国民の学習活動の促進に関する特別委員会(第2回) 議事録

1.日時

平成17年9月6日(火曜日) 14時~16時

2.場所

グランドアーク半蔵門 「光」

3.議題

  1. 国民の学習活動の促進について(自由討議)
  2. その他(今後の日程など)

4.出席者

委員

 山本委員長、菊川委員長代理、茂木分科会長、渥美委員、江上委員、小杉委員、坂元委員、柵委員、佐藤委員、中込委員、水嶋委員、渡邉委員

文部科学省

 田中生涯学習政策局長、樋口政策評価審議官、中田大臣官房審議官、久保生涯学習総括官、大槻生涯学習政策局政策課長、吉田調査企画課長、桒原生涯学習推進課長、三浦社会教育課長、清水男女共同参画学習課長、小川参事官、山田生涯学習企画官、その他関係官

5.議事録

(1)山本委員長より、あいさつが行われた。

(2)事務局より、前回欠席の委員について紹介が行われた。

(3)事務局より、配付資料について説明が行われた。

(4)委員による自由討議が行われた。以下、審議の内容。

【山本委員長】
 ありがとうございました。それでは、運びとしましては、まず世論調査について質疑をしていただいて、参考資料の概算要求についても審議していただきたいと思います。また、資料2の今後の検討事項でございますが、前回の委員会でも、なるべく論点を絞っていくようにという意見がございましたので、私から用意させて頂きました。これについても、いろいろとご意見をいただいて、少し具体化していきたいと思っております。
 まず、世論調査について何かご質問やご意見がございましたら、どうぞ。

【柵委員】
 私のほうからデータを提供してみたいと思います。世論調査の中で、IT活用についての調査が出ていましたけれども、私たちのほうでインターネットを活用した生涯学習の参加者についてデータを時々とっておりますので、ご紹介したいと思います。
 一番多いのが30代から50代の方で、先ほどの世論調査の傾向と全く逆の傾向になっています。それから、そのうち男性が67パーセントくらいの割合を占めています。これも先ほどのデータとは全く逆の傾向になるかと思います。
 それから、これはデータが古いですが、インターネットを接続して、どこで学習をしているかということについては、自宅という回答が最も多いですけれども、30パーセントを超える人たちが職場からというふうに言っています。これはコンテンツのメニューとしては、特にキャリア教育あるいは職業教育を意識したものではなく、非常に幅広い分野の講座が開かれているにもかかわらず、職場から利用しているという回答が3割を超えるというのが、びっくりしたところです。
 それからもう1つ、ITデバイドということがあると思いますが、期間を置いてデータを取り直してみますと、60歳以上の方の参加が3年間で2.7倍に増えているということで、徐々にITデバイドが緩和されつつあるのではないか。参加している方々のご意見を聞きますと、逆にこの講座を受けたいからパソコンを買いましたとか、パソコン教室へ行ってきましたとか、という意見が確かにあります。
 それからもう1つ、講師として活動したいという方が最近増えてきております。インターネット市民塾は、むしろeラーニングという側面以上に社会人の講師活動を支援するというところに力を入れていますが、最近50代、それからリタイアを機にという方の講師活動への参加が増えてきています。これもこれからの傾向になるのではないかと思います。

【江上委員】
 今のは富山県を対象にしたサンプルのお話ですか。

【柵委員】
 そうです。富山インターネット市民塾でやっていまして、参加者の大体4割が富山県内の方という傾向があります。
 地域差はもちろんあるだろうと予想しておりますのと、少しきっかけがありまして、この10月をオクトーバーラーニングとして、eラーニングをされている方に一斉に声をかけまして、実際に学習している方がいつ、どういう場所で、どのくらいの時間をかけて、どういう分野をやったかを学習動態調査のような形でアンケート調査しようと計画しております。期間もあまりありませんし、準備も十分ではなく、母数はそれほど多くはならないかもしれませんが、地域的なことも含めてデータがとれればと思っています。

【小杉委員】
 この世論調査というのは別途集計したりすることはできるんでしょうか。というのは、生涯学習には、いろいろなニュアンスのものが含まれていますが、今ここで議論しようとしている1つの方向として、生涯学習の職業的な側面について今後注目したほうがいいということですから、この中から職業的な側面で生涯学習を理解している人と、趣味的な形で理解されている方をある程度別にして、それぞれの情報について整理し直したほうが、より豊かな結果が得られるんじゃないかと思うのですが、そういうことは可能ですか。

【山田生涯学習企画官】
 この調査は内閣府で委託して、質問項目を立てて実施しております。今おっしゃったように、職業的なものに関心を持つ方、また趣味や健康に関心を持つ方、いろいろ分かれているという結果が出ておりまして、さらにそれは、年代別とか、男女別で違うという傾向が出ているとあります。ただ、さらに資料を再整理するというのは、これは内閣府で実施した調査ですので難しいのではないかと考えております。

【小杉委員】
 個票の元データを借りればできると思うのですが、なかなかそういうデータの共有化は進まないですかね。

【山田生涯学習企画官】
 その点は、内閣府とも相談させていただければと思います。

【小杉委員】
 せっかくのデータですので、それを使ったほうが、より今回の議論にも貢献するデータになるのではないかと思います。

【山本委員長】
 小杉委員の今までの経験で、情報開示で個票を見せてもらえるというような経験はございますか。

【小杉委員】
 内閣府の他のデータでは、お願いをして、特別集計させていただいたことがございます。世論調査については見せてもらえるかどうかわかりませんが、こういう税金で実施した調査は、みんなのものなので、ぜひデータの共有化を進めていただきたいと思います。

【山本委員長】
 その点は、事務的に聞いていただきましょう。今のことに関係して、データを見ていただくときの参考に、資料1-1をごらんいただきたいのですが、6に「性・年齢別回収結果」というのがございますね。これの回収率の部分を見ていただくとわかりますが、60代、70代の回収率が7割、8割と、とても高いのです。ところが、20代の回収率は5割ぐらいです。
 このようなサンプリング調査のときには、回収率は大体同じくらいだと思ってデータを見るのですが、この世論調査ではあまりにも年代ごとの回収率に偏りがあり過ぎます。それで私も過去の調査を持っているものですから調べてみたところ、今回の調査については、回答者のうち60歳以上が占める割合は38パーセントと4割近いのです。ですから、年齢別の集計結果を見ていただければいいのですが、単純集計の場合、その人たちの声がかなり出てしまっている。
 1ページの下のデータを見ると、平成4年のときは、回答者のうち60歳以上の高齢者が占める比率は28.3パーセントでしたから、この間、10パーセント上がっているということになります。その点をちょっと考慮して、単純集計の部分を見るとき、気をつけていただければと感じました。

【佐藤委員】
 世論調査についてですが、例えば有職であるか、無職であるか。上の世代の方は無職で、時間があるから、こういう行動をしているのか、それとも働いていても、次のために何かやっているのかということを読み込むことが必要だと思います。そのクロス集計のためのコードは幾つかあると思います。大枠だけでなく、細かいところをきちんと見ていかないと、次の動きがなかなか読めないのではないかと思います。従来型の生涯学習から大きく転換する時期に今来ていると思うのです。団塊の世代の話もありますので。それを読むためのキーワードをもう少し考えて、今、再集計するのかどうかというお話もありましたので、そういうときには是非以上のような考え方も入れていただきたいと思います。

