教育振興基本計画部会(第8期~)(委員懇談会) 議事録

1.日時

平成28年11月16日(水曜日) 14時~16時

2.場所

ホテルグランドアーク半蔵門 3階 「華」(東京都千代田区隼町1-1)

3.議題

  1. 教育政策の基本的な方針の検討について
  2. その他

4.出席者

委員

 北山部会長,河田副部会長,阿部委員,大竹委員,金子委員,川端委員,菊川委員,白井委員,田中委員,田邉委員,戸ヶ﨑委員,永田委員,丸山委員,宮本委員,山脇委員

文部科学省

 小松文部科学審議官,有松生涯学習政策局長,関総括審議官,山下文教施設企画部長,浅田大臣官房審議官,瀧本大臣官房審議官,森田初等中等教育局初等中等教育企画課長,里見生涯学習政策局政策課長,寺坂教育改革推進室室長補佐他

オブザーバー

 駒村康平 慶應義塾大学経済学部教授 ファイナンシャル・ジェロントロジー研究センター長

5.議事録

【北山部会長】
 ただいまから教育振興基本計画部会を開催します。お忙しいところお集まりいただきましてありがとうございます。
 部会と申し上げましたが,委員の定足数を満たしていませんので,本日は委員懇談会という形式で開催させていただきます。
 本日の議題は,教育政策の基本的な方針の検討についてということで,流れとしましては,まず,青少年意見募集事業として,子供・若者から「これからの教育・学びの在り方」や,「教育への投資の促進」について意見を募集したとのことですので,その結果について事務局から報告いただき,意見交換をしたいと思います。
 その後,教育施策の基本的な方針案について,前回の部会での議論を踏まえて事務局において複数の方針案を作成しておりますので,こちらについて,また御意見,御審議いただきたいと思います。
 途中で,慶應義塾大学の駒村教授から,特に中高年,高齢者の学びという見地から御発表いただき,その質疑を含めて意見交換の続きを行いたいと思います。
 それでは議事に入ります。まず里見課長から,青少年意見募集事業の結果について御説明をお願いしたいと思います。里見課長,お願いします。

【里見生涯学習政策局政策課長】
 それでは,資料1-1から1-4を使って御説明させていただきます。
 まず,資料1-1に書かれておりますように,この事業は青少年意見募集事業というものでございまして,その詳しい内容につきましては,まず,資料1-4を御覧ください。
 これは内閣府で実施している事業でございまして,子ども・若者育成支援推進法という法律がございますが,この中で国は子供・若者育成支援施策の策定及び実施に関して,子供・若者を含めた国民の意見をその施策に反映させるために必要な措置を講ずるものとするとされていることを受けまして,若者の意見を聞けるような仕組みとして,内容というところになりますが,全国から募集した中学生以上30歳未満の方をユース特命報告員ということで任命をしておられまして,この方々が約300名おられるということで,通常はインターネットで意見募集を受けるという仕組みでございますが,特定のテーマについては実際に集まっていただいて,ユース・ラウンド・テーブルという意見交換を実施できるという仕組みでございます。
 今年度の意見募集のテーマといたしまして,私どもの方から「これからの教育・学びの在り方について」というテーマを提示させていただき,今回,内閣府と共同でこの意見募集を実施させていただいたものでございます。
 詳しい内容は,資料1-2と1-3の方に結果がございますが,本日私からは時間の都合上,資料1-1の概要で御説明させていただきます。
 それでは,資料1-1の1ページを御覧ください。ユース特命報告員は300名の方々がいらっしゃいますが,意見を9月から10月にかけて受け付けたところ,164名の方々から御回答を頂くことができました。その方々の内訳は御覧いただいたとおりでございまして,中学生から29歳までの方から御回答を頂きました。
 そして,2ページでございます。質問の項目が幾つかございますが,まず質問1といたしまして,今まで受けてきた教育を振り返って,最も印象深いもの,あるいは受けて良かったと思うものを選択してくださいという選択式の問いでございました。この中で一番集まりましたのが(ア)の「学力」という項目でございましたが,それ以外に集まっておりますのが(エ)の「部活動」,(オ)の「実習・体験活動」,(サ)の「留学などの異なる環境での学習」ということで,学力と体験型の様々な活動というのが最も印象深い,又は受けて良かったという結果であるかと思っております。
 続きまして,3ページ,質問2についてですが,様々な理由から自分の希望する教育が受けられない子供・若者に対してどのようなサポート,仕組みが必要だと思いますかという問いに対して,自由記述で頂いた意見でございます。
 まず,一番上からですが,学校の教師の人数を増やすことが必要である。それから,学校を地域に開放していくことが重要である。専門家,特に臨床心理士などの専門家が学校をサポートすることが良いと思う。それから,ボランティアやリタイア後の元気な高齢者を活用するのが良い。それから,民間企業による教育への投資を求めてはどうか。そもそも教育に掛ける予算が全体的に足りない。返済の必要性のない奨学金を増やしてほしい。既存の取組を十分に周知していくことが大切であるので,必要な情報がくまなく行き渡るように学校現場に多くの情報を寄せ,それを学校が主体となって生徒・保護者へ伝えていく仕組み作りをしてはどうかということでございます。
 4ページ,質問3でございます。2030年以降の社会というのを見据えたときに,あなたはどのような能力を身に付けたいですかという問いでございます。意見,自由記述でございますが,人間にしかできないこと,コミュニケーション能力,情報リテラシー能力あるいは英語,外国語,どのような場所でも自分の能力を発揮できるような適応力,そのための留学生の受入れや留学支援,相手と議論して対話をし,問題対決をしていく能力を身に付けるということで,正解がない中でより良い答えを出していく能力を身に付ける必要がある。人と関わる力を付ける必要がある。生活力。勉強だけでなく,家庭的な学びが必要である。このような御意見でございました。
 5ページ,質問4でございますが,国が教育への支出を増やすことについて国民に理解をしてもらうためにはどのようにしたら良いでしょうかということでございます。
 これも自由記述でございますが,国としてどの分野を伸ばし,その結果としてどのような成果を得たいのか,具体的なビジョンを広範囲に展開していくべきである。全ての国民にメリットがなければ理解してもらうことは難しいと思うので,マスコミなどを通じて発信していくことが必要。教育にかけるお金は消費ではなく,投資であるということで,そのデータや法則といった根拠はたくさんあるので,それを説明していくべきである。そして,若者に対する主権者教育が必要ではないか。教育の現場を普段知らない人々に知ってもらう取組が必要であると考える。子供のための教育だけでなく,大人の学びの場,高齢者の生きがいの場といった複合的な機能を果たしていくことが学校の持つ価値を高め,教育への支出を増やすことに理解を得られるようになるのではないか。教育によって得られた実績やこれからどんなものが得られるのか。そして,それには一体どのくらいお金が必要なのかを具体的に示す必要があるのではないかといった御意見でございました。
 6ページからは,ユース特命員300名の中から希望される方に実際に文部科学省に集まっていただきまして,25名から10月に直接意見を聞く機会を設けました。中学生から社会人までお集まりいただくことができました。詳しい内容は7ページから御紹介いたします。幾つかテーマを設定しておりまして,このテーマに対して賛成か反対か,それはなぜかというところで議論を進めていただきました。その結果でございます。
 まず1番目は,「現在,不平等が拡大しており,子供に投資をしなければ,経済にも悪影響がある。政府は,平等と成長のために教育に投資をすべきである」という考え方についてどう考えますかということです。主な意見といたしまして,機会は均等であるべきである,あるいは労働の質が高められる,将来につながるものであるという御意見。借金をしたとしても,若者を支援すべきであるという御意見がありました一方で,借金ではなく,増税した方が良いという御意見や,また,政府だけでなく,民間にも教育の投資を呼び掛けるべきであるという御意見もございました。
 2番目でございます。「高齢者にも,若者にも必要な政策を両方行う。国民の負担の増加はやむを得ない」という考え方に対してどう考えますかと聞きましたら,主な意見といたしましては,真ん中の方にございますが,若者にも高齢者にも両方にお金を使うべきであるという意見が多数でございまして,若者も高齢者も平等に負担をし,高負担・高サービスを実現していく。あるいは消費税が上がるのは仕方がない。税金を払ったときにきちんと使われているかどうかという実感を与えるようにすべきである。目的を明確にすべきである。こういった御意見でございました。
 8ページにまいります。「収入の多い家庭は多く負担し,政府は所得の少ない家庭の負担を減らすために支援すべきだ」という考え方についてでございますが,主な意見といたしましては,経済状況にかかわらず教育の機会が与えられるようにすべき,あるいは所得のみならず,意欲も条件とすべきであるといったところが多い御意見でございました。
 そして8ページ,下の方でございますが,こういった教育投資への理解の促進を図るためにはどうしたらいいかということでございますが,教育投資の使い道を明確化し,効果を実感できる政策を実施し,データを用いて十分な情報発信を行うべきで,その手段として,学校での講演会,あるいは学校を通じて保護者に説明を行うというのも良いのではないか。あるいは学生に教育の在り方を確認し,考えてもらうシステムを設けてはどうか。無駄遣いがないか確認した方がいい。あるいはお金の使い道を教育に限定するということで理解を得てはどうか。このような意見を頂いたところでございます。
 以上,簡潔に御紹介をさせていただきました。よろしくお願いいたします。

