国民の学習活動の促進に関する特別委員会(第5回) 議事録

1.日時

平成17年12月15日(木曜日) 13時~15時

2.場所

経済産業省別館 1028号会議室

3.議題

  1. 若年無業者等(ニート等)への対応方策について
    ・小杉委員からのプレゼンテーション
    ・工藤委員からのプレゼンテーション
    ・ニートに関する実態調査について
    ・文部科学省における若年者問題への取組について
  2. その他

4.出席者

委員

 山本委員長、菊川委員長代理、茂木分科会長、大日向委員、糸賀委員、江上委員、加藤委員、工藤委員、小杉委員、小菅委員、坂元委員、柵委員、佐藤委員、寺島委員、中込委員、湯川委員、赤坂委員、見城委員、杉山委員、中橋委員、藤野委員、藤原委員、松下委員、山極委員

文部科学省

 近藤文部科学審議官、田中生涯学習政策局長、樋口政策評価審議官、中田大臣官房審議官、泉大臣官房審議官、久保生涯学習総括官、大槻生涯学習政策局政策課長、吉田調査企画課長、桒原生涯学習推進課長、三浦社会教育課長、小川参事官、佐藤生涯学習企画官、その他関係官

5.議事録

(1)山本委員長から、あいさつが行われた。

【山本委員長】
 それでは定刻になりましたので、ただいまから中央教育審議会生涯学習分科会「国民の学習活動の促進に関する特別委員会(第5回)」を開かせていただきます。
 本日はお忙しいところをご出席くださいまして、まことにありがとうございました。今日は「若年無業者等への対応方策」について審議を行う予定になっておりますが、このことは家庭・地域の問題とも関係が深いわけでございますから、「家庭・地域の教育力の向上に関する特別委員会」とも連携をとって進めるべきであるという観点から、「家庭・地域の教育力の向上に関する特別委員会」の委員の方々にもおいでいただいております。「家庭・地域の教育力の向上に関する特別委員会」の委員の皆様におかれましても、ぜひ積極的なご審議、ご発言をお願いしたいと思います。

(2)事務局から、委員交代の報告が行われた(横山委員が、平成17年11月21日付けで辞任、かわりに平成17年12月12日付けで東京都教育委員会教育長の中村委員が着任)。

