今後の地方教育行政の在り方に関する論点とこれまでの主な意見

2.教育行政における国、都道府県、市町村の役割分担と各々の関係の在り方

公教育における国の最終的な責任の果たし方

○地方公共団体の法令違反や児童生徒の権利侵害などがあった場合、具体的にどのような要件の下で、国が是正・改善の指示等を行えるようにするか

・教育委員会において問題が起きたときに、国の責任を果たす手段を用意することも重要である。国の介入は必要最低限にしなければならないが、往々にして教育委員会はサプライサイドの立場になりやすく、必ずしも子供の利益にならないことがある。その点、国は教育のデマンドサイドの立場から必要な行動をとることができる。
・かつて県内の公立学校で学習指導要領に逸脱する教育が行われたり、授業時数が必要時数の8割に満たないような事案があった。当時、国の関与に関する法令が整備されておらず、県教委・市町村教委が自らの力で是正できないという状況が続いた中、当時の文部省からの是正指導でずいぶん変わった。県・市町村教育委員会の主体性が奪われてはならないが、各自治体における課題に迅速に対応できるために国の関与は必要である。
・地方自治法で違法確認訴訟ができたところであり、地方分権の時代に国の権限を強化する方向はよくないのではないか。
・指示をしても自治体が従わなかったら、それまでである。その後続手段として、今年3月から地方自治法において違法確認訴訟の制度が創設されており、その屋上屋を重ねる必要はないのではないか。
・違法確認訴訟は有効だが、この手続きは、是正の要求等をした後に、地方公共団体が措置を講じず、かつ、国地方係争処理委員会等への審査の申出もないときにはじめて訴訟を起こすことができるものであり、時間がかかるという課題がある。したがって、緊急性を要するときの国の関与を地教行法に書き込む、あるいは、個別法に書き込むという方法も考える必要がある。
・地方公共団体において違法行為がある場合に国の関与が必要ということはわかるが、緊急性のある事案の場合には、国が具体的にどう関与できるのかという疑問もある。現場の努力が十分でなかったり、日常的な体制が不十分だったりするという実態もあり、両者を分けて議論する必要があるのではないか。

県費負担教職員の人事権・給与負担の在り方

○県費負担教職員の人事権の市町村への移譲と、その前提となる人事交流の調整の仕組みについて、どのように考えるか

・中核市以外の自治体においても、自分の自治体で育てた教員が、他の地域に異動してしまうと、自分の自治体で頑張って育てなくてもよいという意識が芽生えて、教育委員会の当事者意識が薄らいでしまう。
・人事権を移譲し、市町村で教員を採用することより、責任と権限を一致させることが重要である。責任がないのに権限を持つのは問題であり、権限がないのに責任をとらされるのも問題である。
・校長先生や先生方の住居が学校から遠いため、災害時に学校のそばにいないというのが問題であり、教職員自身がストレスを感じている。
・人事制度はなるべく簡素でわかりやすい制度にすべきである。各都道府県・指定都市での人事異動の工夫は様々あるが、現在「ブロック」を設定した人事異動を行って支障が生じていない自治体に人事権を移譲していくのがよいのではないか。
・人事管理と給与負担の権限は現場に近いところに置かれるべきであるが、戦後の経験やアメリカの学校区を参考にしても、教員のスキルを養成するため、ある程度の人口規模が必要であり、同一校での滞留を避けるためにも教員の人事ローテーションが必要である。
・教員の異動は、一番の研修の機会でもあり、ひとつの学校の経験が、次の学校での力になる。中核市程度の規模でも、それだけの異動ができるところとできないところがあるのではないか。教員の格差が生じないようにしなければならない。仮に、それを調整する広域の一部事務組合のようなものが必要であるならば、結局、「人事権の移譲」にならないのではないか。
・郡単位であればある程度の規模になるが、市町村合併が進んでも、なかなか1町1村では人事権の行使は難しい。また、小さな町村は、大きな市とは同じ立場で人事交流ができない。ある程度の人事権を市町村に渡すことは可能だろうが、バランスも考えるべきである。
・かつては、県内6か所の教育事務所管内で人事が完結していたが、中山間地域では管理職登用が難しくなり、教頭を36歳で登用せざるを得ない、一方で、都市部では50歳を過ぎても管理職になれないという状況が生じ、広域人事に切り替えた。しかし、今度は、県内の東端から西端まで移動する際に単身赴任せざるを得ないという問題も生じるようになった。町村は単独では人事はできない。中核市とその周辺、指定都市とその周辺というエリアで考えていかないと、中山間地、島嶼部は人材を確保できない。
・人事異動は本当に大変な課題であり、特に採用が大変である。採用するときに規模の大きい自治体は採用しやすいが、果たして小さいところはできるのか。
・日本のように国と地方の仕事をはっきり分けない融合型の地方自治制度の場合、地方が国より先取りして政策を実施することができる。権限と責任の一致というのは、日本の現行自治制度ではではなかなか難しいのでどれだけ折り合いをつけるかがポイントになる。
・義務教育は、地域に根差すことと、機会均等の両面を考えないといけない。各都道府県によって教員の人事異動の状況はずいぶん違うため、格差を生じさせないために、人事異動の広域ルールの検討と、低いハードルで実現できる事務手続きが必要である。
・中核市程度の大きな市になれば移譲するのが筋だが、その際、近隣の町は一緒にするという方法もある。こうした広域調整の仕組みを残すという方法もあろう。
・都道府県内のいくつかの市区町村で人事グループを作り、グループ同士で人事交流し、都道府県教委がそれを調整するという方法もある。
・人事権の移譲について、広域での調整の仕組みは簡単なものではない。
・大阪の豊能地区については、定年まで市内で務めるという教員が多く、府教委も市の内申どおりに人事を行ってきている。そういう意味で、事務処理特例を活用した人事権の移譲がやりやすい地域だったのであり、ここでできたから他の地域でもできるというように考えてはならない。各地の状況を踏まえて慎重に考える必要がある。
・都道府県から市町村に任命権者が変わる際の事務手続きの煩雑さは無視できず、スムーズにできる仕組みも必要となる。教員の人事権が移譲された場合、給与計算や人事システムなどで人員増が必要となるので、やりたい自治体ができて、やりたくない自治体はやらないというオプションが存在することが必要である。