【北山部会長】
 里見課長,ありがとうございました。これは若い世代に対してのアンケートですが,非認知能力の重要性や,教育投資の重要性など,我々の思いと共通する部分も多いように思います。この調査結果の概要の御説明について,皆様から御意見,御質問があれば,お願いいたします。
 それでは,田中委員,お願いします。

【田中委員】
 御説明ありがとうございました。きれいにまとめていただきまして,分かりやすいものになっていたかと思います。
 1点質問と1点意見になります。まず1点目は質問になりますが,これは圧縮版を作られたので,仕方がないというところはあるのですが,質問1から,それに対してコメントが述べられていて,あたかもそれが全ての答えの代表のように見えるのですが,これは恐らく,何らかの基準でセレクトしており,全ての質問を代表しているとは思えないのですが,どのように主な質問を,セレクトしたのかということであります。
 それから,2点目は意見であります。この質問の仕方としては,教育投資を増やすべきということを大前提にしていますが,日本の財政は今,破綻しています。破綻し,パイも限られており,昨日,予算の審議はほぼ終わりましたが,多くの省が予算を数千億円単位でカットしている中で,国が財政破綻しているという大前提を,この質問をした方たち,あるいはユース・ラウンド・テーブルの方たちと共有していたのか,その上でこの議論をしたのかというところが若干疑問であります。ここは確かにどこも投資が必要なのですが,今それを言っていられないほど厳しい財政状況にあるということは,どこでもきちんと伝えるべきことではないかと思います。
 以上です。

【北山部会長】
 里見課長,何か御意見はありますか。

【里見生涯学習政策局政策課長】
 ありがとうございます。おっしゃるとおりでございまして,まずどのような基準でセレクトしたかということでございます。
 資料1-2に抜粋とはなっておりますが,実際ホームページに掲載されているものから,本日御覧いただくために,特に自由意見の部分をそのまま掲載させていただいたバージョンをお配りさせていただいております。今回は,御意見の中でも制度論に関わるような部分について,特にこの計画部会の中で役立てていただく趣旨で抜き出しをさせていただきました。当然,反対の意見が出ている部分も記述欄にはございますので,その点も含め,資料1-2も御覧いただきながら,御意見を頂ければと思っているところでございます。
 また,二つ目の日本の財政状況についての説明をしたかどうかという点についてでございますが,インターネットでの意見募集については私どもではなく,内閣府で直接されていますので,詳しい状況は分からないのですが,ユース・ラウンド・テーブルに集まられた方々につきましては,日本の財政状況が大変厳しい状況に置かれているということは冒頭に口頭で説明をしておりまして,その上で皆さんはどのように考えますかということで,質問させていただいているものでございます。

【北山部会長】
 そのほか,特によろしいですか。
 それでは,次に教育政策の基本的な方針(案)についての審議に入りたいと思います。
 まず,事務局から説明をお願いいたします。

【里見生涯学習政策局政策課長】
 それでは,本日お配りしております資料2を御覧いただければと思います。
 恐縮でございますが,タブレットの下のボタンを押していただきますとスイッチが入りますので,このタブレットのコンテンツの中の13番,教育振興基本計画部会第8回配付資料というところをクリックしていただきますと,資料1-3というのがございまして,審議状況のイメージ図というのがございます。こちらが今まで御覧いただいていた資料の形でございますので,こちらと一緒に見比べていただければと思います。
 まず,こちらのタブレットの方で先に御説明いたしますと,以前の時点では教育の目指すべき姿というのを一番左肩に,今起きている状況を黄色で,そして今こそ教育が果たすべき役割ということで,個人と社会に着目した整理をさせていただき,そして基本政策の基本的な方針を検討するための検討の視点案という形で整理をさせていただいたものでございます。
 本日お示ししているものは,形は似ているのですが,その先にいっておりまして,まずタブレットの真ん中の青い部分にあるのが,一番上に書かれている部分となっているものでごいます。教育の目指すべき姿として,「個人は自立した人間として,主体的に判断し,多様な人々と協働しながら,新たな価値を創造する人材の育成」。そして,社会は2点ございまして,「一人一人が活躍し,豊かで安心して暮らせる社会の実現」,「社会(地域・国・世界)の持続的な成長・発展」ということを目指すべき姿として掲げたということでございます。
 これまで黄色のところに書かれていた部分で,実は余り展開をされていなかった黄色の一番下の現行計画の成果と課題という部分について,まだ検討いただいている途中段階でございますが,これまでの2期の計画のフォローアップで,それぞれ指標を確認する中で,達成が厳しくなっているものを要点的にまとめたものが,本日お配りしております資料2の一番左の上側でございます。
 現行計画の進捗状況を踏まえた課題といたしましては,4点,今整理できるかと思っております。今後,もちろん進捗状況は変わりますので,この点につきましてはまだ確定したものではございませんが,御覧いただきますと,一つは目標・自信,主体性の確保,他者理解の促進の必要といった点。個人の様々な能力の中でも,特にこの点につきまして,必ずしも指標の達成に届かないという状況が今見られるというものでございます。具体的には夢や目標,教科学習の有用感,規範意識,他者理解,自己価値の認識,体験活動,いじめ・不登校といったところに出ておりますし,インターンや学生の自律的学習時間,就職状況の公開という,大学生に対するような指標でも同じようなことが整理できるかと思っております。
 二つ目は健康の確保,体力の向上ということで,子供の体力が,右肩上がりではありますが,目標に達するには取組がまだまだ必要という状況でありますのと,新たなことといたしまして,朝食の欠食という問題も生じてきているところでございます。
 それから,学校を卒業した後の社会人の学び直しということで提示しているわけでございますが,必ずしも学び続けられていないのではないかということ。
 それから,グローバル化の目標がたくさん掲げられておりますが,いずれも目標まで達成できていないという状況がございます。
 このような課題も加味して,2030年の社会を見据えた課題,これはタブレットの方にもともとあります黄色の部分に書かれているものでございます。それ以外にも基本法の理念であるとか,国際的な状況であるとか,まだまだ考える点もございますが,仮にこれを基本的な方針に集約していくとすれば,どうなるのかということでの図示になってございます。
 前回の検討の視点案を基にした御議論のときに,様々キーワードになるものを頂いたという理解をしております。例えば目標・自信を持って他者と関わりながら,主体的に取り組む。キーワードとしては基礎力,洞察力,先を見抜く力,行動力といったもの。あるいはたくましく生きるための健やかな体を育む。学校卒業後も生涯学び続ける。一人一人の生産性を高める。革新的技術を使いこなす。イノベーションを起こす。グローバル化への対応を加速する。地球規模課題の解決に貢献する。教育に関する子育て不安を解消する。貧困の連鎖を断つ。多様性を受け入れる(多様化を進める)。学校・家庭・地域の役割分担,教育力の向上。社会と関わりながら学び,地域で実践する。こういったものをキーワードとして掲げました。
 ここまでの整理を前提とした上で,本日お示ししております資料2は,1枚目に案1というパターンをはめてみたものでございます。2枚目の方は,案2と案3もここの部分を変えるとすれば,このようなことがあるのではないかということで,本日御議論いただきたいと考えておりますのは,この黄緑色を塗った部分につきまして御議論いただきたいというものでございます。
 まず,1枚目の案1で御説明させていただきます。この案1は,今出ております様々な課題をキーワード的に行うべきこととして整理した上で,自然な形でまとめてみたものでございます。新しい時代に必要となる資質・能力という観点で,まず二つにまとめました。一つ目は丸1として,「夢と自信を持ち,生涯を通じて挑戦するために必要となる力を育成する」ということで,「全ての人に,より良い人生を送るとともに,社会に主体的に関わる上で基盤となる資質・能力の育成」,「老若男女全ての人が生涯を通じて学び続け,活躍できる環境の整備」などでございます。
 丸2は,「社会の持続可能な発展をリードするために必要となる力を育成する」ことでございまして,「グローバル社会やイノベーションを牽引(けんいん)する高度人材の育成」などでございます。
 そして,大きな項目といたしまして,そのような社会の条件整備といたしまして三つ掲げております。丸3は「格差の固定化を解消する」ということで,「貧困による格差の解消に向けた支援」などとしています。丸4といたしまして,「地域が人を育み,人が地域をつくる好循環を形成する」ということで,「学校・家庭・地域・企業等が連携・協働した教育の推進や,学校を核としたまちづくり,学びを通じた地域づくり」,「年齢,性別,国籍,経済事情など多様な人材の協働,活躍支援」などでございます。そして,丸5が「教育政策推進のための基盤を整備する」ということで,「教職員指導体制・指導環境の整備」,「ICT環境整備」,「学校施設の耐震化・老朽化対策」,「日本型教育の海外展開」,「目的に照らした教育効果の検証」などでございます。
 1枚めくっていただきまして,一番左側は同じでございますので,案2の方を御説明いたします。案2は,同じものを前提といたした上で,今期は第3期の計画となるということで,この計画の中で御議論いただいたもので,少しらしさを出していける方向はないかということで検討したものでございます。
 丸1といたしまして,「自信を持って生きるとともに,多様な他者を認め,協働するために必要となる力を育成する」ということで,個人が個人として力を持つとともに,協働するということを組み合わせて書いたパターンでございます。
 丸2は,「新たな発想で可能性に挑戦し,持続的発展に貢献するために必要となる力を育成する」ということで,イノベーションを牽引(けんいん)する力というものをより強調的に書きましたことと持続的な発展,これは地域であり,国であり,世界であるということを意識しておりますが,全ての部分において新たな発想で挑戦するという組合せにしたものでございます。
 また,社会の条件整備ということで,丸3として「誰もが希望する教育を生涯受け,活躍できる社会をつくる」ということで,本日駒村教授からも御発表がございますが,高齢者が大変増える社会がこれから控えておりますので,この方々が生涯希望する教育を受けて,活躍できるようにするということを特別に立てているものでございます。
 そして,丸4は「効果的で質の高い教育環境を整備する」ということで,同じでございます。
 案3でございます。案3は視点を変えております。「教育の果たすべき役割」と「必要な基盤整備」ということで,国がどのようなことを行うのかという書き方で整理をしたものでございます。
 丸1は,「生涯を通じて一人一人に充実した人生を送る基盤を保障する」,丸2は,「多様な可能性を開花させ,社会を持続的に発展させる」,丸3は,「学びのセーフティネットを整え,格差を解消する」,そして丸4といたしまして,こちらも同じでございますが,「教育政策推進のための基盤を整備する」という形で整理させていただきました。
 本日は,案1,案2,案3に関わらず委員の皆様の御意見を頂きまして,次回までに一つの案に整理をさせていただきたいと考えておりますので,よろしくお願いをいたします。

