(1)「教職大学院」制度の創設の基本的な考え方

 近年の社会の大きな変動の中、様々な専門的職種や領域において、大学院段階で養成されるより高度な専門的職業能力を備えた人材が求められている。
 教員養成の分野についても、研究者養成と高度専門職業人養成の機能が不分明だった大学院の諸機能を整理し、専門職大学院制度を活用した教員養成教育の改善・充実を図るため、教員養成に特化した専門職大学院としての枠組み、すなわち「教職大学院」制度を創設することが必要である。
 このような改善・充実を図り、力量ある教員の養成のためのモデルを制度的に提示することにより、学部段階をはじめとする教員養成に対してより効果的な教員養成のための取組を促すことが期待される。
 教職大学院は、当面、1)学部段階での資質能力を修得した者の中から、さらにより実践的な指導力・展開力を備え、新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成2)現職教員を対象に、地域や学校における指導的役割を果たし得る教員等として不可欠な確かな指導理論と優れた実践力・応用力を備えたスクールリーダーの養成の2つの目的・機能とする。
 これ以外の幅広く教員の資質能力の向上に関連する目的・機能については、各個別大学の主体的な検討により、一般の専門職大学院として設置することも含め、先導的・意欲的な取組の推進が期待される。

1.「教職大学院」制度の必要性及び意義

 1.5.で述べたように、教育を取り巻く社会状況の変化等の中で、この変化や諸課題に対応し得るより高度な専門性と豊かな人間性・社会性を備えた力量ある教員が求められるようになってきている。
 このため、今後の教員養成の在り方としては、学部以下の段階で、教科指導や生徒指導など教員としての基礎的・基本的な資質能力を確実に育成することに加え、大学院段階で、現職教員の再教育も含め、特定分野に関する深い学問的知識・能力を有する教員や、教職としての高度の実践力・応用力を備えた教員を幅広く養成していくことが重要である。

 大学院段階における教員養成についてはこれまで、昭和50年代以降、いわゆる新教育大学が現職教員の再教育に道筋を付け、既存大学にも同様の目的の修士課程が整備されたが、我が国の大学院制度が研究者養成と高度専門職業人養成との機能区分を曖昧にしてきたこともあり、また実態面でも、高度専門職業人養成の役割を果たす教育の展開が不十分であったことから、教員養成分野でも、ともすれば個別分野の学問的知識・能力が過度に重視される一方、学校現場での実践力・応用力など教職としての高度の専門性の育成がおろそかになっており、本来期待された機能を十分に果たしていない。

 このような教員養成の課題を踏まえ、教員養成システム全体の充実・強化を図っていくためには、学部段階における教員養成の着実な改善・充実を図ることとあわせ、とりわけ大学院段階における養成・再教育の在り方を見直し、制度的な検討を含め、その格段の充実を図ることが必要である。

 近年の様々な専門的職種や領域における高度専門的職業人材に対する社会的要請を踏まえ、従来、研究者養成と高度専門職業人養成の機能が渾然一体で不分明だった我が国の大学院制度について、諸機能を明確に区分し、各機能にふさわしい教員組織、教育内容・方法等を整えることにより、全体としての機能強化を図る方向で制度の見直しが進められている。
 その見直しの一環として、平成15年度に、従来の大学院制度とは異なり、目的、教育内容、指導方法、指導教員、修了要件、学位等を高度専門職業人の養成に特化した「専門職大学院」制度が創設された。これを契機に、各分野における既設の大学院の機能や組織体制の見直しが始まっており、法曹、ビジネス、会計、知的財産、公共政策、公衆衛生など様々な分野で、既設の専攻からの改組転換や新設も含め専門職大学院の整備が急速に進んでいる。

 教員養成の分野についても、1.4.で指摘した大学院段階も含めた課題を克服するためには、大学院の諸機能を整理し、

  • 1)研究者養成・学術研究コースとして各分野における深い学問的知識・能力の育成等に重点を置くもの
  • 2)専門職大学院制度を活用して高度専門職業人養成コースとして学校現場における実践力・応用力など教職としての高度な専門性の育成に重点を置くもの

 等に区分し、その上で、各大学の方針に基づきコースの選択と必要な教育体制が整備されることが必要である。
 このため、専門職大学院制度の中に教員養成の専門職大学院として必要な枠組み、すなわち「教職大学院」制度を創設することにより、専門職大学院制度を活用した教員養成教育の改善・充実を図ることとすることが必要である。

 この教職大学院制度の創設に当たっては、我が国の教員養成が「開放制の教員養成」の原則の下に、一般大学・学部と教員養成系大学・学部とがそれぞれ特色を発揮して行われ、人材を幅広く教育界に送り出してきた実績を踏まえ、

  • 1)引き続き「開放制の教員養成」の原則の下、教員としての基礎的・基本的な資質能力の育成は学部段階で行うことを基本としつつ
  • 2)大学院段階の教員養成・再教育の格段の充実を図るための有力な方策の一つとして、