(3)小杉委員からプレゼンテーションが行われた。

【小杉委員】
 私どもでは統計分析のほかにも、現在、個人ヒアリング調査等、若者の労働の観点からですが、さまざまな調査をしてまいりました。その範囲で、私からは若年無業者、ニート問題について、今わかっていることについて整理させていただければと思います。
 まずお手元の資料(資料1)をおめくりいただきまして、最初のページ、ニートの数と定義についてご覧下さい。この言葉が新しい造語ですので、いろいろな定義があり得まして、今、一番一般に使われているのが64万人という数で、厚生労働省もこの数字を使っております。このほかに85万人という数も内閣府の研究会から出ておりますが、この2つの数字は、別に64万人から85万人に増えたとか、そういう関係ではございませんで、それぞれもとにするデータとか、定義に若干の違いがあるということです。
 次のページを開いて下さい。こういう64万人や85万人という数字は、統計を分析した結果、このくらいになるだろうという当たりをつけている数字です。その統計の中ではどんなふうになっているかといいますと、まず一番上の水色のところですが、働いている人と働いていない人という意味で、有業と無業に分けます。その無業は、どういう状態で無業なのかということで、大きく4つのくくりに分けられます。失業あるいは求職中だけれども無業だという状態です。それから学校に行っていて無業、家事をしていて無業、その他で無業と、こんなふうに分けられるわけです。その失業者までを入れて、働いている人プラス失業者でこれで労働力というくくりになります。
 今回、ニート問題というのは、この非労働力のほうに注目した問題設定です。これまで、労働の問題というのは労働力の範囲で考えることが基本だったわけですが、現代の若者の状況を見ていますと、労働市場にうまく入ってこられない状態があります。これも日本だけではなくて、実は国際的にも言われていることなのですが、若年者が学校にいる状態から一人前の労働者として外に出て働くような状態、そこに至る移行の過程がひどく長くなっていて、その間で労働市場に出たり入ったりするような行動をとるようになった。つまり、仕事がないときに失業者、求職者として労働市場の中にとどまっていないで、非労働力の側に入ってしまう、そういう行き来する事態が起こっていると言われています。
 そこで、その人たちをとらえるという目的で、改めて労働の関係から見たら、非労働力の中には、ニート状態という一定の状態の人たちがいるのではないか。それがニートの一番最初の種目の発想です。それを統計でとると、こんなふうにいろいろなとり方があります。64万人と言うのは、日本型ニートというところに当てはまります。無業の中の非労働力の中で、通学も家事もしていない、その他の人に当たるわけです。
 そのほか85万人説のほうは、それの家事という部分の切り方を少し変えまして、配偶者がいる人、つまり、専業主婦を除くと、85万人ぐらいになるというわけです。さらに私どもでは、その85万人から家事を除いた「狭義のニート」というようなものをつくったりもしています。
 こんなふうにいろいろなニート概念がありますが、基本は非労働力の中の若者たちです。そこまで注目するのはなぜかというと、若者たちが労働力と非労働力の間を行き来してしまう存在になっている。すんなり学校から卒業して、労働市場に入って、一人前になっていくというプロセスがうまく働かなくなって、行ったり来たりする状態の若者たちがいて、労働力にいる側だけを見ていたのでは、実は対応ができない、非労働力化するという部分まで含めていかなければいけないというのがニート問題の一番の発想です。
 次のページ(4ページ)は、そういう人がいるとして、日本では一体どのくらいいるかということです。今の64万人説のほうの定義でですが、データをとってみると、この赤いグラフのように、確かにだんだんと増えてきている。ただ、例えば2001年から2002年、ここで急に増えていますが、それがなぜかということは、実はよくわかっておりません。大きなトレンドとして増えているということは言えるだろう。それから、人口に対する比率で見てもかなり増えていて、現在でも増えているような状態が見てとれるわけです。
 そもそも、ニートという言葉自体は、実は国際的にどこでも使われている言葉ではなくて、たまたまこの言葉を最初に知ったのがイギリスの政策の中でだったのです。これを日本に紹介したら、それがカタカナの「ニート」という言葉になって、ある意味では皆さんが思っていた問題関心に近い存在を提起したのでしょう。急激に広まって流行語となったという背景があります。
 ごく簡単にイギリスのニートのことだけに触れますと、もともとはこの「Not in Education,Employment or Training」の「NEET」という言葉です。対象としているのは10代です。イギリスでは、それまでずっと、10代の若者たちの職業訓練の政策を一生懸命やってきたのですが、学校にも雇用にもついていない者は全員、職業訓練に参加させるという政策設定をずっとしてきました。訓練を受けなければ、失業給付もあげないという政策をやってきたのですが、そうすると今度は訓練に行きたくないから、失業給付まで欲しくないと言ってしまうような若者たちが出てきてしまった。実はそういう問題なのです。
 若者の失業問題というのは、イギリスで日本よりもずっと前からある問題です。日本の若者失業問題がとても深刻になってきたのが2000年に入ってからですけれども、対策を考えるなら、長い間いろいろな苦労をしてきたほかの国の話を少し勉強しておいたほうがいいだろうということで始めたのが私どもの研究です。イギリスで職業訓練政策を一生懸命やっても、若者のほうが乗ってこないという話なのです。
 結局、こういう若者たちへのアプローチというのは、若者の側の視点を欠くと、若者にとっては職業訓練を受けるということは、負け組の烙印を押されるような印象を持つような事態だったということです。
 そこで若者側は政府が用意した職業訓練政策にうまく乗らない、訓練の機会があるのにそれを受けない、という状態になってしまっている。それが一つ、日本へのインプリケーションとして大事だと思ったことです。つまり、そういった行き来する状態にある若者たちというのは、政策で支援を打ち出しても、それになかなかうまく乗ってこないで、また非労働力の方に行ってしまうという存在である。彼らをきちんと取り込むためには、彼らの側が何をどう見て、どういうプログラムだったら参加するのか、どういうプログラムだったら参加しないのか、彼らの側に立った観点が必要だということです。
 そういうことを紹介しまして、その過程で「日本型ニート」という定義をつくって、先ほどの64万人という数を出していきました。
 イギリスと同じというのは、つまり若い頃に、そういう形で社会にうまく参加しない。そういう状態というのは将来のコストになるということです。それから、それまでやっている若者向けの就業支援にうまく乗ってこない若者である。イギリスの場合にはトレーニング政策だったわけですけれども、日本はそのトレーニング政策を若者に重点的にやっていたわけではありません。
 そこで、ニートをNEETという形ではなくて、日本の中では、学校に行っていない、就業していない、それから求職活動をしていない、家事をしていない、15歳から34歳とするという定義は、実は最初に私どもの研究所でつくりました。そういう定義の背景は、イギリスの問題と日本の問題で違うから、10代の問題ではなくて、30代にかかるような広い問題です。日本の場合は、トレーニングに全員を参加させるというような政策をしてきたわけではありません。意欲があって求職活動している若者に対しての就業支援はやっていますが、意欲のないといいますか、意欲のないと言ったら間違いなのですけれども、求職活動をしていない若者には支援をしていなかった。そういう意味で日本におけるニート問題というのは、イギリスのとらえ方とは違うだろうということで、こういう定義をつくったわけです。
 それで、先ほどのようなグラフ(図1「15~34歳の非通学・非家事の非労働力人口」)をつくってみたら、確かに増えているので、日本でもそういうことを問題にすべきじゃないか。では一体どういう人が増えたのかをさらに他の調査等で検討していったのが、図2「日本型ニートの年齢別人口比」です。これは国勢調査で1歳刻みの年齢別にみたものです。白抜きになっているほうが1995年で、上にあるのが2000年の国勢調査ですけれども、年齢によってもかなり変化があって、特に大きな山になっているのは、19歳と23歳というタイミングでした。19歳と23歳のニート状態の人が急激に1995年から2000年にかけて増えています。
 なぜ19歳と23歳なのか。だれでも思いつくのがやっぱりこれは18歳の次の年、22歳の次の年ということだろうということです。次のページ(8ページ)に新規学卒者の労働市場の情報を載せておりますけれども、やはり学卒就職の問題がとても大きくて、学卒就職でうまくいかない、あるいは学卒就職の過程で求職活動をやめてしまう、降りてしまう若者たちが存在するのじゃないかということです。特に高校生の求人は、これだけ急激に落ちて、その後最近になって回復したといっても、ごく若干です。
 こういう中で19歳層のニート状態が増えたのは、一番多くは今の高卒の就職状況で、これは就職の仕組とも広く関係がありますけれども、学校の中であっせんをすると、ほかのところに求人があっても、学校の中に求人がなければ、実は就職が全くできないわけです。その求人件数がかなり地域によってもまた学校によっても格差が大きいという状態の中で、求職活動をする術(すべ)を知らないまま学校を離れてしまう若者たちがいるのではないか。そういう求人状況の大きな変化の中で、若者たちがこれまでの仕組ではうまく就職活動が続けられない状態があるのではないかというのが、日本のニートの中で1つのポイントだと思います。
 それから次のページ(9ページ)は、ニート状態の人たちを学歴別に分解してみたものです。学歴別に分解してみると、非常によくわかるのが、ニート状態の人は中学校卒業学歴の人が多いということです。一番多いのはもちろん高校卒業学歴の人ですけれども、棒グラフの上の方「有業者」に比べると、かなり差がありまして、学歴が低いということがかなり大きな要素になっているのではないかと思います。
 中学校卒業の人というのは、よく考えてみますと、やはりこれは中卒で労働市場に出た人というよりは、学歴としての中卒ですから、高校中退問題がかなり大きく影響しているのではないだろうか。中退するという形で学校を離れると、当然、卒業のタイミングに合わせて行われる新卒の労働市場には乗れませんよね。新卒の労働市場がない形で、仕事探しをするというのは、なかなか大変なことで、よく考えてみれば高校や、あるいは今ですと、高等教育でも中退者が実は増えているのではないかと思います。中退の後、どうすればいいかということに対して、個人的な努力、親と子だけの努力に頼り過ぎているのではないか。こういう仕組のなさというのが、この中卒状態のニートの人たちが非常に多いことの背景じゃないかと思われるわけです。
