資料5 中央教育審議会教育制度分科会・地方教育行政部会(第14回)意見表明(平成16年10月18日)机上配布資料
藤田 英典(国際基督教大学)
本日の会合、本務校の校務のため欠席させていただきます。下記のレジュメは、中央教育審議会教育制度分科会・地方教育行政部会(第3回、平成16年5月10日)での意見表明の際に配布した説明資料のうち、本日の会合等で更にご検討いただければと思います部分、特に下記の4点に関わる検討課題・私見の部分を抜粋・再掲したものです(一部修正・補筆)。きちんとした文章になっていなくて恐縮ですが、よろしくお願いいたします。
- 教育委員会の必要性・役割・権限-下記レジュメの3)及び4)・・・前回会合でも教委必置の是非が話題になりましたが、個人的には、教委は必置とし、人口規模等によってその在り方を弾力化(複数の選択肢の提示)する方がいいと考えています。また、この問題は、前回会合の「資料1」の9頁〔4〕(2)の2番目のまる(「生涯学習・文化・スポーツに関わる行政分野・・・」とも関連があるように思います。
- 人事権・予算権の問題-下記レジュメの5)
- 教職員評価の在り方【前回「資料1」の13頁、〔4〕(2)の1番目のまる下線部】-下記レジュメの6)教職員評価については、管理主義的・業績主義的評価(処遇等に反映)は教職の包括性・協働性・献身性や教師のモラルに重大な悪影響を及ぼすと考えられますので(モラル・ハザードの問題として経営学等で早くから指摘されている)、当事者評価(下記参照)・形成的評価を基本とするのが望ましいと考えています。
- 学校評価の在り方【前回「資料1」の13頁、〔4〕の(2)の2番目のまる】-下記レジュメの6)
外部評価・第3者評価とその結果の公表という考え方が公的事業の評価・説明責任の方法として当然のことのように言われ広められる傾向が強まっていますが、学校評価の場合、当該学校の適切な改革・改善を目的とするものであることが重要であり、そのためには、当事者評価(下記参照)とその結果及び課題の当事者間での共有を基本とするのが望ましいと考えています。したがって、「資料1」の当該部分をそのように修正していただければと思いますが、そうでない場合でも、最小限、「学校評価とその結果の公表は、学校の序列化や学校査察による学校運営・教育実践の過剰な統制となることのないように」といった趣旨の文言を追加していただければと思います(第3者評価の先進国とも言えるイギリスでは最近とみに、査察文化や学校の序列化の弊害が問題視されるようになっています)。
記
中央教育審議会教育制度分科会・地方教育行政部会(第3回、平成16年5月10日)での藤田の説明資料からの抜粋
2.地方分権化時代の地方教育行政・教育委員会制度の在り方(【F】は、藤田の私見)
1)地方教育行政・教育委員会制度の問題の所在
- 制度のレベル
- 運用のレベル
- 人材のレベル
→ 【F】制度の適切な改革は必要だが、基本的には、運用レベル・人材レベルがクリティカル
2)教育行政の地方分権化(権限委譲)
-省略(削除)
3)地方教育行政の役割・課題
- 学校教育(公教育)の振興
- 教育的・文化的環境の整備・充実-社会教育・生涯教育、文化・スポーツ等の振興
- (地域社会・地域経済の活性化・持続的発展、産業・科学技術・学問の振興、等)
教育委員会:1>(大なり) 2 >(大なり) 3)
首長(部局):(3>(大なり) ) 2>(大なり) 1
→ 2を誰が主管すべきか?-規模や制度的普及度によって意見・評価は分かれる可能性あり
- 教育委員会の場合=学校教育との連携性、事業の安定性・継続性、事業の運営・監督・支援
- 首長(部局)の場合=新規事業の企画・実現、迅速性、予算確保面等での利点(?)