【北山部会長】
 ありがとうございました。
 それでは,今の説明について御意見等がありましたら,意見交換の時間を取りたいと思います。
 なお,白井委員から事前に資料の提出があり,資料4としてお配りしておりますので,まず白井委員から資料4の御説明をお願いします。

【白井委員】
  ありがとうございます。お配りさせていただきましたのは,今,多様な子供たちに対して多様な教育機会を保障していく必要があるという一環で,実は歴史的なことなのですが,事務次官に池田市にお越しいただきまして,不登校の子供たちを取りこぼさない教育をどのようにつくっていくかということについて,地方の教育行政のトップ,市長と教育委員会のトップがしっかり話し合うという機会を作っていただきました。来週なのですが,是非たくさんの方にお聞きいただければと思いますので,皆様,情報拡散をお願いできればということと,メディアの皆さんも是非取材にお越しいただければというところで資料をお配りいたしました。よろしくお願いします。

【北山部会長】
 ありがとうございます。
 では,また資料2に戻りますが,御意見ありますか。それでは,田中委員,お願いします。

【田中委員】
  案1,案2,案3について,この夏頃に出されたものからとてもよく整理していただき感謝申し上げます。その上でどの案がいいのかということですが,まず消去法で申し上げますと,案3は落ちるかなと思っています。理由は,ビジョンを示した方がいいと思うからです。何々をするから,これは国の役割があるという話で,ここは手段を書いているので,何を目指すのかということが前面になる方がいいということを考えますと,案3は落ちていく気がします。
 案1か案2のどちらがいいかと考えますと,案2の丸2の「新たな発想で可能性に挑戦し,持続的発展に貢献する」というところですが,これはもしかすると,文章の全文に関わってくるようなところではないかと思うのです。そのような意味では目的の中に更に目的が入ってしまっているので,そう考えると,私は案1のままでいいのではないかと思います。
 以上です。

【北山部会長】
 では,金子委員,お願いします。

【金子委員】
 それぞれの案について,私は以前から少し違和感があるのですが,今回の政策は,広い意味での学力についてですが,人と協力するなど,従来の教科的な学力ではないところに非常にウエートがかかった書き方がされています。
 ただ,もともと教育振興基本計画ができたとき,一つには,御存じのように義務教育国庫負担金の改正がありまして,それに応じて義務教育についての質をきちんと保障していくという話が,非常に重要な概念として入っていたのではないかと思います。
 本日タブレットにあります第1期教育振興計画を見てみますと,確かな学力や,教科的な学力についてきちんと確保するという姿勢が非常に強く出ています。それが今回,全くないのです。これはどうしたものか,いいのかということなのです。私は学力の幅を広げることは賛成ですが,基礎的な学力というのは重要で,これは日本の将来の考える上でも重要です。
 それから,第2期のときはPISAで何番目などといったことが書いてありましたが,それは私はくだらないと思うのです。ただ,基礎学力についてどのような把握の仕方をするのか,それについてどのように保障していくかというのは,教育振興基本計画として不可欠の要素ではないかと思います。
 しかも今,高大接続改革が行われていまして,そのうちの基礎学力試験は特に義務教育段階で獲得すべき学力を保障するという観点を非常に強く意識したものだと思います。私はその議論に参加しておりましたが,その途中で高校教育が最初に問題になったわけでありますが,そのとき,中学校の先生がこのままで中学校を卒業させていいのかと思う生徒を卒業させざるを得ない,これはどうしたらいいのかと非常に率直におっしゃっていて,私はそれが非常に印象に残っております。日本の学校教育体系全体を考える上では基礎学力を確保し,しかも一定のところでチェックをするというのは非常に重要だと思います。これは最も基本になるところだと思いますし,実際その方向で計画が進められているわけです。
 また,これがほとんどかみ合うところがないというのはまずいのではないかと思っています。そういった意味で,基礎学力についての何らかの観点を入れるべきではないかと思います。
 以上です。

【北山部会長】
 ありがとうございます。それでは,田邉委員お願いします。

【田邉委員】
 ありがとうございます。大変うまくまとめていただきまして,分かりやすい説明だったと思います。
 まず現行計画の課題として健康の確保や体力の向上の必要性ということで,子供の体力や朝食の欠食ということが挙げられております。キーワードとしても,たくましく生きるための健やかな体を育むというところがあるのですが,実際の方針案には,子供の体力や健康に関する文字がどの案にも出てこないので,「豊かな心の」の後に「健やかな体」という文言も入れてほしいという意見でございます。
 先ほども最初に里見課長から御説明がありました青少年意見募集事業の質問において,今まで学校で受けて良かったと思うものの選択肢の中に部活動も挙げられており,部活動は子供たちにとって体験型であり,貴重な経験になっていると思います。
 以上です。

【北山部会長】
 ありがとうございます。それでは,阿部委員お願いします。

【阿部委員】
 子供の貧困の解消といったところをきちんと明言していただき,これは大変進歩だと思います。ありがとうございます。その上で,案1,2,3について申し上げたいことがございます。
 まず,先ほど案3は余りよろしくないという御意見がありましたが,この部分においては,「学びのセーフティネット」という言葉が入っている点が非常に評価できると思っております。先ほど金子委員からお話もありましたように,基礎学力を全ての子供に保障するということをきちんと明言していただきたいと思います。「学びのセーフティネット」という言葉が一番いい言葉かどうかは分かりませんが,そのような形で入れていただきたいと思っております。
 その点では,案2の「誰もが希望する教育を生涯受け,活躍できる社会をつくる」というのは,「生涯」という言葉が入っているからだと思いますが,どちらかというと生涯教育というイメージを持たれてしまうのではないかと思いますので,貧困に対する対応といったところでは違和感を抱いてしまうところがあります。
 また,案1とその前のページですが,ここでは貧困に対する対処ではなくて,貧困の連鎖,格差の固定に関する問題提起がなされているのですが,この二つは一緒ではないと思うのです。つまり,格差が固定しなかったら,貧困によって,基礎学力が身に付いてない子供を出してしまってもいいのかということですが,そうではないと思います。格差を固定することももちろん問題ですが,それ以前に全ての子供に最低限のものをきちんと保障するという視点の方がより重要かと思いますので,この部分については,丸3のような書き方にしていただきたいと思いました。
 あと1点,非常にマイナーな点なのですが,1ページ目の一番左に「健康の確保,体力の向上の必要」の部分に,「朝食欠食」が書かれております。これは恐らく文部科学省が把握していることが,今のところは朝食の欠食ということだと思うのですが,実際に栄養学の方からは,夕食も含めて栄養自体が足りないという状況が出ております。ここでは朝食の欠食が問題なのではなく,基礎的な栄養も含め生活自体が保障されてないところがあるかと思いますので,文部科学省だけではないかもしれませんが,他省とも連携しつつ,御飯さえきちんと食べられてないという子供の置かれている生活環境も踏まえた上で,教育をどのようにしていけばいいか考える点を入れていただければいいと思いました。
 以上です。