 次のページ(10ページ)は、そういう中退を含めまして、学校卒業で即正社員という形で学校を離れるのが、これまでのイメージだったわけです。若い人たちというのは学校を出たら、その場で学校の中にしろ、外にしろ、新卒の採用の枠組があって、それに乗っかって、一人前になっていくという枠組から外れた人の比率をとったのが、赤の折れ線グラフです。
 中退とそれから学卒無業、それが大きなウエートを占めますが、そういう学卒即正社員という王道を実態として通っていない若者たちが今や新しい世代ほど増えていて、特定の若者じゃなくて、ある世代の若者の中の4割に近い若者たちが、学卒即正社員というような道筋は既に通っていないのです。そういう学校にいる状態から一人前になる状態への移行のあり方が大きく変化していて、その過程が今、若者たちの一人前になるプロセスをとても苦しくしていて、その一つの象徴がニートなんだろうなと思います。
 そこで次のページ(11ページ)は、今の15歳から34歳で、在学している人だけを除いた全体の若者たちの就業・不就業の状態を1992年から2002年まで、3次年で見たものです。男性と女性に分けてありまして、一番下の白いところが正社員あるいは自営など、普通にイメージする典型的労働の部分で働いている人です。そういう人たちの比率が若い人でかなりこの十数年の間に大きく減っています。
 増えているのが薄緑色のところ、これが非典型雇用で、その多くがフリーターということになります。それから灰色の部分が求職者、いわゆる失業と言っていいと思います。それからピンクの部分がニートという状態の人たちになります。それから女性についてはそのピンクの部分に加えて、オレンジ色の家事手伝い層というのも85万人説では狭義のニートに入っています。女性では家事手伝いまで今、増えています。
 こういう全体を見ていただきますと、実はニートの40万人から64万人というその増加を、それだけを取り出して、それを何とかすればいいという問題ではなくて、失業者もフリーターという非典型労働者も、みんな同時にあわせて増えている。その1つの若い人たちが先ほどのグラフにありました学校を卒業してすぐ正社員になって、そこで人生をやっていくというメインロードが小さくなってしまって、その一方で、それ以外の形で社会に入っていく人たちが増えている。それがまずフリーターが増えて、失業問題になって、その後、今注目されているこの労働市場から退出してしまって、非労働力化してしまった若者たち。こういう全体の流れの中であると思います。
 若者無業者問題、ニート問題というのを、今ニート状態になっている若者たちだけに焦点をあてた政策ももちろん必要ですけれども、それだけやっても、基本的には根は全然絶たれないわけです。大きな学校を出て一人前になっていくという仕組そのものをケアしていかなければ、基本的な問題は全く解消しないと思われます。
 ちょっと先に行きますが、次の図3は今と同じようなことを今度は2002年の一時点に学歴別にはどう違うかという、学歴の影響を見たものです。ニート状態の人に中卒者が多いのは、先ほど見ましたけれども、今度は逆に中学校卒業学歴の人はどうかというと、やはりニート状態の人が非常に多い。1割近くがニート状態ですし、それに加えて求職者といいますか、失業している人も多いし、アルバイトやパートについている人も多い。正社員はごく少ないという事態があります。
 学歴の影響というのは、かなり大きくなってきていて、学校を早い段階で離れるということは労働市場においてチャンスを得ていく、あるいはそこで労働力を発揮していくだけの基本的な力が十分つかないことになるのではないか。現代社会ほど教育の役割が非常に大きくなってきており、教育の途中で離れる人をどのように少なくしていくかは、ニート問題の中ではとても大きな問題だと思います。
 こういう学歴の影響が大きくなっていることを図示すると、その次のページにあるような絵で、学校から一斉に就職して正社員になるという今の仕組は、実は6割ぐらいにすぎない。それ以外の人たちは学校から離れてしまった後にフリーターになったり、失業になったり、ニート状態になったりしています。どういう人がそういう状態になりやすいかというと、学歴の低い人、それから10代がとても多いのですけれども、年齢の低い人、こういう人たちが正社員の労働市場に入れないで、図の右側の今のところ方向性がない状態のところに滞留してしまっているのではないかということです。
 学校を離れるタイミングの大事さ、それから学校教育を全うすることの大事さが出てくるのですが、ニート状態の中には学校を離れてから、ずっとニートだったという人と、それから途中で一たん就業等を経験した人たちがいます。
 その次は、その辺の比率ですけれども、10代とか中学校卒業の学歴でニート状態の人というのは、就業経験のある人はせいぜい2割から3割程度で、ずっと就業経験がないままでいます。それに対して、短大、高専卒のニート状態の方というのは、むしろ一たんは就職したことのある人が多くて、その後にニートになっているという過程があります。これを多いと見るか、少ないと見るかという問題はありますが、例えば30代の人のニートの半分は就業経験がある、半分は就業経験がない。多分、政策的な対応としては、この就業経験の全くない半分のほうがとても重たい問題かと思います。
 次のページは、ニート状態にはどんな人がいるかということで、家計の背景を見たものです。全体としては正社員の子供がいる家計と、ニート状態の子供がいる家計との家計全体の収入分布を見ますと、これが大きくずれていることがおわかりいただけると思います。ニート状態の子供がいる家計というのは、せいぜい300万円とか200万円とか、このあたりにピークが来るような家計状態です。一部にニート状態の人がなぜ生活できるかというと、これは親が支えているんだから、親が甘やかしているせいだという議論がありますが、決して親が非常に豊かだから甘やかしているということはないわけで、全体としてみれば、明らかに家計水準が低い家庭から多く出ています。これは学歴が背景にないことから、非常によくわかると思いますけれども、今、高等教育に進めるか進めないかというのは、かなりの部分、家計の問題がありますから、親が入学時に100万円用意できるかどうか、その辺の問題がとても大きな問題になります。
 次はその学歴の問題をもうちょっとはっきりさせようということで、ニート状態の人たちの学歴によって家計水準が違うのではないかということを見たものです。青いのが大学卒のニートの人たちの親の家計の状態で、赤いのが中卒のニートの人たちの家計の状態です。人数がかなり少なくなってくるので、バラバラになっていますけれども、大卒のニートの場合には確かに親の家計収入が800万円とかいうところに一つのピークがあって、豊かな家計の層がここに入るけれども、もう一方で中卒ニートという状態は、200万円台あたりにピークが来ていまして、非常に厳しい家計状態、こういうものがあります。
 次のところ(17ページ)は、インタビュー調査を七十数人に実施しているのですけれども、ニート状態の人だけではなく、フリーターとニートを行ったり来たりしている人まで含めてお話を聞いた結果から、彼らがどういうプロセスで働いていない状態になったのか調査したものです。
 かなりいろいろなタイプがいます。今、お話しした中にも、親が豊かな層もいますし、一方で豊かではない人たちもいますし、それから就業経験がある人もいますし、ない人もいますし、それらが話の中ではこういうふうに整理されるわけです。かなり刹那を生きるタイプというと、親の家計も豊かじゃない中で、高校を中退する、その中退も学業不振とか、出席状態が非常に悪くて、進級できないでという形の中退者がここにかなり含まれるし、次は学校で人間関係にしくじったというタイプの方が含まれるし、3番目は大卒の方で就職活動をしたけれども、途中で就職活動をやめてしまった人たちです。大卒の方たちの場合、かなりまじめで、むしろどうして生きたらいいのかということを真剣に考えた結果、動けなくなったというようなタイプが多かったと思います。
 次のページになりますが、現代のニート像というのは非常に多様なものを含んでいます。多様なものの背景で一番大きいのは、先ほどの日本型のあっさり正社員になれるという仕組から外れたことです。外れた結果、学歴によってかなり問題が違いますが、高校生の場合には普通だったらみんな就職できたというものが、就職できない人たちが当然出てくるような状態になって、周りもみんなフリーターだとか、学卒無業だという学校があります。そこでは普通は就職するという、その「普通」が見えなくなって、行き先を失ってしまっている。あるいは学校中退の問題も、これはもともと排除されています。それから大卒の場合には、本人が就職活動を途中でやめてしまっているのですけれども、その1つには、今の大卒労働市場の特別な仕組と問題があります。その他、幾つかの問題があります。
 最後のページ(19ページ)が、これまでとこれからということで、この状況を何とかする一つのキーワードが生涯学習だと私は思いますので、それをあらわしてみました。今の状態を何とかするにはどうしたらいいかというと、やはり学校から一人前になるという、これまでのプロセスが小さくなってしまったのだから、新しいプロセスをつくっていかなければどうしようもないのだと思います。
 その新しいプロセスというのは、学校を卒業した後、学校を離れた後に能力をつけて、安定的な就業機会に途中参入できるような仕組。そうすると、その能力をつける仕組というのがまず1つ考えられる。そこに大きな三角印を書きましたけれども、普通の若年期の学校とはまた違う形で学習ができる。職業能力を高められるような学習機会を提供して、その職業能力を高めるためには産業界との連携を強化したようなプログラムが必要だ。そのプログラムを経ることによって、能力の証明をして、途中参入で産業界に入っていける、こういう道筋がまず必要だというのが一つ、生涯学習が大事になってくるこれからのポイントだと思います。
 それからもう一つ、上の生涯学習を支えているのは、実は下の学校在学中の問題で、学校在学中に改めてこれまでとは違うという意味では、キャリアデザイン力と書きましたけれども、キャリア教育を通じて、だれもがみんな同じ道を通るのではなくなった時代を生き抜いていけるような力というのを改めて考えていかなければならないのではないかと思います。

