2.大学院教育の実質化を図るための改革の基本的方向

今後の大学院の基本的方向

視点1 今後の大学院が果たすべき役割

21世紀社会において、大学院が果たすべき役割・機能

  • 21世紀の国際社会は、社会・経済・文化のグローバル化と変化の激しさを増す国際的な競争社会と捉えられる。
     我が国では、少子高齢化が進み、社会経済を支える人材の減少も懸念される中、今後とも、国際競争力をもち、質の高い国民生活のできる国として持続的に発展していくためには、高度で知的な素養のある人材層が広く社会を支える知識基盤社会へと移行していく必要がある。
  • 特に、今後の知識基盤社会において、人材養成については、これまでにまして創造性の向上等、質的な面での充実が必要であり、1.新しい知見の創造を担う人材、2.知見の活用や社会への還元・移転を担う人材、3.及びこれらの知見を創造し活用する社会の持続的発展を多様に支える人材などの知的人材の養成が求められる。
     これらの人材養成の必要性・重要性については、「科学技術と社会という視点に立った人材養成を目指して」(平成16年7月科学技術・学術審議会人材委員会第三次提言)などにおいても、同様の提言がなされている。
  • このような情勢の中で、今後の人材養成の中核を担う高等教育の役割は重要であり、特に、学校教育の最高段階の教育研究を行う場である大学院は、「深い知的学識を涵養する高度な教育の課程を提供する場」として、その使命を再認識し、より積極的に機能を果たす必要がある。そのことを通じて、我が国が国際競争力をもって世界をリードし、また国際社会に貢献するための基盤となる高度な人材養成の中核を担うことが求められている。
  • また、大学院を取り巻く国際環境について見ると、米国において多様な大学院が充実した教育を展開し、世界から優秀な学生を惹きつけている一方、欧州や国際機関においては、国際的な質保証に関する検討や試みが進行中であり、更にはアジア諸国も含め、国境を越えた教育の提供に目が向けられるなど、大きな変革期を迎えていると言うことができる。
     我が国は、このような状況に積極的に対応できるよう、国際通用性・信頼性のある大学院教育の確立を図ることが急務となっている。
  • 我が国の大学院が、これらの複合的な要請を踏まえ、その本来的な役割を十分に発揮していくためには、各大学院の個性や特色の明確化、大学院間の競争や連携等を通じ、大学院教育全体として、特に以下の機能を果たしていくことが新たに求められる。
    1. 高度な人材養成機能の強化
      • 創造性豊かな優れた研究・開発能力を持つ研究者等
      • 高度な専門的知識・能力を持つ高度専門職業人
      • 確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員
      • 知識基盤社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材
    2. 教育研究を通じた学術研究の高度化
    3. 国際社会などへの貢献
    なお、大学院の機能強化を図るに当たっては、科学技術・学術の振興、生涯学習の振興等という視点も重視しつつ政策を推進することが必要である。

当面重点を置くべき課題

  • これらの機能強化は、総合的に進められていく必要があると同時に、当面、特に次のような事項について、重点的に政策的支援を進めていくことが必要である。
    • 課程制大学院制度(特に、博士課程)の教育内容・方法の開発・充実(実質化)の推進
    • 高度専門職業人の養成機能の一層の強化
    • 国際競争力のある卓越した教育研究拠点の形成支援の展開

視点2 課程制大学院制度としての発展の方向性

大学、学部、大学院の関係の明確化

  • 我が国では、学校教育法にも見られるように、大学の教育研究活動の総体と学部段階の教育(学士課程)との関係が、十分整理されているとは言えず、将来的には、大学院段階の教育(修士課程、博士課程、専門職学位課程)との関係の明確化も含めた整理を検討する必要がある。

課程制大学院の考え方の徹底

  • 大学院段階の教育については、課程制を基本とする制度となってから半世紀以上経過し、この間、それに相応しい教育の充実を図る試みも様々に行われてきているものの、未だ制度の考え方が徹底されているとは言えず、特に課程制の趣旨に沿った教育の実践は全体として十分な状況にはない。
     このため、課程制大学院制度の趣旨の徹底、及び制度の趣旨に沿った体系的な教育内容・方法(教育課程)の充実を図る必要がある。

