教育関連3法に関する意見書

2007年2月28日

中央教育審議会
教育制度分科会・初等中等教育分科会
分科会長 梶田 叡一 様

日本教職員組合
中央執行委員長 森越 康雄

 中央教育審議会教育制度分科会・初等中等教育分科会におかれましては、教育関連3法(学校教育法・教員免許法・地教行法)の改正について、様々な観点から審議を進めていただいていますことに、心より敬意を表します。
 子どもたちの人格形成にとって教育の果たす役割は、極めて重要なものです。それだけに、中央教育審議会の審議に対して大きな期待を寄せているところです。
 この集中審議は、教育基本法改正、中央教育審議会答申、教育再生会議の第一次報告などの流れを受けたものであります。教育再生会議については、非公開であることから、「学校5日制導入後の教育改革の検証がどうなされているのか」「現場実態をどうとらえているのか」が明確ではなく、その進め方や内容について多くの批判や問題点が出されています。
 いま、「いじめ」による子どもたちの自死、児童虐待、ネット情報の氾濫など子どもたちの教育環境は劣化し、義務教育費国庫負担金の削減により教育の機会均等が失われ、格差の拡大と固定化が深刻さを増しています。
 2005年10月26日に出された中央教育審議会「新しい時代の義務教育を創造する(答申)」では、「子どもたち一人ひとりが人格の完成をめざし、個人として自立し、それぞれの個性を伸ばし、その可能性を開花させること、自らの人生を幸せに送ることができる基礎を培うことは義務教育の重要な役割である」ことが述べられています。しかし、教育委員会や学校現場、子どもへの管理・権限の強化など、主体的な活動が阻害される方向で議論されており、答申の理念が生かされていないと考えています。
 このような状況下での教育関連3法の改正は、学校現場に直結する重要な法律であることを踏まえ、「子どもたちをどう育んでいくのか」「社会の主権者としてどのような力をつけていくのか」などの視点で、あらゆる角度から教育現場の課題を検証するとともに、実証的なデータにもとづく分析や子ども・保護者・教職員・教育研究者の意見などを十分に反映させることが必要です。
 また、子どもたちとじっくり対応できる学校現場の体制の確保、狭義の学力ではなく学ぶ意欲を喚起させるゆとりと豊かさの教育環境の提供、そのための教育制度と教育内容の点検、検証などの観点を踏まえて、拙速に審議を進めることなく、慎重に議論していくべきです。
 私たちは、今回の教育関連3法に関して意見をまとめました。今後の審議に際して是非参考にしていただきますようお願いしたします。

教員職員免許法等の改正に関する主な検討事項について

1.教育職員免許制度の改善(教育職員免許法の改正)

  • (1)教員養成・免許制度の改革にあたっては、教養審答申にあるように、養成・採用・研修を一体的なものととらえ、総合的にすすめる必要がある。
  • (2)教職員の資質向上については、学校現場における教職員同士の学び合いなどの同僚性、研修・研究、子どもたちとの教育活動や地域・保護者とのつながりなど、日々の教育活動の中で力量を高めるものである。「教職員は学校現場で育つ」という点からも安易に教員免許更新制の導入をすべきではない。教職員の資質向上のためには、多様な資質・能力を持つ個性ゆたかな教職員に対し、得意分野づくりや個性の伸長を喚起する環境作りや教育条件整備をすべきである。
  • (3)教員免許制度については、現行の免許制度(開放制・終身免許制)により、教育の質の保障がなされており、世界からも評価されている。免許更新制は、アメリカの一部の州にしかなく、しかも上級免許状を取得するための資格上進制度として機能しているものである。また、日本でも更新制を導入しているのは、海技士・水先人・運転免許など、身体的な適性を確認する必要があるものに限られている。他の職業資格との整合性、任期制をとっていない一般職の公務員との均衡などからも問題であり、教職への人材離れや職としての魅力の減少などから教員不足を招来しかねないと危惧する。
  • (4)学校現場は、超勤・多忙状況にあり、子どもと向き合う時間、教材研究をする時間が不足しているのが各種報告から明らかとなっている。また、研修については、法定研修以外にも、各都道府県・市区町村ごとに様々な研修が実施されており、「教員免許更新制」を導入することにより、多忙な学校現場にさらに拍車がかかることが懸念される。各自治体の研修体制や学校現場の状況を把握した上で、学校現場に混乱をもたらさないようにすべきである。
  • (5)教員免許更新制については、2006年7月11日中教審答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」以降、制度設計(財政面をふくむ)や具体的な内容を明らかとなっていない。教員免許を終身制から更新制にするという大きな改革をする際には、その点を明らかにした上で、更新制が教員の資質・指導力の向上に資するものであるか、国民的論議を十分行い、国民合意のもとすすめるべきである。