(4)ひきつづき、工藤委員から、プレゼンテーションが行われた。

【工藤委員】
 工藤と申します。私からは、実際に現場でニートの方々とかかわっているところから得られたものについてお話しできればと思います。基本的に、こういうニート状況とか不登校、引きこもりという問題は、最初は民間の団体が取り組んでいました。この民間の支援団体というのは大体2つに分かれます。これは私が個人的に分けたものです。「こころ系」と「就業系」に分かれるのです。
 ここに書いてあるとおり、「こころ系」というのは主に対人不安とか、そういう人とかかわるのがとても苦手な若者を支援することがメインです。それから、団体数はとても少ないのですが、「就業系」というのは、主に賃金労働に従事して、働けるようになる若者、もしくはそれを希望する若者を支援しています。
 「こころ系」のほうで1、2、3、4、5と書きましたけれども、かかわる方々も、内容も、だいたいこういう感じになると思います。「就業系」のほうも、参加というのはもちろんですが、支援内容自体がかなりOJT的な部分が多いです。イベントというのも内部でやるよりは外部との接触が多くなっています。もちろんかかわる専門家も、私どもも多少養成とかはしていますが、少し「こころ系」とは違うと思います。
 「就業系」が少ないという意味ですが、1つは「こころ系」の良いところでもあり、悪いところでもある、結果が出づらいという点があります。心の問題ですから、130パーセント元気になったとか、数字でなかなか出しづらいので、長期的に支援ができるというものと、逆に言うと、いつが終わりかというのが見えづらいというのがあります。逆に「就業系」の場合ですと、結果が賃金労働ですので、月に幾ら稼いだかというシビアな問題が出てしまいます。そうなると、やはり民間、NPOといえどもサービス業ですから、結果が出ないところにはお客様が集まらない。そういうところで、やはり手を出すところが少ないのではないかと思います。ただ、この2つは相反するものではなくて、若者の自立のプロセスにおいてどの位置にいるのかというところで、強い連携が必要であります。
 「こころ系」がいいなと思う方々が「就業系」に来ると、やはり少し自信がなくなってしまうこともありますし、また逆に就業を強く希望する方々が絶えず内部のボランティアにいると、ここにいていいのかと悩んだりしてしまいます。また自己負担も保護者の方に負う部分が多いですので、時間とお金という部分はやはり費用対効果を含めて効果的にあらわれるためには、「こころ系」と「就業系」という場所を使い分ける、またはどちらに行ったらいいのかをきちんと相談できる人材が必要だと思います。
 ニートを支援するに当たって、一番大事なのはこのアウトリーチという部分です。いかにいいプログラムをつくっても、本人がそこに参加してこないことには意味がないということです。情報伝達というのは大体8割から9割ぐらい、保護者を通じて本人に行っております。300件ぐらいの相談のサンプルを出しまして統計というか、分析をしましたが、7割はお母さんが1人で相談に来る、2割はお母さんと本人、1割以下で本人、0.何パーセントでどこかに父親が入るという割合です。
 基本的には保護者と言いつつ、お母さんあたりが新聞なり雑誌などで、そういう支援情報というのを獲得しまして、本人に伝えると。その上で、本人がどう動くかということになります。直接的に情報宣伝というのを考える方もいらっしゃいますが、フリーターと同じように、情報宣伝を見て出てくるというのであれば、これまでと同じことをやればいいわけで、なかなかそれにアクセスできない存在だからこそ、間接的な情報宣伝というのが有効なんじゃないかと思っています。
 私の知る範囲では9割ぐらいのニート状況にある若い人の8割ぐらいは携帯電話を持っていません。持ちたいとは思っているのですが、友達もなかなかいないとなると、持っていてもしょうがありませんので、実際友達とかができて、携帯をすぐ持つというようになります。そうすると一番仲がいい友達と同じ機種で、同じストラップで、内容が一緒なんていうのも結構あったりしまして、そういう意味では携帯に限らず、働きたいとかいう気持ちもそうですし、何かを持ちたいという欲の部分も意外と普通の若い人と一緒なのですが、持つに当たってのきっかけというのがないのかなと思います。
 2番目に相談は保護者からというのは、先ほど割合について言いましたが、これが一番難しいところでございまして、保護者をカウンセリングしても、あまり意味はないのです。本人がいないところで、保護者を通じて本人にうまく情報を届け、本人を動機づけるということが必要になります。そういう意味では保護者の困難性というものの1つ目が、本人の参加意欲がもともとあるのであれば、それを行動に移させるということです。本人に参加意欲がないようであれば、直接的・間接的に本人を動機づける仕掛けづくりが各家庭の状況に応じて技術的にはあります。そういうものを相談者が持っていなければ、なかなか本人たちが動かないという困難性が1つあります。
 もう一つは、保護者が語る本人像と実際の本人が語る本人像に隔たりがある場合があります。この場合、だいたい本人がお母さんに引きずられて相談の場に出てくるタイプが多いのですが、そのときは、保護者が語る本人像と実際の本人が語る本人像とをしっかり分けて話さないと、実際に本人が何を考えているのかが見えなかったりします。保護者を巻き込むのが、何で一番必要かといいますと、民間支援団体であれば、当然、月額負担金がかかります。公的機関は無料と言われますが、交通費、昼食代、実費などなど、収入のない若い人たちを支援するに当たっても、やはりお金はかかるわけで、そこのスポンサーとなるのは、現在の段階ではほとんど保護者です。
 そういう意味で、保護者というものをうまく巻き込まない限り、本人が継続して、ある場に出てくるということは、金銭的にも耐えられないことなのじゃないかと思います。また、出てきた場所は楽しくて、家庭に帰ったらとてもつらいということですと、アクセルとブレーキが一緒に押された車のように、何となくうまくいかない状況になります。
 そういうところで、保護者を巻き込むというのは、とにかくニートという状況に関しては大事だと思います。しかし、保護者を巻き込むといいましても、私どもで開いている保護者のためのセミナーの参加者を分析してみますと、大体9割ぐらいがお母さんですが、そのほとんどが高等教育を卒業された方でありまして、さらに世代的に学歴と年収というものがおそらく今よりもリンクされている世代だと考えますと、比較的所得の高い方々で、情報アンテナが張れる方に限定されています。
 そういう意味では、所得が高く、学歴が高く、意識の高い家族を持つニート状況にある若者が、ある意味では得をする、もしくはきっかけをつかみやすいというのが見えます。民間団体あたりは、いろいろなことを保護者に向けても本人に向けてもやりますが、その情報を届けるのに、インターネットか、新聞の広報等に頼らなければいけない状況であります。インターネットを使えない家庭、持っていない家庭、新聞をとっていない家庭というものに対して情報を届けられるのは、おそらく地域の公的な機関が出している全家庭に配られるものだけだと思います。民間団体はこれで食べているところも多いですので、費用ゼロでやるということは難しいとなりますと、やっぱりニート状況にある家族があまり所得が高くないのであれば、そこに対する支援をやるのは民間では無理です。公的な人にやってほしいですが、やれとは言えませんけれども、少なくとも民間では無理と言わざるを得ません。
 支援について、私は「就業系」のことしかよくわからないので、「就業系」に限定しますと、おおむね3カ月から1年で、月10万円なり15万円程度稼げる人材への成長もしくは支援はできます。ただ、この支援期間を決定づける要素としまして、1つは年齢があります。10代で支援を受けた場合、おそらく少なくともフリーター状況まで押し上げるのは、ほぼ100パーセント可能だと思います。しかし、最近では30代前半、後半と言われる世代が入ってきまして、そういう状況になるまで時間がかかります。なぜかといいますと、労働市場が30代後半に対し閉じているというのが1つ。もう一つは、支援団体が少ないというのもありますが、年下が年上を支援する構図になってしまい、これは日本の文化もしくは風土にはかなり厳しいものがあります。さらに50代、60代の人たちに支援をやってほしいといいましても、そうそう儲かる仕事でもありませんので、比較的20代前後半の支援者が30代後半を支援するという、日本社会では少しいびつな年齢構成要素になってしまうということがあるかと思います。
 もう一つは10代であれ、30代であれ、社会から離れてからの期間が長いと就業支援に時間がかかります。30代でも正社員を経験して、2カ月後ぐらいに支援を受け始めたタイプと、10代であっても、中学校卒業から5年間何もやっていなかったタイプでは、就業支援にかかる期間というのは決定的に変わります。これはその年代で経験しなければならない、学ばなければならない部分というのがすっぽりと抜けてしまって、もう一度そういう経験をしたり、学び直すという部分に時間がかかるというのがもちろんあります。やはり10代もしくは20代前半で社会から少し外れても、なるべく早く社会に戻して、就職支援なりを受けたほうが効果的であるということが考えられます。
 あともう一つ、正社員経験、アルバイト経験の話が小杉先生からありましたが、EQ検査というのが最近ありまして、心の知能指数とかを調べるのですが、私どもの主観的なものだけだとなかなか難しいので、EQというのを現在ニート状況にある若い人たち50人全部に受けていただきまして、それで統計を出しました。そうすると、正社員経験、アルバイト経験がある人と、そうでない人の決定的な違いは、達成動機を感じられるかどうかでした。そういう意味では中学校でも高校でもいいのですが、何かしら社会的な経験というのがあったほうが、達成動機度もしくはモチベーションにかなり影響するのではないかと感じました。
 これは少し話しづらいことではありますが、男性と女性の話は避けて通れないのでお話したいと思います。男性よりも女性のほうが支援に時間がかかります。理由は3つあります。1つは保護者の価値観の問題。今、50代、60代の女性の方々で、社会の一線で働き続けてきた人というのは、おそらく世代的には少ない。女性は家庭に入ったほうが幸せであるというモデルであった世代の方々が今、保護者です。やはり支援していると、つらいことも支援を受けている側には当然あるのですが、男性が、「いや、あそこには行きたくないよ」と言ったときと、女性が「あそこには行きたくないよ」と言ったときの保護者の対応というのは変わります。男性だったら、「頑張って行け」と。女性だったら、「もういいよ」と言って、保護者の理解はありつつ、支援のお金が断ち切られて、またもとの状態に戻ってしまうという部分が1つあります。
 2つ目は支援者にはどうしても男性が多いです。特に対人的な関係が苦手なタイプは、異性のほうが苦手なことが多いですので、支援でさえも男性社会になりつつある中で、女性が入っていくというのはかなりしんどいのではないかと思います。そういう意味で、男女差ということを考えますと、男性よりも女性のほうが支援がしづらい環境になってしまっています。
 次のページに行きますと、ニート状況だった人と話をして、大体共通する部分はないのですが、それでも少し共通しているところだけを挙げました。1番の孤立傾向というのは、ニートになったら、当然孤立しているほうが多いのですが、意外と義務教育段階から比較的孤立気味であったことが多い。ただ、いじめられていたのか、無視されていたのかといいますと、意外とそうでもなくて、印象が薄いタイプが多いのかなというのが私個人の意見です。名前は覚えているけれども、顔は思い出せない同級生というと、少しわかりやすいかと思います。部活をやっているというタイプもあまり聞きませんし、比較的に学校段階から孤立もしくは周りとのかかわりが薄いタイプが多いかなと思います。この辺の傾向は全部主観ですので、客観的なデータはありません。
