資料1 新しい時代における教養教育の在り方について(骨子案)

第1章 今なぜ「教養」なのか

(1)「教養の危機」の現状

 体系的な知を獲得する努力やそれに基づいた価値観の構築への努力が尊重されなくなっている「教養の危機」の現状とここに至る背景(合理性や個人の利益の過度の追求、教養の基礎をなすはずの生活文化、宗教などの軽視等)を記述。

(2)新しい時代にふさわしい教養の必要性

  • 21世紀の社会は「知識社会」。「知識社会」をよりよく生きる上で、知識と人間とが分離した状況を克服し、人間の生き方と知識とのつながりを復活させることが不可欠であり、教養教育はその鍵となるもの。
  • 混迷した社会状況を乗り越え、一人一人が自らにふさわしい生き方を実現するとともに、国際社会においてもより確かな存立基盤を打ち立てるために、新しい時代にふさわしい教養を再構築することが必要。

第2章 新しい時代に求められる教養とは何か

(1)教養とは何か

  • 教養とは、個人が社会と関わり、経験を積み、体系的な知識や知恵を獲得する過程で、人格全体の訓練を行い、蓄積される人間観、世界観、自然観などの価値観の総称であり、教養教育とは「知性と感性の融合を軸とした人格形成」。

(2)新しい時代に求められる教養を構成するものは何か

  • 知識のみならず規範意識や倫理性、バランス感覚などの感性、身体的能力や精神的能力を含めた教養が必要。また、礼儀・作法などの「修養的教養」も重要。
  • 日本人としての思考や行動の規範となり、日本人としての教養の教育の基盤を形成している民俗文化やそれが体現された習慣や伝統行事等の重要性を再認識すべき。
  • 特に、今回の米国での同時多発テロ事件に象徴されるように、グローバル化時代に生きる世界市民の教養として、他者に対する理解、特に宗教に関する理解は不可欠。また、世界の人々と的確に意思の疎通を図るための外国語によるコミュニケーション能力が必要。
  • 一人一人が自らにふさわしい教養を身に付ける努力を生涯にわたり続けることが必要。
  • 新しい時代にふさわしい品格を備えた社会を築くため、教養は個人のみならず、社会に対しても求められるもの。

第3章 どのように教養を培っていくのか

  • 生涯にわたり教養を培っていく上で以下の3点を重視すべき。
    1. 教養教育を通じて学ぶことやよりよく生きることへの主体的な態度や意欲を育てていくこと。
    2. 一般的知識化された多様な専門的知識を獲得・統合する知的な技能を培うこと。
    3. 教養の涵養にとって異文化との接触が重要な役割を果たすこと。
  • 教養教育の在り方を検討する際には、個人の全人格的な資質や能力の育成という観点から、これまでの教育改革の在り方を検証することが必要。

第1節 初等中等教育段階までの教養教育

(1)教養教育の視点から見た初等中等教育段階までの教育の在り方

  • 我が国の児童生徒をめぐっては、学ぶことへのモチベーションの低さ、社会性や規範意識の希薄化などの課題が存在。
  • しつけを含めた幼児期からの家庭教育は教養教育の原点。幼児期に、あいさつやことわざなど我が国の風土の中で生まれた共通の生活習慣や行動様式・思考方法としての「生活文化の型」を教え、公共の中での行動の規範となるものを身に付けさせることが必要。
  • 初等中等教育段階では、生涯にわたる教養の基盤として不可欠な、基礎的・基本的な知識・技能や自ら学び自ら考える力、豊かな情緒などを身に付けさせることが必要。