【北山部会長】
 ありがとうございます。
 里見課長から基礎学力などについて,何か御発言があればお願いします。

【里見生涯学習政策局政策課長】
 御意見ありがとうございます。基礎学力につきまして,当方の気持ちといたしましては,必要となる力を育成するという1番のところに,「全ての人に,基盤となる資質・能力の育成」という書き方をしてしまったことで,「基礎的な能力」という用語が入らなくなってしまっている点がございますので,少し考えさせていただきたいと思います。体のことについても触れられていないという御指摘でございますので,これは「知・徳・体」ということで,全てが整ってということは当然だと思っておりますので,この点も併せて考えたいと思います。
 また,最後に御指摘いただきました,特に栄養状況そのものが整ってからこそ,勉強,教育というところにまでいけるのではないかという御意見につきましては,私どもが見ているデータ以外にも,ほかのデータも併せて見させていただきながら,またこちらも考えていきたいと思っております。

【北山部会長】
 それでは,戸ヶ﨑委員,お願いします。

【戸ヶ崎委員】
 大変よくまとまっていると思いますが,前々から私が申し上げていることは,せっかく様々な知見をまとめて,大変苦労して作った計画が果たしてどのように活用され,それぞれの教育の中に落とし込まれていくのかということです。基礎自治体の立場から申し上げますと,学校現場をイメージすると,現行計画が学校の門戸ぐらいまでは入っているとしても,教室の中までは入っていないのではないかという思いが非常に強くあります。
 そのため,この計画の存在そのものを教員が知らない,家庭も知らない,保護者も知らない,地域も知らないということになると,せっかく作り上げていったものが,それぞれ実践する立場の中に落とし込まれていかないのではないかという危惧を持っています。そのような意味で,この計画そのものがメッセージ性の高いものになっていかなければならないのではないかという思いがしています。
 現在,教育再生実行会議でも家庭,学校それぞれの役割分担ということで議論されていると思いますが,それぞれの立場の中にメッセージとして出せるようなものとして,まとめると良いのではないかと思います。
 その際に,案1から案3の中でどれかを選ぶのであれば,比較的それぞれの立場で分かりやすいのは案3であると思います。専門的な立場からすると,案1か案2になるのかと思うのですが,一般的に分かりやすいものとしては,案3がメッセージ性は高いのではないかと思います。

【北山部会長】
 それでは,白井委員,お願いします。

【白井委員】
 ありがとうございます。これまで御発言された委員の皆様の御意見とかぶる部分が多いのですが,やはり全ての子供に基礎・基本を保障するというのはこの会議の中心話題の一つだったと思いますし,阿部委員が指摘された「朝食」という文言に私も違和感を抱きまして,栄養状態は夕食も含めて重要な部分だと思います。
 今,戸ヶ﨑委員がおっしゃったメッセージ性という意味でも,私自身子育てをする親としてこの資料を拝見したときに,本日の議論の対象となるのはこの黄色に塗りつぶされている部分というお話ではあったのですが,その前の課題の部分や,キーワードの部分を何とか生かしていただけないかなという思いを持ちました。
 つまり国としてこのようにしていきますということを書くのは,もちろん一番大事な部分なのですが,そこだけを書かれてしまうと,現状をきちんと踏まえた上での議論だったのだろうかと,不安になる部分が恐らくあるのではないかと思います。
 したがって,今このような課題に我々は直面していますということをしっかりメッセージとして伝えた上で,このようなことを目指していきましょうということを言っていただいた方が,より安心感があるのではないかという印象を持ちました。
 その中でキーワードについて少し気になったのが,下から3番目に「多様性を受け入れる(多様化を進める)」があるのですが,これは大分意味が違うと思います。「多様性を受け入れる」ことは大事であるという議論はたくさんあったのですが,「多様化を進める」というのは,何を多様化するのかということがよく分からないので,ここはしっかり整理していただいた方がいいという印象を持ちました。
 以上です。

【北山部会長】
 ありがとうございます。
 それでは,ここで一旦区切りまして,駒村教授から御発表いただきたいと思います。駒村教授,お忙しい中お越しいただき,ありがとうございます。
 早速ですが,よろしくお願いいたします。

