資料1 教育委員会制度の運用実態に関する調査(要約版)

平成16年9月

教育委員会制度調査研究会
(代表:筑波大学 堀 和郎)

1.教育委員会の形骸化論の検証

 教育委員会が形骸化しているとの批判や指摘がどこまで経験的に妥当するかを教育委員長調査、教育長調査、首長面接調査を用い、主に(1)委員の選任、(2)教育委員会会議の様相、(3)委員の役割、(4)教育委員会会議を活発にするための諸条件の4点に絞って明らかにした。(以下、参照ページとしてあげているのは、報告書のページ数である。)

(1)委員の選任(1‐1、pp.6‐10参照)

 教育委員長は教育委員の選任が慎重になされているととらえており、首長の多くもその重大さを強く自覚している。委員の選任を慎重に行っている教育委員会ほど会議が活発化している(会議の活発度についてはp.14参照)。選任における地域割りの慣行については、合併経験のある自治体で地域的なバランスが重視される傾向があったが、そのこともって、選任が形式化しているとはいえない。首長は人物本位で選任を行っており、自ら信頼のおける人物を委員に任命していることが伺われる。また、公募制には多くの首長が慎重な態度をした。

(2)教育委員会会議の相様(教育委員長調査)(1‐2‐(1)(2)(3)、pp.11‐19参照)

  • 会議の開催頻度に関しては、定例と臨時を含めて約4割が年に15~17回開催されており、平均は14.7回であった。開催頻度に対する満足度に関しては、約8割がおおむね十分との回答であった。
  • 1回の会議時間に関しては、約5割が2時間以上3時間未満と回答している。
  • 会議での採決の有無に関しては、4割以上があまりないとの回答である。
  • 議題の次回への持ち越しの有無に関しては、半数以上があまりないとの回答であった。
  • 報告事項・審議事項の数の多寡に関しては、ともに約半数がどちらともいえないとの回答となっている。
  • 事務局の準備する資料の質と量に関しては、約8割が不足を感じてはいないとの回答であった。
  • 会議資料配付の時期に関しては、半数以上で会議の当日に配布されているとの回答であった。配布時期の適切さに関しては、適切であるとの回答は半数に満たず、3割弱があまり適切ではないとの回答であった。
  • 事務局による説明のわかり易さに関しては、約85%が説明は分かるとの回答であった。
  • 教育委員会会議の特徴に関しては、委員長は、「会議では多様な意見が自由に交わされる」との設問で肯定的な回答の割合が最も高く、議論が活発に行われているととらえていた。教育長調査からも、教育長は、教育委員会会議は活発に機能しているととらえていることが理解できる。(1‐2‐(2)、pp.16‐17参照)
  • 事務局の役割に関しては、事務局スタッフは意見や議論を方向付けているか否かの設問には回答は分かれ、問題理解を促進する資料の提供に従事しているか否かには、あてはまるとの回答が8割を越えた。
     教育委員会会議の特徴を「教育委員会会議の活発度」を表す指標とし、5つの設問に対する回答を得点化し平均を求め、その平均を基準として、「不活発」と「活発」とに分け、他の設問との関連をみた(1‐2‐(1)‐12、pp.14‐15参照)。その結果、統計的に有意な関連があったのは以下の諸側面であった。(pp.17‐19参照)
  • 会議が不活発であると認識している委員長は、会議が少ないと感じており、「頻度への満足度」が「活発」に属する教育委員会よりも低い。
  • 「活発」のグループよりも「不活発」のグループの方が議題の次回への持ち越しは少ない傾向がみられた。
  • 「活発」のグループでは資料の質と量について十分であるとの回答が、「不活発」のグループよりも多い傾向がある。
  • 「不活発」のグループでは当日に資料が配付されるとの回答が多く、「活発」のグループでも半数近くが「当日」ではあるが、会議日よりも前に配布される傾向が強い。
  • 資料配付時期の適切さについて、「活発」のグループでは「やや適切」「非常に適切」を合わせると51.7%になるが、「不活発」のグループでは39.7%に留まる。
  • 事務局による説明のわかり易さについて、「活発」のグループでは35.4%が「とてもよくわかる」と回答しているのに対し、「不活発」のグループでは14.2%に留まる。
     いくつかの教育改革の領域に関する質問項目を取り上げ、それに積極的に取り組んでいるか否かを聞いた設問から「改革進展度」の指標を作成したところ、教育委員会会議が「活発」のグループは、改革進展度も高く、逆に「不活発」のグループでは改革進展度が低い自治体が多いという傾向がみられた(1‐2‐(3)、p.19参照)。