各課程の目的・役割の明確化

  • 大学院の各課程の制度的な目的等については、年来、改正が行われてきている。平成15年度には、専門職学位課程の創設によって、新たな制度的変化がもたらされたところであり、その定着と適切な展開が急がれる課題となっている。
     しかしながら、このような制度改革の効果をより積極的に挙げていくためには、大学院教育に対する諸要請を考慮しつつ、当面の重点施策目標を示し、制度運用の方向性を明らかにすることも重要と考えられる。
     これを踏まえ、国は、各課程について、当面、次のような考え方に沿って、重点的に施策を進めていく必要がある。
<博士課程(一貫制又は区分制)>
  • 産官学を通じたあらゆる研究・教育機関を担うために、国際的にも高い水準の研究環境の中で、自立して研究活動を行うに足る能力等を修得させ、創造性豊かな優れた研究・開発能力を持つ研究者等/確かな教育能力と研究能力を兼ね備えた大学教員の養成を行う課程として、明確な役割を担うことが求められる。
<修士課程>
  • 1.研究者等養成の一段階、2.高度専門職業人の養成、3.知識基盤社会を多様に支える高度で知的な素養のある人材の養成など、社会の多様なニーズに的確に対応することが求められる。これを踏まえ、各大学院においては、それぞれ基本的な方向性・焦点を明らかにし、それに即して、学士課程で培われた教養教育に十分な裏打ちをもつ専門的素養をもとに、その専門性を一層向上させていく課程として、役割を担うことが求められる。
<専門職学位課程>
  • 幅広い分野の学部の卒業者、社会人等を対象として、大学院段階より特定の高度専門職業人の養成に特化して、社会の各分野において国際的に通用する高度で専門的な知識・能力が必要とされる人材の養成を行う課程として、明確な役割を担うことが求められる。
     ただし、特定の高度専門職業人の養成に特化した課程であっても、専門基礎と実習・実技との関係等に配慮して、一貫した教育の課程の編成が重要である専攻分野については、学士課程に配慮するなど弾力的に対応することが適当であると考えられる。

各大学院における具体的対応の促進

  • 各大学院は、これらの考え方を踏まえつつ、特に人材養成機能の面で、例えば、専攻を基本単位として、自ら課程の目的等について焦点を明確にし、競争的環境の中で、多様化・分化し発展していくことが重要である。
     しかしながら、現状においては、各大学院のそれぞれの課程の目的・役割が不明確であり、課程の目的等に応じた多様な教育活動を展開させていく状況にはない。
     このため、国は、各大学院における自主的・自律的な検討のもとに、これが明確に示され、それに沿った教育研究体制の構築や教育研究活動が責任を持って実施されるよう促進方策を講ずる必要がある。

視点3 大学院規模の方向性

  • 今後の大学院教育の発展の方向性を検討するに当たって、目下の最重要課題は、大学院における教育の質的な面での抜本的な充実・改革であるが、そのことを前提としながらも、量的な側面についても全体的な方向性について、専攻分野ごとの動向に留意しつつ、検討しておくことが必要である。

今後の大学院規模の方向性

  • 今後の大学院への進学需要については、一部の専攻分野によっては学部卒業者の大学院進学率の伸びの鈍化が起こっている。
     しかしながら、今後の大学院の量的規模の方向性について展望すると、全体としては、社会人、留学生の入学者を含め、高度専門職業人養成に対する期待など進学需要の全体の増加傾向に合わせ、着実な増加傾向になると予想される。この傾向は、今後の知識基盤社会の到来を展望すると、一般的には望ましいものと考えられる。
     また、大学院の規模の方向性については、専攻分野により置かれている状況、今後の動向が違い、国として支援すべき状況(専攻分野、機能、教育の課程など)も異なってくることから、今後の学問分野別の審議検討を踏まえて、検討を深化していく必要がある。

今後取組むべき課題

  • 今後の大学院規模の全体の方向性を踏まえ、国及び大学院を置く大学は、次の事項に取組むことが望まれる。
    • 国は、このような大学院全体の規模の傾向を念頭に置き、大学院教育の質の抜本的向上に努めることが急務であり、このための施策に重点的・集中的に取組むこと。
    • 大学院を置く大学は、絶えず社会に目を向け、大学院に対する社会の要請を的確に踏まえ、可能な限りその人材需要の動向の把握に努めながら、各大学の自主的・自律的な検討に基づく将来構想、果たすべき役割をもとに新たな専攻等の設置、改組の検討を機動的に行っていくこと。

学部の規模との関係

  • 全体として、大学院の規模が拡大していく中で、各大学における大学院と学部の規模の関係については、18歳人口の動向やそれぞれの大学が社会の中で果たすべき役割を再認識し、真に大学の高度化、個性化、活性化を図る観点から各大学の責任において十分検討する必要がある。

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高等教育局高等教育企画課高等教育政策室

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