【山本委員長】
 それでは、資料2が今回の特別委員会のこれからの検討事項でございますので、どのような問題を取り上げて、どのような答申なり、答申の原案なりをまとめていくか審議していただきたいと思います。差しあたっては、3点ぐらいをたたき台として用意してみましたので、これらについてご意見をいただければと思います。
 いただいたご意見を整理しながら、これからの運びとしましては、委員の方のそれぞれの専門・活動領域からご提案をいただいたり、関係団体や機関等々からのヒアリングもしつつ、詰めていければと思います。差し当たって今日は、まず資料2にあげた3つの論点について、これでいいのか、これ以外にもこういうことがあるんじゃないか、この中はこうじゃないかとか、いろいろご意見をいただきたいと思います。

【中込委員】
 それぞれの生涯学習者が、どのような目的を持たれて、どういう教育を受けているかということも、1つの視点として入れなければいけないと思います。
 例えば、団塊の世代が何の目的で生涯学習を受けられているのか、あるいは、20代、30代、40代の方はどういう目的で学習を受けているのか、その辺のところを整理されることも大事かと思います。
 それから、1、2、3とありますが、職業能力があれば3は要らないんです。職業能力さえあれば、こういうものにはならないわけです。その辺のところの観点を見たほうがいいと思います。まず、今、職業教育というはっきりした位置づけを、どこかで位置づけるほうがいいかと思います。それが3を防ぐ大きな要因になろうかと思います。
 なぜならば、今の若者たちは、どちらかというと働ける喜びとか、働く喜びを感じないところがあるわけです。そういうものを背景にしますと、当然子どもたちがうんと働いた、ご褒美をあげよう、そういったことがないんです。そういうことをもう少し視点を掘り下げて見ていただきたいと思います。
 そのためには、当然のことながら、小さいうちから職業に対する重要性とか大切さというものをしっかりと教えていく。それには職業教育の位置づけを、はっきりと明確にしていく。その職業教育において職業能力をつければ、ニートとか、フリーターとか、フリーターという言葉は私は基本的には反対なんですが、そういうものにはならないわけです。
 我々専修学校のほうは、就職率は80パーセント以上で、例えば私の学校はデザインの学校ですが、デザインを学んだら、就職した学生の90パーセントは同じデザインの分野に行くという教育を我々の業界ではやっているわけです。そういう子どもたちがなぜ学びに来るか。そういうものを自分たちの人生の伴侶として、自分の身の1つとして一緒に生きていく。そういう職業を身につけさせてあげたい。そういったことのためには、職業教育の位置づけの明確化は絶対必要だろうと思います。
 あと、職業教育に関する先ほど来の予算などにおいて税制上の優遇をどこかで考えられると大変ありがいたいなと思うわけでございますが、また皆様のご意見を聞いて話したいと思います。

【山本委員長】
 例えば優遇というと、例としてどのようなことがありますか。

【中込委員】
 私も、あまり税制は詳しいほうではないのですが、いろいろ勉強しておりますと、例えば、専修学校がいろんな施策の受け入れをする場合の税制が、少し不利になっているのではないか、あるいは税務署が入ってきてどうのこうのとか、といったことが全体的にあろうかと思います。

【水嶋委員】
 今、中込委員がいわれた職業教育のことについてですけれども、私はその以前に、職業に関する情報提供がなされていないのではないかと思います。先ほどの政策の中に、中学校の5日間職業体験というのがありました。これは私の子どもも中学校のときに行かせていただいて、社会に対する目が非常に開いたのですけれども、もちろん職業教育も大事ですが、それ以前に小学校、中学校あるいは高校で、職業に対する情報提供というか、職業とはどういうものなのかということを学校の先生が授業をする等の時間が割かれていないのではないかと思うのです。
 私は5年間ぐらいフランスの関係の博物館にいましたが、その中では、日本でいうと、「私の仕事館」のようなところがありまして、そこで職業情報を提供しているのです。参考までに申し上げますと、まず先生が簡単なお話をして職業意識を持たせるのですが、まず自分で調べさせるために図書をいろいろ調べさせる。ちょっと興味を持ったら、ビデオとかパソコンで見せる。中学校、高校になると、例えば薬剤師になるんだったら、こういうことを勉強しなさい、こういう資格があるよというようなことを情報提供して、そして、大学受験に結びつけるというようなことを一環してやっているのです。このようなシステムは日本でも必要ではないかなと思いました。
 ですから、ITを使うのもいいですし、学校の先生でもいいですが、社会全体として職業に対する情報を、学校教育の場なり博物館の中で職業情報提供を行うというような施策も入れていただければありがたいと思います。
 具体的に言いますと、私は浦安に住んでおりまして、浦安市は昔はノリの養殖がさかんだったのです。そこで子どもは、ノリの養殖とはどういうことなのかということを体験するわけです。そうすると、地域における職業というのが地域、地域にあるでしょうから、地域ごとの職業教育として、地域のおじいさん、おばあさんたちのお話も聞けるし、実物教育、職業教育ができるような公民館や博物館の利用も地域全体として考えていけるような施策を考えていただきたいと思います。職業教育のことは大事ですけれども、それの前提となる情報提供ということもお考えいただければと思います。

【坂元委員】
 資料2の1の生涯学習の振興に関する基本的な視点で、学習者個人、企業、地域社会、国家的なニーズ等に応じた施策の展開の必要性とありますが、これは前回の委員会で、これまでの生涯学習が学習をしたい人に対応するものであったのに対して、現在では学習したい人だけではなくて、企業とか、地域とか、国家のニーズに合わせてもっと広い範囲の人に行き渡るような生涯学習のあり方がなくてはいけない、というご指摘があったことに対応されたものだと思うのです。
 これは私も賛成なのでございますけれども、私の専門であるITやメディア問題においては、ITやメディアの影の問題が非常に重要な問題となっております。それについては、家庭教育が重要だとされていて、そちらの啓蒙や社会教育的な措置が必要になるわけですが、例えば講演会を催したり、冊子を作ったりしても、講演会を聴きにきたり、冊子を読んだりするご家庭というのは、もともと家庭教育がしっかりしていて、あまり問題のない家庭教育がしっかりしているご家庭でございます。
 子どものメディア接触について何らコントロールをしていないようなご家庭というのは、最初から関心がなくて、いかに行政が努力をしてもなかなか乗ってこない。ですから、ニーズを待っているだけでは解決にならないということがあるわけでございます。同様のことが、例えばニートなどにつきましても、学習を継続していただくのが1つの解決なのでしょうが、ニーズを待っているだけではなかなか学習をしてくれないということがありまして、学習者のニーズだけではなく、社会的なニーズに合わせて、生涯学習のあり方を整えていく必要があると思うのです。
 近年ではニーズを待つだけではなかなか解決できない事情というか、事例が目立つように思われますので、資料2の1番で出ている方針に私は賛成するわけでございます。
 ただ、ITに関して家庭教育のことを申し上げましたが、資料2のただし書きでは、特に職業的知識・技術を身につけるための生涯学習の重要性ということになっております。社会的ニーズに対応する問題は、職業の話に限定されないとは思いますけれども、少なくとも家庭についてはもう一方の委員会で扱うということでありますし、ニート、職業、この辺の問題は今重要な課題でもあろうかと思いますので、当面、この問題について集中するということでも結構です。