(3)委員の役割(教育委員長調査)(1‐3、pp.20‐24参照)

  • 教育委員の果たしている役割に関しては、「教育政策のアイデアを述べる」「地域住民の教育ニーズを伝える」の項目について「あてはまる」との回答が他の項目よりも多い。それらの項目には、「活発」のグループが「不活発」のグループよりも「あてはまる」と回答する傾向が強い。教育長調査(1‐3‐(5)、p.24参照)では、「住民ニーズの提供」が平均点では最も高得点となり、「首長との連絡調整」が本調査の質問項目の中では最も低得点となった。
  • 委員の意見が教育政策へ反映されているか否かに関しては、約3分の2が反映されていると回答した。人口規模別に見ると、20万人以上の自治体で「十分反映」と回答する委員長がやや多い。会議の活発度との関係で見ると、「活発」のグループでは「十分反映」との回答が21.2%であるのに対して、「不活発」では5.8%にとどまっている。
  • 委員からの議題発案に関しては、4割がほとんどないとの回答であった。会議の活発度との関係では、「活発」のグループで「非常に多い」「比較的多い」を合わせると約3割となるのに対し、「不活発」では1割強にとどまっている。
  • 教育長や委員長が果たしている役割に関しては、「教育委員長は議長として議論のリード役を務めている」の項目の平均値が高く、「教育長は議論のイニシアティブを握っている」の平均値が低かった。会議の活発化のためには、教育長の果たす役割が大きく左右する可能性がある。教育長が会議で強いイニシアティブを握ることは、必ずしも教育委員会会議としての活性化につながるとは言えない。

(4)教育委員会会議を活発にするための諸条件(教育委員長調査)(1‐4、pp.25‐28参照)

  • 教育委員会会議での議論が不活発な理由に関しては、「通達・通知等で国(県)の方針が決まっているために、議論のしようがない場合(平均値3.52)」「議論するための前提となる情報が不足している場合(同3.29)」「提案される教育政策に議論の余地がない場合(同3.21)」が委員会会議の不活発となる理由としてとらえられていた。これらは形骸化といわれる状況の背後にある制度的な問題といえよう。
  • 教育委員会会議が合議体として機能するための要素に関しては、「委員の意欲・使命感と自己啓発」が最も平均値が高く、「教育委員と教育長との頻繁な情報交換」「議事内容についての事前の十分な連絡」「教育委員の研修の増加、教育に関する識見を高める機会の増加」「教育委員の発言が自治体の教育政策に反映される実績」などが大切であるとされた。現行制度の機能不全を見直すことで対応可能な要素が上位に挙げられた。
  • 議題の次回持ち越しの理由に関しては、「資料の不足」「議題に対する準備の不足」を選ぶケースが比較的多かった。会議の活発度との関係では、「資料の不足」、「時間の不足」、「事務局による説明の不十分さ」の3つの場合について、いずれも「活発」のグループの方が「不活発」よりも「ある」と回答するケースが多かった。

