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6.  まとめ

 調査からは、市町村教委や個別学校からの要望や意見を収集して調整を加え、これに都道府県や教育事務所、政令指定都市の各教育委員会による人事方針を反映させることで広域的な人事行政が推進されているという現状が明らかになった。この結果は、現在においても市町村教育委員会の意向の集約だけでは人事行政を進めることは不可能であり、決して都道府県教育委員会や教育事務所による人事事務が形骸化しているわけではない、ということを表している。まずは、県費負担教職員制度の目的の一つである「適正配置と人事交流」について、現状の人事行政の制度(とその運用)が大きく寄与しているということが調査から明らかになった。
 次に教員の人事権を市町村教育委員会に持たせるべきである、という論点については、その実現についていくつかの問題点を抱えていることも明らかになった。一つは、現状において多くの都道府県がなお「広域人事」を重視しているということである。それぞれの都道府県教育委員会や教育事務所では、この「広域人事」の達成と円滑な運用に向けた事務体制を整備していた。調査においてもこの志向は各機関による情報収集や意向の調整といった各種の活動として現れていた。この結果からは、「教員の人事権を市町村に移してはどうか」という論点における問題意識とは異なる問題意識を多くの都道府県教育委員会の人事担当者が抱き、人事行政にあたっているということを意味しているのであり、これは自由記述における回答の傾向をみることでも確認することができる。またもう一つは、市町村教育委員会による人事権を可能にするだけの条件整備が伴っていないということである。ひとつの具体例として、多くの都道府県や政令指定都市で人事に関するデータベースの構築があまり進行していないということが、調査の結果から指摘することができる。すなわち現状において、データベースの整備が進んでいない地区(都道府県や教育事務所の管内)では、広域人事を維持する上で必要な人事情報の収集に、それ相応の行政能力が(マンパワーという形で)求められるということになるのであり、これは市町村教育委員会にとって大きな障害であると考えられるのである。データベースの問題に限らず、自由記述においても市町村教委(特に町村教委)のマンパワー問題は指摘されている。市町村間で十分な調整を行うことで適正配置を維持して地域間の偏りを最小化しながら、なおかつ市町村教育委員会が人事権を行使するという状況を達成するには、条件整備という面でも課題が多く残されていることが調査から明らかになったのである。
 以上が、今回の「県費負担教職員制度に関する全国調査」によって明らかになった点であり、現在の論点に関して指摘できる点である。



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