【駒村氏】
 慶應義塾大学の駒村でございます。よろしくお願いいたします。着席させていただいて,お話しさせていただきたいと思います。
 なお,私は社会保障を専門にしておりますので,必ずしも教育の分野のワードが正しく使われているかどうかというのは分かりません。その辺りも御容赦いただければと思います。
 現在,私は慶應義塾大学でファイナンシャル・ジェロントロジー研究センターという,新しい研究センターを作っておりまして,加齢に伴う様々な経済問題を分析するというテーマを研究しております。少子高齢化ではなく加齢による問題,具体的には寿命が延びていくことに伴う様々な社会問題,経済問題,一番狭く申し上げると資産管理の問題とかあります。加齢とともに資産の運用能力がだんだん落ちていくとか,それをどう補っていくのかなどといったことをテーマにして研究しております。
 資料は,高齢者,あるいは加齢に伴う問題を中心的に扱っています。ただ,専門が社会保障の中でも所得保障,生活保護,年金などのテーマになりますので,そのような部分も少し加味してお話しできればと思います。
 資料は65歳以上高齢者の数の変遷を示していまして,何本も線があるのは,推計時点によって高齢者の将来人数に差が生まれているためです。1970年代,80年代ぐらいは,将来の高齢者の数は2,500万人ぐらいだろうと見込まれていたわけでありますが,その後,寿命が延びているということで,高齢者の数は4,000万人となっています。つまり80年代,90年代に思っていたよりも,高齢者の数が多くなるのだということを少し把握しておく必要があります。昔から高齢化は予測されていましたが,数は予想以上に増えているということになります。
 それから,最近の人口推計を見ますと,これは65歳以降の高齢者の構成になるわけですが,65歳から69歳,70歳から74歳,75歳以上と分けております。これも御案内のとおりだと思いますが,2025年辺りから明らかに75歳以上人口が急激に増えていく。最終的には全人口の25パーセントから27パーセントぐらいまで,75歳以上人口が増えていく。最終的に高齢者率は40パーセントですが,40パーセントの中で,特に75歳以上の占める割合が大きいということになっております。そのような意味では75歳以上の人口が多いことが,様々な課題を日本社会にもたらしていくだろうということになります。
 一方で,65歳から69歳辺りの人に,社会の中でどのように活躍していってもらうのかというのも非常に大きな課題かと思っております。
 次の資料は,予測されている期間寿命です。コーホート寿命ではなくて,期間寿命なわけですが,今後,寿命がどのぐらい延びていくのかということで,国立社会保障・人口問題研究所の推計で新しい数字が出てきて,今後も延びていくということが期待されていると思います。
 寿命の延び方については,何段階かに分かれて人類の寿命が延びてきたわけでして,産業革命以前のほとんどの期間は,寿命を規定する要因は乳児死亡率であり,子供が早く亡くなってしまう,5歳ぐらいまでに半分ぐらい亡くなってしまうという時代が長く続きました。その後,そこを技術革新でクリアした後は,これを見て分かるように,例えば1981年の予測だと,男性の寿命,女性の寿命は75歳以下,女性も80歳ぐらいで頭打ちだろうと言っていたものが,それを上回ってどんどん延びていく。赤いのは実際の動きであり,最新の予測ということになります。赤が実際の動き,プラス最新の予測ということになります。 
 寿命の推計もこの間,いろいろと新しい手法が使われているようでして,いろいろバージョンアップをしているようで,より精度を高めようということで改定していますが,毎回の寿命予測よりも新しく改定した寿命の方がもっと延びるのではないかということが分かってきているということになります。
 特に,先ほども申し上げましたように,寿命の延びは,子供のときの死亡率が減少した後の20世紀の後半からは,高齢者の生存率が高まり,高齢者が長生きしています。子供のときに早く亡くなるということはなくなり,今度は高齢者が長く生きる。さらに,120歳をもしかしたら超えるか超えないか,上限がどこまでいくのかということも,最近,関心があるのだろうと思います。
 どこまで延びるのかについてはいろいろ数字があり,いいかげんにとまるだろうという議論と,とまるという根拠はないという議論がありまして,これはある研究なのですが,過去の寿命の伸長の各国の一番良い状態を,世界で一番寿命の長い国をプロットしてみるとどうなっているかというと,ほぼ線型で延びてきているということで,このまま延びるのかどうなのかということが注目されているということです。
 これも最近注目されている『ライフシフト』という本で,これはある研究からの引用になるわけですが,これは本当にこのような社会になると,夢のような社会,あるいは衝撃的な社会といいますか,先進国の今生まれている子供たちの半分が100歳を超える人生を迎えるのではないかという数です。
 今,男性の寿命80歳,女性の寿命は84歳とか言われています。最新の数字はもう少し延びていると思います。男性が82歳,女性が86歳ぐらいまで寿命が延びています。
 これは期間生命表,期間寿命と言われている計算方法で,現在の0歳の子供たち,2015年の子供たちが65歳になる2080年になったときも現在の2015年の65歳と同じ生存率で計算しています。これは合計特殊出生率の期間出生率と同じ計算方法のようなものです。
 しかし,これは寡少ではないか,もっと延びるのではないか。コーホート平均寿命法,先ほどの前の『ライフシフト』で引用されている計算方法,この考え方は現在の0歳,例えば2015年生まれの子供が65歳(2080年)になったときの平均余命は,2015年の65歳よりも延びているのではないのかと,当然そのように考えるわけです。
 実際どうだったのかというので,資料が23ページまで飛びますが,過去の世代生命表と期間生命表を比較した研究を見つけまして,これはきれいに出ていますので見てみますと,その時代その時代の生存率を示したものが左上の実線です。実際にコーホートを経験した生存率は点線の方ですので,期間生命表で計算されたものよりもコーホート,結果出てきたものの方が延びているということで,またもとの資料に戻りますが,現在,80歳,85歳の人生,つまり人生80年ということを今生まれている子供の世代に想定するということは,かなりずれた話になってくる可能性があるということです。
 もちろん全ての子供たちが100歳を迎えられる,つまり平均寿命が100歳になるというのとはまた話が違っています。アメリカは所得階層によって寿命に差があることが大きな問題になっている。しかも,この寿命の差が膨らんでいる。つまり100歳まで生きる子供と,それよりもはるかに手前で亡くなってしまう子供がいるので,平均寿命100歳ということにはならないだろうと思います。
 だから,その寿命格差が広がってくるということは当然あるだろうと思いますので,平均寿命100歳と言っているわけではなくて,そのようなことも少し考えておかなければなりません。そこまでこの研究が考慮しているかどうかは私もまだ十分調べ切れておりませんが,一方では所得格差によって寿命の差が出てきているということも留意しておかないといけない,また,社会システムを作る以上,留意しなければいけないと思います。
 ただ,今予想されている範囲で計算してみましても,定年ぐらいまで生きた男性がどのぐらい定年後,年金などを受けてリタイアした時期があるのか,どのぐらい定年までの間に働いたのかということを計算してみると,1900年生まれの方は3対5ぐらいの人生のバランスだったのではないか。現役期間が3.5,あるいは4ぐらい,リタイア期間が1ぐらいの人生を送ったのではないか。今の65歳ぐらいの世代は3対1とか,2.5対1ぐらいの人生のバランスを過ごしているのではないか。もし65歳に年金や退職時期を固定した場合,何が起きるかというと,今,私が教えている20歳の学生は,平均的には寿命が延びていってしまっていますので,2対1ぐらいの人生バランスになるだろうと思われます。リタイア期間後が長い時間配分が人生の中で生まれるのではないかと思っております。
 この図の右手の計算方法はまた少し違う計算方法で,今,我々の社会は65歳以上の一人を15歳から64歳2.26人で支えているという人口構成になっています。これでもかなり負担が大きいわけですが,将来2045年になると,1.39で一人を支えるという状態になる。だから,2.26のバランスをもし維持すると思えば,何歳で高齢者と若年者の区分をするのか。区分年齢を72歳に上げないと,2.26を維持できないということになります。
 同様に,先ほどの若い世代の寿命と現役期間のバランスも,70ぐらいまで今の20代は働くという現役時代を過ごさないと,2.5対1のバランスは維持できない。そのバランスがいいかどうかは別ですが,現行程度のライフスパンを維持するならば,先ほどの100歳寿命の話とは別に,今予測されている範囲でも,70歳ぐらいまでは現役で働くのが必要になってくるということになります。
 では,国民の方はどう考えているのかについては別問題の話になると思いますので,国民からのアンケート調査を見てみたいと思います。
 これは回答者の性別と年齢別の高齢者定義年齢ですが,主観的にあなたは何歳から高齢者だと考えますかというアンケートに対する部分を抽出したものでありますが,国民の平均は,大体70歳から高齢者と見ています。
 これを見て当然だろうと思うのですが,アメリカでも日本でも同じですが,回答者の年齢が上がっていけば,高齢者の定義年齢も上がっていく。日本はやや沈んでいる部分がありますが,そうなっています。
 これはある種当たり前かもしれません。私も若いときには高齢者というのは65歳からだと思っていましたが,65歳が近づいてくると,65歳は高齢者ではないと思うようになり,自分はまだまだやれるとなると,高齢化社会とは,もしかしたら主観的には65歳を高齢者と見てはいけないのではないかと思います。高齢化社会では,主観的な高齢者年齢というのはどんどん上がってくるのではないのか。元気な高齢者が増えているということは意識が変わってきているということも,我々は把握しておかなければいけないと思います。
 100歳までどうですかというのは極端な話かもしれませんが,我々の人生のサイクルですが,6歳ぐらいから15歳,18歳,22歳ぐらいまで勉強して,その後,一斉に皆働いて,60歳から65歳ぐらいに退職して,年金をもらうというパターン,特に60歳から65歳で退職するというのは,産業革命以降,工場で働いて,体が使えなくなるから,その辺りで辞めてもらいたいとなります。辞めてもらうと,お金がないと大変ですから,年金を作ったという近代の産業革命以降の福祉国家のモデルです。それは60歳以降たかだか15年くらいしか生きないというのが人生のモデルだったわけですが,65歳以降が20年も30年もあるようになってくると,この年齢でステージを簡単に割っていくようなモデルがいいのかどうなのか,このようなことは見直していかなければならなくなってきています。
 そうすると,自分の判断で長い人生,いろいろな時間配分をできる仕組みにしていかないといけないのではないかと思います。寿命が長くなっていくということは,その間,社会が様々変化していく,多様なリスクに直面していくという状態だと思います。
 私は,大学で寄附講座を1個担当しており,寄附講座には2回に一度ぐらいの間隔で応募していただいた一般市民の方にも,聞いていただいております。非常に意欲的に聞いていただいて,もしかしたら人間の無性に学びたくなる時期というのは,学生時代よりは,学生が終わった後の30歳から40歳ぐらいの多くの方がより勉強したと思うのです。
 そのような世代の方は忙しいですから,なかなか講座には来られませんが,非常に多くの社会人の方が参加していただいて,彼らの意見の中では社会の変化が速過ぎる,また,これは年配の方だったのですが,自分が昔,学んだものでは社会の動きが理解できない,非常に不安を感じるという意見があります。社会が変化していく,リスクに対応する変化力,変化に対する対応力が,この長い人生を過ごすに当たって,我々に必要なのではないかと思っています。
 そのためには健康の維持が大事だと思います。健康の維持のためにも,実はお金の管理も,健康の管理も全部知識が必要なわけです。これは明らかに健康維持の力と知識の間には関係性がありますから,もちろん知識も必要ですが,もう一方で学ぶ能力と意欲,好奇心といったものが社会の変化に対応する力になるのではないかと思います。
 人的資本と言われている知識や健康も時間とともに陳腐化していきますし,消耗していきますので,常に更新の投資をしていかなければならないだろうと思います。
 こう考えると,65歳から先は守って,65歳から前は守る世代のような発想はやめてしまって,新しい社会政策のモデルとしては,労働政策と社会教育政策と社会保障政策をコンビネーションした形で,もちろんセーフティネットはきちんと保障する,労働条件もきちんと保障する。この一方で変わる力も大事ですので,そこには教育,生涯学習のようなものが大事になってくるのではないかと思います。
 私は社会保障,特に年金が専門でありますので,これからどうなるのかという資料を見ながらお話をしていきたいと思いますが,これは日本の労働人口で,今後は御案内のとおり,どんどん減少していくということになっていきます。いわゆる一億総活躍など,いろいろなことで労働力率が急上昇した場合,これをしないと実は年金制度も維持できないわけですが,女性のM字労働曲線がほぼ解消されて,65歳までほとんどの人が働いているという社会が成立しないと,年金の持続可能性は維持できないのですけれども,それが維持できた状態でも,仮にそこまで労働力率を上げたとしても,年金の基礎年金だけ見ても,対賃金で30パーセントほど給付カットしないと持続可能性は維持できません。
 そう考えると,なるべく遅くまで働いていただかないと年金制度も維持できません。仮に69歳まで多くの方が働ける社会になったときには,更にどのくらい労働力が増えるのかといったら150万人増えます。150万人というのは,この世代になると大体1学年が70万人から60万人まで減っていますので,大体2学年分以上の労働者が生まれるということになります。だから,長い人生,年金をもらう期間も長くなりますから,働く期間も長くしないとつじつまが合わないというのが本当のところだと思います。
 ただ,そうすると,労働者の年齢構成も変わっていくことになります。40歳以上の労働者と40歳未満の労働者を男女別に分けて,現在,37パーセントぐらいが40代未満の労働者になるわけですが,将来は33パーセント,つまり3分の2は,40歳以上の労働者になるということになっていきます。このようなことも考えていくと,高齢者の能力をいかに維持するか,あるいは活用していくのかということが大事になり,そうなってくると我々人間が持っているパフォーマンスをきちんと見極めなければならないと思います。
 いわゆる流動性知能・結晶性知能というものがありまして,簡単に申し上げると,計算能力や論理的な思考力が流動性知能,それから言語能力とか対応能力が結晶性知能と言われている部分で,結晶性知能と流動性知能の測定方法は最後の資料に載せてありますので,その資料の論文を御覧いただければと思います。流動性知能は私も含めて40歳辺りから年齢とともに低下するということで,仕方がないわけですが,一方,結晶性知能は上がっていき,なおかつ維持できるという研究が出ております。これがMind-In-Eyes Task,これは人の表情を見て相手の気持ちを想像できるなど,この定義そのものは,先ほど御紹介したように最後の参考資料に付けてありますけれども,そのピークの時期はいつなのかということが出ておりますので,人間の能力も年齢とともに伸びていく部分が違うのだということも見ながら労働政策を考えた方がいいし,又はそれを支える生涯学習も考えていく必要があるのではないかと思います。
 そこで,1個飛びますが,例えばこのようなことを行って年金の支給開始年齢を少し上げることができる, 例えば5年遅くすることができると,先ほどお話しした基礎年金が30パーセント下がる。これは下がらないと年金財政が維持できない。逆に言うと,高齢化が進んでも,年金財政が破綻することはまずなく,なぜならば高齢化が進んだ分だけ年金を下げるからという話なので,寿命が延びれば延びるほど,子供の数が減れば減るほど年金が下がってしまうわけです。
 それを食い止めるためには当然働く期間を延ばさなければならないということで,働く期間を延ばすとどのくらいの効果があるかというのは,何もしないでいると2015年から2042年で,基礎年金が現在100の水準が30減少します。これは経済が良くなったケースです。悪くなったケースだと100の基礎年金,今は6万5,000円か4,000円ですが,この価値がマイナス43パーセントになる。もちろん働く時期が延びたり,保険料を払う期間が延びたりしていけば,それを取り返すことができますので,寿命が延びた分だけ働く期間を延ばさないと,どのような年金制度を作ってもそうなのですが,年金財政は維持できないことが確認されているということになります。
 こう考えると,学ぶこと,生涯学習への期待といったものはどのようなものなのかというと,人生の選択肢を広げていく,就労可能性,社会保障制度の持続可能性を高めたり,社会参加の機会,健康維持を高めたりすること。あと,当然政治参加や社会の質を高めていく。きちんと議論できるような知識などノウハウなどを学んでいく。それから,多様な,世代を超えたネットワークを創ることができる。それから,社会の進歩に付いていくことができることによって,社会の技術変化を吸収できるようになるという効果もあるのではないかと思います。
 ただ,もちろんそれはある条件が満たされたときだと思います。長寿をエンジョイできるかどうかも,いろいろな条件が満たされたときだと思います。それは格差の問題だと思います。日本においても低所得者は健康状態が悪いことが確認されていますので,長寿を享受できない,あるいは労働条件が劣悪なままで,年金の支給開始年齢が延びてしまえば,これは単につらい人生が延びるだけということになってしまう。それから,ストレスが健康に与える悪影響などもある。それから,知識が十分なければ,寿命が延びても長寿を生かす方法がない。
 例えばこの間,友人から厚生年金基金が解散されて,その配分金をどうすればいいかという相談を受けたのですが,聞いていても圧倒的に情報が足りないのです。周りの人はどうしていますかと言ったら,多くが一時金でもらって使っているとか,それは困ると。それは本来は老後のために別のファンドに入れておいた方がいいのにということになるわけですので,未来の人生にとってみれば知識は必要です。知識を持つためには,自分の人生に対する意欲とか将来展望がなければいけなくて,好奇心もなければいけないと思います。人生のスタートラインにおける貧困の問題や,子供の生育環境の整備は教育だけではなくて社会保障も,両方行わなければいけないのですが,そのような環境整備が前提になっていくのではないかと思います。
 生涯学び続ける環境整備を保障することによって,今の子供たちに長い人生をエンジョイできる機会を保障することが社会の進歩ではないかと思っております。
 以上です。

