応し、専門的な知識・技術等の一層の高度化と資質の向上を図ることが必要であることを踏まえつつ、図書館法に新たに司書及び司書補の研修に関する規定を新設することについて引き続き検討する必要がある。
  •  また、司書の研修や再教育の実効性を高め、現代的課題に対応し、より実践力を備えた質の高い人材の育成に向けた方策が必要であり、引き続き検討する必要がある。

(5)図書館の自己点検・評価

  •  図書館の自己点検・評価に関しては、既に「公立図書館の設置及び運営上の望ましい基準」に、「図書館サービスの計画的実施及び自己評価等」の規定が設けられているが、実態としては、自己点検・評価を行っている都道府県立図書館は26.1パーセント、市町村立図書館は28.6パーセントにとどまっており、図書館法に規定すること及びその実効性を担保する方策を検討することが必要である。また、少数とはいえ私立図書館もその対象とするかどうかについて引き続き検討する必要がある。

3.博物館法関係

  •  博物館法は、昭和26年に制定され、30年に博物館相当施設の指定制度等の改正を行って以降大きな改正を行っておらず、時代の変化や博物館活動の実態等に応じて、博物館法や博物館制度の在り方について見直すことが関係者の間で長年の課題となっている。このような中、平成18年9月に文部科学省に設けられた「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」においては、それまでの日本博物館協会等における議論の積み重ねの上に立って、社会の要請や新たな課題等に対応したこれからの博物館の在るべき姿について検討を行い、平成19年6月に「新しい時代の博物館制度の在り方について」と題する報告書を取りまとめた。本委員会においては、同報告書における提言も踏まえつつ、社会教育施設全般についてその法制度の在り方等を含め多角的な検討を行った。

(1)博物館法の目的等

  •  基本法等を踏まえ、博物館法の目的等をどのように見直すべきかについて審議がなされた。
  •  小委員会においては、博物館法は「社会教育法の精神」に基づくことが重要であること、地域おこしや文化の継承という観点の重要性についての指摘がなされた。これらの指摘については、生涯学習時代の実現に向けて重要なことであることを踏まえつつ、引き続き検討する必要がある。

(2)学芸員の資格

  •  学芸員の資格については、現代社会の変化や博物館利用者のニーズに対応し、学芸員の専門性を高め、学芸員配置等を推進するために、大学における学芸員養成課程や学芸員資格をどのように見直すべきかについて審議がなされた。現在、学芸員資格は、大学の養成課程において12単位を取得することによって取得することができるが、年間約1万人の有資格者が生まれているのに対し、実際に博物館等に就職する者は数パーセント程度にとどまっている。
  •  小委員会においては、このような現状を踏まえ、学芸員は司書や社会教育主事と比べて資格が取りやすく、実践力がないまま世に出されており、大学や実習で受け入れる博物館における養成の在り方等、学芸員制度についての見直しが必要であるとの指摘がなされた。この指摘については、大学における学芸員養成課程において履修すべき科目、単位については省令事項だが、現代的課題に対応し、より実践力を備えた質の高い人材の育成に向けた見直しが必要であり、実習の在り方を含め、引き続き検討する必要がある。
  •  また、「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」報告においては、新しい養成段階として大学院レベルの専門課程や、学芸員の上級資格について引き続き検討が必要であるとしており、小委員会でも上級資格についても検討してはどうかとの指摘がなされた。しかしながら、学芸員の上級資格を制度化することについては、現段階においては現職研修の場や大学院における養成課程が十分整備されておらず、また、すでに設置者の判断で同様の趣旨の職制を設けている博物館もあり、現場で混乱が生じる恐れがあることから、将来的な課題として引き続き検討する必要がある。