2.指導が不適切な教員の人事管理の厳格化(教育公務員特例法の改正)

  • (1)不適格者を排除する方法としては既に分限制度が存在し、今後も存続する。したがって、新設される制度は、公務員の分限制度に屋上屋を架すものであり、教員のみを対象とした指導力不足や不適格な者を排除する特別の制度となる。これは教員の身分保障に反するもので、他の職種の公務員と比べて均衡を失することから、新たな法整備の必要はない。
  • (2)教員についてのみ特別の排除制度を創設しなければならない理由を明らかにすべきである。また、分限処分には該当しないにもかかわらず、この制度で不適格と判定される基準を明確にすべきである。

学校教育法改正に関する主な検討事項について

1.学校種の目的及び目標の見直しについて

(1)見直しの基本的な考え方

 学校教育法に規定される目的・目標は、大綱的な基準とすべきである。なぜなら、子ども・保護者の願いや社会情勢により学校教育に求められるものも変化する。それに対応するため、文科省・中教審は、教育内容に関わることを学習指導要領の改訂という形で示している。したがって、上位法である学校教育法に具体性をもたせると、学校教育は変化に柔軟に対応できなくなる恐れがある。

(2)義務教育の目標規定の創設
  1. 学校教育法の改正にあたっては、教育基本法だけでなく日本国憲法や「子どもの権利条約」の理念を尊重すべきである。とりわけ、日本国憲法第13条(個人の尊厳と公共の福祉)や「子どもの権利条約」第12条(意見表明権)により、子どもは個人として尊重され、自由に自己の見解を表明する権利を有している。したがって、「学校教育の目標」等は、大人だけで決めるものではなく、子ども・保護者・教職員・地域住民が一体となって決定すべきものであり、学校教育法で規定する「義務教育の目標」は、子どもを教育の権利主体として尊重することを明記する必要がある。
  2. 義務教育の目標として「規範意識」「公共の精神」を新たに盛り込み、現行法よりさらに「公」に重点が置かれている。子どもたちに「公」の考えを押しつけるのではなく、子どもを「個」としてとらえ、子どもの「教育への権利」という観点から自己肯定感、問題解決能力、コミュニケーション力等を高めていくことが優先されるべきである。子どもを一人の人としてとらえ、教育への権利の主体者であるという発想から目的・目標を考えるべきである。教え込む、詰め込む、といった発想ではなく、個人の学ぶ意欲が尊重され、人としての尊厳を重んじられる場となるような目的・目標が必要である。
(3)幼稚園の目的及び目標の見直し
  1. 幼児期は、幼児自身が自発的・能動的に環境とかかわりながら、生活の中で能力や態度などを身に付けていくものである。豊かな物的・人的環境をつくり、幼児が主体的に遊ぶ、経験する、かかわることができるように支援することを重視するべきである。幼稚園教育が知育偏重の教え込みにならないよう、「理解」することではなく、興味や関心を持つこと、あらゆる事象や人とのかかわりに慣れ親しむことに重点をおいた目標にするべきである。
  2. 幼稚園が家庭や地域における幼児教育を支援することの重要性は理解されているところである。しかし、幼稚園が「支援する」という一方通行ではなく、幼稚園と小学校、家庭、地域が一体的に子どもの育ちを保障し、ともに教育力を向上させることが重要であるので、「連携する」という観点が必要である。
  3. 「預かり保育」については、幼稚園教育要領において「教育活動」と位置づけられている。しかし、「預かり保育」は、園児全員が対象でないことや同じ教育要領において「幼稚園の1日の教育時間は4時間を標準とする」と示されており、その在り方はさらなる検討が必要である。また、「預かり保育」のニーズは、保護者の子育て環境や地域の実態によって異なるものであり、変化していくものである。以上のことから、「預かり保育」について拙速に示すべきではなく、一律に導入するべきものでもないことから、法律で規定する必要はない。
(4)小・中学校の目的及び目標の見直し

