国民の学習活動の促進に関する特別委員会(第4回) 議事録

1.日時

平成17年10月27日(木曜日) 15時~17時

2.場所

如水会館 「ペガサス」(2階)

3.議題

  1. 職業能力の向上のための方策について
    ・加藤委員プレゼンテーション
    ・江上委員プレゼンテーション
    ・自由討議
  2. その他(今後の日程など)

4.出席者

委員

 山本委員長、菊川委員長代理、渥美委員、糸賀委員、江上委員、加藤委員、工藤委員、小杉委員、坂元委員、柵委員、笹井委員、佐藤委員、田中委員、中込委員、水嶋委員、渡邉委員

文部科学省

 田中生涯学習政策局長、樋口政策評価審議官、中田大臣官房審議官、久保生涯学習総括官、大槻生涯学習政策局政策課長、吉田調査企画課長、三浦社会教育課長、清水男女共同参画学習課長、小川参事官、佐藤生涯学習企画官、その他関係官

5.議事録

(1)山本委員長より、あいさつが行われた。

(2)加藤委員から、「職業人のキャリア形成について」と題して、プレゼンテーションが行われた。

【加藤委員】
 職業人のキャリア形成ということですから、ほんとうは一般的にもう少し広がりのあることをお話しできればよいのかもしれないのですが、自分自身、自動車会社で10年ほど働きまして、その後20年ほど労働組合の専従をし、最近十数年は産業別組織で仕事をしてまいりましたので、その中で自分自身が見てきたものを、できるだけ具体的にお話をしたほうが参考になるのではないかと思いましたので、ものづくりの代表であるような自動車産業がどのような実態であるのかということをご紹介して、私のプレゼンテーションとさせていただきたいと思います。
 資料の1枚目をお開き下さい。私の属しております自動車総連の紹介を少し書かせていただきました。自動車総連といいますのは、自動車のメーカー、部品製造、販売、これは皆さんが車を買っていただくディーラーであります。それから車や部品を運んでいる輸送部門、その他の企業の組合を組織している産業別組織でありまして、現在、1,214組合、組合員数は70万人です。自動車といいますと、どうしてもホンダや日産やトヨタ、三菱といった大手のメーカーのほうに興味が行きますが、実際はそれらを支えている企業群は、もちろんこの数以上にございます。加盟組合の75パーセントは300人未満の中小企業でありまして、決して大手ユニオンということではありませんので、その点をまずご留意をいただきたいと思います。
 2枚目をご覧下さい。特に自動車産業、これはメーカー企業を中心に考えていただけばいいのですが、メーカーと大手部品の実情をお話ししようと思います。ものづくり産業としての自動車産業では、競争力の源泉は人であります。最近、ものづくりといっても、モジュラー型の産業とインテグラル型の産業というふうに分けて見る見方があります。IT産業のように、部品を組み立てていけば物ができるというのがモジュラー型、自動車のように、同じ部品を組み立てるのでも、組み立て方の工夫や、あるいは組み立てる際の手の加え方によって品質が決まってくるというように、プロセスに非常に技能・技術が必要であるというものを指してインテグラル産業と申しております。インテグラル産業の代表が自動車であって、非常に日本人の特性を生かした競争力の高い産業だと言われています。
 したがって、どのメーカーもいわゆる技能員が減っていく中にあって、自動車産業といいますのはまだ、例えば5万人の企業であれば、2万5,000人くらい、半分くらいの人は現場作業員ということになります。そういうことで、競争力の源泉は人だということで、その質を上げるために教育を大変重視しているわけであります。
 社内教育というのは大体OJT、オン・ザ・ジョブ・トレーニングが中心になりますけれども、技能や技術、専門知識、マネジメント能力というようなことを高めていくためには、OFF-JTも必要に応じて行う必要があります。これらは資格とか職位などが上がる場合に行なったり、あるいは希望者を対象に行っております。
 先ほども言いましたように、自動車産業には中小企業が大変多いわけですけれども、社内で例えば研修センターや教育研修所を備えて、いわゆるOFF-JTをきちんと整備しているのはやはり大手が中心です。中小企業は、ほとんどがOJTで行います。それをOFF-JTで行うために、中小企業が集結しているようなところでは、地域共同研修センターというものを模索したりしていますが、そのほかに親企業に派遣をして、研修派遣や応援派遣といった形で研修をしてもらったりしております。
 3枚目をご覧下さい。企業内教育制度は、大きく見てみますと、近年中身が変わってきております。これまでというのは、主にバブル崩壊までと考えていただいていいと思いますが、いわゆる少品種大量生産時代といいますか、生産も国内で大量につくり輸出をしていた時代ということですが、そのときには比較的全員一律にだれもが必ず受けるというような新入社員教育と、昇進・昇格の際に集合教育をしていくというような教育が一般的でありました。これは技術部門も似たような傾向がございまして、ゼネラリストを養成するというような部分があったと思います。
 バブル崩壊後は、製品も多品種少量になってくるとか、あるいは革新的な技術が要求されるといったようなことで、対象を層別にいたしまして、職種や仕事に応じた、あるいは仕事等級に応じた必要な専門技能や知識を習得してもらうために、比較的、的を絞って行っているというようなことでございます。特に間接部門では、最近、プロ人材の育成といった言葉を使います。この背景には右肩上がりの停止というものがあるわけであります。
 4枚目をご覧下さい。さらに背景といいますか、インフラ的な部分で、人事制度が戦後このように変わってきているということをご理解いただいておいたほうがいいと思うのですが、日本は三種の神器といいますか、終身雇用をはじめとして年功賃金が言われておりましたけれども、入社から定年まで毎年賃金が上がっていく、そういった年功序列型の賃金制度は民間ではほとんど消滅しております。日本型の成果主義賃金に移行しつつあるというのが今の段階だと思います。
 別の角度で見ますと、人に賃金がくっついている。例えば私が経理部門にいて、30万円の月給をもらっていたとして、それが例えば人事部門に移りましても、月給の30万円は変わらないわけです。しかし、賃金がポストで決まっておりますと、人事部門の係長として30万円でしたら、場合によっては、経理部門の係長の場合は35万円だったりするわけです。そういった仕事と属人というところで変わってきているということだと思います。それを目指していると言ったほうがいいかもしれません。
 年功序列賃金時代というのは、言ってみれば全員がほぼ一律で、あまり大きな差がなく、均質で勤勉な人材が求められていた時代だったわけであります。これが主にオイルショックで変わるわけですが、右肩上がり成長、急速な成長が終わり、中成長に入って企業の成長が緩やかになってくるとポストが増えなくなってくる。そうすると、職能や資格は上げていくけれども、ポストが上がらない人は上げないというようなことが出てまいります。そういうことで、複線化といいますか、幅が出てくるというのが昭和50年代だと考えております。
 それからバブルが崩壊いたしまして、低成長、成熟化になってまいりますと、どちらかといいますと、創造型の人間を求めるようになり、ダイバーシティ・マネジメントというようなことが言われます。そうすると、ある程度熟練をする期間と、能力を発揮していくステージで、処遇が分かれていくことになりますから、仕事や役割が上がらない人は、もう賃金も上がらないということになります。今、典型的に民間で見られますのは、上がらない方は40歳少し過ぎると、もうほとんど賃金は寝てくる、というような実態でございます。
 いよいよ5ポツ目から、社内教育制度を紹介したいと思いますが、ここから先の説明は、特にOFF-JT部分は、比較的恵まれた大手企業はこうであるというように受けとめていただいたほうがいいと思います。まず技能職種でございますと、バブル期までは、ひたすら生産が拡大していきますので、同じような製品を効率的につくる、そのために基本技能をきちっと身につけた上で、職位が上がっていくに従ってそれを管理・監督していくノウハウを身につけていくことが重視されておりました。バブル期以降になりますと、成熟市場、国内ですと成熟化、あるいはグローバル化ということで、多品種少量生産になってまいりますので、大変柔軟な生産体制が求められてまいります。
 それから、新たに出てきたのが海外生産です。この十数年で、海外生産は大変伸びております。現在、国内で日本の自動車を1,000万台前後つくっておりますが、今年はおそらく、海外生産が1,000万台を超える歴史的な年になると思います。メーカーだけでいっても、40カ国以上でおよそ200拠点の工場を持って、それで1,000万台ぐらいをつくっております。従いまして、海外で生産を行うときの支援体制が求められるわけで、その能力を持った人間を育てなければなりません。
 昨今では、流動的な雇用の方々、派遣や請負といった業種が大変伸びておりますが、自動車産業もそういう人たちを採用しておりまして、正社員は増やさないで、そういった方でコストを抑えながら生産するといったことが行われております。そういう意味で、正社員にはそういう人の教育も含めて、少数精鋭になってもらわなければならず、専門知識の他に指導力が求められ、さらには海外に行きますから、単にものがつくれるというだけではなくて、生産技術あるいは語学といったコミュニケーションの能力が求められるという時代になってきているわけです。
 6枚目をご覧下さい。事務技術系の職種のニーズがどう変わってきているかということであります。バブル期までは、これも技能職と一緒で、どんどん伸びていく時代ですから、課長になると実務はやらないといった時代だったと思います。赤鉛筆を持っていれば仕事ができるという時代があったわけです。今はそういう課長は要らないという時代になってまいりまして、バブル期以降は、高度な専門能力と世界的な視野を備えた人材が求められており、高度な専門知識と世界に通用するマネジメント力が求められるわけです。従来は、処遇のほうは比較的、年功序列的でありましたけれども、選抜もどんどん早期化をしてきて、若くしてマネジャーになったり、経営陣に入ったりする人が出てきております。
 7ページをご覧下さい。実際にどういうような教育が行われるかということですが、技能職種、これは製造メーカーA社とありますが、これは具体的にこういう名前で、こういうような社内でのマニュアルを写してきたわけですけれども、右のほうに、上位等級に従ってこういうことをやりますというのをOJTの中でやることを述べてあります。下から上に行くに従って、次第に高度なものになっていく。最初は決められたルールや仕事をこなすことから始まりまして、異常措置をできるようになる、それから専門的な技術や知識、変化が生じたときの異常対応といったようなもの、あるいはプロジェクトができるとか、そういうふうに上がってまいります。それをどのようにして身につけるかというのが、どういう技能者を目標としているかということですと、OJTの中で特に現場のリーダークラスぐらいをイメージしますと、求められる力としては、1つの技能だけではなくて、多くの技能を修得するとか、あるいは設備のこともわかるとか、あるいは未経験者への指導力や海外支援というようなことが入ってまいります。
 8枚目をご覧下さい。技能職種の教育実際例ということで書かせていただきました。企業は相当なコストをかけてやっております。OFF-JTで申しますと、主に技能職種の場合、課長になる前に大体四、五ランクの職層があるのが一般的でありまして、昇格前にそのつど一定人数ずつ数日から10日間程度、ライン作業を外れて教育をします。グループリーダー前の例を挙げますと、160人ぐらいの規模で上位資格に向けた能力・考え方をケーススタディや問題解決手法を使ってやります。社内の課長級や部長級の方々が講師になって行うのが特徴的でございまして、講師の側もこれによって人を教える力を身につけていきます。
OFF-JTの例でいいますと、技能者であっても、希望した人、あるいは指名によって、例えばエンジン制御や電子回路、パソコン制御、シーケンス、モーター制御など30から40種類ぐらいがありますけれども、3日から1週間ぐらいラインから外れて勉強する機会がございます。自動車整備工の資格を目指す人は、これもライン外で150時間ぐらいが充てられます。それから、技能五輪に出るような方は、2年間ぐらいラインを外れて、ひたすら金メダルを目指すというようなこともあります。それから、昨今では基礎技能が大事だということで、技能塾といったところで1年ぐらいかけて、いわゆる手先の技能を鍛える場もございます。あと英会話の勉強、これは現場も行うということです。
 事務技術職種になりますと、自動車メーカーB社ということでありますが、OJTの場合には、主に双方向コミュニケーション、いわゆる上司と部下の面談を面接シートを使って年に二、三回から数回にわたって行います。みずからのキャリアをどうやって切り拓くのか、現状の強み、弱みを把握して、自分は5年後に何を目指すのかといったようなことを不断にやり取りをしながら、自分の伸ばしていく点を明らかにしていきます。会社としては、OJTですから、日常的にそういうものを鍛える機会を提供します。それとは別にe-ラーニングも提供いたします。本人は、自分でビジョンをつくり、ミッションを確かにさせて、その実現を通して自分のキャリアビジョンを実現していくということになります。
OFF-JTということになりますと、事務技術職種のキャリア開発ということでそこに述べましたけれども、自動車メーカーB社でありますと、OFF-JTは全員を対象とするものはやはり昇格のときにマネジメント能力ということで、コーチング研修やダイバーシティ・マネジメント、評価者研修というような集合教育を受けます。選択研修というのは、折々に指名または希望によってチームビルディングを行ったり、企業間で交流を行うといったものが最近盛んですが、部下の育成のためのコーチの研修を受けたり、経営基礎講座、こういうのは社会に出て行う場合もありますが、こういったようなことを行います。最近はコンピテンシーという概念が日本でも大変注目をされておりまして、主に自分で磨くということですけれども、これを行うための開発トレーニングに随時取り組むということがございます。
 自動車メーカーC社経理部門の例で、職層別とありますが、これは大体部長になるまでにこういうチャンスがあると考えてもらえばいいのですが、会計事務所や金融機関に大体一、二カ月研修に行ったり、海外に短期で出かけたり、あるいは国内関係会社で研修をしたり、そういう形でキャリアを磨くことができるということであります。
 上級専門職になってまいりますと、これは特に課長から部長ぐらいだと解釈してもらえばいいと思いますが、国内の会計事務所や金融機関にまさに一年か二年出向したり、留学をして学位を取ったり、あるいは社外のセミナーに長期間所属をしたりというようなことができるということでありますが、こういった形で、OFF-JTが行われているということでございます。
 少し雑駁だったかもしれませんが、主に自動車関連の大手企業ではこんな形で人材を育てていると、ご理解いただければよろしいんじゃないかと思います。
 ご清聴ありがとうございました。