2.教育委員会の独立・孤立論の検証

 教育委員会は、自治体のなかで首長から独立した執行機関として位置付いているために、文部科学省や都道府県教委からの指導を重視しがちであり、自治体のなかで首長(部局)から孤立した存在と化しており、首長に今求められている総合行政や自治体独自の教育改革の推進の制約要因になっているのではないかという指摘を、1.首長と教育委員会との関係、2.教育行政・政策に対する首長のスタンスという側面から、検証することを試みた。
 まず、市町村長面接調査によれば、首長と教育委員の接触・交流はあまりなく、特に、フォーマルな形で行っている市町村は少ない。しかし、学校行事等を通しての接触・交流は比較的多く、そうした交流を通じて、首長と教育委員は、地域の教育課題について意見交換をしたり、教育ビジョンを確かめ合ったりしている。 つぎに、首長と教育長との接触・交流はきわめて頻繁である。ほとんどの自治体で教育長は三役会のメンバーであるとともに、幹部会(部長会や庁議とも呼ばれる)に出席している。市区町村教育長調査でも、96%の教育長が首長部局の幹部会に出席していると回答している。出席頻度は自治体で異なるが、ほぼ一ヶ月に二回の割合である。首長と個人的なつきあいをしている教育長も54%と半数を上回った。事実、インフォーマルにも首長と教育長は日常的に交流しており、多くの教育長が首長と報告・連絡・相談を行っている。このことは、首長と教育長は日常的に個人的なつながりをもっており、その中で相互の信頼関係を醸成したり、教育理念や政策の方向性の共通理解を図っている可能性が高いことを示している。最後に、首長部局と教育委員会事務局との関係であるが、両者の間にフォーマルな連絡調整機関を設置している自治体は、わずか8%である。それは、事務局レベルでの両者の統合が進んでいることにより、連絡調整のための機関を設置する必要がないという理由によることが、面接調査で明らかになった。多くの自治体において教育委員会事務局と首長部局が同じ庁舎のなかに位置付いていることもあるが、地理的に離れている自治体でも、組織機構として一体的な構造のなかに置かれている。それを象徴するのが、人事交流である。教委事務局の専門的教育職員は別として、それ以外の職員の人事は全庁的に行われており、それは交流と表現するよりも「渾然一体」というにふさわしい状況である。したがって、政策の総合調整も円滑に行われており、行政委員会の事務局であるから支障があるとする首長はほとんどいなかった。調査結果から見る限り、教委事務局が法制上首長部局から独立して組織機構として編成されているからといって、相互の連絡の不徹底とか政策調整の不十分さといった現実はないといってよい。
 それでは、首長は教育行政・政策過程に対してどのように関わっているのか。教育長調査における教育施策に関する首長のスタンスについての質問項目において、それを見れば、「教育長のアイデアを尊重」、「教育長への全面委任」、「教育長の施策を支援」に対して肯定的な回答が最も多い。これに対して、「政策に関する説明を頻繁に要求し、変更を指示することもある」、「具体的な指示をする」への肯定的な回答は相対的に少なくなっている(2‐2教育施策に関する首長のスタンス、p.33参照)。これらの結果は、首長の多くが教育長に信頼や支持を寄せ、教育長に任せていることの証左といえる。また、教育長は、首長を、地域の教育問題を優先課題にしており、住民の教育ニーズの把握に積極的で、国・県・市町村の教育情報にも精通している存在と見なしており(2‐2教育長から見た首長像、p.34参照)、多くの教育長は首長と一体的に行政を進める総合行政の志向が高いという結果も出ている(2‐2総合行政志向の強さ、p.35参照)。
 教育行政・政策過程における首長と教育長との相互関係は、面接調査でも十分に裏付けられた。多くの首長が教育を重要な政策課題として認識しているが、政策のアイデアをもっている場合に、そのためのイニシアチブを発揮しにくいという声は聞かれなかった。首長は、日常的な接触のなかで教育長と相談したり、自分の政策アイデアを伝えることもできるし、時には指示を出すこともしている。また、首長のほとんどが自分がリーダーシップをとらないと教育改革が進まないと考えているわけではない。教育は地域の課題として重視するが、教育行政・政策の領域は教育委員会がまず主体的に動くべき分野であり、自分から動けないことはないが、総じてそれを抑制しているという見方ができる。自分の役割は、教育委員会が主体的に行う教育施策を必要に応じてチェックする、あるいは、サポートすることであるとする首長が多数を占めた。予算編成にしても、法制上は、首長部局で編成したものについて教育委員会の「意見を聴取」することになっているが、実際には教育委員会事務局が、特に次長を中心に、首長部局の財務担当と連絡を取りつつ、新規事業については企画政策担当者と相談しながら、(自治体の基本方針に即してではあるが)自ら予算編成したものに対して、首長の査定を受けるという手続きをとっている。
 こうした教育行政の自主性への配慮は、たとえば、教育課程に関わる副教材づくりの施策事業を展開する場合によく表れている。ある市長は、副教材づくりが教育課程に関わる事業であるだけに、市長がそれを発案するに当たって「政治的介入」として受け取られないように、「子どもの学習機会を保障するためである」と議会に対して丹念に説明するとともに、最終的には教育委員会からの予算要求として処理するという慎重な行動をとっている。ここには、首長といえども、教育行政を本来所管している教育委員会に理由もなく介入することはできないこと、しかし、自治体全体の教育課題に関わる問題には必要に応じて積極的に行動を起こすという首長のスタイルが典型的に示されている。
 こうしたスタイルは、現行の制度ゆえにしかたなくとらされているのではない。むしろ、そうすることは教育行政の自主性という制度理念に忠実であるだけでなく、その方が教育委員会自体に主体的な努力を動機づけることになるし、こうしたスタンスをとることで特に大きな問題が生じていないからである。首長へのアンケート調査の結果を見ても、教育委員会制度に寄せられている批判に対して、首長の多くが否定的な回答をしている。たとえば、「教育委員会が首長部局から独立していることが首長に制約となっている」という意見に否定的な回答が47.5%、肯定的な回答が25.4%、「教育委員会が合議制であるため教育委員の責任が不明確になっている」という意見に否定的な回答が44.2%、肯定的な回答が26.8%、「教育委員会が合議制であるために事務執行が遅滞しがちである」という意見に否定的な回答が65.0%、肯定的な回答が11.5%となっている(2‐2教育委員会制度に対する首長の意見、p.37参照)。教育委員会の存在が「縦割り教育行政」の温存につながっているという批判についても、文部科学省や県教育委員会の行政指導が強いために、そして、教育委員会がそれに従順なために、教育委員会がなかなか動かず、自分のイニシアチブによる施策事業が実現できなかったという経験を語った首長はほとんどいなかった。地方分権一括法以降、かなりの状況変化が起きており、教育委員会が動きやすくなっていることを強調する首長もいた。自治体教育行政の中心的アクターはあくまでも教育委員会であり、教育委員会がそのことをもっと自覚し主体的な行動を起こすことで、期待されている本来の機能を発揮する余地は十分に残されているというのが、多くの首長の考えであるといえる。
 これらの調査結果から見ると、首長の多くは、現行の制度の下でも、教育行政・政策に対して根本的な疑義や不満は持っておらず、自分の意向を反映させることはできるし、事実反映されており、現行の教育委員会制度自体の変更を望んでいるとはいえないということになる。首長にとって障害となっているのは、教育委員会制度の組織機構自体ではなく、自治体として独自に改革に取り組もうとするときに制約として働く、教育をめぐる作用法上の諸規制といえる。たとえば、補助金によって作られた施設は一定期間他の目的に使えないことや、学校教育と社会教育とを隔てる法制上の高い壁などは、施策の展開の足枷となっているという首長は多い。

