中央教育審議会 教育制度分科会・初等中等分科会における意見提出について(回答)

18全事協総第41号
 平成19年2月28日

中央教育審議会
 教育制度分科会・初等中等教育分科会
 分科会長 梶田 叡一 様

全国公立高等学校事務職員協会
 会長 阿玉 新一

 「学校教育法改正」「教育職員免許法等の改正」「地教行法改正」の3法に関する主な検討事項に関して、全国公立高等学校事務職員協会の立場から意見を申し上げる機会を与えていただきありがとうございます。
 私どもは、このたびの改正について、大きな期待を持って審議を見守っているところでございます。
 これまで、学校への様々な提言が示され、教育改革が進められていますことは、周知のとおりであります。
 現在、各学校では教育改革を見据えながら、それぞれの教育目標達成に向けて教育活動に取り組んでおります。しかし、現在取り組まれております教育改革の推進は、学校教育の根幹に関わるものであり、その実現には新たな取り組みと重大なる決意が必要であると考えております。
 全国公立高等学校事務職員協会代表の立場から、ふさわしい学校づくりとそのための支援体制を構築していくために、今回の主な検討事項に対する考え方や今後の方向性について意見を述べさせていただきます。

はじめに

 国会では、教育基本法改正が審議され、首相官邸には教育再生会議が設置されるなど、教育のニュースをこれほど目にすることがかつて無いほど教育問題が注目を集めております。これを機に、国民が教育の在り方について真剣に考え、改革の方策を広い視野に立ち、自らの意志で選んで欲しいと念願しております。
 特に、教育再生会議の主要なテーマであるバウチャー制度や学校・教員の外部評価は、今後の学校と教育の在り方を決める上で極めて重要な意味を持ちます。学校を民間企業と同じ競争原理によるサービスの場と割り切るのか、地域に根ざし公益性を求める公共の場を堅持するのか、大きな岐路に立たされています。サービスの場とする立場の方は、競争と利用者による選択の結果として淘汰される学校や教員がいても当然だと主張します。
 しかし、公立学校は、明治以来地域住民の手によって創設され自分たちの税金を使って地域の学校を「シンボル」として育ててきました。公立学校が市場化の荒波に打ち克つには、公教育をきちんと行い、地域住民に信頼され、教職員として自らを律し「全体の奉仕者」の自覚を持つことです。こんな当たり前のことが出来ないことを、深く反省すべきだと思います。
 事実、最近の数々の事件は、残念ながら学校の公共性を疑わせるものばかりです。「いじめ・自殺」の対応では、公共の場として義務づけられる危機管理や説明責任を果たせないばかりか、公的責任より自己保身が優先されているようです。必修科目の未履修では、公教育の内容を国民に対し法的に約束した学習指導要領を大学入試対策のために無視し、予備校的な体質を露呈しました。
 今後、私達がどのような態度で、どのような役割を果たしていくのか。自分たちで考え提案することは、将来の学校の姿や学校の管理運営に広い視野で私達が主体的に関わっていくことに、他ならないと考えます。
 私は、学校事務職員のプロとは、「明日の生徒のために働く」ことと思っております。学校に対する情熱・熱意と、生徒・学校を限りなく愛おしいと思う心意気で、自分で考え、醸し出して参りたいと思います。さわやかな風を、自らの力で巻き起こし、その機動力となることを目指して頑張ります。

 また、これまで約10年に1度の学習指導要領の全面改訂が行われております。それによって、各学校の様子が大きく違ってきます。これを機会に、「学校とは何をするところか」原点に帰って考えてみる必要があります。
 特色ある学校づくりは、今日の緊要な課題であり、学校は違って良いという発想が基本にあります。学校の教育計画である教育課程は、その学校が作るからです。このことは、誰でも承知していることです。学習指導要領には、その基本が示されているのです。社会の進化により、学校の課題も色々変わることは当然です。だから、学習指導要領の改訂があり、教育課程も変わるのです。各学校の教育課程で大切なことは、基礎・基本だけではなく、それを大切にしつつ、個性の伸長を図ることです。簡単に言えば、元気の出る人づくりです。それを、各学校は、教育課程や教育指導をもって示すことです。とりわけ評価において、このことを大切にし、客観的な評価が大切なことは言うまでもありませんが、評価はその子を伸ばす教育指導であることに留意したいものです。
 各学校の教育実践での確認は、基礎・基本と個性の伸長の関係で、両者は二本立ての関係にあるのではなく、一本化して考えることです。学力をつけると言うことは、この両者を車の両輪として推し進めると言うことです。