(3)加藤委員のプレゼンテーションについて、質疑応答が行われた。以下、その内容。

【小杉委員】
 3点お聞きしたいことがあります。
 第1点目は、日本の企業は最近、企業内の職業訓練にお金をかけなくなったのではないかというようなことが、巷でよく言われていますが、これについてはどう思われていますか、という点です。
 2点目が、職種が結構専門的な分け方をされてきている、専門職化しているというお話がありましたが、お話された海外留学や、社外セミナーでとった資格など、企業外で受けた訓練は、どのように評価されているのか、賃金に反映するとか、その評価があるのかどうかという点です。3点目は、自動車産業にかかわる、これまでのメインの方ではない、請負とか派遣とか、そういう形で自動車の製造工程に入られている方に対する能力開発というのは、現在どのようになっているのか、もしご存じだったら教えてください、という点です。以上3点です。

【加藤委員】
 まず1つ目のご質問について。不況になると、企業は3つのK、教育費、交際費、広報費を削るそうですが、そういう意味で、一般的には総量が減った時点はあると思います。ただ、最初に申し上げたように、自動車産業というのは比較的人に頼る部分がありますので、教育費を削ってもその削り代というのはそんなに多くないと思っております。ですから、ほんとうに厳しくなったときには、多少不要不急の研修は削りますけれども、今時点で申しますと、むしろプロ人材を育てなければいけないというニーズが強いものですから、教育費はむしろこのごろは増えているのではないかと思います。
 2つ目の専門職化という部分ですが、企業外で研修したものがそのまま自分の評価にプラスアルファになるかというと、その答えはノーです。先ほど言いました、ツーウェイ・コミュニケーションの中で、上司が自分のミッションやつくったビジョンをクリアしたと判断をしたときに賃金も職位も上がっていくわけでありまして、ただ資格を取ってきたというだけでは金も職位もつかないと思っています。
 それから3つ目の、請負・派遣ですけれども、これは非常に難しくて、これも答えは実はノーでございます。請負・派遣をなぜ使うかといえば、コストをかけないでいきなり戦力になるから使っているわけなものですから、実際に来た人たちに、このような丁寧な能力開発はしておりません。ただ、先ほども言いましたように、自動車産業の場合には、いわゆるほんとうの単純作業工程というのは非常に少ないものですから、やはりOJTで職場の正社員が手取り足取り教えますし、必ずラインから浮いている人間がおりますので、そういう管理監督やグループ長といった人たちが、相当な期間指導につきながら、技能を上げてもらうというようなことはやっております。

【坂元委員】
 企業内教育はもともと自発的に進んでいると思うのですけれども、そうした状況のなかで国とか行政の取り組みについてどのようなことを期待されておられますか。