【山本委員長】
 ニート関係は、もう一方の委員会とある程度一緒に議論するしかないですね。

【小杉委員】
 坂元委員と同じで、ニーズを待っているだけではだめだという意味では、社会的、国家的ニーズというところからこの問題は考えていかなければならない。今までのような個人のニーズを中心にした生涯学習という考え方ではなくて、今後の社会、国家全体のことを考えたときの生涯学習はどうあるべきか、そのために何を提供すべきかという発想、あるいはどうやって個人に参加してもらえるようなインフラを整えるかという発想が大事だということは本当に共感します。
 そうしたときに、概算要求事項を見ていても感じるのは、だれがどの段階で生涯学習の機会から遠ざかっていくのか。本来、能力形成をしてほしい人たちができなくなってしまうタイミングはいつか。それに対して教育の立場からできることがあるのではないかと思うのです。
 というのは、学校からいつ離れていくのか、本来もっと教育によって力をつけてほしい人たちが学校を離れた後、次の教育になかなかつかなくなってしまうとなると、学校を離れるタイミングにとても重大な問題があると思うのです。中退なり学卒無業なりで離れていく人たちへの支援というのは、教育という立場からもできますし、例えば厚生労働省のような別の立場からの長期支援もありますが、その両者の支援のはざまに入ってしまう人たちに対してどういうふうに支援をしていくか。そういう観点が必要だと思っています。
 私はニート対策は実はそこが一番大事だと思っていたのですが、平成18年度の予算の中には、そういう問題が触れられていなかったのは、若干残念な気がします。
 (若年無業者等に対する)教育面での施策のあり方ですが、それは教育だけでは片がつかない問題で、他の省庁の施策と二人三脚でやるということを、こちらからどんどん発言していかなければならないと思います。基本的に資料2に挙がっている3つの柱は了解いたしますが、さらに踏み越えて、教育面だけに限らず、他の施策に対しても発言していくような提言といいますか、視点が必要ではないかと思います。

【佐藤委員】
 生涯学習において、積極派と消極派がかなりはっきり分かれてきているのではないかとの問題意識がありまして、これまでの延長線の発想ではこの問題は解決しない。今までのような形だけではなく、子どもの居場所づくりの他に、大人の居場所づくりというような新しい発想で公民館の活用の仕方ですとか、博物館や美術館の使い方を変えていくことによって、知識を提供するだけではなくて、いろんな問題を解決するためのきっかけになるような出会いを作り出す場という発想も必要なのではないでしょうか。実はニートの問題は大人の問題でもあるわけですよね。不登校の問題は親の問題でもあるわけですから。
 そのように考えると、文科省ですから、どうしても子どもを対象に、いろいろと手厚く支援するわけですが、もう少しやわらかい仕組みが必要ではないか。例えば、時間がないからあるいは時間が決まっているから生涯学習に行けないという人がいるわけです。それへの対策として、講座の時間数を増やすのではなくて、例えば違う世代の人と話すことや同じ悩みや違う悩みを持っている人と話すということも学習になるわけですから、指導員的な人がいる中で、場を上手にコーディネートしていただければ、新たな展開が期待できるのではないでしょうか。そういう展開を考えていかないと、多分このままの状況が続いてしまうのではないかという問題意識を持っております。

【菊川委員長代理】
 先ほどの家庭教育に来ない人の問題について、2点申し上げます。
 今年から福岡県社会教育センターでは、文部科学省からITを活用した次世代家庭教育支援手法事業として、インターネットを使ったITによる相談事業や広場づくりを始めております。10月から本格始動しますけれども、家庭教育問題は、新たな層の開拓、それから昨今のブログなどが開発されているので、広場づくりに参加しない層の家庭教育への支援という意味では、ITは非常に有効な手段になると思っております。またニートや、フリーターに対しても同じような機能を果たすのではないかと考えております。それが1点です。
 それと、今、佐藤委員がおっしゃった件ですが、実は昨年の3月にこの生涯学習分科会が審議経過の報告を出した時に、久しぶりの報告だったので、市町村の社会教育関係者の中で心ある人は、非常にきっちりとこのまとめを読んでおります。生涯学習分科会ですから、職業教育とか、専修学校とか、大学とか、いろんな問題が幅広く議論されるというのは分かりますが、一方で、重点的に取り扱うべき項目として、家庭教育の振興、地域の教育力の向上等、5つの重点事項が示され、その多くに対して、実際問題、市町村の社会教育関係者が非常に大きな役割を占めるのではないかと思うのです。
 ところが、今、市町村の社会教育がどういう状況になっているか申しますと、例えば市町村合併が進むに際して、例えば指定管理者制度や外部委託、民間への委託等が非常な勢いで進もうとしております。また、首長部局との関係で、学習事業が社会教育だけのものではなくなり、首長部局に移っております。その中で、社会教育関係者が従来持っていた社会教育のフレームについて基本的な理解を失いつつあります。全部ではありませんが、ややもすると激しい移動の中で失いつつあるのではなかろうかというのが、私どもの県から市町村を見ての感想でございます。
 いろいろな施策に資金をつぎ込んだとしても、地域の中で核となってその施策をコーディネートしていく人材がいなければ、大変な予算の無駄となったり、あるいは民間と行政の本当の協働ができにくいということもあります。従って、このような審議会の答申や報告というのは、市町村の担当者は非常に注目しているのです。今、地方分権の中でフレームが緩くなりつつある中でも、例えば戦後の社会教育とか、四六答申以来の社会教育のシステムとかをきっちりと受け継ぐ仕組みづくりを提案することが、県、市町村の社会教育関係者から求められているのではなかろうかと思っているところです。