(2)具体的な方策

ア 基礎・基本の徹底
  • 多様な個性は、基礎的・基本的な知識・技能の確実な習得を基盤に各人が主体的に学ぶことによって伸ばせるものであり、初等中等教育段階において、基礎・基本を各学校が全力を注いで指導することが必要。特に国語の力はすべての基盤であり重要。
    • 基礎・基本の徹底のためのきめ細やかな指導体制の充実
       (社会人や大学生TAの活用、基本的な事項についての反復練習、個別の家庭学習課題の設定、放課後の個別指導や補習、外国語教育指導体制の充実、モデル校への教員加配、教職員定数の更なる改善等)
    • 読書指導の充実
       (「朝の10分間読書」等適切な読書指導、子どもゆめ基金の活用、図書館の機能強化等)
    • 取組を検証する仕組みづくり
       (学校の教育活動の評価に関する調査研究の推進、全国的な学力調査を踏まえた教育課程の機動的な改善、論理的思考力等の評価方法の研究等)
イ 自ら学び、自ら考える力の育成
  • 生涯にわたって主体的に学ぶ意欲や態度を培うためには、初等中等教育段階から、学習する習慣や粘り強く取り組む態度を身に付けさせることが重要。
  • 後期中等教育段階において、他者との関わりの中で試行錯誤を繰り返しながら、自己を確立していくことができるよう教育上配慮することが重要。
    • 体験的な活動の充実を通じた学ぶことへのモチベーションの向上
       (インターンシップや体験的なキャリア教育の充実、地域人材の活用,子どもの責任感を助長する自治的な活動や異年齢間交流の促進等)
    • 学ぶ意欲に応え得る多様な学習の場の整備
       (発展的な学習や補充的な学習など個に応じた指導を行うための指導資料の作成、指導方法の研究開発等)
    • 知・徳・体のバランスのとれた教育
       (地域の文化芸術・スポーツ団体等の指導者の学校教育への参加の促進、子どもが様々な文化芸術に参加したり、体験できる機会の拡充等)
ウ 豊かな人間性の基盤づくり
  • 豊かな人間性や社会との関係で自己を位置付ける力を、学校、家庭、地域社会が一体となって子どもたちに育んでいくことが必要。
    • 多様な体験活動を通じた豊かな人間性の育成
       (体験活動の推進体制の整備、多様な分野の指導者確保等)
    • 伝統的な行事などの生活文化の重視
       (地域の伝統的な行事への参加の促進、家庭での年中行事など生活文化の重視の呼びかけ、地域の文化財に親しむ等)
    • 道徳教育等の充実
       (子どもの内面に根ざした道徳性の育成のための「心のノート」の活用、中高齢者の道徳教育への参画等)
    • 世界の宗教や異文化に対する理解の促進
       (世界の宗教等に関する平易な解説資料の作成及び活用等)
エ 教員の資質向上
  • 子どもたちに教養の基礎を培っていくためには、教員一人一人が教育者としての力量を高めるとともに、生涯にわたって向上心を持って教養を磨いていくことが必要。
    • 社会体験研修の大幅な拡充等教員研修の充実
       (社会体験研修やボランティア体験研修の大幅な拡充、大学院修学休業制度の活用促進、教員のボランティア活動等への取組の奨励等)
    • 評価等の促進
       (勤務評定の評価方法等の工夫、保護者等への授業の公開、優秀な教員に対する処遇の改善等)

第2節 初等中等教育と高等教育との接続

  • 大学入学者選抜において、それぞれの大学が明確な教育理念に基づくアドミッション・ポリシーを確立し、大学教育で必要な資質等を適切に評価することは、後期中等教育における生徒一人一人の教養の涵養を促進し、また、大学入学後の学生の学ぶ姿勢や意欲を引き出す上でも重要。
     このためにも、いたずらに断片的な知識の多寡を問うような入試や決められた時間内にいかに効率的に正解を見つけ出せるかを試すような入試の在り方を見直すことが必要。