【F】現行制度に特に問題があるとは考えられない(教育委員の任命、条例・予算案の提出、等)
2では、新規事業の企画・実現は、教委・首長(部局)双方で行い、制度的な普及・拡大が進む場合、運営・監督・支援は教委(専門性・継続性確保)で担当する、という方式に問題はない(望ましい)
1では、特に中立性・安定性・継続性・専門性が重要→基本的に教育委員会とするのが妥当
その他:首長と教育委員との定例懇談会や、特別の場合には首長の下に臨時審議会・懇談会等(教育委員・教育委員会事務局スタッフの代表も参加)を設置
4)教育委員会制度の意義・役割・課題
- 教育行政の独立執行機関としての意義・課題-省略・削除
- 教育委員会の機構とその理念-省略・削除
- 教育委員(会)の役割・機能をどう考え、どのようにして充実するか?
- 企画・立案-政策・施策の提案・助言・承認→【F】必要に応じて審議会・協議会等を設置して対応
- 監督・指導-行政(事務局)・学校運営・教育実践の点検・評価、指導・助言
→ 【F】教育委員の学校視察・研修、事務局の説明資料の適正化・簡潔化、等
- オンブズマン-調査・苦情処理→【F】必要に応じて調査委員会、公聴会等を設置・開催、等
- 教育長・教育委員会事務局の専門性・感応性・柔軟性等をどう高めるか?-省略・削除
5)都道府県と市町村・学校との権限関係の再編~何をどこまで市町村・学校に委譲するか?
1.教育におけるコーポレイト・ガバナンスの単位はどのくらいが適切か?
→ 基本単位を、政令指定都市(区に下ろすか否か?)、中核市、特例市のレベルまで下ろす?それ以外は、事務の共同処理方式(組合、共同機関の設置、協議会、事務委託)を検討?
2.人事権をどうするか?
- 広域人事のメリットは大きい:域内における教職員の適正配置と人事交流
(参考)アメリカで問題視され始めているスクール・ホッピング
→ 広域人事を前提に、市町村・学校の裁量権・イニシアティブをどう拡大・促進するか?
- 広域人事の単位を中核市・特例市のレベルまで下ろす?
- 移動のシステム・方法の改善~市町村の内申・校長の意見具申がより活かされる方法?域内教職員からの部分的な公募方式?
- 教職員の一定枠を市町村の採用枠とする?
3.予算権をどうするか?
義務教育費国庫負担制度・県費負担教職員制度・人確法のメリットは大きい-省略・削除
→ 上記諸制度を前提に、市町村・学校の裁量権・イニシアティブをどう拡大・促進するか?
- 国庫負担金の総額裁量制をどう適切かつ有効に活用するか?さらなる改善・弾力化は?
- 都道府県と市町村の間でも、一定範囲の総額裁量制のようなものが考えられるか?
- 人件費以外の消費的支出金の、市町村・学校の裁量範囲の拡大は可能か?
4.学校・校長の裁量権・イニシアティブをどう拡大・促進するか?
→ 学校・校長裁量経費の拡大
教育委員会の関与縮減~学校管理規則の大綱化・弾力化
監督・指導行政から支援行政へ
6)学校評価・教員評価について
- 小・中・高等学校設置基準(省令)による学校評価の努力義務化(平成14年4月1日~)
- 「事前規制」から「事後評価」へ、という改革の風潮
→ 【F】学校教育では適切な事前規制と専門性(職能・倫理・誠実さ)の向上が重要
外部評価/第三者評価・管理的評価でなく、当事者評価・形成的評価が重要
当事者:当該学校がよくなってもらわなければ困る人たち、よくすることに責任を担う人たち
(保護者・地域住民・卒業生等を含む)
外部評価 ・第三者評価は、評価結果の公表(非当事者への公表)、学校の序列化、学校選択制の拡大を促進し、当事者・学校の自律性・自主性・創意工夫を制約する可能性が大きい。
(参考)諸外国で問題視され始めている査察文化(audit culture)・序列文化(ranking culture)performance,quality assurance,ranking,efficiency,value for money,marketability,assessment,benchmark,accountability,transparencyなどによる学校・教育実践の統制
管理主義的・業績主義的な教員評価の危険性
- 教職の包括性・協働性・献身性になじまない→モラル・ハザードの危険性が大きい
→ 形成的・奨励的機能を高める適切な評価・処遇の工夫