 2つ目はニート状況になったときの昼夜逆転ですが、1に「必然的」、2に「積極的」と書いてありますが、通常、若い人は長期休みになると、昼夜逆転するのは必然です。朝は寝るまで起きていたほうが楽しいですし、気持ちいいですし、夜のほうがテレビがおもしろいので、当然、だれでもほとんどの方が昼夜逆転になると思います。年齢が上がりますと特に、学校もしくは働いている時間に行動すると、外を歩くのにも何か声をかけられたりだとか、つらかったりとか、こんな時間に20代後半が歩いているのは明らかにおかしいなどということになります。それで、なるべく昼は家にいて、人の目につきづらい夜、コンビニなどに行ったりとかしますと、それはだらけた生活で昼夜逆転になるというよりも、人を避けるという意味での積極的な昼夜逆転に変わります。比較的ニート状況にあった方に多いと思います。
 3つ目は雑談と書きましたが、学校で言えば、休み時間、職場であれば休憩時間、学校であれば放課後、職場であればアフター5の時間に人とコミュニケーションをとることがとても苦手な傾向があると思います。これについて、コミュニケーションが苦手と書く方がいますが、それを書いてしまうと、仕事ができない人のようなイメージになりますが、そうではなくて、仕事する能力というのはありながらも、空いた時間にどうも会話を継続するとか、仲よくなるのが苦手な人が多いのではないかと思います。1番に孤立傾向と書きましたが、雑談は必ず2人以上必要です。孤立傾向していくと、雑談の能力というのは100パーセント落ちます。そういう意味で、この1番と3番というのは、かなりリンクしているのかなと思います。
 4番目に、社会経験の不足というのは、やはり社会から離れていたという意味で、性欲でも食欲でも金銭欲でも何でもいいのですが、そういう部分がいまいち涵養されていないのではないかということです。お金にしても、自給700円のアルバイトよりは例えば派遣、派遣よりは正社員という金銭的な欲というのも、スタート段階の小学校ではお小遣いが少なくて、進学するにつれて上がっていったりすれば、どうしても欲が出てきます。そういうような欲が、お金だけではなく社会経験が不足している部分で、どうも涵養されていないのではないかと思います。
 これはニートだけではなくて、何となく今の若い人、フリーターなどを支援していても思いますが、生活コスト、社会コストの感覚が非常に乏しいのではないかと思います。最終的には自立というと、彼らはひとり暮らしをイメージしますが、では幾らぐらいかかるかなんて話を聞いてみますと、大体は、家賃、水道光熱費、食費、携帯なんて言いまして、10万円ぐらいで生活できるなと言います。家賃は2万8,000円のところでいいですとか言うのですが、大体彼らが言わないのは、住民税、国民年金、敷金、礼金、生命保険、公益費、共益費などなど、考えないのか、知らないのかはわかりませんが、自立モデルの中に生活コスト感覚というのがないのではないかと思います。
 たまに彼らに「水道料金、月に何回来るか知っている?」なんて聞きますと、「1回」と答える人がいる。これも保護者などに聞いても、お父さんには知らない人がいますが、水道料金は2カ月に1回で、そういうことも保護者の収入が振込になったこと、こういう生活コストが引き落としになったという意味で、何となくお金がクローズアップされる社会ではありながら、実は身近なお金というのは家庭内でも学校でも、あまり見ることがなくなってしまったのではないかと思います。そういう意味では、仮に仕事を得ても、自立した生活コスト感覚みたいなのがないと、夢だけ追っていて生活できないということにもなりますので、やりたいことと現実を刷り合わせるときに、少しコスト感覚のようなものがあるといいのかなと思っています。
 ニートと言われて社会的に誤解されている点というのを幾つか挙げましたが、1つは学ぶとか働く意欲に乏しいとよく言われます。これは、おそらく誰かが、先ほど小杉先生から説明があった定義から勝手に推測したものです。あの定義には、本人の意欲とか感情というものは全く反映されておりません。むしろ働きたいとか、もう一回学校に戻りたいという人のほうが多いです。ただ、彼らは自分のために働きたいとか、自分のために学びたいというよりは、どちらかというと、もうこれ以上親に迷惑をかけたくないとか、社会的にこの年齢だったら、働いているのが普通なんじゃないかというような部分も持っていますので、個人だけの問題というふうに位置づけるのはかなり難しいかと思います。
 2番目は、先ほど言いましたが、携帯電話で遊んでいるとか、パソコンゲームを1日中やっているというのは、かなり少ないのではないか、もしくは初期段階だけかと思われます。
 3つ目は、甘やかす親の経済力は小杉先生から説明があったので触れませんが、4つ目は、これもちょっと誤解を恐れず言いますが、カウンセリングから行動に移すということに関して、個人的には少し疑問があります。フリーターの子と話をしますと、やりたい仕事がわからないと言います。私のところに来るニート状況のある若い人と話をすると、やりたいことがないと言います。
 この2つには大きな違いがありまして、やりたいことがわからない人は、多分、頭の中で経験なり学んだことから引き出す引き出しがある程度あるのかなと思います。やりたいことがない人というのは、ただないというだけではなく、経験不足から来る社会経験もしくは職業の情報がすごく少ないのではないかと思います。そういう人たちに対して、カウンセリング等でやりたいことを引き出すというのは、ない袖は振れないではないですが、ないところにはないのではないかと思います。
 そういう意味では、やはり行動をしてから考えを変えて、さらにそれを行動に結びつけるような、思い切ってやってみる環境整備が大事かと思います。今の若い人は先ほども小杉先生からありましたように、考え過ぎとあります。神奈川のNPOをやっている和田先生という方が言いましたが、若者に思い切ってやらせる環境は必要だと。ただ思い切ってやるということは、考えちゃいけないんだと。“思い”を“切って”やるものだから、よく考えてから思い切ってやりなさいなんていう支援はあり得ないと言っていました。そういう意味では、思い切ってやるために必要な環境というのは、やることがあることだと思います。
 もう一つは、おそらく七、八割は失敗するでしょうから、失敗の後のフォローアップ、もしくは失敗を恐れずにやる部分というのが必要ですが、思い切ってやるのを応援する人が自分でよく考えてとか、そういうふうに言うというのはよくないかなと思います。とりあえずやってみろ、というのが一番いいのではないかと思います。
 最後に、ニート状況にある若い人の課題の中に、1つはもちろんアウトリーチと入れましたが、最近はフリーター支援をして正社員になった友人もたくさんできまして、金曜日の夜になりますと、私の携帯電話も、意外と着信が入ったりメールが来たりするのですが、メールに何が書いてあるかというと、「きょうの夜、暇?」とか「あした何をやっているの」といったことです。
 今までは孤立気味だったけれども、職場ができた。それはもちろんいいのですが、彼がつらいのは土日が暇ということなのです。もしくは日曜日が1人なのです。月曜から金曜なんて一生懸命働いて、体を壊すんじゃないかというぐらい働くのですが、土日は本当に1人で、何となく仲間がいなかったりしますと、最初はパチンコとかスロットとか行くタイプが多いのですが、そのうちこんなことを考えます。“自分は何のために働いているんだろう”。そうすると、こういう行動に出るのです。“自分探しの旅”。自分は何のために生きているのかなんて難しいこと、学者さんが考えてもわからないのに、若い人が考える。
 楽しければいいじゃんというところがありますが、考えないといけない状況に何とかなるという意味で、ここはあえて冗談で「週末ニート」という言葉を使いますが、土日もしくは出会いがないと、例えば彼女ができません。彼女ができないと結婚ができません。結婚ができないと子供ができません、なんて、少子化の問題まで行ってしまったりする。
 今、企業に入ると、利害のある関係にどうしてもなってしまって、なかなか、いわゆる友人になりづらいという話を聞きます。そういう意味では、家と会社以外の、もしくはアルバイトの職場以外のもう一つの場所もしくはもう一つ以上の場所というのが必要なのではないかと思います。
 ここ(6ページの図)で、日本のニートがラッキーなのは、まだ保護者が守ってくれる部分がある。欧米はホームレス問題とかなり直結するときがあります。家にいると、図のテーブルは足1本で不安定なんですね。自宅と例えばどこかの団体とか職場があっても、足2本で意外と不安定です。これを言いますと、保護者世代の方が「俺はそうだった」なんてよく言いますが、家への執着と、会社への執着というか想いが極端に太かった場合は、このテーブルの足が思いきり太かったと思いますが、今の若い人たちの所属意識というのは、どの場においてもそんなに高くないと思います。そういう意味では足が2本でもちょっと不安定かなと思います。
 ただテーブルの足が、3つもしくは4つ、5つとあると、不安定ながらに、やはり足は細くても安定しますので、こういう家でも職場でもない、利害関係のない他者もしくは同世代もしくは異世代と出会える場所というのが必要かなと思います。これがあると離職率は少し下がる可能性があるのかなと最近は思います。
 ただ、少し話が変わりますが、学校段階であまり優しく自由にし過ぎているようなことも考えられます。社会に出ますと、有無を言わさずやらされることというのはやはり多くて、サラリーマンの方ですと、明日から転勤と言われたら、それは従わなければいけないというような強制的な部分というのが、学校段階では減ってきているかと思います。
 私は高校、中学校はずっとサッカー部だったのですが、1年生のときに先生と先輩に「何で1年生はトンボなんですか」と必ず聞くわけです。そこに明確な理由もなければ、論理的な思考もなく、1年はもうトンボと決まっているのです。レギュラーであるとかないとかも関係ないのです。レギュラーになってもトンボをやらされて、本当に何でたかだか数カ月早く生まれた人にこんな扱いをされなきゃいけないのかと思いつつも、進級すると自分も同じことをしているわけです。1年はトンボだ、と。
 そこにも理由は全くないのですが、社会に出ると比較的そういう強制的な部分が多い中で、何となく自由だけを与え過ぎている気がします。部活をやる人が減ったということもありますが、社会に出ると有無を言わさずやらされる部分があるにもかかわらず、それまでが比較的自由ですと、そこの間でうまく適用できずに職業社会から少し転げてしまう人もいるのかなと、そのようなことを考えております。
 最終ページですが、これはうちの団体がたまたまやっていますが、「就業系」ということで、実体験ベースの研修が必要だろうということです。すべての業務はお金をいただいて請け負った上で、うちの生徒さんにやらせていただいています。特に年齢が上に行きますと、もうやりたいことを探すなど理想的なことはなかなか難しい。
 では何を基準に職業選択をするかというと、やはりやれたこととやったことというのが通常、ベースになるわけです。まだ働いたことのない人が、私のやりたいことはこれだと一生懸命頑張って実際に働いてみたら、全然違うというようなこともありますので、やはり行動して結果を出して自信をつけて、職業選択というものにつないでいくということがとても大事ではないかと思っています。
 小杉先生が、生涯学習で締められたので、そうした方がいいと思って後づけで考えたことですが、ニートなんていうのは誰でもなります。日本最高峰の大学を卒業して、だれもが聞いたことのある企業に入社して一生懸命3年働いて、今、「育て上げ」ネットにいる人間もいれば、中卒、ほとんど形だけ卒業している子もいます。
 そういう意味で、彼らがどうすればニートにならないかというのはとても難しいですが、ニートにならないようにはしながらも、そうなってしまった後、どれぐらい時間を置かないようにするのか、もしくは彼らを支援するのか。実際には直接的に彼らとかかわれるのは保護者だけですから、保護者に対して支援をしていくことになります。もしくは今、小・中学生の保護者の方からも、自分の息子がニートになったらどうすればいいのかという相談が来ます。そういう意味での情報提供があります。大志を抱いてたくましく育たなくてもいいけれど、ニートにはなってほしくない、なんていう親も正直言って増えていますが、そういう人たちに対しても、地域レベルでの支援というのがすごく必要かなと思います。情報提供でも構いません。
 またニート状況、フリーター状況にある若い人も、最終的には結婚して子供を持つと思います。そういう中で、先ほど低所得者層がというふうにありましたが、仮に低所得であっても、子供がうまく子育てできるようにするためには、生涯にわたっていろいろなことを学習できるような機会というのが提供できるということがとても大事なのではないかと思います。