3.小規模自治体の教育委員会の無力論の検証

1 市区町村教育委員長調査にみる小規模自治体教育委員会の運用実態

 教育委員長調査のデータを用い、教育委員会制度の運用実態と人口規模とのクロス集計を行い、そこで統計的に有意な関係がみられたものに着目すると、つぎのような諸側面について、小規模自治体教育委員会の問題点が指摘できる。それは、(1)委員の選任(1.教育委員の通算就任期間、2.教育委員の人選)、(2)教育委員会会議の様態(1.教育委員会会議の特徴、2.会議の開催頻度、3.採決の有無と議題の次回への持ち越し、4.会議資料配付の時期)、(3)自治体での教育改革の取り組み状況、の3側面である。

(1)委員の選任(3‐1‐(1)(2)、p.40参照)

 委員の選任に関しては、教育委員の通算就任期間および教育委員の人選と、人口規模との関係を考察した。就任期間に関しては、自治体が小規模になるほど就任期間が長くなる傾向がある。そして、教育委員の人選に関しては、規模の小さい自治体で、教員委員の人選が慎重に取り組まれていないという印象をもつ委員長がやや多くなる傾向となった。

(2)教育委員会会議の様態(3‐1‐(3)(4)(5)(6)、pp.41‐43参照)

 まず、教育委員会会議の特徴に関しては、小規模自治体ほど、会議で多様な意見が自由に交わされると考えている教育委員長の割合が減少していくこと、提案された政策に関してはあまり発言はないと考えている教育委員長の割合が、人口20万人以上の自治体では39.2%、8千人未満の自治体では18.9%と開きがあることが明らかとなった。会議の開催頻度については、年に11回以下と回答した割合が8千人未満の自治体で他の人口規模の自治体よりも多くなる傾向がみられた。採決の有無と議題の次回への持ち越しについては、自治体の規模が小さいほど採決にいたる場合が少なくなり、議題の持ち越しが「全くない」と回答する割合が増加する。最後に、事務局の用意する会議資料を配付する時期については、小規模自治体になるほど、「会議日当日に配布」の割合が多くなっている。

