1 地方教育行政の在り方

(1)検討の背景

  • 我が国の初等中等教育や社会教育などの教育行政は、国が定める基本的な枠組みや財政的保障のもとで、都道府県や市町村が主体となって実施されてきた。国、都道府県、市町村がそれぞれ役割を分担し協力する体制のもと、我が国の教育は充実・発展を続け、戦後の我が国の成長・発展と国民の豊かな生活や文化の振興に大きく貢献してきた。このような中、教育委員会は、地方における教育行政の担い手として、重要な役割を果たしてきたところである。
  • 一方、我が国の教育は、現在、様々な課題に直面している。子どもたちの学ぶ意欲、規範意識や道徳心・自律心、さらには体力の向上が大きな課題となっている。また、不登校児童生徒への対応や就業・就学・職業訓練のいずれもしていない若者(ニート)への対応も喫緊の課題である。
  • 我が国が経済的に発展し、国民の多くが豊かさを実感できる社会となる中、旧来の貧しさを前提とした教育から豊かさを前提とした教育へ教育観を転換が求められるようになった。子どもの学習への動機付けや、生きることの難しさ、大切さを実感する機会が少なくなり、子どもに様々な体験をさせることを重視していくことが必要である。また、少子化が急速に進み我が国の社会構造に大きな変化を与える中、地方行政の中で子どもに対する教育の優先順位を下げることなく、充実していくことが求められる。
  • こうした教育に対する社会の要請や、教育行政をとりまく社会状況の変化に対応し、国民の信頼に応える教育を実現していくためには、学校をはじめとした教育機関の在り方のみならず、教育機関を管理する教育委員会の在り方や、教育委員会と学校の関係など、民意を的確に反映しつつ、現場の創意工夫を十分に活かすことができるような教育行政の在り方について、継続して見直しを図っていくことが必要と考える。
  • 教育委員会制度をはじめとした地方教育行政の在り方については、平成10年に中央教育審議会として答申を示したところであり、現在、その趣旨に沿った改革が各地方自治体や各学校で進められ、一定の成果を挙げつつある。一方、平成10年以降、地方自治体の自立性・自主性を高めることを目指し、政府全体で地方分権改革が推進されると同時に、自治体の行政能力の向上や財政基盤の強化を図るため、市町村合併が急速に進展するなど、地方自治体制も大きく変化している。
  • 地方分権が進めば進むほど、地方における教育行政体制を強化するとともに、教育に対する十分な財政措置を担保し、住民の期待に応える十分な教育が行われるようにすることは不可欠である。このような観点から、教育委員会制度をはじめとした地方教育行政の在り方について、改めて検討を行うことが必要となっている。

(2)新しい地方教育行政の在り方

  • 地方教育行政の在り方については、今後、次のような考え方のもとに改革を行っていくことが必要と考える。

1.全国的な教育水準の確保と市町村や学校の自由度の拡大

  • 学校教育とりわけ義務教育は、国家・社会の基礎となる国民教育としての意義と国民の教育を受ける権利の最小限の保障としての意義を有するものであり、その実施にあたっては、国はナショナルスタンダードを示し、教育の機会均等と全国的な教育水準を確保していく必要がある。
  • また、それと同時に、一定水準の教育を確保した上で、地域の実情に応じた教育が実現されることが必要である。基本的な枠組みや基準の設定を国が行うとしても、その具体的な実現は可能な限り地方の自主性に委ねられることが望ましい。このため、制度をできる限り弾力化し、教育の直接の実施主体である市町村や学校の裁量を拡大することにより、市町村や学校が特色を出し、向上に努めるようにすることが必要である。
  • また、市町村や学校が裁量を活かして創意工夫しつつ、目標を明確に設定し、その実現に向けて努力するよう、市町村の行政体制や学校の組織運営体制を強化していくことが必要である。

2.説明責任の徹底

  • 市町村や学校の自由度を拡大するのと同時に、情報の公開と評価を徹底することが要請される。市町村や学校は、評価・公開を通じ、自らの教育行政や教育活動の内容とその結果について、地域住民や保護者に対し説明する責任を果たすとともに、教育の質を向上させることが必要である。
  • また、教育行政制度全体について、誰がどのような責任を負うのかが明確な制度とすることが必要である。

3.地域住民や保護者の参画の拡大

  • 子どもの教育は、学校だけで担えるものではなく、地域社会や家庭を含めた三者がそれぞれの役割を果たし、連携・協力しながら行っていくことが必要である。中でも家庭は、大きな役割を担っていると言える。
  • このような連携・協力のためには、学校、地域、保護者が、子どもをどのように育てていくかについて考えを共有していくことが不可欠であり、教育行政も、地域住民の意向を十分に把握し、それを反映して行われる必要がある。
  • また、地域住民や保護者が、学校運営も含め一定の権限と責任を持って教育に積極的に関わっていくことで、教育委員会の支援のもと、学校教育の改善充実や地域全体の教育力の向上を図っていくことが必要である。

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