 各大学の判断により教職大学院制度が活用されることが適当である。

 教職大学院制度の創設により、学部段階及び修士課程など他の教職課程に対して、この大学院が、後に述べるように、実践的指導力の育成に特化した教育内容、事例研究や模擬授業など効果的な教育方法、これらの指導を行うのにふさわしい指導体制など、力量ある教員の養成のためのモデルを制度的に提示することにより、より効果的な教員養成のための取組を促すことが期待される。
 また、この大学院は、学部段階において養成される教員としての基礎的・基本的な資質能力を基盤として、その上に、高度専門職業人としての教員に求められる高度な実践力・応用力を育成することとなる。このことから、入学段階において学生に求められる資質能力が明確に示されることにより、学部修了段階において養成されていることが求められる到達基準がより明確に学部段階に対し示されることとなる。

 また、教職大学院制度の創設により、実務家教員(教職等としての実務経験を有する教員)も含め、高度専門職業人としての教員の養成を目的とする課程としての意識を共有した指導教員が確保されることが期待される。

 なお、教職大学院制度が創設された場合、修士課程との関係は各大学における修士課程の現在の位置付けや役割、専攻等の構成や特色・得意分野、設置目的等により異なる。しかしながら、教員養成を行う研究科・学部として、修士課程においても、高度の専門的知識・技能を背景に優れた指導力を有する高度専門職業人としての教員を養成するとともに、教員が優れた指導力を発揮する上でその背景となる高度の知識・技能や、教員が広い視野を持ち複雑な現状を的確に分析し理解する上で必要となる理論等の研究や指導を行うことが期待される。
 また、修士課程におけるこのような教育研究を通じて、教育学分野において実践的視野を兼ね備えた大学教員の養成の一段階としての機能を果たすことが期待される。

 さらに、学校現場において教職としての高度の専門性を発揮するためには、その背景としての十分な学問的知識・能力に基づく授業の展開力等を伴うことが重要であることはいうまでもない。教職大学院制度の創設に当たって、現在の学校現場が直面する課題に対応し得る実践力・応用力の育成という観点から、いわゆる「教科専門」としての専門性が教職としての高度な専門性の育成に資することが期待される。

2.主な目的・機能

 近年の少子化により、一部の都市部を除いて学校が小規模化し、1学年1学級の学校も珍しくなくなっており、学年主任等が他の教員を指導する機能が低下し、また同じ教科を専門とする教員も同一学校内に少なくなっている。このような状況の下で、教員が互いに指導力を向上させ、教員全体としての指導力の維持・向上を図るためには、学校内のみならず広く地域単位で中核的な役割を果たし得る教員が求められている。

 また、現在の教員の年齢構成を見ると、大量採用期の40歳代から50歳代前半の層が多く、いわゆる中堅層以下の世代が少ないことから、今後、大量採用期の世代が退職期を迎えていく中で、量及び質の両面から、優れた教員を養成・確保することが極めて重要な課題となっている。

 さらに、教科等における指導力を見ても、これまでの学級単位の指導から、グループ指導や、少人数指導、習熟度別指導など学級の枠を超えた多様な学習集団に対応した指導方法に関する理解や、総合的な学習の時間の実施、選択教科の拡充など既存の教科の枠を超えた教科指導に関する理解が必要になっており、こうした多様な指導形態・指導方法を円滑かつ効果的に実践できる教員が求められている。

 このような教員に対する様々な要請や、各大学における大学院段階での取組の実績等を考慮すると、教職大学院は、当面、

  • 1)学部段階で教員としての基礎的・基本的な資質能力を修得した者の中から、さらにより実践的な指導力・展開力を備え、新しい学校づくりの有力な一員となり得る新人教員の養成
  • 2)一定の教職経験を有する現職教員を対象に、地域や学校における指導的役割を果たし得る教員として、不可欠な確かな指導理論と優れた実践力・応用力を備えた「スクールリーダー」(注2)の養成

 の2つの目的・機能とする。

 また、こうした機能の一環として、教員免許状を持たないまま大学を卒業し様々な社会経験を経た者等が、改めて教職を目指す場合の一つの有力な養成機関としての機能についても、学部の機能を活用しつつ各大学の判断・工夫により対応することが期待される。
 このため、現時点においては、こうした機能も視野に入れつつ、1)及び2)の目的・機能を担う専門職大学院を「教職大学院」とし、これに共通的に必要な要件等を検討する必要がある。

一方、上記の目的・機能のほか、隣接するものとして、例えば、

  • 3)小・中・高等学校等の管理者等に必要な高度なマネジメント能力に特化した養成機能
  • 4)大学等高等教育機関の管理者や高等教育政策担当者の養成機能
  • 5)国際的な開発教育協力の専門家など幅広い教育分野の高度専門職業人の養成機能

 等が考えられ、今後、その重要性が高まることも予想される。
 こうした目的・機能については、当面、社会的な要請を踏まえた個別大学の主体的な検討により、一般の専門職大学院として設置することも含め、先導的で、意欲的な取組が多様に展開され、一定の実績が蓄積されることがまず重要であり、今後、そうした実績の蓄積を見ながら、必要に応じて共通的に必要な要件等を整理することが適当である。

(注2)本中間報告における「スクールリーダー」とは、例えば校長・教頭等の管理職など特定の職位を指すものではなく、上記のような社会的背景の中で、将来管理職となる者も含め、学校単位や地域単位の教員組織・集団の中で、中核的・指導的な役割を果たすことが期待される教員である。

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-- 登録:平成21年以前 --