中央教育審議会 教育制度分科会・初等中等教育分科会の検討事項に関する意見

平成19年2月28日

日本教育大学協会

総論としての意見

  • 日本教育大学協会は、主に義務教育段階の教員養成を担う国立の教員養成系大学・学部を会員とした組織であり、わが国の教育水準の維持向上を目指し組織的な取り組みを行ってきた。
     最近での主な取り組みは、1.研究部門及び学校種別部門における各教科の教育内容の改善を目指した研究などの研究会。2.学部レベルの教員養成の水準維持に必須の「モデル的なカリキュラム」の策定を目指した「モデル・コア・カリキュラム」研究プロジェクト。3.教職大学院における認証評価機関の設置を目指した評価に関するプロジェクト。などの活動を続けている。
  • 今回、教育再生会議における議論や、昨年12月に改正された教育基本法の趣旨に基づき、関連法律の検討を当両部会が真摯に行っていることに敬意を表したい。
     本日述べる意見は、日本教育大学協会としてとりまとめたものではなく、会長・副会長の責任において述べるものであることをご了承願いたい。
  • 学校教育法、教育職員免許法、地方教育行政の組織及び運営に関する法律等の関連法規の改正にあたっては、理念法である教育基本法に則り具体の制度等を検討することが大前提である。また、長時間にわたる国会審議における様々な議論も踏まえ、それぞれ個別の問題として取り上げるのではなく、それらを前提として、全体を通じて今後の日本の教育をどのように導くのかについてのグランドデザインが示されることを望む。
  • 中央教育審議会と教育再生会議の関係については、中央教育審議会は、諸法令に基づき置かれているものであり、教育再生会議はかつて法律に基づき置かれた臨時教育審議会とは異なり閣議決定に基づき置かれているもので、その位置づけや会議の性格を明確にすべきと考える。
     教育再生会議の関係者には、中央教育審議会を軽く見ている(間違った理解をしている)向きもあるが、「教育再生会議は大枠を議論し、具体の制度改革等の議論は中央教育審議会が行う」ことの整理を行う必要があると考える。

学校教育法改正に関する意見

  • 学習指導要領との関係では、具体の学校における教育は学習指導要領が基準となるので、これまでの学習指導要領の見直しの議論を十分踏まえる必要がある。
  • 義務教育の目標規定創設については、戦後の義務教育制度改革で小学校6年・中学校3年とされたが、義務教育の目標なり内容なりについては9年間を通しての検討が必要である。
  • 高等学校の位置づけについては、初等教育の延長線上としての教育機関とする議論と、大学等の高等教育から見た議論が各々の立場で行われてきた経緯がある。この際、高校教育の位置づけやその在り方を総合的に検討することが必要である。
  • 学校の評価等に関する規定については、学校における透明性の高い評価を行うことは、学校教育の質的向上のために不可欠なものと認められる。しかしながら、「評価」とその公開のみが先行することによって、教育機関の序列化を惹起し、義務教育の質に不均等を生じることが懸念される。以上のことに鑑み、初等・中等教育を担う学校の評価等に関する規定は、高等教育とは異なる形で慎重に定められることが望ましい。
  • 副校長その他の新しい職の設置については、複雑多様化する学校の業務を効率的に遂行するための責任体制を確立するという意味において、職掌と職階を整備し直すことは当然検討されるべきことである。ただし、その際に、新設する職の職務範囲とそのための資格要件を明確化し、教育現場に混乱が生じないように配慮することが重要である。特に、「指導教諭(仮称)」の職は、2006年(平成18年)7月11日の中央教育審議会答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」で創設が提案されている教職大学院において養成すべきとされている「スクール・リーダー」と重なる部分が多いと思われる。この点に関して、円滑に新制度が発足し、運営されるような配慮がなされることが望ましい。

教育職員免許法等の改正に関する意見

  • 教育職員免許制度の改善については、既に中央教育審議会初等中等教育分科会教員養成部会を中心として検討がなされてきたように、知識や技能の「刷新(リニューアル)」を目的とした教員免許更新制を導入することで教員資質を恒常的に担保しようとする意図は評価できる。この制度を真に実質的なものとするための具体的な検討が今後に向けての重要な課題であるが、その際注意すべきはいわゆる「指導力不足教員」の排除をもってこの制度の「実質」と短絡的に捉えないことであろう。本協会の会員大学等、教育職員免許状の認定課程を有する大学がその延長線上に担うであろう更新講習は、基本的に30時間程度の一回性のものと設定されており、その修了認定にいわゆる「指導力不足教員」対策としての効果を過度に期待しにくい。この制度に関しては、後述するような分限制度や研修制度の整備と関連づけ、全体として教員の資質向上に帰するように設計がなされていく必要がある。
  • 指導が不適切な教員の人事管理の厳格化については、いわゆる「指導力不足教員」の認定や処遇を公平適正に行い、児童生徒に対しての教育の質を確保していく上で重要なものと認められる。「指導力不足教員」の認定に関して、当該教員の学習指導を中心とする勤務実態を正確に見極めた上で判断していくシステムを構築することが必要であるが、その前提として「指導力不足」についての社会的な合意を得られるような判断基準を策定することが肝要であろう。これがないままに徒に保護者等からの意見を認定に反映させたとしても、無用な混乱を引き起こすことが懸念される。また「指導力不足教員」の処遇を厳格化させることは児童生徒に対して責任ある指導を行う上で重要なことであるが、その一方実際に教育現場で指導に当たる教員たちを萎縮させることのないよう、中長期的には教育界に有能な人材を惹きつけるインセンティブ(処遇面)にも配慮したバランスのよい制度設計が望まれる。

地方教育行政の組織及び運営に関する法律改正び関する意見

  • 教育委員会の体制強化については、地方行政の中でも特に教育に関する部分は、国家規模での公教育の水準確保という点で国の関与が独自に必要になること、中長期的なグランド・デザインを基に次代の国民を育成していく必要があること、の二点に鑑みて、一般行政から独立する形で行われることが望ましい。その意味において、市町村等の一般行政の単位と一対一で教育委員会を対応させることよりは、学校教育の支援や条件整備等の、教育委員会本来の任務が充分に行われるような組織を保証することの方を重視すべきであろう。また、現在は首長部局の所管であるところの私立学校に関しても、初等・中等教育の条件を全体として確保する観点から、統一的に管理運営を行えるよう配慮することが望まれる。
  • 教育における国の責任の果たし方については、地方分権の考え方を基調としつつ、これまで進められてきた教育の地方分権による実態も検証し、将来的に児童生徒が受けるであろう教育の質や水準について著しく地域差が生じないような一定程度の監督権を有することが望ましい。

その他

  • 国及び地方における教育予算の倍増以上の大幅な拡充と計画的投資が、全ての教育制度の改善と学校現場における教育の成否のみならず、わが国の発展の成否に関わることは間違いなく、中央教育審議会での審議の基本に据えることを望みたい。

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初等中等教育局初等中等教育課教育制度改革室

(初等中等教育局初等中等教育課教育制度改革室)