(5)小杉、工藤両委員のプレゼンテーションについて、質疑応答が行われた。以下、その内容。

【江上委員】
 大変丁寧に整理した報告をありがとうございました。
 工藤委員にお伺いしたいのですが、この「育て上げ」ネットの組織の概要と規模を簡単に教えていただけますか。カウンセラー、専従スタッフ、活動している人等の人数、あと開かれている講座数といった点です。

【工藤委員】
 設立は2004年の5月13日です。今、専従の職員は約10名、子持ちもいますし、年上もいますし、若い人もいます。今現在通っている人というのは、平均年齢は27.6歳、40人。男女比は9対1です。キャリアカウンセラー、もしくはそういう相談員という方々は全部委託業務を結んでいまして、正社員としては雇っていません。あとは年間予算で言うと、立ち上げたばかりなので何とも言えませんが、大体5,000万円ぐらいかと思います。行政の補助金もしくは企業の寄附というのは一切いただいておりません。自費で全部賄っております。研修プログラム自体の契約企業数、もしくは自営業者も含めた契約数、彼ら本人からすればプログラム数は大体約20です。第一次産業の農業から、いわゆる朝9時から5時まで神保町の企業に行って仕事をするというものまで、合わせれば20ですが、比較的シルバー人材センターとか、障害者の部分とバッティングするような仕事を請け負ってやっています。
 行政とのタイアップで言うと、北千住の足立区と「あだちヤングジョブセンター」をつくっています。足立区は今、なかなか行政にお金がないので、行政の窓口、名前で、NPOが運営をして、私どもが企業から協賛金を預かって運営資金とするという新しいタイプで取り組んでいます。年間相談が大体300人ぐらいだと思います。有料ですが。

【江上委員】
 1人当たり……。

【工藤委員】
 月額は4万円です。本人の労働に応じて、最大50パーセントを本人に報奨金という形でバックしています。この考え方としては、保護者からもらったお小遣いは無限に使いますが、自分で働いた対価は使わないという特性もあります。また実際求人広告を見て、営業をかけて仕事をとってきますので、うちにお金を払ってその仕事をするのがいいのか、同じその仕事をしてお金をもらうのがいいのかと考えれば、当然、お金をもらったほうがいいわけですから、それも1つの動機づけという形になっています。したがって、企業から寄附の申込があっても、寄附は要りませんので仕事をください、仕事が終わったら対価としてちゃんとお金をください、というふうにやっています。

【加藤委員】
 工藤さんに質問ですが、「育て上げ」ネットというような団体や施設、NPOの集まりは今後広がっていく可能性があるのかどうかというあたりを教えていただけたらと思います。
 それから、これは意見ですが、ひとつ目には、今日のお話の中で、やはり「地域で」というキーワードが何回か出てきたと思います。これは一番身近なといいますか、声をかけやすいとのは、やはり地域であり友人であるということだと思いますので、その辺が1つはキーワードになるだろうと思っています。
 それから2つ目として、思い切ってというので、思いを切っていく、まず動いてみるということですが、そうしたときに結果としてどうなるのか、きれいな言葉で言えば達成感なのかもしれませんが、自分を知るということになってくるわけです。私は長年スポーツをしていて、スポーツの世界の自分と相対することのおもしろさみたいなものを非常に体で感じているところがあります。義務教育段階から、ある程度若者といいますか、青年になっても、常にそういうことをまず体で感じるのが非常に大切だろうと思っているのが2つ目です。
 それから3つ目に、先ほど、やはり工藤さんから、ニートに対する世間の誤解のようなものがあるとありました。私たちはあまり定型的にものを見てしまうというのは、避けなければいけないと思います。そして、以前も別の場所で申し上げましたが、工藤さんの「育て上げ」ネットでおやりになっている仕事というのは、企業の中にいてはあまり正社員がやらないような仕事が多いわけです。社会が仕事と考える水準、あるいは社会で役に立っていると考える水準といいますか、そういう社会へ出てみようというときのバーとして社会が考えているものが、時代とともにだんだん高くなってきてしまっているのではないかと思います。これはどういうふうにしたらいいかというのは、なかなか難しいかもしれませんが、そのバーを下げるということも、ニートの領域に行ってしまう人を減らすという意味で必要なポイントじゃないかと思っています。

(6)UFJ総合研究所から、「ニートに関する実態調査」(文部科学省委託調査)の説明が行われた。

(7)事務局から、文部科学省における若年者問題の取組について説明が行われた。

(8)委員による自由討議が行われた。以下、その内容。

【茂木分科会長】
 今日はニートの実像について大いに勉強させていただきまして、ありがとうございました。
 まず、小杉委員への質問です。資料の9ページに、ニートの学歴が出ていますが、中学校卒の数字には、高校中退者がかなり多く含まれているのですか。また、高校卒には、大学中退者がかなりの部分を占めていると理解してよいのですか。
 それから、私の経験から申しますと、大学でも高校でも、スポーツに限らず何でもいいのですが、クラブ活動に参加した人、しかもそこでリーダーシップをとった人は、会社員になってからも、活躍する人が多い。ですから、クラブ活動に参加したかどうかということと、ニートになることには、負の相関関係があるのかどうか。もしあるのであれば、クラブ活動をもっと活発化するというのも、ニートを減らす1つの方法になるのではないかという感じがします。
 それから、もう一つは職業高校です。私は、産業教育中央振興会の会長として、いわゆる職業高校の応援団をしております。私は普通科高校の高校生とあまり接する機会がないので、比較はできませんが、職業高校の高校生は、非常に良い。立派な作品も制作します。昨年、120周年記念の式典に、皇太子がお見えになった際に、職業高校の高校生が堂々と立派に説明をしていました。職業高校に、ニートは少ないのではないかと思いまして、そのあたり、もし何か相関関係があるかどうか、お伺いしたいと思います。

【小杉委員】
 中退の問題ですが、中卒の中に高校中退は多く入っていると思います。中学校卒業段階で、学校を離れて就業するというタイプの人が非常に少ないからです。高校卒業学歴の人の中にどのぐらい高等教育中退者が含まれているかがよくわかりません。ただ高校卒業段階で就職するのが非常に多いですから、ちょっとそこのところはわかりません。ただ最近の大学の中退率は多分増えているのではないかと思われますので、考えてみれば、高校についてはいるだろうなという程度です。
 それから部活の話は私どもでもインタビューをしたときに聞いていますが、やはりそれは参加していない人が多いです。
 それから職業高校の話ですが、やはり就職率は圧倒的に工業高校はずっといいですし、その辺、教育の内容と、職業高校の場合には職業的な接点が非常に多い教育をしているというのがわりあいとプラスがあるのではないかと思います。
 実はニートの前のフリーター問題でも、やはり高校の中の教育の種類によって随分出方が違っておりまして、やはり圧倒的に多いのが普通科高校なのです。モデルが見つかりにくいというのが一番あると思いますし、普通科高校でフリーターになっていく子たちはやはり部活はほとんどしていなくて、部活のかわりにアルバイトはたくさんしているのです。

【湯川委員】
 もう既に小学校の段階で引きこもりが多くなっていて、中学校も引きこもりが多いのですが、その引きこもりがそのままニートにつながっているということがかなりあるのではないかと思います。どうお考えになりますでしょうか。

【小杉委員】
 統計はないですが、もちろんそうだと思います。

【工藤委員】
 引きこもりが増えているかどうかをどう調査したのかだけ教えてほしいのですが、なかなかいないとは思いますが、当然、小杉先生と同じで大きく関係しているような気がします。

【湯川委員】
 ということになりましたら、いろいろご報告を伺って、小学校・中学校の時代とが大変に大切だということになると思います。さらには就学前の社会的な接点などもとても重要なのではないかと思います。その方向性というのを何とかこのディスカッションの中で取り上げていただけるとありがたいと思います。

【糸賀委員】
 私自身、ニートというのはわかったようなつもりでいたのですが、今日のお二方の話を聞いて、よくわかっていなかったということが自分自身、よく感じられました。私は大学に勤めておりますが、うちの大学でもふだん大変成績がいい学生が、最後卒論だけ書けなくなって、そこから引きこもりに入っちゃう。引きこもりに入ってから、当然大学は卒業できなくなって、社会の中でニートと呼ばれる層に入ってしまうという実例がここ5年ぐらいの間に、やはり非常に増えております。
 正直申し上げて、我々当初はもっと頑張りなさいというふうにそういう学生に言っていたのですが、それがかえってよくないと。むしろその学生がいろいろとカウンセリングに行くのですが、指導している我々大学の教師のほうがカウンセリングを受けたい。そういう学生にどう対処していいかが本当にわからないのです。
 それで、私は今の発表を聞いていて、質問が3つございます。1つは、この現象は日本の国土全体で同じように起きているのでしょうか。つまり、地域差というのはないのでしょうか。都市部には大学があり、人口が多い。都会のこの無関心というものがある中で、対人関係がうまくいかないようなニートもあれば、そうじゃない、地方在住のいわゆる資産家とか素封家の子供さんで、親がいると経済的に豊かなものだから、働かなくても済んでしまうという場合もあると思います。これによって、私は対応の仕方がおのずと違うのではないかと思うのです。そういう地域差みたいなものがあるかどうかをぜひお聞きしたいのです。例えば、人口当たりのニートの割合があるのかどうか私は知りませんが、それが都道府県ごとに違いがあるのかどうか、おしなべて日本全体で起きているのかどうかを知りたいというのが1つ。
 それからもう一つは、問題がいろいろなところにあるというのはよくわかりました。では、我々が目指すべきゴールは一体何なんですか。つまり、みんな働けるようになればいいんですか。ニートというのは、とにかく「Not Education, Not Employment, Not Training」ですよね。このどこかに身を置けるようになれば、それで事態は解決したといっていいのかどうかがわからないのです。つまり、我々は解決の方向として、どういう方向を目指すべきなのでしょうか。
 例えば私がそういうふうに考えるのは、何も働かなくても地域の中でボランティア活動を一生懸命やっている、生き生きとして地域で暮らしていれば、その本人は経済的に自立できなくてもいいのではないかと。我々の世代からすると、それは一人前の大人なんだから働きなさいと固定概念、既成概念で思っているのだけれども、彼らがほんとうに目指すべきところは、働けるようになることなのかどうか。これは是非、小杉委員や工藤委員のお考えで結構ですから、お聞かせいただきたいと思います。
 それから3番目は、今、我々はニートの問題をいろいろと考えてきましたが、これは彼らを受け入れる職場のほうには一切問題はないのでしょうか。というのは、彼らの上司に当たる人間は、多分私と同じ世代のおじさん、おばさんだと思うのです。我々からすると、そうやって働かないのは、さっき誤解だと指摘がありましたように、それは本人に働く意欲がない、不真面目だからだと、どうしても思いがちなのです。
 すると、彼らを一生懸命ここで再教育して、また職場に送り込んだところで、社会や職場が変わっていなければ、また彼らをはねつけることになるのではないかという心配があるのです。彼らを受け入れる職場自身もあるいは上司に当たる人間も意識改革をしなければいけないように思うのです。つまり、送り出す地域や社会、そして学校もいろいろと工夫しなければいけませんが、彼らを受け入れる職場にそういう問題はないのかどうか、そこをお尋ねしたいと思います。