 義務教育9年間を通して、子どもの人権を尊重し、豊かな感性や平和を希求する心、生きる力の育成を中心とした目標設定が必要である。また、総合的な学習は、自ら課題を見つけ、解決し、自ら学ぶという点で重要であり、こうした「学び」の原点をふまえた目標設定が必要である。
 中学校の目標については、現行法における「個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと」を、今後も引き続き規定すべきである。また、現代の社会情勢に鑑み、情報モラルやリテラシー等に関する目標の設定が新たに必要である。

(5)高等学校の目的及び目標の見直し
  1. 中教審でも議論されている社会との関連、社会の形成者という観点が重要であると考える。憲法の精神にもとづく民主的社会の形成者として、現行では「社会について、広く深い理解と健全な批判力を養い、個性の確立に努める」と規定されている。このことは、主権者としての市民を育成するという観点からも重要なものと考える。
  2. 中学・大学・企業等との接続の観点は重要と考える。ただ「等」という表現になっているように、企業との接続のみならず、社会との接続と広く解するべきである。高等普通教育を基礎教養、一般教養の充実ととらえることは重要で、偏らない教養を共通に教えるということが求められる。この観点から現行の高等学校の目的である「中学校における教育の基礎の上に、心身の発達に応じて、高等普通教育及び専門教育を施す」という規定は、要を得ていると考える。加えて、社会との接続にかかわって、職業観・労働観の育成が求められる。

2.義務教育の年限を9年とする規定について

 義務教育の年限について、現行の9年を延長することに関しては、十分な時間をかけた慎重な論議を行い、国民的合意形成のもとで行うことが求められる。また、2006年の中学校卒業者のうち高等学校進学者の割合が97.7パーセントであることを見れば、高等学校への進学を希望する生徒の全員入学を制度化すべきである。

3.学校評価等に関する規定について

 学校評価については、まずは学校の自己評価の定着と充実を図るべきであることから、拙速な外部評価の導入はすべきではない。なお、「結果・数値」ではなく「取り組んだ過程」が重視される評価制度とする必要がある。また、教職員評価や人事と学校評価は連動させるべきではない。

4.副校長その他の新しい職の設置について

  • (1)「いじめ」の対応など様々な課題がある中で、現場教職員が、子どもと向き合う時間を確保することが重要である。そのために第一にすべきは30人学級の実現など、教職員の定数改善の推進である。
  • (2)教育職の新たな職として、主幹・指導教諭を法制化する場合には、管理職指定はすべきではない。なお、主幹・指導教諭は、教諭・養護教諭・栄養教諭をもって充てる職とし、格付けは、現行3級相当とすべきである。
     また、主幹・指導教諭が担当する所掌範囲の中から、事務職員・現業職員は除外する必要がある。
  • (3)「副校長」については、職務分析を精緻に行ったうえで設けるかどうかを検討すべきという中教審「教職員給与の在り方に関するワーキンググループ」での意見や教育現場の実態を十分踏まえ、慎重に対応すべきである。

地教行法改正に関する主な検討事項について

1.教育委員会の責任体制の明確化、教育委員会の体制強化について

  • (1)教育の政治的中立性と教育行政の安定性の確保を目的とした教育委員会制度の否定につながりかねない、国による教育委員会についての基準や指針策定、教育委員会の第三者による外部評価などは慎重に検討すべきである。
  • (2)教育委員については、公選を含め地方自治体の裁量による選出とすべきである。議会への予算案提出権付与、教育委員会会議の公開化等を推進するとともに、支援行政としての説明責任を義務づける教育委員会機能の改革を行う必要がある。
  • (3)小規模市町村教育委員会の共同設置・統廃合については、そのことによって、地域の実情や住民の声を反映する教育委員会機能が低下しないようにすべきである。

2.教育における地方分権の推進について

 市町村への人事権移譲については、人材確保への支障、教職員定数の縮減など、そのことによって、教育条件の悪化、全国的・県域的な教育条件の格差が起きないようにすべきである。

3.教育における国の責任の果たし方について

 「地方分権一括法」の理念に反して、国の権限強化につながる、国の地方への是正勧告権や是正指示権は持つべきではない。また、同様の理由から、文科省、都道府県教育委員会による教育長の任命承認制は復活すべきではない。

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