【加藤委員】
 実は労働組合としても、人を育てるという側面では単に今その人が持っている力だけを売るということではなくて、やっぱりその能力を上げて、自分を高く売ることもサポートする組織だと思っております。そういう意味では、1つは、先ほども言いました中小企業の場合に、なかなか人を育てるような設備を持つことができませんので、地域のコミュニティー・スキルアップ・カレッジといったものに積極的に支援をしてもらいたいという政策要請を行っております。
 もう1つは、雇用の流動化が進んでまいりますと、場合によったら企業をリストラされて、ほかの企業に移っていく場合があります。そういうときに、自分が持っている技能を何らかの形で資格化をして、それをどこでも通用するものにする。今でも実はそういう制度があるのですけれども、実際には形骸化をしておりまして、技術はどんどん進歩するので実態に合っていないとか、あるいは自動車産業の場合には、大変シンプルな技能を組み合わせて使うといったような場合が多いものですから、なかなか現実にマッチしないということがございます。そこで、現在、厚生労働省のプロジェクトで、せめて産業内、できれば電機産業あたりと産業内における資格制度といったようなものができないかどうか、プロジェクトが進行しています。そういった行政でなければできないような分野がありますので、その辺を期待していますし、サポートをしてもらっているということはございます。

【糸賀委員】
 ただいまの質問とも若干関連するのですけれども、手元に配られた資料の「2.企業内教育の実際」の一番最後のところに、中小の場合には「地域共同研修センターの設置」などが模索されているとございました。この地域共同研修センターあたりで、今も出ましたような、行政との関与といいますか、例えば市町村の生涯学習行政とのかかわりということがあるのでしょうか。私が聞いているところでは、今まで日本の企業内教育は、大企業系列のもとで、大企業から仕事も情報も流れてきた。場合によっては、企業内教育、社内の人材育成のノウハウも大企業から中小企業に流れてきた。ところが、そういうメカニズムがもう破綻したというか壊れて、その一方で、マイクロビジネスなんていうものがどんどんどんどん生まれてきて、そういうところでは必ずしも人材育成ということが継続的にはできないということを聞いております。
 かといって、自前でそういうことができないだけに、これはある程度行政のサポートが必要なんだと聞いているわけですけれども、実際に中小企業とか零細企業、あるいはマイクロビジネス、ベンチャービジネスといったところで、今後の人材育成にどういうふうに行政がかかわれるのか。その1つの可能性としてこういう地域共同研修センターの設置のようなものがあるのでしょうか。民間でやっている人材育成は、それはそれで結構ですが、その一方で、公的な生涯学習のかかわりの可能性については、どういう見通しなのでしょうか。

【加藤委員】
 可能性としてはあるからこそ、こういうのを要請しているのですが、私の知る限りでは、まだ実際に行政がかかわって行われている事例はございません。ですから、今、電機産業の組合である電機連合と、産業別組織を超えて、スキルアップのために、今ある教育施設をお互い提供し合って、技能を磨いていこうとしています。これは労使でやってますが、そこに今の職業訓練校がございますね、あれが実際には陳腐化をしていて、なかなか現実の仕事に結びつかないという実態がありますので、そういうところに箱物を提供してくれないかと求めているというのはございます。
 実際にそれが実現したかどうかというのは確認はしておりませんけれども、そういった活用法、特に先ほど言いましたコミュニティー・スキルアップ・カレッジというのは、企業の中に研修を教える人材はおりますので、そことうまく連携ができれば、結構中小企業の人たちが通えるようなものができ上がるのではないかと思っていますが、現実にはまだそういうものがうまくコラボレーションできている例はございません。

【糸賀委員】
 そうしますと、ここに挙がっているものは模索をしている段階であって、具体的に実現した実例というのはまだないということでしょうか。

【加藤委員】
 自動車産業に関しては、残念ながらまだないです。

【佐藤委員】
 2点お聞きします。まず1つ目ですが、団塊の世代が2007年に大量に退職するときに技術を継承していくのが難しいという課題が、昨今よく言われていますけれども、自動車産業では現在どういう状況で、研修制度などで特別な対策を行われているのかどうかという点です。もう1つは、年齢の高い方は、今の高度なIT技術を使うのは非常に大変な部分があると思いますが、この点で問題は生じていないのか、研修である程度カバーできているのかどうかという点です。以上2点について教えていただきたいと思います。

【加藤委員】
 まず1つ目のご質問について。2007年問題というのは、確かに自動車産業でも問題としては存在しています。しかし、先ほども言いましたように、自動車産業の場合は、技能職種の人が相当大勢います。したがって、不況のときも全く採用をやめてしまった企業というのは、それほど多くないということで、ある程度は技能が伝承されていきます。ただ、以前に比べると、若い人にどんどん技術が継承されていく状況にはなっていないことは事実なのですが、同じ金属産業の中で相当困難な状況にあると聞いていますのは、どちらかといいますと、造船業とか鉄鋼業のほうがより深刻な状況にあると聞いています。というのは、大変な不況、リストラを経験していますので、例えば、名前を言ってもいいと思いますが、八幡製鉄所なんかは、かつて7万人ぐらいいた社員が、今は1万人もいない、7,000人ぐらいになっています。その間はほとんど採用してないわけです。ですから、そういう産業に比べますと、自動車産業の場合はまだ社内にそういう年齢構成が途切れた部分というのは、それほどないのです。ですから、比較的まだいいほうではないのかと思っています。ただし、スムーズにいっているかどうかといえば、企業としては危機意識は持っておりますので、なるべくそこを意識して、次の世代を育てていくという観点を持っているということは確かだと思います。
 2つ目のご質問で、ITに適応できるかということですが、確かに現場の年配の方で、そういうことにはなじめない人がおります。したがって、高齢者が増えてきて、今、再雇用制度で60歳過ぎてももう一度雇用したりしていますけれども、仕事をつくりだしていくという観点が実は必要になってきているのです。つまり、若い人は若いころからやっていますからいいのですが、今の2007年問題に象徴されるような団塊の世代の人たちは、ITになじめないような人たちもおります。そういう方々でもこなせる仕事は別になくはないものですから、そういう仕事をつくりだしていくということです。体力もだんだん発揮できなくなりますので、例えば1日8時間として、午前中の4時間だけ、あるショップで仕事をするとか、午後だけやる人がいるとか、そういうハーフ勤務といいますか、2人で1人分の仕事をするとか、あるいは作業を2つに分けて、ITとできるだけ関係のないような補助作業を高齢者にやってもらうとか、そんなような形で賃金は下がりますけれども仕事をやり続けてもらうことがこれから求められておりますので、そういう研究も随分進んできたと思っております。