【小杉委員】
 1番目、地域間格差はあります。地域別のニートについて、出せば出せます。一部、男性のニート状態については、たしか失業率とちょっとした相関がありまして、やはり就業機会が少ない地域のほうが多い可能性はあります。それほどはっきりした相関ではないのですが。
 それから地方の場合、インタビューなどで出てくるよりも、むしろ地方の場合は学歴の低い人、つまり地方の経済状態の問題で、就業機会が最もない地域で出てきています。素封家で云々というよりはむしろ、ある程度トレーニングをされてきているのだけれども、機会がない。地域間移動しないために機会がなくて、ニート化しているという状態が地方には確かにあります。
 それからゴールですが、私は基本は次の世代を育てることが私たちの任務だと思っています。次の時代の社会を支えてくれる、そういう層になってくれればいい。まず基本は社会参加だと思います。社会の構成員として、社会を支えるという意味では、労働力になってくれればいいですし、その労働力のあり方として、先ほどおっしゃられたようなボランティア型、何らかの賃金労働ではない形で社会に参加して、社会の構成員としての役割を何らか果たすというのがゴールとしてはあり得ると思います。現実問題として、30代後半まで就業を全くしていなかった人たちがどうやって社会参加するかといったときに、賃金労働者になれるかというと、そう簡単になれませんので、さまざまな形での社会参加というのがゴールだと思います。
 3番目の産業界のあり方も問題じゃないか。それは大きな問題になります。やはり体を壊すような長時間労働というのが背景にあったケースもありますし、あるいは今の正社員が少ないような職場の中で、正社員で入ったことがかなり早い時期から多くのアルバイト・パートの人たちをコントロールしなければならない立場に置かれて、それがプレッシャーでうまくできなかったというタイプがあります。上司のパーソナリティーという問題以上に今の産業界のあり方そのものが大きな問題をはらんでいまして、個人がどうなればいいという問題ではなくて、私は基本的には、仕組としてフレキシビリティーも増さなければならないと思っています。

【工藤委員】
 あまり変わらないのですが、地域格差だけで言うと、都心部ではないほうが長期化すると思います。というのも、支援団体がまず1つ、食えない。もう一つは、ハローワークとかはもちろんありますが、地域性が強いと、村八分ではないですが、横のつながりが意外と強いので、「どこどこのだれの息子が」というので、公的機関にも意外と行きづらいという意味で、長期化は地域に多いかなと個人的には思います。
 「育て上げ」ネットは東京の立川にありますが、40人中東京都民が5人ぐらいしかいません。あとは千葉、埼玉、神奈川から通ってくるという意味で、地域間の移動がかなり楽にできて、自分の過去を知らないところにすぐ行けるところのほうが機会はたくさんあるのかなと思います。
 2つ目のゴールですが、経済的な自立が第一だと思います。その上でできる力があって、例えばすごくお金を稼いでくれる奥さんを見つけたとか、だんなさんを見つけたとか、保護者の方が今、仮に亡くなっても、自分は生きていく力があるとか、自信があるのであれば、そこからは価値観だと思います。しかし、貨幣経済の中で生きていくには、少なくとも自分で生きていく力をつけるというのは当たり前のことですし、そこから先に価値観というのを置かないといけないかなと個人的には思っています。働きたい、自立したいという人の思いというのは基本的にはまずだれにも迷惑をかけないで生きていくということですから、それは個人的な私の価値観かもしれませんが、やはり経済的に自立できる力を持つ、もしくは自信を持つというのが最大の目標だと思います。
 職場に関してですが、ちょっと観点が変わりますが、結局、若者の使い方以前に若者を使っている世代の息子と娘が今、ニート状態になっています。ただお父さんに関しては表に出てきませんが。最近、企業とインターネットで支援サイトを作りまして、IPアドレスをたどると、アットマーク以外が大きい企業が意外と多いです。しかし、会社の中でそれをやると、やはり管理職として言いづらい部分がある一方で、本当は言いたいという人がいると思うのです。若者を受け入れるというのも大事ですが、今、社員でいらっしゃる方々が子供を持つようになったときに、社員の方々に対してやることが、実際問題として自分の子供がそうならないように、もしくは、そうなった後に支援できる仕組づくりかなと思いますので、社内の足元からやるのがいいかなと思います。

【寺島委員】
 まず1点目は、非労働者人口、つまり若年無業者というのが必ずしも優雅な存在どころではないということはよくわかりました。そこで1点、UFJの研究所の方に、文部科学省委託調査ということで、ぜひ深めていただきたいのが、例えば中国とか韓国にはニートはいないというような議論がよくありますが、若年無業者がいないところは多分ないとは思いますが、その無業者の中身がどう違うのかということです。多分日本のニートというのは、実際にいろいろ触れ合ってみていて、かなり特異なものではないかという気がします。
 やはり基本的には受け入れる社会のほうに私はとても問題意識があって、実際問題としては、どんどんITを使ってバーコードをなぜるような平準化した仕事だけが待ち受けているような環境の中で、はたして自分自身を仕事を通じて高めていけるのか、働くということに意味を見出せということはなかなか難しいだろうなと思います。
 そうなったときに、要するに働く意味です。これはフリーターにも通じると思いますが、やはりこれを考えないと、企業はもうとにかく正規の従業員をどんどん減らして、アウトソーシングでコストを下げて、平準化できる仕事は全部ITを使って平準化してきて、いよいよ次世代バーコードなんかが導入されてくると、それこそフリーターの人が飯を食う種になっているコンビニエンスストアのレジのような仕事もなくなってくるというように、一切そういう仕事は要らないぐらいICタグを埋め込んだ流通情報管理なんていうのが出てくると、フリーターさえも要らないみたいなところまで極論すればきたときに、では人間は何で飯を食っていくんだということになります。
 そうすると、いわゆる「稼ぎ」と「勤め」と私は言っていますが、実際に収入を得る仕事と、それから社会的に参画して情熱を傾ける仕事と両方持たなきゃいけなくなってくるのではないかと思います。時間を切り売りして、それほど感動はないけれども、生活のためにはやむをえないという腹のくくり方で時間を割く仕事と、それから自分の趣味とか美意識とか価値観に照らして参画したいと思うNPO活動やNGOやその他さまざまな活動とがありえます、そういうものをダブルシフトして、ここで言うもう一つの場所なんていう表現もありましたけれども、そういうたぐいのものを持つ方向へとソーシャル・エンジニアリングといいますが、社会工学的に制度設計を変えていかなければいけなくなってくるのではないかと思います。
 もう一つ、人間関係がものすごくつながりが薄くなってきていて、所在地が確認できないという部分があります。社会システム全体が情報革命や何かも含めて、そういう方向に向かっています。全体主義的な価値の押しつけがないから、極論すれば、徴兵制のようなものがないから、ある面では自由時間の中に身を置いていられるということですが、そのことでいいのかとなってきたときに、やはり別な意味での社会的な目標と社会的な緊張感がないということになります。
 私も大学院やその他で若い人たちと向き合っていますが、とにかく彼らには自分が目指したいと思うような大人社会のモデルがないのです。そういう大人に出会ったりする瞬間に何か人間の表情が変わって、その人に入門したり、ついていったりすることによって、自分自身が変わっていくという体験をするはずなのだけれども、そういう大人に出会わないし、またどうやって出会わせるのかということもとても重要な問題となっています。だからこれは職業だけの問題じゃないのだろうなという気がするのです。ジョブを与えれば、無業者問題が救われるのかといったら、どうもそういう問題ではなく、社会参加の問題だと考えなければいけないのではないかと思うのです。

【佐藤委員】
 私もやはり男性がニートの問題にあまりかかわっていないということが問題だと思いました。社内の研修ではかかわっていらっしゃるのでしょうが、結局、お父さんという一番身近な存在の働き手が子どもとかかわっていないことが大変大きな問題じゃないかと思います。家庭の中に本来だったらモデルとしてあるべきものが存在していないわけです。ほんとうは生きるということと、学ぶということ、働くということはつながっているはずなのに、全部バラバラになっている。働いた経験のないお母さんが幾らニート問題を頑張ってみても、そこには齟齬が生じて、無理があると思うのです。
 そういう意味では、働くお父さんの存在をきちっと子どもたちに見せていくということ、家庭の中で仕事に関しての会話がたくさんあれば、それは働くということにつながってくるし、自分の人生の中での道が見えてくると思うのです。
 そういう意味では、いわゆる仕事だけをどうやって学ばせるかということではなくて、人生の中で、また家族関係の中で、仕事というものを位置づける必要があると感じました。UFJ総合研究所での調査でも、そのあたりについて、逆にニートの人たちがどう考えているのかということも少し掘り下げていただくと、解決の道筋が見えてくるのではないかと思いました。