 今、社会は、学校や教師への不信感が渦巻いております。性急な教育改革の背景には何があるのでしょうか?。不信感に基づく改革では、決して教育は良いものにはならないと思います。
 現在、学校は少数の事件や事例が大きく取り上げられ、大変混迷しておりますが、頑張っている学校や教師が世間の人々に見えなくなっていると言うことが問題です。マスコミが注目するのは、信じられないような学校の事件や、とんでもない不祥事教員ばかりです。地域の人々は、この様なニュースを通して、「今の学校は………」という不信感を抱きます。地道にやっている学校や教師には目を向けないまま、多くの人は「今の学校」を語っております。
 また、世論に答え、教育行政が「何かの改善策」をやるたびに、学校現場は余裕がなくなり、悪循環に陥ります。昨今の学校には、殆ど教職員の増員はなされないまま、次から次へと「改善」「改革」が上から降ってくるようになり、この結果、会議や研修や事務処理業務も増加し、トラブルや苦情への対処、評価資料作成や評価のための時間も増大しました。
 ここ数年は、学校や教師の不信感が全面化されようとしており、学校選択制度、学校の外部評価、教員免許の更新制、バウチャー制で、個々の学校や教職員を評価し再チェックすることなど、学校や教職員は不安を覚えています。金をかけずに非難や恫喝等で教職員を動かしても、一時的にはよいかもしれませんが、長続きはしません。
 私は、「学校や教師を信用する」方向での改革が必要ではないかと思います。まずは、たっぷり時間とお金をかけて欲しい。予算と人員の充実が、これからの世界を担う日本の生徒のためです。生徒と向き合う時間と教師の力を信用することを押し進めて行かねばならないと念願しております。
 最近、親が子を虐待、子が親を殺害し、道行く人が発作的に人を傷つけるニュースを聞くたびに、果たして我々事務職員はどのような「教育」を追求してきたのか、進むべき道は「何だったのか」を考え直さざるを得ない思いです。
 現在、事務処理能力不足の事務職員は配置転換できますが、教員の免許更新制度は膨大なる経費がかかるという意見は全く聞こえてきません。この先にあることは、一体どんなことなのか?。センター化に伴い、少数配置の疲れ果てた学校事務職員の顔ばかりではないでしょうか!

学校教育法改正に関する主な検討事項

1.学校種の目的及び目標の見直しについて

(5)高等学校の目的及び目標の見直し

  1. 高校全入の今日、高校入試という「ふるい」の結果、個々の高校自体がその抱える生徒の質(興味、関心、学力)によって多様化しています。
     これに対応し、高校は様々な取組がなされてきました。単位制高校、総合学科、中高一貫教育等の制度改革です。また、普通科高校では、その生き残りをかけてコース制に移行した例も多くあります。
     その結果、問題点として1つ挙げておきたいのは、高校の専門学校化ではないでしょうか。コース制も様々なタイプが現れ専門性も細分化され、多様な生徒に応えてきたといえますが、一方いわゆる「つぶしがきかない」という面も否めません。後者の十分なケアが必要と考えます。
     高等学校は、大学教育の前段階と捉える側面と、社会への巣立ちの期間と捉える側面の2通りの性格を持っています。前記のケアの意味も含めて、どの高校でも共通の教養を身につけさせることが、高校が単なる技術の習得の場に終わることなく、人格形成の場としての役割を担うことができるものと思います。
  2. 学校に安心して子供を預けられるための一つとして、学校現場が荒れずにハード面の危険がないことを確保するために、事務職員の努力や教員との連携による地域からの信頼を得るところが大きいと思います。
     学校は、学力を付け社会の形成者として必要な資質を養うため、教育活動の側面からの支援が必要である。そのため、教員や生徒数の多い公立学校にあっては、教員と教科書だけでは教育は成り立たず、保護者や地域住民からの期待に応えるためには、事務職員と教員の各々の管理体制の位置づけが必要ではないか。
  3. 教員の給与等の処遇改善等の中で、教員に超過勤務手当を導入する意見もあるが、把握が難しく煩雑になる恐れがあると思われるので考慮願いたい。
  4. 教員が本務に専念できるようにするためには、教員の事務作業の軽減が重要と思われる。事務の改善・効率化等で対処できる部分も多いと思うが、事務職員への負担も大きくなるのは避けられない。事務職員の削減はぜひとも避けていただきたい。