(3)自治体での教育改革の取り組み状況(3‐1‐(7)、p.43参照)

 自治体での教育改革の取り組み状況において、どの程度積極的であるかを聞いたところ、小規模になるにつれて「やや消極的である」との回答割合が増え、逆に規模が大きくなるにつれて「非常に積極的である」との回答が増えている傾向がある。

2 市区町村教育長調査にみる小規模自治体教育委員会の運用実態

 つぎに、市区町村教育長調査結果を用いて、教育委員会制度の運用実態と人口規模とのクロス集計を行った。統計的に有意な関係がみられた項目に着目すると、つぎのような諸側面について、小規模自治体教育委員会の特徴が指摘できる。それは、(1)改革の進展度合、(2)教育委員の役割、(3)教育委員会事務局の果たしている役割、(4)首長と教育長の関係、(5)地域住民のニーズに対応した行政の推進、の各側面についてである。

(1)人口規模別にみた改革進展度(3‐2‐(1)、pp.43‐44参照)

 本調査で用意した、各教育委員会の改革の進展度を示す質問項目への回答をもとに改革進展度を示す変数を構成し人口規模とのクロス集計を行った。その結果、人口規模が小規模ほど改革進展度の低い教育委員会の数が増加している。改革進展度の高い教育委員会と低い教育委員会の割合は、3~5万人の部分で逆転し、特に、5万~10万人を境として、その傾向はより明確となっている。そして、20万人以上の教育委員会では、実にその96%が改革進展度が高い層に属している。このことは、地方自治体が一定規模、少なくとも10万人前後の人口規模を有していることが、改革を進めていく上で必要な環境のひとつの目安であることを示している。

(2)教育委員の役割(3‐2‐(2)、pp.44‐45参照)

 教育委員の役割(1‐3‐(5)、p.24参照)について人口規模別に見ると、「政策アイデアの提供」の項目に関して、小規模になるほど「あてはまる」の割合が少なくなっている。
 また、同様の質問に対する教育委員長調査(1‐3‐(1)、p.20参照)では、小規模自治体で「政策アイデアの提供」に「あてはまらない」の回答がやや多い傾向となり、その一方でで、「PTA等の地域団体との調整において役割を担う」について、比較的小規模の自治体で「あてはまる」「よくあてはまる」と回答する委員長がやや多く見られる結果となった。

(3)教育委員会事務局の果たしている役割(3‐2‐(3)、pp.45‐46参照)

 教育委員会事務局の果たしている役割に関しては、全ての項目で人口規模が小さくなるほど「あてはまる」と回答した教育長の割合が減少している。ここから、小規模自治体ほど、教育委員会事務局の活動が活発ではない可能性が高いことが理解できる。(但し、事務局の役割に関する全体的な回答傾向についていえば、全ての項目で「あてはまる」と「よくあてはまる」を合計した割合が過半数以上を占める結果となった)。

(4)首長と教育長の関係(3‐2‐(4)、p.47参照)

 教育長の幹部会への出席頻度に関しては、8千人未満及び8千~3万人の自治体で、12回以下の教育長が50%前後にのぼり、その割合は、人口規模が大きくなるほど減少していく。首長との個人的なつきあいについては、人口規模が小さくなるほど、就任以前からつきあいがある割合が増えていき、さらに、人口規模が大きくなるに従って、個人的なつきあいがないと答える教育長の割合が増加している。

(5)地域住民のニーズに対応した行政の推進(3‐2‐(5)、p.47参照)

 地域住民の参加する集会への教育長の出席の有無については、小規模自治体であるほど、集会に出席する教育長が多い。このことは、住民集会への参加といった点から見ると、小規模自治体の教育長の方が、地域住民のニーズに敏感であるということを示していよう。