(4)引き続き、江上委員から「女性のキャリア形成について」と題してプレゼンテーションが行われた。

【江上委員】
 それでは、キャリア形成と職業能力の関係についてご報告をいたします。
 実は、この女性のキャリア形成については、平成15年を中心に、多様なキャリアが社会を変えるということで、第1期は女性研究者への支援、第2期は女性のキャリア全般をテーマに2回にわたって非常に濃密な研究会を行いまして、私もそのメンバーに加えていただいております。その研究会の報告書は既に出ておりまして、これは文部科学省のホームページからダウンロードしていただけます。研究会の結果、8,500億円だったでしょうか、平成18年ぐらいまで女性のキャリア支援のプロトタイプの事業ということで、予算もついて実行に移されております。この報告書には、かなりいろいろなことが網羅されておりますし、また私が申し上げたことも入っておりますので、機会がありましたら読んでいただきたいと思います。
 お持ちしたペーパーはわりと一般的なことをまとめてあるのですけれども、私自身の過去の経験と立場から少し具体例を加えてお話をしたいと思います。私が大学を卒業するときというのは、大卒女子の有効求人倍率などは極めて惨たんたるものでした。大卒女子を大手企業では都市銀行が初めて窓口のテラー業務に試験的に配置をするという時代で、大卒男子と女子の初任給の格差が8,000円ほどある時代でございました。ですから、私は当時、今でいえば総合職第1期生のテストケースのような採用で、流通業の人事部人事課に入りまして、そこで大卒女子の採用から雇用開拓、育成まで担当せよということからスタートいたしました。その後出版業に転職をしたのですが、ここでもやはり大卒女子については、嘱託という形でしか募集がなく、男性だけで正社員を構成しているような時代でした。
 そういう流れの中で、私は主に80年代から90年代にかけてリクルートで求人情報誌の『週刊B-ing』や『とらばーゆ』という情報誌の責任者をしてまいりまして、あらゆる企業の採用情報、育成情報、求職者の求職の動機などにずっと触れてまいりました。その後は大学で社会変動と就業構造、あるいは企業と社会というような科目をうけ持ち、フィールドワークを中心に教育研究をしてまいりました。また近年はJR東日本が完全民営化するにあたり、女性の育成、それから民営化に即したさまざまな施策の開発をやってまいりました。
 冒頭、鉄道業界の例を申し上げますと、例えば国鉄時代は女性の職員は全く採用しておりませんでした。ですから、国鉄時代は特別な形の秘書職以外は全部男性だったわけです。1987年に民営化して、初めて女性を正規の職員として採用し始めたわけです。JR東日本の例を申し上げれば、7万3,000人ぐらい、グループでは8万3,000人の従業員がいますが、女子社員は2,000人ちょっとです。ですから3パーセントぐらいの比率です。その中で、ようやく第1期生、第2期生あたりが管理職に登用できる勤続年数と対象になってまいりましたので、課長の中での女性比率は5、6パーセントぐらいです。部長職は附属の病院でおりますけれども、私1人というような状況でした。世界各国の鉄道業界と比べてみますと、ヨーロッパが大体、15パーセントから20パーセントぐらいの女性比率です。管理職ですと1割ぐらいということです。世界的に見ても鉄道産業は非常に特異な産業で、先ほどご紹介があった自動車産業は、かなりユーザーに近い産業になってきているので女性管理職も増えておりますが、鉄鋼とか機械ですね、鉄道というのは最もきわまったシンボリックな業界の例だと思います。サービス業からそこまで非常に幅があるということで今、女性の職業が少しずつ変化をし始めているというような状態でございます。
 ペーパーをめくっていただいて、要約のところは私の考え方を少し書いてございます。女性のキャリア形成を支援していく生涯学習の方向というのが、フリーターとかニートとか、あるいは、これからの団塊の世代やシニアの新しいキャリア開発です。それから、日系人も含めて外国人が具体的に統計にあらわれないところで、たくさん入国して仕事についております。こういった外国人たちの合法的なキャリアの位置づけ、キャリア開発があります。それから、男性の価値観がかなり変化しております。特に今、20代の男性の中では、家庭よりも仕事、生活よりも仕事というような、かつての50代の方たちの仕事観というのは、もう極めて微小になってきております。その意味では、仕事と家庭両立型の考え方が男性にも非常に増えてきておりますので、男性のキャリア開発にも資するのではないかということでございます。
 それから、女性のキャリア形成の問題を考えると、子を産み、育てる性ということで、職場あるいは個人の能力の問題だけでは解決に結びつかない、家庭と地域と職場と学校と社会、文化、国というのがすべて複雑なチェーン構造のように絡み合っている問題があります。ですから、これを解きほぐすような支援政策、場づくりというのは非常に重要で、その1つの大きな戦略の柱になっていくのは、私は生涯学習システムではないかという考えを持っております。
 さらにその推進の中心となる機関というのは、従来は社会教育分野で、公民館であり、市区町村のセンターであり、図書館、博物館、美術館というところだったと思うのですけれども、それも含めて新たに再編成する形で、これからは大学が大きな柱になっていくのではないかと感じております。
 次のページをご覧下さい。
 まず1番目、現状における女性の位置について、少しマクロ的に見て、今、女性のキャリア面で、多様なキャリアというのがどういう状況にあるかということですが、1990年以来国連が毎年発表しております「人間開発報告書」によりますと、2005年のデータは、2004年よりも後退しているという結果でした。
 このHDIというのが人間開発の達成度ということで、平均寿命、識字率、就労率、国民所得でして、日本は2004年が9位で、2005年は11位でした。GDIが男性と女性の格差で、こちらは日本が12位であると。女性の社会参画で、女性の能力が社会的にどのくらい活用されているのかということを示す指標だと一般によく言われておりますGEM、ジェンダー・エンパワーメント・メジャーは、2004年は38位ですが、2005年は43位になっておりました。これは国会議員の比率とか専門技術職の比率、管理職の比率、男女の推定所得とかを指標として使っています。
 上位にどういう国が入っているかというと、ノルウェーやスウェーデンなどの北欧、それからヨーロッパ、旧共産圏、それと比較的新興国ですね、国の歴史が浅いカナダとかオーストラリアなどが上位にきているというところです。日本の場合には、HDIが9位なのに、なぜGEMが38位あるいは43位なんだろうかと。やはりここに大きな問題の鍵があるのではないかというところでございます。
 次のページをご覧下さい。各分野の女性の参加というところです。国会議員のこの比率は、この間の衆議院選挙で大分また変わったのではないかと思います。
 次に就業分野における女性の参加ですけれども、労働力率が女性は48.3パーセント、男性は73.4パーセントです。この労働力率は女性は以前はもっと高かったわけです。農業に従事していた家族従業者が非常に多かったし、自営業者も多かった。それがどんどん自営業、家族従業に従事する人が少なくなって、第1次産業に従事する人も少なくなって、多くが雇用者という形での働き方になってきた。そこでまたいろいろさまざまな問題が表面化してきているということもあろうかと思います。
 役職別管理職に占める女性の割合は、民間企業ですと、部長職2.7パーセント、課長職5パーセントです。ちなみにアメリカですと、課長職は4割ぐらい、部長職は3割ぐらい。ヨーロッパですと2割ぐらいです。
 女性一般労働者の給与水準は、男性を100とした場合、68.8ということです。
 それから、先ほどマイクロビジネスのお話も出ましたけれども、国民生活金融公庫のリサーチによりますと、2004年に新規開業した事業経営者は、女性が16.1パーセントで非常に増えています。これは、過去最高の数字だったと思います。新規開業するさまざまな要件において、少しずつ女性が参入しやすくなってきたということも言えるかと思います。
 次に、女性に増大する非正規雇用について、ニート問題等についてはまた近いうちに小杉委員等々からもレクチャーがあるかと思いますけれども、女性という観点で見ますと、今、女性の全従業者の半分が非正規雇用だということです。特に若年でそれが進んでいるということです。給与階級で見ますと、年収300万円以下は女性は65パーセントで、男性の場合には18パーセントということです。
 次のページに、近年の労働法制の改正と契約社員、派遣社員の増加について引っ張ってきております。グラフを見ていただきたいのですけれども、派遣社員は過去統計をとっていなかったので、近年しかデータがございません。2005年、まだこれは少しなのですけれども、この間、労働者派遣に関する法律は非常に急速な勢いで改正を重ねてきております。かつてポジティブリストということで、この職とこの職種だけ派遣を許可するということだったのですけれども、今ネガティブリストになっておりまして、警察、建設、公安以外は原則オーケーということになりました。ですから、今、製造業でも医薬業界でも派遣がオーケーということになりまして、これから急速に派遣が増えていくと予想されます。それから、新卒の紹介予定派遣もオーケーで、非常に企業の採用意欲もこの制度について高いので、派遣という形での働き方というのは、今後さらに急速に増えていくかと思います。
 今まで労働法制では、経済のグローバル化や産業就業構造の変化や就業意識の変化、家庭生活との調和という、労働者を主体的にした働き方のルールづくりという流れの中で、労働基準法も緩和しましたし、女子保護規定も撤廃しました。それから、あわせて今度、男女雇用機会均等法を禁止規定にして、育休・介護法も変えて、派遣の1年以上勤務している人も対象になるとか、次世代育成支援対策法もつくって、301人以上の企業については、育児との両立について計画をきちっと出さなければいけないとか、さまざまな法制度が整備されつつあります。それから産業界において、経団連が90年代の前半に推奨したこれからの人事政策というのは、3つの構成に分かれていて、1つは幹部候補生の採用で、早期選抜で育成する。もう1つは専門人材の導入で、これはある程度流動化し契約雇用についても配慮した採り方をする。もう1つは補助型労働で、これは派遣とかパートとかアルバイトなどの臨時雇用とか季節労働者で、回転労働力です。経団連が推奨した人事戦略というのはそういう形だったわけです。そのとおりに産業界、特に大手企業はなってきています。その結果として、こういう働き方が増えていくのは、当然の帰結ということでもあるかと思います。
 次に、非正規雇用と学習や能力開発、教育訓練がどういう関係にあるのかということです。これは今年の能力開発基本調査のデータですけれども、派遣労働者とパートタイマーと正規従業員が、どういう理由で学習ができないのかということですけれども、忙しいと答えているのは正規従業員ですけれども、年収が低いのでお金がないとか、家事・育児が忙しくて勉強する時間がないとか、あるいは勉強の機会に接する情報がないとか、仕事を教えてくれる上司や先輩がいないとか、こういう傾向が見てとられるということで、学習する機会、情報、上司、環境、そういったことが比較的少ないということがうかがわれます。
 次に女性と企業内教育訓練・自己啓発の実態について見ますと、男性と女性で勤続年数がだんだん縮まってまいりましたけれども、まだ少ないですから、勤続年数が短い女性は、階層別の教育機会を得ることはなかなか難しいです。しかも、今女性がついている職種というのは、圧倒的に事務職が多いのです。事務職、それから専門技術職、もっとも女性がついている専門技術職は専門学校1年ぐらいの比較的専門度の浅い職種です。それからサービス、販売職、製造技能職という順番になります。そうすると、間接部門の補助的職務に多く従事している女性というのは、付加価値の高い教育機会を得ることは企業内では難しいということです。キャリア開発についても、助言者が少ないということです。
 次に、働く女性のOFF-JT集合研修の受講率ですけれども、これも能力開発基本調査のデータですけれども、平成16年ですと、全体で見ますと3割弱、集合研修を受けているということですが、その細目を見ますと、男性は3割強受けているのに対して女性は2割強と、1割ぐらいの格差があるということです。
 次のページの教育訓練の平均受講時間についても、男性と女性で見ますと、それぞれ若干の差があるということです。
 次のページ、自己啓発の目的ですけれども、知識・能力、キャリア形成の準備というのが大きな目的ですが、男女別に差があるところを見ますと、キャリアアップに備えてというのが、男性は36.1パーセント、女性は41パーセントということです。これはある程度考えられる理由としましては、男性の場合には企業内での昇進の経路が確立されている、予見されている。女性の場合には、横に移動することでキャリア形成を図っていく事例が多いというようなことも考えられるのではないかと思います。
 次に、自己啓発・職業生活設計の際に不足している情報ですが、これは男女通して一番多いのは、自分で能力開発をした後、一体それがどういう処遇に結びつくのかが見えにくいというのが、3割強でございます。男女差で見ますと、女性は少し男性よりも低いですが、同じ認識を持っているということです。
 次に、働く女性と企業内でのキャリア形成の相談実態ですが、これは平成12年に私もこの調査の委員をいたしましたが、社内でキャリアの相談・アドバイスをどの程度受けることができるかという調査でございます。「十分受けることができる」、「ある程度受けることができる」ということを合わせると、やはり男性に比べて女性は少ないという状態になっております。
 次の4番目、女性のキャリア形成と少子化ということに入っていきます。少しマクロ的に見ていきますと、女性のキャリアがさまざまな分野で図られている、あるいは、先ほどのGEMの指標で見ましても、女性のキャリア形成と女性の労働力率というのは、ある程度相関が見られるのではないかということです。これはいろいろな研究が最近発表されておりまして、そういうデータからも、その傾向が見られております。