【渡邉委員】
 沼津市の「私の主張大会」の優秀賞受賞作品は中学3年生のレポートでしたが、どのような内容かと申しますと、その中学3年生が、毎日自分が生きている目的もなく、ただ何となく生きていたのだが、あるとき新聞の記事で、「不用のランドセル アフガニスタンに送ろう」という記事を読んで、押入れの中に眠っていた自分が小学校で使っていたランドセルをきれいに磨いて、アフガニスタンの子どもたちに送る計画を立てて、提供者の募集に自分も参加した。それで初めて自分みたいな小さな者が世界の一部の人のために役に立っているということで自分の人生観が変わって、今、生きる喜びに満ちているという、簡単に言うとそういう内容でした。
 前回の委員会でも、中学生ぐらいからもっと社会に参加して、実際に職業教育、体験教育をしたほうがいいということをお話ししましたが、自分が生きて、何のために勉強して、何のために職業体験をするのか、何のために生涯学習をするのかという目的意識がつかめない。ですから、生きている意味もつかめないので、ニートが出てくるのではないか。
 だから、それぞれが生きている目的を自分で実感していくための1つの方法としては、学校は知識を教えるところではなくて、いろんな職業等が生きている目的をつかむきっかけを与えるということを教える場所になるべきだと思うのです。ホームページを開けば知識は全部出てくるわけですから。
 そういう知識がいくらあっても、おそらくニートの人たちは携帯電話も持たないし、ホームページを見ようともしないと思うのです。自分の命が燃えて、人のために役に立って、喜びをどうやって感じるかという、そのきっかけを与えることが大人にとっては必要ではないか。
 そこで、資料2の2にあります職業に関する学習活動を促進する方策の中の学習活動を阻害している要因を除去・緩和するための措置ですが、学習活動を阻害している要因を除去するために予算をつけるなど、生涯学習に国の施策が与える方向にいっていますが、むしろ与えることではなくて、逆に不足の要因をつくることによって、個々の人が自分が生きられるんだという、自分の生きる活動のエネルギーを見つけられるのではないか。不足は発明の母と言いますから、不足をつくるということ。
 しかし、不足をつくるだけでは政策としては不足であって、与えるばかりではなく、不足をつくりながらも、無論、学習の機会をたくさんつくることは必要です。しかし、学習の機会があってもそれを活用しない人たちはたくさんいるわけです。不足をつくって、彼らが活動するようにする指導者を養成することが必要であって、何でも与えることが多くの人たちを生きる目的に向かわせることではないのではないかと思います。
 その辺が非常に難しいわけですが、不安要因とか、不足要因をあえて与えることによって、個々の自分の能力を生かしたり、生きる道を見つけるということも行われるのではないか。二律背反みたいな感じですけれども、社会構造としてはそういうものをうまく生かす必要があって、そのための指導者をつくる必要があるのではないかと思います。

【中込委員】
 公民館、図書館、博物館、美術館等で利用者の相談に乗ってあげられる人たちの資格制度というのはあるのでしょうか。生涯学習指導員はないですよね。あまり聞かないですね。

【山本委員長】
 今、中込委員がおっしゃられたのは資格ですよね、職名じゃなくて。

【中込委員】
 資格というのか、職名というのか、私も判断がつきかねるのですが…。

【山本委員長】
 地域ごとにいろいろな名前で、いろいろな人材を登用していますよね。ですから、この点は、それこそ菊川委員長代理がお詳しいのではないかと思いますが、いかかでしょうか。

【菊川委員長代理】
 戦後すぐ社会教育法の中で、社会教育主事制度が位置づけられまして、常勤的な正規職員として、社会教育主事という職員がおります。それは社会教育を行う者に専門的な指導・助言、あるいはコーディネートを行うというような形でございまして、それは例えば各市町村に少なくとも1名以上はいる状況でございます。ただ、社会教育主事を持った職員が、例えば公民館の職員になるとか、公民館の職員になって公民館主事というような発令をしたりもします。それ以外にも、例えば非常勤の社会教育指導員ですとか、地域活動指導員ですとか、いろいろ専門的な職員がいるのが現状でございます。

【中込委員】
 確かに専門的な指導員も大変重要ですが、人生の指導員ということも十分考慮しなければいけないと思うのです。
 今、子どもたちというのは、人生の指導員が比較的欠けている状態ですから、確かに専門知識の指導員はいろいろ必要ですけれども、それ以外におじいちゃんとかおばあちゃんとか、そういう方が、働くことは美しいんだというようなことを教えてくれる場所とか、それから生涯学習指導員の様な制度ができるとよいと思います。これからは団塊の世代が自分たちの子ども、あるいはお孫さんたちに、さあ、みんな働けよ、働くことは美しい、どんな仕事だって美しいということを教えてあげなければいけない。この仕事だから偉い、この仕事だから偉くない、そういう話ではなく、働くことが美しいということを教えるような大先輩の方たちの意見が反映できるような資格制度ができると随分違ってくると思います。

【菊川委員長代理】
 現実には地域の公民館等では、そういう方がボランティアとして活動してもらうという仕組みは、多くの地域でできつつあるのが現実でございます。その中で、正規の職員になったり、ならなかったり、あるいはボランティアとして活動したり、活動の仕方はいろいろでございますけれども、既にその芽は社会教育の現場の中では進みつつあると思っております。

【山本委員長】
 生涯学習インストラクターというものを社会通信教育協会でやっていまして、あそこが今元気なんです。合計で2万3,000人ぐらいいます。人数はもっと増えているかもしれませんが、2級、1級という様になっていて、その人たちが各地で団体をつくって、NPOになっているところも出てきまして、50~60団体くらいできてきているのです。
 その方たちの活動を見ていますと、今おっしゃるようなことをやるところとか、全くアンモルフな動きをしています。全国組織がまだないものですから、断片的な情報が入ってくるだけですけれども、そういう人たちはもともと通信教育で趣味的なことや、職業的なことで技術を持っている人たちもいますし、もともと生涯学習ボランティアコースだけの人もいますけれども、何か持っている人たちですから、それぞれ地域に行って活動している。ただし、これは全国的にはまだ広がっているわけではないものですから、状況をつかみようがないのですが、そういう活動はあります。

【江上委員】
 今回の基本的な検討の視点と、テーマはよろしいかと思いますが、今回の予算要求の図柄を拝見していますと、フレームがかなり厚生労働省に近くなってきているなと思うわけです。例えば15ページとか18ページなどは、かなり近い感じがしています。私は、労働関係ですと、例えば中央職業能力開発協会とか、生涯能力開発センター等に携わっていますが、それぞれ若者の技能教育などに大変よく取り組んでいます。技能五輪などは、本当に若い中卒の人が左官職とか、様々な技能を競い合うなど、エンカレッジするような場があって、今またさらに注目されて、見直されてきているわけです。
 同じような視点やスキームでトライするのではなくて、文部科学省というのは人間の教育に関する施策を行うところですので、先ほど小杉委員がおっしゃったように、学校教育のプロセスの中にニートになる芽があるというところを、丁寧に見て対応していく政策も必要ではないかと思います。
 あともう1つ、例えばアメリカでは90年代に中小企業が非常にたくさん誕生しましたが、その1類型に教育分野におけるビジネスがかなり出てまいりました。IT関係を始め、いろいろありますが、教育分野におけるビジネスが非常にたくさん生まれてきて、その中から新規雇用もかなり生まれてきているのですけれども、例えば社会開発型教育分野の企業を育成して、そこを生涯学習の新しい方法論の拠点にして、そこでニートも若者も60歳以降のシニアも対象にするという形の、シニアはシニア、ニートはニート、教育は教育という縦型の形ではなくて、老若と教える、学ぶと働くと、それから起業するというものを全部リンクしたような仕組みをつくっていくのが、これから次世代の生涯学習の1つのインフラのシステムになると思います。
 先ほど菊川委員長代理がおっしゃった、今、地方分権、現場への権限移譲が進んでいて、自由度が高くなっていて、考え方は受け継いでいても、実際の仕事はかなり民間委託などが進んで、今まで進めていた生涯学習のコーディネーションとか、そのようなノウハウや手続がだんだん空洞化しつつあるということも、多分、そのとおりになっていってしまう危険性もあると思います。
 そのときに、ただ予算を投資して何か職名をつくって、人材コーディネーターというようにしても、現実はあまり変わらないのではないか、そこにきちっと自立的に回るような仕組みが必要なのではないか。そういう意味では、それが例えば1つ社会開発型教育分野の地域における起業の促進で、そこに生涯学習というものを連結するような仕組みをつくるとか、またそのようなところが小学校、中学校で職業教育のコーディネーションもするとか、新しいソフトのインフラのスキームというのをぜひ考えられるといいなと思っております。