【北山部会長】
 駒村教授,大変参考になるプレゼンテーションをありがとうございました。
 それでは,ここからまた時間を取りまして,駒村教授に御発表いただいた内容についてでも,先ほどの方針案の続きについてでも結構ですので,質疑応答,意見交換に入りたいと思います。
 では,菊川委員,お願いします。

【菊川委員】
 まず,前半の基本計画についての意見でございます。1期の計画と2期の計画については,なぜ1期から2期に転換したかということが分かりやすかった気がします。一つは生涯学習の観点の整理です。それからもう一つは,基礎・基本も大事にしつつ,加えて,多様性を伸ばしていくという観点で,1期から2期へ転換していたように思います。
 それで,なぜ2期の柱が3期になるのかという疑問でございます。
 案1から案3というのは,どちらかというと案3が2期を継続しているように思いますけれども,一方,案1と案2は,先ほど金子委員がおっしゃったように,少し思いを中心にまとめているような感じがいたします。つまり現行計画の進捗状況を踏まえた課題にこの四つ等の課題がある。一方で,2030年の社会を見据えた課題がある。今落ち込んでいるところと将来の課題の間に,平凡だけれども,努力して営々と作ってきた,例えば学力の確保の問題など,そのような問題というのは努力したが故にこの課題に挙がっていませんが,もしかしたら努力を怠ると,ここが落ちるかもしれないというところが見えにくくなっているのではないかという感想を持ちました。まだいろいろ議論できると思いますので,議論していくといいと思っております。
 それから,駒村教授への質問が1点ございます。結晶性知力と流動性知力でございますが,流動性知力が加齢とともに落ちるというのをよく聞きますが,一方で,放送大学で学生たちと接しておりますと,結晶性知力はもちろんですが,流動性知力すらもトレーニングで伸びるのではないかという感じを持つのです。と申し上げますのも,放送大学の試験は難しいものもありますが,それらを合格していかれますので,これは流動性知力が伸びてないと,このようにはならないと思うものですから,そのような流動性知力がトレーニングで伸びないだろうかという質問でございます。

【駒村氏】
 労働能力に関する研究分野というのがきちんとございまして,今,プロジェクターで映している分野はその分野の研究なのですが,動態的な動きについては,私も今研究情報を持っておらず,この資料では固定化された状態です。一時点の状態で,それを動態的に測定したものは調べたことがないのですが,もしそうだとするならば,これは非常に期待できる社会になるわけです。つまり年齢が止まった状態で自分だけ能力が落ちて,60後半ぐらいには両方の能力が落ちてしまったら,これは残りの長い人生,本当に困ってしまうわけですが,ただ,もしトレーニングで流動性能力が改善できるとするならば,かなりの可能性があると思います。
 ただ,申し訳ございませんが,そのような効果分析の論文を見てこなかったので,あるかないか申し上げることができません。もしどなたか御存じだったら教えてもらいたいと思います。

【北山部会長】
 それでは,山脇委員,お願いします。

【山脇委員】
 やや基本的なことも含めてお伺いしたいのですが,第1期の基本計画のときには『「教育立国」を目指し』」という文言があり,第2期の基本計画は全部見てないのですが,第2期になるとそれがあっても目立たない,あるいはよく分からない状態になっています。ただ,日本が教育立国を目指さなければいけないことは自明の理だと考えているのですが,国が本当にその覚悟を持って教育立国を目指しているのかということに疑問を感じているところです。
 先ほど田中委員から,財政が破綻しているときにパイが伸びないので,文部科学省の教育予算だけ伸びることを前提に話すのはいかがなものかというお話がありましたが,日本の教育予算が少ないことは,もはや国際的な恥であるとも考えております。
 そこで,今,高齢化のお話がありましたが,その反対にある少子化について,これもフランスなどの例をよく見れば分かりますが,お金をどれだけつぎ込むかということが,かなり少子化の問題を解決するように思っております。
 少子化の解決の先に教育もつながっておりますので,どれだけお金を教育につぎ込むかということ,これは国が腹を据えて教育立国を目指すのかどうかということと関わってくると思うのですが,この文言が消えたことは当たり前のこととして消えたのか,それともそうではないのかということを聞きたいと思っております。

【北山部会長】
 これは常に議論になる部分で,教育振興基本計画のように,文部科学省限りでない文書の場合,政府としての意思決定の際の調整に御苦労されているということだと思いますが,小松文部科学審議官から御説明いただけますでしょうか。

【小松文部科学審議官】
 今の教育立国との関係ですが,作ったときのどの文言を強調するかという選び方の違いはあると思います。教育振興基本計画というのは,明治以来法律事項として閣議で全政府の意思決定をするという仕組みは作られたことがなかったわけですが,戦後約60年たって教育基本法の整理と見直しの際に第17条が,できて初めて作られた教育の振興のための計画となります。法律に基づく全政府的な意思決定という意味で,教育法制全体の新たな次元ということから,第2期教育振興基本計画では教育立国ということを前面に出して選んだという状況はあると思います。
 第2期のときにも,教育基本法のそういった点も強化して法制化し,閣議決定化するという,全体の流れとしては変わらないので,そのような意味では教育立国というのがいろいろなせめぎ合いの中で落ちてしまったということはなく教育立国というものを目指してやっていくという第1期のときの基本方針が消えているわけではないということです。
 次に,これは先ほどの菊川委員のお話にも関連するので,ここで御議論いただいた方がいいと思うのですが,2期のときには5年間を一応前提としましたので,ちょうどその時期に,問題になりそうなところを考えていくときに,かぎ括弧付きですが,ゆとり教育批判があり,それをどのように考えるのかという整理が求められていたこともありますので,それに応えるような形で取組課題を整理していく部分がアピールするということまで,前面に出ていきました。そして,そのとき新しく,自立・協働・創造という三つのキーワードに整理をされて,比較的前面に出ているわけです。それで,今度どのようにするかということになります。
 教育振興基本計画部会で御議論いただきたいこととして先ほど菊川委員からのお話に関係して申し上げますと,これまでの数か月の間に,2期のコンセプトである,自立・協働・創造については,一つは新しくアピールして言葉を選ぶには,装いも新たにした方がいいという考え方と,それから教育は息が長いものですから,ここの達成状況,意義が余り変わってないのであったら,むしろ継承するというメッセージの方がいいのではないかという二つの御議論があり,特に後者の方は結構あったように思います。
 