4.教育委員会制度をめぐる今後の方向性と改革課題

 教育委員長調査、首長面接調査、首長アンケート調査の結果から、教育委員会制度に関する今後の方向性について、現行の教育委員会制度を大幅に変更する必要性は低く、現行の制度を改善し活用することで、教育問題を解決する機構として機能しうると考えられていることが明らかとなった。
 まず、教育委員長調査において、1.教育行政の広域化に肯定的な回答、否定的な回答ともに約4割、2.地方教育行政機関の独任制化に対して肯定的な回答が約1割、否定的な回答が約7割、3.教育委員会の責任と権限の縮小に肯定的な回答が約2割、否定的な回答が約5割、4.教育行政における住民参加制度の維持に肯定的な回答が約7割、否定的な回答が約1割、という結果を得た。これからすると、教育委員長の多くが、現行制度の大幅な変更を望んでいないということが明らかであるといえる。
 また、首長へのアンケート調査においては、つぎのような結果を得た。1.現行の教育委員会制度を大幅に変更する必要はないという意見に肯定的な回答が約4割、否定的な回答が約3割、2.合議制の執行機関としての教育委員会制度を維持しつつ制度的改善を図るという意見に肯定的な回答が約7割、否定的な回答が約1割、3.現行の教育委員会制度を廃止してその事務を市町村長が行うという意見に肯定的な回答が約2割、否定的な回答が約6割であった。さらに、選択制の下で教育委員会の設置の是非を首長自身で選択する場合を想定した質問への回答では、「現行の教委制度を変更せず維持する」が約3割、「教委制度を維持するが必要な制度的改善を図る」が約5割、「現行の教委制度を廃止し、その事務を市町村長が行う」が約1割という結果となった。特に「合議制の執行機関としての教育委員会制度を維持しつつ制度的改善を図る」という意見に肯定的な回答が約7割で、否定的な回答がわずかに約1割しかなかったことは、首長の間では、現行制度を改善し活用することで直面する問題状況に対応できるという意見が大勢を占めていると判断することができよう。
 教育委員会制度を維持することに関して首長が全体として肯定的な評価をしていることは、首長への面接調査でも明らかである。現行の制度は確かに教育行政を教育委員会と首長とで「分担」して処理する二元的システムになっている側面があることは否定できないが、双方向的な意思の疎通を図り、共通の課題意識を持ち、パートナーとして行動するならば、教育委員会がある程度自律性をもって行動しても、首長は必要に応じてコントロールが可能であり、一体的な行政を妨げるものではないというのが、多くの首長の一致した意見であった。事実、教育委員会無用論や首長部局への教育委員会の事務移譲論に示唆されている教育行政の首長部局への一元化に対しては、ほとんどの首長が賛意を示さず、むしろ、一元化を警戒する首長が大勢を占めていた。一元化への警戒心を生じさせる理由としては、首長の交代によって教育行政の継続性と安定性が失われる可能性があること、教育問題への対応は重大であり責任が大きすぎ、首長が他の行政に加え教育行政の責任を背負うことが事実上不可能であること、広義の教育委員会の「専門性の蓄積」は無視し得ず、教育問題の高度化・専門化には広義の教育委員会が一定の自律性をもってあたる方が有効であることなどが挙げられている。しかしながら、教育委員会が、教育の専門性の名の下に、学校教育をいわば「独占」することによって、結果的に教育界の閉鎖的な学校文化を温存し、そうした教育委員会と学校との関係が、新しい教育施策の展開にとって桎梏になっていることを指摘する首長がみられることから、教育委員会制度に潜む問題を否定することはできない。
 とはいえ、教育委員会制度が地方分権の時代において自主的かつ積極的な教育行政を展開し、地域の教育問題を解決する機構として存続可能な存在であると多くの首長によって評価されていることは明らかである。ただ、そのために解決するべき課題は少なくない。
 たとえば、そのひとつは、教育委員会会議が政策フォーラムとして機能することである。このための事務局のサポートは欠かせない。また、教育委員会とは別に、委員会に政策上の建議を行う審議会を設け、教育行政への住民参加を拡大するとともに、この審議会経験者を教育委員に任命し、委員をいわば「育成」するといった工夫を行っている自治体も示唆的である。
 また、首長と教育長との協働、つまりパートナーシップの構築は不可欠の課題といえる。首長は、教育委員会の自主・自律性を尊重して、それに教育行政をゆだねつつも、必要に応じて、積極的に教育行政に関わっていくという関係の構築である。縦割り行政の解消がみられるなかで、このようなパートナーシップ構築の環境は整いつつある。
 さらに、教育委員会事務局の充実、政策立案能力の向上がある。これには、専門的教育職員の増員といった量的側面のみならず、教育長と教育次長との協働をはじめとする、教育職と行政職とのパートナーシップの強化が必要である。そのためには、「教育行政の専門性」と「一般行政の専門性」とを隔てる壁を超えた、人と人との信頼関係をねばり強く形成する努力が求められる。

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