○指定都市に県費負担教職員の給与負担を移譲するに当たっての税財源措置の方策や給与・旅費事務を実施するための体制整備、教職員の人事配置への影響などについてどのように考えるか

・都道府県が給与負担をしていると、教員の一体感が生まれにくいという面もある。県費負担教職員の人事権と給与負担を一致させることで主体性を発揮できるようにすべき。
・県が給与負担をしていると、給与のメリハリをつけるのも、県の意向によらざるをえない。指定都市ごとの成熟度を踏まえ、指定都市に給与負担を移管してほしい。
・人事評価を的確に活用するという観点からも、人事権と給与負担は一致させていくべきである。
・給与負担の移譲を検討している県にとっても、移譲することは賛成だが、交付税や補助金という財源をどうするのかということになると、膨大な金額が動くので、各団体同士では合意形成が難しいのではないか。
・県費負担とはいえ、国が1/3負担していること踏まえれば、論点が違ってくる。給与負担の議論については、国の負担を県に移譲するということで地方税財政の全部を一体化していくという方向で議論された三位一体の改革という経緯を踏まえる必要がある。

○教職員の人事等における校長の意向の反映についてどう考えるか

・いかに学校長に権限を持たせて、当事者意識を持たせて、地域を巻き込んで取り組んでいくかが大切。
・教員版フリーエージェント(FA)制度を作ることで、教職員の「私はこういう学校教育をしたい」、あるいは校長先生の「こういう先生が欲しい」という意思を尊重していく取組を行っている。
・学校運営協議会を設置した学校では、ホームページで教員を公募し、校長と学校運営協議会の代表が、応募した教員と面接したり議論したりして、ぜひこの先生に来てほしいということを決め、教育委員会に申し出ている。
・校長の予算の権限も強化しようということで、予算項目にとらわれない合算執行や、残った予算を翌年度に加算することができる学校予算キャリー制度をつくっている。

教育現場の士気を高める方策

○真に頑張っている教師の士気を高めるにふさわしい処遇の改善・人事管理の在り方をどう考えるか

・教員の給与体系を考えるときに、給与のメリハリの付け方として、職階を細分化することや評価に応じた給与にすることもあるが、部活動や担当学年、担任など、職務に応じた手当の在り方も考えるべきではないか。
・能力と実績に基づく現行の公務員制度に基づけば、「級」を細かくし、能力に応じた給与を支給するというのが原則である。本給の部分で対応するべきであり、手当を増やしていくことには反対である。
・各学校を年に1回、必ず表彰することを文化として広めればいいのではないか。
・子供から喜ばれたり、親からの尊敬や信頼を獲得できないと教職員は苦しいと思われるので、子供たちや校長が選ぶ先生を表彰するような教員をサポートする仕組みがあるといいのではないか。
・先生方というのは、給与や表彰もありがたいのだが、もっと喜びを感じるのは、若い先生と接し、育成することであるから、教員表彰を受賞した教員を研修の専属講師に充てるという方法も士気を高める方策の一つである。
・教員が自分のノウハウを学校に提供するといった貢献を評価の観点にすることも大切である。
・教員の仕事は協働意識が非常に重要である。個人の評価を受けることは大事なことであり、士気を高めることになるが、学年・分掌といったチームで取り組んでいることを評価する仕組みも重要である。
・電子化を進めることにより、無駄な業務量を減らすことが大事である。