 反対意見があれば,もちろん変えるということはあり得るわけですが,今,自立・協働・創造というまだ5年たっていませんが,第2期の計画のコンセプトを前提として次期計画を作る方がいいのではないかということで,資料の作りにその前提が十分出てないのですが,今のところはそういったものを提供した上で何を打ち出していくかという議論をしていただいております。そのため,むしろ山脇委員の御指摘から少し細かいところへ入っているかもしれません。もっと骨太に考えるべきだという御議論もあり得ると思います。
 ここ数回の御議論を資料に十分反映できていないかもしれませんが,資料2で申し上げますと,最初のところに検討イメージとして書いてある個人と社会,これがこれまでの御議論で横串だとすると,特に個人のところに自立・協働・創造ということがここに入っておりまして,議論の構造としてはそのようになっております。
 少し言葉が多くなり過ぎましたけれども,補足させていただきます。

【北山部会長】
 田中委員,お願いします。

【田中委員】
 駒村教授に質問させていただきます。御専門が年金とおっしゃっていましたが,この分野に非常に果敢に挑戦,そこから非常にクリエイティブに挑戦されているので,すばらしいと思いながら拝聴しておりました。
 また,これまでの議論は,どちらかというと子供の議論が多かったのですが,高齢者の議論というのも非常に大事であると再認識いたしました。
 その上で駒村教授に質問なのですが,70歳,72歳ぐらいまで働くと150万人の労働力を確保できるということで,労働市場の供給側を中心にしてお話をされていたのですが,需要があるのかどうかというところが心配でありまして,需要があったとしてもミスマッチが起きないか,あるいはそれなりに体力が落ちていくわけですから,同じように8時間働けないとすると,働き方もいろいろと変えていかなければならないのではないか,そもそも需要はあるが,その質についてもいろいろな課題があるのではないかということで,この点についてもし御意見があればお聞かせいただければと思います。

【駒村氏】
 ありがとうございます。人口問題なども見ているのですが,先ほどの少子化対策の話もありますが,政府は1.8の合計特殊出生率を目指していますが,率を上げてもやや遅い状態になっています。もちろんやらなければもっと悪くなりますが,2040年,2050年で毎年の子供の数が50万というところをどう少しでも上げられるかという状態だと思いますので,若い人の数は所与にして,どのくらい少子化を食い止められるかという問題で,ここから50万人が70万人,80万人に上がってくるということはもうないだろうと思います。これは親になる人口が減少していますので,率を上げてもやや苦しいです。そうなってくると,高齢者にどれだけ頑張ってもらうか。それについては,可能性はあるということだと思います。
 今の足元の現状は,御存じのとおり,人手不足が起きているという状態だと思います。ただ,田中委員がおっしゃっているように,最大の問題は今の日本の就業システム,仕事の配分方法,これが一番ミスマッチの原因になっているので,おっしゃるように,かなり社会の構造や,先ほどあえて40歳で二つの世代に分けて,若い労働者はもういない,社会は潤沢に若い労働者を投入できる状態ではないというのはまず押さえなければいけないし,幾らでもいるなんていうことは思ってはいけないです。若い労働者は希少価値だということで,しかも先ほどのお話の流動性知能の部分ですぐれているという部分に割り当てることになります。
 そして,高齢者は例えば対人サポートやアドバイス,後進指導,対接客,そのような部分の仕事を引き受けていく,つまり得意なところに合わせて引き受けていくという配分をしないと,田中委員がおっしゃるように,供給を増やしても需要とのミスマッチが解消できなければ,それは生かされませんので,そのような社会構造をこの2030年ぐらいまでには変えていかないといけないというのは前提だと思います。

【北山部会長】
 ありがとうございます。では,大竹委員お願いします。

【大竹委員】
 ありがとうございます。この方針案についてコメントしたいと思います。
 私は項目のくくり方は案3がいいと思います。ただ,タイトルは案1に近いもので十分やっていけると思うのです。
 例えば案3の丸1というのは,基本的に案1と中身の項目は同じなので,タイトルを案1の形,あるいは基本的には新しい時代に必要となる資質・能力の育成という形にして,案1の丸1と同じでいいと思います。それから,案3の丸2の部分については,案1の丸2のタイトルでそのままいけると思います。
 案1の丸2のくくり方は,リーダーというのはグローバル社会,イノベーションを牽引(けんいん)する人だけだというように狭く見ていると思います。むしろコラボレーションできるということも大事なリーダーの資質なので,案3の丸2に入っているものは全て案1の丸2とくくってもおかしくないと思います。
 ただ,案3の丸3は,案1の社会の条件整備というところに入れて,案3の丸3と丸4を社会の条件整備としたらいいのではないかと思います。
 もう一つ理由がありまして,余り項目が多くなると,メッセージ性が弱くなるというところもありますから,四つぐらいにして,タイトルは案1に近いものを使ってはどうかというのが私の意見です。
 以上です。

【北山部会長】
 ありがとうございます。川端委員,お願いします。

【川端委員】
 難しいことは話すことができないのですが,私としては子供たちが公平に教育を受けられて,健やかに成長できることが一番だと考えています。そのためにこの政策を多くの方に理解していただき,保護者を含む教育現場に向けてより深く理解をしていただくことがとても大事なのではないかと考えております。
 もちろん貧困の解消を国としても考えて対応していただくことはとても必要ですし,自分たちではどうすることもできない場合もあるとは思いますが,少しでも心が豊かな家庭で子育てをする努力というのを保護者としても学ぶ必要があると感じておりました。
 案は,三つありますが,本当に単純に私が保護者目線で見たときには,案3がすんなり入ってくると思いました。案2の社会の条件整備のところで,「誰もが希望する教育を生涯受け」となっていての「貧困の格差の解消に向けた支援」となっていますが,実際にはすごく難しいのでないかと感じている部分があります。
 ややずれてしまうかもしれないのですが,小学校,中学校の義務教育が終わって,一般的には高校に進学して,大学に行くといったときの教育費,大学の費用ということを考えたときに,行きたい大学に進めない,行きたい進学先に行けないという現状が待ち構えているのが事実だと思います。寿命が延びるというお話も先ほどありましたが,長い目で見て生涯教育を含めて自分たちの学びたいものを生涯にわたって受けられるというように考えていかなければならないのかなと思いました。
 PTAで例えてしまって申し訳ないのですが,ふだんメインで一生懸命PTAの活動をしているのは,お母さんたちかと思います。子供たちのために多くの時間を費やすのは全然苦ではないという人たちが多いのですが,いざPTA会長,協議会会長といった役職を担うとなると,それは人前で話すのはできない,リーダーにはなれないというお母さんたちが多くて,どうしても男性がトップに立ってしまうというのが今の時代なのではないかと考えています。したがって,こういった政策で子供たちが男女分け隔てなく,特に女の子たちもリーダーシップを執り,活躍できるような大人に育っていってほしいと考えております。
 以上でございます。

【北山部会長】
 ありがとうございます。宮本委員,お願いします。

【宮本委員】
 先ほど大竹委員がおっしゃったように,案3を先ほどのような形で整理し直すというのはかなりいい案ではないかと思いました。
 それを踏まえ,例えば案3の丸3「学びのセーフティネットを整え,格差を解消する」の中身は,「貧困による格差の解消に向けた支援」となっており,同じようなフレーズが案1,案2の中にも出てきているわけですが,先ほどの駒村教授のお話の中にも出てきたように,人生80年,90年,100年という長い中での生涯学習と長寿社会ということを考えると,セーフティネットの問題は,子供の貧困の格差という狭い設定の仕方では不十分ではないかという感じがいたします。
 特に長寿になればなるほど,格差のリスクというのが非常にはっきりしてくるわけで,子供期の格差のリスクだけの問題ではなく,長い人生を生きなければならないほど,そのリスクと格差の問題というのは大きくなるということ,しかも駒村先生の言葉で言う一斉型社会の組み直し,見直しが必要だというところは非常に重要で,この問題とがっぷり四つに組まないと生涯学習社会というのは実現できません。そのことは格差を拡大することにもつながりますので,このところは文部科学省であってももう少し広い範囲,つまり駒村教授の資料の12ページの一番下で申し上げますと,社会保障,労働,教育政策の連携という広い,大きな視野の中で生涯学習の構築という問題を出していかなければならないと思います。
 理解はされていると思うのですが,この文言の中にそのような大きな視点というのが出てきておらず,教育政策になってしまっているという問題があるのではないかということで,少しその辺りを組み立て直してみてはどうかということです。
 特にセーフティネットに関しては,貧困問題だけではありません。貧困は非常にベースの大きな要因ですが,必ずしも貧困だけがセーフティネットの問題ではなく,生涯を通じたセーフティネットをどう構築するかという形でこれを立てる必要があるのではないかと思います。

