中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会 審議経過報告(概要)

  • 中央教育審議会教育課程部会は、文部科学大臣の検討要請を受け、昨年4月以来、学習指導要領全体の見直しについて審議を行っている。
  • 学習指導要領の見直しについては、昨年10月の中央教育審議会「新しい時代の義務教育を創造する(答申)」において、基本的な考え方が提示されたところ。教育課程部会はそれを踏まえ、検討を行っている。

1 教育課程をめぐる現状と課題

(1)学校教育の目的

  • 学校教育の目的は、一人一人の国民の人格形成と国家・社会の形成者の育成。
  • 教育をめぐる様々な課題を克服し、心豊かでたくましい日本人の育成を目指すため、国家戦略として世界最高水準の教育の実現に向けて学校教育の改革と充実に取り組む必要。

(2)現行の学習指導要領の考え方

  • 基礎的・基本的な知識・技能を徹底し、自ら学び自ら考える力を育成するという現行学習指導要領のねらいが必ずしも十分達成できていない状況が見られる。
  • 学習指導要領のねらいとするところの実現のための具体的な手立てが必要。

(3)現行の学習指導要領下の学校教育の状況と検討課題

ア 子どもの学力と学習状況

  • 国際的な学力調査等の結果から、読解力や記述式問題に課題があることなど低下傾向が見られた。
  • 国の教育課程実施状況調査の結果からは、基礎的事項を徹底する努力等により一定の成果が現れ始めているが、国語の記述式問題が低下するなどの課題が見られた。
  • 上記調査では、学習意欲、学習習慣、生活習慣などは、若干の改善が見られるが、引き続きの課題である。

イ 子どもの心と体の状況

  • 意識調査では、就寝時刻が遅い、朝食をとっていない子どもがいる、テレビ等の視聴時間が長いなどの課題がある。
  • 自分に自信がなく、学習や職業に対して無気力な子どもが増えている。
  • 問題行動が相当数に上る、規範意識、体力などに課題がある。

ウ 社会の各分野からの要請

  • 環境問題、少子・高齢社会など、社会の変化の中で、国際化、情報化、科学技術の発展などに対応した人材の育成が課題。

エ 学校教育に対する国民の意識

  • 意識調査やスクールミーティングなどでは、多くの国民は、確かな学力を確実に定着させることや将来の職業や生き方について見通しを与えること、発達に応じた遊びや体験、コミュニケーション能力の育成を期待。

(4)学校や教育行政の在り方についての検討課題

  • 学校においては、教育の成果や課題が見えにくい点が問題。
  • 教育行政においては、学校教育の現状や課題の把握、国民への説明責任、学校の条件整備などが課題。
  • 国における目標設定や評価の仕組み、学校現場の主体性や創意工夫を活かすための手立てなどが課題。

(5)学校の役割と家庭・地域・社会の役割

  • 学校、家庭、地域の三者が互いに連携し、適切に役割を分担し合うことが必要。
  • 特に、心と体の育成については、家庭の自覚が強く求められる。
  • 学校は、「確かな学力」の育成などを通じて、国家・社会の形成者の育成に大きな責務を負う。