【柵委員】
 地域差のことで私どもが実感していることを紹介したいと思います。富山インターネット市民塾では、eラーニングよる人材育成事業に5つの地域で一緒に取り組んでいます。その5つというのは、1つは雇用が非常に薄い地域、それから2つ目は高齢化の非常に進んでいる地域、3つ目は都市型、それから4つ目は大学が非常に熱心にやっているところ、5つ目は学習コミュニティーが比較的進んでいるところと、この5つでやっています。
 それぞれ特徴がありますが、例えば雇用が薄い地域があって、地域再生事業と一体的に取り組んでいます。このフリーター・ニートの問題、特に高校生に対する指導・取組をしています。それから高齢化が進んでいるところは、今、佐藤委員がおっしゃったような働いているモデルが非常に見えにくいということもありますが、そういう地域でどうやって高齢者が実感を持って若い人に働く経験をしてもらうかということに力を入れたりしています。それから、その5つの地域というのは、徳島県、和歌山県、高知県、富山県、東京都の世田谷区です。この特徴ある取組から、やがて実際にサービスをしていくというコンテンツもできてきますので、ぜひまた機会を見て報告したいと思います。
 それともう一点は、その中での取組では、eラーニングを使っています。ITは決していいことばかりではありませんが、非常に優れているのは、組織横断的な取組がしやすいということだと思うのです。実態としては、こういう取組は例えば県庁の中では、厚生労働部、教育委員会、商工というような部署で分かれてしまうと思うのです。そこをうまく横につなぐということは非常に大切なことで、そういうときのITネットはやはりプラスになっていると感じています。

【杉山委員】
 3点ばかり質問があります。1つ目は、単純なことですが、引きこもりの若者とニートの若者というのは、少し定義が違うのか同じなのかというあたりを確認したいということです。
 それから、先ほど湯川先生もおっしゃられましたが、ニートやひきこもりになる前の段階で手が打てなかったのか、予防の部分で何かご意見があればお伺いしたいと思います。「家庭・地域の教育力の向上に関する特別委員会」では、地域とか家庭のことを審議しておりますので、ニートの親はもう少しこうすればよかったというような部分で何かお考えがありましたら、教えていただければと思います。

【工藤委員】
 引きこもりは家から出られない人で、ニートは家から出る人です。ただ「社会的引きこもり」という言葉はありまして、定義もありますが、35歳ぐらいになると、ニートと社会的引きこもりは一体化します。要は社会的に孤立するからです。そういう意味では出所は違いますが、結果としては一緒になるだろうと思います。
 ニートやひきこもりになるもう少し前の段階での予防ですが、ニートの保護者から相談を受けますと、「うちの息子は友達がいないんですよ」とか、「昔はあんなにいっぱい友達がいたのに」と言います。お母さんにこんなことを聞きます、「お母さんは友達がいますか」、「いません」と言います。ニートの家庭というのは地域的な横のつながり、もしくは恥の意識も含めて、家族ごと社会から孤立しています。
 またニートの社会背景の1つとして、思春期の長期化が挙げられると思います。思春期は長期化しているにもかかわらず、子育て支援の年齢は上がっていませんので、中学生・高校生・大学生もしくは20代になると保護者同士の連携、もしくはPTA活動、子供会など半ば強制的に親を集めるようなものがなくなり、親同士の情報交換が非常に希薄になる方々が多いかと思います。そういう意味で、子育てしてない人間が言うのも何ですが、子育てが絶対化の方向に向かっていて、どうも相対化できていないのではないか。
 あるお母さんはずっと孤立気味で、中卒の息子に月数十万円のお小遣いをあげ続けたという例がありました。そのお母さんがインターネットで調べたのは、自分の世帯所得における子供のお小遣いのパーセンテージだったのです。そこの家はとてもお金持ちだった。それでパーセンテージを掛けたらその何十万円になっちゃった、全く悪気なくそれをやってしまっていたのです。隣のお母さんと一言でもしゃべれば、実際いくらとわかるのですが、それができていない。
 では、自分の息子がニートなのに、お隣としゃべれるかと言ったら、「いやあ、うちの息子はニートなんです、お宅は?」というわけにはやはりいきません。そうすると、ちょっと地域とか学校の親を呼ぶ強制性みたいなもの、もしくはほかに集まれる場所、思春期が延長しているのであれば、子育て支援も当然延長して、成人式は二十歳ですが、大人はだれも二十歳を大人とみなしていない。であれば、大人というのはいくつであって、いつまで、どうしていくのかというのは、もう一回ちょっと話さないといけないかなと思うのですが、そういう意味ではニートの親というのは比較的社会的に見ると、ニート状況なのです。お父さんは引きこもりなのです。長期化すると、お父さんとお母さんが同じ感じで引きこもっていくという感じになるのです。本人だけの問題ではないと思います。

【江上委員】
 私はキャリアコンサルタントの育成・推進の団体にかかわっているので、その切り口からちょっとお話し致します。今、厚生労働省が5万人のキャリアコンサルタントを育成するという計画を立てていますが、一応、統計上、計画の実行が可能なのは1.5万人ぐらいいるということになっております。ただ自称キャリア・アドバイザーとか、キャリア・カウンセラーとかいろいろな形でそういう活動をしている人を含めると、3万人ぐらいいると言われております。
 それでこの間、大会がありまして、私も初めて参加したのですが、どういうバックグラウンドの人が多いかというと、1つの類型はやはり企業で人事や教育、労務をやっていた、いわゆる人事マネジメント系のコンサルタントの方たちです。それからもう一つは、いわゆる行政のハローワークなどにいた方。それからもう一つは教育関係で、主に職業心理学とか進路指導とかをやっていた方、それからもう一つ4つ目の類型が、新しく定年になったので今度NPO活動をしようとか、あるいは女性のキャリアチェンジで会社をやめて今度NPOをつくろうとか、今までボランティアをやっていたけど今度はこういった分野が必要だからつくろうという方というように、4つぐらいの類型に分かれています。
 それで、それぞれ得意な分野があるし、スキルも違うし、知識や技能も違う。よって相手にしているニートの皆さんの種類というのが違っているわけです。そういう意味では、多分、委員それぞれの頭の中にイメージしているニートの像もかなり違うと思うのです。先ほどの実像のご報告でも、やはり達成動機がかなり萎えて冷凍状態にある方から、達成動機はあるけれども動かないという方まで、非常に多種多様になっているということが言えると思います。
 さきほど文部科学省の取組のご紹介がありましたが、かなりいろいろな教育段階、それから教育のカリキュラムや仕組みづくりに幅広に取り組んでおられるので、これはこれでよろしいかと思います。もう一つ、今こういう仕組やカリキュラムを導入しても、今まで行っている進路指導の先生方が、具体的にどうしたらいいのかがわからないとか、新しいスキルや新しい知識が必要だと、かなり多分野までコーディネートする能力が必要なので、ぜひ教育機関系におけるキャリアコンサルタントの育成事業というものを政策としてご検討いただきたいというのが1つ。
 それから2つ目ですが、先ほど糸賀委員がおっしゃった、では、我々のゴールはどこなのかという、これがすばらしいテーゼで、先ほど寺島委員は社会の制度設計の問題だとおっしゃいましたが、結局、昔は1年に1カ月ぐらいしか農業をやらない人も、全部従業者でカウントされていたわけですね。
 前回の特別委員会でご報告申し上げましたが、今、自営業者、家族従業者が非常に衰退しているわけです。全部がいわゆる組織労働の雇用者になってきていて、多様な働き方を許さない管理化というものが非常に進んでいます。これは1つはやはり産業政策とのリンクしているし、農業政策や食料政策あるいは伝統工芸をどうするのかといった産業政策など、国のつくり方ともかなりリンクした部分があろうかと思います。多分、専門高校でも、工業高校、水産高校、農業高校は就職率がいいと思うのですね。商業高校が一番低いと思うのですけれども、ですから是非文科省にお願いしたいのは、経済産業省とか農林水産省などと連携して、産業分野をどういうふうに活性化していくのかということと、教育現場と就職のあり方とをリンクさせたような議論の場というのを考えていただきたいということでございます。

【山本委員長】
 それぞれの委員会のほうでまたご議論いただければと思います。それで、今日の審議で出された御意見では、今までのものを見直すということと、それから新しいものも必要だというようなところがあるかと思います。近代の成人教育の歴史を見ますと、成人教育が社会を変えるときには、どこかが何かをやると社会が動き出すというのがけっこうあります。それから、現代ではニュージーランドなどは学習成果の評価について取り組んだら、経済が活性化したということで、OECDがそこに注目したというのがあります。そういうきっかけをつくるあたりのアイデアを出していただいて、生涯学習分科会の両特別委員会で検討して、さらにそれを分科会に上げていきたいと思いますので、よろしくお願いしたいと思います。今日はどうもありがとうございました。

―了―

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