【北山部会長】
 ありがとうございます。河田副部会長,お願いします。

【河田副部会長】
 この部会で申し上げたかどうか忘れてしまったのですが,今,短期大学の卒業生の3分の1ぐらいは九九ができないという話をあるところで聞いて,私は非常にショックを受けたことがあります。ですから,そのような意味で金子委員,菊川委員がおっしゃったように,基礎学力を入れる必要があるだろうと思っております。それが一つ目です。
 それから二つ目は,戸ヶ﨑委員がおっしゃったように,メッセージ性が弱いという御指摘に,私も同感です。そのような意味では,大竹委員がおっしゃるように案3が非常にいいと思います。したがって,本日の駒村教授のお話を入れるのであれば,案3の丸3の「学びのセーフティネットを整え,格差を解消し,生涯学べる社会を構築する,創造する」などとすれば,ここのところで生涯学ぶという言葉も入り,良いのではないかと思います。
 三つ目は,やはりキーワードが必要で,前回は,自立・協働・創造という三つのキーワードが非常に覚えやすかったので,前回のキーワードの自立はそのまま置いておいて,今回は新たにキーワード,例えば,金子委員がおっしゃっていた「思考力,判断力,表現力」,「基礎的な学力と技能」,あるいは「積極的に学ぶ姿勢と態度,好奇心」などのキーワードを入れたら良いのではないか,と考えます。特に表現力については,日本人は欧米人に比べて表現力が少し乏しく,弱い部分ですから,グローバル化の中でそのような力が必要だというのが理解できて,良いのではないかというのが私の感想でございます。

【北山部会長】
 ありがとうございます。永田委員,お願いします。

【永田委員】
 ありがとうございます。私なりの言葉で申し上げると,先ほどの小松文部科学審議官がおっしゃったことは我々の共通認識だろうと思います。つまりこの国は教育で成り立たないとならないというのは当たり前であり,それは恐らく前文に出てくるのだろうと思います。それから今の第2期の目標もかなりできましたが,更に2030年や2050年になったときに何が必要ですかというのが前文だと思います。前回も同じような意見を申し上げているのですが,そのような認識の上で,今回,先ほどから議論になっているキーワードといいますか,目に見えやすい形のものを探っているのだと思います。
 また,貧困の格差という問題は私も少し気になってしようがないのですが,なぜこれだけがここに持ち出されているのか。しかも支援となっていますが,教育振興基本計画としては寂しいかなと思います。子供たちや各階層の人たちが皆幸せに学べるように支援することは,当たり前だと思います。
 ここで言うのであれば,例えば労働構造など,厚生労働省が本来やるべきものとは別に,文部科学行政が,あるいは教育ができることについてだと思います。例えば,ある職業がどうとかということではなく,価値を創造するという部分で,全ての職業に等しく価値があるという教育できるかどうか。つまり,いろいろなものの価値が均等にお互いに認識できるような教育のやり方ができるかどうかによって,結果として将来の何らかの格差が解消されていくのが本来ではないかと思います。
 案1,2,3には全て「貧困による格差の解消に向けた支援」と書いてあるわけですが,本当に支援なのでしょうか。そうではなくて,そのようなものを凌駕(りょうが)できる,個々の能力あるいは適性を育てることによって,良い社会を作っていくための教育というのであれば分かりますが,その辺りが気になります。
 また,お子さんは当然受益者が多く,小学校,中学校にいらっしゃいますが,生涯学習の話として考えると,高校,大学,大学院の話は1回も出てきていません。私は当然ながら出てくるものだと思います。これを次に書き起こすときに,それぞれのところに全部出てくるわけです。1,2,3,4それぞれの中でも小・中ではどうなのだ,家庭ではどうなのだ,高等教育ではどうなのだ,という話は出てくるはずなので,スペシフィックなことを今申し上げる気はありません。しかし,教育振興基本計画なのですから,支援することは当たり前で,貧困による格差の解消に向けた支援だけでは駄目かと思います。
 以上です。

【北山部会長】
 丸山委員,お願いします。

【丸山委員】
 ありがとうございます。私は,基本的には案3が非常に分かりやすいと考えておりました。また基本的には2期の考えを継続し,確実に推進していくという立場で進んでいくのがいいのではないかと考えておりました。
 先ほど話のあった案3の学びのセーフティネットのところは,教育の果たすべき役割の中に入っていいのかというのは少し疑問に思いました。
 1枚目の方に戻りますが,「健康の確保,体力の向上の必要」の「朝食欠食」についてですが,学校の現場としては就寝時刻が非常に遅く,睡眠時間がきちんと確保されているのかどうかが問題だと感じています。それは家庭生活の在り方に問題があると思うのですが,学力向上を進めていくときに,今,非常に大きく影響していると感じております。
 以上です。

【北山部会長】
 金子委員,お願いします。

【金子委員】
 先ほど駒村教授のお話を聞いていて感じたことなのですが,高齢化社会で何が起こるかということ,年金に問題があるのは非常に重要だと思いますが,社会の在り方に相当変化が出てくる可能性があると思うのです。それは流動化といった面が非常に重要になってきます。二つ目の人生といいますか,一定の年齢で職業を変わるということが非常に重要な課題になってくるのだろうと思います。
 大学卒業者5,000人くらいに調査したことがあるのですが,大学院に興味ありますかという質問に対して,興味があるという人は大卒者の4割くらいいるのですが,具体的に考えてみたいという人は2割くらいいまして,非常に興味がある人が多かったのですが,ただ,私が驚きましたのは,これは比較的若い方に集中するかと思ったら,そうでもなく,50歳代までほとんど変わらないのです。
 考えてみますと,社会人の教育にはデマンドが何種類かあって,一つは今就いている職業でより高度な知識・機能を身に付けるということだと思うのですが,あちらこちらで話を聞いてみますと,転職したいときにかなりデマンドが出てきて,実際50歳代くらいの方たちにはそのようなデマンドがあるのです。それと,一生勉強したいという一種のカルチャーだと思いますが,生涯教育というのはただ単に学び続けるという言葉の問題ではなくて,リアリティーとして要求されてくるのだと思います。だから,そこのところをもう少し書き込めたらばいいのではないかと思います。
 以上です。

【北山部会長】
 ありがとうございます。
 本日頂いた御意見を踏まえて,基本的な考え方の案をリバイスし,来月また検討することとしたいと思います。
 最後に私からも事務局に質問なのですが,以前お伺いしたとおり,この「基本的な考え方」は1枚ものですが,最終的には,80ページほどの本文を作っていくことになりますよね。

【里見生涯学習政策局政策課長】
 はい。

【北山部会長】
 その80ページの本文には,各論に入った内容も記載するということで,それらは,今,中央教育審議会で議論されていることや,直近に答申が出たもの,それからこれから議論するであろうものを概ねカバーする必要があります。したがって,そこには幼児教育から生涯教育までいろいろな項目が全て並ぶことになると思いますが,大まかな方向性を展開していく部分というのは,別途あるということでよろしいのでしょうか。

【里見生涯学習政策局政策課長】
 構造を御説明いたします。タブレットにも入っておりますが,先ほど御指摘ありましたように,第2期の中でも前文であるとか,冒頭の2ページの辺りに教育立国という言葉は入っておりまして,構造上はまず前文で始まりまして,冒頭,方向性を展開していく部分が30ページ近くございます。その後で個別の施策について国の役割や地方の役割など,あるいは教育財政の問題を展開した後にそれぞれの個別の方策が広がるという非常に大きな計画でございますので,まず今は前半の分を御議論いただいているという位置付けでございます。

【北山部会長】
 今,里見課長から御説明いただいたとおり,各論を含む,80ページにわたる本文についても,いずれ部会で議論することになります。最終的に案をまとめるわけです。最終的にはどの時期までにまとめる予定でしたでしょうか。

【里見生涯学習政策局政策課長】
 最終的には来年中ぐらいでお願いしたいと思っております。

【北山部会長】
 分かりました。それでは,本日はここまでといたしたいと思います。駒村教授,お忙しい中,ありがとうございました。
 次回の日程について,里見課長,御案内をよろしくお願いします。

【里見生涯学習政策局政策課長】
 本日も大変御議論いただきましてありがとうございました。
 資料5でございます。次の第10回は12月19日,こちらは文部科学省の第二講堂,旧庁舎6階でございますが,本日の議論を踏まえまして,基本的な考え方の素案を文章という形でお示しできるようにしたいと考えております。また,1月19日でございますが,場所は同じでございますが,意見交換を踏まえた形で案にしていただきまして,最終的には2月の中央教育審議会総会に一度区切りとして御報告いただくようにしていきたいと思っております。もし追加の御意見等ございましたら,事務局の方までお寄せいただければ有り難いと思っております。ありがとうございます。

【北山部会長】
 以上で終了です。本日は,ありがとうございました。

―了―

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