【茂木分科会長】
 今の江上委員のおっしゃったことに私も賛成です。というのは、学校の教育ですと、先生が教えたとおりに勉強するとかいうことですが、生涯教育というのは普通の学校の教育と違いまして、要求度が高いんです。それから、ニートの問題などはそうですけれども、難しさがある。ですから、生徒はお客さんといいますか、カスタマーだという考え方が必要になってくる分野ではないかと思います。ですから、そういう意味で、今、江上さんがおっしゃった企業をつくるということは、非常に意味があることではないかと思います。
 日本人の要求度というのは非常に高いのです。私の会社もあちこちの国で商売しておりますが、日本の消費者は一番要求度が高いです。ですから、教育についても相当、要求度が高い。殊にお金を払う場合ですね。ですから、そういうことを考えますと、企業でカスタマーズオリエンテッドというか、顧客志向の経営、あるいはカスタマーズサティスファクション、要するに顧客満足度を追求するという形の教育が生涯教育の分野では必要ではないかと、今のお話を伺っていて思いました。
 それからもう1つ、さきほどからニートの話が出ていますが、ニートについての調査結果や、我々の間での共通認識を持つ必要があるんじゃないか。ニートというのはこういうものをいうんだということをはっきりさせておいたほうが、議論する場合に議論の格差がなくなるのではないかと思います。

【山本委員長】
 ニートの調査のほうは、進捗状況はいかがでしょうか。

【山田生涯学習企画官】
 今、民間の調査機関に委託して進めているところでございまして、10月末ぐらいには何とか調査結果がまとまる予定です。

【佐藤委員】
 例えば子どもの問題でも、文部科学省と厚生労働省とでは何が違うかというと、文部科学省は学ぶ力とか、自分から学んでいくとか、伸びるとか、そういうものが基本にあると思います。単に教えるということではなくて、一人ひとりの力をどのように発見していくか、という過程が絶対に必要で、ここで議論しているのは学校教育ではないわけですから、生涯学習の中でも、そういう点を意識することが必要だと思います。
 例えばここでも技術を身につけさせるためにというようになっているわけですけれども、この辺の発想をちょっと変えてみて、もっとゆっくりした時間というものをどうやって生涯学習の中でつくっていくかとか、そういう今までやってきたこととは逆のことをしないとうまくいかないんじゃないかと思います。 職業について、皆、とても真剣に考えているのです。働くことの意味がわからないと考えているのです。だから、私たちが当然だと思っていた働くことの意味を考えるという基本のところまでさかのぼっていろいろ悩んでいるわけですから、ある意味、進んでいるというか、非常に哲学的な悩みを持っているという言い方もできるわけですから、そういう人たちに対して、職業とはこうなんですから、こうやって働いたらいいんですよといくら教えてもどんどん離れていくだけだと思うのです。なので、今の若い人たちが置かれている状況にもう少し寄り添ったところで、生涯学習を考えていかないと、出会いもつくっていかなければ空回りしてしまうのではないか。そういう危惧を感じます。

【柵委員】
 従来ですと学習機会を提供する、与えるということを非常に多くやられてきているわけですが、私たち(インターネット市民塾)は全く逆に、みずから教える立場になってみようということ、市民講師を育てるということに取り組んできました。その中では、大人の総合的な学習の時間だという言い方をするのです。要するに、教え方、学び方を、自分でテーマを見つけてやっていくということが現実にあるのです。そこで必要とされてくるのが、先ほど少し出ていました緩やかな関係、仕事だとか、場所だとか、職業にかかわらず参加できる緩やかな関係という意味でのITの役立て方があるのです。
 それからもう1つは、現実に皆さん仕事についたりしている中で、具体的に言うと地域と企業と社会教育施設と自宅、このような場でどうやってお互いにクロスして、いろんな参加機会をつくっていくかということも非常に大事だろうと思います。インターネットですので、企業にいても公民館の講座を受けることができるわけです。逆に言ったら、公民館で企業の開催する講座だって、いくらでもやろうと思えば受けられますが、進まないわけがあると思うのです。そこをもう少し現実的に考えていきませんと、依然としてそれぞれの分野別の論理になってしまうのではないかと思います。例えば、アメリカのバックマンラボラトリーズ社の元CEOの方がおっしゃっているのは、ワークプレイスラーニングだと。企業の中で、組織とか、立場を超えてお互いに学び合うということもつくりたい。いわゆるシステムや仕掛けというのは5パーセントにすぎない。あとの95パーセントは、いつでも学び合える文化をつくることであり、それこそがもっとも大切なことだと言っているのです。
 そういう意味で、例えば総務省でいうと、インフラの関係も含めていろんなものがそろっているかと思いますが、文部科学省の中でそういう学習文化みたいなことを議論していって、ぜひ企業の方も、社会教育関係の方もお互いに一緒に取り組んでいけるような文化ができるといいと、いつも思っています。