第3節 高等教育段階における教養教育

(1)高等教育段階における教養教育の在り方

  • 高等教育段階において、社会の中での自己の役割や在り方を認識し、より高いものを目指していくことを意図した知的訓練を学生生活全体を通じて行うことが、生涯にわたる人格の陶冶にとって重要。
  • 我が国の大学における教養教育の変遷
    • 戦後、米国の大学のリベラルアーツ教育をモデルに一般教育として導入
      • 問題点
        1. 少人数教育などリベラル・アーツ実施のための教育条件の整備が不十分。
        2. 教養部と専門学部との連携が不十分。
        3. 大学設置基準において授業科目の区分や履修単位等が一律に定められ、多様な大学の実態に不適合。
        4. 学生の側にとっては、教養教育の内容と高校での教育内容との差が不明確、教員の側でも専門教育担当と一般教育担当との役割分担が不明確。
    • 平成3年に大学設置基準を大綱化
      • 成果
        1. 「くさび型」カリキュラムの編成などのカリキュラム改革の進展
        2. 教養部の改組による全学教員による実施体制の導入
        3. セメスター制や学生による授業評価などの取組の広がり
      • 課題
        1. 教養教育に対する教員の意識改革の不十分さ、取組へのインセンティブの不足
        2. 教養部に代わる教養教育実施組織とその責任体制が不明確化
        3. 学部教育に対する学生の側の目的意識の不十分さ
  • 新しい時代に対応した教養教育の再構築の必要性
    • 学問の専門化・細分化の進展、価値観の多様化、社会の複雑化や急激な変化の中で、幅広い視野から物事を捉え、高い倫理性に裏打ちされた的確な判断を下すことができる人材を育成することが期待されている。このため、学部教育全体を通じた教養教育の在り方の抜本的見直し、再構築を行い、あわせて、教養教育を担当する教員の意識改革を行うことが不可欠。
    • この場合、専門教育への入門教育や人文・社会・自然といった従来の学問分野の縦割りの知識伝達型の教養教育ではもはや対応できない。
    • 各大学がそれぞれの理念の下に新しい教養教育の枠組みや体系を作り出し、専門分化が進む学問の共通の基盤となる知識や技能の獲得、人間としての在り方や生き方に関する深い洞察を涵養する教育を行うことが不可欠。
    • また、教養教育を担う大学教員が、学生に対し、専門家として専門知識をわかりやすく一般的知識化して興味深く提供することや、自らの学問を追究する姿勢や生き方を語ることは、人間性への共感や学ぶことの意義の深い理解に結びつくものであり、教養教育の根幹をなすもの。
    • 21世紀の大学にとって、教養教育は専門教育と並ぶ車の両輪に位置付けられるものであり、これからの大学の生き残りには、教養教育の抜本的充実が不可避の課題。

(2)具体的な方策

ア 各大学における教養教育の目的及び目標の明確化
イ カリキュラム編成等の改善
  • 各大学の理念に基づく従来の学問分野の枠にとらわれない新しい体系による教養教育のカリキュラムづくり
  • 学生の価値観の形成を目的とした授業科目の開設
     (人間の生き方について考えさせる科目、異なる社会の持つ価値観について考えさせる科目等の開設等)
  • 学生の知的好奇心を喚起する授業科目の開設
     (テーマ性の強い学際的な科目の開設、授業内容の討論やプレゼンテーションを取り入れた授業科目、社会問題に即した事例研究、企業等との連携の推進、ダブルメジャー制の導入等)
ウ 教育方法等の改善
  • 高校と大学の連携、学生の学ぶ意欲の喚起
     (補習指導、入門ゼミ等)
  • 成績評価方法の工夫等
     (シラバスを活用した成績評価基準の明確化、GPAの導入等)
  • シラバスの充実
  • きめ細やかな指導の推進(少人数教育、オフィス・アワー、アドバイザリー制度、チューター制度、TA等)
  • 学習環境の整備と教材の工夫等
     (図書館の充実、IT環境の整備)
  • 単位制度の工夫
     (進級条件の設定、1コマ50分間の授業を週2~3回集中的に実施するなど授業時間の工夫、セメスター制の採用等)
エ 教員の積極的な取組を促す仕組みの整備
  • 教員の取組のインセンティブの充実
     (学生による授業評価、シラバスの公開の義務化、採用にあたっての模擬授業の実施、ベストティーチャーの表彰、教育面での実績評価の学内経費配分への反映、教育能力の高いTAの教員への登用、教育専任スタッフの登用等)
  • 教養教育の実施状況の評価の資金配分への反映等
オ 教養教育の改善・充実のための大学間の連携、外部資源の活用
  • 大学間の連携の推進
     (遠隔教育の活用を視野においた複数の大学間の単位互換、学生の選択科目の拡大、インターネット等の活用による、教養教育のカリキュラムや教材の共同開発や授業の実施等により1大学では困難な充実した教養教育を実現)
  • 企業や自治体、NPO等との連携の推進
     (インターンシップの受入、講師の派遣、FDのための民間教育事業者等との連携協力等)
  • 教育価値の高い大学外の活動の活用
     (優れた芸術文化活動等、大学外の教育資源を大学の授業の一部として取り入れて単位認定する等)
カ 異文化との交流の機会の拡充
  • 柔軟な教育システムづくりの検討
     (ボランティア活動や職業体験活動を取り入れた授業科目の開設、長期間のインターンシップの実施、ギャップイヤーの実施、セメスター制の活用の促進等)
  • 異文化交流の促進
     (留学生の受入れ、学生の海外への派遣及び交流の促進、学生への社会体験の機会に関する情報提供の仕組みの整備等)
キ 教養教育の実施体制
  • 教養教育の改善の責任の明確化
  • 教養教育を中心とした幅広い教育プログラムを持つ学部(日本版リベラル・アーツ・カレッジ)への改組転換の促進
  • 学外者の参加による教養教育に関する協議会の設置、第三者評価やこれに連動した資金配分を通じた競争システムの整備等