3.学校評価等に関する規定について

(1)学校評価の推進

  1. 内部評価については、既に公立学校ではその95パーセントで行われ、外部評価も64パーセントの公立学校でおこないるといわれています。
     ここでは、外部評価の評価項目について、事務職員の立場から意見を述べます。
     評価項目は、授業、学校行事、健康・安全指導、生徒指導等に重点が置かれ、我々事務職員が担当する予算関連の事項は無いように思います。
     予算はすべての活動を財政面で保証するものであるので、予算委員会に関する事項を加えることが重要と考えます。

4.副校長その他の新しい職の設置について

  1. 学校組織は、多様化する業務に比し、校長に権限が集中し、校長を補佐する教頭は多忙を極めるのが実情と言えます。加えて主任制度は形骸化し、迅速な学校運営を困難にしています。
     これらへの対応として、いくつかの自治体では既に副校長や主幹を導入しています。校長の権限の一部を委譲された副校長を複数配置することにより、校長は学校経営に専念することができます。
     また、副校長は、校務分掌毎に配置された主幹を通じきめ細かな運営ができるものと思われます。
     なべぶた組織と言われる学校組織を、時代の変化に即応できる体制確立のため、副校長及び主幹の設置に賛成いたします。
     ただ、副校長を組織体として学校を動かす職と捉えると、民間人校長があるように、行政系職員が副校長に登用されることも可能と思われます。校長は教育職、副校長は行政職という役割分担もあって良いのではないでしょうか。
     この場合、学校事務職員から副校長に登用されることもあり、学校に働く事務職員のモラールアップに大きく寄与すると考えます。
  2. 副校長その他の新しい職の設置についての「副校長」「主幹」「指導教諭(スーパーティーチャー)」については、賛成です。
     しかし、東京都のように教頭が副校長になるのではなく、副校長には学校の企画・管理・運営を考えた行政職員の配置をお願いしたい。
     また、管理職の設置に留まらず、ごく普通に学校のため・生徒のために頑張っている一般教員(中間層の教員)への処遇に眼を向けて欲しい。
     例えば、「担任手当」や「部活動手当」等々をお願いしたい。
  3. 学校での様々な課題に対応し、各学校の特色を明確に打ち出すため、副校長、主幹の職の設置については賛成である。
     ただし、学校の抱える課題が教育指導だけでなく予算との係わり、また安全や災害対策など地域との係わりなど広い分野において存在していることから、その職の資格については、教諭に限らず学校に勤務するあらゆる職員から、適任と思われる者を配置できるよう法整備を行うべきである。
  4. 副校長等の職の新設については、既に8都道府県等で実施している状況の中で、国が新たに定めなければならない必要性についてお伺いしたい。
     国としての方針を示す必要があるのであれば、地方自治体に先駆けて示していただきたい。
  5. 公務員の定年の延長については?

教育職員免許法等の改正に関する主な検討事項

1.教員免許制度の改善(教育職員免許法の改正)

(1)教員免許更新制の導入について

  1. 教員免許更新制の導入には賛成いたします。以下その理由を述べます。
     この制度が提唱された背景には、不適格教員の存在があることは誰しも認めるところです。ことは児童・生徒の日々の教育に関わることであり、指導が不適切な教員の人事管理は、単に教育を受ける権利を保証するのみでなく、その質を確保するものでなくてはなりません。免許更新制はこれに大きく寄与するものと考えます。
     前記の確保すべき教育の質には、2つの側面があると考えます。
     1つは、日常の授業を中心とした教育活動の質であり、2つめは教員自身の適格性を問う質です。
     第1の教育活動の質の確保には、提唱されているような一定期間毎の講習が考えられます。ただ、講習の内容は、時代の変化や要請に合わせた教育を行える能力や資質を確保できるものでなくてはなりません。座学のみでなく、グループによるケーススタディーや企業研修なども有効と思われます。このためには長期間の研修にならざるを得ず、このことが受講者、すなわち免許更新者に対し、講習に臨む心構えを持たせ、更新の重要性を自覚させるでしょう。
     第2の教員自身の適格性を問う質の確保です。このためには、免許更新制に教員免許の剥奪を含むことにより、日頃から教員自身に緊張感を持たせることが必要と考えます。そうでなければこの制度は、教員の側からすれば、自動車免許の更新と同様、一定期間毎に受けなけらばならない講習という認識に終わってしまうのではないでしょうか。
     重ねて記せば、ことは我が国の次代を担う児童・生徒に関わることです。以上のような免許更新制により、教員に期待するより高い資質が確保できることを願っています。
     補記すれば、このような人材を採用の段階から確保するため、人材確保法に定める給与の優遇措置は堅持すべきと考えます。教育は財政面のみで語られるべきではないのではないでしょうか。
  2. 免許状の更新制の導入で、有効期限を設けることは教員への免許により教育活動をしていることの再認識にはなるが、スキルアップとしての講習は各都道府県の年次別研修との重複施策になるのではないか。
  3. 教員免許の更新制の導入で、産休・育休補充等の臨時的任用職員についてはどうするのか。具体的に免許状が必要となった段階で、講習を受講し終了すれば良いのか。
  4. 給与上の処遇について、人格法絡みとは別であるのか。
  5. 勤務時間等の改善で、変形労働時間の導入と長期振替制度とは、どういうことか。例えば、夏休みの勤務時間を6時間とするのか。

