高等教育予算の充実・確保に係る緊急提言

平成27年10月28日
中央教育審議会

 人口減少社会の到来により生産年齢人口が減少する中、知識基盤社会を支える「知」を生み出していかなければならない今、大学が果たす役割は決定的に重要である。
 中央教育審議会においては、文部科学大臣の諮問に応じ、大学教育の質的転換、大学ガバナンス、高大接続、大学院の改革をはじめ精力的な議論を行い、累次の答申等を取りまとめてきた。日本の大学は、この重責を真摯に受け止め、自主的・積極的な改革を進めてきており、21世紀の日本と世界が直面する課題に、全力を挙げて取り組もうとしている。

 そのような中、国立大学法人運営費交付金について、財政制度等審議会において、運営費交付金を今後15年間毎年1%機械的に削減すべきなどの考え方が示された。
 財政事情が厳しい折、限られた財源の有効活用は必要であるが、過去12年間の約12%に及ぶ削減により、若手の育成など教育研究基盤に深刻な影響を与える中、運営費交付金の更なる長期的削減との主張は、グローバル化や地方創生への対応、イノベーション創出など日本社会の発展のため大学に期待されている数々の役割が踏まえられておらず、また諸外国が高等教育への投資を拡大させ、教育研究環境の充実を図る国際基調にも逆行するものである。また、自己収入の増加についても、多様な財源の確保の努力は必要だが、現下の経済状況や家計状況等を踏まえると、確実な増を見込むことは困難であり、大学の安定的な経営に支障をきたす恐れがある。
 政府が目指す生産性革命によるGDP拡大など「一億総活躍社会」や「地方創生」の実現は、今日、「知」の創造がなければ不可能であり、高等教育への投資の削減は、将来に対し禍根を残すものである。

 このような認識のもと、本審議会は、この緊急提言を行うものである。


国立大学法人運営費交付金の機械的な削減ではなく、自己変革を進める大学を積極的に支援し、教育研究及び社会貢献機能の強化を図るために、国立大学法人運営費交付金等を充実・確保すべきである。
 

 
 中央教育審議会答申「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて」(平成24年8月)以降、国立大学においては、「ミッションの再定義」により、大学ごと分野ごとに強み、特色の明確化を図るとともに、平成25年の「国立大学改革プラン」を踏まえ、教育研究組織の見直しや、人事給与システム改革を本格化させてきた。
 特に、「改革加速期間」と位置付けられたこの3年間(平成25~27年度)で、各国立大学においては、学内の人的・物的資源の再配分とあわせて、それぞれの強み・特色を更に伸ばす組織改革を進めており、更に平成28年度には、例えば、地域デザイン科学部、地域資源創生学部等の自然科学及び人文社会科学の連携・融合による新たな組織を設置するなど、社会的要請の高い分野の教育研究活動を意欲的に進めている。

 一方、平成16年度の法人化以降、運営費交付金は減少傾向が続いており、12年間で1,470億円(11.8%)が削減され、また、消費税率の引上げ、諸経費の値上りにより、人件費や基盤的教育研究費を更に圧迫している。その結果、教育研究活動を支える常勤教員の人件費、特に、若手研究者の常勤雇用が減少し、大学院進学者の減少など、優秀な人材の確保に支障が生じるとともに、研究時間の減少、論文増加率の伸び悩みなどの弊害が生じていることなどの看過しがたい状況が見られる。

 このような状況下において、運営費交付金の削減は、各大学の改革に重大な支障をきたすことになりかねない。また、寄付金や民間との共同研究など自己収入の増加の努力は必要であるが、財政制度等審議会における提案にあるような大幅な増加は、授業料の大幅な引き上げにつながりかねず、現下の経済状況や厳しい家計状況では困難である。

 国立大学には、世界最高水準の教育研究の推進、大規模な基礎研究や先導的・実験的な教育研究の実施、社会・経済的な観点からの需要は必ずしも多くはないが重要な学問分野の継承・発展、全国的な高等教育の機会均等の確保等について、引き続き、重要な役割が期待される。
 本審議会の審議まとめを受けて昨年行われたガバナンス改革の法改正及び本年6月の「国立大学経営力戦略」を踏まえ、国立大学では、学長のリーダーシップの下、戦略的な資源配分、多様な財源の確保など一層経営的な視点での大学運営を進めることとしており、また文部科学省でも各大学がより強みや特色を発揮するため3つの支援枠組みを設定し、予算での重点支援を行うなどの改革を進めようとしている。そうした取組にインセンティブを与え、国立大学の機能強化を真に実現するためには、経営力強化のための持続的な改革を支える運営費交付金の充実・確保が不可欠であり、本審議会はその点を強く求めるものである。

 なお、本提言は、財政制度等審議会における国立大学法人運営費交付金の削減提案に関する見解を表明するものであるが、我が国の持続的な成長、知識基盤社会への構造変革、地方創生を支える人材育成等に向けては、国公私立を通じた大学の機能強化が不可欠である。第2期教育振興基本計画や教育再生実行会議第8次提言でも教育投資の重要性が指摘されており、諸外国と比較して著しく低い高等教育予算全体の充実・確保がなければ、今後の日本社会の発展を支える人材育成、知の創出機能の低下を招きかねない。この点をあわせて強調したい。

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