 それから、女性の労働力率が高い国では、合計特殊出生率も高いということで、OECDのGDP1万ドル以上の国では、出生率がおおむね2.0を下回って、人口置換が厳しい状態なのですが、少子化国共通の状態でありますけれども、労働力率と出生率が正の相関関係を示しています。これが70年代と80年代とは若干違っているわけですが、次のページに日本と諸外国の女性の労働力率が挙げられておりますけれども、これは黒いほうのデータは15歳以上ということで、四角模様のデータは生産年齢人口です。生産年齢人口だけ見ますと、日本も60.2パーセントになっておりますが、全体データで見ますと、日本は比較的低い、韓国より低いという状況になっております。下が国際比較の年次別のデータですけれども、労働力率がスウェーデン、オランダ、アメリカ、イギリスなどは上がってきておりまして、韓国なども女性基本法を制定して以後、急速に上がってきております。日本の場合には、かつて高かったのが、少し下がって横ばいを続けながら、微減したり微少したりしているという状況にあるということです。
 次に女性のキャリア形成を促進する社会環境の条件ですけれども、1970年代から80年代にかけて、北欧は日本が今までたどってきたような、均等法あるいは均等法の改正による男女雇用平等法を実施してきて、育児休業法とか個人別税制の適用など総合的に施策を施してきた結果、80年代後半から上がってきております。特にスウェーデンの生涯学習の充実というのは大変有名ですけれども、生涯学習によって女性がさまざまな分野に職業能力を広げて、それが社会化されているというような実情もあるということがありました。日本の場合には、均等法をつくって均等法を改正してきていますが、なかなかそれが実現に至らないというような状況があるということです。
 今年、内閣府で6月に発表しました少子化に関する研究があるのですけれども、これなども非常にいい示唆をしております。
 女性のキャリア形成を促進する社会環境の準備ということでは、やはりワーク・ライフ・バランスということが重要でございます。子育て支援の充実、子育て費用の軽減、家族による支援、そして多様なライフスタイルの選択などが重要になってまいります。その中で、多様なライフスタイルの選択のところに、ポジティブアクションの普及ということを書いてございますが、このポジティブアクションというのは、均等法改正した後、均等法の20条に、今ある男女の格差を積極的に是正することを国とか自治体ができるということを定めているものですが、このポジティブアクションを今後、産業界あるいは地域などさまざまなところに適用していくのが、非常に重要になるのではないかと考えております。
 次に産業界のデータでございますけれども、これは日本能率協会が上場企業、非上場の有力企業1,000社ほどに調査したデータです。女性管理職が少ない理由というのが、やはり1位には、平均的勤続年数が短いので対象層が少ない、2番目には、必要な知識、経験、判断力を有する女性従業員が少ない、管理職に該当する能力の女性たちがまだ育っていない、あるいは抱えていないということがあるかと思います。それから、社内に目標とする女性管理職がいない、少ないためということも3位に挙がっております。
 産業界は女性のキャリアの育成についてどうとらえているのかということでございますが、その次のページが、これも同じデータで、今、産業界の経営課題は何であるのかということを調査したものです。90年代は徹底的にローコスト経営に徹してきたわけですけれども、今後は産業界の経営課題は新事業、新商品、新サービスの開発ということが一番にきております。その中でどういう戦略をとるかということで、ここで攻めの強化のところの下にダイバーシティという言葉が出ております。そして対応策としては、女性の活用、海外人材の活用というものが出ております。先ほど加藤委員からもダイバーシティという言葉が出ましたが、これはアメリカで1990年に出てきた言葉です。アメリカの産業界で、人材マネジメント、ダイバーシティというのが最も重要なテーマになりました。アメリカにおいて、やっぱりこれはマーケットから出た問題です。アメリカでアフリカン・アメリカンとかヒスパニック・アメリカンとかアジアン・アメリカンがマーケットで消費者として、非常に大きなパイになってきたということなのです。それに対応する施策として、企業内にいる出身国の違う、肌の色が違う人たちを、もっと意思決定の場につけて積極的に活用しなければ、やはり事業政策としてなかなか効果的にならないということが出てきたわけです。
 それとダイバーシティ・マネジメントということが出てまいりました。日本でもダイバーシティというのが近年言われ始めました。やはり日本でダイバーシティと言えば、圧倒的にまず女性の問題になるわけでございます。次のページに行って、このダイバーシティで女性の活用を企業がどの程度意識しているのかということですが、このポジティブアクションの施策を従業員数1万人以上の企業は4割が行っております。中堅企業の場合には2割ぐらいが実施しています。
 実際、今までは産業界において女性のキャリア開発や育成の問題は、お荷物である、企業にとってはコストであるという認識が強かったわけです。ほんとうに企業にとってコストなのかということなのですけれども、80年代、私もリクルートで仕事をしておりましたとき、調査をして同じ結果を得ているわけですが、次のページ、産業界の女性活用と経営業績の関係というデータがあります。これは21世紀職業財団のデータですけれども、経済産業省も同じような調査研究を行っておりまして、比較的近い傾向の結果が出ております。競争相手の企業と比較して、自社の方が経営業績が比較的よいのか、5年前と比較して売上指数がどうだったのか、それに対応して、女性の能力発揮の取り組みの自己評価と女性管理職比率の変化ということを見ますと、明快な相関グラフは描けないものの、大体やはりいい傾向を示しているということが言えるのではないかと思います。
 先ほどの女性のキャリア育成のための社会的条件の整備のもう1つですけれども、若年者の経済的自立の可能性を高めていくということも非常に重要であるということです。若年者の失業率の高まりが、家族形成、つまり結婚がおくれる、家族をつくることがおくれていくという傾向につながっております。若年層の非正規雇用の増大というのが経済格差をつくりだす要因の1つでもあり、将来への不安も喚起します。そして、親同居の依存生活からの独立を促して、家族形成へ向けて自立の可能性を高めていくような支援、あるいは地域の環境づくりというのも非常に重要であるといえます。
 それからもう1つ、安全かつ安心な地域社会をつくっていくということも、女性のキャリア形成の社会的条件の1つであるということをここに書かせていただいております。
 次のページにキャリアとは何かということですけれども、かつてはキャリアというと、職業上の成功を意味するというふうな認識で日本で使われていたかと思いますけれども、近年はさまざま人口に膾炙されるようになって、キャリアが非常に幅の広い概念であると理解され始めております。ちなみに、キャリア開発に言及されている文献の中からですと、大体、昇進・昇格の累積、あるいは専門職業としてのキャリア、あるいは生涯を通じた一連の仕事としてのキャリア、あるいは職業として成立していなくても生涯を通じてさまざまな役割や活動経験としてのキャリアなど、非常に包括的にキャリアをとらえて考えていくというような環境が出てきているかと思います。
 キャリアコンサルタントという職業が今非常に注目されているのですけれども、これは平成12年に厚生労働省で考えた研究会の中で、私も加わらせていただいたのですけれども、今まで企業にゆだねていた自分のキャリアの形成を、これからは個人が主体的にしなければならないという状況の中にあって、やはりキャリアについて専門的に指導、助言していく職業人が必要ではないかということで、キャリアコンサルタントという資格をつくる奨励をしたわけです。
 次のページに個人の能力開発は「会社主導から、自分の力へ」ということを書いてあります。これも今年発表しました能力開発基本調査の中で、従業員に調査をしたものです。3万人の従業員に調査票を配付して、サンプルは3,500ぐらいですけれども、今までは能力開発を会社に任せていたが今後は自分の力で行っていくというようなことが非常に明確に出ているということです。
 私もいろいろコミットをさせていただいておりますけれども、職業に関する能力構造の研究調査というのが、この3年ぐらい極めて盛んになっております。いわゆる従来の職業構造のモデルが現状に合わなくなってきているので、極めて細分化して、大規模な調査をいろいろかけております。
 例えば、ここに持ってきましたのは、企業が求める人材能力に関する調査で、これは2005年1月の調査で過去3年の経年比較をしております。例えばIT関連とか研究・技術職を見ていても、業務に精通しているのは当たり前のことですが、この中でも過去と違うものがあるわけです。レーダーチャートのグラフを見てみますと、非常に成果重視型になっているということです。それから、問題解決の能力で、いかにソリューション能力が高いかということです。それから、チームワークで、いろんな能力、いろんな分野の人たちをオーガナイズしてコーディネーションしていく力が必要とされています。それから、これが生涯学習の議論につながると思うのですけれども、継続的学習です。常に技術が日進日歩して市場が変化をしていく、市場のルール、条件、法改正がおびただしいほど進んでおり常に継続的学習が必要です。こういう調査を通して全体的な傾向を見ますと、複雑な仕事、複数の仕事を臨機応変に進めていく力というものが、全職種に共通して必要になってきております。それから、効果的な動機で後輩とかチームメンバーを導いていく動機づけの能力、それから、部下や後輩のキャリア開発を援助していくといったメンタリング、サポーティング、指導力が必要になってきています。営業、販売分野の職種は、顧客満足の追求するため相手の立場を洞察する、インサイトする力が必要になってきているなど、かつての厚生労働省などが1つの指標にしていた職業能力と随分変わってきているものが出てきており、極めて複雑化、高度化してきているという実情があります。
 こういったような現況の中で、生涯学習の基盤としてはどういうことが必要とされるかということですけれども、私も今までたくさんの自治体の公民館とか、いろんなセンター、企業、いろんな機会の講座にも行ってコミットしてまいりました。やはり自治体などが行っている講座は、比較的入門編が多いのです。そしてどちらかというと、来ている方、受講者もリピーターが多いわけです。これはどういうことかというと、来ている受講者同士でお友達になるわけです。それで、お友達同士の会話を楽しむためにまた行くという事例が非常に多いわけです。あと、問題だと思われるのは、受講者が集まらないので、締め切り間際になって担当者が受講経験のある人たちに電話をして、再度受講してもらうというように、受講生集めをしているという事例です。ですから、政策評価で見ますと、数字的にはとても良いのですが、実質的には非常に問題が多いといえます。なぜかといえば、非常に内容が専門化、高度化してきていて、今、大卒、専門学校卒も含めて、労働市場にいる女性もかなり高学歴化しております。高卒の女性でも、企業で勤務したら、OJTでかなり高度化したことを学んでいるわけです。
 そういう意味では、非常に生涯学習の内容も専門性を求められるようになってきております。そういう専門的なコンテンツは、大学にあるわけです。もちろん、大学のコンテンツが実際に産業界のマーケットにキャッチアップした専門性があるのかというと、そこは確かにずれはあるわけです。しかしながら、体系化するとか、理論化するとか、そういった学問的な方法論というのを大学人は持っていますので、そういったものと産業人とを組み合わせした生涯学習というのが必要になってきているのではないかと思われます。
 それから、過去、自治体が行ってきている生涯学習に私なんかが行きますと、もう十分教えられる能力のある女性たちがたくさんいるのです。男性のシルバーにもたくさんいるのです。そこで、あなたにぜひ指導者になってほしいというと、指導するのは面倒くさいから嫌だとか、責任を持ちたくないとか、そういうような方が多いわけです。私は、これは冗談ではない、税金を使ってやっているのですから、そこまで勉強したら是非、それを循環してほしいと思うわけです。首都圏では生涯学習の循環の構造が非常に見られております。例えば、武蔵野市の国際市民講座で勉強した人が、韓国語を習得した。中級編ぐらいまでですけれども、その方は今後、豊島区に来て、一般の地域住民の女性の方に韓国語を教えているとか、いろんな形で生涯学習の循環のいい事例もたくさん見られます。
 そして、女性のキャリア形成ということでいえば、企業の中で昇進をしていく、あるいは専門職として高度化していくということだけではなくて、自分で起業をするとか、自己雇用するとか、小さな会社をつくるとか、あるいはNPOをつくる、NPOのリーダーをする、ボランティアのリーダーをするなどがあります。私の後輩の例ですが、リクルートで仕事をしていて、子供を産んでやめて、実際に2人の子供を育てながら、マイクロビジネスをインターネット上で行ってマーケティングリサーチをする仕事を行っていました。その中でだんだん子供に対する安全の問題についてニーズが寄せられるようになった。自分自身、2人の子供を育てながら、その危機感を感じていたことから、子供の危険を回避する研究所を品川区につくりました。彼女は立正大学に勉強にも通って、安全のための心理学などさまざまなことを勉強して、警察やJR東日本にも働きかけて、講座をつくったり、実際のボランティアのネットワークをつくったりという活動を行っています。このように、非常に今、多様な形の展開になってきていると思います。
 大学を1つの拠点として生涯学習と連携を再編成し、ハローワークなどとも連携を図る、例えば、イギリスにレッチワースという多摩ニュータウンのようなところがありますが、ここなどは、職業安定所に行きますと、そこで職業動機をいろいろ聞いて、近くの大学の事業家育成講座を案内してくれるとか、そういうような連携を密に図ったりしております。
 以上で私の報告を終わらせていただきます。