2 教育内容等の改善の方向

(1)人間力の向上を図る教育内容の改善

1.基本的な考え方

ア 言葉や体験などの学習や生活の基盤づくりの重視
  • 生活習慣、学習習慣、読み書き計算、学習や生活の目標を持たせることなど学習や生活の基盤づくりが重要。
  • その際、言葉の重視、体験の充実が重要との指摘が多数示されている。
  • 国語力の育成や自然体験、社会体験などの充実が求められる。
  • 人間力の向上については、社会の側からの視点に立って、必要な力を明確にすることが必要であり、その方向で検討。
イ 確かな学力の育成
  • 知識・技能と考える力を総合的に育成することが必要。
  • 1.基礎的・基本的な知識・技能を確実に定着させることが基本としつつ、2.知識・技能を活用する力を重視し、3.課題探究活動を通じて、自ら学び自ら考える力を高めることが重要。
  • 九九や都道府県名などについては、反復学習等が重要。
  • 知識・技能を確実に定着させるためにも、実生活での活用が重要。
  • 概念、法則、暗黙知なども、知識の理解や活用を促進する上で重要。
  • 教科横断的な力を育成するために、1体験から感じ取ったことを表現する力、2情報を獲得し、思考し、表現する力、3知識・技能等を実生活で活用する力、4構想を立て、実践し、評価・改善する力などが重要。
ウ 子どもの社会的自立の推進
  • 豊かな心と健やかな体をはぐくみ、社会的自立への基礎を培うことが重要。
  • そのためには、基本的な生活習慣、規範意識の確立、芸術やスポーツに親しむ習慣や態度が重要。
  • 個性や能力を伸ばし、主体性・自律性を育成することが重要。そのためには、自己理解や自己責任の考え方を調和した形で身に付けさせることが課題。目標に挑戦し達成する体験を重視する必要。
エ 社会の変化への対応
  • 情報や環境といった現代的課題については、教科では真に必要な知識・技能を、総合的な学習の時間では所要の力を育成。

2.具体的な教育内容の改善の方向

1)国家・社会の形成者としての資質の育成等
ア 国家・社会の形成者としての資質の育成
  • 社会・国家・国際社会の一員としての自覚を育成することが重要。
  • 我が国の伝統や文化、歴史に関する教育が重要である。
  • 都道府県の位置と名称、民主主義の概念など、基本的な事項の定着を重視。
  • 新聞記事等から必要な情報を読み取るなどの力を育成することが重要。
イ 豊かな人間性と感性の育成
  • 基本的な価値観、自主的・実践的態度、豊かな情操が重要である。
  • 自他の生命を尊重し、健全な自尊感情を育てる必要。
  • 基本的な生活習慣の確立、最低限の規範意識を確実に定着させる必要。
  • あいさつや社会的マナーなど人間関係を形成する力が必要。
  • 文章や詩歌の音読・暗唱を通じ、自然や芸術の美しさの実感的な理解を重視。
  • 算数・数学でねばり強く考え抜くことによる達成感や自信も重要。
ウ 健やかな体の育成
  • 幼いころから、生涯を通じて運動に親しむための意欲や身体能力の育成や、自他の健康や安全のための知識の習得。
  • 適切な性教育。発達段階を考慮し、保護者や地域の理解を得ることが重要。
  • 食事の重要性、食物を大事にし、生産等にかかわる人々に感謝する心、食文化など食育を推進。

2)国語力、理数教育、外国語教育の改善

ア 国語力の育成
  • 小学校では、読むことを体験的に理解するため音読や朗読・暗唱が重要。
  • 漢字の読み書きなど、反復学習による定着が重要。
  • 国語の知識を活用するために、描写・要約・説明の力などを確実に定着。
  • A4・1枚(1,000字程度)で自分の考えをまとめるなど、読解・論述力の育成が重要。
  • 相手の気持ちを理解しながら、聞いたり、話したりする力の育成を重視。
イ 理数教育の改善
  • 数や計算、図形などの基礎・基本を反復学習等で確実に定着する必要。
  • 子どもが自然事象に接する機会が少なくなっていることから、体験的な理解を重視する必要。生活科における科学的認識の充実を検討。
  • 理科に対する国民的な理解を高めるため、子どもの知的好奇心を駆り立てる内容、実生活に密着した内容、著名な発見や原理の理解が重要。
  • 学問的な系統性だけでなく、発達や学年に応じた反復の中で確実に定着させる必要。
  • 観察・実験、探究的な活動を一層充実し科学的な思考力を育成する必要。
  • 基本的な概念を実生活に活用する、様々な数量的なデータを分類整理し比較する、論理的に思考し適切に表現するなどの力を育成することが重要。
ウ 外国語教育の改善
  • 小学校段階における英語教育を充実。
  • 義務教育としての機会均等を確保するため、仮にすべての小学校で共通に指導するとした場合の指導内容を検討中。
  • これまでのところ、1英語のスキルを重視する、2国際コミュニケーションを重視する、2つの考え方があり、両者をどう組み合わせるかが課題。
  • 国語力の育成との関係、中・高等学校の英語教育との関係、条件整備の面での課題を念頭において検討中。
  • 具体的な教育目標や内容、開始学年、教材や指導者の確保等の条件については、外国語専門部会で、さらに検討。本年度中を目途に外国語専門部会からの報告を予定。
  • 高等学校を中心に、英語以外の外国語教育の在り方を検討。