2.授業が不適切な教員の人事管理の厳格化(教育公務員特例法の改正)

(1)指導が不適切な教員の認定や研修の位置づけについて

  1. 指導が不適切な教員の認定
     この認定には、第三者機関によることを提案します。以下その理由を述べます。
     各都道府県では、指導力不足教員を認定し研修等を行い、その是正に取り組んでいます。
     それはどのくらいの数でしょうか。全国の教員およそ100万人に対し、文部科学省がまとめた平成17年度の人数は506人です。
     教育現場に働く我々事務職員の実感としては、この数字に違和感を覚えます。この数字では総体として不適切な教員は無いと言えます。506人という数字は、不適切な教員であるという以前の社会人として問題のある人と思われます。言い換えれば、誰しもが認める不適格者と言えるでしょう。今日の問題は、事が発覚して始めて判るような、あるいは事故に至らなくても期待されるレベルの授業ができない教員が存在することです。この被害者は教育委員会ではなく児童・生徒であることに思いを至さなければなりません。
     しかし、不適切な教員の認定基準を明確に定めても現実の認定には、校長にせよ教育委員会にせよ、恣意を排除することは困難ではないでしょうか。
     このため、認定に客観性を持たせ認定される側の納得を得るために、第三者機関による認定は必要と考えます。このことは、「開かれた学校」にも通じるものと思います。

地教行法改正に関する主な検討事項

(1)教育委員会の責任体制の明確化

教育委員会と教育長の役割・責任の明確化について

  1. 教育委員会の責任体制は、現行で十分明確化されている。現行の職務権限を教育委員会が主体的に責任を持って行使することで十分、しかしそれが十分に機能していない。
     また、教育委員会が単に事務局の管理を行う機関とすることは反対である。現在でも教育委員会が形式化し、事務局案を追認するだけとの批判がある。管理だけとなっては一層形骸化しかねない。

(2)教育委員会の体制強化

教育委員会の規模の適正化について

  1. 市町村教育委員会のうち小規模のものは、体制強化することが確かに求められる。しかしそれは財政面、人事面での支援である。広域化することで、きめ細かな対応ができなくなる恐れがある。効率面だけで考えることはできないのではないか。市町村合併がなく教育委員会だけの合併は問題がある。

教育委員の資質向上について

  1. 教育委員会を事務局等指導機関として明確化させ、そのために必要な教育委員の資質向上のための研修制度の充実を図っていただきたい。

(3)教育における地方分権の推進

教育委員数の弾力化について

  1. 教育委員の数は、現行でも既に弾力化されている。

教育行政における教育委員会と長の所掌の弾力化について

  1. 教育行政における教育委員会と首長との所掌事務は、学校教育に関わることは教育委員会が担当し、学校教育を除く生涯学習関係や青少年・高齢者関係の施策に関わることは教育委員会と首長が連携できるような組織が担当してはどうか。
  2. 私立学校に対して指導・助言ができるようにすることは良いことである。

教職員の人事に関する市町村教育委員会と校長の意見の反映方法について

  1. 教職員の人事について、広域で一定水準の人材が確保されることを前提にとはいっても、既に指定都市ではそのように行われているが、他の市町村にも権限を委譲することは、人材確保の上で問題があり時期尚早である。

(4)教育における国の責任の果たし方

教育水準の確保のための国の責任の果たし方について

  1. 一定の教育水準確保のために、国の関与を強めることは問題がある。現在でも教育委員会は公開が原則であり、学校も学校評価制度などにより説明責任を果たす努力をしている。さらに現行でも、文部科学省は指導、助言、援助ができる。現行のままで十分である。財政面、人事面では国の援助が必要である。

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初等中等教育局初等中等教育課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育課教育制度改革室)