(5)江上委員のプレゼンテーションについて、質疑応答が行われた。以下、その内容。

【中込委員】
 資料の一番最後のページ、あるいは一番頭のところに、大学は知識基盤社会の生涯学習の拠点となっておりますが、現在、専門学校のほうには、毎年3万人ぐらい大学の卒業生が来るのです。自分のキャリア形成ができないから、もう1回専門学校でやり直すというのです。さらに、4年制の専門学校を卒業すると大学院入学資格が認められ、これから学校の指定がなされます。
 そういう点を考えていきますと、何ゆえ我々専門学校を除外されて、産業界とか大学だけが職業能力の向上に取り組んでいるというように捉えていらっしゃるのか。専門学校も十分に高度な職業能力の育成を行っていると思うのですが、いかがですか。

【江上委員】
 決して専門学校を除外しているわけではございません。私が研究しております産能大学などは、専門学校生と大学の学部生のダブルスクールで年間8,000人ぐらい卒業させたりして、専門学校の持っている潜在力とか実際に今までの実績というのは大変評価をしております。私は個人的に、大学のこれからのあり方について非常に関心が高いですし、私自身、産能大学でオープンカレッジの責任者をやっておりましたものですから、大学に焦点を絞って書かせていただきました。
 ただ、1つこういう傾向があります。産業界でいわゆる専門技術・技能を勉強した学生というのは非常に即戦力になりやすいのです。ところが3年ぐらいたつと、壁にぶつかることも多いわけです。私は、この点について、企業にもいろいろ調査をしたりしてきました。結局、これから自分の人生についてどのようにキャリア形成していくのか、自分は何を目標にして人生を生きていくのか、そういった職業の意味を深めていくというところに、ある程度教養的な勉強をやっておくのが、非常に重要になってくるというわけなのです。ある企業の事例では、大卒・短大卒と専門学校卒とを比較しますと、大卒が一番即戦力になるのが遅いのです。ところが、3年ぐらいしますと、非常に動機づけが明確に確立されてきて、その後極めて順調に成長していくわけです。そういうようなことも含めて、大学が持っている教養教育の力も私は重要なのではないかと思い、大学への関心を中心に書かせていただきました。専門学校については、中込委員から今後、多分プレゼンテーションがあると思いますので。