(3)学芸員の研修

  •  学芸員及び学芸員補の研修については、その充実方策について審議がなされた。研修に関しては、社会教育主事については社会教育法第9条の6、公民館の職員については同条を準用する第28条の2で規定されているが、博物館に関しては「公立博物館の設置及び運営上の望ましい基準」(平成15年6月6日文部科学省告示第113号)に職員の研修の機会の拡充に関する努力義務が規定されているのみである。
  •  小委員会においては、学芸員に対する研修の充実を図る必要があるとの指摘や、インターンシップの実施等、高校・大学と博物館の連携を進めていくべきとの提言がなされた。
  •  これらのことについては、多様化、高度化する人々の学習ニーズや現代的課題に対応し、専門的な知識・技術等の一層の高度化と資質の向上を図るとが必要であることを踏まえつつ、学芸員及び学芸員補の研修に関する規定を新設することについて引き続き検討する必要がある。
  •  なお、「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」報告においては、大学における学芸員養成課程履修者に「学芸員基礎資格(仮称)」を付与し、博物館での一定期間の実務経験を学芸員資格の要件に位置付ける旨の提言がなされたが、大学における学芸員養成課程履修者のインセンティブや、実務経験を行う者の身分の安定度等を勘案すれば直ちに実現するのは困難であり、むしろ現職研修の充実や体系化を図り、現場における実践的な研修機会を拡充することによって、学芸員の専門性や資質の向上を図ることが適当である。

(4)博物館登録制度

  •  博物館登録制度については、登録博物館がわが国の博物館活動の基盤を形成し、博物館法の中核制度として発展していくためには、新しい制度はどのようにあるべきかについて審議がなされた。現行法では、登録博物館の設置者が教育委員会、民法第34条法人及び宗教法人等に限定されているが、既に社会教育関係の国庫補助金が一般財源化されたことによって、公立博物館にとって登録のメリットが少なくなっていることもあり、登録博物館が全体の2割程度にとどまっており、制度の形骸化が大きな課題となっている。このような状況の中で、「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」報告においては、登録博物館が我が国の博物館活動の基盤を形成し、博物館法の中核制度として発展していくための新たな登録制度を提言している。
  •  小委員会においては、「登録制度により日本の博物館の質の維持、向上が図られるのではないか」、「設置主体が誰かということよりも展示の質の水準等を基準とすべきではないか」、「学習者に対し質の高い博物館に関する情報を提供するという面がある」等、制度改正を肯定する意見がある一方で、「登録制度がわかりにくい」、「登録することで何が変わるのか明確な制度設計をするべき」等課題を指摘する意見がみられた。
  •  これらの指摘を踏まえれば、登録制度の見直しに当たっては、利用者の要望を十分に考慮すること、地方公共団体や博物館の設置者等に過大な事務負担を招かないよう配慮することが必要である。その上で、「これからの博物館の在り方に関する検討協力者会議」で提言された登録申請主体の限定の見直し、審査基準や審査方法(第三者機関による審査や一定期間毎の登録要件の確認等)の見直し、登録博物館の名称独占の付与等については、現時点では関係者の幅広い合意形成になお時間を要することを十分に踏まえつつ、引き続き検討する必要がある。また、現行の私立博物館に対する税制上の優遇措置を堅持するべきであり、このことを審査基準の見直しに当たっても十分留意すべきである。
  •  さらに、地方独立行政法人立の博物館については、地方からの要望もあり、実現が望ましいとの指摘がなされたが、博物館の多様性を尊重し、館の自主的な運営改善を促す観点からも、地方独立行政法人が博物館を設置できるようにすることについて引き続き検討する必要がある。

(5)その他

  •  入館料の無料規定については、公立博物館の入館料を原則無料としている現行規定を維持することが適当と考えられる。
  •  博物館の自己点検・評価に関しては、既に「公立博物館の設置及び運営上の望ましい基準」に、「事業の自己評価等」の規定が設けられているが、実態としては、自己点検・評価を行っている博物館は31.5パーセントにとどまっており、博物館法に規定すること及びその実効性を担保する方策を検討することが必要である。また、私立博物館を含め登録博物館すべてを対象とするかどうかについても引き続き検討する必要がある。