第4節 生涯にわたり教養を培っていくために

(1)魅力ある学習社会の実現に向けて

  • 地球規模での解決が必要な諸問題が続発する中で、我々一人一人がこれらの問題を自らのものとして捉え、主体的にかかわっていく力を身に付けることは民主主義社会の根本的課題。すべての人が生涯にわたって学び、しっかりとした人間観、世界観、自然観を持って新たな状況に対応していくことができるよう、生涯にわたる学習機会の一層の充実を進めることが必要。
  • 生涯学習で学んだ成果を生かして社会とかかわりたいという意識が高まっている中、一人一人が学んだ成果を様々な形で生かして相互に支え合い、ともに担い合う柔軟な社会システムを構築していくことが必要。
  • 大人自身が生涯にわたって学び、自己実現に努めることによって、子どもたちも目指すべき目標を得ることができ、魅力ある学習社会を築くことができる。

(2)具体的な方策

ア 生涯にわたって学び続けるための多様な学習機会の充実

  • 多様な学習機会の充実と情報提供の仕組みの整備
     (異文化を理解するための学習機会の充実、大学等における社会人受入れの推進、サテライトキャンパスの設置、奨学金の充実、教育ローン減税等)
  • 社会人のキャリアアップの支援

イ 学んだ成果を生かして社会に参画するための仕組みづくり

  • 学習成果を生かしたボランティア活動等を通じた社会参画の促進
  • 学習成果の地域での活用の促進
     (まちづくりの住民参加の促進、学校や公民館等を地域の学習グループの活動拠点として活用等)
  • 生きがいをもって働くことを通じた社会参画の促進
     (NPO等での生きがいを中心とした就労形態への継続的評価等)
  • 大学等高等教育機関との連携の促進
     (NPOや住民を対象にした大学の講座開設、地域振興のためのワークショップの実施、地域の産業人による大学での講義や研究参加等)

ウ 生涯にわたる教養の涵養を支援する社会の実現に向けて

  • 産業界の取組への評価・支援
     (企業におけるボランティア休暇制度等の普及の促進、「生涯学習サポーター企業」(仮称)の認定、税制上の優遇措置等)
  • NPOなどの関係団体との連携
     (人材育成面での支援等)
  • マスコミへの協力の呼びかけ
     (テレビを通じた教養教育への取組支援、評論機能の強化、すぐれた作品への社会的評価、有害な番組等への自主的な規制の取組要請等)
  • 大学教員が学問を通して獲得した専門知識を一般にわかりやすく伝える取組の奨励
     (新書本の発刊の奨励等)

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生涯学習政策局政策課