【江上委員】
 最近、NHKのBSでしたか、『本の平積み』という番組がございました。あるゲストが2名出てきて、自分が最も気に入っている本、ぜひ視聴者に読んでほしい本を自分なりにプレゼンテーションするのです。そしてまた、局がそれの粗筋を劇画にしたり、ドラマにしたりして紹介をする。それを見て、例えば有隣堂や紀伊国屋などの名販売員が、その本をぜひ我が店舗で平積みにしたいと思うかで、点数を入れるわけです。そして、その結果をまたフォローするんです。そうすると、実際に紀伊国屋新宿店で平積みしたら、それが1週間のうち何冊売れたとか、本を興味深く読ませるという1つのソフトの仕掛けが番組構成になっていて、これは非常によくできているなと思うのです。
 こういうように、書物を読むということに対して、今、いろんなソフトが出てきています。例えばアマゾンドットコムで検索すれば、最近の売れている本の内容も大体理解できるし、どういう本がどのジャンルごとにあるかという傾向もわかるし、翻って、図書館で杉並区立の図書館をクリックすると、そこで今どういう本が新刊で入って、どういう本がよく貸し出されているかとか、そういう情報がインターネット上できちっと公開されているかというと、十分ではないと思うのです。まだまだ既存の図書館などでやるべきことは、とてもたくさんあると思うのです。
 今、民間で、オールアバウトという会社がありますよね。インターネットを通じて専門家がどんどん登録して、クエスチョンに答えていくという、ああいうきちっと善意で教える専門家がたくさん登録して、それがビジネスとして成り立っているという機能があるわけです。
 それですとか、最近、注目されているソーシャル・サービスネットワーク、これは営利を目的としていないインターネット上のネットワークで、代表的なのが「mixi(ミクシイ)」という名称のものですけれども、100万人を超えているわけです。これは善意の集団のコミュニティで、自然発生的に生まれてきているわけです。それで、学者やフリーライター、デザイナー、若い人たちなど、いろんな人が入っていて、お互いの情報交換や励まし合いであるとか、知識の共有といったものが非常にいい形で行われていて、ある意味、青年からシニアまでの知的交流のできる居場所みたいなものがソーシャル・サービスネットワークというものででき上がってきているわけです。
 そういう意味では民間の力、ビジネス、非営利、いろんな形でのシステムにおいてでアプローチやソフトはでき上がってきているので、まず第1は既存の持っている社会教育分野のハードの拠点をもとに、そこでどこまでできることをやり得ているのかということをもう少し徹底的に議論してもいいのではないかと思います。蓄積しているコンテンツはたくさんあると思います。ですが、それをきちっとアウトプットして、幅広く流通して、それにだれでもアクセスできるような仕組みに持っていくところまで、まだいってないのではないかという気がしております。

【水嶋委員】
 今のに関連してですけれども、おっしゃるとおり、図書館の活用とか、博物館の活用というのは、予算を見てもそうですが、非常に少ないというか、これは考え方によっては博物館とか、図書館という壁をもう少し低くする、あるいは学校教育制度と博物館の壁をもっと低くしないといけない。博物館で総合学習の時間が導入されましたが、まだまだ利用率が非常に少ないのです。
 これはデータにしっかり出ていますが、子どもたちは親から子どものときに博物館に連れていかれると博物館が好きになるのです。図書館に連れていってもらって読み物を聞かせられると、読書の習慣がつくということがありますけれども、日本の学校教育の現場の忙しさからみれば、博物館に連れていって1日云々というのは非常に難しいのかもしれませんけれども、逆にもっと壁が低くなれば、学芸員が学校に行ってレクチャーするとか、市民のおじいちゃん、おばあちゃんが講師になって、学校に入っていくというように、もっと制度的に自由に行き来できるようなシステムにしないと、こういうことはできないのではないかと思うのです。
 博物館に関しては、市民学芸員制度というのを今いろいろなところでやっていますけれども、もう少し進めて、図書館教諭が法的にも位置づけられていますように、博物館でも、学校博物館教諭ですとか、学芸員教諭というような新しい資格を持って、学芸員がもっと出やすいように、そこでいろんな体験を話すとか、学校と博物館が利用するような、壁をもっと低くしていただきたいと思います。

【小杉委員】
 今のお話も受けてですけれども、生涯学習社会の芽は学校教育にあると思います。つまり博物館をどう使うか、図書館をどう活用するかというのが学校教育の中に仕組まれていて、そこで体験することをその後どうやって使っていくかという、学校を離れた後に使っていける人を育てるのは、やはり学校教育に一番核があるのではないか。
 だから、一番最初に渡邉先生のおっしゃったアフガンの子どものランドセルの話などもそうだと思うのです。つまり学生時代にどれだけ社会に参画していって、自分の力をそこで確認できたかというところは、その先の社会にどうやって自分から参加していけるかということに深くかかわってきます。つまり生涯学習社会の中で、大人になったらこうなってほしいという像は、実は学校時代、子どもの頃のプログラムの中に仕組まれていなければならなくて、ここから変えていかなければなりません。これから先、生涯学習社会に積極的に自分から参加していく人間をつくる根は、学校時代にあるという、ここのところのプログラムに将来の生涯学習社会をつくっていける人たちをどうつくるかという点に言及していかなきゃならないのではないかと思います。

【渡邉委員】
 日本の社会というのは、戦争100年の歴史を見ますときに、手で仕事をして、手に持つわざというのは世界一と言ってもいいぐらい、日本人の手のわざというのはすぐれていると思います。今、ICなど世界的に出ていますが、あのような小さなICチップの品質において日本がすぐれているのは、日本の伝統的なわざが生きているからです。今、大変問題なのは、子どもが手を使って物をつくるということを全くしなくなったことだと思うのです。これは非常にゆゆしき問題です。
 ある精神学者に言わせると、日本人は頭で考えたものが指の先にいく神経と、指先で感じたものが頭にへいく神経とでは、指先で感じたほうが早いんだと。日本人は、指先の神経が非常に発達している。DNAとして発達している。それがこのままだと絶えてしまう。日本人は論理的に物を考えるのはあまり得手でないですから、手先で仕事をしているという日本人の優秀性をもう少し実際的にやれる現場があるならば、勉強は嫌いだけれども、これをつくるのは好きだとか、そういう子たちはたくさんいる。だから、学校教育が今バーチャルになり過ぎているんです。実物に手を触れる、実物で物を見、実物から考える、そういう機会をもっと学校教育の中で増やす。
 そのためには、自然の中に子どもたちを連れていって放り出すことだと思うのです。都会の中で映像で教えて、映像で知識を増やすのではなくて、それとは別に、例えば1年のうち夏休みの1カ月ぐらいは自然の中に行って、自然の中で徹底的に遊ばせる。そうすれば、子どもたちは自然の中で自分でいろんなものを発見し、いろんなものを手でつくる。自然の中に放り出したときには何も与えない。御飯を食べるんだったら、はしは自分でつくるとか、そういうような自然に触れる機会を実際にかなりの長期間つくって、子どもたちにその中で発見させていく。職業体験と一緒に、自然の中での教育というものを小学校の学校教育の中でぜひやってほしいと思います。
 今、青年の家というのがあって、それが特殊法人として続くかどうか非常に難しいところにあって、地方ではつぶれていくところもあるわけですが、それは運営の仕方に問題があるのであって、青年の家だけではなく、もっともっと大自然の中に子どもを投げ込むという、自然と対峙させることが必要です。その中で、例えばまきを拾って野外で飯ごうで御飯を炊いて食べるとか、そういう自然との接点というものを増やすのを学校教育のシステムとしてもっと持っていったらば、子どもたちはおそらく生き生きとしてくるのではないかと思います。