第三者評価の在り方

○義務教育についての市町村の権限と責任体制の確立に伴い、地方教育行政や学校教育に係る我が国にふさわしい第三者評価の仕組みはどうあるべきか

・学校の様々な情報を公開し共有することにより、課題意識あるいは危機感を共有し、さらに行動、評価、改善も共有していくような、学校が家庭・地域を高め、逆に家庭・地域が学校を高める仕組みづくりをしていかなければならない。
・学校運営協議会及び学校評価に関する検証委員会という組織を作り、学校運営協議会の活動の客観性・信頼性を担保するために、専門的な観点から検証と評価を行っている。一方で、評価のための評価や事務的な作業にならないよう、いかに簡素な事務手続で実施できるかが課題である。

3.学校と教育行政、保護者・地域住民との関係の在り方

○コミュニティ・スクールや学校支援地域本部など、地域住民や保護者に開かれた、地域とともにある学校づくりを推進する方策についてどう考えるか

・コミュニティ・スクールと学校地域支援本部という施策により、教育委員会制度の中で住民の参画を増やしていくことが重要であり、子供たちの教育は社会総がかりであるということを文部科学省がもっとわかりやすい言葉で伝えるべき。
・自治基本条例及び教育ビジョンにおいて、学校と地域との協働により教育を進めることを明確に位置付け、首長部局による地域づくりとタイアップしながら進めている。
・コミュニティ・スクールの取組のキーワードは「地域の子供は地域で育てる」、そして「当事者意識」。学校は地域と情報を共有し、課題意識の共有や危機感の共有につなげる。さらに行動、評価、改善を共有していく取組である。
・15年前にホームページの開設と自由参観により、まずは徹底した「開かれた学校づくり」から始めた。参観「時間」ではなく、月曜のおはようから金曜の終わりまで見てもらうことで、保護者や地域に、先生の大変さをどうサポートするかという当事者意識が生まれた。
・校長の権限と責任を明確にすることが重要。校長のリーダーシップをしっかりと保証するため、コミュニティ・スクールは校長が申請し、教育委員会が指定する。そして、校長の推薦で教育委員会が委員を任命している。もし学校運営協議会が学校運営に著しい支障が生じた場合には、校長の申し出により、第三者機関に諮った上で教育長が学校運営協議会の解散を命ずるという制度的担保を設けることにより、勇気ある校長がどんどん学校運営協議会を設置している。
・地域の方々からきめ細かな学校支援を得ていることや、地域との様々な関わりの中で教員が一定の緊張感を持って授業改善に努めていることにより、学力向上や不登校減に結びついている。
・認定NPO法人のように、学校運営協議会への寄付を税額控除できる仕組みや、学校運営協議会が寄付を集められる仕組み、文部科学大臣優秀教員表彰制度における学校運営協議会関係者の表彰の大幅拡充など、学校運営協議会の導入促進へのインセンティブが必要である。
・教職員が一定期間で異動するため、転入してきた教職員との温度差や円滑な継承という面での課題や、地域の方々も、年月の経過とともに若い人にバトンタッチしていくという面での課題があるが、自主的な研修会を組織するなど、人材育成に取り組んでいるところもある。
・学校と地域をつなぐコーディネーターの養成や資質向上、コーディネーター同士のネットワーク化による課題共有がとても大事であり、今後の仕組み作りの際に加味していただきたい。
・学校運営協議会のもとに学校支援を担う企画推進委員を任命しており、支援内容ごとに設けられた部会で、切磋琢磨して支援活動を充実して頂いている。
・コミュニティ・スクールの取組において、学校運営への参画と学校支援・教育活動への参画という2つの機能を持たせている。学校支援地域本部事業や放課後子ども教室事業は予算事業であり、制度として法律に位置づけられている学校運営協議会が司令塔になって、事実上、一体的に運営している。
・学校運営協議会と学校支援地域本部の両方が置かれている場合、教育委員会、校長、教職員で共通理解が不足していたり、行政内部でも担当する学校教育と生涯学習・社会教育の部門が連携できていなかったりする例がある。自治体によっては、プロジェクトチームを作って一体化するなどの取組を行っているところもあり、今後の課題である。

 

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