【中込委員】
 ありがとうございます。ただ、子供たちが勉強して、どういう人生を送るか、どういう職業を持っていくのかというのは非常に大切な問題です。今、ダブルスクールという言葉が出ましたけれども、専門学校で本当に4年間勉強しようと思ったら、とても大学には通えません。真に専門学校で勉強するとなると、カリキュラム上も時間上も制約があって、ダブルスクールができないようになっているのです。この点について、少し指摘させて頂きたいと思います。

【山本委員長】
 ありがとうございます。前にも鎌谷委員にいろいろ専門学校のお話をいただいたのですが、また中込委員のほうからも専門学校についていろいろ、こういう機会に御意見を出していただければと思います。皆さんのご理解が深まりますから。

【笹井委員】
 非常に共感するところが多いプレゼンテーションをしていただいたと思います。大学は知識基盤社会の生涯学習の拠点という点、専門学校を含めて高等教育機関は知識基盤社会の生涯学習の拠点という点では、私は全く賛同するものなのですけれども、ただ、そういった機能を高等教育機関に持ってもらうためには、幾つかハードルがあるのではないかと思います。
 1つは、生涯学習した成果が、社会的評価に耐え得るような仕組みや仕掛けが、とても弱いと思うのです。例えば、社会人を念頭に置いた、いわゆる専門職大学院、プロフェッショナルスクールが今、盛んにつくられていますけれども、例えばそれはMBAや法曹資格、あるいはアカウンティング、公認会計士など社会的に既に確立した資格にリンクした大学院、教職員もそうですね、全部リンクしているわけです。そうすると、学習した成果の側から見ると、それが上手に社会的評価に結びつくような資格なり学位なりというものがないとか、あるいはその社会的通用力が弱いと思うのです。それからもう1つ、これは江上先生ご自身も触れられましたけれども、継続教育になると、その軸になる各専門性が必要になるわけです。そうすると、専門性の中身が問題になってきて、大学で培われる専門性と企業が求めている専門性がリンクしているのかどうか、接続しているのかどうかが問題になると思います。業種によっても違うとは思いますけれども、日本の場合、各専門性が、先ほど加藤先生のお話にもありましたように、OFF-JTとかOJTとか内部化されていることによるのかもしれませんが、一種自己完結していて、それぞれ結びついていないと思うのです。そのずれをどういうふうに解消していったらいいのかという、この2点について、もしいいお知恵があれば教えていただきたいと思います。

【江上委員】
 事例でしかお話しできないのですけれども、均等法以降の女性、大卒女性が中心になりますけれども、海外留学してMBAを取っている人が非常に増えてきました。実数ではつかめていないのですけれども、そういう女性たちは、比較的外資系企業で評価をされて、力を発揮している例が多いのです。特に金融系あるいはマーケティング系、リサーチ系ですね。アメリカですと、女性のキャリアが多く集中するのは3つのRと言われているのですけれど、マーケティングとヒューマンリソースとR&Dだったでしょうか。日本の場合には、人事分野では、MBAなどはあまり評価されないのです。国内企業では全く評価されないわけです。外資系企業では、比較的耐え得るのです。
 2番目の御質問について、大学でずっと教えてこられた先生方と、実際の産業界の方が組み合わせした授業は、多分これから非常に増えていくと思います。例えば慶應の法科大学院の事例では、法学の先生が私の友人の女性弁護士を呼んで、2人でずっと半期の講座をやっているのです。身体障害者の法律問題について、共同で講座をやっているわけです。実際のデータだけでは体系化や理論化まではなかなか準備ができないわけです。ですから、そういう複合的なカリキュラムと教授陣の構成が増えていくのではないかと思っております。

【小杉委員】
 実際に民間企業に何社か入られて、そこでの体験からして、外資じゃなくて日本の企業でそういう芽はないのでしょうか。外資企業が海外組を評価しているのはわかったのですが、日本でのこれからの可能性はいかがでしょうか。先ほどおっしゃられた、生涯学習がインフラになって、女性のキャリアアップが図れるという議論のためには、やはり生涯学習でやったことが評価される仕組みが産業界の中に連結してこなければ、先生のおっしゃった道筋が開きませんよね。先生のこれまでの企業体験からして、可能性はどうでしょう。

【江上委員】
 急速に今、企業の仕組みというのは変わりつつあります。中堅以上の企業ですが、90年代は徹底的にローコスト経営に徹したと調査結果にあります。これからかなり開発型の企業になっていくということです。そういう意味では、人事の制度も相当以前の仕組みとは変わってきていて、さまざまに今、法制化が進んでいますし、環境問題も、製造物責任や個人情報保護など進んでおりますので、コンプライアンスが強化されて、極めて企業の中の仕事が法令遵守になっていくと思います。それから説明責任をきちんと果たしていくために情報公開していくということになります。そういう意味では、あいまいな経験の伝承による仕事の仕組みというのが、だんだん淘汰されていきつつあるわけです。そういう意味では専門化されて、しかも資格職をきちっと持った人を登用するようになっていくと思います。
 ですから、先ほどでも、女性の司法試験合格者が4人に1人になる。企業内法務部というのは、やはり弁護士資格を持っている人をどんどん入れるようになってきていますし、経理も簿記資格を持っている人とか、あるいは、例えば流通系で店舗の設備設計、設備部は一級建築士を持った人を入れるなど資格を重視するようになってきています。ですから、先ほど中込委員の専門学校に関するお話とも通じると思うのですけれども、大学も今、国家資格の取得奨励をかなり図るようになってきております。専門家の指標というのは、やっぱり資格という見やすい形になってくるのではないかと思います。

【加藤委員】
 先ほどの笹井委員と小杉委員のご質問で、さっき私は、外国での研修がそのまま企業で通用するかというと、それは箔がつくだけだと言いました。しかし実は、先ほど説明した4番の人事制度の変化というところを見ていただきますと、最近、プロ人材を育てなければいけないというニーズが高まってきているわけですけれども、日本の企業はこれまで、実際の人事制度の中でそれを中心に回していたのではないのです。人事処遇が人の能力だけで決まっていく、あるいは年齢だけで処遇が決まる時代がずっと続いておりましたが、今は、仕事中心に変わりつつあるのです。
 ですから、最近は特に外資系ではなくても、いわゆる即戦力の中途採用といいますか、年間で採用するようになりました。例えば1年間で100人採用するとなると、そのうちの3分の1ぐらいは、いわゆる中途採用で即戦力を採用するようになる、そういうときには、やはり資格を見て採用することが多くなっています。
 それから、同時に企業の中のシステムがゼネラリストがたまたま経理部に属してますよということではなくて、財務の専門家だから経理の仕事をしてますというような形に、少しずつ変わっていくと思うのです。賃金も、従来でしたら、どんなセクションにいても年齢と能力が大体同じなら同じだったというものが、少し変わってくるというような状況になっておりますので、今おっしゃったことは、非常な勢いで変わってきているといえます。むしろ持っている資格が企業の中で評価されやすい方向に動いていると考えていただいてよろしいかと思います。

【佐藤委員】
 女性のキャリアについて、MBAとかそういう話ではなくて、三、四十代の今子育て期の人たちというのは、結構キャリアというのから置いていかれているような気がするのです。実際この世代の女性を調べてみると、非常に欲張りで、さびたくない、非常にカジュアルな言い方をしますと、自分をずっと磨いていたいという意欲があるけれども、なかなか子育てと両立するのは難しい状況にあるのではないかと思うのです。
 育児休業制度の年数も延びていますから、実際問題、キャリアから離れてしまう時間が結構あると思うのです。この点をうまく使って、例えばフルタイムで働くのではなくて勉強の期間として使ったり子供を半日ぐらい預けるようなことをすれば、ストレスも軽減されるし、キャリアも継続できるというような、そういうことが少し考えられないのかなと思います。ライフバランスの場合に、うまくキャリアを組み合わせることによって、違うものが生まれてくるのではないかということを感じましたが、そういうことは考えられているのでしょうか。