【坂元委員】
 先ほどから顧客志向の生涯学習の視点が大事であるとか、企業も巻き込んでいくような生涯学習が重要だろうというご指摘がありまして、私もそれは大変重要なことだと思います。顧客志向の視点とか企業の貪欲さは、より良い教育サービスの開発や提供をもたらすものだろうと思います。その結果として、生涯学習を受けたいという人が増えて、ニーズを掘り起こすことになり、より幅広い人の参加が可能になってくる、というようにつながってくるのではないかと今認識をしているわけでございます。
 私は特にメディアやITを専門にしておりまして、その点で気になっておりますのは、メディアやITを使った学習コンテンツのことです。それは学習ソフトをいかによいものにするかということでございまして、もし良いものになれば自ずと多くの人が学習に参加すると考えられます。今、バーチャルという問題性についてご指摘をいただきましたが、自然も非常に重要ですが、バーチャルなほうも利便性があります。バーチャルだけになってはいけませんが、バーチャルの開発も必要なことだと思います。
 実際、こうした学習コンテンツは、特に生涯学習では、遠隔学習における利便性があって、重要なものでございます。しかしながら、実は日本におきましては、ITを用いたeラーニング学習コンテンツの開発力について、いろいろご努力はあるものの、まだ課題があるという指摘も見られます。また、例えば、放送大学の授業などを見ましても、学術レベルは高いかもしれませんが、例えばエンターテイメント性があるとか、教育技術上の十分な工夫があるとは言いにくいような面がございます。
 ですから、例えば学習コンテンツの業者に競争をさせ、努力を促し、よいものを提供してもらったり、また業者ではなくても教育者などが自分で、ないしは協力して学習コンテンツを作成したりするという場合もございますが、そうしたもののレベル向上を促すための施策は重要ではないかと思います。もちろんそうした施策は既に行われていると認識しておりますけれども、今後も継続したり拡充していくべきだと思います。
 特に、開発そのものを支援するだけではなくて、開発する人材を養成するということが必要です。例えば、開発者を養成する教育機関などを拡充するとか、大学におけるeラーニングの利用やサイバー大学の設立などを促すことが、開発力の向上につながっていくと思います。
 メディアやITの学習コンテンツの向上は、生涯学習の振興だけではなくて、もう1つ、国際競争の面で重要です。高度情報化の時代では、学習コンテンツはすでに国際競争の場になっているわけです。例えば、サイバー大学であれば、どの国にいたとしても、どの国の大学の学生になり、卒業することも可能になるわけで、実際、そういうことが起こりつつあります。言語の壁の問題はあっても、例えばMSワードという日本語ワープロがもともと外国製である点が象徴的ですが、マーケットがあって売れるとなりますと、非常に貪欲に言語の問題も克服されてくるということは考えられることだと思うのです。
 日本の学習コンテンツがすぐれていないと、どんどん海外から学習コンテンツが入ってきて、それを使って日本人が勉強するということになります。外国製のコンテンツばかりで日本人が勉強するということになりますと、それは文化的同一性が失われるという問題もあるように思われるわけです。
 行政におきまして既にコンテンツ産業振興の流れはありますが、娯楽の映画とかテレビゲームが仮に成功しないということがあっても、経済的な利益が失われるだけで済むという言い方ができるかもしれないとしても、学習コンテンツの場合には、経済的な問題だけにとどまらず、文化的同一性を失うという問題に及びます。従いまして、学習コンテンツはさまざまなコンテンツの中で最も開発が振興されてもよいものではないかと思うわけでございます。
 今後はさらに国際競争が熾烈になると考えられるわけでございまして、こうした学習コンテンツ、それは広く教育の手法とか、材料とか、ツールまで含め得るものですけれども、そうしたものの国際競争力の強化という面も1つ考慮の対象になるのではないかと思うわけでございます。
 その国際競争力の強化ということでは、開発力そのものを直接に高めるだけではなくて、もう1つ、世界への発信力を強化するということも重要と思います。輸出をすることによって国際競争をして、その中で技術が高まり、その結果として国内市場が守られる面があるわけでして、これはこれまでさまざまな技術や商品で見られてきたことでございます。学習コンテンツにつきましても、開発力の向上を、国際発信力の強化とあわせて進めていくことが重要なのではないかと思っております。

【柵委員】
 今のコンテンツの話は私も大賛成で、他の省庁で取り組んでいるコンテンツとは全く別に、文部科学省で、是非、国民の知識財をコンテンツ化していって欲しいと思います。これを世界に誇れるように発信していくこととか、様々な学習機会の中でそのような知識財の情報を役立てていくということは非常に大切なことだと思います。
 坂元先生がおっしゃったことに加えて、もう1点、いわゆるパッケージメディアとしてのコンテンツ以外のことが考えられます。学びというのは人から学ぶという要素が非常に大きいです。例えば、富山の手仕事についてイラストをまとめていらっしゃる方がいらっしゃいまして、富山県内で96人の方をイラストの修業のつもりでずっと回って、手仕事をしていらっしゃる方の背中から感じることとか、自分で感じる職業観を1枚のイラストにあらわして、まとめていらっしゃるのです。
 イラストこれ自体をコンテンツにしていくことももちろん大事ですが、それと一緒に、そのような活動に取り組んでいる方も是非何らかの形で顕在化させて、いろいろな学習機会に提供できるようにしたらよいのではないかと思います。
 ちなみに、学校教育の中でこのようなことを最初に15分ほど学んで、それから子どもたちでディスカッションしてみようよという話も現実には出ていたりしていまして、そのような面でコンテンツの推進も非常に大切なのではないかと思います。

【水嶋委員】
 今、渡邉委員もおっしゃいましたし、坂元委員もおっしゃいましたけれども、私は人材養成が大事だと思うのです。地域のおじいちゃん、おばあちゃんが持っている知識や経験を、仮に公民館や博物館の場で提供したとしても、そこに地域のコーディネーターが必要になるわけです。それから、メディアにしても、コンテンツにしても、内容の充実は図れたとしても、それを使ってどのように教えていくのかという点で介在者が必要だと思います。
 そのような意味では、人材養成のシステムも、今、改革の波に乗っていますけれども、社会教育主事は形骸化しているように思いますし、学芸員も本当の意味で学芸員といえるのかというような気もします。そのような意味では、生涯学習を促進するような地域のコーディネーターについて見直す必要があるのではないか。持っているソフトなり、コンテンツなり、地域の年配者なり、おじいちゃん、おばあちゃんなりというのは、たくさんの経験を持っていますが、それを顕在化させて地域に役立てるためのコーディネーターが必要だと思います。しかし、そのコーディネーターは不足しており、NPOで頑張っている人たちはいるものの、もう少し全国的に整備をしていく必要があるのではないかと思いました。

【菊川委員長代理】
 学校教育につきまして、私は3月まで義務教育の仕事をしておりました。現場の先生方と話すと、年々小学1年で入学してくる子の親の質が変わってきているということを申します。ですから、ベテランの教育長さんは経験豊かな先生を1年1組に配置して、親の教育も一緒に取り組んでいるのだということをおっしゃっていました。
 4月からは、社会教育センターにまいりまして、若いお母さん方が取り組んでおられる子育てネットの方々と交流する機会が増えております。そこで感じますのは、やはり子育て能力が非常に落ち込んでいて、質と量を両方確保しながら、0歳から6歳までの子を持つ親の支援をしていくかが、非常に大きな政策上の課題でございます。
 そのような観点から、去年の3月に出ました生涯学習分科会報告というのは、正確に現状における問題点を指摘しているのではなかろうかというふうに思います。
 ただ、それから1~2年経過しまして、時代が動いているものですから、さらに具体的にどういうシステムを取り入れていけば、具体的に改善していくのかというところは、まだまだつけ加えていく余地があるのではないかと思っているところでございます。ですから、個人的にはこの審議の報告をもとに、さらにこれをほんとうに具体に改善していくことを1つでも2つでも積み重ねられると、関係者は非常にありがたく思うのではなかろうかと、改めて思っております。