3)総合的な学習の時間などの改善

ア 総合的な学習の時間の改善
  • 総合的な学習の時間の必要性・重要性については、共通の理解。
  • 教科、特別活動、選択教科等との関係を整理し、ねらいを明確化することが必要。
  • 授業時数について、ねらいの明確化などを踏まえ、今後具体的に検討する。
  • 運用面で、先進事例の提供、教員の研修等の支援を充実する。
イ 中学校における選択教科
  • 教育課程の複雑化を避けるため、必修教科を重視すべきとの指摘も踏まえ、検討中。
ウ 部活動の取扱い

 部活動を学習指導要領に位置付ける方向で検討することを求める意見を踏まえ、検討中。

(2)教育課程の枠組みの改善

1.指導方法、授業時数の見直し等

ア 指導方法の改善
  • きめ細かな指導のため、少人数指導や習熟度別指導を推進。
  • 学習に対する基本的な姿勢を身に付けること、学習習慣確立のための宿題を適切に課すことが重要。ICTの活用等を重視。
イ 授業時数の見直し
  • 国語力、理数教育については、教育内容を充実することが必要。全体の見直しの中で、授業時数の在り方についても、今後具体的に検討。
  • 総授業時数は、教育内容の見直しと併せて検討。特に小学校低学年については、幼児教育の実態を考慮して検討する必要との指摘。

2.発達や学年の段階に応じた教育課程編成や指導の工夫

  • 幼・小の具体的な連携方策を充実。
  • 小・中の接続については、小学校低・中学年から高学年へ、高学年から中学校へという発達の段階に応じて、教育内容を重点化。

3.学校週5日制の下での学習機会の拡充

  • 学校週5日制は国の仕組みとしてこれを維持すべきとの意見が大勢。
  • 学校週5日制の下での土曜日や長期休業日については、家庭や地域社会との連携を促進する方向で、活用方策を検討する必要。

3 学校教育の質の保証のためのシステムの構築

(1)基本的な考え方

 中教審答申(17年10月)に示された義務教育の構造改革という観点を踏まえて、学校教育の質の保証を図ることが重要。

(2)学校教育の質の保証

ア 学習指導要領における到達目標の明確化

  • 知識・技能については、例えば、実生活に直接かかわる内容の例示を検討。
  • 能力面については、例えば、A4・1枚で表現する力など、例示や目指すべき水準の明示を検討。

イ 情報提供その他の基盤整備の充実

  • 教育内容・方法に関する情報提供を充実することが必要。
  • 学校のICT環境の整備が必要。
  • 義務教育の構造改革による学校や教師の力の向上のための基盤整備が必要。

ウ 教育課程編成に関する現場主義の重視

  • 国として全国的な教育の機会均等や教育水準の維持向上のために必要な役割を果たしつつ、地方自治体や学校の自由度をいかに高めるかという観点を重視。
  • 各教科等ごとの授業時数の弾力化、研究開発学校制度の見直しなど。

エ 教育成果の適切な評価

  • 子どもたちの学習成果の評価の改善、学校評価の推進が重要。
  • 全国的な学力調査については、平成19年度に、小学校6年、中学校3年で国語、算数・数学について実施する。文科省に設置された専門家会議において具体的な実施方法などについて検討中。

オ 評価を踏まえた教育活動の改善

  • 教育成果の評価を教育活動に反映させ、教育の質の向上を図ることが重要。

(3)教育行政の在り方の改善

  • 学校教育の現場の状況の把握や国民に対する説明責任を重視。

終わりに

  • 特に、高等学校教育、幼稚園教育、特別支援教育などについては、関係の部会等での検討状況も踏まえて、さらに深める必要。

お問合せ先

生涯学習政策局政策課