【江上委員】
 託児所付講座というのは、結構いろいろなところで活発に行われています。自治体、特に地方ですね。いろんな事例を伺ったり、取材したりしました。
 それから、育児休業中、これからどういう傾向になるかということなのですけれども、例えばヨーロッパやアメリカの大手の企業は、育成した人材のスペシャリティーや能力を損失させないために、育児休業中にも通信によるフォロー教育を行っています。ドイツの大手企業にもそういう事例があります。日本もこれからそういうようなことを充実させていこうというようなことが話し合われております。
 どういう傾向にあるかというと、高学歴で正社員の女性は、育児休業中も離職をしないで、その企業の通信教育を受けて、職場に復帰をするという事例が多くなっていくと思います。一般的に育児休業をとった後、あるいはとる前に離職して、あるいは夫の転勤とかいろいろな都合でそのまま職業生活を中断してしまう場合には、今おっしゃったようないろんな講座とか専門学校とか、あるいはインターネット上で学習ができます。女性の場合、ITに非常に親和性が高いので、NHKや放送大学や「ケイコとマナブ」の番組などで学習している人が非常に多いです。あと資格取得に向けて学習を行うとか、あるいは子育て中ということ自体を活用して仕事をするというようなこともあります。
 そういう事例があると思うのですけれども、子育てと講座の両立というのはかなりいろいろなところで議論されているテーマで、ただ、その場合、だれがどこをどう負担するのかというコストの問題になっていくかと思います。

【坂元委員】
 大学の話が出てまいりまして、私も大学に勤めておりますので、コメントを一つ申し上げたいと思います。
 大学を生涯学習の拠点としていくということはもっともなことと思って伺いましたが、こうした取り組みを抑制してしまうかもしれない一つの要因として、大学の教員が研究によって評価をされる部分が大きくて、一般の生涯学習のために行うような実践的な活動に対しては、頑張ってもあまり評価されないということがあると思っております。
 例えば講師から助教授になるとか、助教授から教授になるとか、それから条件のいい大学に採ってもらうとか、そういったときにまず必要とされるのは研究業績です。端的に言えば論文とか著書の数ということにもなります。実際には、こういう生涯学習の取り組みというのは、大学でも進んできてはおります。社会人入試を行って社会人学生を受け入れるとか、公開講座やさまざまな生涯学習プロジェクトを実行したり、最近ですと専門職大学院の設置などいろいろあるわけですけれども、それらを教員個人がそんなに喜んでやっているというわけではなくて、要請があるために嫌々ながら──ちょっと言い過ぎかもしれませんが─やっているようなところがあります。そうした活動によって忙しくなりますが、その割にあまり評価されないということになりますので。
 ですから、こうした評価の考え方とかシステムを変えていくというのは、私はすごく重要なことではないかと思います。これが変わっていけば、大学というものが生涯学習を推進する大変大きな力を持っていくのではないかと思います。

【糸賀委員】
 私も私立大学に勤めておりまして、今の江上委員の提言というのはよくわかるのです。結論として、特に、大学を生涯学習の拠点にするには大学自身変わらなければいけないということを随分言われておりますので、そういう意味でも支持できるようなお話だったと思います。
 あわせて今、確かに大学は、これでかなり忙しくなるわけですし、同時にまた今ご指摘のありましたように、研究面で評価されるというところがあります。それに対する配慮というのも欲しいなと思うのですが、その一方で、私の大学では社会人大学院というのが実現しております。平日の夜間と土曜日に授業をやるわけです。私なんかも今年の前期、とにかく忙しくて、よく数えてみると、週10コマ担当しているのです。9時20分に授業が終わりますので、自宅へ戻りますと大体11時ぐらいですね。これはかなりハードな仕事です。
 ただ、その一方で、私は通常の学術大学院で学んでいる学生とは全く違う刺激を受けます。これはやっぱりおもしろいと思います。逆に私は、彼ら社会人から教えられることで研究のテーマが見つかるわけだし、同時に彼らを共同の研究のチームメンバーとして新たな共同研究テーマというのが随分できましたし、それで論文を書くこともできております。ですから、これは両面あると思います。確かに負担も増えるけれども、同時に新しい研究の機会といいますか、新しい発想の機会が生まれるチャンスでもあるし、大学としては基本的に受け入れざるを得ないと考えております。
 ただ、その一方で、まさに江上委員が言われたように、実際に女性は非正規雇用で年収も300万円以下が非常に多い。先ほど、学習機会が少ない理由の中に、家事・育児が忙しくて勉強する時間がないとか、勉強するためのお金がないという理由が、かなり高い順位に挙げられておりました。それを考えると、実際には大学で学びたいけれども学べないという人もこれまた非常に多いわけなのです。
 そういう意味で、もしも生涯学習の拠点に大学がなっていったときに、その格差というのは今までよりも大きくなるのではないかということを、大変心配いたします。一方で、子供がいて家事が忙しい、お金もない、けれども学びたいという女性もいるわけだし、当然そういう男性もおります。その人たちに対する配慮ということも一方で考えていかないと、いわゆる勝ち組・負け組の世界になってしまう。お互いにウィン・ウィンという勝ち組・勝ち組でいくための方策というのは、国なり地方自治体が公的生涯学習として考えていかなければいけない。
 ただし、大学もそれなりに貢献をして、いわば地域貢献の一環として大学が評価される、それがやがては大学を構成する我々教員といいますか、大学人にもその貢献が評価されていくと見ていけば、先ほどから出ている地域と大学とのリサイクルといいますか、地域の中で資源が還流されていくという仕組みも実現できるのではないかと思います。
 いずれにしましても、格差を拡大するような方向であってはならないのではないかと思います。

【田中委員】
 先ほどから伺っておりますと、女性に対する直接支援の問題がかなり語られているのですけれども、女性のキャリア支援のためには、当然、男性の育児休業のようなものも含めたサポート体制が必要だと思うのです。
 以前、民放の番組で、ある企業が男性の育児休業を認めたときに、休んでいる期間に、その男性に対して上司が、仕事を忘れないように本を読むとか、仕事に関するいろいろな勉強をするということを課題として課していたのが事例として報告されていました。そういうのもあると思いますが、ただ、育児休業を男性がとるというときに、せっかく職場から解放されて、子供とか地域とか社会をゆとりを持った気持ちで眺められるのですから、会社に直結した内容ではなくて、教育・地域・社会・経済問題を幅広く学んで、会社の直接業務ではない分野でレポートを書かせるとか、研究課題を課して、育児休業期間中に1年間ぐらいやらせるという、何かそのような事例というのはどこかにあるのでしょうか。男性が育児休業中に会社に直結しない問題を勉強して成果を上げるという、それを長期的に見た場合、彼のキャリア形成にかなり有効なのではないかという気がするのですが、いかがなものでしょうか。

【江上委員】
 育児休業中にそういう課題を与えるというのは、ちょっと私は承知していないのですけれども、むしろ今おっしゃった地域とか生活者、市民として環境問題などを考えるのは、ワーク・ライフ・バランスということで、企業人も市民なのだという方向で、現在は企業でもかなり意識転換の教育を始めております。積極的な事例で言いますと、資生堂などは、社会貢献のための有給休暇というのを認めておりまして、例えば以前、私が目黒区で地域の問題を考える委員をやっていたときに、資生堂の社員が来てまして、「僕、半日、このための有給休暇なんです。帰ってこれを報告しなくちゃ。きょうは目黒区のためにこういう貢献をした。」なんて言う社員がいまして、そういう事例はあります。それから、富士ゼロックスでしたでしょうか、前はボランティア休暇というような形でしたが。ですから、育児休業中にそのテーマをというのは、特にちょっと今見当たりません。

【山本委員長】
 ありがとうございます。
 そろそろ時間もいい時間になりまして、これで終わりというわけではありませんので、また引き継いでいただければと思います。最近、いろんな国で同じような試みがありますが、見ておりますと、社会の変わり目、時代の変わり目、あるいは社会を変えていく必要があるときに、こういう方面の試みがいろいろ出てくるのです。ですから、今のお話を聞いていても、そういうところがあると思いますので、ぜひこれからの課題については、お気づきの点をどんどん出していただいて、最終的にどういうふうにこれがまとまるか、皆さんのお考え次第ですのでわかりませんけれども、遠慮なく出していっていただければと思いますので、その点よろしくお願い申し上げます。
 では、これできょうは終わりにしたいと思います。どうもありがとうございました。

─了─

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