【中込委員】
 先ほど渡邉委員の話から、子どもは自然に返す、あるいは自分で何でも手でやらせるとの御意見がありましたが、最近、小学校では確か、ナイフは使ってはいけないのですよね。だから例えば、自分で手を切って血を出して痛みを知るとか、家庭科の教育でカレーライスをつくったけれども、こぼして、やけどして痛かったとか、そのような経験が非常に欠けているのではないか。私が小学校のときは、確かぞうきんを縫った覚えがございます。ぞうきんを縫っている間には針で手を指したりもするわけですね。そういう体験から、いろいろなものを学んでいくということが大事だと思います。ただ、今の若い人たちはニートやフリーターなど、目的が非常に見えなくなってきているということが一番のポイントなのです。自分の社会での存在感は一体何だろうと。だから、今まで日本はずっと上がり調子できた。ところが、それを一たん考え直して、若者たちには少し平衡感のある考え方を持たせる。つまり、何でもかんでもこうやらなければいけないというような固定的な考えや、こういうものを勉強しなければいけないというような押しつけではなくて、もう少しやわらかい発想が必要ではないでしょうか。
 小学校から中学校に入るときには、私立へ行く子は受験勉強をする。中学校へ入れば今度は高校へ行く受験勉強をする。高等学校になれば、これは高校の先生もそうですが、いい大学に入学することだけに血道を上げる。だから、実際に自分の存在意識を持つ社会での目的は何かと聞いたときに、わからなくなってしまうのです。だから、算数を勉強すれば得だよ、英語を勉強すれば得だよ、コンピューターを勉強すれば得だよ、というような損得の勉強しか教えないということが問題なのです。
 そこを自然に戻すのもいいし、おじいちゃん、おばあちゃんがたまには小学校に小学校の市民講師として行って、小学生を相手に話をする。そうすると、おじいちゃんがいるお孫さんは、今日、おれのおじいちゃんが来るんだ、ちょっと恥ずかしいなと言いながら結構そのおじいちゃんの話を聞いて、誇らしげになる。そういった小さな小さな一つ一つの積み重ねが子どもたちを正しい方向に持っていくと思うのです。
 今はやたら競争だとか、お金もうけに勝つとか負けるとか、勝ち組、負け組という言い方がされます。けれども、そういう問題ではないのです。そういうことがあるから、若い人はみんな引っ込んじゃいますよ。だから、私は実際18歳から22歳までの学生を扱っていますし、一生懸命彼らを就職させようと努力しますが、1割、2割は落ちこぼれます。彼らは、僕、フリーターでいいんです、僕はニートでいいんですとか、こうなんですよ。だから、そういう子たちに、君たちの人生の目的は何ということを、小さいうちから高らかに教えるということがとても大事なのです。細かい方法論じゃないんです。精神論がポイントだと思います。
 資料2の3番目の項目を排除するには、小さいうちから目的意識、職業能力、働くことの美しさ等について学ばせないといけないのです。
 また、今は企業の利益のためといって、社員は大体が委託になってきているわけです。そうなりますと、委託はすぐ首になりますし、いつでもやめられます。そうなってくると、自分は何のために働いているんだろうという、要するに勤労意識も若干欠けてくる。従って、今後も企業の方にはどんどん雇用を促進していただかないといけない。若者たちには、どうせ卒業したって、おれは委託だから、アルバイトだから、というような発想を持たせてはいけないと思うのです。しっかり働けよと励ますような施策をお願いしたいと思います。

【茂木分科会長】
 企業が全部そうやっているわけじゃないですね。それから、パートタイマーの人たちは企業の方もニーズはありますけれども、働く方にもニーズがあるのです。ですから、需要と供給がマッチしているだけの話であって、企業が強引にフルタイムの従業員をやめさせて、パートタイマーに切りかえるなんていうことは、やっている会社もあるかもしれませんけれども、ほとんどないということですから、誤解のないようにお願いします。

【山本委員長】
 きょうのお話を伺っていて、委員長代理がさっきおっしゃられましたように、昨年の報告を具体的に詰めていく、あるいはそれを発展させるというのは、前回も意見が出ていましたから、可能だと思います。
 資料2には1、2、3と3つ挙がっておりますが、きょうお話を聞いていますと、差し当たってはこの3つについて話を進めていってもよいかと思いますが、問題は、今日の話を伺っていても、いろいろなところに議論が広がっていますが、今、国際的にも、いろいろな領域で問われている二律背反的なものや、両極にあるものを同時に成り立たせるとか、バランスをとるとか、調和を図るというような考え方で進めていかないと、こういう生涯学習のいろんなものが入っている領域はできないんじゃないか。
 そういうことで言うと、例えばお話が出ていました企業なのか、起業なのか、両方かもしれません。起こすほうも含めて起業、企業対行政とか、これは両極じゃないかもしれないけれども、そういうようなとらえ方、生涯学習を進めていくときに、どっちでいく、両方だとか、いろんなことがあると思うのですが、そういうバッテリーみたいなものがあるかと思います。考える中では違うもの、両極にあるもの、バーチャルとリアル、システム的な仕組みと出会い、雰囲気みたいなものを大事にするという、片方はかちっとしたもの、片方は偶然性も入れたものということまで考えて、両極にあるという類いから、それから人間の教育という言葉が出てきました。人間と言っておきます。人間の教育対技術の教育といいますか、技術的なこと。これは対立するわけじゃないかもしれませんけれども、力点の置き方としてこっち、こっちというお話が出てきたりしております。それから、自然対人工、アーティフィシャルなものとか、そのようなこともまたあると思うのです。
 そういうような考え方をもとに、今、これから道を開かなくてはいけないわけですから、それをどう開いていくのか。あれもこれもの場合もあるでしょうし、どっちかしか今できないということもあるでしょうし、この前から出ているように、どこかに絞りましょうという話もあるでしょうし、いろいろあると思うのですが、お話を伺っているとそのような状況に来ているのではないかと思います。これは今まで我々はこういう領域では経験していないことでございますので、ぜひ委員の皆さんの知恵を絞って出していただいて、道を開いていただければありがたいと思うわけでございます。
 分科会長、進め方でどうでしょうか。

【茂木分科会長】
 これで結構だと思います。これに絞っていったほうがいいんじゃないですか。

【山本委員長】
 そうですね。そうすると、今のようなことで。もちろん途中で議論して検討していくうちに、ほかの問題が出てくると思います。それはそれでいいと思うのですけれども、差し当たっては今日ご議論いただいたようなことを整理して、この3つについていろいろこれから議論していただきたいと思います。

-了-

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生涯学習政策局政策課